「Low」と一致するもの

drøne - ele-king

 ドローン(drøne)は、マイク・ハーディング(Mike Harding)とマーク・ヴァン・ホーエン(Mark Van Hoen)によるエクスペリメンタル・サウンド・アート・ユニットである。今年頭、彼らの4作目のアルバム『The Stilling』がリリースされた。この特異な作品にについて語る前に、まず、ふたりのメンバーについての簡単な紹介からはじめたい。とてもスペシャルなユニットなのだ。

 マイク・ハーディングは英国のエクスペリメンタル・ミュージックの老舗〈touch〉の創設者である。彼はレーベル運営の傍、自身の音源をいくつかをリリースしている。1998年に、彼はフェネス、ハーディング、レーバーグ(Fennesz Harding Rehberg)『Dĩ-n』を〈Ash International〉からリリースした。20分ほどの音響作品だ。ちなみに〈Ash International〉は、マイク・ハーディングと音響作家のスキャナーことロビン・リンボー(Robin Rimbaud)が1993年に設立したレーベルである。
 2011年、〈touch〉から7インチ・レコードでマイク・ハーディング「Repaired/Replaced」をリリースした。ジョン・ヴォゼンクロフトによる美麗なアートワークによるこの作品は、短いながらも秀逸な環境録音作品である。さらに〈touch〉から2001年に発表されたコンピレーションアルバム『Ringtones』に MSCHarding 名義の楽曲を収録し、〈Cabinet〉から2001年にリリースされたコンピレーション・アルバム『Cabinet #3: Squall』に MSC Harding 名義で楽曲を提供している。

 マーク・ヴァン・ホーエン(Mark Van Hoen)は、ポストロック・バンド~エレクロトロニック・ミュージックの草分け的存在シーフィールの初期メンバーで、ロカスト(Locust)やソロ名義でも活動するアーティストである。
 マーク・ヴァン・ホーエン名義では1995年に同じく元シーフィールのメンバーである ダレン・シーモア(Daren Seymour)と『Aurobindo: Involution』を〈Ash International〉から送り出した。2年後の1997年には〈touch〉から2枚組『The Last Flowers From The Darkness』をリリースする。翌1998年は〈R&S Records〉傘下のアンビエント・レーベル 〈Apollo〉から『Playing With Time』を発表し、2004年には英国〈Cargo Records〉傘下の〈Very Friendly〉から『The Warmth Inside You』を発表した。2010年代以降は「Boomkat」のオーナーでもある Shlom Sviri と〈Morr Music〉からリリースしたアルバムでも知られる Herrmann&Kleineの Thaddeus Herrmann が運営する〈City Centre Offices〉から『Where Is The Truth』をリリースした。2012年には〈Editions Mego〉から『The Revenant Diary』、2018年には〈touch〉から『Invisible Threads』を発表する。
 ロカスト名義でも、94年に〈Apollo〉から『Weathered Well』を発表して以降も活動を継続している。00年代以降も2001年に〈touch〉から『Wrong』、2013年に〈Editions Mego〉から『You’ll Be Safe Forever』、2014年に同レーベルから『After The Rain』を送り出す。2019年にはアンビエント作家の Min-Y-Llan = Martin Boulton 主宰〈Touched - Music For Macmillan Cancer Support〉から『The Plaintive』をデータ配信で発表した。

 そんな経験豊富なふたりによるドローンは、2016年に、カール・マイケル・フォン・オスウルフ(Carl Michael Von Hausswolff)の娘であり、アーティストとしても知られるアンナ・フォン・オスウルフ(Anna von Hausswolff)主宰のレーベル〈Pomperipossa Records〉から最初のアルバム『Reversing Into The Future』をリリースした。翌2017年には同レーベルから『A Perfect Blind』と自主リリースでCD作品『Mappa Mundi』を発表する。そして2020年、約3年の歳月を経て、〈Pomperipossa Records〉から新作『The Stilling』がリリースされたわけである。

 本作『The Stilling』もこれまでの作品同様に夢のような幻想的なサウンドスケープを形成しているが、より成熟した技法によって実験的な短編映画のようなサウンドへと変貌を遂げた。世界各国(なんと日本も)で録音された環境音が溶けるような1め “Mumming” から引き込まれる。環境録音とそのむこうに鳴るドローンの交錯は刺激的であり麗しくもある。そのサウンド空間は、けっして穏やかなだけではなく、ある種の不穏さや性急さがレイヤーされている点にも注目したい。続く2曲め “Influence Machines” も上空から世界の雑音を高速スキャンするような音響を展開する。音響と音楽の境界線を溶かすような3曲め “Vitula” は、アルバム中でも特に重要な曲だ。ヴァイオリンを、2019年に〈touch〉からアルバムをリリースしたばかりのザッカリー・ポール(Zachary Paul)が、チェロを前作『A Perfect Blind』や〈touch〉より発売されたサイモン・スコット(Simon Scott)の『Soundings』にも参加していたチャーリー・カンパーニャ(Charlie Campagna)が演奏している。人の息吹を折り重ねた4曲め “Sunder” では人のよりパーソナルな領域へと音響が接近する。そしてラスト3曲 “In The Eye”、“The Stilling”、“Hyper Sun (Including Every Day Comes And Goes)” では、環境音とドローンが高密度に交錯・融解し、まるで聴き手の耳と記憶に急速に浸透するようなサウンドスケープを展開する。次第に壮大な音響が生成されていくさまは、まさに圧巻というほかない。そのほかゲストとして Smegma の Nour Mobarak や Bana Haffar らも参加している。

 以上、全7曲、どのトラックも成層圏から地上、そしてヒトへと高速ズームアップするようなサウンドであった。そのうえまるで記憶が溶けていくような不思議なノスタルジアを放っている。彼らの最高傑作であるばかりでなく、近年のエクスペリメンタル/ドローン作品の中でも出色の出来といえよう。

King Krule - ele-king

 乾いている。3枚めのアルバムとなる『マン・アライヴ!』において、これまでのキング・クルールの音楽にあった湿り気は後退し、とくに序盤、ザ・フォールのようなポストパンクを思わせるドライな音質とクールな攻撃性が前に出ている。オフィシャル・インタヴューでアーチー・マーシャルは「もっと乾いた音にしたかった。それはかなり意識してた。ギター・サウンドにせよ自分のヴォーカルにせよ、リヴァーブやエコーという点でもっとドライなものにしたかった」と発言しているが、あくまで意図的な変化であったことがわかる。ビート・ジェネレーションの文化への憧憬があったのだろう、キング・クルールには1950年代のアメリカにおけるモダン・ジャズやブルーズのスタイリッシュな引用があったが、ここでは、70年代末の英国まで時代も空間もワープしているようだ。オープング、“Cellular” におけるパサついた音質で素っ気なく繰り返されるビートや無機質な電子音、断片的なサックスのフレーズ。ギターは叙情的だが、かえって異化効果を高めている。あるいは、簡素きわまりないリズムとぶつぶつと乱暴に放たれるばかりのヴォーカルの組み合わせで始まる “Supermarché” はそのまま、“Stined Again” の混沌を導いてくる。ピッチを外したギターとフリーキーに交配されるサックス、音程を取らずに吐き捨てられるマーシャルの叫び──「またハイになってしまった」。そこでは無軌道な音たちが散らかっている。

 アルバムは後半に向かってメロウになり、“The Dream” のアコースティックでジャジーな響き、“Theme for the Cross” のピアノの音、“Underclass” におけるムーディなサックスの調べなど、穏やかさや甘さを感じさせる瞬間も少なからずある。しかしそれ以上に、“Alone, Omen 3” のノイズのなかでトリップするような体温の低いサウンドに耳を強く引きつけられ、強烈なまでにダビーな音響に酩酊させられる。重さや暗さはいつでもキング・クルールの音楽の危うい魅力だった、が、これまではもっと聞き手を包みこむような柔らかさを有していたと思う。『マン・アライヴ!』には、無調やノイズ、インダストリアルなビートに象徴される乾いた音によって容赦のない力で引きずりこむような、冷えたダークさがある。
 マウント・キンビーブラック・ミディなど、英国ではポストパンクを更新する若いアーティストが目立っているが(プロデューサーとして参加しているのは、マウント・キンビーやサンズ・オブ・ケメットを手がけているディリップ・ハリス)、キング・クルールもまたそのひとりに挙げられるだろう。前作『ジ・ウーズ』からその傾向を強くし始め、本作でより明確にその意思を見せているマーシャルは、そして、21世紀のジャンル・ミックスを踏まえつつも、ポストパンクの冷たい音を借りて彼の厭世観を深めているように見える。

虐殺が起こっている
陸で
海で
僕には見える
掌のなかに
(“Cellular”)

最下層にいる
社会の穴の奥深く
最後にきみを見たのはそこ
僕らはみんなその下にいた
戻って来るという感覚はたしかにあった
だけどそうはならなかった
(“Underclass”)

 「新世代のビート詩人」などとリリカルに形容されることも少なくなかったマーシャルは、しかし、『マン・アライヴ!』では路上のロマンを掲げるよりも、この世で起きている悲惨な現実をテレビを通して呆然と見ている。そして遠くで起きていることが、自分の身に迫っているものに感じられるのだとつぶやく。それは彼にとって、錯覚ではないのだろう。
 前作から本作までの間に、マーシャルはフォトグラファーのシャーロット・パトモアとの間に娘が生まれたことを公表している。本作に収録された楽曲は娘が誕生する前にできていたそうだから、ここで見られる厭世観は子どもを持つ以前のものだということだ。そうした失意はもちろん、これまでの彼の作品にも色濃く影を落としていた。しかしどうなのだろう。果たして、いまの世界は子どもが生まれるのが喜ばしいと思える場所なのだろうか。僕には、『マン・アライヴ!』のさらなる重さはこれから親になる世代の不安や混乱と同調しているように感じられる。そうした恐れは親にならない選択をした者にとっても同様で、世のなかの反出生主義のような流行りは、ある意味ではそれに対する逃避的なリアクションだろう。アーチー・マーシャルの音楽のなかでは、未来が明るく感じられないこと……が、ポストパンクの記憶と重なる。
 しかしだからこそ、かつて『シックス・フィート・ビニーズ・ザ・ムーン』というタイトルで死のイメージを持ち出していた痩せっぽちな少年はいま親となり、「生」にエクスクラメーションマークをつけて叫ぶのである。死を甘美に夢見るのではなく、むしろ過酷な生を選択するのだと。だから『マン・アライヴ!』は、不安や恐れを撒き散らしながらも、反出生主義のような「夢想」に反発する。どれだけそこが酷かろうと、まずは現実から目を逸らさずに絶望することから始めること。だから音は醒めてなければならなかった。
 ヘヴィな作品であるとはいえ、どうにか聴き手をなだめるようなところもある。“Alone, Omen 3” はメランコリックでダウナーな響きがやがてノイズに飲みこまれていくトラックだが、そのノイズのさなか、マーシャルは「きみは独りじゃない」と繰り返す。この世界に絶望しているのはきみだけじゃない、という逆説的な力──それが、明日をどうにか生き抜くために必要なものとして、暗闇からひっそりと鳴らされている。

interview with Kassa Overall - ele-king

 2019年にリリースされたジャズ・アルバムの中でも、ひときわ新しさと面白さに満ちた作品があった。カッサ・オーヴァーオールによる『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』である。カッサはニューヨークで活動するジャズ・ドラマーだが、同時にラッパーやトラックメイカーとしての顔を持ち、『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』にはそうしたふたつの要素が融合されていた。ヒップホップやエレクロニック・ミュージックを取り入れたジャズはもはや目新しいものではなく、そのスタイルも日々更新されている。そうした中で『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』を見ると、ヒップホップの要素ひとつとってもエクスペリメンタルな要素が強いもので、メインストリーム的な色合いが強いロバート・グラスパーやクリス・デイヴなどとは異なっている。またそれだけにとどまらず、ビート・ミュージックからフットワークなどさまざまな断片が顔を覗かせるアルバムで、フライング・ロータスあたりに繋がるところも見出せるが、フライロー周辺のサンダーキャットカマシ・ワシントンらロサンゼルスのジャズとは明らかに異なる空気があって、そこはニューヨークならではのものだろう。シカゴのマカヤ・マクレイヴンのようなフリー・インプロヴィゼイション・スタイルともまた違っていて、エレクトロニック・ミュージック的なコラージュ感が強い。とにかく、グラスパーに代表される新世代ジャズの誰とも違っていて、それらのさらに一歩先を行くようなアルバムだったのだ。

 『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』における新しさにスポットがあたりがちだが、カッサはジャズ・ミュージシャンとしてもさまざまなアーティストとの共演で研鑽を積んでおり、特に女流ピアニストでコンテンポラリー・ジャズの世界に大きな足跡を残した故ジェリ・アレンのバンドで活動してきたことが知られる。そうした人脈を広げながらジャズ界でのキャリアを重ね、『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』には故ロイ・ハーグローヴはじめ、アート・リンゼイ、カーメン・ランディなどベテランや実力者が多数参加していた。昨年は現在の女性ジャズ・ドラマーの最高峰であるテリ・リン・キャリントンのグループにも参加している。

 そんなカッサ・オーヴァーオールがニュー・アルバム『アイ・シンク・アイム・グッド』を完成させた。『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』は自主制作盤だったが、今回はジャイルス・ピーターソンの〈ブラウンズウッド〉からのリリースだ。それだけカッサが注目されている証でもある。今回もセオ・クローカー、ブランディ・ヤンガー、ジョエル・ロス、ビッグ・ユキなど注目すべき若手や精鋭ミュージシャンが多数参加しているが、驚くべきことに1960年代の黒人解放運動で勃興したブラックパンサー党に属し、社会活動家にして作家として活動してきたアンジェラ・デイヴィスがヴォイス・メッセージを贈っている。聞くところによればアンジェラはカッサのファンだそうで、今回のコラボが実現したらしい。このアンジェラの参加に象徴されるように、『アイ・シンク・アイム・グッド』はメッセージ性の高いもので、『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』に比べて歌詞が重要な役割を担っている。その歌詞はカッサの体験やこれまでの人生を反映したもので、ある意味で彼の内面をさらけ出している。アルバムのリリースに先駆けて、単独来日公演が組まれて日本を訪れたカッサに、これまでの活動からニュー・アルバムのことなどを訊いた。

『ケアフル・マダム』で学んだことは、アート・リンゼイの音楽に対するアプローチだね。彼はテクニックやスキルという部分よりも、世界観という部分で一枚のアルバムを作り上げてしまうことができる。そうしたアプローチを見ることは、自分をよりクリエイティヴにしてくれた。

今回は単独公演での来日となりますが、日本は何度目ですか? 2018年にアート・リンゼイのツアーで来日していましたが。

カッサ・オーヴァーオール(以下カッサ):今回で4回目だよ。

結構来ているんですね。日本ではあなたの詳細な経歴がまだ伝わっていませんので改めて訊ねますが、どのような環境に生まれ、どんな音楽を聴いて育ってきたのですか?

カッサ:生まれは西海岸のワシントン州のシアトルさ。両親はジャズが大好きで、アマチュアでミュージシャンもやっていたんだ。そんな音楽一家で育ったよ。実家のリビングにはピアノ、ドラム・セット、サックスが置いてあって、ほかにもレコードや4トラックのマルチ・レコーダーもあって、子供の頃それらは自分にとっておもちゃのようなものだった。
その頃いろいろな音楽を聴いてたけど、ジャズだとマイルス・デイヴィス、セロニアス・モンク、ジョン・コルトレーン、チャーリー・パーカー、サン・ラー、オーネット・コールマンとかのレコードを父が聴かせてくれたよ。ほかにクラシックやフォークのレコードも聴いてたね。当時は1980年代から1990年代初頭にあたるけど、パブリック・エネミーやDJジャジー・ジェフなどヒップホップもよく聴いてた。その頃の流行だったからね。そんな具合にジャズやヒップホップ、ブラック・ミュージックなどが自分の中で混じり合って、だんだんと自身の音楽性が作られていったんだと思う。

音楽教育はどのようなものを受け、プロのミュージシャンとしてはどうスタートしたのですか?

カッサ:いまだ自分がプロのミュージシャンだとは思ってなくて、いまもいろいろ学んでいる最中さ(笑)。
楽器を初めて手にしたのは小学生の頃で、兄と一緒に演奏していた。兄がサックスを吹いて、僕はドラムをやったんだ。中学、高校と進む中、シアトルのストリートでいろいろ演奏する機会があって、音楽コンテストや小さなフェスに出たりしていたよ。その頃から音楽の道に進もうと考えていて、オハイオの大学に進学したときは音楽科を専攻したんだ。ほかの仕事をやろうと思ったことはなくて、唯一バイトでやったのがベースボール・スタジアムでのピーナッツ売りなんだ(笑)。
大学を卒業してからニューヨークに出てきたんだけど、最初はここに住もうと思ってたわけではなく、単にショーやライヴを観たりと観光で来たんだ。でも町の雰囲気などがとても気に入って、そのまま居ついてしまったという感じだよ。

あなたの作品にもクレジットされるカルロス・オーヴァーオールというのがお兄さんですか?

カッサ:そうだよ。

ちなみにオーヴァーオールというのは変わった姓ですが、これは本名なのですか?

カッサ:うん、本名はフルネームでカッサ・ポルーシ・オーヴァーオール。ほら。(パスポートを見せてくれる)

ご両親のルーツはどこになるのですか?

カッサ:ふたりとも生まれたのはアメリカで、母はウィスコンシン州のマディソン出身でヨーロッパ系のアメリカ人。父はミシガン州出身のアフリカ系アメリカ人さ。

あなたはジャズ・ドラマーであると同時に、ビートメイカーやラッパーとしての顔を持つ特殊なタイプのミュージシャンです。どのようにしてこうしたスタイルへとたどり着いたのでしょうか?

カッサ:そもそも最初ジャズはジャズ、ヒップホップはヒップホップと区別してやっていたんだ。実家の2階にはピアノやドラム・セットが置いてあって、地下室にビート・マシンやミキサーなどが置いてあった。物理的に楽器演奏とトラック・メイキングを一緒にやる環境ではなくて、ジャズとヒップホップはバラバラでやっていたんだ。ジャズは学校できちんと学ぶもので、一方ヒップホップは友だちと楽しみながらやるものと、そういった違いもあったしね。でも、それぞれずっと別にやっていく中で、ここ3、4年くらいかな、ジャズのこことヒップホップのここを繋ぎ合わせると面白いんじゃないかなと分かってきて、それでふたつのサウンドを一緒にやるようになったんだ。

自分が尊敬するアーティスト、素晴らしいなと思う音楽家は、だいたいみな音楽に人生を捧げて、真摯に取り組んでいる人たちなんだ。「ジャーニー(探求)」とはそうした人生を指しているんだよ。

同じタイプのジャズ・ドラマー及びヒップホップ系のビートメイカーではクリス・デイヴ、カリーム・リギンズ、マカヤ・マクレイヴンなどが思い浮かびますが、彼らについて何か意識したり、影響を受けたところはありますか?

カッサ:うん、もちろんいま挙げた人に限らず、いろいろな人たちから影響を受けることはあるよ。でも僕の場合、前にも言ったようにジャズとヒップホップはずっと別々にやってきていて、最初からヒップホップのビート・パターンをドラムで実演するといったようなことはやっていなかった。そのあたりがクリスのようなドラマーとの違いで、ヒップホップに合わせてドラムを叩くというようなアプローチではなく、自分で演奏したジャズのドラムをサンプリングしてヒップホップのトラックで用いるというアプローチをしている。自分にとってジャズはあくまで生演奏で、ヒップホップはマシンを使ってビートを作るという具合に、やっぱり両者の間では違いがあるんだ。それら異なるものをコラージュして繋げていくというのが自分のアプローチなんだと思う。いろいろ影響は受けるけど、アプローチ方法は人それぞれなんじゃないかな。

そのジャズとヒップホップをコラージュするようになった、何か具体的なきっかけとかはあるのですか?

カッサ:アルバムの『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』を作る前までは、たとえばヒップホップのトラックを作ってミュージック・ビデオでラップをしている僕の姿を見る人がいたとする。でもライヴハウスに行ったらもっとストレートなジャズを演奏していて、そうした僕のふたつの別々のスタイルを見た人は混乱するんじゃないだろうか、そんなことを考えてね。そこから自分は一体どんな音楽家なんだろうともっと考えるようになって、そのときにふたつのことを同時に一緒にやったら、人々からはもっとポジティヴな反応が得られるんじゃないかなと、そう思うようになったんだ。ミュージシャンとしての自分をもっとわかってもらえるんじゃないかと考え、そうしてジャズとヒップホップを繋げてやるようになっていったんだ。

以前トゥースペーストというヒップホップ・ユニットを組んでましたね。ここではどんな活動をしていたのですか?

カッサ:あれはエクスペリメンタルなヒップホップ・ユニットでね、元カノとちょっとだけやっていたんだ。だからあまり知ってる人はいないかもね。いい音楽をやってたんだけど。

ジャズ・ミュージシャンとしてはジェリ・アレンやケニー・デイヴィスと組んだタイムラインというグループで活動したほか、ヴィジェイ・アイヤー、アート・リンゼイ、セオ・クローカーなどと共演してきています。特に2017年に他界してしまったジェリ・アレンからの影響が大きいと思いますが、彼女との共演からいろいろ学びましたか?

カッサ:ジェリは偉大なミュージシャンで、亡くなってしまったいまでも彼女からは多くのことを学ばされる。昔一緒に演奏していたとき、ああしたらいいよ、こうしたらいいよといろいろアドヴァイスを受けて、手取り足取り教えられた。そのときはどういうことかわからなかったこともあったけど、いまそれがわかってくることがあるんだよ。

ジェリはあなたにとってジャズの先生みたいな存在だったわけですね。

カッサ:そうだね、先生、いや僕にとってジャズのゴッドマザーのような人だよ。

昨年はテリ・リン・キャリントンのグループのソーシャル・サイエンスにも参加し、アルバム『ウェイティング・ゲーム』もリリースしていますが、彼女との交流もジェリ・アレンとの繋がりから生まれたのですか?

カッサ:うん、テリもジェリ・アレンと一緒に演奏していたから繋がりがあって、ジェリが亡くなった後にその遺志を継ぐというわけじゃないけど、距離が近くなって、一緒にやるようになったんだ。

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良い音楽を作るためには生々しいトピックだったり、真実に基づいた経験についても触れなければいけない。そうしたリアルさ、複雑さがときにベストなものを作る。自分を振り返って、掘り下げた歌詞を書いていくことは、一種のセラピーのような行為でもあるんだ。

アート・リンゼイのアルバム『ケアフル・マダム』(2017年)では、あなたが現代的なビート感覚をもたらすなど重要な役割を担っていました。彼との活動があなたの創作活動にフィードバックされた点などありますか?

カッサ:『ケアフル・マダム』で学んだことは、アートの音楽に対するアプローチだね。それまでの僕のアプローチとはまた違うもので、彼の場合は音楽的なテクニックやスキルという部分よりも、世界観という部分で一枚のアルバムを作り上げてしまうことができるんだ。そうしたアートのアプローチを見ることは、自分自身をよりクリエイティヴにしてくれたと思うよ。

ファースト・アルバムの『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』は、2019年のアルバムの中でもこれまでになかったジャズの新たな可能性を提示した素晴らしい作品でした。ジャズの生演奏とビート・ミュージックやヒップホップ、トラップやジュークなどエレクトロニック・ミュージックが融合し、フライング・ロータスなどを連想させる場面もありましたね。

カッサ:もちろんフライング・ロータスにも影響は受けている。彼は純粋なインストゥルメンタル・プレイヤー、即興演奏家ではないけれど、どうやって楽器を用いながらビート・ミュージック音楽を作っていくかというのは自分でやっていなかった部分なので、その面ではいろいろ影響を受けたと思う。『ゴー・ゲット・アイス・クリーム~』に関しては、フライング・ロータスのやってるジャズとビート・ミュージックとかの融合のまた別ヴァージョン、そんな面があるだろうね。フライング・ロータスのアプローチと僕のやっているアプローチには同じところもあれば、また違うところもある。そうした意味で別ヴァージョンということさ。

このアルバムではアート・リンゼイ、セオ・クローカー、カーメン・ランディなどのほか、ロイ・ハーグローヴとも共演しています。2018年に彼が亡くなる直前のレコーディングだと思いますが、どのようなセッションでしたか?

カッサ:素晴らしかったね。自分にとってとてもやりやすいものだった。ロイから本当に大きなインスピレーションを受けたわけだけど、彼は昔からニューヨークのジャズ・シーンの知り合いで、いつかコラボしたいねと言ってたんだ。なかなか機会がなくて時間がかかってしまったけど、こうやって一緒に演奏するときが巡ってきて、とても興奮したよ。彼がスタジオにやってきて、パーフェクトな演奏をしてくれて、2、3時間で全て録音することができた。
彼とレコーディングしたときは、まだアルバムとしてどうリリースするかまでは決まってなくて、いろいろ悩んでいた頃だったんだ。でも一緒にやっていい録音をすることができて、アルバムを出すのならこのタイミングだなと思ったんだ。そうした面でも彼の与えてくれたインスピレーションはアルバムを出すにあたってとても大きなものだったと思うよ。

ニュー・アルバムの『アイ・シンク・アイム・グッド』はジャイルス・ピーターソンの〈ブラウンズウッド〉からのリリースとなります。どのような経緯で契約を結んだのですか?

カッサ:『ゴー・ゲット・アイス・クリーム~』をリリースしたとき、ジャイルスにラジオでかけてもらいたかったからアルバムを送ったんだ。彼も気に入ったみたいでかけてくれてね。そうして『アイ・シンク・アイム・グッド』が完成して、ジャイルスを含めていろいろな人にサンプルを送ったんだけど、そんなときにたまたまツアーでヨーロッパに行くからインタヴューとかをセッティングしてもらえないかと彼に相談したところ、『アイ・シンク・アイム・グッド』もすごくいいから彼のレーベルからライセンスして出せないだろうか、という話になってね。そんな具合にタイミングが重なってリリースすることになったんだ。

アルバムには来日公演でも一緒のモーガン・ゲリン(サックス)、ジュリアス・ロドリゲス(ピアノ)に、前作でも共演したサリヴァン・フォートナー(ピアノ)、セオ・クローカー(トランペット)から、ブランディ・ヤンガー(ハープ)、ジョエル・ロス(ヴィブラフォン)など現在のニューヨーク・ジャズ・シーンの期待の若手プレイヤーまで、多数のミュージシャンが参加しています。特にピアノ/キーボードではジュリアスやサリヴァンのほか、ビッグ・ユキ、ヴィジェイ・アイヤー、アーロン・パークス、クレイグ・テイボーンと多彩な面々とセッションしていて、それぞれ持ち味の異なる鍵盤奏者との共演がアルバムをよりクリエイティヴなものに導いている印象を受けるのですが、いかがでしょう?

カッサ:そのとおりだね。ひとりの優れたピアニストと組んでアルバムを作ることも、それはそれで素晴らしいことだと思うけど、このアルバムに関してはたくさんの優れたアーティストたちと組んで、それを一枚の作品としてまとめたいと考えた。その方が聴いている人たちも退屈しないからね。

“ショウ・ミー・ア・プリズン”には公民権運動の活動家で作家でもあるアンジェラ・デイヴィスが電話越しのメッセージで参加して驚かされました。この曲は監獄と囚人を題材とした作品ですが、彼女はどのようなきっかけで参加したのでしょう?

カッサ:アンジェラは『ゴー・ゲット・アイス・クリーム~』を出したときから僕をサポートしてくれていて、中でも“プリズン・アンド・ファーマスーティカルズ”という曲がお気に入りだったんだ。彼女の地元のオークランドやサンフランシスコやのラジオ局でもよくかけてくれて、いい曲だと言ってくれていたんだ。それで今回の“ショウ・ミー・ア・プリズン”を作ったとき、その歌詞の内容が持つヘヴィーさ、シリアスさというものを、どうすればより効果的に伝えられるかなと考えて、アンジェラの肉声が入ったらとてもいいんじゃないかなとアイデアが浮かんだんだ。それで彼女にヴォイス・メールを頼んだところ、快諾してもらえて入れたんだよ。

どこでも活動できるという意味でバックパック・プロデューサーと言っているわけだけど、スタジオだけじゃなく友だちの家でも、泊っているホテルでも、気がむいたらどこでも音楽はできる。時間を気にすることなく、納得がいくものができるまで続けられるというのも利点。

ヴィジェイ・アイヤーと共演した“ワズ・シー・ハッピー”は前述のジェリ・アレンに捧げた曲です。この曲に出てくる「ジャーニー(歌詞カードの和訳では「探求」)」という言葉はあなた自身の音楽や人生についても降りかかってくるのではと思うのですが、いかがでしょう?

カッサ:ジェリ・アレンが亡くなってからのある日、ヴィジェイとディナーをしてたときにジェリの話になって、彼から「彼女は幸せだったのかな?」と訊ねられたんだ。そんな会話がもとになって生まれた曲なんだけど、ジェリは彼女の人生や時間を全て音楽に捧げているような人だった。音楽は自分の使命であると、そんな風に考えるとてもまじめな人だったんだ。いざ音楽から離れて、彼女自身の幸せとか楽しみがあったのかなと考えてみるんだけど、でもジェリにはそんな時間なんてなかったんだよね。自分が尊敬するアーティスト、素晴らしいなと思う音楽家は、だいたいみなジェリみたいに音楽に人生を捧げて、真摯に取り組んでいる人たちなんだ。「ジャーニー(探求)」とはそうした人生を指しているんだよ。

今回のアルバムはあなたの詩人としての才能が大きく表れていて、そこにはかつて精神疾患を患い、躁鬱病で学生時代に入院した経験が反映されています。そんな体験から生まれた歌詞が多いのですが、そうした過去を隠す人が多い中、どうして自ら発信したのでしょうか?

カッサ:僕にとってのメインのゴールは良い音楽を作るということなんだ。そのためには今回のような生々しいトピックだったり、真実に基づいた経験についても触れなければいけないなと思ったんだ。そうしたリアルさ、複雑さがときにベストなものを作る。これまでは作品の中で深く自分自身を掘り下げていくということをあまりしてこなかったけど、今回はそうしたディープなところに挑戦したアルバムだと思う。同時にそうやって自分を振り返って、掘り下げた歌詞を書いていくことは、自身にとっての一種のセラピーのような行為でもあるんだ。

アルバム・ジャケットには少年時代のあなたの写真を使っているようですが、それもかつての体験に繋がっているのですか?

カッサ:あれは彼女のアイデアだから、訊いてみてよ。(同席していたガールフレンドを指す)

ガールフレンド:私とカッサは7、8才の頃に知り合ったんだけど、学校で同級生のときに撮った写真がこれなのよ。この写真のカッサの表情がずっと私の中には残っているわ。とても優しく笑っているんだけど、その中にちょっとプライドも感じさせて、すごくいい表情なの。それから彼が着ているバスケットボールのジャージもすごく似合ってるわね。彼がアルバムのことを話してたとき、この写真がジャケットにいいんじゃないかなと思って、それで勧めてみたの。

あなたは自身についてバックパック・プロデューサーだと述べていますね。リュックなどにラップトップを入れてどこでも音楽を作り、行く先々でいろいろなミュージシャンとセッションするということなのかなと思いますが、『アイ・シンク・アイム・グッド』はベッドルームで作ったトラックが、街に出てミュージシャンたちとのセッションによって完成されたものと言えますか?

カッサ:そうだね、どこでも活動できるという意味でバックパック・プロデューサーと言っているわけだけど、スタジオだけじゃなくて友だちの家でも、泊っているホテルでも、気がむいたらどこでも音楽はできるんだ。それとスタジオだとどうしても時間に縛られるよね。そんな時間を気にすることなく、納得がいくものができるまで続けられるというのもバックパック・プロデューサーの利点だと思うよ。

ISSUGI - ele-king

 稀代のラッパー ISSUGI が、バンド・アレンジに挑戦したことで話題を集めたニュー・アルバム『GEMZ』より、BUDAMUNK プロデュースによる “ONE RIDDIM” のミュージック・ヴィデオを公開している。ディレクションは、ISSUGI や仙人掌らの映像作品を手がけている xtothexx が担当。音だけでもめっちゃかっこよかった楽曲が、さらにかっこよくなっている。なお、3/6と3/19に予定されていた福岡・大阪での公演は残念ながら中止になってしまったが、3/27の東京公演は、現時点では開催の方向とのこと。

ISSUGIのニュー・アルバム『GEMZ』から “ONE RIDDIM” のミュージック・ビデオが公開!

ISSUGI の元に BUDAMUNK (PADS)、WONKのHIKARU ARATA (DRUM)、KAN INOUE (BASS)、CRO-MAGNON の TAKUMI KANEKO(KEYS)、MELRAW (SAX, FLUTE, TRUMPET, GUITAR)、DJ K-FLASH (TURNTABLE) がバンド・メンバーとして集結し、Red Bull Music Studios Tokyo を拠点に制作されたニュー・アルバム『GEMZ』から BUDAMUNK のプロデュースによる “ONE RIDDIM” のミュージック・ビデオが公開! ディレクションは ISSUGI や仙人掌らの映像作品を手掛けている xtothexx が担当している。

※ 新型コロナウィルス感染拡大防止のため、3/6、3/19に開催を予定しておりました「ISSUGI GEMZ RELEASE LIVE」の福岡、大阪公演の中止が決定致しました。チケットの払い戻しに関しましては決定次第、ISSUGI HP にて発表させていただきます。3/27の東京公演に関しましては、日々状況が変化している最中ではありますが現状は開催を予定しております。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

*ISSUGI “ONE RIDDIM” - Prod by Budamunk (Official Video)
https://youtu.be/1oHTVqZNZNw

GEMZ RELEASE LIVE IN TOKYO at WWW X
2020.03.27 (FRI)
OPEN 19:00 / START 20:00
ADVANCE TICKET : ¥3,500 [+BONUS]
DOOR : ¥4,000
(税込/ドリンク代別/オールスタンディング)

*前売チケット発売中
https://www-shibuya.jp/schedule/012191.php

〈Members〉
LIVE: ISSUGI
DRUMS : HIKARU ARATA (WONK)
BASS : KAN INOUE (WONK)
PADS : BUDAMUNK
TURNTABLE : DJ K-FLASH
KEYS : TAKUMI KANEKO (CRO-MAGNON)
SAX, FLUTE, TRUMPET, GUITAR : MELRAW
and special guest

[アルバム情報]
アーティスト: ISSUGI (イスギ)
タイトル: GEMZ (ジェムズ)
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
品番: PCD-25284
発売日: 2019年12月11日(水)
税抜販売価格: 2,500円
https://smarturl.it/issugi.gemz

Lorenzo Senni - ele-king

 ようわく待ちわびた日が訪れる。それまで〈Editions Mego〉などから作品を発表していたミラノの電子音楽家ロレンツォ・センニが、UKの名門〈Warp〉と契約を交わしたのはもう4年も前。以後彼は着々とシングルやEPのリリースを重ね、昨年の〈Warp〉30周年を祝うオンライン・フェスにも参加していたわけだけれど、他方で彼はレーベル〈Presto!?〉の主宰者でもあり、去年は BRF 名義で知られる東京のタショ・イシイによる力作『Dentsu2060』(紙エレ最新号114頁)を送り出してもいるが、ここへきてついにセンニ本人のフルレングスの到着だ。トランスなどを解体して転生させる彼独自の手法=「点描」がいかなる進化を遂げたのか、しかとこの耳でたしかめよう。

Lorenzo Senni
エイフェックス・ツインも認めた鬼才、ロレンツォ・センニ。
〈Warp〉移籍後初となる最新アルバム『Scacco Matto』を4月24日(金)にリリース!
トランス、レイヴ、ポップ、クラシックまで内包した点描エレクトロニック・ミュージック!
新曲 “Discipline of Enthusiasm” を公開!

イタリアのミラノを拠点に活動するロレンツォ・センニ。トランス〜レイヴを解体した彼にしか作り出せない最先端のサウンドによって注目を集め、エイフェックス・ツインがライヴセットでヘビロテするなど話題を呼んだ彼が、〈Warp〉からは初めてとなる待望の最新アルバム『Scacco Matto』を4月24日にリリースすることが決定し、同時に収録曲 “Discipline of Enthusiasm” を先行解禁した。

Lorenzo Senni - Discipline of Enthusiasm
https://www.youtube.com/watch?v=qNlbN_YZHFY

〈Warp〉からの初リリースとなったEP「Persona」から4年、彼はこの期間、ミラノを拠点にロンドンのテート・モダンやパリのポンピドゥー・センター、ヴェネツィア・ビエンナーレ2019他、様々な場所で展示やパフォーマンスを行って芸術分野を探究するアーティストとしての活動を行い、更に自身が率いるレーベル〈Presto!?〉からは日本人コンポーザー Tasho Ishi による作品『Dentsu2060』をリリースし、ここ日本でも話題になるなど、幅広い活動を見せてきた。

4月にリリースされる最新作『Scacco Matto』では、センニ独自の「点描」の技法が用いられている。制限を加えられ張りつめたサウンドは、ドラム抜きのリズムとメロディーが主体となり、その中で今作は楽曲としての構造がより鮮明になっている。こうした大胆なサウンドを提示しながら、彼はトランス・ミュージックを巧みに操り、予期せぬサウンドを発生させ、新しい音楽形態を作り出している。

トランス、レイヴ、ポップ、さらにはクラシックから参照された様々な要素は、デジタル化され、まるでベンディドットの技法(水玉模様の大きさや密度によって、さまざまな色合いや濃淡を表現する技法で、限られた色数でも表現できることから印刷技術などに用いられる)で描いたような世界を構成している。

アルバム・タイトルは、イタリア語で「チェックメイト」を意味していて、それぞれのトラックには必ず「対戦相手」が存在する──言うなれば、僕は自分自身とチェスをプレイしているようなものだ。楽曲が適切と思える形になるよう真剣に取り組んだ上で、そこから都合よく別のアプローチに切り替えた。『Quantum Jelly』以後、温めてきたアイデアをどこまで押し進められるか確かめたかった。それを実行するためには、自分で制限と規則を課す必要があったんだ ──Lorenzo Senni

レコーディングに臨むに当たって、常に自分自身が直前に打った手、すなわち「対戦相手」と相反する行動を取った。「対戦相手」に立ち向かわなければならない、という障害があることで工夫を強いられ、結果、予想もしなかった興味深い手段を採用することができたのだ。

これはアルバムのアートワークにも反映されている──使われているのは、アメリカの世界的写真家ジョン・ディヴォラによる画像だ。絵画のように美しいカリフォルニアの風景を老朽化した窓枠越しに撮影したもので、窓枠には黒い塗料で複数の丸を描いた水玉模様がついている。

Zuma #30 と名付けられたディヴォラによる写真は、輝かしく色鮮やかで感動的な夕暮れが塗料で毀損された壁で切り取られていて、僕にとってこの画像は、壮大な景色に境界を設けて見る者を現実の世界に引き戻すように思える。感情を込めた音楽を作って、種々の制限にかかわらず抽象的な文脈で理解されるようにしたいという僕の意図や、そうしたふたつの要素を同じ作品で共存させなければならないという要求に、この写真は完璧に合致するんだ ──Lorenzo Senni

センニはディヴォラの作品に自身の実践が表れていると考える。彼はダンス・ミュージックを破壊するのではなく、既存の価値に風穴を開けようとしている。ダンス・ミュージックをばらばらに粉砕し、その破片でチェスをプレイする──そうして緊張状態を生み出し、そこから最終的な解決を導こうとしている。『Scacco Matto』とはチェックメイトのことだ──それは努力と戦略と創造的な心理プロセスを経て到達するべき究極の結果だ。

待望の最新作『Scacco Matto』は4月24日リリース! 国内盤には2曲のボーナストラック “Win in The Flat World”、“The Shape of Trance to Come” が収録され、解説が封入される。

label: Warp / Beat Records
artist: Lorenzo Senni
title: Scacco Matto
release date: 2020.04.24 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-633 ¥2,200+税
ボーナストラック追加収録/解説書封入

TRACKLISTING
01. Discipline of Enthusiasm
02. XBreakingEdgeX
03. Move in Silence (Only Speak When It’s Time to Say Checkmate)
04. Canone Infinito
05. Dance Tonight Revolution Tomorrow
06. The Power of Failing
07. Wasting Time Writing Lorenzo Senni Songs
08. THINK BIG
09. Win in The Flat World *Bonus Track for Japan
10. The Shape of Trance to Come *Bonus Track for Japan

Teki Latex & Nick Dwyer - ele-king

 これはおもしろい企画だ。かつて〈Big Dada〉から作品を発表していたパリのヒップホップ・アクト、テーテーセー(TTC)のメンバーでもあるテキ・ラテックスと、日本のゲーム音楽に迫ったドキュメンタリー『Diggin in the Carts』の仕掛け人たるニック・ドワイヤー、このふたりによるなんともエキサイティングなミックステープ『テキとニックのミックステープクエスト大冒険』が公開されている。
 ヒップホップやベース・ミュージックとゲーム音楽とを接続することがテーマのようで、『クロノ・トリガー』や『FF』、『ベア・ナックル』や『ポケモン』といった有名タイトルの音楽に、ミーゴスやアウトキャストなどのアカペラ、ディジー・ラスカルや(オーケーザープとのコラボも記憶に新しい)南アフリカはダーバンのDJラグらのトラックがミックスされている(水カンの “桃太郎” も鳴っていますね)(いまのケンモチヒデフミのゴム・モードともつながる?)。
 注目すべきは、今回のミックステープのために提供されたエクスクルーシヴなトラックたちで、コード9が『飛装騎兵カイザード』(ガブリンサウンド)を、アイコニカが『ソニック』(中村正人)を、マムダンスが『アクトレイザー』(古代祐三)を、そして食品まつり a.k.a フードマンが『FFVI』(植松伸夫)をリミックスしている。グライムMCの Jammz やシシヤマザキも参加。なおオフィシャル・ページではコード9やフードマンのステキなキャラ絵まで公開されているので、そちらもチェック。

https://teknic.mx/?fbclid=IwAR21mVIAgzbySClZICa2cu2B0NP8SqPWrR0XxSvguidqCqG5BCCKHfOo-Xw

Squarepusher - ele-king

 仕事が早い! 5年ぶりの最新アルバム『Be Up A Hello』を送り出したばかりのスクエアプッシャーが、なんと、もう新作をリリースする。タイトルは「Lamental EP」で、3月20日に日本先行発売。アルバム収録曲の別ヴァージョンやアウトテイクに加え、2016年に発表された静かな炎 “MIDI Sans Frontières” およびそのリミックス・ヴァージョンも収録されるとのこと。
 また同時に、いよいよ1ヶ月に迫った来日公演のサポート・アクトも発表された。“Terminal Slam” の強烈なMVを手がけていた真鍋大度である。これは相性バツグンでしょう。とうわけで、新作EPをチェックしつつ、過去のスクエアプッシャーの代表作も復習しながら、4月の来日にそなえておこう。

⇨ スクエアプッシャーの最新インタヴューはこちらから。
⇨ 必聴盤9枚でたどるスクエアプッシャーの歴史はこちらから。

最新アルバム『Be Up A Hello』が賞賛を集める中、
早くも新作「Lamental EP」のリリースを発表!
EU離脱に対する怒りとして発表した “MIDI Sans Frontières” の
セルフリミックス・バージョンを公開!
いよいよ来月に迫った来日ツアーでは、
MVを手がけた真鍋大度の出演が決定!

5年ぶりの最新アルバム『Be Up A Hello』が、オリコン洋楽チャート10位に初登場し、UKとUSで過去最高チャートを記録するなど、賞賛を集めているスクエアプッシャーが、早くも新作「Lamental EP」を完成させた。来日公演を直前に控えた3月20日に日本先行でリリースされる。

今作にはアルバム収録曲 “Detroit People Mover” の別バージョンでもある、スペーシーで躍動感溢れるテクノ・トラック “The Paris Track” と、アルバム・バージョンの “Detroit People Mover”、そしてアルバムからのアウトテイクで、スクエアプッシャーのメランコリックでメロディアスな面を打ち出した “Les Mains Dansent”、また2016年にイギリスのEU離脱を問うた国民投票の結果に対する抗議の意思として発表した “MIDI Sans Frontières” と、そのセルフリミックス・バージョン “Midi Sans Frontieres (Avec Batterie)” の5曲が収録される。12インチ盤には、“Les Mains Dansent” を除いた4曲が収録される。

Midi Sans Frontieres (Avec Batterie)
https://youtu.be/X_k2lih0T6U

また今回の発表に合わせ、各国で予定されているヘッドラインツアーのサポートアクトが発表された。日本では、超近未来の東京を舞台にした破壊的映像が話題となっている “Terminal Slam” のミュージックビデオを手がけた真鍋大度(Rhizomatiks)の出演が決定! 名古屋、大阪、東京の全公演でサポートアクトを務める。

Terminal Slam (Official Video)
https://youtu.be/GlhV-OKHecI

なお、ミュージックビデオの制作の裏側を明かす特設ページが現在公開中。
https://research.rhizomatiks.com/s/works/squarepusher/

『Be Up A Hello』に続く新作「Lamental EP」は、3月20日(金)に日本先行リリース。

待望の来日ツアーに真鍋大度の出演も決定!
前売りチケットは絶賛発売中!

SQUAREPUSHER JAPAN TOUR 2020
SUPPORT ACT: DAITO MANABE

2020年4月1日(水) 名古屋 CLUB QUATTRO
2020年4月2日(木) 梅田 CLUB QUATTRO
2020年4月3日(金) 新木場 STUDIO COAST

TICKETS : ADV. ¥7,000+1D
OPEN 18:00 / START 19:00
※ 未就学児童入場不可

詳細 ⇨ https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10760

チケット情報
【絶賛発売中】
名古屋: イープラスチケットぴあ (Pコード: 176-074)、LAWSON (Lコード: 42831)、LINE TICKET [https://ticket.line.me]、BEATINK、クアトロ店頭 他
大阪: イープラスチケットぴあ (Pコード: 175-878)、LAWSON (Lコード: 53383)、BEATINK
東京: イープラスチケットぴあ (Pコード: 176-570)、LAWSON (Lコード: 73049)、BEATINK、GAN-BAN店頭 他

label: Warp Records / Beat Records
artist: Squarepusher
title: Lamental EP
release date: 2020.03.20 FRI ON SALE

国内盤CD BRE-59 ¥900+税

BEATINK.COM
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10684

TACKLISTING
01. The Paris Track
02. Detroit People Mover
03. Les Mains Dansent
04. Midi Sans Frontieres (Avec Batterie)
05. Midi Sans Frontieres

label: Warp Records / Beat Records
artist: Squarepusher
title: Be Up A Hello
release date: 2020.01.31 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-624 ¥2,200+税
国内盤CD+Tシャツ BRC-624T ¥5,500+税

国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書封入/NTS MIX 音源DLカード封入
(Tシャツセットには限定ボーナストラックDLカードも封入)

各CDショップでの購入特典もチェック!

 Tower Records:四角缶バッヂ

 disk union:丸缶バッヂ

 Amazon:マグネット

 その他CDショップ:ステッカー

Nervelevers (Official Audio)
https://youtu.be/qtSJA_U4W1U

Vortrack (Original Mix)
https://youtu.be/s3kWYsLYuHc

Vortrack (Fracture Remix)
https://youtu.be/59ke5hp-p3E

satohyoh - ele-king

 ちょっとせつなくて、でもやさしくて、あたたかい音楽……。サンクラで展開中の「音メモ」シリーズで話題を集めた秋田の音楽家、サトウヨウが3月11日にセカンド・アルバムをリリースする。2017年に〈PROGRESSIVE FOrM〉から発表されたファースト『inacagraphy+』に続くフルレングスで、ピアノをはじめとするアコースティック楽器とサンプルを組み合わせた、イメージ喚起力の高い情緒的なトラックが並んでいる。なお明日3月4日から OTOTOY にてハイレゾ(24khz/48bit)での先行配信がスタート。もうすぐ春、ですね。

発売日: 2020年3月11日(水曜日)
アーティスト: satohyoh (サトウヨウ)
タイトル: feel like, feel right (フィールライクフィールライト)
発売元: PROGRESSIVE FOrM
販売元: ULTRA-VYBE, INC.
規格番号: PFCD96
価格(CD): 税抜本体価格¥2,200
収録曲数: 15曲
JAN: 4526180513858

◆Tracklisting

01. same old tomorrow's glow
02. 天気雨
03. toro
04. astraea
05. rain is always looking for clouds
06. bange feat. kota okuyama
07. alphabetagammadelta
08. ongoing
09. rufous scene
10. ランプを灯せば
11. little sense monologue
12. break in the parking
13. reprize
14. ただ広い暗闇、欠伸をした信号機
15. the hot-air balloon floating in the chilly sky

M2/4/10/14 vocal by airi hashimoto

◆【feel like, feel right】紹介文

時に優しく、時にせつなく、美しい調べがこだまする。
秋田県在住、風景の音にアコースティックな音を添えサンプリング等の手法を交えて公開する「音メモ」シリーズで SoundCloud を通じて海外でも多くのファンを獲得してきた satohyoh、2017年4月にリリースした初流通作品となる 1st アルバム『inacagraphy+』より約2年、音楽的な成熟度もぐっと増した satohyoh 待望の2ndアルバムが完成!

《好きと感じること、正しいと感じること。角度が変われば「正しさ」は変わる。誰かに教えたり、誰かを支えるとき、「正しさ」に迷う。「好きと感じること」を教える、「好きという気持ち」で支える。自ずと「正しさ」に繋がる。》として名付けられた『feel like, feel right』では、ピアノ、ギターやアコースティック楽器の音を中心に、味わい深いサンプルや豊かな景色の音を混ぜ合わせることで、田舎の景色や情緒溢れる日本の原風景に寄り添ったかのようなオリジナリティー溢れるサウンドが展開されている。

叙情的なピアノが導くM1 “same old tomorrow's glow” M15 “the hot-air balloon floating in the chilly sky”、リラックスさが心地良いM3 “toro” M8 “ongoing”、音楽制作仲間である kota okuyama がギターとコーラスで参加したM6 “bange”、ジャジーなアプローチが気持ち良いM7 “alphabetagammadelta”、鍵盤と弦により奏でられるどこまでも美しいM9 “rufous scene” とハーモニカがノスタルジーを広げるM12 “break in the parking” をはじめ聴き所が詰まったアルバムだが特筆すべきは 1st 同様に参加している橋本愛里のボーカル曲であろう。

2010年にデビュー~HMVのキャンペーン「NEXT ROCK ON」で最優秀ルーキーに選出~ガールズバンド「スパンクル」のボーカルであった、わらべ歌と考古学を学んだボーカリスト橋本愛里が歌うM2/4/10/14の4曲では、彼女の透明感ある声を生かした satohyoh のソングライターとしての才能を感じる事が出来、本作の魅力をより一層高みへと導いている。

◆プロフィール satohyoh

秋田出身、在住、ピアノやアコースティック楽器などを中心に風景に根ざしたサウンドを奏でるアーティスト。
2010年、ロックバンド「サキノハカ」とスプリットシングルを制作。
同年、「ukishizumi」名義で OMAGATOKI 制作のジョン・レノン・トリビュートアルバム『#9 DREAM』に参加。
2011年、インディーズレーベル〈clear〉の東日本大震災チャリティー配信アルバム『one for all, all for one』に参加。
2013年、インディーズレーベル〈T RUST OVER 30 recordigs〉の『Free Compilation Vol.1』に参加。
その後故郷秋田へ戻り、satohyoh 名義にて風景の音にアコースティックな楽器を添えた「音メモ」シリーズを公開、soundcloud を通じて海外でもファンを獲得する。
2015年、エフエム秋田30周年コンピレーションに参加。
2017年1月、初の iTunes 配信限定版「inacagraphy2」を発表、まったくの無名、ノープロモーションながら、iTunes インストゥルメンタル部門で最高位4位となる。
2017年4月、初の全国流通版となるデビュー・アルバム『inacagraphy+』を〈PROGRESSIVE FOrM〉よりリリースする。
2017年、秋田県潟上市で開催されたアート展「オジフェス2017 つきぬける」に楽曲提供。
ウェブマガジン「なんも大学」の映像企画「Discover Akita」(石孫本店、永楽食堂、五城目朝市、鳥海山日立舞、じゅんさい)に楽曲提供。
2018年、秋田県鹿角市、社会福祉法人 愛生会の事業紹介映像、並びに制作ラジオ番組に楽曲提供。
秋田県仙北市で開催されたグループ展「ひらふくひらく」内、高橋希・写真展に楽曲提供。
そして2020年3月、約3年振りとなる 2nd フルアルバム『feel like, feel right』をリリースする。

角銅真実 - ele-king

 遡ることおよそ三年前の2017年4月15日に、水道橋のCDショップ兼イベント・スペース「Ftarri」にて、英国のサウンド・アーティスト/即興演奏家デイヴィッド・トゥープの来日公演が開催された。トゥープ含め全三組のアーティストがライヴを繰り広げた同イベントで、一セットめに出演した角銅真実のソロ・パフォーマンスがいまだに忘れられない。スピーカーから音を出力することのないキーボードを叩きながらハミングを披露し、カタカタという乾いた打鍵の響きとなんらかの楽曲らしき歌のようなものが聴こえてくる。しばらくすると会場にばらまかれた無線ラジオにつながれたイヤホンから微かに伴奏が漏れ聴こえ、その後ピアノで演奏することで楽曲のサウンドの全体像が明らかになる。さらに、ポータブル・カセット・プレーヤーから同じ楽曲の録音が再生され、キーボードを介した音のない行為と録音された音だけのサウンド、さらに眼前でピアノを介して歌われる音楽という、少なくとも三種類の楽曲のありようが観ること/聴くことの経験のうちに相互に記憶のなかで関係し合い、パフォーマンスにおいてわたしたちがなにを音楽として受け取っているのかということについてあらためて考えさせられる機会となった。そしてこのようなある種コンセプチュアルな試みでありながら、概念が先行する硬直性とは無縁の、行為そのものの楽しさと悦びにあふれていたことがなによりも印象に残っている。

 cero のサポートやドラマー石若駿による Songbook Trio をはじめ、網守将平率いる「バクテリアコレクティヴ」のメンバーとして、あるいは台湾のアーティスト王虹凱(ワン・ホンカイ)による共同制作プロセスを作品化した「サザン・クレアオーディエンス」のリアライズや、坪口昌恭ら気鋭のジャズ・ミュージシャンとともにアンソニー・ブラクストンの楽曲を演奏するプロジェクト、さらにはアジアン・ミーティング・フェスティバル2019への参加まで、打楽器奏者/シンガーソングライターの角銅真実の活動は驚くほど多岐にわたっている。むろん彼女自身のソロ・パフォーマンスやインスタレーション作品、あるいはアンサンブル・ユニット「タコマンションオーケストラ」も見落とすことはできないものの、単にジャンル横断的というよりも、どんな領域でも違和感なく共存できてしまう柔軟性が彼女にはあるように感じられる。サウンド・アーティストの大城真によるレーベル〈Basic Function〉から2017年にファースト・アルバム『時間の上に夢が飛んでいる』を、翌2018年には〈Apollo Sounds〉からセカンド・アルバム『Ya Chaika』をリリースしてきた彼女が、このたびメジャー・デビュー作としてサード・アルバム『oar』を発表することとなった。

 ヴォイスを楽器の一部であるかのように音響素材の一つとして駆使したファーストから、実験的/即興的な感触を残しつつ歌の比重が増したセカンドを経て、サード・アルバムでは歌が全面的に披露されている。大幅なアレンジが施されているものの、浅川マキの “わたしの金曜日” やフィッシュマンズの “いかれたBaby” のカヴァーも収録されており、彼女のこれまでの作品のなかでもっとも「音楽」に近づいたアルバムだと言っていいだろう。洗練された都会的なコード進行や憂いを帯びながらも力強い歌声、あるいは流麗なストリングス・アレンジなどは、ポップ・ソングと呼んでもよい完成度を誇っているものの、そうしたなかでたとえば1曲め “December 13” の冒頭から聴こえてくるイルカの鳴き声と電子音響が混じり合った大和田俊によるサウンド、あるいは雨だれのように物音が乱れ飛ぶ7曲め “Slice of Time” など、節々に音楽というよりも音そのものに対する興味がうかがえるところが、単なるポップ・シンガーというくくりには収めることのできない彼女の広範なバックグラウンドを示しているようにも思う。

 角銅真実が出演するライヴに行くたびに、客層がガラリと変わることにいつも奇妙な違和感を覚えてきた。ノン・ジャンルを標榜するミュージシャンは無数に存在しており、いまの時代にジャンルを越境/横断することそれ自体に特別な価値があるとも思えない。だがたとえば、リスナーがある音楽をポップス/ジャズ/サウンド・アート/エクスペリメンタル/即興……等々に区分することで自らの耳を閉ざしているのに対して、作り手はそうした分断をよそに交流と制作を繰り返していく。もちろんリスナーはどんな音楽に対しても等しく共感する必要はない。しかし同時に、どんな音楽でもこの世界に存在することは認められなければならない。『oar』のオフィシャル・インタヴューで角銅が「本当の真実ってないし、本当に分かち合えることってない。でも、分かり合えない人たちが一緒にいる状況はおもしろい」と語っていたように、異なる人々が異なるままに共感とは別のあり方で共存すること。それはおそらく、彼女の活動を追い続けることで、実体験として感得できる「おもしろさ」であるとともに、音楽のみならず社会の蛸壺化が進行するなかで、他者とともに同時代を生きる術でもあるのではないだろうか。

Squarepusher 9 Essential Albums - ele-king

 もう25年ものキャリアがあって、メイン名義の〈Squarepusher〉のスタジオ作だけでも15枚というアルバムをリリースしているトム・ジェンキンソン。初来日した頃はまだ22歳とかだったので、よくぞここまでいろんな挑戦をしながら自分をアップデートし続けてきたものだと感心する。段々と自分ならではの表現を確立していったミュージシャンならともかく、彼の場合は特に最初のインパクトがものすごかったわけで、正直こんなに長い間最前線で活躍しつづけるとは、当時は予測できなかった。改めて古いものから彼の作品を並べ、順番に聴いてみると、想像以上にあっちゃこっちゃ行きまくって、それでも芯はぶれない彼のアーティストとしての強靱さ、発想のコアみたいなものが見えてくるようだ。
 ここでは、今年1月にリリースされた最新アルバム『Be Up A Hello』に到るまでの重要作9枚を振り返りつつ、スクエアプッシャーという稀代のアーティストのユニークさをいま一度噛みしめてみたい。


Feed Me Weird Things
Rephlex (1996)

 いまでも、〈Warp〉からの「Port Rhombus EP」がどかんと東京の街に紫の爆弾を落とした日のことはよく覚えている。CISCO とか WAVE の棚は全部それに占拠され、“Problem Child” の殺人的にファンキーな高速ブレークビーツと、うねりまくるフレットレス・ベースの奏でる自由奔放なベース・ラインがあまりに新鮮でずっと繰り返し店でも流されていた。そして、実は〈Rephlex〉からコイツのアルバムが出てるぞっていうことで皆がこのデビュー作に飛びついたのだった。当時はそんなに意識しなかったが、本作は〈Rephlex〉にしては随分とアダルトな雰囲気がある。冒頭の “Squarepusher Theme” にしても方法論としてはその後一気に知れ渡る彼の十八番ではあるものの、ギターのカッティングから始まり、ジャジーでどちらかというと生っぽくレイドバックした響きをもったこの曲は、既にトム・ジェンキンソンの幅広い趣味を示唆している。次に非常にメランコリックで、時折打ち鳴らされるブレークビーツ以外はチルウェイヴかというような “Tundra”、さらにレゲエ/ダブに倍速のブレークビーツを合体させたレイヴ・スタイルをジャズ的なリズム解釈で徹底的にこじらせたような “The Swifty” が続くという冒頭の展開がダントツにおもしろいが、内省的で墓場から響いてくるような “Goodnight Jade” “UFO's Over Leytonstone” といった後半の曲も魅力的。


Hard Normal Daddy
Warp (1997)

 そして〈Warp〉から満を持してリリースされたのが、この2作目。ダークな装いだった前作に比べると随分とメロディックになって、明るく飄々とした印象で、トム・ジェンキンソン自身のキャラクターがよりサウンドに解放されたのかなとも思う。勝手な印象論だけど、こういうジョーク混じりみたいなノリは〈Rephlex〉が得意で、むしろデビュー作のような叙情性と実験性をうまい具合に配合したようなのは〈Warp〉かなというイメージがあって、当時はちょっと意外に感じた。ただ、カマシ・ワシントンがこれだけ持て囃されるような現代ならともかく、90年代後半にファーストの路線をさらに深化させていくのは得策じゃなかったろう。で、これを出した直後くらいに来日も果たし、ステージでひとりベース弾きまくる、作品よりさらにはっちゃけた印象のトムは、より大きな人気を獲得していくのであった。


Big Loada
Warp (1997)

 レイヴにもよく遊びに行っていたし、〈Warp〉に所属することになったきっかけは(初期) LFO だというトムの享楽的側面やシンプルなダンス・ミュージックの悦びが溢れた初期の重要なミニ・アルバム。クリス・カニンガムが監督した近未来ホラー的なMVが有名なリード・トラック “Come On My Selector” が、チョップと変調を施しまくったサイバー・ジャングルちっくでいま聴いても奔放なかっこよさを誇るのはもちろん、ペリー&キングスレイ的なお花畑エレクトリカル・アンサンブル+ドリルン・ベースな “A Journey to Reedham” も素晴らしい。余談だが、トレント・レズナーの〈Nothing〉からリリースされたアメリカ盤では、「Port Rhombus EP」や「Vic Acid」から選ばれた曲も追加収録されているので、かなりお得な入門盤だった。


Music Is Rotted One Note
Warp (1998)

 そして意表を突くように生演奏をベースにした、ほぼフリー・ジャズなアルバムをリリースしたスクエアプッシャー。どうも初期のトレードマーク的スタイルは『Big Loada』でやり尽くしてしまったから、まったく違うことに挑戦したくなったという経緯らしい。それにしても、全楽器を自分で演奏し、しかもあらかじめ曲を作らずドラムから順に即興演奏して録音していくなんて、アイデアを思いついても実際にやろうとするだろうか。まぁそれを実現できる演奏力や曲のイメージが勝手に湧くという自信があったんだろうけど。デビュー作でちらちらと見せていたアダルトでエクスペリメンタルな側面が一気に爆発したこのアルバム、近寄りがたいところもあり、一番好きな作品だというスクエアプッシャー・ファンはほぼいないだろうが、本作があったからこそ、その後の彼の活動もさらに広がりや説得力を持ちえたのだ。ちなみに、ジャケを飾る妙なオブジェはトム手作りのリヴァーヴ・マシンで、ジャケのデザインも自分で発案したそう。


Selection Sixteen
Warp (1999)

 トムには Ceephax Acid Crew として活躍する弟アンディーがいる(本作にもボーナス曲のリミキサーとして参加)。その弟からの影響、もしくは彼らがレイヴァーだった時代から強く持っているアシッドへの憧憬をさまざまなカタチでアウトプットした意欲的な盤。前作からの流れを引きずっているようなジャズ風味の強いトラックや、“Mind Rubbers” のようにドリルン・ベースが復活したような曲もあるが、全体的にはビキビキと鳴るアナログ・シンセのベース音が主役を張っている。これ以前にも酸味を出したトラックはときたま作っていたものの、ジャコ・パストリアスばりの超技巧ベース奏者という売り文句で世に出たアーティストが、わざわざそれをかき消すようなアシッド・ベースだらけの作品を作ってしまうとは……。テクノのBPMでめっちゃファンキーなブレークビーツ・アシッドを響かせる “Dedicated Loop” が、Da Damn Phreak Noize Phunk 名義の Hardfloor を彷彿させるドープさ。


Go Plastic
Warp (2001)

 全編生演奏だった『Music Is Rotted One Note』に “Don’t Go Plastic” という曲があって、日本語でも「プラスチッキー」と言うと安物、(金属に見せかけたような)粗悪品的なものを指すが、この場合は作り物(シンセ音楽)からの離脱を意図していたと思う。それがここに来て宗旨変え、「作り物がいいじゃん!」という宣言だ。時は2001年、エレクトロニカが大きな潮流となっていく少し前。スタジオの機材を一新したスクエアプッシャーは、コンピュータで細かくエディットしてトラックを弄っていくDAW的な手法ではなく、データを緻密にシーケンサーに打ち込むことでこのマッドな高速ブレークビーツを生み出した。ジャズ/フュージョンやエレクトロニック・ミュージックに惹かれたのは、サウンドに存在する暴力性だと語っていたトムが、その本性を露わにしたアルバムだ。全体を貫くダークで偏執的なまでのミュータントDnBは踊ることはもちろん、アタマで考えることや感じることも拒否するような局面があり、激しい電気ショックを浴びる感覚に近いかも。ただ、最初と最後にレゲエ~ダブを解体した比較的とっつきやすい曲をもってくる辺りに、トムの優しさも垣間見える。


Ultravisitor
Warp (2003)

 Joy Division の “Love Will Tear Us Apart” のカヴァーと、フジロックでのライヴ(海賊盤かというくらい音が悪いのが残念)を収録したボーナス・ディスクが話題になった『Do You Know Squarepusher』を経て、03年にリリースされた傑作との呼び声高い心機一転作。極端に言うと、これまでのスクエアプッシャーが試みてきた様々な要素/手法をすべて注ぎ込んだような混沌としたアルバム。どういうわけか、歓声やMCまで入ったライヴ録音の曲も結構多い。アルバム後半を支配する激しくノイジーなエクスペリメンタル・ブレイクコアと対照的なインタールード的な小曲は、ほぼすべてアコースティックな楽器の演奏でまとめられていて、それもトム得意のフリー・ジャズ的なものではなく、むしろクラシックやクラウトロック等を感じさせる(特にラストの2曲が美しい)。さらに本作の間違いないハイライトである、ゆったりとしたテンポと生ドラムの生み出す心地よいグルーヴに被さる、メランコリックな重層的メロディーが印象的な “Iambic 9 Poetry”。これを中心とした冒頭5曲の完璧な構成と展開は、スクエアプッシャーの才がついに二度目の大輪を咲かせたと感じられた。


Ufabulum
Warp (2012)

 手練れのミュージシャンを従えたセルフ・カヴァーをするバンド、Shobaleader One としての活動を挟みつつ、スクエアプッシャーが新たな次元に突入したことを知らせてくれたアルバム。CDではなく YouTube で音楽を聴き、盤を買うよりライヴやフェスに繰り出す、という近年のリスナーの傾向を写したように全曲にトム自身が作成したLEDの明滅による演出が施された映像が存在する。Shobaleader One ではフランスの〈Ed Banger〉から(Mr. Oizo のリミックス入りで!)リリースするなど抜け目のないところを見せ、今作ではその影響もあってか、エレクトロ・ハウスやEDMに通じるような迫力満点の(だが、彼の前衛性やエクスペリメンタルな面を好むファンからしたら大仰な展開や音色はコマーシャルに感じられてがっかりと受け取られるかもしれない)トラック群を仕上げている。混沌度を増すアルバム後半、電子回路が暴走したように予想のつかない展開でリスナーに襲いかかる “Drax 2” や、ヴェイパーウェイヴ的な美学も感じるラストの “Ecstatic Shock” が白眉。


Be Up A Hello
Warp (2020)

 そして、5年ぶりにリリースされた、スクエアプッシャーの原点回帰とも言える最新アルバム。『Ufabulum』や続く『Damogen Furies』では自作のソフトウェアやテクノロジーを駆使して、いわゆるヴィジュアル・アートや最新の IoT にまで斬り込んでいくのではないかという意欲的な姿勢を見せていたトム・ジェンキンソンが、旧友の突然の死去をきっかけに、デビュー前に使っていたような古いアナログ機材や、コモドールの古い 8bit コンピュータまで動員してメモリアル的に作り上げた。近しいひとの死がテーマになっているアルバムだから当然かもしれないが、かつてのはっちゃけまくったスクエアプッシャーを想起させる音色や曲の構成は随所に感じられるものの、どこか悲しげで暗いトーンに覆われている。そして、常に以前の自分に一度ダメ出しして新たなことに挑戦してきた彼が、敢えて彼の音楽性や名声を確立するに到った初期の手法に立ち返ったのには、やはり大きな意義を感じる。特にUKでここ数年盛り上がっているレイヴやハードコア(初期ジャングル)を復興させようという試みは、おもしろいけれど懐古を完全に超越した新しいムーヴメントを生み出しているかというとそうでもなくて、では90年代初頭にそういう現場の雰囲気やサウンドに囲まれて、そこで多くを吸収してプロになったトムのようなひとが改めて当時と同じ道具を手にしたとき、何を表現するのかというのはとても示唆的だと思うからだ。

 4月に行われることになったこちらも5年ぶりの単独ライヴは、『Be Up A Hello』の内容を考えると、ここしばらく注力してきたような、大型スクリーンと派手に明滅する映像をメインの要素に据えた未来的なプレゼンテーションとは違ったものになるのだろうか。ロンドンで行われたアルバムの発売記念ギグを映像で確認すると、機材の音が剥き出しでそれこそドラムマシンやシーケンサーが奏でるループがどこまでも続けばそれだけで幸せなんだ、というかつてDJ以外の演者が “ライヴPA” などと呼ばれた時代にあった雰囲気を感じるシンプルなものだった。もうほとんどレコードでDJをすることはないし、その感覚を思い出すのに少し時間がかかったとすら言っていたジェフ・ミルズの本当に久々のアナログと909でのセットを昨年11月に聴きにいった。ただの懐古に陥らないための演出や伝説の確認ではなくフレッシュな体験としてそれを受け止める若い聴衆とアーティストのインタラクトがおもしろく、今回も新たな発見がありそうだと期待している。
 かつて一世を風靡した “Come On My Selector” のMVは、日本を舞台にしてる風の配役や設定だったが、その実 “Superdry 極度乾燥しなさい” 的な細かな違和感がありまくりだった。最新のビデオ “Terminal Slam” ではやはり渋谷を中心にした東京の街を舞台にし、「また日本贔屓の海外のアーティストに東京を超COOLに描かれてしまった!」というのが大半の日本人の最初の反応で、実は監督したのが真鍋大度だったので、なるほど、さすが〈Warp〉とスクエアプッシャー、よくわかってる!と思ったものだ。今回の来日ステージでも、もしかしたら日本ならではのなにかを反映した演出を用意してくれるかもね。

5年ぶりとなる超待望の単独来日公演が大決定!!

2020年4月1日(水) 名古屋 CLUB QUATTRO
2020年4月2日(木) 梅田 CLUB QUATTRO
2020年4月3日(金) 新木場 STUDIO COAST

TICKETS : ADV. ¥7,000+1D
OPEN 18:00 / START 19:00
※未就学児童入場不可

MORE INFO: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10760

チケット情報
2月1日(土)より一般発売開始!

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