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Home >  Interviews > interview with Squarepushaer(Tom Jenkinson) - ある意味悪夢、強力な幻覚剤

interview with Squarepushaer(Tom Jenkinson)

interview with Squarepushaer(Tom Jenkinson)

ある意味悪夢、強力な幻覚剤

──スクエアプッシャー、ロング・インタヴュー

野田 努    通訳:坂本麻里子   Apr 18,2015 UP

 90年代、エイフェックス・ツインが発見した才能としてまず挙がるのは、マイケル・パラディナスとトム・ジェンキンソンのふたりだが、こと後者に関して格別なインパクトがあったことは、1996年のスクエアプッシャーのデビュー・アルバムの裏ジャケに掲載されたノートを読めばわかる。リチャード・D・ジェイムスは、トム・ジェンキンソンとの最初の出会いについて次のように記している。「次に僕が感じたのは、僕の両耳の骨を同時に打ち、そして10本の大麻煙草をまき散らしながら空気を圧縮し、光速において隣の部屋から伝わるモノフォニック音波のごときファジーなヴァイブだった」
 なんのことだかさっぱりだが、とにかく衝撃だったのだ。


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 トム・ジェンキンソンの、スクエアプッシャー名義としては14枚目のアルバム(編集盤を入れると15枚、カオスAD名義を加えると16枚目の)『ダモジェン・フューリーズ』が4月21日にリリースされる。全曲が、彼自身が開発したソフトウェアによって録音されたアルバムである。
 それがどんな作品になっているのかは、以下のインタヴューをお読みになって、想像していただきたい。ひとつの質問に対して彼の言葉がどれほどまき散らされ、両耳の骨をヒットするのか……発話量だけの問題ではない。速度感が重要だ。それは彼の新作の『ダモジェン・フューリーズ』へと展開される。
 すべての曲は1発録音、すべての曲は彼のオリジナルのソフトウェアによって生まれている。
 これまでトム・ジェンキンソンは、ドリルン・ベース、エレクトロニック・ジャズ、アシッド・ハウスへのオマージュ、架空のロック・バンド……フリーキーに、エキセントリックに、作品毎にいろいろなアプローチを見せている。すべて違ったコンセプトで、これだけたくさんの作品をリリースしていること自体が非凡なことだろう。そのなかにおいても、『ダモジェン・フューリーズ』は異彩を放っている。ある意味悪夢のIDM、強力な幻覚剤としてのブレイクコア……。

僕はこれまでに山ほどレコードを作ってきたわけで──。だからある意味、「どうしてもレコードを作りたい!」って風にまで、必死な気分にはならないんだよな。わざわざレコードを作るに値するとしたら、それは自分自身でも「これはオリジナルなものだな」と納得できる、そういうものを出す時だけだろうって感じているんだ。

この10年、今回のアルバムで使用したソフトウェア・システムを洗練させててきたといいますが、どのようなソフトウェア・システムなんですか?

TJ:オーケイ。まず、複数の異なる要素が集まって成り立っているんだよね。だから、大まかに言えば合成に関わる領域があり、サンプル・プレイバックに関わる領域、そしてソニック・プロセッシングを司る領域がある、と。だから……システムの大きなところはその3つの要素から成り立つと考えてもらっていいし、かつ、その3つの領域はそれぞれまたさらに小さないくつものパーツに伸びてもいる。だから、たとえば合成(シンセーシス)の領域には……まあ、僕は『インストゥルメンツ』と呼んでいるんだけど、基本的には、合成のプロセスを通じて得られるある種のサウンド面での可能性へと僕をアクセスさせてくれる、そういうソフトウェア群があそこには存在している、と。でまあ、そのうちのいくつかは僕からすればかなり独創的と思えるものだけど、またその一方で、伝統的な合成メソッドに即したソフトウェアもあってね。
 というわけで……シンセサイザーを知っている多くの人にとってはごくおなじみでよく使うような、そういった特徴機能も備わっているんだよ。たとえばフィルターだったり、オシレーター・バンクス、エンヴェロップといったものだね。
 とは言っても、僕からすればこのシステムが他とは違う、そう思える大きな点のひとつというのは、システムの制御面においてどれだけ自分に自由が利くかっていうことでね。だからたとえばの話、自分がとある作品に取り組んでいたとして、そこで合成プロセスの可能性の持つ一角だけに、小さな特定のエリアだけに縛られずに済むっていう。僕が何らかのコンポジションをやる時に求めるのは、その楽曲が展開していくのに伴い、自分に可能な限りの柔軟性を持たせるってことだから。でまあ、最初に君に言われたようにたしかに非常に複雑な話であって──。

通訳:(笑)。

TJ:──(笑)。っていうか、インタヴューの一環としてではなく、むしろ一冊の本の主要テーマとして語られてもおかしくないようなネタなんだよ。だからほんと、この場で君に話せるのは、ちょっとしたスナップ写真程度のシステムの概要ってことに過ぎないんだけども。

(中略:紙ele-king vol.16を参照ください)

すべてが一発で録音されたものというのが、興味深く感じられますが。

TJ:まあ……だから、このシステムに関する発想の一部は、これを……ライヴ・パフォーマンスで使えるものにしたいっていう。そう、重要なポイントというのは、このシステムを使うことで僕がコンサートにおいてエレクトロニック・ミュージックを生で演奏できるような、そういうシステムを組むことだったわけだ。というのも、これまで長いこと僕がライヴの場で体験してきたよくある状況ってのは、ソフトウェアに機材の数々、でっかいミキシング卓、それにギター他の楽器群といった諸要素が混ざり合ったものだったし──しかも僕は実質それらを自分ですべて操り、演奏するわけだから、ステージにそれらを持ち込むのが基本的に不可能になってきたっていう。

通訳:ははは!

TJ:いやまあ、やろうと思えば決して「不可能」な話ではないよね? ただ、それをやるのはコスト面で無理というか、それだけの数の機材/楽器をツアーの状況で連日運搬して、しかもちゃんといい音をライヴで出そうとしたら、お金が続かない、無理だよっていう。

通訳:たしかに。

TJ:だから、そこでよく生じるケースというのは……僕個人としては避けたいことなんだけど、やっぱりライヴ・ショウのそこここで妥協せざるを得なかったってことで。だけど、このソフトウェア・システムの重要な点……他にもいくつもあるけど、そのポイントのうちのひとつというのは、僕に可能にしてくれる──僕がスタジオでやっていることをライヴの場にも持ち来らせることができる、そうやってスタジオで使っているのとまったく同じシステムでライヴをやれる、そういうシステムを生み出すっていうことで。
 だから、自分が妥協する必要もないし、何も変えなくたっていい、『ライヴだから』ということでプロセスを単純化する必要もない。スタジオでやるのとまったく同じことをライヴに持って来れる、という。
 でまあ……それらの面を容易にしてくれるのが、システムをコンピュータの内部に構築することだっていう。もちろんとても、とても複雑なシロモノではあるけれど、結局はコンピュータというひとつの「箱」に収まっているわけだよね。だから、オーケイ、自分はこの他にもいくつか機材や楽器をステージに持ち込むけど、でもその中心になる、コアとなるのはコンピュータの内部で走っているシステムなんだ、という。

通訳:スタジオであなたが実際耳にしている、そのサウンドを希釈することなく、可能な限り近い形でライヴの観客にも届けたい、と。

TJ:そうそう、その通り! だから、何も変えなくていい、妥協しなくてもいい。スタジオで僕のやっていることがそのままダイレクトにステージに移し替えられる、と。で、僕はそれってとてもエキサイティングなことだと思うんだよ。それをやりたいと思ってはきたけど、自分のキャリアの初期からずっと、なかなか難しくて実現できなかったことでね。
 というのも、さっきも話したけど、自分のやっていることをライヴで再現するのには大量の機材・楽器の集合体が必要になってくるわけで……いや、だから、そうやって演るのだって全然オッケーなんだよ。それはそれで素晴らしいことだ! と思うし、そういう山ほどの機材を使ってプレイするのは、スタジオにおいては僕としてもいつだって問題なし、まったく気にならなかった。
 ただ、それをライヴのステージに持って行く際には、常にもうひとつの考え方が入り込んでくるっていうのかな、だから、このセッティングが果たして生のステージで機能するだろうか? と。要するに、あれだけの数の機材や楽器類をライヴのたびにあちこち移動させるってのは、単純な話、ほんと、金がかかり過ぎて無理だよっていう。
 そう、というわけで──うん、このシステムは、たとえばいったんボタンを押したら作業がスタートして、一切のサポートなしにある作品を最初から最後まで奏でることができる、そういうものである必然があった。編集もなし、バックアップの音源だの録音済み音源に頼ることもない。助けはゼロ。そうやって何もかもをライヴで、リアル・タイムでプレイするのが可能な、そういうものにしなくちゃいけなかった。そうやって、ライヴの場面で機能するものを求めていたわけだよね。だからこそ、この作品を作る際に僕がスタジオでやったのもそれと同じことだったっていう。要するに、各パートをひとつひとつ分けてレコーディングしていく、各楽器を別個のトラックに録音していった上でまとめる、みたいなやり方ではなかったし、だから最終的なエディット作業だったりポスト・プロダクションもなしの、シンプルなライヴ・テイクだったという。だからこのアルバムは、ほんと、基本的には……僕がライヴ・ギグでやるようなことをそのままスタジオで録音したもの、そういうのに近いんだよ。

通訳:なるほど。

TJ:だから……ああ、ほんと、だからなんだよ、この作品が生まれることになったきっかけというのは。っていうのも、僕は……僕がこの作品を始めた時──これはマジな話だけど、そもそもアルバムを作ろうなんて考えてもいなかったんだよ。最初にあったのはライヴをやるってアイデアだったしね、ってのも、そっちの方がもっとエキサイティングな考えだと自分には思えたし。というわけで、僕は「よし、このソフトウェアを使ってギグをやれるじゃないか」って考え始めたわけど、それを他の連中に聴かせてみたところ、「お前、これはレコーディングすべきだよ」って言われてね。録音しろ、レコーディングに記録しろ、と。

通訳:(笑)。

TJ:いや、っていうか……僕はこれまでに山ほどレコードを作ってきたわけで──。

通訳:ですよね。

TJ:──だからある意味、「どうしてもレコードを作りたい!」って風にまで、必死な気分にはならないんだよな。わかるでしょ? だから、僕は「なんとしてもレコードを作らなければ」みたいに思わないし……わざわざレコードを作るに値するとしたら、それは自分自身でも「これはオリジナルなものだな」と納得できる、そういうものを出す時だけだろうって感じているんだ。そうじゃなければ、別に自分はレコードを出さなくたっていいんだし。

質問:野田努(2015年4月18日)

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