「CE」と一致するもの

Jeff Mills - ele-king

 ジェフ・ミルズがなんと、ディオールの音楽を手がけている。12月4日に発表された「2023年フォール メンズ コレクション」は、「Celestial」と題され、ギザの大ピラミッドを背景に近未来的に演出されているのだけれど、デザイナーのキム・ジョーンズがセレクトしたミルズの楽曲群がアフロフューチャリスティックな要素をつけ加えている(最初のみサバーバン・ナイト“The Art of Stalking”)。トラックリストは下記よりご確認を。

Tracks include:

Suburban Knight / The Art Of Stalking *
X-102 (Jeff Mills) / Daphnis (Keeler’s Gap)
Jeff Mills / Microbe
Jeff Mills / A Tale From The Parallel Universe
Jeff Mills / Gamma Player
Jeff Mills / Resolution
Jeff Mills / Step To Enchantment (Stringent Mix)
Jeff Mills / The New Arrivals

*The Art Of Stalking by Suburban Knight courtesy of Transmat Records

 ちなみにミルズは11月25日に新作EP「Extension」をリリースしたばかり。そちらもチェックしておきましょう。


Label: Axis Records
Artist: Jeff Mills
Title: Extension

Format: EP
Release Format: Vinyl & Digital
Release Date: November 25, 2022
Cat. No. AX109
Distribution: Axis Records

TRACKLIST
A: Rise
B1: The Storyteller
B2: Entanglement

axisrecords.com/product/jeff-mills-extension-ep/


 このNY連載も早いもので(パンデミックの間はお休みしましたが)134回目。ボツもあるので150回ぐらいコラムを書いているが、そのなかにはなんどか同じ話題を書いたこともある。6年前、私はVol.83にてNYのあるレコード店が閉店する話を書いた。そのお店、〈アザー・ミュージック〉のドキュメンタリーが先日、日本でも公開された。
 私はコラムにも書いたように、お店が閉店する日のインストアに行って、一緒に街をセカンドラインのごとく練り歩いた。そして、バワリー・ボールルームで小野洋子さんとヨ・ラ・テンゴ、サイキック・イルズを見るという素晴らしい1日を共有することができた。そのときは将来ドキュメンタリー映画ができるなどとは思っていなかったけれど、このレコード・ストアが存在したことは次世代へと伝えていくべきだとは思っていた。つい最近は、エレファント6(2022年11月10日リリースThe Elephant 6 Recording Co.)のドキュメンタリー映画も完成している。〈アザー・ミュージック〉もそうだが、こちらも00年代のUSインディ・ミュージック・シーンの貴重な記録となっていることだろう。

 さて、〈アザー・ミュージック〉が存在した90年〜2000年代は、今日のようなデジタル社会ではなかった。まだアナログ時代なので、アメリカに不慣れだった私も紙の地図を片手に街を歩く日々だった。そんな私は、初めてNYに到着すると空港から直行で〈アザー・ミュージック〉に行ったものだった。なぜならレコード店には、私に必要な情報が揃っている。どんな街でもそれは同じだ。店にあるフライヤーでその日の夜のライヴ情報を得て、店員が推薦する音楽を聴いたり、おいしい食べ物やおすすめのお店などその土地の情報を教えてもらったりする。
 ちなみに私が初めて来たアメリカの都市は、ボルティモアで(アニマル・コレクティヴ、ダン・ディーコンの出身地ですね)、初めて見たショーがカーディガンズとパパス・フリータスのショーだった(その時期日本はスウェディッシュ・ポップが大流行)。たまたまその日に入ったレコード店にフライヤーがあって、店員に「このショーに行きたいんだけどチケットはここで買える?」と聞いたら、「直接会場へ行け」と言われた。行ったらチケットは売り切れで、結局そこにいたダフ屋から買った。正規の値段は$5だったが、ダフ屋は$10(千円ちょっと)。許せる範囲だった。
 しかもその晩見たショーは感動の連続だった。パパス・フリータスとは直接話すことができたし、レコード店で買った7インチにサインももらった。カーディガンズのニーナ嬢には、「良かったよ!」と言ったら「サンキュー」とスマイルを返してもらった。憧れのバンドを見れたし、話せたし、うれしさで舞い上がってしまい(そしてショーの安さに驚き)、アメリカに引っ越すことを決めてしまった。その日、レコード店に行ってなかったらショーには行かなかった(あることも知らなかった)。やはり、レコード店にはマジックがある。

 話は前後するが、私が初めてひとりで行った街はロサンゼルスだった。日本から近いし、ショーがたくさん見れると思った。LAが歩いて移動できないことなんて知らなかったほど、無謀ではあったが。しかし、たまたま取った安いホステルがハリウッドにあって、そのホステルから歩いて5〜10分のところに〈ノーライフ〉というレコード店があった。滞在中はずっとそこに通った。フライヤーをチェックして、コーヒーを飲みながらソファーに座ってたくさんのCDを聞いた。店員も毎日来る日本の女を覚えてくれたようで、向こうから「今日はこのショーがあるよ(自分のバンドだったりする)」とフライヤーを渡してくれるようになった。やがてビーチ・ウッド・スパークのメンバー(当時ストリクトリー・ボールルーム)と仲良くなって練習に連れていってもらったり、ブライアン・ジョーンズ・タウンのメンバーの家に遊びに行ってミンストレルズというバンドを紹介してもらった(彼らはLAショーのコーネリアスのオープニングでプレイした)。〈ノーライフ〉には多くのLAローカルなバンドを教えてもらった。たくさん知りすぎてレーベルを立ち上げるまでになった。ミンストレルズも私のレーベルからも作品をリリースしている。
 こんな風に、レコード店がなかったら私はレーベルをやらなかったし、そもそもアメリカに引っ越すこともなかった。私はアセンス、ミネアポリス、シカゴ、シアトル、ポートランド、サンフランシスコ、プロヴィデンス、ボストン、オースティンなど、アメリカの小さな大学街を5年ほど放浪していたが、初めてその街に着いたら最初に行くところは決まってレコード店だった。そこで地元の情報、おすすめのレストランや洋服屋、別のレコード店、音楽会場やバンドまでたくさん教えてもらったし、友だちも増えた。

 〈アザー・ミュージック〉は1995年、タワー・レコードの向かいに開店した。タワーにはない「他の=other」ミュージックを扱うということで店名は決まった。私の〈アザー・ミュージック〉の過ごし方は、まずは入ってフライヤー・コーナーでショーやイベントをチェックする。そして、どんなCDやレコードが面出しされているのか店内をぐるっとし、スタッフのお勧めコーナーを見る。雑誌コーナーもむらなくチェックしたり、こんな感じで長い時間を過ごした。自分の執筆していた雑誌やレーベルのCD、レコードなどを置いてもらったりもした。このレコード店では、本当に多くの時間を過ごしたものだった。私のレーベル〈コンタクト・レコーズ〉の最初のコンピレーションCDのカヴァーは〈アザー・ミュージック〉の店内だった。反射鏡(防犯鏡?)が店内にあり、そこに写った画像だが、インディ・ミュージックのコンピレーションのカヴァーとしてばっちりに思えた。
 私は、人が少ない朝の時間に行くようにしていた。あるとき店員が音楽をかけていて「これは誰?」と聞くと、自分の音楽やレーベルの音源を試し聞きするためかけていただけだったこともあった(笑)。〈アザー・ミュージック〉の店員はみんなクリエイティヴな活動をしていたし、お店は、いろんなプロジェクト誕生の土壌にもなっていた。ドキュメンタリー映画を作ったのも元お客さんだ。ディレクターの2人はここで出会って結婚して家族を築いている。オーナーのジョシュの奥さんもここの店員だった。私の担当者は、最初はフィル(現デッド・オーシャンズ)、スコット(パンダベアとJaneというバンドをやっていた。DJ)、ジェフ(ヴィデオ・グラファー)、ダニエル(アーティスト)だった。
 〈アザー・ミュージック〉はジャンルの分け方も独特だった。レコードやCDは、ただ「IN」と「OUT」のふたつだけに分かれていた。「IN」がインディで「OUT」がそれ以外。「OUT」のなかにはジャズやアンビエント、グローバル。ミュージックなどがあった。

 デジタルな現代ではレコード店に行かなくても地元の情報はすぐに手に入るようになった。欲しいレコードがあればインターネットで検索すればいいし、たくさんの情報が瞬時に手に入る。しかし、それでもレコード店はなくならない。この連載のVol.132「NYではレコードのある生活が普通になっている」でも書いたが、〈アザー・ミュージック〉がクローズしてからもNYにはたくさんのレコード店がオープンしている。ただ、〈アザー・ミュージック〉の時代はデジタル社会の現代では体験できない、特別なアナログな一体感があった。仕事が終わったらレコード店に行って休みの日もレコード店に行く。たわいもない話をし、友だちがいたら紹介しあい、新しい音楽に出会える可能性があることにわくわくした。地元の人が集まってのデジタル上では味わえない体験、私たちが〈アザー・ミュージック〉から学んだこうしたコミュニティ感は、この先も継承されていくべきものだ。

 私は最近、1か月に1回ブッシュウィックのミードバーで「たこ焼き」を焼きながら音楽イベントをオーガナイズしている。面倒な手続きはなくライヴ・ミュージックやDJができるので、若い人から年配までやりたい人が自由に参加するイベントになっている。友だちが友だちを呼んで、たくさんのミュージシャン、アーティスト、ファッション・デザイナー、ヘアドレッサー、アニメーター、ダンサーなど参加してくれている。次回で63回目、3月で6周年を迎えるが、レギュラーも増えているし、とりあえず来る人も増えているのでブッシュウィックのなかでひとつの小さなコミュニティを築いていると感じられるようになった。
 こうした小さなイベントのようなものは他でもあるはずだ。オンライン上にもあるかもしれない。好きな音楽の話だけで仲良くなれる。このコミュニティ感は〈アザー・ミュージック〉から引き継いだものだ。かつては、〈アザー・ミュージック〉がNYインディの大きなコミュニティの代表だったが、今日では小さい〈アザー・ミュージック〉型コミュニティがたくさんあるのではないだろうか。

 〈アザー・ミュージック〉が閉店して6年が経った。いま私たちはコロナ時代を生きている。仕事もなくなり、野菜や卵、スーパーマーケットにあるものの値段が上がり、外食もチップの率が18%から25%が平均になるなどお金がかかる世界になった。NYはそのせいで精神状態が不安定な人が多くなって、治安が悪化している。未来はいったいどうなるのかと不安が多い今日この頃だ。〈アザー・ミュージック〉のドキュメンタリーを見ると、しかし大事な物はそこにあると改めて確認することができる。こんなに幸せな気持ちになれるドキュメンタリーを見ない手はないというのが私の意見です。
 ご存じのように、〈アザー・ミュージック〉は実店舗は終わったが、オンライン・ストアはあるカム・トゥギャザーというレコード・フェアを1年に1回開催してもいる

Various - ele-king

 W杯で日本に負けたスペインのエンリケ監督が試合後のインタヴューに答えているのを観ていたら「日本には失うものがなかったから」とかなんとか話していて、それって、最近どっかで聞いた言葉だなーと思っていたら、ああ、山上容疑者を「無敵の人」と評していた人たちの理屈だったと思い出した。そっかー、サッカーの日本代表と山上容疑者はどちらも失うものがなく、それで思い切ったことができたのかーとサッカーファンでも山上ファンでもない僕は簡単に納得しちゃうのであった(野田努から火炎放射機のような反論が飛んで来そう~)。デビューして間もないプロデューサーというのも、まあ、何をやってもまだ失うものは何もないわけで、ブリストルのグランシーズ、リーズのイグルー、そして日本のアベンティスに加えてナゾのフスコ(Hussko)、ナゾナゾのクレメンシー、ナゾナゾナゾのユッシュ(Yushh)といった無名の新人たちを集めた『To Illustrate』というコンピレーションも内容が実に思い切っていて、これがなかなかに素晴らしかった。彼らに加えてレーベル・オーナーであるファクタとK~ローン、そしてフロリダからニック・レオンと韓国からサラマンダも曲を寄せ、タイトルは『(例を挙げて)説明する』と付けられている。え、何を説明するの?と思ったら「まだ名前のついていない音楽」とのことで、それはレゲトンにインスパイアされたクラブ・ミュージックだったり、トリップ・ホップ・リヴァイヴァルやUKベースがいずれもBPM100前後のゆっくりとしたテンポで展開されている現状を例証していくというコンセプトだという。あえてジャンル名はぶち上げませんよということでしょう。それは賢明なやり方です。名前をつけると、いらない人のところにまで飛んでいってしまうから。

 なるほどゆったりとしたグランシーズ “Sun Dapple(木漏れ日)” で幕を開け、そのままR&Bに着想を得たというファクタとK-ローンの共作 “Kiss Me, Can't Sleep” へ。今年、フエアコ・Sの大阪ツアーをサポートした日本のアベンティスもダンスホールをふわふわにした “Bicycle” で同じヴァイブレーションを持続させ、同じくダンスホールを暗いモードで聞かせるフスコ “Two Nights In Peter's Bog”、少し目先を変えてファニーな要素を加えたイグルー “Rockpool Pool Party” へ。いつものアンビエントではなく、水中にいるようなダブステップのサラマンダ “κρήνη της νύμφης” から比較的長いキャリアを持つニック・レオンはマイアミ・ベースをUKベースに変換したとインフォーメイションには書いてあったけれど、僕にはゴムとアマピアノの中間に聞こえる “Separation Anxiety” を(この人は昨年リリースした「FT060 EP」が素晴らしい)。続いてレゲトンにダブのエフェクトを加えまくったヘンツォ “Whirlpool Vanish” とカンがダンスホールに取り組み、そのテープが水浸しになったようなクレメンシー “Girl Food” (この人も一昨年の「References」が妙な余韻を残している)。最後は再びレーベルー・オーナーのファクタがユッシュと組んだ “Fairy Liquor” で、ダンスホールを柔らかくリスニング・タイプに仕上げたもの。そう、半分ぐらいは〈Warp〉の『Artificial Intelligence』ダンスホール編とか、そんな感じのことをやっていて、これをやったところで失うものは何もなさそうなものばかり。

 〈Wisdom Teeth〉というレーベルは10年近く前にベース・ミュージックのレーベルとしてスタートし、これまでにレーベル・オーナーのK-ローンとファクタ以外にロフト(アヤ)やパリスピエツォやトリスタン・アープと、かなり痺れるメンツを揃えてきたレーベルであるにもかかわらず、その人たちをまったく起用せず、彼らが考える新しい傾向を「例証」するコンピレーションとして新顔ばかりを集めてきた。K-ローンが2年前にリリースしたデビュー・アルバム『Cape Cira』やファクタが昨年リリースした『Blush』にももちろん通じるものはあり、まっすぐに進んだ結果が『To Illustrate』だということなのだろう。緊張感あふれるこの世界をもっと柔らかくしたい。彼らのそんな願いが僕には通じた1枚です。

Pantha Du Prince - ele-king

 憂鬱だ。個人的に最近大きく動揺したニュースは、宮台真司襲撃事件とイランでの蜂起の弾圧だった。前者については犯人の動機が不明な以上、それが言論にたいする攻撃なのかどうかはまだわからないわけだけれど、暗い気持ちになるのは避けられない。ただただ宮台さんの恢復を祈るばかりの毎日……。後者については、当局を非難しているのが(民衆だけでなく)世界最大の軍事力を保有する合衆国でもあるという(ロシアとおなじ)図式を思い浮かべてしまって、頭がくらくらしてくる。下からも上からも横からも暴力の嵐が吹き荒れる2022年、ぼくらはいったいどうしたらいいのでしょう。
 音楽の長所のひとつは、一時的にその世界へと逃げこめるところだ。ドイツのパンサ・デュ・プリンスことヘンドリック・ヴェーバーは、大変な時代を生きるぼくたちを、さまざまな苦悩から解放してくれる。世界じゅうがイラクに釘づけになっていた2000年代前半は、他方でフォー・テットのようなフォークトロニカだったり、アクフェンやヴィラロボスのようなミニマル勢がトレンドを形成した時期でもあった。あれもある種の逃避だったのだろう。2004年にファースト・アルバム『Diamond Daze』を送り出したパンサ・デュ・プリンスは、いまでも当時の時代精神を継承しようとしているのかもしれない。

 ミニマル・ハウスを基調とする彼の音楽が大きな注目を集めたのは、〈Rough Trade〉からリリースされた3枚目『Black Noise』(2010)だった。パンダ・ベア(アニマル・コレクティヴ)やタイラー・ポープ(LCDサウンドシステム/チック・チック・チック)の参加が象徴しているように、ダンスとインディ・ロック双方のシーンへの訴求に成功した同作──リミックス盤にはモーリッツ・フォン・オズワルドやフォー・テットをフィーチャー──をもって、パンサ・デュ・プリンスの音楽はひとまずの完成を見たと言っていい。やさしい4つ打ち、ベルや木琴の乱反射、鳥の鳴き声や流水のフィールド・レコーディング、透明感に安心感……清らかな音響に磨きをかけるのと並行して彼は、以降、次第に「自然」のテーマを追求していくことになる。
 たとえばハウス・ビートを脇に追いやり、一気に瞑想性を高めた前作『木々の会談(Conference Of Trees)』(2016)は、植物や菌類からインスパイアされたアルバムだった。そこで描かれる自然は人間に乱暴をはたらく脅威ではなく、人間がそうであってほしいと期待する自然、われわれに落ち着きや安らぎ、癒しを与える存在だった。

 ふたたび4つ打ちが多く導入された新作『ガイア(地球)の庭』も、この星が持つ「自己制御システム」から触発されているという。プレス・リリースでは「マインドフルネス、そして自分の周りで起こっていること、自分の中で起こっていることに対して高い意識を持つこと」の重要性が説かれていて、なにやらニューエイジ臭が漂っているけれども、サウンド自体はそこまで極端にスピっているわけではないので、たんに「(気候変動に)気づきましょう」くらいのニュアンスかもしれない。
 川のせせらぎや鳥の声をふんだんに散りばめた冒頭 “Open Day” を経たのち、2曲目 “Crystal Volcano” でアルバムは早くもひとつの頂点に到達する。ダニエル・ラノワ風のシンセの波、さえずる鳥にマリンバ──あるいは終盤の “Liquid Lights” できらきらと舞い転がる高音パートを聴いてみてほしい。安楽の極みである。ジャンベなどのパーカッションに光を当てた “Mother Drum” も、アフリカンな気配はそぎ落とし、メディテイティヴな音世界を構築している。どの曲も仕事や家事、受験勉強などですさんだ生活を送っている者たちを、美しき桃源郷へと導いてくれること間違いなしだ。
 本作を聴いていると、いっさいの悩みから解放されたような気分を味わうことができる。12月11日、目前に迫った来日公演でもきっと、パンサ・デュ・プリンスはぼくたちを大いに逃避させてくれるにちがいない。

大規模なフェスティバルはなぜ消えたのか。
その後の音楽フェスの原型となったフェスティバルが遺したものとは?

たくさんの困難を乗り越えて、世界の音楽を紹介してくれたのが「ウォーマッド横浜」だった。 ──ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
現在、日本で隆盛をきわめる「フェス」の、その実質的な原点が「ウォーマッド横浜」だった。だがあれだけの巨大イベントも、今は語られることはない。そのナゼ、隠された秘密を、企画立案者だった横浜市の担当者が紐解いてみせた書籍。日本の地方行政のあり方にも踏み込んだ、相当にユニークな日本芸能史・そのエピック。 ──藤田正(音楽評論家、プロデューサー)

1991年から1996年にかけて、横浜博覧会跡地(現・臨港パーク)ほかで開催された国際的文化イベント「WOMAD横浜」の内実を、当時、横浜市の担当者だった著者が生々しく語る。未発表写真多数。

特別寄稿:ピーター・バラカン、布袋泰博(スキヤキ・ミーツ・ワールド実行委員長)ほか

写真:菅原光博、石田昌隆、菊地昇

未発表の貴重な写真を網羅:都はるみ、坂本龍一、スザンヌ・ヴェガ、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン、パパ・ウェンバ、ユッスー・ンドゥール、デティ・クルニア、照屋林助、りんけんバンド、ほか

四六判 256ページ

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* 発売日以降リンク先を追加予定。

Satomimagae - ele-king

 独特の静けさを携えた実験的なフォーク・サウンドを響かせるSatomimagae。彼女がおよそ10年前に録音し、自主で発表していたデビュー・アルバムがリマスタリングされ、拡張版となって復活する。いうなればSatomimagaeの原点にあたる作品だ。その『Awa (Expanded)』は2月23日、〈RVNG Intl〉よりリリース。CDは日本盤のみで〈PLANCHA〉から。まずはヴィデオも公開された “Inu” を聴いてみて。引き込まれます。

Satomimagaeが自主制作でリリースしていたデビュー・アルバム『Awa』の10周年リマスター・拡張版がRVNG Intl.からリリース決定。先行ファースト・シングル「Inu」がリリース&MV公開

昨年RVNG Intl. / Guruguru Brainから傑作アルバム『Hanazono』をリリースした、東京を中心に活動しているエクスペリメンタル・フォーク・アーティスト、Satomimagae。彼女が2012年に自主制作でリリースしていたデビュー・アルバム『Awa』を再考し、新たな活力を吹き込み、その10周年記念として拡張版『Awa (Expanded)』がRVNG Intl.からリリースされることが決定致しました。CD版はPLANCHAからのリリースで、日本のみです。

収録曲から先行ファースト・シングル「Inu」がリリースされ、同時にミュージック・ビデオも公開されました。

Satomimagae “Awa (Expanded)” 2023/02/23 release

Artist: Satomimagae
Title: Awa (Expanded)
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-187
Format: CD / Digital
Release Date: 2023.02.03
Price(CD): 2,000 yen + tax

昨年RVNG Intl. / Guruguru Brainから傑作アルバム『Hanazono』をリリースした、東京を中心に活動しているエクスペリメンタル・フォーク・アーティスト、Satomimagae。彼女が2012年にリリースしていた魅力的なデビュー・アルバム『Awa』を再考し、新たな活力を吹き込み、その10周年記念として拡張版『Awa (Expanded)』のリリースが決定。

2011年から2012年にかけてSatomimagae自身によってレコーディング、ミキシング、マスタリングされたこのアルバムは、彼女の特徴である叙情的なアトモスフィア、アコースティック・ギター、環境芸術の組み合わせを支えるソングクラフトに対する鋭い耳と広い目のDIYアプローチを伝えている。大きな衝撃というよりも深い余韻を残す『Awa』は、 Satomimagaeの世界にあるいくつかの物語の起源の1つである。

『Awa』は、彼女が7年の間、ほとんど一人で音に没頭していた間に書いた曲を集めたもので、大学で化学と生物学を学んでいた時期と一部重っている。大学では毎日授業、毎晩研究室での実験という生活が繰り返された。その密閉された空間で、ファンタジーの世界が形成され、彼女が慣れ親しんだいくつかの楽器 (古いアコースティック ギター、フェンダー ベース、そして彼女の周囲のフィールド音) に手を伸ばし、その出来事を音楽の文脈の中で捉え、考察していった。彼女の声を含む音の受容体の集合体から、苔の膜、宝箱、灰、蝋などのイメージが浮かび上がる。土と幻想の錬金術、そして音楽の伝統を超えて機能するフォーク・アルバムが形成された。

自宅と実家を行き来しながら、やかんの音、家財道具の音、子供たちの遊ぶ声など、日常生活の中にある不思議な音やリズムと自分の歌を融合させるという新しい試みに挑戦している。映画のサウンドトラック、古いフォークやブルースのレコードの質感、中南米、アフリカ、中東の音楽、そして実験音楽からインスピレーションを得て、彷徨いながらも正確で、荒々しくも確かな音のコンピレーションが生まれたのである。重要なのは、これらの楽曲が元々含まれているノイズも含めて元の音色が尊重されていることで、リヴァーブやディレイなど、音に手を加えることは避けている。そして、それぞれの曲は以前の作品とは明らかに異なっており、このアルバムはデザインによって分類されている。この思想が『Awa』の耐久性の鍵である。それは群れであり、銀河である。

この頃のSatomimagaeの音楽は、主に一人で作られていたが、『Awa』では3人のミュージシャンが重要な役割を果たしている。ライヴに参加することもあるTomohiro Sakuraiは「Kusune」と「Riki」でパワフルなギター演奏とヴォーカルを披露している。ジャズ・トランペッターのYasushi Ishikawaは「Beni」で彼女の歌詞に明確なソット ヴォーチェを加ており、Kentaro Sugawaraは「Tou」でより深い情感を与えるピアノ演奏を見せている。

『Awa』は10年前に自主制作でリリースされ、一部のレコード・ショップで販売され、ささやかな反響を呼んだ。2021年に発表された『花園』を完成させた後、彼女はこのファースト・アルバムの奇妙な音楽にインスピレーションを求めたのだ。初期の作品にありがちなことだが、ファースト・アルバムを欠落したもの、欠陥のあるものとして認識していた。しかし、しばらく間を置いてから、そのアルバムを見直すと、新鮮な発見があった。単なる設計図ではなく、その手触り、心意気は比類なきものだ。Satomimagae自身の手によって蘇り、Yuya Shitoがリマスタリングし、Will Work for Goodのデザインによる新パッケージで生まれ変わった本作は、彼女の近作を愛する全ての人への贈り物となるだろう。

Track List:
01. #1
02. Green Night
03. Inu
04. Q
05. Koki
06. Mouf
07. Hematoxylin
08. Bokuso
09. Tou
10. Kusune
11. Riki
12. Kaba
13. Hono
14. Beni.n
15. Hoshi
16. Mouf Remix

Satomimagae ‘Inu’ out now

Artist: Satomimagae
Title: Inu
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Format: Digital Single
Release Date: 2022.11.30
Buy/Listen: https://orcd.co/j2jerro

Satomimagae – Inu [Official Video]
YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=vS_DXxb47cE

Directed by Kanako Sakamoto
Featuring Hideaki Sakata
Second cameraman: Bobby Pitts II
Assistant: Hidemi Joi

Satomimagae:
東京を中心に活動しているアーティスト。ギター、声、ノイズで繊細な曲を紡ぎ、有機的と機械的、個人的と環境的、暖かさと冷たさの間を行き来する変化に富んだフォークを創造している。
彼女の音楽的ルーツは中学生の時にギターを始めたことから始まる。父親がアメリカからテープやCDに入れて持ち帰った古いデルタ・ブルースの影響もあり、10代の頃にはソング・ライティングの実験をするようになる。その後PCを導入したことで、より多くの要素を加えた曲を作ることができるようになり、彼女の孤独な作業はアンサンブルへの愛に後押しされるようにななった。大学で分子生物学を専攻していた時にバンドでベースを弾いていたことから、様々な音の中にいることへの情熱と生き物や自然への情熱が交錯し、それが彼女の音の世界を育んでいったのである。
この間、アンビエント音楽、電子音楽、テクノなどの実験的でヴォーカルのない音楽に没頭するようになり、聴き方の幅が広がっていった。サンプラーを手に入れ、日本のクラブやカフェでのソロライブを始めた。苗字と名字を融合させた「サトミマガエ」は、彼女の独特のフォークトロニックな考察を伝える公式キャラクターとなった。
初期のアンビエント・フォーク・シンセサイザーを集めたファースト・アルバム『awa』(2012年)は、ローファイ/DIYのセルフ・レコーディング技術を駆使した作品である。2枚目のアルバム『Koko』(2014年)では、彼女は控えめでライヴ感のあるパフォーマンスと、フォークの伝統に馴染んだ温かく牧歌的なエネルギーの冷却を追求した。続いて、『Kemri』(2017)では、より豊かな和音とリズムで伝えられる人間的な感覚に触発されて、この効果をバランスよく調整している。彼女の2作品をリリースしたレーベル、White Paddy Mountainとそのディレクター畠山地平の影響を受けて、スタジオ環境の中でよりコンセプチュアルな方向に進むことができたが、彼女の作曲やレコーディングのプロセスは、自分で作ったものであることに変わりはない。
そしてNYの最先鋭レーベル、RVNG Intl.へ移籍してのリリースとなる『Hanazono』では、URAWA Hidekiのエレクトリック・ギターとバード・コールが加わったことで、子供のような魅力を持つSatomiの微細なヴィジョンが融合している。Satomiの姉であり、アルバムやウェブサイトのすべての作品を担ってきたNatsumiの直感的なビジュアルが、温かみのあるものとクールなもの、手作りと機械で作られたものが混ざり合うというSatomiの夢を、彼女の別世界への窓のように機能する木版画で見事に表現している。
2021年には最新アルバム『Hanazono』に由来する繊細な周辺の花びらの配列である”コロイド”を構築した。自身の楽曲から4曲を選曲しリアレンジした『Colloid』を引き続きRVNG Intl.から発表した。

Terri Lyne Carrington - ele-king

 グラミー賞を受賞するジャズ・ドラマーであり、過去10年間女性やトランス、ノンバイナリーの人びとの声を高めるために精力的に活動してきたテリ・リン・キャリントンは、2022年9月に発表した作品『New Standard vol.1』で、ジャズの物語を変えようとしている。

 このアルバムは、テリのキュレーションによる101人の女性作曲家の楽譜集「101 Lead Sheets By Women Composers」(ジャズで主に使われる楽譜はリードシートと呼ばれ、メロディーやリード・ラインとコード・シンボルだけの簡素な表記で構成される)がもとになっており、ここからの11曲がアルバムに収録されている。この楽曲集には、1922年のリル・ハーディン・アームストロングの作品から、学生が2021年に書いた曲まで、ほぼ1世紀にわたる女性の楽曲が集められているが、そのなかからハーピストのブランディー・ヤンガー、クラリネット奏者のアナット・コーエン、ヴォーカリストのグレッチェン・パーラトからアビー・リンカーン、カーラ・ブレイらの作品が選ばれ、演奏者は、キャリントン(ドラム)、クリス・デイビス(ピアノ)、リンダ・メイ・ハン・オー(ベース)、ニコラス・ペイトン(トランペット)、マシュー・スティーブンス(ギター)中心に、アンブローズ・アキンムシーレ、ラヴィ・コルトレーン、サマラ・ジョイ、ジュリアン・レイジなどの11人のゲストを迎える構成になっている。ヴォーカル・ナンバーから意匠を凝らしたコンテンポラリーな作品、フリーフォームなものまで、ジャズの幅広さを証明した選曲であると同時に、各ゲストが、冒険心を持って新たな価値観に向かっているような演奏が曲の端々に窺える。

 ドラマーとしてハービー・ハンコックや、ウェイン・ショーターとの共演で知られるテリ・リン・キャリントンは、ジェームス・ブラウンのバックバンドをしていたサックス奏者の父親の影響で幼少期から音楽活動を開始し、その天才的な才能を買われ偉大なミュージシャンの舞台にも立っていた。11歳のときオスカー・ピーターソン・バンドにゲストとして迎えられ、その演奏に感銘を受けたバークリー音楽大学の創設者は、キャリントンに全額奨学金を提供した。高校から週1回の授業を重ね、同校卒業後はニューヨークやロサンゼルスを拠点に活動。教育者としても活動を広げ2007年には母校の教授に就任、2018年には、Berklee Institute of Jazz and Gender Justiceという新しい学部を創設した。

 楽譜集を作るきっかけとなったのは、この学部の最初のオープンイベントを開催するときのことだった。学生たちと女性が書いた曲を演奏しようという企画が持ち上がり、標準的なリードシートとされる教材「The Real Book」を見たところ、女性が書いた曲がひとつしか見つからなかった。その瞬間からテリはこのジャズにおける “作られた物語” を編み直す作業を着々と地道に進めていった。

 1960年代以降ジャズが全米の大学の正式な基礎過程に定着してからというもの、約40年以上にわたって、学生やプロのミュージシャンは、ジャズ・スタンダードのリードシートをこの「The Real Book」に頼ってきた。じつは、この「The Real Book」の初版は、ビバップ時代に流行った曲を手書きのチャートに書き写ししただけのものだったとも言われている。ここに手書きされたものがいつしかジャズの正典として、確固たる位置を占めるようになっていく。

 テリは、長年のキャリアのなかで男女の意識をすることなく多くの実力者と出会い共演してきた。そのなかには、作曲もできる女性が当たり前のようにいた。しかしこうした女性の実力は、十分に残らないことを「The Real Book」が示しており、それと同時に、ジャズや作曲について学ぶとき、男性だけが書いた教材に基づいていることに気づいた。

 「New Standardsは、未来のミュージシャンのためのものでもある」とテリは答える。「高校生や大学生、偉大なプレイヤーから初心者まで、このリードシートから何かを見つけられると思う。だから、大学の図書館に置いてほしいし、高校の教育者が教えるための道具として使ってほしいのです」

 「New Standard vol.1」は、テリとマシュー・スティーブンスのプロデュースによって作られたが、これはまだ「Vol.1」に過ぎない。これに誰かが続き、楽譜集から101曲すべてを録音し世に広めた後には、ジャズの姿はまたいまとは違ったものになっているだろう。テリがしていることは、公平な歴史の編み直しであり、それは同時に新たなジャズの価値を見出すことでもある。

非常宣言 - ele-king

 パンデミックに拡大自殺を掛け合わせた社会派エンターテインメント。挙動不審の男が飛行機にウイルスを持ち込み、乗客が感染し始める。何も知らされない乗客たちはスマホで事態を察知し、だんだんとパニックに……という2時間半のジェットコースター・ムーヴィー。ダレるどころか予期しないことが次から次へと起こって気が休まらず、スピーディーな展開についていくのみ。ハリウッドがやりそうな企画だけれど、いまは韓国映画がこういうのをやるんだなと。壮大なスケールのパニック映画にソン・ガンホとイ・ビョンホンという韓国映画の二大看板がそろって出演というのはポール・ニューマンとスティーヴ・マックイーンが『タワーリング・インフェルノ』(74)で共演したことを想起させる。街の名士や富裕層がまとめて地獄を見る『タワーリング・インフェルノ』は建築業者の手抜き工事が原因だったのに対し、正体不明の男が飛行機という閉鎖空間に致死性ウイルスを持ち込むというアイディアは現実の世界で模倣犯が出たらやばいんじゃないかと心配にもなるし、こういうのをメタヴァースで体験できるようにしたら5分で満席になりそうだと思ったり(あまりにリアルだと機長が死ぬあたりで心臓マヒりそうだけど)。

 現実に近いテーマであり、スケールが大き過ぎて破綻しないだろうかという心配もあった一方、最初から犯人を特定していることでどこの国からウイルスが出たかという議論はしなくて済むといえるし、世界中で起きたパンデミックの影響を機内に縮図として表現すればいいわけだから、むしろ多くのことが省略できて、人類がいまだ手に負えずにいる問題をコンパクトに落とし込むにはいいアイディアだったんだなと。しかも、北朝鮮が崩壊した時に韓国に押し寄せかねない難民の群れをメタファーに使った『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)の成功で韓国映画はすでにパニック・ムーヴィーのフォーミュラは持っているわけで、同作の美術を手掛けたイ・モクウォンが機内の美術も担当したと聞けば、高速鉄道のなかで大量発生するゾンビをパンデミックに置き換えるだけですでに半分ぐらいはできていたとも思うし。また、飛行機が逆さまになってしまうシーンは韓国で10年以上人気が衰えない絶叫マシーン、ディスコパンパンのイメージをダブらせたのかなと。遠心力で振り落とされるのが楽しいディスコパンパンは、立ち上がったり、自撮りに挑戦する者もいるけれど、よく怪我人が出ないなと思う過激なアトラクション(https://www.youtube.com/watch?v=0xlZfoElzcE)。登場人物の心情とメリーゴーラウンドを同じ無限ループとして見せた『ベイビー・ブローカー』と同じく、大事な人を助けようとすると自分も犠牲になるという部分で重なるところがある。

 全体的には特定のヒューマン・ドラマを掘り下げず、ここ3年でパンデミックが引き起こした騒ぎを務めて表層的に描くことで、『非常宣言』はフィクションであるにもかかわらずドキュメンタリーに近いものとして追体験できる作品となっている。いまでは薄れてしまったけれど、人が咳をするだけで敏感になっていた感じや人との距離感が変わり始めた頃の生理的な行動様式など現実の世界で混乱を招いたファクターが細かく拾われていて、ああ、あんなこともあった、こんなこともあったと思う場面があちこちにあり、よくも悪くもSNSやスマホが世界の動きに影響しているところが過去のパニック映画とは決定的に異なっている。情報が伝わる速度が早いし、情報があらゆる方向から飛んでくるので判断力を失い、パニック度がいやでも上がる(フェイク・ニュースの類いがもたらす混乱は省かれているのに、それでもかなりややこしい)。ソン・ガンホ演じるク・イノ刑事は飛行機に搭乗しているわけではなく、同時進行で地上を走り回り、犯人の周辺を捜索していくうちにある製薬会社の存在にたどり着く。警察の動きは梨泰院クラッシュで見せた体たらくがウソのように機敏でムダがない。

 観ながら何かを考えるには適さない作品だけれど、それでも最初に引っかかったのはやはりエッセンシャル・ワーカーの認知のされ方。機内に感染が広がっているという情報が共有され、誰であれウイルスに侵されるとわかっても乗客と乗務員のヒエラルキーは強固なままで、むしろ乗客の要求は強さを増す。乗客の死は定石通り捨て駒のように描かれるのに対して乗務員の死が多少は丁寧に描かれているのは意図的なのだろう。1人ぐらい乗務員の仕事を放棄して責任をまっとうしない役回りがいてもよかったと思うくらい、乗務員は厳しい条件に置かれていることが印象に残る。次に気になったのは、事態を把握してすぐに「アメリカと連絡を取って」というセリフが無造作に出てきたこと。それは飛行機がハワイに向かっている便だったからなのか、それとも日常的に問題解決のパートナーとしてアメリカの存在が大きいのか。北朝鮮のミサイル情報をアメリカに確認する日本政府と同じ感覚が韓国にもあるということなのだろうか。亡くなった機長に替わってイ・ビョンホン演じるパク・ジェヒョクが操縦する飛行機は、しかし、アメリカに着陸を拒否され、(以下、ネタバレ。できれば公開後にお読みください))一転して進路を成田に向ける。最も考えさせられた展開がここから。アメリカ同様、ウイルスに感染した乗客が乗った飛行機の着陸を認めなかった日本は自衛隊機を差し向け、旅客機に向かって機銃掃射を始める。着陸を認めないという判断はわかるものの、明らかに民間機とわかっていて発砲する国だと日本は思われているのか。現在の日韓関係がこのシーンには凝縮されている。このシークエンスはさすがに切なかった。

 パク・ジェヒョクたちが経験する苦境はしかし、最終的に本国である韓国に戻ることも拒否されるところからストーリーは最後の佳境に入っていく。政府は必死になってワクチンを探し出し、着陸地点が決定されるも、感染の拡大を恐れた国民の半分が着陸に反対し、空港の滑走路を反対派のデモ隊が占拠する(賛成のデモ隊と衝突する)。飛行機の乗員も乗客も着陸を断念し、パク・ジェヒョクがどこへ進路を定めたかは不明。このあたりは少し韓国の大衆的な美学が色濃く投影されているのか、死の予感が作品全体を妙なテンションで包み込んでいく。そして、ク・イノ刑事は「死の予感」を超える「死の予感」でこれを乗り越えようとする。拡大自殺を図る犯人と飛行機の乗員・乗客、そしてク・イノ刑事はいわば3通りの死をプレゼンテーションし、3通りの結末が導かれていく。この作品で自己犠牲がヒーローの要素になっていることは間違いないけれど、犯人が拡大自殺を図る動機も刑事が飛行機を救おうとする動機も「母を強く思う気持ち」とリンクしていることが示唆されていて、いわば母との関係が人を殺しもし、人を助けもするという対比になっている。これらを図式的に整理してみると「母を強く思う気持ち」と「自己犠牲」のどちらかを持っているよりも、その両方を持っていることが韓国では最強のカードだということになる。それと同時に政府側の総指揮を取るのは大統領ではなく若い女性大臣というのも見逃せず、いわば主人公たちは母を思い、若い女性と力を合わせて娘を守るという図式も見て取れる。未曾有の問題解決にあたって年寄りの男がまるで必要とされず、日本だと『シン・ゴジラ』で官邸メンバーがずらっと並んでいたのとはだいぶ違う。

 同じく飛行機を舞台とした作品で、サイモン・ウエスト監督『コン・エアー』(97)にもヒューマン・ドラマを掘り下げる要素があればもっと名作になっただろうと思うように、『非常宣言』もパンデミックの記憶がない世代が観る頃にはディティールやリアリティは共有されず、いわゆるエンターテインメント作品として認識されるだけだろう。現在、小学生か中学生ぐらいの子どもが10年か20年後に観たら、どのように感じるのか、その方が気になるというか。ちなみにソン・ガンホやイ・ビョンホンは本サイトでも何度か触れていて説明不要だと思うけれど、犯人役のイム・シワンが主役を務めた韓国ドラマ『他人は地獄だ』(19)はめちゃめちゃ怖くて、それこそソウルに行くのも怖くなるぐらいだったことをあえて付け加えたい。『他人は地獄だ』で死ぬほど怖い目に合わせられたイム・シワンが錯乱して『緊急宣言)で復讐を果たしたと考えた方が納得がいくほど……

Brian Eno - ele-king

 狙いは明確だ。ほとんどの曲にヴォーカルがフィーチャーされている。歌手としてのブライアン・イーノがここにいる。なぜか。言いたいこと、言わねばならないことがあるからにほかならない。
 近年は自身が主導的な役割を担うわけではない共作やサウンドトラック、アーカイヴ音源集などのリリースが続いていたけれど、ライフワークたるジェネレイティヴ・ミュージックの到達点を示した『Reflection』(2017)以来、5年10か月ぶりとなるソロ・アルバムがついにお目見えとなった。
 2022年は国内外問わず、ことばに力のある音楽が多く送り出されている。イーノの新作『永遠にそしてもはやない(FOREVERANDEVERNOMORE)*』もまたその潮流に連なるものと言えるだろう。
 ここ数年の最大の関心事が気候危機にあることは、昨年の「EarthPercent」(音楽産業が、気候問題にとりくんでいる組織をサポートできるようにするための慈善団体)の設立を見てもわかる。新作のテーマもずばりそれだ。

 といってもイーノは、「地球にやさしく」のようなありがちな感傷に留まることはない。冒頭 “Who Gives a Thought” に耳を傾けてみよう。この曲でイーノは「だれがホタルについて考えるだろう」「だれが線虫について考えるだろう/いまや考える時間なんてない/顕微鏡でないと見えないような虫について/研究もされないような細菌について/商業的価値がないから」と小さきものたちへ眼差しを向けたあとに、「だれが労働者について考えるだろう」と続けている。無視される小さきものたちと市井の民を重ねることで、いわゆるSDGs的なものが金持ちたちの新しいおもちゃにすぎないことを暴露する、痛烈な一節だ。
 気候危機について考えをめぐらせるとき、彼は資本主義がもたらす格差を念頭に置いている。三田格+坂本麻里子による『CINRA』のインタヴューをぜひ参照していただきたいが、気候変動の標的が低所得者層だということをイーノはよくわかっている。想像してみてほしい。家が流されるほどの土砂崩れだろうと、地獄のような猛暑だろうと、金持ちならいくらでも対処できるのだから。

 一方で、世のなかにはテクノロジーが問題を解決すると信じている向きもある。そういったおためごかしにもイーノは与しない。“Icarus or Blériot” では、傲慢のため墜落したギリシア神話のイカロスと、じっさいに堅実にドーヴァー海峡横断を成功させた航空技師ルイ・ブレリオが対比され、人類の強欲、やりすぎに警鐘が鳴らされている。絶対に沈まないはずだったのに沈んでしまったタイタニック号をテーマとすることで科学技術への過信をいさめた、『The Ship』(2016)を継承するレトリックだ。IT技術が万事を解決すると思いこんでいるシリコンヴァレー派への挑戦だろう。
 だがイーノ当人もまた、テクノロジーの恩恵にあずかってきた者のひとりだったはずだ。ロキシー・ミュージック時代のVCS 3しかり、ロバート・フリップとの共作におけるテープ操作しかり、数々のヴィデオ・アートにアプリに……じっさい今回も、ほとんどの曲がジェネレイティヴな手法で制作されているという。
 ここで興味深いのがAI技術のひとつ、ディープフェイクの活用である。メロディ・メイカーとしての才能が発揮された “There Were Bells” では鳥の鳴き声のような、しかし電子音のようにも聞こえるサウンドが存在感を放っている。この曲がそうなのかどうかはわからないが、『WIRED』のインタヴューによれば、本作ではディープフェイクで作成されたニセの鳥の鳴き声も用いられているらしい。参照元をあいまいにするこのアイディアは──宣伝も兼ねて言えば、マーク・フィッシャーが『奇妙なものとぞっとするもの』で指摘していたように──『On Land』(1982)に通じる試みと言えよう。テクノロジーはむしろわれわれが普段気づいていない、「ぞっとするもの」を出現させるためにこそあるのだ、と。

 レオ・エイブラハムズ、ジョン・ホプキンス、ピーター・チルヴァースといったなじみの面々とともに練りあげられた暗くも美しい音響は、『The Ship』の続編と呼ぶべき陰影を醸成している。“We Let It In” などで聞かれる低い低いイーノのヴォーカルは、老いたがゆえに出せるようになった声を思うぞんぶん活用しており、とびきりの余韻に浸らせてくれる。“These Small Noises” なんかは民謡のようにもクラシック音楽のようにも聞こえる曲で、彼の新境地と言っていいだろう。
 全体的に、声はエレクトロニクスとの融和を優先している。“I'm Hardly Me” や最終曲における音声合成は『Kite Stories』(1999)や『music for 陰陽師』(2000)、『Another Day On Earth』(2005)のころ──すなわちオートチューンが注目されはじめた時期──によく試みられていたもので、いまこれを持ってくるのは、まだぎりぎりポジティヴな未来を想像することが可能だった00年前後を喚起するためなのかもしれない。

 本作はストレートなアンビエント作品ではないが、といってスターが高らかに歌いあげるアルバムでももちろんない。分類するならやはり「アンビエント」ということになるだろう。メッセージありきとはいえ、保守党をおちょくった “トーリーなら万事順調” のような、いかにもプロテスト・ソング然としたたたずまいは影を潜めている。グラミーを利用し戦争協力を呼びかけたゼレンスキーのごとく、音楽をプロパガンダにすることは、イーノのもっとも嫌うところだ。
 彼はライナーノーツを「皆さんと同じように」という一句ではじめている。そして「感情」の重要性を強調している。シンガロングの類からは慎重に距離をとった楽曲群から推すに、彼は歌をわれわれの周囲にあるもの、われわれをとりまくものとして扱おうとしているのではないか。たとえばコインランドリーで出会う、おそらくは大変な生活を送っているにもかかわらず、どこまでも気さくに振るまう年輩の労働者のように、わたしたちの「まわり」にいる隣人のひとりとして、社会にたいする不満の「感情」を声にしているのではないか。
 だからこれは、おなじくことばが力を持った2022年の作品のなかでも、スペシャル・インタレストウー・ルーのような燃え上がる反骨精神ではなく、まわりにいるはずの「小さきものたち」にフォーカスすることで現代社会の歪みを浮かび上がらせながら、あくまで未来を見据えようとする、七尾旅人のアプローチに近いんじゃないかと思う。人民に寄り添い、おなじ目線の隣人として、気候危機への「感情」を吐露すること。
 アンビエント・マスターであることとシンガーソングライターであることを両立させたイーノが、ここにいる。

* このタイトルは、イーノがよく引き合いに出すソ連の学者アレクセイ・ユルチャクの本『すべては永遠だった、なくなってしまうまでは(Everything Was Forever, Until It Was No More)』(邦訳『最後のソ連世代──ブレジネフからペレストロイカまで』半谷史郎訳、みすず書房、2017年)を想起させる。詳しくは『ele-king臨時増刊号 コロナが変えた世界』72頁参照。

Soundwalk Collective with Patti Smith - ele-king

 音響アートを扱うプラットフォームである、NYの「サウンドウォーク・コレクティヴ」。彼らがパティ・スミスと組んだコラボ・プロジェクトは、ランボーやアルトー、ルネ・ドーマルというフランスの3人の詩人から触発されたシリーズを展開、「The Perfect Vision」と題しすでに3枚のアルバム──『The Peyote Dance』(19)『Mummer Love』(19)『 Peradam(20)──を送り出している。
 そして本日、そのシリーズのリミックス盤がリリースされているのだが、参加面子がなかなかユニークなのだ。ブライアン・イーノやララージといった大物のみならず、ルクレシア・ダルトケイトリン・オーレリア・スミスロティックといった現代エレクトロニック・ミュージックの重要アーティストたちが加わっている。これはチェックしておくべきでしょう。
 なお、それらリミックス曲を収録した『The Perfect Vision: Reworkings』は、シリーズ3作をまとめたボックスセットの一部としてリリースされる模様。

artist: Soundwalk Collective with Patti Smith
title: The Perfect Vision: Reworkings
label: Bella Union
release: November 25, 2022

tracklist:

1. Peradam (Brian Eno Remix)
2. Song Of The Highest Tower (Kaitlyn Aurelia Smith Rework)
3. Ivry (Laraaji Rework)
4. Bad Blood (Lotic Rework)
5. Indian Culture (Lucrecia Dalt Remix)
6. Song Of The Highest Tower (Atom™ Remix)
7. Eternity (Jim Jarmusch Remix)

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