ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Afrika Bambaataa 追悼:アフリカ・バンバータ
  2. Courtney Barnett - Creature of Habit | コートニー・バーネット
  3. Boards Of Canada ──ボーズ・オブ・カナダ、13年ぶりのアルバムがリリース
  4. Iration Steppas ──UKサウンドシステム文化のヴェテラン、アイレーション・ステッパーズが来日
  5. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演
  6. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2026
  7. interview with Adrian Sherwood 愛とソウルと、そしてメロウなダブ・アルバム | エイドリアン・シャーウッド、インタヴュー
  8. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  9. interview with Cameron Picton (My New Band Believe) 元ブラック・ミディのキャメロン・ピクトン、新バンドにかける想い | ──初のアルバムを送り出したマイ・ニュー・バンド・ビリーヴ
  10. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  11. SIMI LAB ──シミラボのファーストとセカンドが初のアナログ化
  12. world's end girlfriend ──ニュー・シングル「Angelus Novus」をリリース
  13. Laurel Halo - Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière) | ローレル・ヘイロー
  14. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  15. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  16. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  17. Moemiki - Amaharashi
  18. Mamas Gun - Dig! | ママズ・ガン
  19. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  20. dublab.jp ──LA発ネット・ラジオの日本支局、公式サイトを全面リニューアル

Home >  Reviews >  Album Reviews > Julianna Barwick- Will

Julianna Barwick

AmbientDroneExperimental

Julianna Barwick

Will

Dead Oceans

Tower HMV Amazon

橋元優歩   Jun 08,2016 UP

 ジュリアナ・バーウィックは、登場から10年が経とうといういまだにタグ付けの困難なアーティストだ(これまでのレヴュー)。ときどき「歌姫」としてエンヤなどに比較されているのを見かけるが、それはまったくちがう。バーウィックは歌曲を歌うのではないのだから。発声したものをペダルでループさせるだけ。“歌わ”なくていい、演奏しなくていい、つくらなくていい、息をするだけ──そのミニマルなスタイルは、だからこそ消費されてしまうことなく、また、いかなるトレンドにもわずらわされない。

 彼女の音楽が、クラシックまがいでもヒーリング・ミュージックの類でもなく、〈デッド・オーシャンズ〉や〈アスマティック・キティ〉のようなエクスペリメンタルなインディ・レーベルからリリースされ、ダーティ・プロジェクターズやスフィアン・スティーヴンスなどに並んでカタログ化されているのは、ひとえにわれわれがそのスタイルに前を向いた自由とインディ精神を感じていたからだ。

 バーウィックは、女神の役割を負うことからも負わされることからも自由であり、しかもそれを拳をかざしたり男勝りのスタイルを身につけたりする必要もなく可能にしている。また、高度な音楽教育を受けているとはいえ、彼女の録音スタイルのDIYさ、ライヴ活動の地道さ、飾らなさはわれわれがイメージする通りのUSインディであり、ジュリア・ホルターらと並んで、2010年以降のシーンに爽やかな喜びを与えつづけてきた。バーウィックの自由……それはあの眩しい残響として筆者の心に波打ちつづけている。

 さて、今作は「ウィル」と名づけられている。『サングイン』『ザ・マジック・プレイス』『ネーペンテース』といった過去作品に対して、バーウィックにしては強い意味やニュアンスが出たタイトルだ。音楽性が大きく変わったわけではないため、それはなおさら、彼女の中に兆す変化を想像させる。

 音の特徴から整理するなら、本作はこれまででもっとも楽器が多用され、「伴奏」のともなったものだと言うことができるだろう。これまでと変わらず、クセのないハイトーンの一節がループされる冒頭の“セント・アポロニア”は、突如加わるチェロとピアノに印象的に縁取られる。つづく“ネビュラ”は頭からシンセサイザーのアルペジオに先導されてはじまり、それは曲中途切れることなくつづく。次の“ビーチド(Beached)”はピアノ伴奏が寄り添う。これらは単に彼女のライヴのスタイルが反映されたものでもあるだろうが、声以外の周波が加わって心地よさが増している。エッジイなイメージは後退し、ほっとするような柔らかさが感じられる。

 そんななかではっとするのは“Same”だ。リヴァービーにふくらまされたストリングスやトランペットが曲を先導する……そのようにいくつもの音色を持つのもめずらしいが、この曲にはカナダ出身のアーティスト、トーマス・アーセノールトの歌もフィーチャーされていて、彼の声が入ってきたときに彼女の世界に他の人間の主観と時間が混線してきたような、わずかな違和感が生まれ、驚かされる。深いエコーとループが交差しこだましあう彼女の音楽は、構成要素がほとんど自身の声ということもあり、言葉やメッセージがない場合でも圧倒的に主観的な世界を立ち上げる。彼女の音楽を聴くというのは、彼女の感情の球体、あるいは意識の球体、それに触れているという感覚だ。ここに他者が入り込んでくるというのは、その球体が球ではなくなるということ、破綻のない世界に異物が混じり、これまでに生まれなかったはずの可能性や偶然性が──まるで生命の誕生のように──生じてくるということを予感させる。他人との制作という点では、ヘラド・ネグロとのオンブレ名義での活動があるが、そちらはまさにコラボの体で、互いの協力によって一枚のアルバムを生むべく美しい予定調和が図られていた。しかし、今回そういうものとまったく異なる原理のもとに他者の声、他者の「will」が聴こえてくる。そのあたりに、バーウィックの次を見てしまう。

橋元優歩