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Nérija

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小川充   Nov 18,2019 UP

 現在のロンドンのジャズ・シーンの特徴のひとつに、女性ミュージシャンが数多く活躍していることが挙げられる。女性ということで切り分けることは、ときに批判を招く恐れもあるのだが、ただほかの国や地域と比べて女性ミュージシャンが圧倒的に多いことは事実で、特に女性が多いシンガーというジャンルだけでなく、さまざまな器楽演奏家に及んでいる。こうした土壌を生んだ要因のひとつに、トゥモローズ・ウォリアーズの存在が挙げられる。トゥモローズ・ウォリアーズはギャリー・クロスビーと、そのパートナーのジャニー・アイロンズによって設立されたミュージシャンの育成・支援機関であるが、ジャニーは慈善事業など社会活動家でもあり、そんな彼女がトゥモローズ・ウォリアーズを興したきっかけのひとつに、男性に比べて活動の場が制限されることの多い女性ミュージシャンの進出に貢献できればということがあった。そうしてトゥモローズ・ウォリアーズには多くの女性ミュージシャンの卵が集まり、巣立っていった。ザラ・マクファーレン、カミラ・ジョージ、サラ・タンディなど、現在の南ロンドンを中心に活動するミュージシャンがそうで、女性ミュージシャンが集まったヴィーナス・ウォリアーズというプロジェクトが組まれたことがある。このヴィーナス・ウォリアーズには、ワーキング・ウィークなどでも活躍したベテランのジュリエット・ロバーツほか(彼女はトゥモローズ・ウォリアーズ出身ではないが、コートニー・パインやギャリー・クロスビーらジャズ・ウォリアーズの面々と親交が深く、別働バンドのジャズ・ジャマイカにも参加していた)、ヌビア・ガルシア、シャーリー・テテ、ロージー・タートン、ルース・ゴラーなどが参加していたが、ヌビア、シャーリー、ロージーはトゥモローズ・ウォリアーズ内でほかにネリヤというグループも組んでいた。

 ネリヤは女性7人組グループとしてスタートし、初代メンバーはヌビア・ガルシア(テナー・サックス、フルート)、キャシー・キノシ(アルト・サックス)、シーラ・モーリス・グレイ(トランペット)、ロージー・タートン(トロンボーン)、シャーリー・テテ(ギター)、インガ・アイクラー(ベース)、リジー・エクセル(ドラムス)だった。ヌビアとシャーリーはマイシャでも活動し、またシード・アンサンブルにはキャシー、シーラ、シャーリーが参加し、シーラがリーダーを務めるココロコにもキャシーが参加するといった具合に、彼女たちのサークルは南ロンドンのジャズ・シーンの中核を担っていると言える。2016年に自主制作でデビュー作の「ネリヤEP」を発表するが、これが〈ドミノ〉のスタッフの目に留まり、今年改めて〈ドミノ〉から再リリースされると共に、ファースト・アルバムの『ブルーム』が発表された。〈ドミノ〉はどちらかと言えばインディー・ロック、オルタナ・ロックのイメージが強く、かつてはポスト・ロック期のフォー・テットはじめ、ジム・オルーク、マウス・オン・マーズなどを紹介していたことで知られるが、今年はシネマティック・オーケストラからブラッド・オレンジまで、ますます幅広いアーティストの作品をリリースしている。ネリヤのどのあたりに〈ドミノ〉が惹かれたのかはわからないが、恐らくオーソドックスなジャズ・バンドとしてではなく、ジャズの枠を超えた何かオルタナティヴなものを感じたからではないだろうか。ジャンルや音楽性は全く違うが、かつてのザ・スリッツやESG、ザ・レインコーツといったオルタナティヴなガールズ・グループ的なモノを感じたのかもしれない。

 さて『ブルーム』の録音では、ベースのインガ・アイクラーがリオ・カイへと替わっている。リオは男性なので、ネリヤは女性バンドではなくなっているのだが、音楽性そのものは「ネリヤEP」の頃を継承・発展させたものとなっている。なお「ネリヤEP」ではリミックスとジャケットのアートワークをクウェスが手掛けていたのだが、今回の『ブルーム』では全面的にプロデュースとミックスを行い、“EU(エモーショナリー・アンナベイラブル)”という曲ではシンセ・ベースなども演奏している。とは言ってもクウェス的な音に加工されているわけではなく、あくまでネリヤの音楽をストレートに表現するためにサポートに徹している。
 ネリヤの武器は、何と言ってもその芳醇で力強いブラス・アンサンブルだ。ライヴなどで4官がフロント・ラインに立って押しの強い演奏を繰り広げる光景は圧巻だが、本作では先行シングルとなった“リヴァーフェスト”にブラス・セクションの迫力が表われている。ニューオーリンズ的なクレオール・ジャズで、マルディ・グラのブラス・バンドに通じるようなアンサンブルを聴かせる。ゴツゴツと角の尖ったドラムは現代的であるが、ブラスやビートの強さの一方で、シャーリーのギターによるメロウで哀愁漂うメロディも印象的。大々的にソロを聴かせる“イクァニマス”など、彼女のギターもネリヤの中で大きなアクセントとなっている。アフロやファンクを取り入れた“ラスト・ストロー”はいかにも南ロンドンらしい曲で、やはりファンク・ビートを導入した“EU(エモーショナリー・アンナベイラブル)”、アフロ・ビート系の“スウィフト”ではダブやレゲエの要素も感じられる。とは言っても、南ロンドン・ジャズに多いクラブ・サウンドやダンス・ビートと結びついたものではなく、ヒップホップやグライム、R&Bなどの要素はほとんど見られない。アメリカのテリー・リン・キャリントンのモザイク・プロジェクトも女性のみのグループだが、こちらはそもそも歌などが入らない完全なインスト・アルバムで、有名曲や人気曲のカヴァーもなく、極めてストレートで硬派なジャズ・アルバムとなっている。ある意味で世の中に媚びていないアルバムであり、強さや包容力が込められた音楽ではないだろうか。

小川充