Home > Interviews > interview with Eli Walks - “ニュー・エレクトロニカ”発動
クラブは最初は楽しさがわからなかったけど、通ってまわりを観察してるうちに、みんなこんなに楽しんでるんだなって、エレクトロニック・ミュージックの影響の大きさを感じたかな。
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■どんな経緯で今回のアルバムは生まれたの?
EW:ええと......。そうだね、いろいろな要素があると思う。まず自分が聴いていいなと思ったものを、自分の手で再現していきたいと思ったこと。あと学校ではシンセを手作りしたりしてたんだけど、自作のシンセで遊んだりしてるうちに、これをきちんと音にしたいなとも感じた。それからむかしギターで書いた古い曲をエレクトロニック・ヴァージョンにしてみたいって気持ちもあった。そういうものが全部重なりあって、この作品になったと思うよ。
■なるほど。あなたのなかでエレクトロニック・ミュージックの魅力とは何なんでしょう?
EW:エレクトロニック・ミュージックって、すごいいろんな色を持ったものだと思うんだ。バンドにはギターがあってベースがあってドラムがあって、そのそれぞれにエフェクトをかけたりすればいろんな音は出せると思うんだけど、エレクトロニック・ミュージックにはもっと無限の可能性があって、まるで3Dみたいに、すごく狂った体験ができると感じるんだ。
■僕は今日、ええと、笑わないでほしいんだけど、ブルース・スプリングスティーンをずっと聴いてて(笑)。それで思ったんですが、アメリカのポップ・カルチャーの多くが、ヒップホップにしてもロックにしても、アメリカ社会を反映したものが作品になってると思うんですね。そういう社会との関係性ということを考えたときに、エレクトロニック・ミュージックとはどのようなものだと思いますか。
EW:いまってすごくいろいろなものが変化していて、インターネットが生まれたことで国やジャンルの境界線がなくなってきてたりするよね。そんななかでアメリカでもエレクトロニック・ミュージックのポジションが変わってきていると思う。カニエ・ウェストとかダフト・パンクとかがいろいろやったりして、エレクトロニック・ミュージックはほんとにメイン・ストリームになったなって思うよ。
■それはほんとにそう思います。20年間聴いてきたんですが、90年代は、エレクトロニック・ミュージックはヨーロッパ中心のものだったし、アメリカからはあまり聴こえてこなかったですよね。それがこの10年でほんとにアメリカで広がったんだなって思います。
EW:たとえばニューヨーク出身のアーティストでも、まるでUK出身みたいなエレクトロ・サウンドのバンドがいたりするし、そのへんの境界はほんとになくなってきてると感じるよ。
■それってなんなんでしょう、アメリカの古い価値観が崩れていくというようなことでもあるんでしょうか?
EW:うーん、そうだなあ......
■ははは。もう、昔はね、シンセサイザーの音が入ってるってだけで、アメリカでは「オカマっぽい」って言われたりしたんですよ。
EW:ああ、うんうん。そこはすごくオープンになってきてるんじゃないかな。で、その古い価値観っていうのもすごく残ってはいると思うんだけど、アメリカってすごくメイン・ストリームに左右されるところで、メイン・ストリームがやったことがすごく強調されるんだ。カニエ・ウェストとかがやることは、メイン・ストリームに広がったりするから、たしかに(マイノリティの問題等についての)受け取り方はオープンになってきていると思うよ。ケイティ・ペリーが「I Kissed A Girl」って歌うと、アメリカ中の女の子たちに、あ、それはアリなんだって伝わっていく。メイン・ストリームを通せばそういうオープンな価値観も広がるんだ。
■なるほどね。それでいま3年めでしたっけ? 東京に移ってきたわけなんですが、ぶっちゃけ、放射能とか怖くないですか?
EW:はっはっは。あんまり。
■(笑)。
EW:そりゃ、現場に行けば怖いだろうなって思うよ。東京でもデリケートな人たちは「水もあぶない」って言ったりしてるけど、飲んじゃってるし。
■では、アルバムのタイトルを『パラレル』にした理由はなんなんでしょうか?
EW:アルバム制作にいたるまでに、予期せぬできごとがすごくたくさんあって、いろんな人との出会いとか、このレーベルとの出会いとか、いろんな偶然もたくさんあったんだ。そしてとても立ち止まって考えていられないほど、すべてのことがシンクしてた。僕は頭の中でひとつの線を思い描いていて、ちょっと数学的なんだけど、そうやって線を描きながらものごとを考えたときに、すべてがシンクしていくことがよくわかった。だからこのアルバムは、なにか線で表現したいなって思ったんだ。それで「パラレル」って言葉を思いついたんだけど、平行って、すごくそういうイメージでしょ。
■へえ、なるほど。
EW:状況が変わればアルバムの見え方も変わるとは思うんだけど、自分の人生の中にはパラレルなものが多いなって感じるんだ。日本とアメリカのふたつのものの間をいったりきたりしてるのも、パラレルのイメージだしね。
■日本にいるととくになんですけど、アメリカと日本をめぐっていろいろと政治的な複雑な関係を耳にすると思います。そういうことは気になったりしますか?
EW:じつは沖縄にいたころは父親が米軍基地で働いていて、基地の外で日本人が「出てけ」って運動してたりするのを目の当たりにしてた。母親は日本人だから、僕はほんとにどうしたらいいんだろうって考えざるをえなくて......。そういう、日本とアメリカとの関係性について考えざるをえない場面っていうのは僕の人生のなかに何度もあったよ。いまはあんまり考えないようにしてるんだけどね。
■それは重たい話ですね......ご自身の作品のコンセプトというか、リスナーをどうしたいとか、そういうものはありますか?
EW:とくにコンセプトといえるほどのものはないんだけど、たとえばタワレコとかに行ったときに、はじめて試聴するときのインパクト、それは与えたいなって思ってたんだ。だからこれまで書きためてた曲で好きだったものを選んで、自分でパーフェクトだって思えるまで死にものぐるいで作ったよ。あと、そうだな、最初はコンセプトと呼べるものはなかったものの、いま『パラレル』ってタイトルをつけたあとで目をつむって曲を聴いていると、ふしぎと線だったり形だったりが10曲の中でつながっていくよ。
■ではこの音楽のなかで展開される叙情性みたいなものは、あなたのなかのどういうところからくるものだと思いますか?
EW:やっぱりいろんなところに引っ越しているから、友だちとの別れとか、恋愛だったりとか。あとは両親が音楽好きなんだけど、父親がすごく音楽をエモーショナルに聴く人で、レディオヘッドとか聴いててもいきなり巻き戻して「ここの部分聴いてみろ」とか言うんだ。
■はははは!
EW:(笑)そんなところにすごく影響されてるかも。
■あ、お父さんがレディオヘッド好きなんだ(笑)。レディオヘッドが好きなお父さんてすごいね!
EW:ははっ、父さんはすごいクールだよ!
■ははは、じゃ小学校のころに『キッドA』聴かされたりしてるんだね。あの、わりと最近は都内でライヴされたりしてますよね。先日もフラグメントといっしょにやったりとか、あるいはちょっと前にコウヘイ・マツナガくん(NHK)とやったりとか、日本のトラック・メイカーと関係することがあると思うんですが、いっしょにやってみて面白いなって思った人はいますか?
EW:最近同じイヴェントに出てたジェラス・ガイっていう女の子のビート・メイカーがいるんだけど、その子のパフォーマンスがすごくよかった。
■へえ、日本人なんですか?
EW:そう、〈ソナー〉にも出るっていう子なんだけど。あとはタナベ・ダイスケさんとかパフォーマンスが素晴らしいって思うし、あとはオオルタイチさんとか。みんなそれぞれ違った要素があって、共演させてもらう人たちからはいろんなことを学んでるよ。NHKはすごい観たかったんだけど、前回は時間が重なっていて、すごく残念だよ。
■彼は見た目からして、危険な男ですよ。
EW:はははは!
■このイーライ・ウォークスの作品が出たのと同じ時期に、僕はそういう若い日本のトラック・メイカーの作品を耳にすることがすごく多かったんです。ひょっとしたら、まあ、すごい偶然なのかもしれないけど......あなたと同じようなタイミングで、新しい世代が出てきたのかもしれないっていう印象を受けたんです。ご自身ではそういう感覚はありますか?
EW:最近はみんながコンピュータを持っている時代で、「エイブルトン」を使いこなしていたり、「ガレージバンド」でも音楽を作れてしまうから、ここ最近はすごくそういう音作りのブームっていうのが起きてると思うんだ。だからこの数年はほんとに楽しみにしてるよ。
■なるほど、ありがとうございました。僕は10曲めの"ミスト"って曲がいちばん好きでした。
EW:(日本語で)ああ、ありがとうございます!
■いちばん人気がある曲って何なんですかね。1曲めもすごくいいですけどね。
EW:あ、みんなけっこう"ムーヴィン"はいいって言ってくれるかも。なぜかiTunesだと"フリーフォール"。
■ああ、そう。それはおもしろいね!
EW:そうなんだ......
■ははは、ありがとうございました!
取材:野田 努(2012年4月18日)
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