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小川充   Feb 17,2020 UP

 何となくチック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーを連想させてしまう語呂のアンサー・トゥ・リメンバー。リリース元のレコード会社は「今までに聴いたことがない新しいエクスペリメンタル・ミュージック・プロジェクト」と紹介しているが、これは日本の若手ジャズ・ドラマーの中でもっとも才能溢れるひとりと言われる石若駿によるニュー・プロジェクトである。

 石若駿は日野皓正などに見いだされて本格的なジャズ・ドラマーの道を志し、バークリー音楽院に学んで東京芸大の打楽器専攻科を首席で卒業するなど、音楽家としてのエリート・コースを進んできたと言える。プロ・デビュー後は日野皓正、大西順子、TOKU やジェイソン・モランなど国内外のトップ・ミュージシャンと共演してきたが、その中でもテイラー・マクファーリンやカート・ローゼンウィンケルとの共演がいろいろと話題を呼んだ。彼らとの共演を通して日本から登場した世界基準の新世代ジャズ・ドラマーと脚光を集め、また純粋なジャズの枠にとどまらない幅広い音楽の可能性も示唆することになる。自身の活動ではリーダー作の『クリーンアップ』(2015年)や石若駿トリオ名義で作品をリリースするほか、芸大時代の同級生だった常田大希らとジャズ、オルタナ・ロックなどのミクチャー・バンドの King Gnu (キング・ヌー)の前身である Srv.Vinci (サーヴァ・ヴィンチ)を結成し、小西遼や小田朋美らとのポップ・ユニットの CRCK/LCKS (クラック・ラックス)でも演奏する。WONK、MELRAW(安藤康平)、桑原あいなど同世代の若いジャズ・バンドやミュージシャンとのセッションも活発で、くるり、ものんくる、森山直太朗の作品にも参加するなどジャズ界にとどまらない活躍を見せる。『ソングブック』というシリーズ・プロジェクトは、「うた」をテーマに石若駿がさまざまなアーティストたちとコラボレーションを行ったセルフ・プロデュース作品集である。

 2019年もクリーンアップ・カルテットを組んで久しぶりのリーダー・アルバム『CLNUP 4』をリリースしたほか、『ソングブック』の第4集や CRCK/LCKS でのリリースがあり、くるりのツアー・ドラマーにも抜擢され、マーク・ド・クライヴ・ローによるローニン・アーケストラや SOIL & “PIMP” SESSIONS、日野皓正らの新作への参加、〈ブルーノート〉の企画アルバムやサントラへの参加と多方面での活動が続いていたが、そんな多忙な中でアンサー・トゥ・リメンバーをスタートさせた。レコーディングは ATR バンドという石若駿をリーダーとするハウス・バンドが中心となり、ニューヨークで活躍するジャズ・トランペッターの黒田卓也、米津玄師から mabanua らも注目する話題のシンガー・ソングライター/ピアニストの中村佳穂と彼女のバンド、フラッシュバックスのメンバーとしても活動してきたラッパー/トラックメイカーのキッド・フレシノのほか、ermhoi (エルムホイ)、Karai、Jua などのシンガーやラッパーが参加している。

 先行シングルとなった “トーキョー” は ermhoi のフェアリーな歌声がフィーチャーされたプログレとジャズの融合的なナンバーで、まさに新時代のリターン・トゥ・フォーエヴァーとでも言いたくなる趣もあり、現在ならばサンダーキャットやスクエアプッシャーあたりの作品にも比類するのだが、中でも立体的で息をつかせないほどに叩きまくる石若駿のドラムが素晴らしい。『ソングブック』ではシンガーの歌声を生かすため、プロデューサー的な立場からシンプルなドラムにしている面も見られるが、ここではとにかく極限まで振り切れたような演奏で、ドラマーとしての可能性を追求している様子が伺える。“スティル・ソー・ワット” はローニン・アーケストラでの演奏に通じるジャズ・ファンク系のインスト曲で、ピアノやホーン・アンサンブルはじめ ATR バンドによる緊密なインタープレイを聴かせる。アグレッシヴなドラムがまわりの楽器を引っ張り、躍動感と高揚感に満ちた演奏を繰り広げるナンバーだ。そうしたダイナミックなジャズ・ロック演奏とキッド・フレシノのクールなラップが結びついたのが “ラン”。ハードバップ調の演奏に Jun のラップを乗せた “410” と共に、日本語ラップとジャズがここまで見事に一体化したナンバーもそうはないだろう。もともとインストのトラックに後からキッド・フレシノがラップを乗せたそうだが、石若駿の手数の多いドラム音とまるで呼吸をするかのようにラップがシンクロしている。中村佳穂バンドと共演した “ライフ・フォー・キッス” は、冒頭にある「今までに聴いたことがない新しいエクスペリメンタル・ミュージック・プロジェクト」を示すような楽曲。ジャズともオルタナ・ロックともインディ・ポップとも何とも形容ができない構成で、どこに向かうのかわからない面白さのある曲だ。比較的オーソドックなジャズ演奏の “GNR” がある一方、こうした実験性に富む “ライフ・フォー・キッス” は石若駿のジャズだけにとどまらないスケールの大きさを再認識させてくれる。

小川充