Home > Columns > 万華鏡のような真夏の夜の夢- ──風車(かじまやー)の便り 戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)音楽祭2019
文・写真:土田修 Aug 22,2019 UP
■ロックにジャズに民謡、多士済々な顔ぶれ
渋さのフルオーケストラのライヴには、劇団「風煉ダンス」の芝居が絡み、エンドレスな演奏を聴かせた。そこへ沖縄民謡界の大御所、大江哲弘が登場。渋さをバックに「生活の柄」や「お富さん」を歌い、最後に八重山民謡「トゥバラーマ」を聴かせた。
翌13日は午後1時から同じ天幕ステージでメーンの音楽祭。この日も真夏の太陽が燦々と輝いていたが、遮光性の天幕の中は意外に涼しい。オープニングは渋さチビズの演奏。サックスやトランペットが炸裂し、渋さ歌手の玉井夕海がステージ上で躍動する。玉井は今回の音楽祭の代表でもある。開催まで紆余曲折があり、その苦労を乗り越えてのステージに表情は明るい。
その後、ライヴは島唄の堀内加奈子、東北の歌姫の白崎映美、沖縄高江在住デュオの石原岳とトディと続く。以前は上々颱風のヴォーカルだった白崎は東日本大震災以後、被災者に寄り添い、ロック、ジャズのほか、民謡で「東北人の魂」を歌い続けてきた。今回はアーティスティックな衣装とメイクでパンチのある歌声を聴かせた。
白崎映美
リーダーのもりとが那覇市内で居酒屋を経営しているという、沖縄のジプシーバンド「マルチーズロック」、沖縄から平和を発信する海勢頭豊に続き、シンガーソングライターの池間由布子がギターの弾き語りで透明感のある歌声を披露、会場をほんわかした安らぎで包み込んだ。
池間由布子
■森が哭いている、海が哭いている
地元フラチームの演技の後、前日の辺野古キャンプ・シュワブ前に続き、「さすらい姉妹」が『陸奥の運玉義留』を上演。芝居前の準備でリーダーの千代次は、前日に辺野古で摘んできたつる草をパーントゥ役のコスチュームに入念に巻きつけていた。その静かな仕草からは抑圧の歴史を持つ琉球への共感と連帯が感じ取られた。
「計算され尽くされた演劇では役者も飽きてしまう。目指すのはそこから逸脱した荒唐無稽な芝居だ」。水族館劇場を主宰し、現代の河原者を自任する桃山邑はこう語る。金城実や大久保鷹の出演は、従来の芝居のセオリーを超えたハプニングともいえる。
「うりずんの雨降りしきる遙かな島、空が哭いている、森が哭いている、海が哭いている……あの日届いた風車の便り」。抑圧の歴史を持つ陸奥と琉球が時空を超えてひとつになるという翠羅臼の抵抗の詩(うた)は、那覇の観客を魅了し、沖縄の演劇史に新たな1ページを書き込んだ。
■クランデスタンな装い
音楽祭のトリはもちろん、渋さのフルオーケストラによるゴージャスな演奏。北陽一郎のトランペットが、登敬三のテナーサックスが、高橋保行のトロンボーンが、ある意味、勝手に気ままにアドリブ演奏を重ねていく。そこに、うじきつよしのギター、大袈裟太郎のラップ、玉井夕海の歌が絡んでいく。次の展開が予期できない暴風雨のような旋回奏法に乗ってペロとすがこがディスコのお立ち台さながら踊り狂った。
渋さ知らズ
ステージ左右のお立ち台では暗黒舞踏のダンサーによるパフォーマンスも。薄汚いビルの地下に続く階段を降り、壊れかかった扉を開けると、いきなりジャズ演奏の爆音にさらされる。禁酒法時代のニューヨークを思わせるクランデスタン(非合法)な装いに包まれた天幕は、300人近い観客を飲み込み、万華鏡のように、“真夏の夜の夢”を垣間見せてくれた。