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Gold Panda

Gold Panda

Lucky Shiner

Yoshimoto R&C

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野田 努   Sep 22,2010 UP
E王

 2010年にエイフェックス・ツインの『セレクテッド・アンビエント・ワークス85-92』を聴くことは、1992年に『E2-E4』を聴くようなものかもしれない。より激しく、よりやかましく、ベースばかりが強調されていくダンス・カルチャーにおいてある種の"歌"を求める、という点において。当時、『E2-E4』の再評価と平行して湧き上がったのがデトロイト・テクノ・リヴァイヴァルであったことを思い出せばいい。デトロイト・テクノにより強調されてあったもの、そのひとつは"メロディ"だ。
 あるいは、2010年にマウス・オン・マーズの『ヴァルヴァランド』を聴くことは、1992年にクラスターの『ツイッカー・ツァイト』を聴くようなものかもしれない。汗ばかりが噴き出て笑顔を忘れたダンスフロアに背を向けるという点において。クラウトロックの陽気な実験精神が、マンネリ化したダンスフロアにどれほどの自由を与えたのかを思い出せばいい。
 
 ダーウィン・パンダにとって初めての新録アルバム(前作『コンパニオン』は既発曲の編集盤)『ラッキー・シャイナー』は、ダブステップのいかめしさからそそくさと離れていく。日本語堪能なこのエセックス・ボーイは、ハドルをしっかりと握りながら、やかましいダンスフロアを尻目に、進むべき向きを変えている。彼方に見えるのは『セレクテッド・アンビエント・ワークス85-92』やなんか、メロディアスで楽しげなIDMスタイル......といったところだ。が、それは1992年に戻ることではない。2011年に進もうとすることだ。
 
 先日来日したクラスターのライヴではずいぶんと女性の姿が見られたそうだ。90年代に初めて彼らが来日したときは、僕のようなクラウトロック好きのテクノ・リスナーか、さもなければ僕よりもさらに年上のマニアックな連中ばかりが集まって、狭い場内においても女性の姿を探すのは困難だったものだが、時代は変わったのだ、「クラスターの柔らかい側面がエレクトロニカを聴いている女性にも受けたのでしょう」とはある関係者の弁である。だとしたら......『ラッキー・シャイナー』は昨今のエレクトロニカ・リヴァイヴァルに反応する女性たちにも受け入れられる作品となるだろう。彼女たちに好奇心と、パンダの悪戯心を受け入れるぐらいの寛容さがあれば。もし『ラッキー・シャイナー』の音楽性を問われればこう答える。「とってもかわいらしいIDMスタイルですよ」と。それでもわからなければこう付け足す。「初期のマウス・オン・マーズと初期のエイフェックス・ツインが一緒にスタジオに入ったと想像してみてください」
 
 まずは1曲目、先にシングル・カットされた"ユー"が素晴らしい。過剰にチョップするヴォイス・サンプリングで歌われる歌は、いわばジェームス・ブレイクらのポスト・ダブステップ・サウンドのポップ・アート・ヴァージョン......いや、3歳児のよるポスト・ダブステップ・サウンドのようである。
 サンプラーを主体に曲作りをしているこの青年は"ペアレンツ"ではアコギの音を鳴らし、生まれて初めてギターに触る子供が出すような(要するにヘタッピーな)音を加える。"セイム・ドリーム・チャイナ"では中国の楽器の音を変調させ、あるいは"インディア・レイトリー"ではインドの楽器をいじくり倒し、それぞれ陽気でエキゾティックなハウスに変換する。"ビフォア・ウィ・トークド(僕たちが話す前に)"と"アフター・ウィ・トークド(僕たちが話したあとに)"は初期のマウス・オン・マーズのような悪戯っぽいエレクトロニカで、"ヴァニラ"や"スノー&テキサス"、"アイム・ウィズ・ユー・バット・アイム・ロンリー(君と一緒でも僕は淋しい)"にいたってはまさしく『アンビエント・ワークス』のモダン・ヴァージョンだと言える。
 
 僕は『コンパニオン』をたしかに気に入ったし、よく聴いた。しかし『ラッキー・シャイナー』は気に入ったなんてもんじゃない。嬉しい驚きであり、ダブステップのネクストにおける重要な1枚だと思っている。下手したら流れを変えるかもよ。マユリちゃんもこのアルバムを聴いたら、来年の〈メタモルフォーゼ〉にパンダを呼ぶことを決断するんじゃないだろうか......。

 なお、10月6日、dommuneにゴールド・パンダが出演します。時間は7時からです。みんなで彼の最新ライヴを聴きましょう。

野田 努