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S.L.A.C.K.

S.L.A.C.K.

Swes Swes Cheap

Doger Records

Amazon

野田 努   Sep 15,2010 UP

 8月に限定リリースされた通算4枚目(うち1枚はブダムンキーとの共作)で、amazonを見たら早くも中古で4000円以上で出品されている。いつの世にもせこい商売をしている輩がいるものだが、それだけスラックの作品が強い関心を集めているとも言える。PPPクルーのアルバムにも参加していたし、最近では曽我部恵一のシングルにもパンピーとともに参加している、あっという間に売れたらしいが......。彼は、紛れもなくいまもっとも注目されているラッパーのひとりなのだ。

 6月にdommuneに出演したときもスラックは格好良かった。出演時間ギリギリにやって来て、ふらっとその場に寄ってみたと言わんばかりの風情でマイクを握り、街を吹き抜ける一陣の風のようなライヴをやって、そして消えていった。その颯爽とした身軽な振る舞いは、人生という重力のうえを涼しそうに滑っていくような彼の音楽と見事に結びつく。

 『Swes Swes Cheap』は計9曲が収録され、うち6曲をスラック自身がトラックを作り、3曲をブダムンキーが手掛けている。前作で組んだタッグが活かされている本作は、スラックの作風の微妙な変化を捉えているようである。
 とくに印象深いのは、"伝えな"と"この道はどこへ"だ。"伝えな"は過去のどんな曲よりもメランコリックで、"弱さ"をテーマにしているように聴こえる。「どんな感じ?」という問いかけと空虚な笑い声が、この曲が内包する複雑な感情(憐憫、嫌悪、などなど)を乾いたものにする。
 メランコリーは"この道はどこへ"にも引き継がれる。グライミーなトラックと「東京ゲットーウェイ、面倒くせー」というコーラスは彼らのやりきれなさを強調すると同時に、まるでザ・スペシャルズの"ゴーストタウン"のように、この街の死臭を嗅ぎ取っているようでもある。
 
 他にも聴きどころはある。"夢と現実の間"やブダムンキーによる"夕方"のような曲を聴いていると、ジェイ・ディラを思い出さずにはいられない。メロウなスモーキー・ビートがスラックの催眠的なフローと空中で溶け合っている。宙づりになった言葉は、そのまま大気のなかへと消えていくようだ。そして、レゲエを解体して組み直したような"A Luv"からドープなインストの"余韻"を経て、ウェッサイ風の野太さを持った最後の曲、"なんで欲が出る"がはじまる。仙人掌がフィーチャーされたこのトラックは『Swes Swes Cheap』において唯一アッパーなフィーリングを持っている。
 
 スラックは昨年デビューして以来、いまのところ1年で2枚のペースを守っている。瑞々しい言葉と音の『My Space』、実験精神が注がれた『Whalabout?』、音の冒険『BUDA SPACE』、そしてメランコリーが強調された『Swes Swes Cheap』、4枚にはそれぞれの輝きがあり、同じことを繰り返していない。どこまで歩けるか、彼は試しているのだろうか。

野田 努