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Let The Record Show: Dexys Do Irish And Country Soul

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野田努   Dec 22,2016 UP

 好きな本の一冊に、『アイルランド、自転車とブリキ笛』というのがある。タイトルからわかるように、アイルランドを舞台に、自転車を漕いで町から町へと旅する小説だ。物語からは大量のビールとともに、ペダルの音と人びとの声、ダンス、音楽(伝統文化よりも現代の大衆音楽、その痛快な言葉)が聴こえている。現代アイルランドといえばタックスヘイブンを指摘する向きもいるのだろうが、本書には国の分裂の歴史とイングランドの無慈悲差への怒りがこめられた政治的な話も出てくるものの、だが、基本的にはアルコールの霧に包まれた庶民の、ケルティック・ソウル溢れる話なのである。つまり、飲んでばかりでもうそろそろ身体がやばくなって医者の面倒になっても、おれはやるだけやったんだと、イェイツが生まれたからといって夢を打ち砕くほどの気候で、ダブリンの大気汚染はひどいし、そして現実主義者の国だけどな、というような。いや、もっと思慮深い物語なのだが。
 昔イギリス人の友人から、イングランドには「電球ひとつもまともに取り付けられない馬鹿な田舎モノのアイルランド人」というジョークがあるほど、アイルランド人はすました連中からの笑いモノだったという話を教えてもらったことがある。が、しかし、アイルランド人は義理堅く、人情家としても知られているとも。この季節(クリスマス前)にはよく耳にするシェイン・マガウアン(ザ・ポーグス)のあのコブシ回し、すなわち魂の揺さぶりからも、それはわかる。義理堅く人情深く、酒好き、そして脳天気──日韓ワールドカップのときにたまたまチケットが取れたのがアイルランド戦だったのだけれど、試合開始の2時間前には、スタジアムのまわりで500mlの缶ビール半ダースを抱えながら宴会をおっぱじめていたアイルランド人の大集団に、ぼくはシンパシーを禁じ得なかったものである。

 イングランド生まれだが両親がアイルランド出身であることから、2012年にデキシード・ミッドナイト・ランナーズ改めディキシーズとして再出発してからのケヴィン・ローランドは、30年前よりも、さらにダイレクトに、アイリッシュ/ケルティック・ソウルを追求しているようだ。本人たちの意志を越えてスーパー・ヒットしてしまって(カモン・アイリーンですね)崩壊したバンドだったが、デビュー前はザ・クラッシュのマネージャーだったバーニー・ローズも惚れ込んだという彼のデキシーズは、ザ・スペシャルズとも交差した、UKポストパンク時代における黒人“怒れる”ソウル”解釈の最良のバンドのひとつだった。もっともぼくと同世代人は、クリエイションから1999年にリリースされたローランドのソロ『My Beauty』(のジャケ)があまりにも強烈/衝撃すぎてしまい、そのことが過去のデキシーズへの見方にまったく影響がなかったといえば嘘になる……が、しかしそれもほんのわずかな時間で、長い目で見れば彼らのデビュー・アルバムを嫌いになったことは一度もなかった。同じように、デキシーズの地味な再活動も追っている人も少なくないだろう(いやいや、でも、あの頃デキシーズやザ・スペシャルズ、マッドネス、ザ・クラッシュやザ・ポーグスといったバンドを好きだった連中がネットをマメにチェックするとも思えないので、こうして半年後に「あ、出していたんだ」と気がついたりするものなのだろう。それはある意味、健全だ)。

 そう、本作『Let The Record Show』だが、じつはリリースは半年も前で、今日の情報速度で言えばもはや旧譜になるのかもしれないが、流行もクソもない、馬鹿な田舎モノの音楽であり、サブタイトル「Do Irish And Country Soul」からもわかるように、いや、わからないか……ロッド・スチュワートをはじめ、アイルランドの血を引くジョニ・ミッチェルやジョニー・キャッシュ、ビー・ジーズあるいは“煙が目にしみる”やトラッドなどをカヴァーしいているわけだが、2016年という、ビヨンセやソランジュのような、進歩的で政治的な“怒れる”R&Bが際だった年に、排水溝から湧き上がるこのソウル・ミュージックを聴いていると、それはそれでまた、たまらないものがあるのだ。
 それにしてもこのジャケット……写真……服装……これを見ただけでぼくは気持ちが上がってしまうのだが、さすがにこのセンスを読者諸氏も共有して欲しいなどとは思わない。もちろんこ洒落たカフェでネットをパチパチやっている連中に違和感を覚える若者もいよう。だからといって、この滑稽さ、洒脱さ、べたべたのエモーション、感傷、そしてパンクの香りとビールの匂いがわからない人を決してバカにしたりはしない。時代はとっくに変わった、という話ではないし、自己正当化など滅相もない。たんにぼくには、時代に逆行したいという思いを抑えきれなくなるときがあり、狂おしいほどヒューマンで、いまだに呆れかえるほどロマンティックなこの音楽を好きなだけなのである。

野田努