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Helado Negro

FolkIndie PopPsychedelic

Helado Negro

This Is How You Smile

RVNG Intl.

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木津毅   May 13,2019 UP

 アルバム・タイトルはジャメイカ・キンケイドが〈ザ・ニューヨーカー〉に1978年に発表した短編『ガール』からの引用。キンケイドはカリブ海東部の島々からなるアンティグア・バーブーダ出身の作家で、とくに初期の自伝的な作品群では母と娘の関係を軸にして、隠喩的にポスト・コロニアルにおける支配/被支配の緊張を描き出していた。ある種、地域性を問わずに共感を得る思春期の少女の物語として。
 だけど、どうなのだろう。この、素晴らしくなめらかに仕上げられたヘラド・ネグロとしては6枚め、ロベルト・カルロス・ラングによる『ディス・イズ・ハウ・ユー・スマイル』にどれほど「ポスト・コロニアル」というテーマが入りこんでいるのか、シンプルな英語詞はまだしもスペイン語がここで「響き」に聞こえてしまう僕には、正直わからない。それに何よりも……サウンドにおいて、エクアドル移民である彼のルーツとしてのラテン音楽とゼロ年代ブルックリンの成果が綺麗に溶け合っているではないか。すでに「ボラ・デ・ニエベのベッドルーム・ポップ・ヴァージョン」などと形容されているように、ラテンからの音楽的恩恵がここでは21世紀型のドリーミーなポップ・ミュージックへと見事に変換されている。

 サヴァス&サヴァラスへの参加やジュリアナ・バーウィックとのコラボレーション、それに前作までスフィアン・スティーヴンスが主宰する〈アズマティック・キティ〉からリリースしていたことからもわかるが、北米インディの美味しいところを気持ちよく漂ってきたカルロス・ラング。ヘラド・ネグロ名義はブルックリンに移ったゼロ年代後半から使用しているが、なるほど前作『Private Energy』をあらためて聴き直すと、いかにもアニマル・コレクティヴ以降の遊びに満ちたエクスペリメンタル・ポップの跡を見出すことができる。だが、〈RVNG〉からのリリースとなる本作ではオープナーの“Please Won't Please”から、簡素なリズムとあくまで柔らかいシンセの調べに乗せて線の細い歌がゆるく、優しく続けられる。わたしたちがゼロ年代後半によく親しんだアンビエント・ポップのフィーリングが、10年かけた洗練を経て届けられる……きめ細かく変わってゆく光を浴びながら。もちろん、ヘラド・ネグロらしいトロピカル・サイケなフォーク・ナンバー“Pais Nublado”なども耳を引くが、ハイライトのひとつである“Running”などはそれこそライのファンも思わずうっとりするようなメロウなソウル・チューンである。いずれにせよ、それらが大きな起伏を生み出さないように生音のオーガニックな響きを大切にしながら、じつにゆったりと連なっていく。いくらかファンキーなグルーヴを感じさせるミドルテンポの“Seen My Aura”、伝統的なラテン・フォーク・ギターとスティール・パンの音色が控えめに寄り添う“Sabana de Luz”、曲によって要素は変われど、穏やかなサイケデリアが途切れることはない。

 前作で「若く、ラテンで、誇り高い」や「僕のブラウンの肌」といった象徴的な言葉を並べていたカルロス・ラングだが、本作における彼のラテン人としてのアイデンティティはあくまで音として彼の現在地と和解している。わたしたちがスフィアン・スティーヴンスとデヴェンドラ・バンハートとサヴァス&サヴァラスとアニマル・コレクティヴを地続きで聴くような感覚が本作でひとつになっており、ルーツにも現在にも等しくオープン・マインドな佇まいや自然体の折衷性はブラジルのシンガーソングライターであるフーベルの昨年絶賛されたアルバム辺りにも通じるだろう。映画『ROMA/ローマ』を例に挙げるまでもなく北米において中南米との関係性が問われている昨今だが、英語とスペイン語、ベッドルーム・ポップとラテン・フォークが継ぎ目なく共存する本作を聴いていると、音楽は「ポスト・コロニアル」のその先を模索しているように思えてならない。

木津毅