「AY」と一致するもの

Sam Prekop - ele-king

 ザ・シー・アンド・ケイクのサム・プレコップがソロ・アルバム『OPEN CLOSE』を発表。マスタリング・エンジニアとしてテイラー・デュプリーが参加。前作『The Sparrow』からは約3年振りとなる、待望の新作となる。9月26日(金)にシカゴの名門インディー・レーベル〈Thrill Jockey〉と、これまた日本の名門レーベル〈HEADZ〉よりCD盤のリリースも予定されている。なお、日本盤のみ完全未発表の新曲をボーナス・トラックとして追加収録予定。

 サム・プレコップはララージとのツーマンを5月にサンフランシスコにて実施しており、この公演に向けて作曲された楽曲が収録されているとのこと。ザ・シー・アンド・ケイク結成から30年以上、ソロ・デビューから四半世紀を迎えた熟練者の新境地が垣間見える内容に期待が高まります。

Artist : SAM PREKOP
Title : OPEN CLOSE
label : THRILL JOCKEY / HEADZ
Format : CD / Digital
Release Date:2025年9月26日(金)

Tracklist:

1. OPEN CLOSE
2. FONT
3. PARA
4. LIGHT SHADOW
5. A BOOK
6. OPERA
7. MIRROR CHOICE
8. DIVISIONS ADD

Tracks 7, 8 … 日本盤のみのボーナス・トラック

Written and recorded by Sam Prekop in Chicago Summer Fall 2024 Winter 2025
Mixed with John McEntire
Mastered by Taylor Deupree
Cover Photo by Sam Prekop, California 2025
Back Cover drawing by Sam Prekop, November 2024

interview with Meitei - ele-king


冥丁
泉涌

KITCHEN. LABEL / インパートメント

Ambient

Amazon Tower HMV disk union

 冥丁の新作『泉涌(センニュウ)』がすこぶるいい。
 これまで『古風』シリーズなどをとおし、サウンド的にもイメージ的にも過去の日本を喚起してきた彼のニュー・アルバムは、相変わらず日本を題材にしている。けれども今回は、少なくともサウンド面ではわかりやすく「和」のイメージが濫用されたり前面に押しだされたりしているわけではない。現実に存在する別府のいくつかの温泉──という具体的なものがテーマとなったからだろうか。強く印象に残るのはやはり、水(湯)の音……新作はダイレクトに耳を楽しませてくれる豊かな音響工作をもつ一方で、いまにも霧(湯気?)の彼方へと消え去ってしまいそうな、はかなげな感覚も同時にそなえている。フィールド・レコーディングやサンプリングを駆使して丁寧に練り上げられた音の数々からは、たしかに冥丁が新たな道へと踏み出したことが伝わってくる。「これまでの冥丁が、日本というものの主題歌をつくっていたとしたら、今回は日本の劇伴をつくった」とは本人の弁だが、もしかしたらその「劇伴」というあり方が今後、新シリーズ「失日本百景」の核のようなものになっていくのかもしれない。
 ポイントはもうひとつある。これまで冥丁の音楽はしばしばアンビエントないし環境音楽としてとらえられることもあった。じっさいは日本版ボーズ・オブ・カナダというか、むしろエレクトロニカの文脈で整理したほうが齟齬が少なかったような気もするし、華やかな “花魁I” に顕著なように、その音楽には騒々しい側面だってあったわけで(ちなみに冥丁のライヴはかなりノイジーでラウドだ)、本人としては歯がゆい思いを抱いてきたにちがいない。
 そんな彼が今回、「初めて自分でもアンビエントや環境音楽と呼べるものをつくったと思います」と言っている。つまり『泉涌』では冥丁の考えるアンビエント/環境音楽が具現化されているわけだ。その様相をぜひ、自分の耳で確認してみてほしい。

今回は完全にそうですね。初めて自分でもアンビエントや環境音楽と呼べるものをつくったと思います。

新作はずばり温泉がテーマですが、そもそもどういうところから今回の作品ははじまったんですか?

冥丁:大分の別府に竹瓦温泉という有名な温泉があるんですが、去年の夏ツアーをしたときに、そこの二階を使用させていただいたんですね。ものすごく暑い環境でのライヴだったんですが、そのときの主催者が深川謙蔵さんという方で。彼がぼくの音楽をとても気に入ってくださったんです。それで、今後もなにか冥丁さんといっしょにやりたいです、というお話をいただいたので、ぜひ、と。ちょうどその秋、別府市制100周年記念の事業がありまして、その一環としてその温泉の音楽を1曲つくってほしい、というオファーでした。それでまた去年の11月に別府に滞在することになったんですが、そのときは山田別荘という築100年以上の別府北浜の名旅館に泊まることになって、制作がはじまって……という経緯です。

当初は1曲のみだったんですね。

冥丁:はい。せっかく行くんだから収音エンジニアの方にもお声がけしました(いつも九州での公演でお世話になっている Herbay の音響技師、岩崎さん)。いろんな音をとったほうがいいだろうと考えて。それで、ちょっとお手伝いというか、今回は自分ひとりで全部やったわけではなくて、写真家の方と収音エンジニアの方とプロデューサーの方、ぼくを入れて計4人で行くことになりました。これ、見えますかね?(と画面越しに写真集を見せる)

見えます見えます、温泉の写真集ですか?

冥丁:今回、音源だけでなく写真集もリリースするんです。別府での今作の制作過程を記録した内容で。

写真集までつくろうと思ったのはなぜですか?

冥丁:謙蔵さんはいろいろ活躍されている方で、AKANEKO というチームを組織して、別府でフェスを企画されたりもしているんです。そのチームのなかにカメラマン、動画撮影ができる方もいらっしゃって。ぼくが滞在して制作するにあたって、そのいろんな過程を記録に残しておきたい、という話になったんです。それで常時ぼくの近くにカメラマンの方がいる感じだったんですが、岡本裕志さんという写真家の方もそのチームにはいて。どんな写真が撮れているのかのぞいてみたら、めちゃくちゃよかったんです。そしたら謙蔵さんも「写真集出すのもいいですね」とおっしゃって。もうこれはレーベルのひとともきちんと話して、写真集の話を進めようと。ちなみに動画のほうもいま準備している段階です。

その深川謙蔵さんという方は、冥丁さんにお声がけするくらいですから、やはり音楽であったりカルチャーに造詣が深い方なんですよね。

冥丁:そうですね。飲食店を経営しつつ、先ほどの AKANEKO を率いてイベントをやったり。もちろん音楽は大好きで。彼のバー(TANNEL)に行くと、個性的な音響システムがあって。みんなでレコードを聴きながら乾杯している風景がよく見られる場所ですね。別府って地方都市の田舎の町ではあるんですけど、いろんな場所から訪れる方や移住者の方も多くて、大学もあるから若者もいますし、すごくエネルギーが高くて、音楽とかにも敏感なひとが途切れない印象でしたね。ユニークなお店、ユニークなひとが多くて。

これまでの冥丁が、日本というものの主題歌(テーマ・ソング)をつくっていたとしたら、今回は日本の劇伴をつくったような、そんなちがいだと思いました。

新作は、これまで以上に水の音が印象に残りました。温泉ですので当たり前と言えば当たり前なんですが。

冥丁:これまでも水の音はたくさん使っていたんですが、今回音楽制作に入ったとき、温泉が目の前にある風景ばかり見ていましたので、やはりその音っていうのは強く印象に残っていますね。山田別荘には内湯(うちゆ)の温泉があるんです。そこが非常にいいところで、古い温泉ですから、旅館自体も経年変化した特有の味があって、写真集にも載せているんですが、とくに夜がすごいんです。お風呂の底が真っ黒で、なんといえばいいのか、あの世に行くかのような、闇のなかに落ちていくかのような感じがするんですよ。深夜二時くらいに入ったことがあって、ぼく以外だれも入浴していなくて、もうなんてすごい空間なんだろうと思って。そのとき、お湯が浴槽から外にあふれ出て、ちょろちょろと鳴っていて。その音がめちゃくちゃよくて。すごく肉感があるというか、ASMR的ともいえるんですが、それを活かして音楽をつくることができないか、と。今回、アルバムの最後からひとつ手前に、お湯の音しか使っていない、1分くらいの曲があります(“泉涌 - お湯”)。もうただお湯の音が鳴っていれば十分なのではないかと、そう思わせるくらいその温泉での体験が大きかった。だから今回、水の音を邪魔しないように作曲でも心がけました。
 温泉音楽というか、じっさいに温泉に浸ったときに感じられるような気配や空気を表現するというか……温泉をエンターテインメントとして表現するのではなく、温泉に入って体感しているときの角度から見た音楽というか。だから、温泉の高さに合わせてつくっているので、ふつうの音楽より低い位置にあるような音楽になっているのではないかと、自分では思っています。

温泉は1か所のみではなく、複数行かれたんですよね?

冥丁:そうです、いくつか。8か所か9か所くらいですね。録音目的で行ったのは4、5か所です。

温泉によって音にも個性というか、ちがいがあるんですか?

冥丁:これはね、すごくおもしろいことで、まったくちがうんです。ぼくが公演をやったのは竹瓦温泉の二階なんですが、一階にも歴史的な温泉があって。そのなかにスピーカーをもっていって、温泉に入りながらできあがったばかりの曲を聴いてもらうっていう企画をやったんです。おなじことを別府市内の竹瓦温泉以外の温泉でもやって。やっぱり温泉によってリヴァーブの鳴りがちがいますよね。この温泉だとこう聞こえる、あの温泉だとこう聞こえるっている。コンサートホールの響きともまるで異なる響きで。そこで知って学んだ響きを、ミキシングの段階でもかなり活かしたつもりです。

じっさいの温泉でこのアルバムの音を鳴らしたら、もともとそこで鳴っている音と干渉したりしないんでしょうか?

冥丁:します、します。反響して、いろんな角度に音が飛んでいって、それが湯けむりに包まれているような感覚になるんです。

なるほど。今回はかつてない状況での録音、制作だったわけですが、いちばん苦労した点はなんでしたか?

冥丁:もう睡眠時間ですね。毎日1、2時間しかなかったので。なぜそうなってしまったかというと、ぼくは一応の肩書としては「音楽家」「作曲家」ということになるんだと思うんですけど、当人としては「ディレクター」のほうが合っていると思っているんです。今回の企画も、写真家の方がいて、フィールド・レコーディングをする方がいて、場所を押さえてくれる方がいて。ぼくはそこでみんなを巻きこんでいく役割のほうがおもしろいんじゃないかということに気づいたんです。音楽をつくりながら、被写体でもあり監督でもあるというか。だから今回は、たんに曲をつくって帰るのではなく、ひとつ世界をつくって帰る感じで。それで、現場でつねに「あれをこうして」って指示しながら、手探りで、試行錯誤して世界をつくっていった。1週間という限られた時間しかなかったので、そういうことを朝の5時から夜の2時までやっていたんです。

それは大変でしたね。帰ってからの、ポスト・プロダクションの過程はどうでしたか?

冥丁:曲の大まかなラインはできていましたので、あとはつくりこんでいく段階ですが、音がくっきりしすぎていると、温泉のなかにいるのではなく、温泉を観ながら描いた絵、スケッチのような感じになってしまって。リアリティを出そうと思ったときに、逆に音をぼやけさせるようにしました。だからマスタリング・エンジニアの方(ステファン・マシュー)には位相がズレすぎていると指摘されましたね。これはレコードにできないかもしれない、って。それでまた調整したりしたんですが、やっぱり位相がズレていないと、あの別府の温泉の雰囲気にはならないんです。それで、ぼやかしながらもちゃんと聴ける音楽にする、ということはすごく心がけましたね。

なるほど。

冥丁:温泉というのは鉱脈的で、マグマからの水蒸気や水分が地上に噴出している状態にあります。そして、泉源からはつねに高温の熱風、シューッという音の蒸気が吹き出しています。これは『泉涌』のB面で聴いていただけますが、とくに “四湯” ではマグマの音のように、地中から湧いているエネルギー、90度を超える熱をもった音を素材として生かしています。ちょうどぼくがそこを訪問した日は大雨だったので、そのような印象も楽曲にあらわれているかと思います。
 ちなみにアルバムを再生して最初に聞こえてくる音は、じつは水琴窟です。そういう鉱脈的なものの響きを表現するのになにがいいか探ったときに、人工的な穴から聞こえてくる水琴窟の音もまた、じぶんのなかでつじつまが合ったんです。たぶんもはや水琴窟には聞こえないと思うんですが。
 そういうふうに、温泉がもつ「館や家屋」としての視覚的な趣や風情の部分から、さらには地脈を辿るところまで、国産素材の自然や大地の動きも『泉涌』では表現しています。こういう「自然物や存在の日本的歴史」は音楽と関係がない印象を受けるかもしれませんが、冥丁にとってはこれも「失日本」で、だからこれは「失日本百景」として公にすべきところだと思った次第です。

「どう音楽がつくられていくべきなのか」ということを作者自身が考えながらディレクションしていくことが必要というか、『泉涌』はそういうことが打ち出せた企画かなと思います。

冥丁さんの音楽は「アンビエント」とくくられることもあって、ご本人としてはそれに抵抗もあったと思うんですが、今回はストレートにアンビエントと呼んでもいいサウンドに仕上がっているように感じました。もしくは環境音楽というか。

冥丁:いやもう、今回は完全にそうですね。初めて自分でもアンビエントや環境音楽と呼べるものをつくったと思います。ほんとうにそこにいたからこそできた、温泉という環境ありきの音楽で。今回、タイトルの『泉涌(センニュウ)』にはサブタイトルがあります。「失日本百景」というサブタイトルです。日本の憧憬ですね。日本の景色とか景観とか。そういったものを音楽にしていくには、日本の環境をもとにつくっていくというのは必然でした。今回はまさにアンビエント・ミュージックです。ただ、いわゆるアンビエントのジャンルやシーンに貢献するようなアンビエント・ミュージックではありません。音楽シーンとは無縁な状態で、別府の環境や自然、そして街の温泉の利用者が長年積み重ねてきた風情から今回の音楽は生まれました。ですのでシーンとは接点がないですが、ぼく自身は音楽リスナーでもあるので、作曲にそういった経験則が残っているとは思います。
 ちなみにやはりこれまでの作品、『古風』などもアンビエントではないと自分では思っています。なぜかわからないんですが、ぼくの音楽を聴いて「癒される」って感想をもたれる方が多くて。「奇妙な」とか「ちょっと不穏な」みたいな感想だったらぼくもわかるんですが、自分としては癒そうとしたことは一度もなくて。

これまで二度ライヴを拝見しましたが、とにかくノイズが強烈ですよね。そうじゃないセットのときもあるんだとは思いますが、冥丁さんの音楽はむしろノイズ・ミュージックと並べられるほうがふさわしいんじゃないかと、少なくともライヴではそういう印象です。

冥丁:ライヴではけっこうラウドな音楽をやっていますね。あまりそういう部分が知られていないのかもしれません。

「失日本百景」も「失日本」ではあるわけですよね。ですが今回の新作は、これまでの作品ほどわかりやすく日本っぽさは出ていないように感じました。

冥丁:これまでの冥丁が、日本というものの主題歌(テーマ・ソング)をつくっていたとしたら、今回は日本の劇伴をつくったような、そんなちがいだと思いました。主題性があるものと、物語(環境)を劇伴するものとでは、きっと音楽の出力の種類も異なるのかもしれません。それに今回は、別府という場所に滞在したからこそ生まれた、地産地消的な音楽作品にもなっています。

「失日本百景」ということで新章がはじまったわけですが、ということはすでに今後のアイディアや予定もあったり?

冥丁:「失日本」自体が、自分の日本にたいする印象の模索というか。これまではそれを音に訳すイメージでしたけど、今回は別府の温泉という明確な対象がいて、その印象を音に訳している。そこは音として出力されたときにけっこうちがいがあるのかなと思いました。「失日本百景」はそういう、特定の場所、その環境に行って、それを音楽にしようというテーマですので、今回のように集音する方、写真家の方、地元でのさまざまな経験や出会いの機会をアレンジできるプロデューサーの方もいっしょに、そういうのをセットでつづけていけたら、と現段階では想像しています。今回の『泉涌』は予算も限られていたなかでの企画でしたが、年々異なるアイディアで新たな音楽企画へと成長させていく計画も進めています。音楽の力を借りて、日本にたいしてどんなアプローチができるかを年々追及していくような活動をしていきたいと思っています。秋にはまた新たに成長したおもしろいことをやる予定です。

たしかに特定の場所があるというのは、大きなちがいかもしれませんね。

冥丁:日本のなにかの印象を音でつくってくれと言われたときに、これまでだと自分のなかで完結している気がするんですが、今回はやはり温泉に入ったときの感じを再現することが重要でしたので。

これまでの「失日本」が過去をテーマにしていたとしたら、今回は現在がテーマともいえるかなとも思いました。

冥丁:ある意味そうですね。『古風』編は、じっさいに過去の音源も使っていますし、わかりやすく「過去」という感じですけど、今回はほとんどが環境音で構成されているので、これまでぼくがやってきた音楽とはちょっとちがってきているとは思います。日本の「幽か」な感じ、幽玄さであったり、日本人がもっているような「わびさび」の感覚を、今回は冥丁作品のなかに新たなヴァリエーションの一種として組み込みに行った気持ちではいます。
 現代は、ふつうに音楽をつくること自体はだれでもできる時代ですよね。そうなってくると、「どう音楽がつくられていくべきなのか」ということを作者自身が考えながらディレクションしていくことが必要というか、『泉涌』はそういうことが打ち出せた企画かなと思います。

最後に、今後のご予定を教えてください。

冥丁:8月の13日に代官山蔦屋でトークショウをやります。その翌日、14日には京都の「しばし」というお店で、昼と夜の二部制でイベントをやります。インスタグラムをチェックしていただけると嬉しいです。それと、『泉涌』は写真集があるのもポイントですので、ぜひ写真集もチェックしてもらえると嬉しいです。

冥丁『泉涌』発売記念イベント情報

【東京】冥丁『泉涌』アルバム&写真集 発売記念トークショー&サイン会
■開催日時:2025年8月13日(水) 19:00~
■会場 : 代官山 蔦屋書店 3号館2階 SHARE LOUNGE
■イベント参加券:2,200円(*商品とのセット券もございます。)
■イベント・参加券購入詳細
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/music/48659-2208420718.html

【京都】冥丁 新作発売記念鑑賞会
■開催日:2025年8月14日(木)
■時間(昼夜2部制):
明: OPEN 15:00 / START 15:30
暗: OPEN 18:30 / START 10:00
■会場:しばし
■チケット: 2000円
■詳細・チケット販売
※ 追加席(若干数)を8/9(土)正午よりPeatixにて販売
https://meiteievent.peatix.com/

出演情報
8/16(土)Mural Groove Fiction @代官山ORD
https://t.livepocket.jp/e/g4aq5

interview with The Cosmic Tones Research Trio - ele-king

 アンビエント・ジャズというタームが人口に膾炙してからずいぶん経つ。元々両者の相性は悪くなかった。マイルス・デイヴィスの諸作——例えば『カインド・オブ・ブルー』(59年)でも『イン・ア・サイレント・ウェイ』(69年)でもいいが——を再生すれば、聴き込むことも聞き流すこともできるアンビエント的な感覚が息衝いていることが分かるだろう。あるいは、北欧ジャズの新世代に甚大な影響を与えたジョン・ハッセルや、LAのシンボリックな存在であるカルロス・ニーニョ、欧州の名門レーベル〈ECM〉のアイテムなどはジャズとアンビエントのあわいをいくような作品を多数発表している。
 最近は“ソフト・ラディカルズ”などとも呼ばれるこのカテゴリーだが、米国ポートランドを拠点とするザ・コズミック・トーンズ・リサーチ・トリオもその最前線に位置付けられるグループである。「音楽を通じての癒しと精神世界の探求」をコンセプトに活動するこの3人組は、アルト・サックス/パーカッション奏者のローマン・ノーフリート、チェロ奏者/マルチ・インストゥルメンタリストのハーラン・シルバーマン、ピアニスト/管楽器奏者のケネディ・ヴェレットから成り、全員が作曲に関与する。いわば民主的なグループだ。

 2023年のセルフ・タイトル・アルバムに続く『All is Sound』は、実際にメンバーが指導を受けたことのあるというファラオ・サンダースや、尊敬の念を抱いてきたアリス・コルトレーンの衣鉢を継ぎつつも、アンビエントからの影響を如実に感じさせる一枚。スピリチュアル・ジャズの瞑想的な側面を強調したようなサウンドが横溢している。インタヴューでは訊き忘れてしまったが、吉村弘や芦川聡といった日本の環境音楽から触発されたところもあるに違いない。
 ただ、彼らのルーツにはブルースやゴスペルもあるそうだ。なるほど、ほのかに香る土臭さや、教会音楽のような崇高さはその発現かもしれない。加えて、彼らの多楽器主義的な編成は、シカゴのジャズの根城である非営利団体・AACMを代表するグループ=アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(AEC)を連想させるところがある。AECは自分たちの音楽を“グレイト・ブラック・ミュージック”と称したことで有名だが、それはザ・コズミック・トーンズ・リサーチ・トリオにもあてはまる。つまり、彼らの作風はアンビエント・ジャズ的であると同時に、黒人音楽の精髄を凝縮した最良の成果でもあると言える。なお、10月には『All Is Sound』とは趣きの異なる新作がリリースされるとのこと。こちらも楽しみに待ちたい。 

つまり、音こそが神聖なものであり、宇宙であるという、音を神格化する考え方。宇宙のあらゆるものは振動によって構成されているというアイディア。この考えをさらに進めて『All is Sound』というタイトルになった。

メンバー3人が集まった経緯を教えてください。

ローマン:まず、僕とハーランと出逢ったのは彼がレジデンシーをやっている公演で、僕もその公演に参加する機会があったからなんだ。それ以来、僕たちはコラボレーションを続けている。ケネディも同じような状況で、彼とはコンサートで初めて逢ったんだ。彼の演奏がすごく素敵だったから、それ以降、一緒にやることになった。3人が集まったのは、僕らが住むオレゴン州ポートランドで、ビー・プレゼント・アート・グループ(Be Present Art Group)というコミュニティ/プロジェクトを介してだった。ハーランとケネディと何度も一緒に演奏をするようになり、音楽以外でも共に時間を過ごすようになって、関係性が深まっていったんだ。それに僕たちは、音楽やスピリチュアリティに対するアプローチが似ているんだよ。そういう経緯があって、ザ・コズミック・トーンズ・リサーチ・トリオを始めることにしたんだ。

ハーラン:僕たち3人が最初に会ったきっかけは、〈Mississippi Records〉が主催した、彼らのレコード・ショップでのコンサートでだった。お店の窓ガラスが誰かに割られてしまったから、そこの空気を浄化したい、コミュニティのみんなに集まってもらってポジティヴなバイブスにしたいということで、そのときにローマンが僕に声をかけてくれたんだ。彼はそのとき「このコンサートのために、普段よりももっと癒される感じの、瞑想的なことをやりたいんだ」と言ったのを覚えているよ。あのコンサートを一緒にやったときに、このグループの可能性を感じたんだ。その時に「この3人でグループを作って、活動を続けて行こう」と話したんだ。

3人ともパーカッションとフルートが演奏できるという編成は珍しいと思います。しかも全員が4種類以上の楽器ができる。意図してこのような編成にしたのですか? 個人的にはアート・アンサンブル・オブ・シカゴを連想しました。

ローマン:意図的にこういう編成にしたわけじゃなくて、自然な流れだったんだ。僕たちは音や楽器が大好きで、さまざまな楽器を演奏するのを愛好しているという共通点があったというだけでね。それは嬉しい偶然で、僕たちは仲良くなった。それから、アート・アンサンブル・オブ・シカゴは僕も大好きだよ。彼らが掲げた「Great Black Music」という表現は僕たちの音楽を説明するときにも使っている。僕たちの音楽も、先人たちや家族やブラザーたちの一部だということなんだ。

今回のアルバムについて、全体を束ねるテーマやコンセプトのようなものがあったら教えてください。

ハーラン:『All is Sound』に関しては、瞑想的なアルバムを作りたいということだった。それは明確な目的としてあったね。レコード・ショップでコンサートをやったとき、僕たちはドローン・サウンドをたくさん取り入れていた。そのときに、〈Mississippi Records〉の(創設者である)エリック(・アイザックソン)がこう言っていたんだ。「この店には、ドローン・サウンドや静かな音楽、リラックスできる音楽を求めて来る人たちがたくさんいる。もっとドローン系の音楽を置きたいと思ってる」と。それを聴いて思ったんだ。僕たちは3人とも、それぞれの活動を通して、音の研究をし続けてきたし、サウンド・ヒーリングも追求してきた。だからこのアルバムはそういった領域をテーマにしているんだ。

ローマン:ひとつだけつけ加えたいのは、元々、アルバムのタイトルにしようと考えていたのは『Nada Brahma』だったということ。つまり、音こそが神聖なものであり、宇宙であるという、音を神格化する考え方。宇宙のあらゆるものは振動によって構成されているというアイディア。この考えをさらに進めて『All is Sound』というタイトルになった。あらゆるものは音であり、僕たちも音であることから、僕たちはみんな調和していくことが可能だということ。このアルバムは、音を通して人々を団結させ、地球としてひとつになることが目的だったんだ。

曲作りのプロセスを教えてください。

ハーラン:このアルバムでは即興的要素が多かったね。3人でライヴ演奏をしたものを録音して、その後からオーバーダブを加えたりした。でも、例えば“Creation”という曲は、僕たちが3人が一堂に会してフルートを吹いているものが曲の中核となり、その後にオーヴァーダブを加えた。曲によっては部分的な音を持ち寄ってグループでワークショップしたものもあったけれど、このアルバムの大部分は即興だった。一つの部屋に集まってフルートを吹く。それがスタート地点だった。フルートやディジュリドゥといったさまざまな管楽器を取り入れたよ。

ゴスペルやブルースなどのブラック・ミュージックもルーツにあるとのことですが好きなミュージシャンやアルバム、そしてそれらがどのように本作に反映されていると思うかを教えてください。

ケネディ:そうだね、ミュージシャンで言うと、いちばん大きな影響を受けたのはジェイムズ・ブッカーだと思う。偉大なピアニスト/作曲家で、「ブラック・リベラーチェ」とも呼ばれている。彼はルイジアナ州ニューオーリンズ出身なんだ。僕もルイジアナで生まれて育ったから、ニューオーリンズには特別な思い入れがある。好きなジャズや音楽のスタイルも、あの土地の影響を強く受けているんだ。ブッカーは、アフリカン・ディアスポラの要素をクラシックにすごくうまく取り入れていて、たとえばショパンの「小犬のワルツ」をアレンジしたんだけど、それがブルージーでスワンピー(沼のような)なニューオーリンズ風ヴァージョンなんだよ。初めてそれを聴いたとき、「こんな表現があるのか!」と衝撃を受けた。自分がクラシックを練習している中で、ずっと求めていた自由さを感じたし、音楽を演奏するときにいつも感じていたスピリチュアルな感覚——特にブラック・ミュージックをやっているときに感じる感覚——を思い出させてくれた。だから、ジェイムズ・ブッカーは本当に大きな存在だね。それからもちろん、スティーヴィー・ワンダー、ジョン・コルトレーン、アリス・コルトレーン。このあたりは絶対に欠かせない。サン・ラーもそうだし、ベンジャミン・パターソンとか、ジョージ・ルイス——彼はまだご存命だね——あとアンソニー・ブラクストン……挙げればキリがないな。とりあえずこのへんで止めておくよ(笑)。

ありがとうございます。ローマンさんはいかがでしょう?

ローマン:まず最初の影響として挙げたいのは僕の家族。僕は幼い頃から教会の聖歌隊に入っていたから、家でも教会でもいつも歌っていた。親戚がドラムを叩いていたり、オルガンを弾いていたり、とにかく家族がみんな音楽に深く関わっていたから、最初のインスピレーションはそこからきている。でも、それだけじゃなくて、たとえばケネディも挙げたように、スワミニ・トゥリヤ・サンギータナンダ——アリス・コルトレーンとしても知られている彼女——は、間違いなく僕の大好きなミュージシャンのひとり。彼女は、この地球に存在した中でも最も高みに到達した音楽家のひとりだと思っているよ! それから、ファラオ・サンダースのような先人たち、いまもロサンゼルスでジャムをしているドワイト・トリブルといった人たちにも影響を受けている。僕は、古の知恵を受け継ぐ人たち(=elders)にインスパイアされているんだ。昔は、ひとりのアーティストの名前が前面に出るのではなく、もっと共同的で儀式的なかたちで音楽が生み出されていた。そういう時代の音楽に心を動かされる。今残っている音源の多くも、特定のアーティストに帰属するというよりは、ある人々や文化、土地に根ざした音として残っているところに魅力を感じるんだ。

ありがとうございます。では、ハーランさんはいかがでしょう?

ハーラン:ほとんどの名前はもう出ていると思うけど、コルトレーン夫妻やファラオ・サンダースに対する愛は、僕たち全員が共有しているものだよ。そこに加えるとすれば、デューク・エリントン。彼はジャズとクラシック音楽をつなぐ素晴らしい架け橋のような存在だった。それから、ジュリアス・イーストマンも忘れてはいけない。いつもなら誰かが挙げているけど、まだ名前が出ていなかったね。

ケネディ:実はさっき言いかけたんだけど、いつも彼の名前を挙げているから、今回はやめておこうかと思ったんだ(笑)。でもやはり、ジュリアスは間違いなく外せない存在だね!それと、地球の音や自然の音——そういったものからも強くインスピレーションを受けているよ。

僕が笛を吹くときは、ローマンが言っていたように、いろいろな影響や場所から引き寄せられたものを取り込んでいるんだ。そして、それが自分の内面に平和をもたらしてくれるだけでなく、普遍的な次元や自然とのつながりを直接感じさせてくれる。

新作は、のめりこめると同時に気を留めずにいられるという意味でアンビエント的だと思いました。ブライアン・イーノをはじめ、アンビエントに括られるミュージシャンとあなたたちのやっていることに共通点はあると思いますか? 

ハーラン:もちろん、あると思うよ! 僕はアンビエント・ミュージックも大好きで、ブライアン・イーノの『Ambient 1』のライナーノーツで彼のステートメントを読んだときのことを覚えている。君が言ってくれたように、アンビエントには二つの機能があると言っていて、それは前面に出ることもできれば、背景に溶け込んで体験を包み込むこともできるというものだった。それに僕は、日本の、自然を取り入れた音楽もすごく好きで、そこからの影響も大きい。だから、そう言ったアンビエントのコンセプトというものは確実にこのレコードにも反映されていると思う。でも、僕たちがやっていることの違いは、いわゆるアンビエント・ミュージックでよく使われるようなシンセサイザーやアナログ・シンセといった人工的な音には、あまり頼っていないという点にある。その代わりに、ストリングスやフルート、サックスといった楽器を使って、アンビエント的な音のテクスチャーを作り出している。

さきほどファラオ・サンダースやアリス・コレトレーンなどの名前が出ましたが、彼らから学んだこと、吸収したことで、本作に反映されている要素があったら教えてください。

ローマン:僕は彼らの影響を確実に吸収しているし、他のメンバー2人もそうだと思う。ファラオ・サンダースについては、彼の音楽を本人から直接学ぶことができた。まるで宇宙的な出会いのような体験で、最初に会ったときは彼が誰なのかさえ知らなかったんだけど、音楽のことや、サン・ラーについて彼に色々と質問していたんだ。だから、ファラオ・サンダースのアルバムや作品群について、本人と一緒に振り返ることができた。その体験は今でも自分の中に強く残っているし、自分の音楽的方向性について、大きな学びと気づきを与えてくれた。まるで、先達から神聖なメッセージを受け取ったみたいだった。スワミニ・トゥリヤ・サンギータナンダ(アリス・コルトレーン)については、彼女の教えを受けた生徒たちのもとに自分が導かれたことが大いなる恵みだった。彼女の教えはいまも受け継がれていて、僕にも非常に大きな影響を与えている。この2人のアーティストに関しては、僕に何かを残してくれた存在であることは確かだ。そしてもうひとつ、僕の音楽的なルーツとして欠かせないのが、自分の育った環境、教会の音楽、そして音楽への目覚めを支えてくれた母の存在。それらすべてが、このグループの音楽、このアルバム『All is Sound』における自分の表現に反映されている。

本作は聴く者を忘我や酩酊や瞑想の境地へいざなう効果もあると思いました。これを聴いたことでリスナーにどのような精神/意識の変容をもたらすのが理想か、ということは考えましたか? つまり、リスナーに及ぼす作用のようなことです。

ケネディ:音楽には治癒的な効果があることもわかっているし、とても穏やかな精神状態へと導いてくれることもある。逆に、不安をかき立てるような精神状態になることもある。だからこの作品では、聴く人が落ち着きを感じられるようなものにしたかった。世間の喧騒から少し離れて、もっと静かで、やわらかくて、穏やかでいられる空間を作りたかった。同時に、ただボーッとするのではなく、マインドフルで、今この瞬間にしっかりと存在していると感じられる状態にもしたかった。そして、この音楽を聴いた後に、その人にとって、有意義な進歩や前進へとつながることができていたら嬉しい。

フルートを日本の伝統楽器である尺八のような音色で使っているのが印象的でしたが、これは無意識にそうなったのでしょうか? それとも何か狙いや意図がありましたか?

ローマン:僕たちは普遍的な存在(=universal beings)を目指しているんだよ。たとえ世界中を旅してきたわけではなくても、音楽への興味は本当に幅広くて、自然とグローバルな感覚で音楽に触れてきた。たとえば、新しいプロジェクトにもドゥグ(アフリカの打楽器)が入っているように、本当にいろんな場所からインスピレーションを受けている。それは無理に探しにいっているというよりも、むしろ自然でオーガニックな流れの中で起きているものなんだ。日本からアフリカまで、世界中の音楽に共鳴しようとしているんだよ。少なくとも自分はそう感じているけど、この具体的な話については、ハーランやケネディが話してくれるかもしれない。彼らもフルートや管楽器には詳しいからね!

ハーラン:ケネディは尺八を演奏するから、ケネディに話してもらおう。

ケネディ:そう、僕は尺八を習い始めてるんだけど、知ってのとおり、すごく難しい楽器なんだ。でも、尺八だけではなく、すべての楽器、そして声や魂にも感じられる美しさというのは、自分との関係性が築かれたときに現れてくるものだと思っている。楽器そのものや素材、そしてその背後にある伝統を少しでも理解できてくると、まるで楽器のほうから「よし、準備ができたね」と語りかけてくるような感覚がある(笑)。とくに自分にとって笛の音というのは、本当に心を落ち着かせてくれる音なんだ。子どもの頃から尺八をよく聴いて育ったし、中国のディーツや、南太平洋のいろいろな笛の音もたくさん聴いてきた。そうした笛には、神秘性や古代性みたいな感覚があって、それにすごく魅了される。まるで宇宙からやってきたかのような響きを持っているんだ。
 だから僕が笛を吹くときは、ローマンが言っていたように、いろいろな影響や場所から引き寄せられたものを取り込んでいるんだ。そして、それが自分の内面に平和をもたらしてくれるだけでなく、普遍的な次元や自然とのつながりを直接感じさせてくれる。そういった意味では、無意識のうちにそういう表現になっているんだろうね。でも意識的な面で言うと、僕はとにかくフルートの音色が大好きなんだ。その響きの中には、先祖からのささやきのようなもの——たとえばウィスパー・トーン(ささやくようにかすかな、口笛のような音)や倍音に現れるようなもの——が宿っていると感じている。
 それからもうひとつ、尺八や多くの笛は竹でできているんだ。僕が竹に惹かれる理由のひとつは、それが繊維質でしっかりとした植物であると同時に、しなやかに曲がり、傾き、柔軟に対応する性質を持っているということなんだ。そういう柔軟性は、(世間の)堅苦しい体制や、変化に適応しながら進んでいかなければならない僕たちの人生において、とても大切なものだと思っている。

ハーランさんは何かありますか?

ハーラン:ああ、僕からも面白いエピソードをひとつ話すよ。去年、僕は日本に行ったんだ。僕はずっとバーンスリー(インドの竹笛)を練習していたから、「せっかく日本に行くなら尺八を手に入れよう」と思った。尺八はとても美しい楽器だし、音色もすごく素敵だから、現地で買えるなら最高だと思ったんだ。それで、尺八を扱っているお店を見つけて、たくさん並んでいるなかから何本か出してもらった。「僕はフルートが吹けるから、尺八も試してみたいんです」と伝えてね。内心では、「これを吹いて、そのままお店を出て、コズミック・トーンズで使える新しい楽器として持ち帰るぞ!」とワクワクしていた。でも、そう簡単にはいかなかった(笑)。尺八は、アンブシュア(口の形)が全然違うんだよ。すぐに、「これは僕がいままで吹いていた笛とは別次元の楽器だな」と気づいた。そう簡単に尺八で美しい音を出すことなんてできないと思った(笑)。お店の人にも、「これは僕がいままで吹いていた笛とはまったくの別物ですね。僕には無理かもしれないです。もうバーンスリーの道を進んでるし、残念だけどそっちに集中したい」と伝えたよ。結局、尺八は買わなかったけど、すごくいいお店で、実際に尺八を試せたのは楽しかった。それに「これは別の世界に属する楽器なんだ」ということを学べたのは大きかったね。

ありがとうございました。最後に、コズミック・トーンズ・リサーチ・トリオの音楽を聴いている日本のファンに向けてのメッセージを1人ずつお願いできますか?

ローマン:まず最初に言いたいのは、日本のみんな、温かい応援を本当にありがとう! ということ。 インスタグラムやメールで送ってくれる温かいメッセージ、そしてこのCDをリリースするにあたってのサポート、すごく嬉しかった。ジャケットのデザインもすごく良いね!  こうやって、普遍的な音楽を広めてくれてありがとう。近いうちに日本に行けるのを楽しみにしているよ。感謝と平和を込めて。たくさんの愛を!

ハーラン:日本のみんな、音楽にじっくりと耳を傾けてくれてありがとう! このCDが、あなた自身の音楽的・精神的な活動のサポートになれば嬉しいです。そして、近いうちに日本に行ってみんなと直接会える日が来ることを願っています。ありがとう!

ケネディ:僕も心からの感謝を伝えたい。そして、この作品を一種のデバイスとして使いながら、みなさんが素晴らしい旅を歩んでいけるよう願っています。本当に、本当にありがとう!魂の底から感謝しています。これまでの旅路は本当に素晴らしいものだったし、今後も活動を続けていくのが楽しみだよ!

ありがとうございました!!

全員:こちらこそ、どうもありがとう! またねー!!

Unsound Osaka - ele-king

〈Unsound Festival〉がついに日本で開催される。2003年にポーランド・クラクフにて誕生した〈Unsound〉は、いまやエレクトロニック・ミュージックと実験音楽に関してはもっとも有名なフェスティヴァルとして知られている。すでに、これまでに30以上の都市で開催されている
日本では初開催となる〈Unsound Festival〉は、2025年9月5日から7日にかけて大阪市内の複数会場で開催される。
以下、その概要を転載するでの、じっくりと読んだうえで9月上旬の予定を組みましょう。詳しくはここ(https://unsound.jp/)。また、さらに詳細がわかったら追加情報を流します。


〈Unsound Osaka〉

■9月5日(金)- VS.
公演日時:2025年9月5日(金)※OPEN / START時間は近日発表
会場:VS.(MAP)
チケット:近日販売開始
出演者:
Keiji Haino plays Baschet
Robin Fox presents TRIPTYCH – a homage to Stanisław Ostoja-Kotkowski
Włodzimierz Kotoński Remixed by Jim O'Rourke & Eiko Ishibashi

 〈Unsound Osaka〉の初日は、VS.で開催中の展覧会「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」とのコラボレーションとして実施されます。電子音楽および実験音楽の先駆者たちに敬意を表し、過去と未来をつなぐ一夜となるでしょう。この日のハイライトとして、灰野敬二が、1970年の大阪万博のためにフランソワ・バシェ(François Baschet)が制作した《バシェ音響彫刻》を演奏します。この楽器は、坂本龍一が18歳のときに万博を訪れた際、強い影響を受けたとされるもので、灰野によるバシェの演奏は今回が初披露となります。
続いて、オーストラリアのロビン・フォックス(Robin Fox)が、レーザーと音を駆使した作品《Triptych》を発表。本作はオーストリアのアート/テクノロジー/社会をつなぐ世界的なクリエイティブ機関「ARS Electronica」より冨田勲特別賞を受賞しており、ポーランド系オーストラリア人でありレーザーアートの先駆者でもあるスタニスワフ・オストヤ=コトコウスキ(Stanislaw Ostoja-Kotkowski)の作品に着想を得たものです。レーザープロジェクターによって空間そのものを変容させる、“視覚と音による時空の彫刻”とも言えるこの作品は、記録や再現が不可能な、その場限りの体験となります。
オープニングには、ジム・オルーク(Jim O'Rourke)と石橋英子が登場し、ポーランドの作曲家ヴウォジミエシュ・コトニスキ(Włodzimierz Kotoński)の楽曲のライブリミックスを披露。コトニスキは20世紀ポーランド音楽の中でも特に急進的な存在であり、テープ音楽、ライブエレクトロニクス、シンセ音楽、コンピュータ音楽の先駆者として知られています。出演する二人にとっても特別な存在である作曲家の作品に、新たな解釈が加えられます。 

■9月6日(土)- CREATIVE CENTER OSAKA
公演日時:2025年9月6日(土)OPEN / START: 15:30
会場:クリエイティブセンター大阪(MAP)
チケット:ZAIKOにて販売中
出演者:
Hania Rani presents Chilling Bambino
∈Y∋ & C.O.L.O
2K88 – Live feat. ralph
ralph
Rai Tateishi(Live Processing by Koshiro Hino)
KAKUHAN & Adam Gołębiewski
FUJI|||||||||||TA & Ka Baird
RP Boo & Gary Gwadera
Unsound Osakaの2日目のプログラムは、大阪市湾岸部の住之江区北加賀屋に位置する名村造船所大阪工場跡地に設立されたクリエイティブセンター大阪を舞台に開催されます。現在この場所は、クリエイティブなアートコンプレックス兼イベントスペースとして活用されており、本プログラムでは実験音楽、アンビエント、クラブ、ラップなど多彩なジャンルを横断するプログラムが展開されます。
会場には3つのステージが登場し、「STUDIO PARTITA」「Black Chamber」、そして屋外DJステージが設けられます。
STUDIO PARTITAでは、ポーランドのピアニスト/作曲家ハニア・ラニ(Hania Rani)が、ピアノとエレクトロニクスを組み合わせた新作《Chilling Bambino》を披露。また、大阪の伝説的存在である∈Y∋が、C.O.L.OとのA/Vショーをします。さらに、ポーランドのプロデューサー2K88が、自身のアルバム『SHAME』をベースにしたセットを披露し、日本のヒップホップ・シーンで着実に評価を高める注目のラッパーのralphがゲストとして登場、その後はralph自身によるエネルギッシュなソロセットも行われます。オープニングは日本の伝統的な竹笛・篠笛を中心に展開される立石雷による演奏に、日野浩志郎によるライブプロセッシングを組み合わせた最新パフォーマンスが披露されます。
Black Chamberでは、Unsoundが実現した新たなコラボレーションが展開されます。日野浩志郎と中川裕貴によるデュオKAKUHANが、ポーランドの打楽器奏者 アダム・ゴワビエフスキ(Adam Gołębiewski)と共演し、ニューアルバム『Repercussions』をリリース。さらに、日本のサウンドアーティストFUJI||||||||||TAと、ニューヨークのアーティスト カー・ベアード(Ka Baird)が空気、圧力、呼吸、ノイズを活用したパフォーマンスを披露します。また、シカゴのフットワーク創始者アールピー・ブー(RP Boo)が、ポーランドのドラマー ゲイリー・グワデラ(Gary Gwadera)と共演します。
屋外ステージには、大阪のローカルDJたちが登場予定で、Black Chamberの追加出演者も近日中に発表される予定です。

■9月7日(日) - 大槻能楽堂
公演日時:2025年9月7日(日)OPEN 17:15 / START 18:00
会場:大槻能楽堂(MAP)
参加方法:入場無料 ※ご参加いただくには、ZAIKOでの登録が必須となります。
出演者:
Antonina Nowacka
Raphael Rogiński plays John Coltrane and Langston Hughes
Jim O’Rourke, Eiko Ishibashi & Piotr Kurek

 1935年に開館した大槻能楽堂。この日は、その静謐な空間を活かしたコンサート・シリーズの舞台となります。プログラムには、世界的に高く評価されているポーランド人アーティスト3組が登場し、そのうちの1組は、石橋英子とジム・オルーク(Jim O'Rourke)との特別な初共演を披露します。
最初に登場するのは、アントニーナ・ノヴァツカ(Antonina Nowacka)。時間の感覚を引き延ばし、言語・音・霊性の境界を曖昧にする「見えない世界へのポータル」と形容される、彼女の卓越した歌声を中心に展開されます。これまでに発表されたソロ作品『Sylphine Soporifera』や、ソフィ・バーチ(Sofie Birch)とのコラボレーションアルバムでも高く評価されています。
続いて登場するのは、ポーランドの作曲家/演奏家/即興音楽家 ラファエル・ロジンスキー(Raphael Roginski)。フォークやブルース、ジャズ、クラシックなどを横断しながら、ソロ演奏と録音で世界で最も独自性のあるギタリストのひとりとして評価されています。Unsound Osakaでは、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)の作品をスローダウンし、ラングストン・ヒューズ(Langston Hughes)の詩とともに再解釈したアルバム『Plays Coltrane and Langston Hughes』の楽曲を披露します(本作は2024年にUnsoundから再発され、高い評価を受けています)。
ポーランドのマルチな演奏家/作曲家 ピオトル・クレク(Piotr Kurek)は、ソロ作品『World Speaks』やUnsoundからリリースされた『Smartwoods』などで知られていますが、他の多くのアーティストとのコラボレーションでも知られます。Unsound Osakaでは、そのコラボレーションの精神を携え、世界でも類を見ないアンダーグラウンドの象徴的存在であるジム・オルーク(Jim O'Rourke)と石橋英子と共演します。石橋は多彩なソロ作品のほか、濱口竜介監督のアカデミー賞受賞作『ドライブ・マイ・カー』や続編『悪は存在しない』など映画音楽も手がけており、ジム・オルークはGastr Del Sol、Stereolab、Wilco、Sonic Youthなどと共演歴があるほか、フックに富んだロックから繊細なミュジーク・コンクレートまで幅広いソロ作品を発表しています。
このプログラムは、「Poland. Heritage that Drives the Future(ポーランド。未来を躍動させるレガシー)」をテーマとしたポーランド・パビリオンのプログラムの一環として、ポーランド投資・貿易庁が主催する「ポーランド文化週間」の一部として実施されます。

Unsound Osaka 出演者プロフィール

2K88 – live feat. ralph

かつて「1988」として知られていた、ジャンルを自在に行き来する実験的プロデューサー、プシェミスワフ・ヤンコヴィアク(Przemysław Jankowiak)は、「2K88」名義のもと、UKベース・ミュージックの残音と90〜00年代ポーランド・ラップのノスタルジーを融合させた、国境を超えるカルチャーの坩堝ようなサウンドを生み出している。Unsoundレーベルからリリースされたデビューアルバム『SHAME』は、Boomkatによって「ポーランドの活気あるハイブリッドなクラブ・シーンの現在地を示す作品」と評された。苦しみに満ちた郷愁と不穏な未来感が、研ぎ澄まされた感覚の中で繵り交ざっている。プロデューサーとして、2K88はポーランドのインディー音楽シーンのスターたちともコラボしており、今回は日本のヒップホップ・シーンで着実に評価を高める注目のラッパーのralphをゲストに迎えてパフォーマンスを行う。

Antonina Nowacka


「声は、最も美しく、最も響き渡る楽器です」と語るアントニナ・ノヴァツカ(Antonina Nowacka)は、3作目となるソロアルバム『Sylphine Soporifera』をそのように表現している。ポーランド出身のサウンドアーティスト/作曲家である彼女は、その力強い声を核に、これまで高く評価される一連の作品群を築き上げてきた。『Lamunan』ではインドネシアの洞窟にこもって制作を行い、万華鏡のように多彩な音像をもつこのアルバムでは、1970年代のニューエイジ的なサウンドの上にヒンドゥスターニー音楽の声楽技法を取り入れている。2023年には、デンマークのアーティスト、ソフィー・バーチとの共作による『Langouria』をMondojおよびUnsoundから発表。そして今年、新作『Hiraeth』をリリースした。この作品は、ポーランドの田園地帯で制作され、オープンリールに直接録音されたものであり、原点回帰とも言える郷愁と夢想に満ちたアルバムとなっている。

∈Y∋ & C.O.L.O - A/V show


∈Y∋は1986年に大阪でバンドBoredomsを立ち上げて以来、『Super æ』や『Vision Creation Newsun』などジャンルの境界を打ち壊す作品を続々と世に送り出し、世界中にカルト的なファンを持つ存在となっている。また、無数のドラマーを集めて挑んだ壮大な「Boadrum」シリーズでも知られている。Sonic YouthやJohn ZornのNaked Cityのほか、UFO or DieやPuzzle Punksなどのプロジェクトにも参加している。今回のUnsound Osakaでは、マルチメディアA/Vコレクティブ「Cosmic Lab」の創設者でもあるビジュアル・アーティストC.O.L.OとのA/Vショーを上演する。C.O.L.Oはテクノ元祖Jeff Millsとの合作『THE TRIP - Enter the Black Hole』や、∈Y∋との前作『FINALBY()』などで、魅惑的で幻覚的な体験を作り上げてきた。

Włodzimierz Kotoński Remixed by Jim O'Rourke & Eiko Ishibashi


Jim O'Rourke & Eiko Ishibashi

2023年のツアー音源を編集・再構築した最新作『Pareidolia』(Drag Cityより2024年リリース)でその創造性を改めて印象付けたジム・オルーク(Jim O'Rourke)と石橋英子が、今回はポーランドの作曲家/教育者/音楽理論家であるヴウォジミエシュ・コトンスキの作品に、自らの独自の手法でアプローチする特別公演を行う。コトンスキは、20世紀ポーランドでもっともラディカルな音楽家のひとりとされ、テープ音楽、ライブ・エレクトロニクス、シンセサイザー音楽、コンピュータ音楽といった分野を切り拓いた先駆者である。彼はポーランド国内外で作曲や電子音響の技術を教えながら、数多くの実験的作品を生み出してきた。1959年に発表した『Etiuda na jedno uderzenie w talerz』はポーランド初の電子音楽作品であり、1989年には電子音響の手引き書『Muzyka elektroniczna』を著している。

KAKUHAN & Adam Gołębiewski


goat(JP)やソロプロジェクトYPY名義で知られる日野浩志郎とチェリスト・中川裕貴によるデュオ・プロジェクト、KAKUHANは、2020年代初頭に行われた即興録音セッションをきっかけに始動した。「攪拌」を意味するこのユニット名の通り、KAKUHANはそれ以前にも何度も共演していた二人による、より深く、ジャンルの境界を超えた音の融合を体現している。伝統と現代、ぎくしゃくとしたクラブ・リズムとクラシカルな要素が交錯するそのサウンドは、日野が運営するレーベルNAKIDからリリースされたデビュー・アルバム『Metal Zone』で最も鮮明に表れている。ポーランドの実験音楽家アダム・ゴレンビエフスキ(Adam Gołębiewski)は、2023年にKAKUHANと初共演。ヨーコ・オノ、ケヴィン・ドラム、マッツ・グスタフソン、サーストン・ムーアらとの共演を通じて研ぎ澄まされた彼のダイナミックなパーカッションは、KAKUHANのサウンドに新たな次元をもたらした。彼らのコラボレーションは、Unsoundレーベルからリリースされるアルバム『Repercussions』に収録されており、大阪でのライブはリリースを記念する日本初公演となる。

Keiji Haino Performs on Bachet Sound Sculptures


灰野敬二のパフォーマンスは、常に何が起こるかわからない。その予測不可能さこそが、彼を半世紀以上にわたり、日本のアンダーグラウンド・シーンにおける圧倒的な存在たらしめてきた理由である。これまでに200枚以上の音源を発表し、2,000回を超えるライブを行ってきた灰野は、代表的プロジェクト「不失者」を通じて実験的サイケデリックの基準を打ち立てただけでなく、ジャズ、フォーク、ノイズ、即興、ドローン、電子音楽など、ジャンルを越えて革新とコラボレーションを重ね、多くのアーティストに影響を与えてきた。彼のソロ・パフォーマンスは特に高い支持を集めており、毎回その内容はまったく予測がつかない。オーケストラの楽器を駆使したり、古代の伝統楽器を演奏したり、シンセサイザーやドラムマシンを並べて即興を行ったり、繊細で心に響くバラードを再解釈することもある。どのような形であっても、その体験は常に圧倒的だ。Unsound Osakaでは、1970年の大阪万博のために制作され、「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」展にも展示されている《バシェ音響彫刻》を用いた特別なパフォーマンスを披露する。

Robin Fox presents TRIPTYCH


ロビン・フォックス(Robin Fox)は、ライブ・パフォーマンス、展覧会、パブリックアート、コンテンポラリーダンスのための作曲など、さまざまな分野で活動する、オーストラリア拠点のオーディオビジュアル・アーティスト。過去30年にわたり、彼の創作の中心には常に「ノイズ」があり続けている。これまでに60都市以上で上演されてきた、代表作であるオーディオビジュアル・レーザー作品では、音と“可視化された電気”を完全に同期させ、立体空間を音と光で満たす没入型のインスタレーションを展開。《TRIPTYCH》は、リアルタイム・パフォーマンスのために時空間を“彫刻”するAVシリーズの最新作であり、2022年末にUnsoundクラクフにて初演された。ポーランド系オーストラリア人であり、レーザーアートの先駆者でもあるスタニスワフ・オストヤ=コトコフスキの作品に着想を得ており、2023年にはアルス・エレクトロニカにおいて冨田勲特別賞を受賞している。また、フォックスは電子音楽の歴史的な楽器群を一般に公開し、誰もが自由にアクセスできるようにすることを目的とした非営利団体「MESS(Melbourne Electronic Sound Studio)」の共同設立者でもある。1975年から1979年にかけてのメルボルンにおける実験音楽の歴史についての修士論文を執筆しており、モナシュ大学にて電子音響作曲の博士号を取得している。

FUJI|||||||||||TA & Ka Baird present Where Does Fire End?


FUJI|||||||||||TAが2023年にUnsound Krakowで披露したパフォーマンスでは、彼の特製の自作パイプオルガンではなく、新たに自作された巨大なパイプを使ったリズミカルな演奏が、朝の時間帯「Morning Glory」の観客を魅了した。日本の雅楽を想起させつつ、現代の電子音楽のサブジャンルを同時に感じさせる、新たな音の地平を示しました。米国拠点のマルチ奏者カー・ベアード(Ka Baird)もまた同フェスティバルで幻惑的なパフォーマンスを披露。話題作『Bearings: Soundtracks for the Bardos』の世界をさらに拡張するように、変幻自在の声による歪曲と憑依的な演奏を展開した。この二人が初めて共演する本公演では、それぞれの個性を即興で融合させ、エクスタティックで特異な音世界を生み出す。Unsoundの依頼によって特別に制作された作品の初上演。

RP Boo & Gary Gwadera


ゲイリー・グヴァデラ(Gary Gwadera)のソロ名義で知られる、ポーランドのドラマー、ピョートル・グヴァデラ(Piotr Gwadera)が初めてフットワークを聴いたとき、それは背筋がぞくりとするような発見だった。シカゴ発祥のこのジャンル特有のシンコペーションとポリリズムは、アメリカ中西部以外の多くのリスナーにとって新鮮に響くかもしれないが、グヴァデラの耳にはどこか懐かしさがあった。それは、ポーランドの農村で親しまれてきた三拍子の民族舞踊「オベレク」のリズムだった。彼はこんな想像をするようになる。もしシカゴに渡ったポーランド移民たちが、現地のアフリカ系アメリカ人コミュニティと出会い、共に食卓を囲み、それぞれの祖先のビートを交換し合っていたら。そんな「もうひとつの歴史」を夢見るようになったのだ。その夢が、Unsound Osakaで現実となる。2024年に発表された傑作『Far, far in Chicago. Footberk Suite』でもそのビジョンを示したグヴァデラと、シカゴ・フットワークの伝説的存在であるRP Booとの共演が実現するのだ。ミニマルなジャズ、ではなく「ジャズ風=jaz」ドラムキットにRolandのドラムマシン・サンプルを仕込んだグヴァデラと、ターンテーブルを操るRP Boo。両者による異文化の交差点。ベース・ミュージックの地平に風穴を開けるような、架空と現実を行き来する実験になるだろう。

Raphael Rogiński plays John Coltrane and Langston Hughes


ポーランドの作曲家、演奏家、即興演奏家であるラファエル・ロジンスキー(Raphael Rogiński)は、フォークやブルース、ジャズ、クラシック音楽など多様なスタイルを取り入れたソロ作品とその演奏で高く評価され、世界的にも唯一無二なギタリストのひとりとして知られる。Unsound Osakaでは、2015年に発表されたアルバム『Plays Coltrane and Langston Hughes』の楽曲を披露する。同作は2024年、Unsoundによって再発され、大きな反響を呼んだ。アルバムでは、伝説的サクソフォン奏者でありバンドリーダーでもあったジョン・コルトレーンの楽曲を大胆に解体・再構築しながらスローダウンさせ、ハーレム・ルネサンスを代表する詩人、ラングストン・ヒューズのテキストを用いた楽曲も展開している。

Jim O’Rourke, Eiko Ishibashi & Piotr Kurek


ポーランドのマルチ奏者/作曲家ピョートル・クレク(Piotr Kurek)は、2022年にリリースされたソロアルバム『World Speaks』、2023年にUnsoundからリリースされた『Smartwoods』などの作品で知られるが、長年にわたり多くのコラボレーションも行ってきた。Hubert ZemlerとのPiętnastka、Francesco De GalloとのAbrada、Marcin StefańskiとのŚlepcyなど多様なユニットで活動している。最近では、日系アメリカ人即興奏者パトリック・シロイシとの共作『Greyhound Days』(Mondojより2024年)も話題となった。Unsound Osakaでは、ジム・オルーク(Jim O'Rourke)と石橋英子という、世界のアンダーグラウンドシーンを牽引する二人の音楽家と共演。二人はそれぞれのソロ活動でも、また互いのプロジェクトでも数々のコラボレーションを重ねてきた。石橋はDrag CityやBlack Truffleなどから作品を発表する一方、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』『悪は存在しない』などの映画音楽も手がけている。オルークは、Gastr del Solの一員としてポストロックを切り拓き、StereolabやWilco、Sonic Youthなどのプロデュースを務め、緻密なロックから繊細なミュジーク・コンクレートまで幅広いソロ作品群を発表している。

Rai Tateishi (Live processing by Koshiro Hino)


日本の過疎地にある村で、ほぼ隠遁生活のように暮らす立石雷は、自らの楽器と深く向き合い、音の限界を追求し、その表現を深化させてきた。彼は、古代から伝わる竹製の笛「篠笛(しのぶえ)」の名手であり、伝統芸能集団「鼓童」やアンダーグラウンドでカルト的支持を集めるバンド「goat (jp)」のメンバーとしても活動している。だが、彼の真価が発揮されるのはソロ活動においてであり、特に日野浩志郎のプロデュースによる2023年のソロデビュー作品『Presence』(2023年)では、重ね録りなしで篠笛の音に自由奔放な尺八、ケーン(ラオスの伝統楽器)、アイリッシュ・フルートを組み合わせることで、ユニークで生々しい音世界を作り上げた。Unsound Osakaでは、その『Presence』のパフォーマンスを、goatの盟友・日野浩志郎によるライブプロセッシング音響処理とともに披露。身体と音、伝統と即興、過去と未来が交差する、鮮烈なセッションとなるだろう。

Hania Rani presents Chilling Bambino


ロンドンを拠点とするピアニスト、作曲家、シンガーのハニャ・ラニ(Hania Rani)は、ポーランドで生まれ育ち、ワルシャワにてクラシック音楽の教育を受けた後、ベルリンへと移住した。ヨーロッパのクラブカルチャーの中心地である同地にてエレクトロニック・ミュージックに魅了され、やがて自身の繊細で装飾的なソロピアノ作品に、精緻な電子音響を融合させる手法を確立するに至った。映画やテレビの分野でも広く知られ、イングランド代表戦を中継するITVに音楽を提供するなど、ラニは静謐ながら圧倒的な存在感を放つアーティストである。また「Chilling Bambino」の名義では、より実験的に電子音を探求。愛用するProphetシンセサイザーを駆使し、浮遊感あるメロディにサイケデリックなリズムを重ねることで、自由奔放な音楽世界を展開している。

ralph


1998年横浜生まれ、日本のヒップホップ・シーンで着実に評価を高める注目のラッパーのralphは、2020年にリリースしたセカンドEP『BLACK BANDANA』でその地位を確立し、いま最も注目される日本のラッパーの一人である。若手ラッパーたちが賞金をかけて競い合うオーディション・プロジェクト『RAPSTAR 2020』で熾烈な戦いを制し、ブレイクのきっかけとなったシングル「Selfish」は100万回以上の再生数を記録した。翌年には初のミックステープ『24oz』を発表し、ハードコア・バンドのCrossfaithとのコラボレーションや、ソロ・パフォーマンスも精力的に展開している。

ロバート・ワイアット - ele-king

 ロバート・ワイアットは、たいしたヒット曲もないのに、シリアスな音楽ファンなら名前くらいは知っているアーティストのひとりだ。また、世代によってとらえ方が違っているアーティストの代表格のような人だろう。本書の原題にはウィットがあって『Different Every Time』、つまり「毎回違っている」。ぼくが初めて聴いた曲は、高校時代に近所の洋盤屋で買った〈ラフトレード〉のコンピレーション盤、B面最後に入っていた“At Last I am Free”だった。
 同編集盤には、デルタ5の “Mind your own Business”、ザ・スリッツ “Man Next Door”(ダブ・ヴァージョン)、ザ・ポップ・グループ “We Are All Prostitutes”、ザ・レインコーツ “In Love”、キャブス“Nag Nag Nag”、YMG “Final Day”——そしてあの決定的なスクリッティ・ポリッティ “Skank Bloc Bologna”など、初期〈ラフトレード〉の黄金クラシックがぎっしり詰まっていた。そんななかで、ワイアットの“At Last I Am Free”は浮いて聞こえた。というか、キャブスやポップ・グループのようなサウンドに痺れていた17歳にとって、テクスチュア、雰囲気、曲の構造から歌い方まで、すべてが異なっていたその曲を受け入れるのには時間が必要だったのだ。
 その年、つまり1980年のことだが、ロバート・ワイアットはすごいね、とぼくに言ってきたのは、同じ高校の1学年の下の市原健太だった。現在、静岡市の鷹匠町で水曜文庫という古本屋を営んでいる気むずかしい男である。たまにエレキングでも書評をするので名前を憶えている方もいるだろう。この左翼かぶれの後輩に促されて、市原に理解できるものが自分に理解できないはずがないと、同編集盤のB面の最後の曲を繰り返し聴いたのもいまとなっては良き思い出だ。まあ、そんなこともあって、結局はその数年後、ぼくは、ビリー・ホリデーやキューバのホセ・フェルナンデス・ディアス、チリのビオレータ・パラのカヴァー、そして露骨な左翼ソング“労働組合”などを収録した作品、『Nothing can Stop Us(なにものも我々を阻止できない)』という信念の強さを感じざるを得ないタイトルの、ジャズと民族音楽を吸収した歌モノのアルバム、10曲中9曲がカヴァー曲の、ワイアットにいわく「パンクを通過したジャズ」を買うことになるのである。
 “At Last I Am Free”は胸が張り裂けそうな曲で、崇高さがあって優しさもあった。なにか特別なちからがある曲だと思っていたけれど(市原に言われたわけではない)、この曲の作者が70年代ディスコのヒットメイカー、シックだったことを知ったときには心底驚いたものだ。作者のナイル・ロジャーズはもとはブラックパンサー党の隊長だった人物で、なおかつシックのようなディスコは白人ロック・リスナーのみならず、硬派な黒人音楽ファンからも批判されるか軽視されていた、そんな時代なのだ(いまでもそうか)。しかしワイアットは、この曲の歌詞の奥底にひろがる複雑な感情を読み取り、敬意をこめてカヴァーした。ぼくはこの曲が意味するものをかみしめながら聴いて、涙した。

 ロバート・ワイアットの評伝を日本語で読めることは至高の喜びに値する。しかもA5版二段組みで500ページ以上あるのだから、これはもう、毎日の楽しみでしかなかった(読み終えたいま、寂寥感に包まれている)。ああ、この人の人生——28歳で半身不随になり、しかし、いや、彼はそれからまったく素晴らしい音楽作品を作り続け、同時に政治活動にも全力で身を投じたアーティスト、一時期は「自身の左翼活動や政治闘争のほうは音楽活動よりも重要だ」とまで言った男である——、その人の人生の詳細をようやく知ることができるのだ。
 ぼくより上の世代にとってのワイアットは、なによりもソフト・マシーンの創設メンバーであり、カンタベリー系と括られる奇数拍子マニアのバンドたちによるジャズ・ロックの中心人物、ケヴィン・エアーズやデイヴィッド・アレンといった、シド・バレット系のサイケデリックな時代における玄人好みのソングライター、といったところだろうか。もしくは、ブライアン・イーノとの交流が深く、フィル・マンザネラ、フレッド・フリスやカーラ・ブレイ、クリス・カトラーたちとも盟友で、〈オブスキュア〉からリリースされたジョン・ケージ作品で歌っている人物、『ミュージック・フォー・エアポーツ』の1曲目でピアノを弾いている人、として記憶している人も少なくないだろう。ここ日本では、ソフト・マシーンの『サード』、マッチング・モールの“オー・キャロライン”、そしてあの『ロック・ボトム』の作者としてのワイアットがもっと有名かもしれない。まあとにかく、20代の活動を見ただけでも、Different Every Timeだったりする。

 中産階級の裕福な家庭で生まれ育ち、早熟なジャズ・ファンだったワイアット。彼のことをなかば聖人のように見ていたぼくにとって意外だったのは、若き日のワイアットだ。ドラッグにこそ手を染めなかったものの(中産階級的な身だしなみに反するそうだ)、彼はずいぶんと好色で、奔放で、上半身裸のドラマーとしてその名を馳せ、そしてある時期から酒浸りの日々を送っていた。とんでもない飲んだくれだったようで、それが原因で自分が作ったバンド=ソフト・マシーンから追い出されてもいる。4階の窓から転落し脊椎を骨折したのも、不運と言うよりは、当時のワイアットの酒量とその振る舞いを思えば、決して不自然なことでもなかったようだ。周知のように、車椅子生活になってから彼は、しかしいまだ傑作としてゆるぎない評価の『ロック・ボトム(どん底)』(1974)を作る。そしてその次に来るのが、近年評価を高めている、前衛ジャズとの接合を果たした『ルース・イズ・ストレンジャー・ザン・リチャード』(1975)になる。
 貧乏を受け入れながら、拝金主義者リチャード・ブランソンの〈ヴァージン〉に見切りを付けたワイアットに、できたばかりのインディ・レーベル〈ラフトレード〉のジェフ・トラヴィスを紹介したのは、かのヴィヴィアン・ゴールドマンだった。同レーベルの社会主義的な運営にワイアットが共鳴したのは言うまでもない。この本でぼくがとくに知りたかったのは、ワイアットの政治性の出自とその展開だった。英国には政治と向き合うミュージシャンは数多くいるが、彼ほどがっぷりと、むしろ音楽よりも政治に情熱を注いできた人はそういるものではない。マッチング・モールで毛沢東を引用していたものの、彼が本格的にマルクスを勉強するのはそのあと。労働党ではなく共産党の党員になるのは、彼が〈ラフトレード〉と関わりを持つようになった時期(70年代末)になる。
 1968年という年を政治的には無色で過ごしたワイアットだったが、誰かの影響で政治的になったわけではなかった。ワイアットにとっての左翼活動は、彼と生涯のパートナー、アルフィーのふたりが自分たちなりに勉強を重ね、そして態度を明らかにし、具体的に行動をした、そのひとつの答えだった。1979年当時「共産党員になること」は──イーノの証言によれば時代遅れの「ダサい」ことだったとしても、街角に立って(ワイアットは車椅子に座って)炭鉱労働者たちのための募金運動をしたり、盟友クリス・カトラーと生活保護基金のための作品リリースまでしている。ワイアットにおける政治活動は本気であって、人生を捧げる行為だった。
 党員となった80年代のワイアットは、忘れがたい共同作品をいくつも出している。ベン・ワットとの「Summer into Winter」をはじめ、英国内で愛国主義が最高潮に達したときに放った、エルヴィス・コステロとの有名なアンチ・サッチャー・ソング「Shipbuilding」、ジェリー・ダマーズとのナミビア救済のための「The Wind of Change」、そして、トレイシー・ソーンやサイモン・ブースらとともにチリの政治的連帯を呼びかけるボサノヴァ「Venceremos (We will Win)」(ワーキング・ウィークの曲として発表)。1985年には10年ぶりのソロ・アルバムも発表し、1989年には、坂本龍一の『Beauty』にも参加した。

 ぼくのようなリスナーは、ポストモダン的にロラン・バルトにならい、作品は作者に隷属するものではなく受け手のなかで完成するものだと思っている。だから、じつを言えば作者が何を言おうが……という立場でいる。だが、しかし優れた評伝を読むことの面白さは、評伝を書くに値する深みをもった人生、すなわち思考することを諦めないアーティストの想像だにしなかった事実を知ることにある。“At Last I am Free”以降の全作品にはジャズへの愛情が注がれ、そして政治への辛辣な言及がある。右翼勢力への反論を込めた『オールド・ロトゥンハット』(1985)、「パルスチナは国だ」と歌う『ドンデスタン』(1991)、なかには政治色の薄い『シュリープ』(1997)もあるが、英米のアフガニスタン侵攻を糾弾する『クックーランド』(2003)、イスラエル軍によるレバノン爆撃に言及した『コミック・オペラ』(2007)……と、党を脱退したあとも毅然としたマルクス主義者であり続けるワイアットは、揺るぎない不屈の精神の持ち主に見えるかもしれない。ところが彼は、長年アルコール依存症で苦しみ、鬱病と不眠症にかかり、二度も自殺未遂をしている。本書における準主役、アルフィーも『コミック・オペラ』の頃は鬱病に苦しんだ。
 「痛ましいほどの誠実さ」、『Nothing can Stop Us』のライナーでワイアットは自らをこう表現している。彼はパンクを知ると、左派議員の講演会ではなくザ・クラッシュやザ・スペシャルズのライヴに行くようになる。そしてツートーンに熱狂し、移民文化と労働者階級の音楽を演奏する彼らと一体感を覚え、ジェリー・ダマーズやザ・ビートが自分にとって最後のロック/ポップスだったという。
 ワイアットは、ポストパンクと精神的な同盟関係にあった。ザ・レインコーツのアナ・ダ・シルヴァは「人としては天使」と賞賛し、スクリッティ・ポリッティのグリーンは心底ワイアット・ファンであったと、そう本書に書かれている。言われてみればたしかに、 ワイアットがピアノを弾いた“ザ・スウィーテスト・ガール”(初期〈ラフトレード〉の最高の名曲)にはその影響がある。グリーンの歌詞も歌い方もワイアット風だ——「世界でもっとも醜悪な彼らは、どうしてぼくにこんな酷い仕打ちをするのだろう」
 その後も多くのアーティストとワイアットは共演している。クリス・カーターとコージー・ファニ・トッティ、パスカル・コムラード、ウルトラマリン、ビョーク……『シュリープ』にはポール・ウェラー、エヴェン・パーカー、ブライアン・イーノが参加しているが、この3人を集めることができるのは、おそらくワイアットくらいのものだろう。
 いったい彼のなかの何が人を惹きつけるのだろう。戦後すぐに生まれたワイアットにとって、その将来、またしても右翼的な熱狂が繰り返されたことは許しがたい事態だった。だが、同時に左派内部における裏切りや失望も味わい、そのことも数枚の作品のなかで言及している。ワイアットはアメリカを大量虐殺のうえで成り立った国だと歌い、他方では、じっさいの政治的闘争の渦中にいる人たちが好んで歌う優しいバラードを彼も歌った。ワイアットとアルフィーがマルクスを勉強したのは、いち生活者として、何が自分を不幸にしているのか、どうしたら自分は幸せになれるのか、その答えを見つけるためだった。21世紀のいま、同じ疑問をいだいた20代の男女が、その答えを金儲けだと言ったところで驚きはない。何が自分を不幸にしているのか、どうしたら自分は幸せになれるのか。本書『ロバート・ワイアット』の核心にあるのはそこで、ワイアットとアルフィーふたりによるその試行錯誤と回答が、A5版二段組みでおよそ500ページ分あるのだ。

VINYLVERSEの「ギャラリー」機能を活用しているユーザーをピックアップし、ご紹介するインタビューシリーズの第2弾。今回は、現行ソウルの魅力を発信し続けているコレクター、nu soulさんにお話を伺いました。
群馬県出身の46歳。Soul / Funkを中心にレコードを蒐集し続け、レコード収集歴はなんと28年。まさに“レコードと共にある”暮らしを体現されている存在です。
インタビューでは、レコードとの出会いやVINYLVERSEの活用法、さらにフィジカルメディアの価値についても語っていただきました。今回はお忙しい中、メールにてインタビューにご対応いただきました。

① レコードとの出会いとコレクション

VINYLVERSE(以下V):レコードを集め始めたきっかけと、初めて買ったレコードを教えてください。

nu soul(以下N):大学生の時に流行っていたDJが使う12inchレコードを、HouseやR&B、Discoを中心に買い始めたのがきっかけです。初めて買ったレコードは、高校生の時に流行っていたFugees『The Score』のLPだったと思います。

V:レコード蒐集歴は何年目ですか?

N:途中、CDが中心になっていた時期もありましたが、なんだかんだレコードは途切れることなく買ってきました。28年目になると思います。

V:現在、どのくらいの枚数のレコードを所有されていますか?

N:これまで幾度となく売ってきたので、現在の所有枚数は少なめです。おそらく500枚くらいかと。

V:主にどのジャンルのレコードをコレクションしていますか?

N:Soul / Funkです。10代の頃からStevie Wonderが大好きで、Marvin Gaye、Curtis Mayfieldなど、いわゆるニューソウルは今でも変わらず好きですね。
それと現行ソウルも集めています。2000年代初頭、Neo SoulやR&Bが主流だった時期に、Raphael Saadiqのソロ・アルバムが出た頃から、生楽器を使ったVintage Soul作品が増え始めました。

Mayer HawthorneやKali Uchisといった人気アーティストもその流れを取り入れ、現行ソウルは今やメインストリームになりつつあります。アメリカではBig Crownレーベルの作品を常にチェックしています。最近では、Big Crownから作品をリリースしているインドネシアのグループ、Thee Marloesのように、アジアやオーストラリアなど世界各地からも良質なソウルが次々と登場しており、注目しています。
ハワイのシーンも素晴らしく、Nick Kurosawa率いるBombyeは特に印象的です。そして、今のイチオシは台湾のシンガー、Yufuですね。

V:今、個人的にとても欲しいレコードはありますか?

N:あります。Bobby CaldwellがJack Splashと組んで出した「Cool Uncle」のレコードです。当時買い逃してしまって、今では入手困難になっています。

V:コレクションの中で特に思い入れのある1枚とその理由を教えてください。

N:Princeの『Rainbow Children』です。怪しい語りが挿入される構成や、それまでの彼の作品とは違う、ジャズを中心にしたファンクサウンドがとにかく魅力的。2001年のリリース当時、Vintage / Retro Soulサウンドをこの形で作品化していたミュージシャンは他にいなかったのではないでしょうか。2020年にようやく正規リイシューされたLPは永久保存盤ですね。ジャケットやパッケージも含めて素晴らしいです。

② レコードの魅力について

V:nu soulさんにとって「レコードの魅力」とは何でしょうか?

N:何と言っても音質ですね。特に生楽器を使った作品は、まるで目の前で演奏しているような「近さ」が感じられます。それとレコード特有の匂いも魅力のひとつです。

V:レコード文化が復活していると感じますか?その理由は?

N:よく言われることですが、「モノとしての所有」に尽きると思います。パッケージや音質も含め、やはり魅力があります。

V:レコード文化の未来に期待していることはありますか?

N:今までレコード化されていなかったタイトル、あるいはCDのみでリリースされていたアルバムの再発がもっと増えてくれるとうれしいですね。サブスクにもない名曲って、意外と多いので。

V:レコードと他のメディア(CD・データ)で音楽を聴くことの違いについて、どう感じていますか?

N:音質の違いは明らかですね。サブスクだと流して聴いてしまいがちですが、フィジカルだと曲間やB面まで含めてしっかり「聴いた実感」があります。

V:レコードとデジタル音源の音の違いについてどう思われますか?

N:CDやデジタルと比べて、レコードは必ずしもクリアで綺麗な音ではないですが、より生音に近い迫力とゆらぎ(グルーヴ)があります。初めてクラブで大音量でレコードを聴いた時、その音の厚みに圧倒されました。敬愛する山下達郎さんがよく言う、「ガッツのある」音がしますね!

V:どうして今の時代に、あえてレコードを選ぶのですか?

N:学生の頃からレコードを買っていて、当たり前のように選んできました。やはり音質の魅力に取り憑かれているのだと思います。

V:レコードを聴くとき、特別に感じることはありますか?

N:最近気に入った曲をシングルで買って、ターンテーブルに丁寧に乗せて、集中して聴く時間ですね。最初にシュリンクを開封する瞬間も、やっぱり特別です。

③ レコードの集めかた

V:どのようにしてレコードの情報を収集されていますか?

N:僕は2000年以降の作品を中心に集めているので、主に現行アーティストや好きなレーベルのInstagram、サブスクなどで情報を得ています。それと高松で放送されているラジオ番組、Jimmie Soul Radioからの情報もかなり重宝してます。この番組では、新着のSoul / Funkを中心に楽曲紹介されていて、僕は番組のヘヴィ・リスナーの1人で、何度か選曲をさせていただいたこともあります。

V:普段レコードを買うお店や、買い方(中古・新譜)を教えてください。

N:新譜がメインなので、Disk Union、Jet Set、HMV、Tower Recordsのオンラインを利用することが多いです。買い逃した作品や気になった楽曲は中古でも探して、上記の実店舗で購入します。
また、日本で取り扱いのないタイトルはBandcampや海外レーベルの公式サイトから輸入することも。ただ、今はかなり割高になっていて難しいですね。大手ショップでは扱っていないものは、Music Camp(Barrio Gold Records)など専門店でも購入します。

V:オンラインのフリマやオークションでレコードを購入されますか?

N:利用したことはありません。

V:中古レコードの盤質は気にしますか?たとえばノイズのあるレコードと針飛びのあるレコードを選ぶとしたらどちらを選びますか?

N:いわゆるジャンク品でなければ、あまり気にしません。チリチリとしたノイズは嫌いではないので、針飛びや盤反りがないなら、ノイズのある方を選びます。

V:レコード1枚に出せる最高金額は?

N:以前、どうしても欲しかった12inchを1万円で買ったことがあります。でも今は、よほどのことがない限り買いません。高くても5000円台が限界ですね。

V:特殊な入手方法で手に入れたレコードはありますか?

N:知人のSNS投稿で珍しい7inchの存在を知り、その人に海外からまとめて注文してもらって、比較的安価で譲ってもらったことがあります。とても嬉しかったですね。

V:レコードの収納場所はどうしていますか?

N:10年ほど前に家を建てる際、子供部屋の近くに音楽部屋を作りました。そこにレコード棚を置いていて、散らかってはいますがなんとか収まっています。

V:ジャケット買いをしますか?

N:全く知らないものはあまり買いませんが、好きなアーティストや知らない作品でも、ジャケットにビビッと来たら買うことはあります。とはいえ、裏ジャケの作曲家・アレンジャー・参加ミュージシャンなどはしっかり確認してしまいますね。

④ レコードを共にしたライフスタイル

V:ターンテーブルやスピーカーなど、オーディオ機器のこだわりはありますか?

N:特にこだわっていません。ごく普通の機器を使っていますが、不便に感じたことはないです。

V:DJはされますか?

N:ごくたまに、仲間内のイベントで選曲する程度です。

V:CDやサブスクは使っていますか?使い分けがあれば教えてください。

N:Spotifyは通勤中にいつも聴いていて、新着音源のチェックが主です。休日はCDかレコード。レコードが中心ではありますが、移動中にはCDが重宝します。Mixtapeもいいですね。最近はLPが高騰していて手が出ないこともあり、CDで買うことも増えました。

V:音楽以外で、映画・アート・ファッションなどで好きなものがあれば教えてください。

N:あまり詳しくはありませんが、藤原ヒロシさんが紹介するカルチャー全般には興味があります。

⑤ VINYLVERSEについて

V:VINYLVERSEを知ったきっかけを教えてください。

N:VINYL GOES AROUNDのInstagramです。

V:VINYLVERSEをどのように使っていますか?

N:今でこそメインストリームにもなりつつある現行ソウルですが、黄金期の70〜80年代一辺倒になりがちなソウルミュージックラバーに、「現在進行形のこんな素晴らしいソウルがあるんだ」と知ってもらいたくて投稿を続けています。Instagramの延長線上で始めました。

V:アプリの使い方はすぐに理解できましたか?操作で迷った点、不便に感じた点はありますか?

N:比較的すぐに理解できましたが、写真を撮ってアップロードするところで少し手こずりました。

V:VINYLVERSEの一番の魅力は何だと思いますか?

N:シンプルなところですね。さらに、PHYGITAL VINYLの取り組みには毎回楽しませてもらっています。

V:nu soulさんのギャラリーのこだわりポイントはありますか?

N:特にこだわっているわけではありませんが、ジャンルや年代を絞って掲載しているので、他のユーザーさんとはまた違った見え方になっている気がします。

V:他のコレクターと交流する機能がもっと増えるとしたら、どんなものがあったらうれしいですか?

N:ギャラリーにコメントできる機能があれば良いと思います。また、ギャラリーの並び替えができて、思い入れの強いタイトルをトップに持ってこられれば、より分かりやすくなると思います。

V:追加してほしい機能はありますか?

N:マスターにない作品を自分で新規登録できる機能、検索履歴が表示される機能があるとうれしいです。
また、今後VINYLVERSE上で売買が可能になるとのことで、その際にWANT機能がさらに活用されるといいですね。それと、WANTの多いタイトルに注目して、リイシューに向けて動くなど。これは運用される側の話になってしまいますね。

V:どんな人にVINYLVERSEをおすすめしたいですか?

N:レコードを買い始めたばかりの若い方ですね。今の若い人たちは、サブスクで年代問わず音楽を聴くのが当たり前だと聞いています。そんな方に、お気に入りの音楽をレコードで手に取ってもらい、VINYLVERSEに投稿してもらえたらうれしいです。ぜひその投稿を覗いてみたいですね。

V:では最後にレコードを買いたいというビギナーへ、メッセージがあればお願いします。

N:まずはジャケ買いでもいいと思います。気になるレコードがあれば、一度手に取ってみてください。たとえ失敗しても、そこから何かしらの発見があるはずです。


以上、nu soulさんへのインタビューでした。
現行ソウルの魅力を発信し続ける姿勢と、28年のキャリアからくる確かな視点。
VINYLVERSEを通じてレコード文化を盛り上げるユーザーのリアルな声として、ぜひ今後のコレクションや投稿にもご注目ください。

nu soulさんありがとうございました!!

VINYLVERSE アプリ

NOT WONK - ele-king

 アルバム最後の曲 “Asshole” の冒頭、足音が聞こえた気がした。それはゆっくりと地を踏み締め進む、このバンドのことを思わせる音だった。後ろを振り返ったり足元をみたりしながら、その日その時のスピード、歩き方であゆみを進めることの大切さが、そこには宿っているように思えた。実際それは、グランドピアノのペダルを踏む音だったのだけれど。とにかく自分の耳にはそのように聞こえた。

NOT WONKの5枚目となる『Bout Foreverness』は、12年間3ピースで活動してきたバンドが、二人になったタイミングで作られた。なにかを埋め尽くすようなフィードバック・ノイズと、対照的な静けさ、問いかけるような歌声、それらを内包する多彩なエイトビートが、目の前に現れるかのように鮮明な録音で、一つの作品としてパッケージングされている。パンクを “優しさ” や “真面目さ” と捉え、社会に対して開けたメッセージを作品に反映させてきた彼らにとって、今作はもっとも個人的で、内世界を映したような内容になっている。

 タイトルにあるように、この作品の大きなテーマは「永遠性」。時間を超えて、変わらずに存在し続けること。かなり幅のあるテーマだ。音楽作品においては、どの時代でもその素晴らしさを再発見できる、不朽の名作がもつ性質ともとれる。そんな永遠性もこの作品はかね備えているが、それだけではないみたいだ。

 時間はまっすぐ前に進んでいるのだろうか? 普段生きている中でそんな疑問を抱くシーンはあまりないかもしれないが、音楽がなっている場所でそんな気分に陥ったことがある人は少なくないはずだ。BPM100で曲がスタートして気づかないぐらいのテンポチェンジによって95に変わっていくとき。遅い曲から早い曲にシフトチェンジしたとき。無音になったとき。あるいは楽器やサンプリングがリヴァースするとき。場の空気は少しずつ歪み、時が一定の速度で前に進んでいるとは思えなくなったことがないだろうか。音の前で、時間は伸び縮みしやすい。そんな音が持つ性質に、この作品は挑戦している。歌詞もだけれど、曲の「ループ」の部分にその跡がみえる。

 あらゆる音楽において意識的、無意識的につかわれる「ループ/繰り返し」。特に “Some of you” において顕著にその実験がみられる。リムショットと和音を爪弾くギターからはじまり、ツーステップに移行するとギターと変調させたヴォイスが渦巻き、ノイズのハレーションを起こすこの楽曲。途中で降り注ぐ声のサンプリングは、曲中の別パートから持ってきたものらしい。だからなのか、どの音のディレイか分からなくなるほど深いエフェクトの作用か、終わりと始まりが曖昧になっていく感覚をおぼえる。そうして終盤に刻まれるハイハットは、曲の頭に鳴らされるものと同じテンポで、確かに時が移ろっていたことを示しているのだ。また、今作の聴きどころとして、フィードバック・ノイズの使い方がある。「最終的にマニュエル・ゲッチングとかスティーヴ・ライヒの話をしながら録ってた」というインタヴュー内の発言にもあるように、フィードバック・ノイズは時として、ミニマル・ミュージックやドローンのような反復として、今作のなかで鳴っている。

 「ループ/繰り返し」の他に、「音の大小」もアルバムの中では扱われている。無音室のなかでは自分の体の音がうるさいというが、音が “小さい” ことと音が “大きい” ことの差異は思っているよりもないのではないか。そんな疑問への試行は楽曲内のダイナミズムだけでなく、アルバムの流れにもあらわれている。DCハードコア、スロウ・コアを思わせる “George Ruth” から、ボサノヴァのリズムとつぶさな歌声を取り入れた “Embrace Me” への流れ。“Same Corner” の終盤、テンポが加速しながらサックスとコンガが入り乱れ、そして断ち切られたあと、数秒あいてホワイトノイズのような空間の音からシンバルが表出する “Changed” への切り替えもそうだ。それは一見唐突なようで、シームレスにつながっている、という相反する感覚を呼び起こす。

 音楽の概念的な部分への挑戦が細やかになされた楽曲たちは、聴き手にあらゆる発見を促す。現に自分が、フィードバック・ノイズにラ・モンテ・ヤングを見出したように。音楽を聴くものにとって、こうした発見の連続がさらなる聴取の足掛かりになる。それこそが聴くことの創造性なのではないだろうか。『Bout Foreverness』はそうして、聴き手に届くことで完成していく作品なのだろう。

 ここまで述べてきたように、作品性の高い今作だが、ライヴでは毎度異なるアレンジがなされており、さながら生き物のように変化中だ。それはポスト・プロダクションに入れ込み始めた前作でも同様だったが、当時はライヴのために構築し直すようなありかただったのが、いまは毎度そのときその場に導かれるように変化させているように思う。ベースの本村拓磨が都内で活動しているからそうせざるを得ない、ということももちろんあるだろうけど。“About Foreverness” はアルバムでは部分的だったパブ・ロックのノリが前面に押し出されてコステロさながらだし、“George Ruth” はサッドコアたる湿っけは抑えられカラッと演奏される。単にいまのモードというところもあるだろうけれど、フロアの反応をみて次の曲を急に変えるという10年間で自分が見たことがなかったことも、サラッとやりのける。とにかくその場に身を委ね、どこまであがっていけるかを、セッション的な要素を含めて試みているようだ。

 NOT WONKは、音を鳴らす場所自体にもテーゼを掲げて活動してきた。昨年、今年と開催されるFAHDAYは活動拠点である苫小牧の市民会館とその周辺一帯を使っておこなわれる。表現の交換市と銘打たれたこのビッグ・パーティは、苫小牧の飲食店やクラブ、ライヴハウスとともに立ち上げられ、各地から様々な表現者をよび開催される。そして、このパーティでいうところの交換されうる表現にはきっと、表現者と呼ばれるひと以外の存在も含まれているだろう。その場に居合わせるということの影響力は案外甚大だ。とくに音を聴く場においては、誰かの話し声や咳払い、表情など、動きすべてが物理的にも間接的にも、音に影響していく。そんな相互作用にも、このバンドは立ち向かい、手触りを確かめているように思えてならない。

7月のジャズ - ele-king

 オーストラリアやニュージーランドはジャズの伝統が長い国ではないが、逆にジャズにまつわる様々な影響を取り入れることに長けた国でもあり、特に1990年代後半から2000年代以降はクラブ・ジャズを経由したアーティストを多く生み出している。ニュージーランドでは、現在はロサンゼルスで活動するマーク・ド・クライヴローや、ロンドンでも活動していたネイサン・ヘインズなどは、ジャズの下地があった上でクラブ・サウンドにも接近して一時代を築いたミュージシャンである。ニュージーランドのオークランドを拠点とするサークリング・サンも、そうした系譜に位置するバンドのひとつと言える。
 バンドの中心人物はカナダ生まれのジュリアン・ダインで、もともとDJとして頭角を現し、その後バーナード・パーディーからドラムの手ほどきを受け、ミゼル兄弟とレコーディングをおこなうなど、ミュージシャンとしての道も進むようになる。2009年に『Pins & Digits』というソロ・アルバムをリリースし、2011年にはセカンド・アルバムの『Glimpse』をリリースするが、この頃はスティーヴ・スペイセックのようなエレクトリック・ダウンテンポ・ソウルをやっていた。2018年の『Teal』では自身は各種楽器を演奏するようになっていて、ロード・エコーやレディ6などとセッションをおこなっている。このあたりから生演奏の比重が増す音作りへと変化していくのだが、リリース元はUKの〈サウンドウェイ〉で、このレーベルはアフロやカリビアン系のサウンドを得意とする。サークリング・サンをリリースするのも〈サウンドウェイ〉で、この頃からのコネクションが続いている。

The Circling Sun
Orbits

Soundway

 サークリング・サンのデビューは2023年の『Spirits』で、メンバーにはネイサン・ヘインズのバンドで活動してきたベン・トゥルーア(ベース)はじめ、キャメロン・アレン(テナー・サックス、フルート)、ジョン・ユン・リー(フルート、ソプラノ・サックス、クラリネット)、フィン・スコールズ(トランペット、トロンボーン、チューバ、ヴィヴラフォン)などが参加していた。ジュリアン・ダイン自身はドラムス、パーカッション演奏のほか、全体をまとめるバンド・リーダー/プロデューサーとしての役割も担う。宇宙をイメージするようなアルバム・ジャケットが示すように、ファラオ・サンダースアリス・コルトレーンサン・ラーなどにインスパイアされたスピリチュアル・ジャズと言える。DJでもあるジュリアン・ダインが率いるだけに、そうしたスピリチュアル・ジャズのエッセンスをまといつつ、クラブ・ジャズとしての聴き易さも兼ね備えている。ラテンやブラジリアン・リズム、コーラスの導入にそうした点が表われており、1990年代後半~2000年代のクラブ・ジャズ・シーンを通過したDJでないとなかなかこうしたセンスは身につかないだろう。

 新作の『Orbits』も、『Spirits』と対になるような宇宙をイメージしたジャケットで、前作の路線を踏襲している。演奏メンバーも前作を引き継ぎつつ、ジョン・キャプテイン(ピアノ、キーボード、シンセ、ギター)、ケニー・スターリング(パーカッション、シンセ)といったメンバーも参加。コーラス隊は前作からさらにパワーアップし、ラヴ・アフィニティ・コーラスという名前もついている。コーラス隊を擁したスピリチュアル・ジャズというとカマシ・ワシントンが思い浮かぶが、サークリング・サンの場合はカマシほど重く激しいものではなく、どちらかと言えばグルーヴィーさや軽やかさを感じさせるもの。例えば “Constellation” などはアジムスやロニー・リストン・スミスあたりに近い感性を持ち、ファラオ・サンダースと比較しても1980年前後の〈テレサ〉時代のサウンドを想起させるようなものだ。コーラスの使い方も “You’ve Got Have A Freedom” を彷彿とさせる。“Flying” はそのままアジムスの作品と言ってもおかしくないし、“Seki” にはロニー・リストン・スミスが持つ透明な美しさが流れている。“Mizu(水)” “Teeth” “Evening” と、今回はスピリチュアル・ジャズの中でもブラジリアン・フュージョンやラテン・フュージョン寄りの作品が多いところが特徴だ。また、1970年代の〈ブルーノート〉のミゼル兄弟のプロダクションに対するオマージュも随所に見受けられる。


Greg Foat & Forest Law
Midnight Wave

Blue Crystal

 エセックス出身でロンドンを拠点に活動するマルチ・アーティストのアレックス・バーク。彼のプロジェクトであるフォレスト・ロウについては、2024年リリースのデビュー・アルバム『Zero』を本コラムで紹介したことがあるが、それから約1年ぶりの新作はロンドンのピアニストで様々なアーティストとのコラボをおこなうグレッグ・フォートとの共演となった。そして、注目すべきは『Zero』のときとフォレスト・ロウのメンバーがガラっと変わり、トム・ハーバート(ベース)、モーゼス・ボイド(ドラムス)、アイドリス・ラーマン(テナー・サックス)と、南ロンドン周辺のジャズ・セッションで多く名を見る強者たちが駆けつけていること。トム・ハーバートはマリンバ、モーゼス・ボイドはシロフォン(バラフォン)も演奏するなど、なかなか異色のセッションとなっている。

 作品のテーマとしては、ワイト島出身のアーティストであり伝説のサーファーだったデイヴ・グレイの芸術と人生にインスパイアされ、人生、死、絵画、サーフィンをテーマとした作品が収められている。こうしたコンセプト作りはサントラ的な作品を得意とするグレッグ・フォートによるものだろう。フォレスト・ロウ(アレックス・バーク)は今回はヴォーカリスト兼作詞家という役割に徹していて、グレッグ・フォートとして初めてヴォーカリストをフィーチャーしたアルバムになっている。“Imaginary Magnitude” は1970年代後半のブリット・ファンクをリヴァイヴァルさせたようなサウンドで、そこにブロークンビーツなどクラブ・サウンドのエッセンスを取り入れている。ジャイルス・ピーターソンとブルーイによる STR4TA(ストラータ)に近いサウンドで、“I Vibrate” におけるフォレスト・ロウのヴォーカルもレヴェル42のマーク・キングを彷彿とさせる。ちなみにレヴェル42もワイト島出身なので、何らかの意識があるのかもしれない。“The Undertow” はブリット・ファンクとは異なる作品だが、前述のとおりマリンバやシロフォンを前面に打ち出したエキゾティックなアンビエント・サウンドで、自然との結びつきが深いサーフィンというスポーツを表現しているのだろう。


Collettivo Immaginario
Oltreoceano

Domanda Music

 コレッティヴォ・イマジナリオはドラマーのトマーソ・カッペラートを中心とするユニットで、ピアニストのアルベルト・リンチェット、ベーシストのニコロ・マセットによるトリオとなる。イタリア出身のトマーソはロサンゼルスに渡って活動し、マーク・ド・クライヴ・ローなどとセッションしているが、たびたびロサンゼルスとロンドン、イタリアのミラノを行き来しながら演奏しており、コレッティヴォ・イマジナリオはミラノで録音をおこなっている。クラブ・サウンドやエレクトリック・サウンドの要素も取り入れ、スペイシーな風味の作品を得意とするトマーソ・カッペラートだが、このコレッティヴォ・イマジナリオもそうした持ち味を生かしたもので、それから1970年代のイタリアのピエロ・ウミリアーニ、ピエロ・ピッチオーニらに代表されるサントラやライブラリー・ミュージックにも多大なインスピレーションを受けているそうだ。

 2022年に『Trasfoma』というアルバムをリリースし、今回の『Oltreoceano』が2作目となる。『Trasfoma』は3人のみの録音で、ヴォーカルを入れる際もニコロとトマーソが担当していたのだが、『Oltreoceano』ではスピリチュアル・ジャズのレジェンド的なシンガーであるドワイト・トリブルほか、メイリー・トッド、モッキー、ダニーロ・プレッソー(モーター・シティ・ドラム・アンサンブル)など、ジャズ・シーン、クラブ・シーンの両面から多彩なゲスト参加がある。そのドワイト・トリブルのワードレス・ヴォイスをフィーチャーした “Vento Eterno” は、テンポの速いアフロ・サンバ・リズムによるスピリチュアル・ジャズ。野性味溢れるコーラス・ワークや哀愁に満ちたメロディなど、エドゥ・ロボの “Casa Forte” を連想させるような楽曲である。ダニーロ・プレッソーをフィーチャーした “Tempo Al Tempo” は、ディープ・ハウスやブロークンビーツのエッセンスを取り入れたジャズ・ファンク。1970年代のラリー・ヤングやハービー・ハンコックあたりへのオマージュが伺えるほか、途中から転調してアジムス的なブラジリアン・フュージョンへと変化していく。


Mocky
Music Will Explain (Choir Music Vol. 1)

Stones Throw

 モッキーことドミニク・サロレはカナダ出身で、ロンドン、アムステルダム、ベルリン、ロサンゼルスと世界中の街を移り住みながら活動するシンガー・ソングライター/マルチ・ミュージシャン。ジャンルレスで枠にとらわれない音楽性を持ち、ロック、テクノ、ヒップホップなどと幅広い音楽性を見せてきたが、2015年の『Key Change』あたりからがジャズやモダン・クラシカルを取り入れたポップな作品を作っている。この『Key Change』や2018年の『A Day At United』はロサンゼルスへ移住した頃の作品で、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、マーク・ド・クライヴローらLAジャズ勢との共作となる。また、ジェイミー・リデルファイストゴンザレスケレラモーゼス・サムニーカニエ・ウェストといった様々なアーティストと共演しつつ、自身の作品では彼独特の世界に染め上げる稀有な存在でもある。なお、前述のコレッティヴォ・イマジナリオの『Oltreoceano』にもゲスト参加している。

 そんなモッキーの新作『Music Will Explain』は、コーラス・ミュージックというサブ・タイトルが付けられているように、和声をテーマにした作品集となる。『Key Change』にもヴォーカル作品はいろいろあり、ケレラ、モーゼス・サムニー、ニア・アンドリュース、ミロシュ(ライ)、ココ・O(クアドロン、ブーム・クラップ・バチェラーズ)らがシンガーとして参加していたのだが、今回はより和声のハーモニーにフォーカスしたものと言える。モッキーは自身でヴォーカルのほか、ベース、ギター、ピアノ、キーボード、パーカッション、フルートなどを演奏し、ミゲル・アットウッド・ファーガソンのストリングスはじめハープ、ハーモニカ、クイーカなどいろいろな楽器が使われる。そして、コーラスにはニア・アンドリュース、メイリー・トッドなど総勢15名ほどが加わる。

 “Infinite Vibrations” はドリーミーなソフト・ロックで、コーラス・ワークを含めて1960年代のフリー・デザインを彷彿とさせる。1990年代の渋谷系からハイ・ラマズステレオラブなど後世に多大な影響を与えたヴォーカル・グループのフリー・デザインだが、モッキーの本作もそうした系譜に繋がる1枚と言える。そして、カーメン・マクレエ、サラ・ヴォーンらの歌唱で知られ、アウトラインズがサラ・ヴォーン・ヴァージョンをサンプリングした “Just A Little Lovin’” もカヴァー。バリー・マン作曲、シンシア・ワイル作詞により、もともとダスティ・スプリングフィールドの歌で世に出た楽曲だが、前述のとおりジャズ・ヴォーカルの名曲としても知られる。今回はソフト・ロック調のジャズ・ヴァージョンといった趣で、1960年代後半から20年代初頭のカリフォルニアで活動した伝説のフィリピン系姉妹少女5人グループのサード・ウェイヴを彷彿とさせる

HYPER IRONY - ele-king

 今年頭、ENDONとKAKUHANのツーマンを実現したライヴ・イベント《HYPER IRONY》。「異なるフィールドで活躍するアーティスト達の親和性にフォーカス」するという同イヴェントの最新回が、9月13日(土)、東京の小岩BUSHBASHで開催されることになった。今度の出演者たちも強力で、MERZBOWMELT-BANANA、ゲーム『巨人のドシン1』サウンドトラックのリイシューも記憶に新しい浅野達彦、mouse on the keysの川崎昭と元envyの飛田雅弘による新たなプロジェクト=PULSE DiSPLAY、そしてSatomimagaeの5組が集結する(レコード店RECONQUISTAも出店)。他では味わえないラインナップの妙を楽しみたい。

イベント名:HYPER IRONY
日程:2025年9月13日(土)
会場:小岩BUSHBASH

[LIVE]
MERZBOW / MELT-BANANA / 浅野達彦 / PULSE DiSPLAY / Satomimagae

[SHOP]
RECONQUISTA

OPEN.17:00 / START.17:30
DOOR ONLY 3,500 + 1DRINK

Milena Casado - ele-king

 これが初リーダー作とは俄かには信じ難い。スペイン出身でバークリー音楽大学で学んだトランペット/フリューゲルホーン奏者=ミレーナ・カサドの『リフレクション・オブ・アナザー・セルフ』は、そらおそろしいほどの完成度を誇る野心に満ちた傑作である。まず注目したいのは豪華な参加メンバー。ベーシスト/ヴォーカリストのミシェル・ンデゲオチェロ、ハープ奏者のブランディー・ヤンガー、フルート奏者のニコール・ミッチェル、ドラマーのテリ・リン・キャリントンらが多方面で多大なる貢献を果たしている。

 これだけの傑物が揃えばいいものができるのは当たり前じゃないか、なんて声が聞こえてきそうだが、誰にどの曲でどんなプレイをするかという采配をふるったのは彼女だろう。なんせ一騎当千のプレイヤーばかりである。下手をすればミレーナの影が薄くなってしまう可能性だってあったはずだ。だが、むしろ彼女が堂々と主役を張っているのだ。参りましたという他ない。

 スペイン人の母とドミニカ共和国出身の父の間に生まれ、現在はNYを拠点にする彼女の音楽は、有体に言えばコスモポリタンなものと言えるだろう。だが、地理的にはもちろん、本作は時代も超越しているように思う。筆者が彼女の演奏から連想したのは、夭逝したサックス/フルート奏者エリック・ドルフィーのサイドを張ったブッカー・リトルやフレディ・ハバード、ファンキー・ジャズの立役者であるリー・モーガン、ネオ・ソウルとコンテンポラリー・ジャズを架橋したロイ・ハーグローヴなどである。
 また、全体のサウンドもビバップからフリー、アシッド・ジャズ、ネオ・ソウル、ブラジル音楽、ラテン、ヒップホップまで、新旧や国籍を問わず様々な要素がモザイク状に織り込まれている。いや、正確には、ビバップ以降のジャズやその隣接ジャンルを巧みに分析/統合し、自家薬籠中のものとしているのだ。学究肌とまでは言わないが、研究熱心な人なのだろう。その分析力は的確であり、多ジャンルを統合する手さばきは実に慣れたもの。DJがジャズからヒップホップまでを繫ぐように、多種多様なタイプの曲が継ぎ目なく奏される。   

 “O.C.T(Oda to the crazy times)”はラッパーのKokayiをフィーチャーしたヒップホップ・ソウル。“Uncondional Love”はイージー・リスニング色の濃いスムース・ジャズ、“IntrospectionⅡ-Preguntas”はウッドベースとトランペットのみの演奏で、マイルス・デイヴィスを想わせるミュートの効いたソロが耳を惹く。当然のようにスクラッチも挿入されるし、メロウなうたものも複数ある。しかも、1曲だけ収められているカヴァーが、新時代の変拍子ファンクを標榜したM-BASE派出身のジェリ・アレンの曲だというのが、その音楽的な射程の長さを物語っているではないか。

 現代のジャズ界はカリスマ的巨匠不在の時代と言われる。むろん、複数のシンガーをフィーチャーしたアルバム『ブラック・レディオ』でブレイクしたロバート・グラスパーや、スピリチュアル・ジャズを今様にアップグレードしたカマシ・ワシントン、エレクトロニック・ミュージックとジャズを混合したフライング・ロータスなどが登場してからは、一概にそうとも言いきれなくはなっている。だが、彼らも過去の豊穣な音楽遺産を分析/統合する能力に長けていたからこそ、シーンの最前線に躍り出た側面があるのは否めない。そして、そうした潮流の筆頭にいるのが、ミレーナなのは間違いないと思う。

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