「S」と一致するもの

interview with Kode9 - ele-king

以前はロンドンがベース・ミュージックのセンターだったけど、いまは違っていて、いろいろなところからそれが出てきている。ロンドンはあくまでネットワークのひとつという存在になってきているかな。

 最新型の尖ったエレクトロニック・ミュージック、とりわけダンス~ベース寄りのそれを知りたいとき、UKには今日でもチェックすべきインディペンデント・レーベルが無数にある。そのなかでも長きにわたって活動をつづけ、日本における知名度も高いレーベルに〈Hyperdub〉がある。90年代末、当初オンライン・マガジンとしてはじまった〈Hyperdub〉がレーベルとして動き出したのは2004年。今年でちょうど20周年を迎える。
 主宰者コード9自身のレコードを発表すべく始動した同レーベルは、すぐさまベリアルというレイヴ・カルチャー=すでに終わってしまったものの幽霊とも呼ぶべき音楽を送り出すことになるわけだけれど、ほかにもアイコニカゾンビーダークスターといったおおむね「ダブステップ/ポスト・ダブステップ」なるタームでくくりうる音楽──あるいは90年代から活躍していたケヴィン・マーティンによるさまざまなプロジェクト──のリリースをとおして、10年代頭ころまでにひとつのレーベル・カラーを築きあげていた。
 大きな転機となったのはシカゴのフットワーク・プロデューサー、DJラシャドのアルバム『Double Cup』(2013)だったという。ただ他方ではそれと前後し、直截的にダンス・ミュージックというわけではないディーン・ブラント&インガ・コープランドローレル・ヘイローのような実験的なエレクトロニック・ミュージックの名作を送り出したりもしている。注目すべきアーティストの列が途絶えたことはなく、ジェシー・ランザファティマ・アル・カディリリー・ギャンブルクライン、日本との関連でいえばチップチューンのクオルタ330、独自視点で編まれたゲーム音楽のコンピ、近年の食品まつりなども忘れがたい。なかでもここ数年のレーベルの勢いをもっともよく体現しているのはロレイン・ジェイムズに、そしてアヤだろう。それら一級のカタログはもちろん、アンダーグラウンドな音楽にたいするコード9の鋭い嗅覚によって裏打ちされてきたものだ(かつて南アフリカのゴムを世界じゅうに広めたのも彼である)。
 そんな感じでスタイルの幅を広げていった〈Hyperdub〉の姿勢にはしかし、どこか一本太い芯が通っているようにも感じられる。やはりレーベルの根底にダンス・ミュージックが横たわっているからなのだろう、どれほどエクスペリメンタルな作品をリリースしようとも〈Hyperdub〉のディスコグラフィがハイブロウに振り切れることはない。尖りながら大衆に開かれてもいるその絶妙なバランスは、フットワークやジャングル、アフロ・ダンス・サウンドが入り乱れる先月の O-EAST でのコード9のプレイにもよくあらわれていたように思う。とりわけ印象に残っているのは高速化されたDJロランドの “Knights of the Jaguar” だ。いや、あれはほんとにかっこよかった。まるでゲットー・ハウスかフットワークのごとく生まれ変わったそれはヘスク(Hesk)なるDJによるエディットだという。すごいのはコード9なのかロランドなのかヘスクなのかわからない──ダンス・カルチャーにおける反スター主義の好例といえよう。
 さらにいえば、そうしたサウンド上の冒険だけに終始しているわけではないところもまた〈Hyperdub〉の魅力だ。以下でも語られているとおり、アヤのようなコンセプチュアルな要素を含む音楽のリリースを考える際には、友人である思想家、故マーク・フィッシャーもきっと気に入ったにちがいないと想像を働かせてみるそうだし、サブレーベルの〈Flatlines〉ではオーディオ・エッセイにとりくんでもいる。ダンス・ミュージックとともに、ものを考えること──まさにそれを追求してきたのが〈Hyperdub〉であり、だからこそ彼らはいまなお最重要レーベルのひとつでありつづけることができているのではないか。
 そんな〈Hyperdub〉のボスは現在、ダンス・ミュージックの状況をどのように見ているのだろう。

DJラシャド。あのレコードは人びとに大きな影響を与えたし、DJとしての自分を大きく変えてくれたものでもあった。以降10年間の、自分のDJの方向性を定めてくれたものだった。

日本はひさびさですよね。何年ぶりですか。

Kode9:2019年の12月以来。そのときは〈Hyperdub〉の15周年で、場所は渋谷WWW だったかな。あと(その翌週に)渋谷ストリームホールでやった《MUTEK》も。

この5年間でどんどん大きなビルが立ったり、渋谷の街並みはだいぶ変わりました。ひさしぶりに訪れてみてどんな印象を受けましたか?

Kode9:ビルは増えたよね。でも Contact のようなクラブはクローズしてしまったね。代官山 UNIT はどちらかといえばライヴ・ハウスのような感覚が強まった印象だし。東京のクラブ・シーンは少し変わってしまったのかな。

ロンドンも頻繁に再開発されているんでしょうか。

Kode9:ロンドンのクラブ・シーンは悪くないよ。パンデミック後に若いDJやアーティストがたくさん出てこられるようになって活発だ。すばらしいとまではいえないけれど、ロンドンのクラブ・シーンではつねになにかが起きているような感覚がある。ただ、自分も歳をとってきたから、仕事以外ではあまり出かけなくなってしまったんだけど(笑)。

あなたは最新のベース・ミュージックにすごく敏感な方だと思うのですが、いまのロンドンで新たな音楽のムーヴメントのようなものは起こっていますか?

Kode9:UKガラージやジャングルのリヴァイヴァルは起こっているね。あと、新しい流れでいうとアフロ・ハウスやアマピアノ、ゴムのようなアフリカのダンス・ミュージックから影響を受けたものが出てきているように思う。UKにとってそれが新しいものかどうかはわからないけれど、少なくとも10年前、15年前よりは色濃くなっていて、それは大きな違いかな。以前はロンドンがベース・ミュージックのセンターだったけど、いまは違っていて、いろいろなところからそれが出てきている。ロンドンはあくまでネットワークのひとつという存在になってきているかな。
 それとUKドリルが盛んになっている印象が強くて、それはシカゴ・ドリルのUKヴァージョンではあるんだけど、そういうUKスタイルの音楽が世界的に影響を与えているような気がする。ビートだったり、ベースラインだったり、ラップのスタイルだったり。ほかの都市のローカルな音楽にUKからの影響が見られるものが出てきたと思う。自分にとってもその影響は大きくて、ここ2、3年の動きは2000年代初頭のグライムやダブステップのMCを思い出させるね。自分がDJでかける音楽もいまあげたすべてのものから影響を受けているんだけど、とくにジューク/フットワークだったり、ジャングル、アマピアノとかを自分のまわりのDJグループもジャンルレスにミックスしていて、そうしたものの影響は大きいんじゃないかなと思う。

O-EASTでのDJセットを体験して、まさにいまおっしゃっていたようなサウンドが印象に残りました。スクリーンに映し出されたヴィジュアルも記憶に残っているのですが、視覚上のテーマもあったのでしょうか?

Kode9:じつは、来日するまでライヴ・プレイをやってほしいと思われていることを知らなかったんだよね(笑)。だからぜんぜんプランがなくて、どうやってオーディオ・ヴィジュアルのショウをやろうかギリギリまで考えたんだ。2日間くらいで。あの演出はヴィジュアル・アーティストの JACKSON kaki と自分との即興に近くて、彼がぼくのDJセットの世界観に合わせたゲーム・アヴァターのようなヴィジュアルをつくってくれたんだ。

序盤にDJロランドの “Knight of the Jaguar” のテンポを上げて、ゲットー・ハウスのようにかけていたのが強烈でした。

Kode9:あれはDJヘスク(Hesk)のフットワーク・エディットだね。テクノ・ファンなら絶対にわかるトラックだと思ったから、イントロをループで伸ばして盛り上げようかな、と。よく気づいたね(笑)。

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いまイギリスでは、音楽雑誌をあまり信用できなくなっていることが問題になっている。メディアの貧困化でジャーナリストたちも稼ぐことができないから、ライティングの質も低下しているんだ。

今年で〈Hyperdub〉は設立20周年を迎えます。当初はウェブ・マガジンとして発足して、のちにレーベルになっていったわけですが、2004年当時の意気込みと、現在の状況との違いについてお聞かせください。

Kode9:すごく変わったと思う。もともとの目的は自分の音楽をリリースすることだったんだけど、いまは時間がなくてできていないんだ。自分のリリースがないことがまず大きな違いだよね。レーベルをスタートしたあとは自分だけじゃなくベリアルザ・バグだったり、ダブステップやグライム、UKファンキーなどの作品をリリースするようになって、2009年ごろまではUKが主だったけど、日本のアーティストとも契約するようになってだんだん国際的になっていった。2011年ごろからはダンス・ミュージック以外のローレル・ヘイローだったり(近年の)ロレイン・ジェイムズだったり、ジェシー・ランザのようなポップスにIDM、エクスペリメンタルなアーティストのリリースも増えたし、2012年からはシカゴのフットワークも扱うようになって、ダンス・ミュージックだけでもなく、イギリスだけでもなく、どんどん拡がっていったのが大きな変化かな。

いちばん大きな転機となったリリースはなんでしたか? できればベリアル以外で。

Kode9:DJラシャド。あのレコードは人びとに大きな影響を与えたし、DJとしての自分を大きく変えてくれたものでもあった。以降10年間の、自分のDJの方向性を定めてくれたものだったし、そこからフットワークやジュークに影響を受けた音楽をプレイしはじめたから、あのリリースがいちばん大きかったかな。そう自分では思ってるよ。

最近のリリースだと、やはりロレイン・ジェイムズの存在がもっとも大きいのではないかと考えています。彼女の最大の魅力はどこにあると思いますか?

Kode9:彼女の音楽はすごくパーソナルで、親密なものだと思う。内向的なところがいいね。彼女の外向的ではない点はある意味ベリアルとも似ているけれど、やっぱり違っている。ベリアルは姿を見せないけど、彼女はシャイでありながら前に出ていて。そこに人を惹きつける魅力があるのかな。ぼくはシャイなアーティストが好きなんだ。内面を表現しながら成功している人たち。シャイっていうのは音楽の内容にかんして、っていう意味で、彼女は音楽業界のなかでも真摯に、名声なんか関係なく真剣に音楽をつくりつづけている。そこがすばらしいんだ。彼女はシャイでありながらSNSの使い方もうまくて、SNS上でファンとのつながりをもっている点もおもしろいね。みんなをパーソナルな世界に招いて立ち入らせてくれるところはファンも感謝していると思うし、そこですばらしいつながりが築きあげられているんじゃないかな。

去年出たアルバムでもうひとつ大きかったのはジェシー・ランザかなと思うのですが、彼女は〈Hyperdub〉のなかではポップな路線を担っているアーティストですよね。そこで、あなた個人のポップ・ミュージックの趣味が気になりました。どういうポップ・ミュージックが好きですか?

Kode9:ポップ・ミュージックからは学ぶことが多いんだ。すごく皮肉なことに、ポップスのほうがエクスペリメンタル・ミュージックよりもつくるのが難しいしね。だから、ぼくはKポップやアメリカのR&B、ヒップホップも聴くんだけど、自分にとってポップ・ミュージックは学校みたいなもので、聴くとほんとうに感銘を受けるし、楽しむためというより学ぶために聴いているね。ぼくは音楽教育をいっさい受けてないし楽器も弾けないから、ぜんぶ耳で聴いて楽しむんだけど、ああいったベーシックなハーモニーやキャッチーさを聴いただけで「ワオ!」と感心してしまう。自分にとってそれはすごく新しいものなんだ。

ele-kingは〈Hyperdub〉のアーティストだと aya にすごく関心があるのですが、次のアルバムは進んでいますか?

Kode9:願わくは、今年じゅうにリリースしたいと思ってるよ。aya は天才だ。コンセプト的にも音楽的にもすばらしいと思うし、パフォーマンスのレヴェルも違う。歌も歌えてラップもできて、ロック・スター的な雰囲気がありつつパンク的なところもあって、アティテュードにあふれているよね。シャイなところとは正反対な感じが彼女の魅力だと思う。

〈Hyperdub〉はアルバムより尺の短いEPをたくさんリリースしていて、その姿勢からは信念が感じられます。90年代はダンス・ミュージックが12インチをリリースの中心にすることで、アルバム主義を解体しました。〈Hyperdub〉のリリースもその延長線上にあるのではないかとele-kingの編集長は考えているのですが、シングル/EP単位でリリースすることの意義について教えてください。

Kode9:すごく難しいところだけど、まず、レコードのセールスが厳しくなったからデジタルEPをリリースするようになったんだ。ヴァイナルはパンデミック以降つくるのが大変で時間もかかるようになってしまったんだけど、これからはもっとアルバムをしっかり出していきたいと思っているよ。アルバムというのはアーティストの世界観を表現できるフォーマットだけど、EPはそれよりも早くつくれるから、アーティストのそのときのムードや音楽シーンの動向を捉えてリリースできるところが長所だよね。アルバムは制作に時間がかかるからこそ、ステイトメントのようなものを示すのに向いていると思う。逆にEPのスピード感は、レーベルの勢いや現在を捉えてみんなに見せていけるものだね。

マーク・フィッシャーの影響は強く〈Hyperdub〉にも〈Flatlines〉にも残っている。ベリアルや aya のような好きなアーティストたちをリリースするときも、「彼も同じように100%好きだろうな」というイメージのもとで考えるんだ。

次の質問も編集長から預かってきたものです。90年代に東京で暮らしていたとき、UKのアンダーグラウンドなダンス・ミュージックを知る方法は12インチのシングルを聴くことでした。それらは安価に入手できました。今日ではネットが擡頭し、情報が氾濫してすごくフラットな状況になっています。当時は12インチのヴァイナルが日本とイギリスのアンダーグラウンドにパスのようなものを形成していたのですが、いまはそれが途絶えてしまっているように思えます。どうすれば生き生きとした良質なUKダンス・ミュージックにアクセスできるのでしょうか? その方法があれば教えていただきたいです。

Kode9:まず、いまはそれをやること自体が難しくなってしまったよね。シンプルなものからなにかを得ようとするのは時代的に不可能に近い。すごく複雑化していて、いくらでもリリースの仕方やつくり方がある。バンドキャンプを利用したセルフリリースもあるし、ある種のフィルターやクオリティ・コントロールなしに音楽がどんどん出まわる時代になったわけだよね。インターネットが擡頭してから変わってしまったんだ。昔ならジャングルやドラムンベース、ダブステップだったり、それぞれひとつのシーンがあったけど、いまはシーンというものが中心にドンとあるというよりも、焦点がぼやけて、小さなシーンがほんとうにたくさん存在していると思うんだ。ベッドルームとインターネットが直結しているから、あいだになにも入らない。総数が膨大になったがゆえについていくのが大変になったし、つくり手もみんな(シーンや音楽が)ありすぎて大変なんだ。だから、ほんとうに信頼できるレーベルやウェブ、雑誌を自分なりに決めて、そこに絞るしかないのかなと思う。
 いまイギリスでは、音楽雑誌をあまり信用できなくなっていることが問題になっている。メディアの貧困化でジャーナリストたちも稼ぐことができないから、ライティングの質も低下しているんだ。20年前はライターたちがちゃんとフィルタリングして良質な情報を発信していたけれど、いまの音楽業界自体やプレスなども含めて、とにかく情報があふれているから厳しい状況だね。だから、ジャーナリスト側はニュースレターを書くようになった。雑誌に寄稿するのではなく。いまは転換期だと思う。ポッドキャストや配信の場もできているし、書く側も情報を与える側も、これからは自分たち自身で情報を発信できる場をつくっていくことになるかもしれない。信用できる情報は、自分たちで絞っていかなければいけないんだ。

わたしたちはマーク・フィッシャーの著作を3冊出版しているんですが、彼はあなたについても書いていますよね。あなたはマーク・フィッシャーの文章のどんなところが好きですか?

Kode9:マークとは一緒にPh.D.(博士号)をとった仲で、1996年から2000年にかけて一緒に勉強してきたんだ。ちょうど2、3日前が命日だったな……。彼の影響はものすごく大きくて、たとえば彼は、現代資本主義のように、嫌いなものがはっきりしていた。それへの批判を力強いことばで表現するのが特徴的だった。それは好きな音楽についてもそうで、社会的・政治的に音楽がどう広がっているのかも的確に表現していた。
 〈Hyperdub〉のサブレーベルにオーディオ・エッセイやソニック・フィクションをリリースする〈Flatlines〉というのがあるんだけど、そこから2019年にジャスティン・バートンとマークのコラボレイション作品『On Vanishing Land』をリリースしている。その作品は、マークが映画や本について書いた『奇妙なものとぞっとするもの(The Weird and the Eerie)』(原著2016)のアイディアをもとに、(音で)実践したものなんだ。レーベルの〈Flatlines〉の名前もマークが90年代に書いた論文のタイトル「Gothic Flatlines」から来ている。それくらい彼の影響は強く〈Hyperdub〉にも〈Flatlines〉にも残っている。ベリアルや aya のような好きなアーティストたちをリリースするときも、「彼も同じように100%好きだろうな」というイメージのもとで考えるんだ。たとえば、aya はノース・イングランドの出身なんだけど、マークはロンドンの外にある音楽シーンに関心を抱いていたし、彼がつくりあげてきた世界観にフィットするようなアーティストをピックアップすることはいまも意識している。ちなみにオーディオ・エッセイというのは、哲学やフィクション、ラジオ・ドキュメンタリー、ラジオ・ドラマ、エクスペリメンタル・ミュージックのミックスだね。
 それと、アーバノミック(Urbanomic)という出版社のエディターであるロビン・マッカイと『ソニック・ファクション(Sonic Faction)』というオーディオ・エッセイについての本を編集したんだけれど、それを数か月後には出す予定だ(https://www.urbanomic.com/book/sonic-faction/)。「ファクション」というのはフィクション(fiction)とファクト(fact)を組み合わせたもの。だから、理論を書いてはそれを音にして、また理論に戻って、また音の作品に落としこんで……というサイクルを繰り返しているね。

〈Hyperdub〉の2024年はどんな一年になりそうですか? 直近で控えているリリースも含め教えてください。

Kode9:「サヴァイヴァル」だね。20周年を迎えるというのは信じられない(笑)。アルバムをたくさんリリースしたいと考えている。20周年記念のショウケースの予定もたくさんあって、バルセロナのプリマヴェーラ・フェスティヴァルやロンドンのファブリック、オーストラリアのエレヴェイト・フェスティヴァル、フランスのニュイ・ソノール。祝福する場はたくさんあるんだけど、いま小さなレーベルを運営することはすごく複雑で大変なことなんだ。さっき話したようにストリーミングも増えたし、音楽業界自体やジャーナリズムも変わってきているし、それがすべてレーベル運営に影響する。だから、小さいレーベルとしてはサヴァイヴァルになっていくんじゃないかな。生き残りが大変なんだ。ひとりならまだしも、スタッフを3、4名抱えているしね。3月にはシカゴのヘヴィ(Heavee)がDJラシャドの『Double Cup』のようなムードを持ったアルバムをリリースするよ。ロレイン(・ジェイムズ)の前の前のアルバム(『Reflection』)や aya のアルバムにヴォーカルで客演していたアイスボーイ・ヴァイオレットというマンチェスターのラッパー[※UKでは2~3年前から注目されている、アンダーグラウンドで評価の高いMC]のアルバムもリリースする予定。もしできるなら、aya とナザール(Nazar)、DJハラム(Haram)、ティム・リーパー(Tim Reaper)……ぜんぶ出せたらいいな。少なくともヘヴィとアイスボーイ・ヴァイオレットは確実に出すことが決まっているね。

※なお、今回の取材でベリアルの新作が〈XL〉から出たことについて尋ねなかったのは、取材日(1月15日)がその情報が流れるよりも前だったからです。

SYL JOHNSON - ele-king

Starborn - ele-king

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Mike Westbrook - ele-king

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Sahib Shihab - ele-king

BUBBHA THOMAS & THE LIGHTMEN - ele-king

Helado Negro - ele-king

 エラード・ネグロことロベルト・カルロス・ラングの8枚目のアルバムは “LFO (Lupe Finds Oliveros)” と名づけられた一曲から始まる。Lupe とは1950年代にフェーダー社でアンプを製造しのちにコレクターの間で彼女の手がけた製品が評判となったメキシコ系アメリカ人女性ルーペ・ロペスのことであり、Oliveros とは電子音楽のパイオニアとしての再評価が近年著しい音楽家ポーリーン・オリヴェロスのことだそうだ。要はどちらも音楽の実験の領域を広げた偉大な人物であり、ラングが彼女らに深い敬意を持ってこの曲から始めていることは伝わるのだが、曲自体は8ビートのドラムビートを持ったインディ・ロック的なサウンドで暴力的な警察などが登場する抽象的なリリックのスペイン語のナンバーとなっているから不可思議だ。モチーフと歌詞と音楽が彼のなかでどのように関係しているのかは判然としないためあれこれ想像するしかなく、それでも3分強のこの曲はじわりと聴き手の気持ちを温めてくれる。このアルバムでは、そのように、音楽が決められた枠から朗らかにはみ出していく瞬間に生まれる喜びが追い求められている。

 IDMとルーツであるラテン・フォークとインディ・ロックとヒップホップなどなど……をコラージュ的に混ぜ合わせてきたエラード・ネグロは、活動的にも音楽的にも掴みどころのない存在であり続けてきた。2000年代後半にサヴァス&サヴァラスへの参加などギレルモ・スコット・ヘレン周辺から注目され、2010年代にはアニマル・コレクティヴ以降のモダン・サイケ・ポップを(ジュリアナ・バーウィックとのコラボレーションなどをしつつ)ゆるやかに広げてきた彼は、歌ものとしての完成度を一気に高めてブレイクスルーとなった6作目『This Is How You Smile』(2019年)を経て、前作『Far In』(2021年)ではエレクトロとソウルの要素を強めたために「あっ、案外ビビオなんかに近いひとなのかもしれない」と自分は思ったのだが、本作『PHASOR』を聴くとそれもちょっと違うのかもと感じる。得意のトロピカル・テイストが入ったインディ・ポップ “I Just Want to Wake Up with You”、ジャジーな “Best for You and Me”、フォークとエレクトロが抽象的なドラムの上で交錯する “Colores del Mar” ……と、たんにジャンルの多様性だけではなく、ソングライティングの洗練とリズムとさりげない実験性と録音の細やかさによって特定の場所に留まらない音楽をどこか飄々とやってのけている。そのなかでとりわけキーになるのがエレクトロニクスだ。
 本作のインスピレーションとなったのは、現代音楽の研究者でありエレクトロニック・ミュージックの探究者でもあったサルヴァトーレ・マルティラーノが開発したシンセサイザーSAL-MARをイリノイ大学で5時間見学した経験だという。有機的にサウンドシークエンスを作成できるそのマシンに「完全に魅了された」とラングは語っているとのことで、冒頭で書いたルーペ・ロペスとポーリーン・オリヴェロスにまつわるエピソードといい、エレクトロニック・ミュージックが人間の――アーティストの創意工夫によって新たな可能性に開かれること自体にインスパイアされた作品だと言える。シンセ音の反復がラテン・ジャズと戯れる “Our There” や、電子音がいたずらっぽく跳ねるエレクトロニカ・ポップ “Wish You Could Be Here” などはその成果がわかりやすく表れた一曲だと思うが、それでいて実験のための実験という感じもなく、徹底してフレンドリーな音楽だ。
 このアルバムの曲名で「You」と呼ばれているものは音楽それ自体だと感じられるし(「わたしはあなたとともに目覚めたいだけ」、「あなたがここにいたらいいのに」)、ラテン・フォークとアンビエント・ポップの心地よい出会いが味わえる “Flores” や “Es Una Fantasia” を聴けば、音楽に身を任せる時間の豊かさが讃えられていることを直感する。生音とエレクトロニクスがどこまでもオーガニックに温かく身を寄せ合い、実験をポップに変換する楽しさを邪気なく謳歌するこのアルバムは、音楽やそれにまつわる文化に魅せられる人間の幸福な瞬間のことを喚起させるのである。

MUTANTES - ele-king

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