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Merzbow & Lawrence English

Field RecordingNoise

Merzbow & Lawrence English

Eternal Stalker

Dais

デンシノオト   Jun 23,2022 UP

 ローレンス・イングリッシュメルツバウの競演、いや饗宴とでもいうべきか。彼らふたりが初めてコラボレーションしたアルバムがリリースされたのだ。
 ローレンス・イングリッシュはオーストラリアの音響作家であり、アンビエント・アーティストでもある。
 ソロ・アーティストとしての活動のみならず、フランシスコ・ロペスデヴィッド・トゥープ、鈴木昭男、ウィリアム・バシンスキーなどレジェンド級のアーティストとのコラボレーション・ワークも充実している。くわえて自身のレーベル〈Room40〉を長年運営し、個性豊かなエクスペリメンタル・アーティストの音源を多くリリースしてきた。
 彼のアルバムは数多くリリースされているので、一枚だけを挙げるのは困難だが、本作との関連という意味でならばフィールド・レコーディングに徹した『Viento』(2015)をぜひとも聴いてほしい。荒涼とした環境音に本作との関連を聴き取ることができる。
 メルツバウ=秋田昌美についてはもはや言葉を重ねる必要すらないかもしれない。日本のノイズ・ゴッドであり、世界のノイズ・レジェンドである。70年代末期から活動をはじめ、80年代には唯一無二のノイズ世界を鳴らし、90年代にはノイズの世界地図を席巻し、00年代以降も、ノイズの革新と拡張を重ねてきた……。まさに伝説のノイズ・アーティストである。
 個人的に猛烈に惹かれているメルツバウのアルバムはノイズの限界突破とでもいうべき『Venereology』(1994)、『Pulse Demon』(1996)、00年代の電子音響期の『Electro Magnetic Unit』(2004)、10年代の長大なアンビエント作品『Merzbient』(2010)などである。また2020年にリリースされた Boris との『2R0I2P0』はロックとノイズの高次元の交錯が実現されていた傑作だ。まるでスプーキー・トゥースとピエール・アンリ『Ceremony』の2020年代版だった。
 そんなローレンス・イングリッシュとメルツバウの共作となれば湧き立つのも当然だろうが、正確には初の顔合わせではない。2020年に〈Room40〉からリリースされたシュシュのジェイミー・スチュワートとローレンス・イングリッシュのユニット、ヘキサのアルバム『Achromatic』でローレンス・イングリッシュとメルツバウはコラボレーションしていたのである。
 とはいえ本作はローレンスのソロとしての初の公式共演という意味では重要だ。ではどういった作品なのか。アルバム名からもわかるようにどうやらタルコフスキーの『ストーカー』からインスパイアを得たようである。
 タルコフスキーと環境録音。タルコフスキーとノイズ。こう書くとその親和性の高さを感じてしまうが、アルバムを聴きはじめると、そんな安易な比較など一気に吹き飛ばされてしまった。 
 本作は、英国の広大な工場複合施設で録音されたフィールド・レコーディング音響をもとに構築されたアルバムである。その音はまるでSF的な廃墟空間のサウンドのようだ。
 秋田自身も「ディストピアSFオペラのサウンドトラックのようだ」と語っているほど。じっさいその深く広大で、荒涼とした音響空間は、深い没入感を与えてくれた。
 工場地帯の環境録音でアルバムは幕を開け、次第に、電子ノイズが作品を覆ってくる構成である。まるで暴風のように音響空間と聴覚をノイズが覆ってくるのだ。それは映画的でもあり、物語的でもある。いや物語の廃墟、痕跡のノイズ化とでもいうべきかもしれない。
 「廃墟」の音響化のような1曲目 “The Long Dream” からはじまり、4曲目 “Magnetic Traps” あたりから次第にノイズが環境音に侵食をしはじめ、5曲目 “The Golden Sphere” ではSF的といえる光景を音響によって描き出す。
 そして静謐な6曲目 “Black Thicket” を経て、アルバムはクライマックスを迎える。嵐の中、工場に鳴り響くノコギリ音のようなサウンドの7曲目 “A Thing, Just Silence” では、まさに「メルツバウ」という「神」が世界にむけて全面降臨するかのように圧倒的なノイズ空間が発生していた。まさに音響の暴風。
 このアルバムには、ふたつの才能による、大きなノイズの渦が横溢している。ぜひとも多くの人に聴取/体験していただきたいアルバムだ。

デンシノオト