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ザ・なつやすみバンド

ザ・なつやすみバンド

パラード

SPEEDSTAR RECORDS / Victor Entertainment

Tower HMV Amazon iTunes

竹内正太郎   Mar 18,2015 UP

 いったん演奏が鳴り止み、あたりがしんと静まり返ったその数秒後、静寂のなかをおそるおそる、ありったけの勇気を振り絞ってフェードインしてくるピアノと、闇夜に光が灯るように鳴らされるスティールパンの一片の調べ。それだけでもうこらえきれないものがあった。楽隊風の表題曲“パラード”を聴いていると、相米慎二が湯本香樹実の小説を映画化した『夏の庭』や、是枝裕和の傑作『奇跡』にて活写された、愛や欲望を知るよりも先に「死」を知ってしまった少年たちの戸惑いや、壊れゆく家族という制度のなかにあって、けっして望んだわけではない自らの「生」のかたちを受け入れていったこどもたちの、あのみずみずしい姿が目に浮かぶようだ。
 そう、MC.sirafuの素朴な言葉によって綴られたリリック――“パラード”や“鳥は舞いおりた”はとくにすばらしい――がすべてを語っているように、優れたポップ・ミュージックは、そこに出会いと別れが、生と死が、あるいは涙と希望があるのなら、その両方を肯定しなければならないのだが、もちろん、そんなことは恐れを知らないこどもにしかできやしないし、そのことを誰よりも理解しているのがこのバンドなのだ(彼女らの2012年のファースト・アルバム『TNB!』は、“なつやすみ(終)”という曲ではじまっていた)。ザ・なつやすみバンドの貴重さとは、つまり、そういうものなのだと思う。

 いま思い返してみても、『TNB!』は真の処女作と呼ぶべきものだった。それはまさしく「こどもたちの音楽」であり、欲望を知ってしまう前の音楽だけが触れることのできる何かに、間違いなく触れてしまっていたのだから。そのことに対して本人たちがどこまで意識的だったのかはわからないが、結果として相当数のリスナーを獲得し、好むと好まざるとにかかわらずある種の欲望を発見してしまったなつやすみバンドは、もし『TNB!』の世界観を待つ人のためにもういちど「こどもたちの音楽」を作ろうとするのならば、『TNB!』に自覚のないまま宿ってしまった奇跡を今度は意識的に/技術的に反復する必要があったはずであり、その困難さはザ・バーズの『ミスター・タンブリン・マン』がニ度は作られなかったことや、ボン・イヴェールが『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』の世界を二度と再現できないことと同様である。
 そして、いくつかのシングルが発表されはしたものの、アルバムというサイズでのリリースが噂としてさえ伝わってこなかったこの3年のあいだに、彼女らがけっして未熟さを保存することを目指しているわけではないことを知る機会があった。2013年の9月、群馬県みどり市にある小平の里キャンプ場という場所になつやすみバンドはやって来たのだが、筆者はその日の彼女らのパフォーマンスの素晴らしさを証言するためにならどのような証言台にも立つだろう。ステージに屋根はあるものの、あたりはどしゃ降り、観客は極めてまばら、しかも、このバンドのイメージする音をおよそ再現しているとは言い難いPAとの連携という、おそらくは最悪に近いコンディションのなかで、それでも彼女たちはその身をポップ・ミュージックに捧げていたのだ。筆者はあの姿を言い表すのに、「愛」もしくは「プロフェッショナリズム」以外の言葉を知らない。2014年の苗場で観た片想いと並び、それは忘れがたい夏の思い出となった。

 実際、ついに完成したセカンド・アルバム『パラード』での彼女らは、ビクターのVマークが背表紙に付いている以外は、装丁面も含めて僕たちの知っているなつやすみバンドのままであるものの、それが意識的に、プロフェッショナリズムの賜物としてそこに存在しているという点で、これまでとは少しばかり次元が違う。メロディの媚態や、感情をべたつかせた歌詞の羅列によってではなく、自分たちの作品を理想主義的とも言える純粋さで届けること。前作『TNB!』が8月32日のための音楽だったとすれば、『パラード』は9月1日をいちど引き受けた後の大人たちが作った「こどもたちの音楽」と言うべきだろう。
 もっとも顕著なのが楽曲ひとつひとつの構成力であり、ポップスの定型のなかで中川理沙の声に身を任せておけばすべてが許された『TNB!』の頃とは鳴っている音の要素こそ近いものの、この3年でまったく別のバンドのような進化を遂げている。アルバムを勢いづけるロック・ナンバーひとつをとっても、豊かなストリングスとささやかなファンファーレで幕を開け、組曲的な展開を経てパンクのように疾走する“パラード”は、前作収録の“悲しみは僕をこえて”の素直さとは異質だし、“ラプソディー”における多重コーラスと室内楽的なアレンジ、凝った転調、しかもそれらがポップスとして集約されている手応えには、ダーティー・プロジェクターズ(!)の名前すら思い浮かべた。
 あるいは、これが発表された時にはいささか突拍子もないアイディアにも思われた、さながらなつやすみバンド流の“One More Time”とでもいうべきハウス・ナンバー“スーパーサマーウィークエンダー”も、アルバムの中でしっかりと自分の居場所を見つけている。そして、アルバムはカントリー・テイストな“鳥は舞いおりた”などのなだらかな時間帯を経て、〈TOKYO ACOUSTIC SESSION〉でのセッションとしても公開されていた“ファンファーレ”にたどり着く。なつやすみバンドの歌のなかで一人称を引き受けてきた「僕」が、歌い手である中川その人の姿と重なって見えるような仕掛けになっており、小沢健二の“天使たちのシーン”さながらの淡々としたリズムが彼女の背中をそっと後押しいているのだ。この曲で『パラード』を聴き終えた誰しもが、人知れず「たしかに受け取ったよ」とつぶやくに違いない。ささやかながらも感動的なエンディングである。

 最後に、本作には収録されなかったシングル曲、“サマーゾンビー”について少しだけ触れておこう。この曲は、周知のようにG・A・ロメロの映画『ゾンビ』の設定(街に突然現れたゾンビから逃れるために、生存者たちがショッピングモールに立てこもるというもの)を引用しているのだが、あの短冊シングルは、いま思えば郊外型ポップスの先駆けだったのだろうか。となれば、筆者は彼女たちに「全国イオンモール・ツアー」を期待せずにはいられない。今回のメジャー・デビューでクラムボンや空気公団、リトルテンポのファンにもなつやすみバンドの音楽がくまなく行き渡ることを祈りつつ、地方都市に生きるこどもたちが、愛や欲望を知るよりも先になつやすみバンドの音楽を知る、そんな世界があってもいいと思うから。それくらいのささやかな未来を欲望する権利くらいは、僕たちにもまだ許されているだろう。

竹内正太郎