「Noton」と一致するもの

Richard Spaven & Sandunes - ele-king

 現在のサウス・ロンドン勢が注目を集める以前、2010年代前半頃より既にUK発の新世代ジャズ・ドラマーとしていち早く脚光を浴びていたリチャード・スペイヴン。UKではザ・シネマティック・オーケストラや4ヒーロー、インコグニートの演奏に参加し、USではホセ・ジェイムスからフライング・ロータスなどとも共演してきたことにより世間へアピールする機会に恵まれ、またヒップホップにダブステップやドラムンベースなど、クラブ・サウンドを取り入れた演奏によりジャズ以外の分野からも支持を集めていった。現在はモーゼス・ボイドゴーゴー・ペンギンのロブ・ターナーなど、そうしたジャズとクラブ・サウンドを繋ぐようなドラマーもいろいろいるが、そうした先陣を切ったのがリチャード・スペイヴンとも言える。

 ジェイムスズージョーダン・ラカイ、ステュアート・マッカラム、フリドラインなどいろいろなアーティストの作品に参加し、アルファ・ミストと44th・ムーヴというユニットを結成する一方、自身のソロ作品では2010年に処女EPの「スペイヴンズ・ファイヴ」を〈ジャズ・リフレッシュド〉からリリースし、その後ファースト・アルバムの『ホール・アザー』(2014年)以下、『ザ・セルフ』(2017年)、『リアル・タイム』(2018年)と発表してきている。『ザ・セルフ』では盟友のギタリストであるステュアート・マッカラムほか、ジョーダン・ラカイ、ジェイムスズー、クリス・バワーズ、クリーヴランド・ワトキスらが参加し、ファラオ・サンダースからキング・ブリット、フォーテックに至るカヴァーも手掛けるなど、ジャズからクラブ・サウンドに通じるリチャード・スペイヴンならではの世界を見せてくれた。『リアル・タイム』も同じくステュアート・マッカラムと組んだバンドで、数曲でジョーダン・ラカイのヴォーカルをフィーチャーしていた。このアルバムのプロデューサーはドイツのドラムンベース・プロデューサーとして知られるフレデリック・ロビンソンで、マスタリングはバグズ・イン・ジ・アティックのメンバーでディーゴとの共演など、主にブロークンビーツ方面で知られたマット・ロードが手掛けるなど、一般的なジャズとは異なる人脈がブレーンを固める異色作であると同時に、リチャード・スペイヴンというミュージシャンのジャズとクラブ・サウンドの境界にある立ち位置をよく示した作品と言えるだろう。その『リアル・タイム』から2年ぶりの新作となるのが『スペイヴン×サンデューンズ』である。

 このアルバムはタイトルが示すように、サンデューンズという女性ピアニストとのコラボレーションとなっている。サンデューンズは本名をサナヤ・アルデシールといい、インドのムンバイ出身で現在はロンドンを拠点にインド、ヨーロッパ、アメリカとワールドワイドに活動している。ボノボのオープニング・アクトを務め、プリティ・ライツのツアー・サポートをおこない、ジョージ・フィッツジェラルドのアルバム制作に参加するなど、エレクトロニック・ミュージック系での活動が多い。〈!K7〉から今年5月に「スペア・サム・タイム」というEPをリリースしているが、『スペイヴン×サンデューンズ』もその〈!K7〉からのリリースとなる。サウンデューンズはピアノやシンセ、キーボード全般を扱い、それ以外にゲストも参加しない完全にふたりだけのコラボとなっている。リチャード・スペイヴンはドラマーであると同時にエレクトロニクス機材を扱うビートメイカーでもあり、本作においてはそうした彼のビートメイカー/プロデューサー的側面が強く表れたと言えるだろう。過去にジェイムスズーとおこなった共演に近い形態の作品集だ。

 小鳥のさえずりのSEを交えたオープニングの “イン・リーディネス” はアンビエント・テクノ系の作品で、全体的にテクノの影響が強い作品集となっている点はドイツの〈!K7〉らしい。こうしたテクノ的な色合いに生ドラムを有機的に融合したのが “ツリー・オブ・ライフ” という曲で、スペイヴンの独壇場とも言える世界だ。ドラムンベースのビートをさらに細かく分解し、それに人力でディレイを掛けたようなテクニックには恐れ入る。“イヴリン” でのコズミックな音響空間にこだまするミニマルなビートから、次第にインプロヴィゼイションを交えた立体的で複雑なドラミングへと展開するのも巧みで、エレクトロニクスとジャズの即興演奏を見事に操っている。“キャント・セイ・ザット・トゥ・ユー” に見られるように、サンデューンズのキーボードは非常に抒情的で、ときにインド音楽を思わせるような独特の旋律を奏でる場面もある。“リトル・シップス” や “サステイン” における瞑想的なサウンドは、明らかにインド音楽からの影響と言えよう。アリス・コルトレーンやファラオ・サンダースがインド音楽を取り入れた演奏をおこなったように、古来ジャズとインド音楽は相性がいいものだ。『スペイヴン×サンデューンズ』はそれを現代的な手法で解釈したもののひとつとも言える。


New Order - ele-king

 新型コロナウイルス感染症の影響により延期となっていたニュー・オーダー来日公演の振替公演が、2022年1月に行われることが決定した。

■振替公演日程
東京 2020年3月3日(火) 新木場 STUDIO COAST → 2022年 1月26日(水) ZEPP HANEDA
東京 2020年3月4日(水) 新木場 STUDIO COAST → 2022年 1月28日(金) ZEPP HANEDA
大阪 2020年3月6日(金) ZEPP OSAKA BAYSIDE → 2022年 1月24日(月) ZEPP OSAKA BAYSIDE
※東京公演は会場が変更となりますので、ご注意ください。

詳細は招聘元のクリエイティブマンからの以下のご案内をご覧ください。

ニュー・オーダー振替公演のお知らせ

新型コロナウイルス感染症の影響により延期となっておりました、ニュー・オーダー来日公演の振替日程が決定致しました。振替日程発表まで長期間にわたりお待たせしまして大変申し訳ございませんでした。 お客様のご理解とご協力に感謝申し上げます。

お手持ちの公演チケットは指定の振替日程にのみ有効となりますので、大切に保管していただきますようお願い致します。振替日程にご都合のつかないお客様には払い戻し対応をさせて頂きます。 払い戻しはお買い求めのプレイガイドにて 2021 年 1 月 31 日(日)までの期間となります。 この期間以外の別途受付はございませんので、必ず期間内にお手続きをして頂きますようお願い申し上げます。払い戻し方法の詳細につきましては、クリエイティブマンのホームページをご確認ください。 また、チケットの再発売日につきましては、改めてお知らせ致します。

大阪 2022年 1月24日(月) ZEPP OSAKA BAYSIDE
※2020年3月6日(金) ZEPP OSAKA BAYSIDEより振替
OPEN 18:00/ START 19:00
TICKET 1F スタンディング¥10,000 2F 指定¥12,000(税込/別途 1 ドリンク)※未就学児入場不可 ※未就学児入場不可 ※別途 1 ドリンクオーダー
一般プレイガイド発売日:調整中 <問>キョードーインフォメーション 0570-200-8888

東京 2022年 1月26日(水) ZEPP HANEDA
※2020年3月3日(火) 新木場 STUDIO COASTより振替
東京 2022年 1月28日(金) ZEPP HANEDA
※2020年3月4日(水) 新木場 STUDIO COASTより振替
OPEN 18:00/ START 19:00
TICKET スタンディング¥10,000 指定席¥12,000(税込/別途 1 ドリンク)※未就学児入場不可
一般プレイガイド発売日:調整中 <問>クリエイティブマン 03-3499-6669

制作・招聘:クリエイティブマン 協力:Traffic

 ニュー・オーダーは、2015年に発売された最新オリジナル・アルバム『ミュージック・コンプリート』以来、5年ぶりの新曲「ビー・ア・レベル」(Be a Rebel)を先月発売している。「反逆者になろう 破壊者じゃなくて」と歌うバーナード・サムナーは、「タフな時代だからこそ、この曲をみんなに届けたかったんだ」と語っている。
[シングル詳細] https://trafficjpn.com/news/nobar/

この曲は、adidasのSpezialとのコラボレーションによるコレクション「nwrdrSPZL」に起用されている。
https://shop.adidas.jp/originals/spezial/

[LISTEN]
https://smarturl.it/nobar
https://youtu.be/f6E6ugW7TOo


■プロフィール
https://trafficjpn.com/artists/new-order/

■リンク先
https://www.neworder.com/
https://www.facebook.com/NewOrderOfficial
https://twitter.com/neworder
https://www.instagram.com/neworderofficial
https://www.youtube.com/user/neworder
https://open.spotify.com/artist/0yNLKJebCb8Aueb54LYya3
www.mute.com

The Bug - ele-king

 ケヴィン・マーティン──テクノ・アニマルやキング・ミダス・サウンドなどで知られ、最近はミス・レッドの裏方、ベルリアとのFlame名義のコラボ作、ムーア・マザー参加のゾーナルケヴィン・リチャード・マーティン名義もあり──じつにいろんな名義で多岐にわたる活動をしているアーティストだが、やはり彼のメイン・プロジェクトだと思われるのは、ザ・バグ名義だろう。
 ケヴィン・マーティンの音楽には多くの場合、ダブからの影響が滲み出ているが、ザ・バグには当初からダンスホールというコンセプトがあった。新作はベルリン拠点のプロデューサー/ヴォーカリストのディス・フィグとのコラボとなっており、ふたりは今作のスタイルを〈トンネル・サウンド〉などと呼んでいるが、その名の通り、いままでにないほどスモーキーでメディテーショナルなサウンドとなっている。
 木霊するディス・フィグのボーカルに飛ばされつつも、強力なダンスホールのリズムに踊らされる“Destroy Me”、仄暗い底からジワリジワリと迫り来る強烈な沼アシッドの“Blood”、タイトル通り永遠に揺られていたくなるようなリズムに儚げで美しいウワモノに心奪われる“Forever”、バグの生み出す強力な低音、リズムとの相性バッチリなディス・フィグのヴォーカリストとしての魅力が最大限に発揮された先行解禁曲の“You”など、一度ハマったら抜けられない沼サウンド全12曲を収録! 
 吸うか、吸われるか……2枚組のLPはブルー・ヴァイナル仕様となっている。
 

THE BUG FEATURING DIS FIG
IN BLUE

Hyperdub/ビート

輸入盤1CD / HDBCD055
輸入盤2LP(ブルー・ヴァイナル仕様) / HDBLP055
CD発売日: 2020年11月20日 (金)
LP発売日: 2020年12月18日 (金)

CD
01. Around Me
02. Come
03. Destroy Me
04. Blood
05. In 2 U
06. Levitating
07. Forever
08. Blue To Black
09. Take
10. No Return
11. You
12. End In Blue

LP
A1. Around Me
A2. Come
A3. Destroy Me
B1. Blood
B2. In 2 U
B3. Levitating
C1. Forever
C2. Blue To Black
C3. Take
D1. No Return
D2. You
D3. End In Blue

校了しました - ele-king

 7月から全17作のリイシュー・プロジェクトが進行中のカン、このクラウトロックの巨星をまるごと1冊特集した『別冊ele-king カン大全──永遠の未来派』、監修=松山晋也による文字どおり入魂の1冊が無事校了となりました。

 カンの歩みを詳細に追った巻頭「カンの物語」を筆頭に、カンが生まれた背景を探るべく、当時の戦後ドイツの状況やヨーロッパのフリー・ジャズ・シーン、シュトックハウゼンの存在などを掘り下げる論考も掲載。主要メンバー全員の貴重なロング・インタヴューに、カン本体だけでなくメンバーのソロ作品、さらにはカンの影響を受けた作品まで網羅した究極のディスクガイドもあり。

 全240ページ、1冊ぜんぶカン特集というのは日本初の試みであり、おそらく海外でもそうあるものではないでしょう。カンにかんする情報が凝縮されまくった濃厚な内容、今後もう二度と実現できないだろうクオリティ、まさに決定版と呼ぶべき仕上がりだと自負しています。

 発売は10月31日。ご期待ください。

 https://smarturl.it/CANbook

 最後にこの場を借りて、松山さんにお礼を申し上げます。この1週間、レコードや書物に囲まれた部屋のなかで、床に横になることもなく、また食卓につくこともなかった松山さん、心おきなく寝袋で休んでください。またバイクを二人乗りして鎌倉の海を飛ばしましょう。

【執筆者一覧】
明石政紀、岸野雄一、小林拓音、小柳カヲル、小山哲人、崎山和弥、柴崎祐二、竹田賢一、野田努、ジェイムズ・ハッドフィールド、東瀬戸悟、福島恵一、松平敬、松村正人、松山晋也、三田格

Can × VIVA Strange Boutique - ele-king

 自由が丘のVIVA Strange BoutiqueがCANのアートワークを元にデザインしたスウェット、MA-1ジャケット、パーカー、ロングスリーヴTシャツを10月17日(土)より販売します。
 これまでもロッビング・グリッスルのクリス・アンド・コージー、モノクローム・セット, WIRE,、DNA、ドゥルッティ・コラムといったアーティストとのコラボレーション・アパレルの制作をしてきましたが、今回のCANもかなりかっこいいです。編集部的には「DELAY」にやられました。
 なお商品はなくなり次第終了です。また、CANのリリース元であるトラッフィックからは『エーゲ・バミヤージ』と『フューチャー・デイズ』のTシャツ付き限定盤が出ていますが、次は『タゴ・マゴ』のTシャツ付限定盤が11月27日に発売されます
 で、別冊エレキング『カン大全~永遠の未来派』は10月31日に刊行予定……です!!(果たして……ただいま編集の佳境です)

Nubya Garcia - ele-king

 昨今異常な盛り上がりを見せるUKのジャズ・シーンにおいて、ユセフ・カマールジョー・アーモン・ジョーンズらと並び日本でも人気を集めるアーティスト、ヌバイア・ガルシアのニューアルバム『Source』がリリースされた。僕が最初に彼女の存在を知ったのは2017年に〈Jazz Re:freshed〉から出た『Nubya's 5ive』(アルバムの中の “Red Sun” を初めて聴いたときはジョン・コルトレーンの楽曲かと勘違いしてシャザムしたのをいまでも覚えている……)。そこから約3年間の飛躍を考えると驚くべき成長速度である。UKジャズの決定版とも言えるコンピレーション『We Out Here』(9曲中5曲に参加するという異例の抜擢)や女性メンバー主体の7人編成のアフロビート・バンド「ネリヤ」、そして盟友ジョー・アーモン・ジョーンズのソロ・アルバムにも参加するなど、活動は多岐に渡り、まさに駆け抜けるような素晴らしいキャリアをここ数年で築き上げた。デビュー当時は「女性版カマシ・ワシントン」という呼び声もあったが、様々なコラボレーションや活動を通して自身独特の演奏と音楽を披露しているのがこのアルバムを聴いてもわかる。

 リード曲となる “Source” では『We Out Here』周辺のコミュニティーに共通して見えるレゲエやカリビアンなサウンドの縦ノリに力強くサックスが絡み合い、曲の展開が進むにつれてその熱量がさらに高くなっていく。ハウスやブロークンビーツ界隈のアーティストとも交流があってか、とにかく彼女のサックスは非常にグルーヴを感じる。激しすぎず、緩すぎずな絶妙なバランスが常にキープされていて、メロウなジャズから激しいレゲエ調まで緩急も素晴らしい。アルバムのなかで僕がいちばんオススメしている T.4 の “Together Is A Beautiful Place To Be” はジョー・アーモン・ジョーンズの美しいピアノのソロに乗せて、まるで歌っているかのような美しい音色を奏でてくれる。アルバム終盤ではコロンビアのマルチ・インストゥルメンタル・トリオ「ラ・ペルラ」とのコラボレーションで “La cumbia me está llamando (featuring La Perla)” を披露。ロンドンのローカル・ラジオ「NTS Radio」にてラジオDJも務める彼女はジャズやレゲエに混ざって時折クンビアも紹介していたが、まさかアルバムにこのような形で入ってくるのはサプライズだった。スタンダードなジャズ・アルバムというよりは彼女のサックスを軸に自身の吸収した様々な音楽をヌバイア・ガルシア流に表現したと言ってもいいだろう。DJ的な目線でも色んなジャンルの間に挟んでも違和感がないし、幅広いジャンルのリスナーに受け入れられるアルバムに仕上がっている。

 ジャイルス・ピーターソンも彼女を絶賛し、次の10年、20年の音楽シーンの担い手としても期待のかかる彼女のフル・アルバムは様々なジャンルを内包したUKジャズ・シーンのマイルストーン的な作品と言っても過言ではないだろう。今頃であればアルバムをリリース後、順調にワールドツアーもおこない、ここ日本の地でもライヴを披露してくれただろうがしばらく実現できないのは残念。代わりに先月披露された NPR Music の名物企画 Tiny Desk (なんと彼女の自宅から放送)もぜひお見逃しなく。観葉植物で囲まれた空間が逆にUKジャズ特有のDIYなコミュニティーを象徴するかのようだ。


Tigran Hamasyan - ele-king

 2010年代以降のコンテンポラリー・ジャズの世界で注目を集めるピアニストのひとりであるティグラン・ハマシアン。彼の名を一躍広めた『ア・フェイブル』(2011年)や『シャドウ・シアター』(2013年)は、現代ジャズにクラシックや教会音楽を融合した上で、ハード・ロックやヘヴィ・メタルからプログレ、そしてダブステップやビート・ミュージックに至る多彩な音楽的要素を取り入れ、それらを違和感なく結ぶべく故郷のアルメニア民謡のメロディや変拍子をモチーフとした意欲作であった。それ以前もセロニアス・モンク国際ジャズ・コンペティションで第一位を獲得するなど、ジャズ・ピアニストとして高い評価を受けてきたティグラン・ハマシアンであるが、これらの作品以降はジャズ以外の分野からも注目を集め、ダブステップ界のL.V.の『アンシエント・メカニズムズ』(2015年)にもゲスト参加するほか、2019年に公開されたオダギリジョー監督の『ある船頭の話』の映画音楽も担当している。

 ソロ活動に話を戻すと、2015年からは〈ノンサッチ〉と契約し、トリオ作の『モックルート』ではよりアルメニア色を強めた演奏を推し進めるほか、さらに同年は〈ECM〉からもアルメニアの聖歌隊と共演した『ルイス・イ・ルソ(光からの光)』をリリースする。アルメニアのクラシック界の作曲家であるコミタス・ヴァルダペットの作品を演奏するなど、アルメニアの宗教音楽に傾倒した世界へと没頭していった。アルヴ・アンリクセン、アイヴァン・オールセット、ヤン・バングらノルウェー勢と組んだ〈ECM〉録音の『アトモスフィアズ』(2016年)は現代音楽色の濃い作品だが、その音響のなかにもアルメニアの歴史や宗教が強く入り込んでいる。そして2017年の〈ノンサッチ〉作の『アン・アンシエント・オブザーヴァー(太古の観察者)』は、ピアノと和声に少々シンセを付け加えたミニマルなソロ・アルバムで、太古の時代にノアの方舟が漂着したと言われるアルメニアのアララト山頂からの風景を音として表現したものだ。

 その『アン・アンシエント・オブザーヴァー』から3年ぶりの新作『ザ・コール・ウィジン』は、ティグラン・ハマシアンにとって通算10枚目のソロ・アルバムとなる。2018年にはアルメニアの街であるギュムリへ捧げた「フォー・ギュムリ」というEPを発表したが、そうしたアルメニアからのインスピレーションが『ザ・コール・ウィジン』にも一貫して流れている。キリスト教伝来以前のアルメニアの古代民話や伝説、伝来以降のアルメニア文化、そして天文学や幾何学、ペトログリフ(岩面彫刻)などから映画撮影技術など、ティグランが関心を寄せる事象が『ザ・コール・ウィジン』の中の題材となっている。
 参加ミュージシャンはこれまでもティグランと演奏してきたドラマーのアーサー・ナーテク、同じくティグランと共演経験があるアルメニア系アメリカ人で、即興ヴォイス・パフォーマンスを得意とする民謡歌手にして詩人/ピアニストのアレニ・アグバビアン、アラン・ホールズワースなどとも共演してきたエレキ・ベースの鬼才のエヴァン・マリエン、アルメニア出身のチェリストのアルティョム・マヌキアンなど。さらに “ヴォルテックス” という曲にはアメリカのメタル・バンドであるアニマルズ・アズ・リーダーズのギタリスト、トーシン・アバシも参加する。アニマルズ・アズ・リーダーズのメンバーは数年来のティグランのファンで、以前ツアーに彼を誘ったもののそのときは実現しなかったが、そうした縁もあって今回の共演に繋がったそうだ。ティーンエイジャーの頃はジャズやクラシックを学ぶ一方で、メタルやハード・ロックにハマっていたというティグランらしいコラボである。

 宗教音楽的な和声とピアノに続いてメカニカルで強力な変則ビートが流れ出す “レヴィテイション・21” は、現代ジャズとダブステップやビート・ミュージックを繋ぐティグランならではの作品。“ザ・ドリーム・ヴォイジャー” もエレクトリック色の濃いナンバーだが、独特のメロディ・ラインを紡ぐピアノやヴォイス・ハーモニーにはルーツにあるアルメニア民謡の影響が見える。アレニ・アグバビアンとアルティョム・マヌキアンをフィーチャーした “アワー・フィルム” は、口笛の紡ぐ美しいメロディが印象的な1曲。映画制作にも関わったティグランのインスピレーションから生まれた曲だろう。
 “アラ・リサレクティッド” は次々と変調するリズム、緩急のついたトリッキーな展開のなか、リリカルなメロディを生み出すティグランのピアニストとしての技術やスキルの凄さを再認識できる。またクラシックからメタルにまで通じるレンジの広い音楽性と、そこから編み出した彼独自のジャズを聴くことができるだろう。“スペース・オブ・ユア・イグジスタンス” も同様に、ジャズ、フュージョン、プログレが融合したような曲だが、こうした複雑なリズム、メロディやコード変換を生み出すのもアルメニア民謡を学んだことが大きい。アルメニア民謡にも複雑なリズムが多く、それに乗せてメタルやエレクトロニカなどを取り入れていくことが、ティグランにとっては自然なことだったそうだ。
 トーシン・アバシが参加する “ヴォルテックス” も複雑な構造の曲で、アルメニア民謡をベースにメタル、ジャズ、クラシックなどあらゆる音楽を融合するティグランの独壇場の世界である。ギュムリにあるヴァルディ・アート・スクールの少年合唱団をフィーチャーした “オールド・マップス” や、ヴォイスと口笛、ピアノとシンセで綴るモダン・クラシカル~アンビエント系の “37・ニューリーウェズ” では、ティグランの作品で欠くことのできないピアノと和声のハーモニーが描かれる。“ニュー・マップス” は、20世紀初頭にオスマン帝国との民族紛争を逃れてアメリカに渡ったアルメニア移民についての作品。多くの民族が暮らすアメリカは、アルメニア人にとってロシアに次いで多い移民の受け入れ先だったが、そうしたアルメニア人のディアスポラがティグランの曲作りの大きなモチーフになっていることを示す曲だ。

R.I.P. 加部正義 - ele-king

 1966年6月にゴールデン・カップスの一員としてデビューし2020年9月26日に世を去ったルイズルイス加部こと加部正義氏のゆうに半世紀を超える音楽歴には当然ながら幾度かの転轍点があるが、それが描く軌道をふりかえれば、この国のロックがたどった道のりそのものだった、そのことを私たちはもっともっと知らなければならない。
 先の述べたとおり、加部正義はGSの一翼を担うゴールデン・カップスのベーシストとしてキャリアをスタートした。若い読者に超訳まじりにご説明さしあげると、GSとはグループ・サウンズの頭文字をつづめた、1960年代なかごろのベンチャーズやビートルズら舶来サウンドのあいつぐ上陸に感化された若者たちを中心にまきおこった流行の総称で、かまえこそロックだったが中身は歌謡曲というか、芸能事務所主導だったことは、のちにタイガースとテンプターズからPYGに転じたジュリーやショーケンやサリーへのロック・ファンからのすげない態度にもうかがえる。とはいえこの構図は定説あつかいだったふしがあり、かくいう私も、高校のころ、これから日本のロックを一所懸命聴くぞ!と誓ったそばからGSは歌謡曲だからやめとこうと思ったくちだった。その頑迷な思いこみがとけたのは黒沢進さんらの浩瀚な研究や、80年代なかば以降、レコードからCDへの媒体のきりかえにともない、過去の名作が廉価で入手できる体制がととのったことにもよる。
 耳をならすと、なかには歌謡曲ロックの枠組みからハミだすフリーキーな響きもそこかしこに聴きとれる。世界史との時間軸を確認すると、当時は68年を中心とした政治の季節で、米国西海岸にはグレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレインやクイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスらシスコ・サウンドが存在感を増した時期ともかさなる。すなわちサイケデリックの誕生である。海の向こうの動きにもっとも直截に反応したのは鈴木ヒロミツや星勝らのモップスでその名も『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』(1968年)なるデビュー・アルバムを世に問うたことは、海外の最新動向を伝達する回路でもあったGS期の邦楽の位置づけも裏書きする。スパイダースのように音楽的なオリジナリティを積極的に打ち出す例もあったが、ポップ音楽では日本はまだまだ後進国であり、海外の最新動向の紹介も本邦楽団の重要な役割のひとつだった。上述のモップスのアルバムでも鈴木ヒロミツと星勝によるバンドのテーマソング風の “アイ・アム・ジャスト・ア・モップス” をのぞく全曲がカヴァーか職業作家の手になる提供曲(1曲目の “朝まで待てない” はのちに一世を風靡する作詞家阿久悠のデビュー作)である。
 このような分業制は内田裕也大瀧詠一らをまきこんだ日本語ロック論争の下地でもあるが、話が広がりすぎるのでいまは措く。留意したいのは、いまだ支配的だった和魂洋才の和と洋の線引きである。加部のいたゴールデン・カップスもそのことでは例外ではなかった。1948年横浜は本牧に生まれた加部正義は中学でギターを手に、高校のころには米軍キャンプで演奏をはじめていたという。のちのパワー・ハウスの竹村英司らとのミッドナイト・エクスプレスをへて平尾時宗(デイヴ平尾)とグループ・アンド・アイにベースで加入したのは66年、これが翌年に活動拠点の店の名前をとってゴールデン・カップスに改称する。デビュー・シングルは「いとしのジザベル」で、なかにし礼と鈴木邦彦への外注だが、静から動への弾けるような展開は彼らのキャラクターをうまくいいあてている。なかでも楽曲内を駆け抜けるランニングベースのうねりながら加速するグルーヴは加部の持ち味のひとつで、リードベースの呼び声も高いそのプレイスタイルは爾来、アンサンブルの牽引車の役目を担っていく。本領発揮の場はなんといってもスタジオよりライヴであり、私はその観点からカップスの最高傑作は69年の『スーパー・ライヴ・セッション』だと断言したくなる。
 とはいえ全9曲中オリジナルは掉尾をかざる “ゼンのブルース” のみ。のこりはブルース、R&B、お気に入りのナンバーか、前年に出たアル・クーパーとマイク・ブルームフィールドの『スーパー・セッション』の援用からなる。名うてのミュージシャンを糾合しその化学反応に期待するスーパーセッション方式の本邦へのもっともはやい導入例だが、方法論以上に注目すべきは彼らの演奏の質である。ガレージの鋭利な切っ先が反射させるステージライトがかもしだす酩酊感とでもいえばいいだろうか、デイヴ平尾、エディ藩、マモヌ・マヌーにミッキー吉野らコンボが発するテンションはきわめて高い。ルイズルイス加部のベースは音楽空間の下部を滑り、曲をかさねるごとに内圧を高め、パワー・ハウスの陳信輝と柳譲治が加わる “ゼンのブルース” はどんづまりにひしめく魑魅魍魎の図を想起させる。このような現場が昭和40年代の横浜の地に存在していたことは当時の日本でロックの受容が急速にすすみつつあったことをものがたる。むろん決定権をにぎるのはいまだ大人だが、バンドの仕組みやロックへの理解度は格段に高まっていた。これが60年代末から70年代初頭にかけてのスーパーセッション方式の重用につながっていく。そのことはあの『ジャップロック サンプラー』(和書は白夜書房より2008年刊行)でジュリアン・コープも誤解と曲解まじりに指摘する点でもある。コープは陳信輝、水谷公夫、柳田ヒロ、クニ河内らの名前のなかで前述の『スーパー・ライヴ・セッション』については「ブームの尻馬に乗ろうとした」(165ページ)とすげないが、前後関係をみるとカップスのが先である。というのはさておき、器楽演奏に焦点をあてたこの方式は70年代前半のニューロックにきわめて親和的であり、この潮流からは多くの演奏家が輩出している。大音量の長尺の演奏を旨とするスタイルゆえ、そのほとんどはギタリストだが、加部正義はそのなかで例外的なベーシストとして70年代以降のロック史で異彩を放ちつつづけるのである。
 陳信輝とのフード・ブレイン、スピード・グルー&シンキ、ジョニー・ルイス&チャー──、加部正義が名を連ねるバンドがことごとく無頼派集団風なのは演奏の場を共同作業より勝負の場ととらえるからか。男性原理を尊ぶ60年代末の時代の影もおちている。それにより幅をきかせるハードな不良のロックの向こうを張るように、スピード・グルー&シンキはジュリアン・コープが「アンフェタミンの入手にまつわるブルース・ベースの葬送曲」と形容する “Mr. Walking Drugstore Man” にはじまるわずか1年あまりの活動で日本という社会と時代をつきぬけようとする。71年の『イヴ 前夜』と翌年の『スピード、グルー&シンキ』の2枚がこの日中、日仏、米比混血児トリオがのこした音源のすべてであり、作風には同時代人であるジミの影もちらつくが、フード・ブレインで未消化に終わった実験性をフリークアウトぶりでとりかえすかのごとき濃度と(加)速度はやはり圧巻である。
 その後復活したデイヴ平尾とゴールデン・カップスや、山口冨士夫とビショップとのリゾートに参加し活動の場を広げつつも、めまぐるしく変わる状況に疑問をおぼえた加部正義は自省の期間をもうけようと旅にも出たが、帰国をまちかまえていたかのように、78年にはチャーに乞われてジョニー吉長とのジョニー・ルイス&チャーの一員として前線に舞い戻ることになる。のちにピンク・クラウドと名をあらためるトリオの本邦ロック史における功績はいくつもあるが、私のような後発組には大人のロックなるものがもしあるとして、説教くささ抜きにかっこよくあるべきにはどうすればいいかおしえてくれたのも彼らだった。ロックなどというものは、バンドマンなどというものは楽器をかまえた姿がさまになってなんぼであり、テクニックなどいうだけヤボである──といいたげな余裕と色気と自由な精神。その中心で加部正義はハードなロックを中心に、ファンク、フュージョン、ラテンやAORにいたるまで、さまざまなモチーフに芯の詰まったグルーヴでしなやかに応じている。その融通無碍な音楽性は80年代を席巻し来たるべき90年代以降の多様性と横断性をさきがけてもいたが、そのような状況から出来した並列化と細分化はロックという坩堝を旧式の調理道具とみなす風潮も用意した。むろんこれは概況にすぎず、加部正義は21世紀以降も、いくらか間遠にはなったとはいえ、TENSAW の鈴木享明、富岡義広らとのぞくぞくかぞくなどで活動を継続していた。鈴木、富岡は加部の94年のソロ『eyeless sight』でもリズム隊をつとめた間柄でもある。それ以前にも加部にはチャーがプロデュースした83年のはじめてのソロ『ムーン・ライカ・ムーン』とマシュー・ザルスキーJr.と加部みずからプロデューサー役を買って出た『コンパウンド』(1985年)の2作のソロもある。ことに後者は旧知の清志郎との合作で “非常ベルなビル” と題した、ふてぶてしさと脱力を誘う諧謔ぶりが同居するハードなロックンロールもおさめている。このロック的な、あまりにロック的な佇まいは2020年9月26日以降も、加部正義の音楽から陽炎のようにたちのぼってくる。

BLYY - ele-king

 池袋を拠点に2001年より活動を続けてきたというヒップホップ・グループ、BLYY (ブライ)が、活動20年目にして初のフル・アルバムとしてリリースした本作。メンバーの年齢的にもおそらく40歳を過ぎており、ベテランと言っても差し支えないと思うが、ライヴを中心に地道に(かつ着実に)キャリアを積んできた彼らの年輪のひとつひとつがしっかりと刻まれた、実に深く染み入ってくるファースト・アルバムだ。

 5MCによるマイクリレー、MCでもある alled がフルプロデュースしたトラック、そして DJ SHINJI によるスクラッチと、それら全てが、彼ら自身、リアルタイムに経験してきたであろう90年代から2000年代初頭のヒップホップがベースとなっており、現在進行形の日本のヒップホップとは全く違った空気感を放っている。例えばブーンバップ・ヒップホップの流れとも共通する部分は感じられるものの、しかし結果的に目指している方向性は全く異なる。個人的には最盛期の LAMP EYE や BUDDHA BRAND などを思い出したりもしたが、BLYY が醸し出すムードは、そういった往年のグループともまた異なる。彼らのサウンドの中にあるモノクローム感というか、ピュアでありながら薄汚れたようなダークな感触は、もしかしたら池袋という街の空気感がダイレクトに反映された結果なのかもしれない。

 勝手な想像ではあるが、彼らがグループ結成当初に作り上げたスタイルをそのまま継承し、純粋培養させながら、ひたすら磨き上げてきた結果でき上がったのが本作だとすれば、非常に納得がいく。その一方で、流行りには一切乗らずにひとつのやり方をひたすら20年も続けてきたのであれば、正直驚くしかない。アルバム1曲目の “MAN” を聞いただけでも、彼らの声質からフロウ、ライミング、リリックに込められた言葉のひとつひとつ、さらにサンプリング・ソースやトラックの出音まで、おそらく30代後半以降の日本語ラップ・ファンであれば、何か強く心に引っかかってくる部分があるだろう。単なるノスタルジーともまた違う、彼らなりの美学が作り出した究極のアートがこの作品には宿っている。

 ちなみに本作のリリース元は PUNPEE や BIM、SIMI LAB、C.O.S.A. らを擁する、あの〈SUMMIT〉だ。いまの日本語ラップ・シーンを背負って立つ存在である〈SUMMIT〉が、BLYY のようなアーティストの作品を世に送り出すというのは本当に意義深いことであり、改めてその審美眼には恐れ入る。

slowthai - ele-king

 これは二重にすごい。昨年発表したファースト・アルバム『Nothing Great About Britain』で一躍時の人となり、最近はディスクロージャーの新作にも参加していたUKのラッパー=スロウタイが、新曲 “feel away” をMVとともに公開している。
 トラックはマウント・キンビーのドミニク・メイカーがプロデュース、ヴォーカルでジェイムス・ブレイクも参加しており、まずはその目のつけどころに感服するが、テーマのほうも興味深い。
 他人の立場に身を置いてみることを考えてもらうための同曲のMV(監督はレディオヘッド “Lift” を手がけたオスカー・ハドソン)では、パートナーと思しき女性のかわりに妊娠を引き受けたスロウタイが病棟のベッドで苦悶、その眼前で彼女はべつの男性と結婚式をあげ、直後……。※グロ表現が苦手な方はご注意を。


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