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無理難題

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細田成嗣   Jun 13,2014 UP

 大友良英によるニュージャズ・プロジェクトをはじめとした国内外の即興音楽や、廃盤となった音源の再発、秘蔵音源の発掘など、数々のマイナー音楽を世に問うてきた気鋭のレーベル〈ダウトミュージック〉。その主宰者である沼田順が、非常階段やインキャパシタンツなどでノイズを駆使したラディカルな実践を続ける美川俊治とともに結成したユニットmnによる、ファースト・アルバムとなる『無理難題』が、同レーベルよりリリースされた。かつて「私は演奏者でも評論家でもなく、レーベル運営者である」とまで言っていたオーナーが自身の演奏を発表するというのは禁じ手にみえるかもしれないが、音楽活動というものを幅広い視野で捉えるならば、主宰者がその意向に沿った音楽を送り出すことは至極当然の試みであろう。いわば沼田の音楽に対する批評眼や選別眼が、聴こえる音として具現化されたのである。とはいえノイズを用いた即興演奏による本作品は、広く音楽業界に対して雑音を鳴らしつづける〈ダウトミュージック〉の、その内部における雑音とも捉えることができ、このレーベルがひとつの転換期を迎えていることを示唆しているようでもある。

 聴かれるように本作品においては、美川による電子音やサンプリングを用いたエレクトロニクス・ノイズと沼田による主にギターを用いたノイズが、それぞれ左右のチャンネルにわかれて収録されている。デュオという最小単位での共同作業において、このように各々の仕事が明確に分かたれているということは、演奏者のみならず聴取者であるわたしたちにとっても、いま鳴らされた音が誰によるものなのかという帰属先を即座に認識することを可能にしている。音の掛け合いはまるで「おしゃべり」するかのように繰り広げられており、沼田がノイズを出すと、それに美川が応答し、さらに沼田が返答し、あるいは話題が尽きたのだろうか、しばしの沈黙があたりを包む。この即興によるやりとりの緊迫感は、とくにノイズによって行われる場合、両者の出す音が渾然一体となっているならば、エクスタティックな解放感へと変わるだろう。そしてふたりはこのことを十全に理解しているのであって、最後のトラックでは、わかれたチャンネルが収束し、雪崩のような轟音の渦が聴取者を襲う。この瓦解の瞬間が本作品の白眉であるといっていいだろう。

 本作品はノイズ・ミュージックと呼ばれるもののひとつである。ノイズとはひとまずは楽音に対する雑音であり、静寂に対する喧噪であるといえる。それは音の質感に関わることであって、音の無形性や過剰性を表すものだ。だがポール・ヘガティも言うように、ノイズとは徹底的な否定性でもあり、秩序や規範に対する終わりのない侵犯行為を表してもいるだろう。かつては音の質感としてのノイズが、そのまま否定性を意味することができた。しかしノイズの正統性が形成されるにつれて、ふたつの意味は乖離し、いまや質感としてのノイズが肯定性のもとに謳われている時代である。だからわたしたちはノイズ・ミュージックに権威的な価値判断を下すことができるようになっている。この倒錯的な現状にあって、質感としてのノイズを用いた否定性の顕現はいかにしてなされ得るのか。この解決不能な難問に、沼田と美川は真正面から立ち向かう。美川俊治というノイズの「正統性」を担保にしながら生み出された彼らの音楽は、ならば何に対する否定性であるか? それは〈ダウトミュージック〉それ自体ではなかろうか。思えば演奏家として、大友良英とノー・プロブレムというバンドを組んでもいた沼田が、これまで自身の音楽をレーベルに並べてこなかったのは不思議なくらいである。無問題から無理難題へとすがたを変えて、あらゆる音楽を世に問うていこうとする沼田の覚悟が、本作品からは滲み出ている。

細田成嗣