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The Flaming Lips

The Flaming Lips

The Flaming Lips And Heady Fwends

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木津 毅   Aug 22,2012 UP

 ドロップアウトの夢......水越真紀氏が書いているように、この国からもうそんなものは死滅しようとしているだろう。ドロップアウトは何かしらの美学やポリシーを伴った選択肢としてではなく、単に目の前にある危機としてそこにある問題になってしまったからだ。もしくはクラブが街から消されている事実からも、多様な生き方をしている人間たちが集まる場所が(とりわけ若い世代から)なるべく隠されようとしている力が働いていることが窺える......「生産的でない」生き方を。
 そこで自分がふと思い出しのは、アン・リーがエリオット・ダイバーの回顧録を映画化した『ウッドストックがやってくる!』のことだ。映画があっけらかんとした好作になっていたのは、あの時代の特別さを殊更強調することなく、ひとりのゲイ青年が多様な人びとに触れて自分を少し開放するという(だけの)個人的な成長譚として描いた監督の判断によるものだろうと思う。主人公のエリオット青年は取り立ててイデオロギーに入れ込んでいるようにも見えず、ドラッグ体験やセックスやヒッピーたちとのだらだらしたやり取りを経て素直に自分自身に好きに生きることを許している。

 映画のなかで前衛を気取る演劇集団が出てきて、その役者たちが突然全裸になって観客をぎょっとさせるという、まあちょっとした場面があるのだが、いまのザ・フレーミング・リップスがやろうとしているのはこのもっともフレンドリーなヴァージョンだろうと思われる。前作『エンブリオニック』の収録曲の公式ヴィデオで、ファンを募って森のなかで集団で全裸で騒いでいたのはまさにそれ。6時間で1曲の曲を出したのも、自分の血を使ってライヴのポスターを作ったのも、ハロウィンに集団で骸骨に扮して町を練り歩いたのも、ギネスに挑戦するため24時間で8本のライヴを行ったのも、それを言うなら毎回過剰にデコレートされるライヴも......ゼロ年代後半頃からの彼らは、かなり意識的にあらゆる活動を通して「クレイジーなこと」を思いつきで実行しているように見える。ポップの史学で言えばリップスの最重要作はいまも99年の『ザ・ソフト・ブレティン』だが、役割意識からかやや停滞していたゼロ年代前半を経て、現在の彼らの奔放な価値観はアメリカのインディ全土をアメーバ状にだらりと広がり、支持されているようだ。それを証明するのがこのコラボレーション・アルバムだ。
 今年のレコード・ストア・デイの目玉企画のひとつでもあったアルバムだが、コラボレイターたちの音楽の最良の部分が生かされているわけでない、ということこそが本作『ザ・フレーミング・リップスと愉快な仲間たち』の価値である。ここで重要であるのは、共演者の音楽ジャンルの幅が広いこと(インディ・フォークからチルウェイヴ、エレクトロニカからノイズ、ヒップホップまで)、そして参加した彼らが音楽的には雑多でも一様にサイケデリアにまどろんでいる、ということだ。
 ボン・イヴェールの切ないメロディと声がノイジーなシンセと例によってウェイン・コインのヘロヘロの声でわざわざ台無しにされる"浮遊する灰"はクセになる味わいで、マイ・モーニング・ジャケットのジム・ジェームスが参加した"僕のトリップじゃないよ"ではあまり頭の良くなさそうなハード・ロックが前に出る。酔っ払ったままクラウトロックをやっているような演奏の上でオノ・ヨーコが「やれ! やれ!」とひたすら扇情したかと思えば、"お前、人間か?"と題された曲でニック・ケイヴがバンドのドリーミーにイカれたディストーションとセクシーに絡まってみせる。プレフューズ73の"スーパームーンと尿意"は支離滅裂なボアダムスのようで、ライトニング・ボルトの"アシッドを食らったNASA局員"――これらのタイトルをもちろん僕はわざと邦題で引用している――はアシッド・フォークとハードコアのまとまらない衝突だ。
 敢えてベストを挙げるとするならば、リップスならではの甘いメロディがマッチしたネオン・インディアンとの"さらばデヴィッド・ボウイ"だろうか。だがそれも、このファンシーなトリップのコレクションのひとつにすぎず、ここではケシャもエリカ・バドゥもテイム・インパラも、フレーミング・リップスを軸足としながらフラフラと気持ち良さそうにしている。これは音楽作品でありながらも、バンドが言うところの「フリーク・アウト」を丸ごと一枚通して、多様なミュージシャンを巻き込んで実行したパフォーマンスのようなものだ。
 ザ・フレーミング・リップスは支持され人気を集めていく過程と矛盾させることなく、進んで逸脱者であることを選んできた。彼らが好んでサイケデリック・カルチャーを参照するとき、そこではもちろん奇を衒っているのだが、このバンドの場合そのことに対する戦略が前に出てくることはない。彼らはウィアードであることをきっと心から謳歌している。「わかるかい? きみの知っている人間はみんな死ぬんだ」と実存についての問いをしていたウェイン・コインはいまや、好きなように生きることを誰よりも体現しようとする。その姿は窮屈な島国に住む若者たちにも、勇気を与えることだろうと僕は思う。

 ちなみに、本作は超限定で「共演者の血液サンプルつき」のヴァイナルでも発売された。案の定僕は手に入れることはできなかったが......ジャスティン・ヴァーノンの血が欲しかったのだが......よくそんなこと思いつくな、と。アメリカン・モダン・サイケの人気者はCDが売れない時代も楽しんでいるようだ。

木津 毅