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アナキズム・イン・ザ・UK

アナキズム・イン・ザ・UK

第27回:保育士とポリティクス

ブレイディみかこ Feb 23,2015 UP

 わたしは保育士である。
 で、これはたとえ話だが、ある保育士の落ち度で、いや、こう言ったほうがいい。保育園経営者の明らかなる怠慢や失態や、またはこの経営者が実は児童虐待者で幼児が血を流す姿を見て性的興奮をおぼえる、あるいはその姿をこっそり撮影してその筋の方々に売りさばいて金儲けするなどの腹黒い人間であり、そんな経営者がわざと子供が怪我をする状況を準備していたため、血まみれになった幼児たちが園の庭に倒れているとする。
 それを見た保育士はまずどうするだろう。
 激怒してオフィスに殴り込み、「こうなったのは非人道的な貴様のせいだ」「貴様などに保育園を経営する資格はない」「やめろ、死ね」と経営者に食ってかかるだろうか。
んなわけはない。
 保育士はまず血まみれで倒れている子供たちに応急処置を施し、必要であれば救急車を呼び、どうも危険な細工が施してあるらしい庭から子供たち全員を避難させ、血を見て泣いている子供がいれば彼らを自分の胸に抱きしめて落ち着かせるだろう。
 経営者への非難はそれからである。

             ******

 イラン人の友人は、今でも底辺託児所と呼ばれる(わたしが勝手に呼んでいるのだが)施設で働いている。が、政府から補助金を切られ、民間からの寄付も底をついたせいで、託児所は週3日しか開けられなくなったそうだ。資金不足で午前中だけしか運営できなくなったという話は聞いていたが、今年からはいよいよ毎日運営できなくなったのだ。世知辛い。
 ISに日本人の人質が殺害されたとき、日本には「こんなとき、英国なら特殊部隊S.A.Sがバリバリ活躍して」みたいなことを言っていた人もいたようだが、「いやーもうそういう時代じゃないって。S.A.Sもリストラされてるよ、緊縮で。軍隊も警察も規模縮小してるもん。へろへろよ、この国」というのが英国人たちの反応だった。緊縮は底辺生活者サポート施設利用者の層もガラリと変えたという。施設名物であったと言っても過言ではない、自ら仕事をしないことを選び、主義主張や思想のために生きていた英国人の姿はもはやそこにはないらしい。
 「どこを見渡しても、移民、移民。英国人はもういない。まるで難民センターみたいになった。英国人は幹部だけ。幹部はセンターから給料もらってるからね。後はみんな仕事についたんでしょう。生活保護切られて」
とイラン人の友人は言う。
 彼女が言うには、今やセンター利用者のほとんどはアフリカ系と中東系の外国人だそうで、「わたしは中東の人間だから、逆に以前より難しい時がある。『西側化された女』みたいな、そういうネガティヴな感情が信仰深いムスリムの母親から垣間見えたりして」と言っていた。
 まったく異なったもの同士のほうが互いをわかろうとするからうまく行き、同胞の方が違いを見つけては批判し合うからかえってうまく行かないというのは、まあユニヴァーサルな事実なんだろう。

            ********

 『The New Statesman』誌に、白人のムスリム女性がオックスフォード・ユニオンで行ったスピーチの全文が掲載されていた。「フェミニズムは白人のミドルクラスの女性にハイジャックされている」というセンセーショナルな文句が見出し。通勤バスの中で読むには適さないクソ難しそうな文章だなと思いながら、つい読んでしまった。
 「フェミニストの問題を論じるには、ジェンダーだけではなく、人種と階級の問題が切り離せない」と書かれていた。「聞こえない声というのは存在しない。それはただ、わざと聞いていないか、聞きたくないということだ。フェミニストたちはオルタナティヴな声を自分たちのムーヴメントに加えることに抵抗する」「フェミニズムが白人女性にハイジャックされているというのは、すべての分野で白人文化のナラティヴが支配していて、オルタナティヴな声は、西側が優れているという彼らにとっての不変の真実を肯定するためのちょっと古風な意見として使われていないかということだ」
 「ムスリムのフェミニストとして、私は自分の宗教の中に男女同権のストラグルがあることを知っている。だが、ジェンダーの不平等の問題は宗教だけに起因させておけば済む問題ではない。そこには貧困と家父長制度がある」「私が共感するフェミニズムは、帝国主義や搾取や戦争や家父長制に抵抗する女性たちのフェミニズムだ。レイプ文化と戦うインドの女性たちや、イスラエルの占領に抵抗するパレスチナの女性たちや、西側のフェミニストたちが着ている洋服の縫製工場で安全な職場環境を求めて戦っているベンガルの女性たちだ」。おお。このフェミニズムならわたしにもわかるぞ。と思った。UK国内でだって貧民街の女たちのストラグルは、ミドルクラスの女性たちのフェミニズムにとってのオルタナティヴな声だ。それはなんか「ちょっと遅れているもの」として無視されたり、あまりお近づきにはなりたくないものとして眉さえ顰められる(顔に痣を作った若いチャヴ女子を見た時のインテリ女性たちの反応がその典型だ)。
 「200人のナイジェリアの女子学生たちがボコハラムに拉致された時もそうだ。少女たちを見つけることに重点を置くのではなく、その話は継続中のテロに対するグローバルな戦いを正当化するために使われた」と同記事には書かれていた。「そうした話」は対テロを正当化するだけでなく、こんな泥沼を作った政治を批判する材料にも使われるのだが、なぜか犠牲になっている女たちは二の次になる。それはイラクやシリアでも同じだ。戦争時や貧困階級では女という性が犠牲になることは誰もが知っている。で、それは戦争や貧困を作りだした政党や政治家や首相や大統領や国連や陰謀家や大企業などが悪いからだ。だから人々は人差し指を挙げてそれらを批判し、罵倒し、誤りを指摘する。
 でも、血まみれで倒れている女たちは放っといていいんだろうか?
 どうやら保育士という仕事をしている人間は、あまり政治を考えるのは向いてないらしい。

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Profile

ブレイディみかこブレイディみかこ/Brady Mikako
1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『花の命はノー・フューチャー』、そしてele-king連載中の同名コラムから生まれた『アナキズム・イン・ザ・UK -壊れた英国とパンク保育士奮闘記』(Pヴァイン、2013年)がある。The Brady Blogの筆者。http://blog.livedoor.jp/mikako0607jp/

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