Home > Reviews > Album Reviews > The Middle East- I Want That You Are Always Happy
日本に住んで生活していながら、どうしてこんなにも海外の音楽に思い入れるようになってしまったかは、いまだに理由はよくわからない。が、ゼロ年代のいわゆるアメリカーナと呼ばれた音楽を自分が気にしていたのは、アメリカに住みながらそのことにどこかで居心地の悪さを覚えているアメリカ人たちが、過去の音楽を発掘しながら「アメリカ」の物語を再編し自分たちのものに取り戻そうとしている様がスリリングだったからだと思う。フォーク、カントリー、ブルーズがエレクトロニカやポスト・ロックと邂逅し、モダンなものとして生まれ直していくその過程にはどこか切迫感があって、シリアスなものだった。その、ある種の重さに僕は惹かれてきたのだと思う。それを聴くとき日本にいる自分はぼやけて、普通に生活していたら知りようもないアメリカで生きることの過酷さに思いを巡らせることができる。
ザ・ミドル・イーストはオーストラリアのインディ・バンドで、国内盤の帯にはフリート・フォクシーズ、スフィアン・スティーヴンス、アーケイド・ファイアの名前が比較対象に挙げられているが、そうした現在の北米のインディ・ミュージックの反響で......というか、それらに対する憧れで出来ているバンドだと感じる。正直、オーストラリアの現在のインディ・ミュージック・シーンがどのようなものであるかの知識はないが、ここ数年のUSインディの系譜に置くとしっくりくる。ウィルコのような(既に懐かしい言葉だが)「オルタナ・カントリー」調の曲もあり、ゼロ年代のアメリカーナからの影響が基本にある。2005年結成、2009年に本格始動、本作がデビュー作である。さらにバイオ的なことを続けると、スモッグのビル・キャラハン、オッカーヴィル・リヴァーの前座を務め、2010年にはイギリスのマムフォード&サンズとツアーを回っている。ブリティッシュ・フォークのテイストとアメリカーナの要素をブレンドしてポップ・ソングに仕上げたマムフォード&サンズの大ブレイク(と、案の定ピッチフォークに酷評されている様)なんかを見ると、大きく言ってフォーク・ロックのいまの人気ぶりを思い知るが、そういう意味ではザ・ミドル・イーストも旬の音である。
はじめ3曲がかなり重々しく、陰影が濃いので少しぎょっとするが、やがて素朴で切ないメロディがカントリー調のギターやストリングスの演奏に乗れば、心地良いレイドバック感が漂ってくる。デビュー作らしくやや肩に力が入っていて、13曲のボリュームで自分たちの様々な側面を見せようとしているのが微笑ましくもあるが、音響の実験を演出したいくつかの曲よりも、柔らかいメロディとまろやかなアンサンブルを生かしたシンプルなナンバーたち、例えばストリングスがドラマティックに盛り上げて静かに退場していく"マンツ"や、軽快なカントリー・ソングの"ダンズ・シルヴァーリーフ"に彼らの良さが出ていると思う。決定的な個性にはやや欠けるが、その分、涼しげな風が吹き抜けるような、奥ゆかしくすらある朴訥な味わいはなかなか爽快だ。時折軽く乗せられる女性ヴォーカルも効果的だ。
歌詞は幾分抽象的で、はっきりと何を歌っているか特定しにくいのだが、メイン・ソングライターのふたりの解説を読むと、基本的に個人的な心情や周りで起こったことをモチーフとしているようだ。当然と言えば当然だが、ウィルコのように「アメリカ国旗の灰」について歌うような文脈はザ・ミドル・イーストにはなく、アメリカの音楽からの影響を自分たちのものに置き換えようとしている。ラストの2曲、"ナインス・アヴェニュー・リヴァリエ"、"ディープ・ウォーター"へと続くゆったりと流れる時間、それがこのバンドの持ち味だろう。
野外が似合う音だと思うので、フジロックへの出演は打ってつけだ。出番は初日の昼間、奥地オレンジ・コート。僕も前夜祭で飲み過ぎないようにして、できればザ・ミドル・イーストの涼風を味わいに行こうと思っている。
木津 毅