ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. The Sleeves - The Sleeves | ザ・スリーヴス
  2. DJ KRUSH ──LIQUIDROOM(KATA)の74分DJ公演シリーズ、第3回の出演者が決定
  3. interview with Weirdcore 謎のヴィジュアル・アーティスト、ウィアードコアへの質問
  4. FUTURE FREQUENCIES FESTIVAL 2026 ──新たなフェスティヴァルが始動、ジョイ・オービソンやザ・セイバーズ・オブ・パラダイス、ノウワーらが出演
  5. UKインディ・ロック入門──ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとダブ編
  6. Manual - True Bypass
  7. Galliano ──復活したガリアーノ、日本限定の新作がリリース
  8. Tomoaki Hara and Toru Hashimoto ──橋本徹(SUBURBIA)の人生をたどる1冊が刊行、人類学者の原知章による30時間を超えるインタヴュー
  9. Hoyo Moriya ──〈Virgin Babylon〉より森谷抱擁のファースト・アルバムがリリース
  10. オールド・オーク - THE OLD OAK
  11. Yuki Nakagawa ──チェロ奏者、中川裕貴による初のソロ・アルバムが登場
  12. Irmin Schmidt - Requiem | イルミン・シュミット
  13. interview with The Lemon Twigs ロック/ポップスの素晴らしき忘れ物 | ザ・レモン・ツイッグス、インタヴュー
  14. Xylitol - Blumenfantasie | キシリトール
  15. インディ・シーンに広がるヴァイラル・マーケティング
  16. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  17. interview with Dolphin Hyperspace ジャズの時代、イルカの実験 | 話題のドルフィン・ハイパースペース、本邦初インタヴュー
  18. P-VINE 50th Anniversary RARE GROOVE CAMPAIGN VOL.1 ──〈Nodlew Music〉、〈Tribe〉、〈Interim〉などのTシャツ・コレクションが登場
  19. interview with Cameron Picton (My New Band Believe) 元ブラック・ミディのキャメロン・ピクトン、新バンドにかける想い | ──初のアルバムを送り出したマイ・ニュー・バンド・ビリーヴ
  20. Bill Callahan - My Days of 58 | ビル・キャラハン

Home >  Reviews >  Album Reviews > Little Brother- May The Lord Watch

Little Brother

Hip Hop

Little Brother

May The Lord Watch

Imagine Nation Music / For Members Only / Empire

Spotify iTunes

大前至   Sep 24,2019 UP

 ノース・カロライナを拠点とするヒップホップ・グループ、Little Brother が8年ぶりに突如リリースした、通算5作目となるアルバム『May The Lord Watch』。昨年9月には、元メンバーである 9th Wonder と共に、11年ぶりとなるオリジナル・メンバー3人によるライヴが彼らの地元で行なわれ、ファンを大いに喜ばせたが、残念ながら今回のアルバムには 9th Wonder は参加していない。しかし、彼らの黄金期である2000年代半ばのエナジーが本作には充満しており、実に見事な復活アルバムとなっている。

 本作は架空のテレビ局である UBN(=U Black Niggas Network)を舞台に進行し、曲間には番組のミニ・コーナーやニュース、CMがスキットとして挟み込まれている。UBN という名称も含めて、これは2枚目のアルバム『The Minstrel Show』でも用いられていたコンセプトである(さらに言えば1作目『The Listening』は架空のラジオ局が舞台)。アルバム一枚をコンセプチュアルに構成するということ自体が非常に珍しくなっている今の時代、1曲目から最後まで通して聴く前提で作られているこのスタイルは、改めて(昔は当たり前であった)アルバム単位での作品の楽しみ方を思い出せてくれる。

 本作の肝となっているのは、兎にも角にもプロデューサーの素晴らしさであり、Phonte と Big Pooh、ふたりのラップとのそれぞれのトラックとの相性の良さは完璧にすら思える。これまでも Little Brother の作品に多数関わってきた Justus League の Khrysis をメインに、さらに Nottz、Focus……といったメジャーなフィールドでも活躍するベテラン勢に加えて、スキットでは Devin Morrison や Soulection の Abjo といった若手も起用するなど、プロデューサーの顔ぶれにも貪欲にベストなサウンドを求めているという彼らの姿勢が表れている。アルバム前半ではリリース直後にMVも発表された“Black Magic (Make It Better)”が核となって、彼らのアティチュードがストレートに表現されているが、個人的には心地良いビートが病みつきになる“What I Came For”から始まるアルバム後半の流れに完全にヤラれてしまった。Questlove が客演するスキットを挟んで、Bobby Caldwell “Open Your Eyes”をストレートにサンプリング・ネタとした“Sittin Alone”では悲哀の感情さえも美しく響かせ、Black Milk がプロデュースする“Picture This”は、トラックがノスタルジー溢れる曲のメッセージ性をより深く響かせる。Anderson .Paak の作品にもプロデューサーとして参加している King Michael Coy が手がけた“All In A Day”はシンセと間の使い方が絶妙で、そして、“Work Through Me”では Common のクラシック・チューン“I Used To Love H.E.R.”のフレーズ「Yes, yes, ya'll ~」も見事にハマり、アルバムのラストを実に可憐に締めくくる。

 90sヒップホップに多大な影響を受けて、2000年代初頭にデビューした彼らのスタイルは、当然、ブーンバップ・ヒップホップの流れにあり、アフリカン・アメリカンとしてのスタンスの上での、コンシャスなメッセージ性が貫かれ、さらにユーモアのセンスも程良く注入されて、エンターテイメントとしてのバランスも上手く保たれている。ただし、2000年代の焼き直しではなく、彼らのラップも含めて、このアルバムのサウンドは間違いなく現在進行形のものであり、ヒップホップとしての普遍的な魅力が詰まった傑作だ。

大前至