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The Strypes

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The Strypes

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ブレイディみかこ   Dec 05,2013 UP

 カヴァン。(現地出身者は「キャーーヴン」と発音する。その発音はダブリン在住者の間では「田舎者」を意味する表現にもなっている)というアイルランドのカウンティは、わたしにとって縁の深い場所である。若い娘だった頃、カヴァン出身の男と一緒に住んでいた。で、その後、ロンドン出身の男と結婚したら、そいつの父方の家族も代々カヴァンの人びとだった。
 で、このザ・ストライプスもカヴァン出身なんだよねー。みたいなことを言っていると、連合いが言った。
 「おめー見てるよ、そのキッズ。何年か前に、カヴァンで」

 どうやら、カヴァンのロック・フェスに出演している姿を見たらしい。ロック・フェスといっても、修道女と羊ぐらいしかストリート(農道)を歩いていないカヴァンのことである。著名バンドなどは出ておらず、近所のパブに集まるおっさんたちのTHEMのコピー・バンド。とか、子育てを終えたお母さんたちの熟女メタル・バンド。とか、巡査さんの弾き語りボブ・ディラン。とか、そういうのどかなメンツに混じって、たしかにやけに上手いちびっ子バンドが出ていたと記憶している。
 が、あの頃のザ・ストライプスは全然いまとは違うファッションをしていた。なんかこう、袖の長い赤いモヘアのセーターやカラフルなチェックのシャツにブルージーンズ。みたいな、ちょっとアメリカンな、それ故いかにもアイルランドの子供。といった外見だった。平均年齢13歳ぐらいだったろう。ローティーンの子供たちが普通に演奏するビートルズの曲とかを普通に演奏していた記憶があるが、たしかに芸達者だった。しかし、それにしたって、「あいつらは俺ら以上に音楽好き」と英国人も一目置くアイルランドのことである。はっきり言って、あの程度の子供はわりといる。
 ということは、ザ・ストライプスって、あれから大化けしたのね。と思って、おばはんも一念発起して彼らのデビュー・アルバムを聴いてみた。ストーンズ、ビートルズ、ザ・フー、キンクス。などのUKバンドを引き合いに出されることの多いザ・ストライプだが、わたしが連想したのは、アラン・パーカー監督の『ザ・コミットメンツ』のサウンドだった。あの、「アイリッシュはヨーロッパの黒人種だ!」と宣言した映画のアイルランドのパブロック、ならぬ、パブR&Bである。

              **********

 彼らに惚れ込み、自分のマネジメント会社と契約させたエルトン・ジョンは、LGBT運動にも熱心だが、労働者階級という自らの出自にも拘り続けている。UKの労働者階級の若者がもっともクールだったのは60年代だそうだから(ツイッギーやマイケル・ケインの時代だ)、その頃に青春を送ったエルトンが、ブライトンのパブでザ・ストライプスを見てぶっ飛んだというのはわかる。イメージ的にブリティッシュ・ビートっぽいパッケージングが施されているのはそのせいかとも思うが、だからと言って彼らをポール・ウェラーやマイルズ・ケインの少年版と整理しても良いのかというと、それは違う。彼らの音はもっと泥臭いというか、随所で『ザ・コミットメンツ』が毀れている。

 彼らのレヴューには、英日を問わず、ルーツ。という言葉が頻用されている。ロックが好きになった子供が、現在のそれのルーツであるところのストーンズやDr フィールグッドを発見し、さらにそのルーツであるところのチャック・ベリーやボ・ディドリーを発見して、夢中になる。その発見をティーンズが演奏しているのが新しい。というような文脈は、しかし果たしてそうだろうか。と思う。
 なぜなら、このルーツ探しの旅は、昔からロック好きの若者が通って来た道であり、とくにアイルランド(の田舎)のような老いも若きも一緒くたになってパブで音楽を奏でているような国では、ロックンブルーズは不変のスタンダードだ。ザ・ストライプスのサウンドには「温故知新の新しさ」というより、脈々とそこに流れて来たものとしての腰がどっしり入っている。彼らが抜きん出ているのは、むしろ彼らを生み出した土壌のせいだろう。

 最後に、そしてたいへん重要なことに、アイルランドは詩人の国としても有名だが、この点におけるザ・ストライプスはどうなのだろう。

 「彼女が僕のドアをノックするときは、いつもティーカップを手にしている 彼女はミルクと砂糖が欲しいだけ でも僕は彼女が欲しいだけ」“Blue Collar Jane”

 「基本的に、『Snapshot』の曲の歌詞を聞いていると、テレタビーズのほうがよっぽど知的なのではと思えてくる」とSputnikmusicのレヴューでアイルランド人寄稿者は嘆いている。
 とは言え、彼らはジェイク・バグのようなストリート詩人ではなく、ロックンブルーズの兄ちゃんたちなのだから、歌詞はバカで良いのだ。が、せめて同じ紅茶ならば、「絞って僕のレモンを あなたの好きなだけ/たっぷり僕のレモンを あなたの紅茶の中に/アーアーアー ふたりで飲みますレモンティー」と書いた柴山俊之ぐらい肉感的なひねりを見せて欲しい。
 そうしてミルクティーを何かもっといやらしいものに転化できたときこそ、ザ・ストライプスはめちゃうま子供バンドを卒業し、次の地平に進むのだろう。

ブレイディみかこ