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Lawrence English

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デンシノオト   Mar 01,2017 UP
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 ローレンス・イングリッシュは、自身が主宰する〈ルーム40〉からヘキサ(ローレンス・イングリッシュとジェイミー・スチュワートのユニット)名義で『ファクトリー・フォトグラフス』というアルバムを2016年にリリースしている。これはデヴィッド・リンチの工場・廃墟写真集と音響作品を同梱した作品集で、もともとはリンチの展覧会で展示された写真作品のサウンドトラックであった。この『ファクトリー・フォトグラフス』のドローンは、リンチの写真イメージと同様に、インダストリーな廃墟感覚を醸し出しており、いかにもローレンス・イングリッシュ的な不定形なアンビエンスを称えた秀逸な音響作品である。

 不定形なアンビエンス。ローレンス・イングリッシュのドローンは、空気か雲のように、つまりは天候のように不定形だ。それは自然回帰などではなく、都市や文明空間のはざまに不意に表出するような不安定さや空虚さに似ている。いや、そもそも現代のアンビエント/ドローンとは、そういった「空虚さ」を、日々の生活や人生の中に導入する音楽とはいえないか。
 空虚であることの豊穣さ。この矛盾した言葉にこそドローン・リスニングの魅力があるように思える。だからこそリンチの工場・廃墟写真作品とイングリッシュらのサウンドは絶妙にマッチしたのだ。つまり、都市のなかにある空虚。ここに21世紀初頭を生きている「われわれ」の無意識に作用する文明観と音響感覚があるように思える。

 本年にリリースされたローレンス・イングリッシュの新作『クルーエル・オプティミズム』もまた同様の不定形なドローンの魅惑に満ちている。2014年にリリースされた『ウィルダネス・オブ・ミラーズ』は、ローレンス・イングリッシュの転換点ともいえるダーク・ドローン・アルバムだったが、この『クルーエル・オプティミズム』では、『ウィルダネス・オブ・ミラーズ』の方法論を継続しつつも、ゲスト参加したマッツ・グスタフソン 、クリス・アブラハムス(ザ・ネックス)、 トニー・バック(ザ・ネックス)、ノーマン・ウエストバーグ(スワンズ)、ソー・ハリス、ヴェァナー・ダフェルデッカーなど多彩なゲストとともに、現在の世界のムードを深遠に表現するようなアンビエント/ドローンを鳴らしている。それは不穏な世界への予兆のようでもあるし、不穏な世界を浮遊させる瞑想のようでもある。1曲め“ハード・レイン”冒頭、遠くの雷鳴のごとき衝撃音から、降り注ぐ雨のようなアンビエンスへの転換は、まさに荒れる気候、地球環境、世界状況を表象する音のようだ。
 さらに、本アルバムに収録されたトラックは、これまでのイングリッシュの、どの楽曲よりも明確なコンポジションを感じる仕上がりである。その頂点ともいえる楽曲が、6曲め“オブジェクト・オブ・プロジェクション”と7曲め“ネガティヴ・ドローン”であろう。持続音、環境音、ノイズ、それら「音楽」の痕跡が複雑に交錯し、ひとつ/複雑な音楽/音響を紡ぎ、構築しているのだ。まるでドローン・オーケストラのように。

 『ウィルダネス・オブ・ミラーズ』の制作時は「不安の雲が頭上にあった」と語るイングリッシュだが、数年の時を経て、彼は『クルーエル・オプティミズム』=「残酷な楽観主義」という名前のアルバムをリリースした。まるで残酷な楽観主義によって、不安の雲が世界を覆い尽くしたといわんばかりに。そう思うと、本作のアートワークや雨をモチーフにしたサウンドの意味も分かってくる(ちなみに「残酷な楽観主義」とは、アメリカの理論家=シカゴ大学教授ローレン・バラントの書名から取られたもの)。
 「不安定な天候」のように世界を覆う「残酷な楽観主義」。この必然としての合衆国の大統領選挙問題、難民問題、中東の戦争、UKのEU離脱、ジェンダー、人種差別など、21世紀初頭により表面化する深刻な世界情勢・問題。不穏。不安。本作のドローンは、そのような不安・不穏の世界に生きるわれわれの無意識にアジャストするメディテーションとして鳴らされているように思えてならない。

デンシノオト