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interview with Gold Panda

interview with Gold Panda

“ネクスト”を求めて

――いまUKで話題のゴールド・パンダに訊く

野田 努    Oct 14,2010 UP

Gold Panda / Lucky Shiner
E王 Yoshimoto R&C

AmazoniTunes

 フライング・ロータスの『パターン+グリッド・ワールド』を聴いてひとつ思うのが、「ああ、この人は本当に自分が真似されているのが我慢ならないん だな」ということだ。『ロサンジェルス』以降の、自分のイミテーションたちと距離を置きたくて仕方がない、という思いがヒシヒシと伝わってくる (笑)。取材のなかでも、"グリッジ"や"ウォンキー"といった言葉に対する彼の嫌悪はハンパない。フライング・ロータスのファンの方々にはあの手の言葉を使 わないほうが身のためである......と言っておこう。
 で、"グリッジ"や"ウォンキー"っぽいサウンドからはじまるのがゴールド・パンダの『ラッキー・シャイナー』である。そして、そうした"いまっぽさ"から はじまるそのアルバムは、しかし、面白いようにそこから離れていく。『ロサンジェルス』以降のグリッジ・リズム、あるいはダブステップ以降のビートを追っ ていたヘッズ諸君は、途中で迷うだろう。「違うじゃねーか」と思うだろう。そこで停止ボタンを押す人間も少なくないかもしれない。
 が、むしろその"いまっぽさ"から離れていったときのパンダの音楽を楽しめる人は、何か新鮮な、新しい場所に辿り着けるだろう。どんどん登っていったら 突然視界が開ける。心地よい風が吹き、草原が広がっている。あたりを見回してもまだ誰もいない。『ラッキー・シャイナー』はそういう作品である。

ジェームス・ブレイクやマウント・キンビーは僕よりも若い世代で、影響もR&Bやヒップホップからで、僕とは違うんだ。彼らはデジタル世代だけど、僕はまだアナログに影響を受けている世代だし、ラップトップで音楽を作ることに何かまだ変な感じがする世代なんだよ。僕の音楽はもっとシンプルだ。

ゴールド・パンダという名前にしたことを後悔していない?

パンダ:している。最初はゴールドで後悔して、いまはパンダで後悔した。動物系の名前がすごく多いから。そういうハイプなものから離れていたいから、ちょっと後悔しているんだ。

いやね、この『ラッキー・シャイナー』、ホントに僕は好きなアルバムで、知り合いと会ったりすると「最近、何が良かった?」って訊かれるじゃない。そのときに、「ゴールド・パンダ」って言うと、知らない人だと「ゴールド・パンダ?」って、なんか複雑な表情をされることがあるんだよね。ゴールド・パンダって響きに、ユーモラスで可愛らしいイメージがあるからだと思うんだけど、ダーウィン(パンダの本名)の音楽は基本的にはシリアスな音楽じゃない。

パンダ:恥ずかしい。

だから、ゴールド・パンダという名前からこの音楽を想像するには、ちょっと距離があるんじゃないのかなと。

パンダ:そうだね。でも、いま名前を変えちゃうと、何々......(元ゴールド・パンダ)って長くなっちゃうから、もう変えられないんだよ。

なるほど。ところで『ラッキー・シャイナー』は前回の『コンパニオン』発表後に作ったんですか?

パンダ:いや、去年のクリスマスにはほとんどできていたんだよ。でもまだ気に入ってなくて、で、今年の4月から6月にかけて新しい曲を入れて、完成させたんだ。

"ユー"が最初にシングル・リリースされたのはダーウィンの意志なの?

パンダ:もちろん。

〈ゴーストリー・インターナショナル〉から何か言われたんではなくて。

パンダ:すべて僕の意志だよ(笑)。

そうか。

パンダ:オープニングにパワフルなトラックが欲しいと思っていたんだ。それで、まあ"ユー"だろうと。

『ラッキー・シャイナー』は"ユー"ではじまって、"ユー"で終わるんですけど(日本盤はボーナストラックが収録)、曲のタイトルもとても面白い。小説の章立てみたいに読めますよね。だからコンセプト・アルバムなのかなと思って。

パンダ:そう、歌詞はないけど、小説のようにコンセプトがあり、テーマがある。アルバムとはそういうものだと思うから、

で、僕なりにストーリーを推理したんですけど。

パンダ:ふーん。

今回のコンセプトは、恋人の話じゃないかと。

パンダ:トラックのいくつかはそうです。女性に対する歌もあるし、他の人への思いもあるし、実はパーソナルな話で統一されている。

9曲目の"アフター・ウィー・トークト"がすごく淋しい曲でしょ。これを聴いたときに「ああ、ダーウィンはきっと失恋したに違いない」と......

パンダ:何(笑)?

そう思いました(笑)。

パンダ:違うよ。それにはふたつ意味があって、ひとつは、実はフィル(サブヘッド、前回のインタヴューを参照)についてなんだよ。

あー、そうなんだ。

パンダ:6曲目の"ビフォア・ウィー・トークト"とともに対になっている。

うん、なってるよね。

パンダ:以前、eBayでヤマハのキーボードを安く買ったんだ。フィルはバンを運転してくれて、僕と一緒にそのキーボードを取りに行ってくれた。旅する感じでドライヴしてね。車のなかでフィルとずっと喋りながらドライヴしたんだ。そのキーボードのみで作ったのが"ビフォア・ウィー・トークト"と"アフター・ウィー・トークト"なんだよ。で、キーボードはどんどん壊れていってしまうんだけど、壊れていったときに出てきたカスカスの音がドラム・サウンドみたいに聴こえて、だから、それをドラムに見立ててみた。いずれにしても、そのキーボード一台で作った曲なんだよ。

なるほど、面白いアイデアだね。とにかく、曲の背景にはいろんなストーリーが隠されているんだね。

パンダ:その2曲も、フィルへの思いだけではなく、僕たちの日常生活のなかの"話す前(ビフォア・ウィ・トークト)"のハッピーな感覚と、"話した後(アフター・ウィ・トークト)"の寂寥感のようなものを意識しているんだ。だから"アフター・ウィー・トークト"は淋しいんだ。

失恋じゃなかったんだね。

パンダ:違う。

では、アルバムのはじまると終わりが"ユー"なのは何で?

パンダ:より人間の関係性を意識したって言えると思う。実は"ユー"という言葉は出てこないんだけど、音が"ユー"と聴こえるから、そう付けたというのもある。あと、イントロとアウトロじゃないけど、アルバムのブックエンドのようにしたかったんだ。だから、最初と最後をそうした。最初の"ユー"はとても力強い"ユー"で、最後は......まあ、エンディングらしく。

何か隠していることはないですか?

パンダ:はははは。たぶん、いっぱいあると思う。

はははは。あのね、すごく良いアルバムだと思うんだけど、音が、ダブステップ全盛の現在のUKからするとかなり異端というか、流行の音ではないよね。シーンの音に対する目配せはどの程度あるの?

パンダ:マウント・キンビーは知ってる?

まだ知らないんだよね。

パンダ:ダブステップから来ているんだけど、ものすごくUKっぽい音。R&Bやヒップホップに影響されているようなね。

ジェームス・ブレイクみたいな?

パンダ:そう。ジェームス・ブレイクやマウント・キンビーは僕よりも若い世代で、影響もR&Bやヒップホップからで、僕とは違うんだ。彼らはデジタル世代だけど、僕はまだアナログに影響を受けている世代だし、ラップトップで音楽を作ることに何かまだ変な感じがする世代なんだよ。僕の音楽はもっとシンプルだ。

文:野田 努(2010年10月14日)

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