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Moment Joon

Hip Hop

Moment Joon

Passport & Garcon

GROW UP UNDERGROUND

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大前至、高島鈴   Apr 01,2020 UP
E王
12

高島鈴

この曲を聴いて手のひらを掲げたなら、それはもう約束だ。

 その島は沈黙している。よく耳を澄ませば、何事かをごにょごにょと話している風ではあるのだが、「何かありますか?」と聞くとみなお互いに顔を見合わせて口を閉じるのだ。いじめが常態化した教室のように、誰も責任を負おうとしない。ただあいまいな内輪の空気が満ちている。列島社会は長らくそのようなムードを擁してきた。
 この糾弾すべき沈黙のなかで、Moment Joon は手を上げている。賞賛の両手ではない。異議申し立ての片手である。

 ソウル出身大阪在住の「移民者ラッパー」 Moment Joon。前作「Immigration EP」のレヴューでも書いたように、社会変革のために戦うファイターであり、同時に「生存以上生活未満」の営みを必死に回す弱い生活者である。
 3月13日にリリースされた Moment Joon の新譜『Passport & Garcon』は、間違いなく2020年の年間チャートを席巻するだろう。しかしこの作品が本当に評価されたと感じるためには、年間チャート1位では到底足りない。この公共を持たないゴミカス列島社会が変わって初めて、Moment Joon は自作の評価を確信できるに違いない。社会に変化を望むなら、いや望んでいない人こそ、Moment Joon の声を聞くべきだ。

 本作は痛みと苦悩、恐怖と怯えに満ちている。
 入管職員から韓国への出国を「帰国」と言い換えられる(“KIX/Limo”)。税金を払っているかどうか執拗に尋ねられ、曲を「日本の悪口」と切り捨てられる(“Home/CHON”)。自分に浴びせられた無数の差別言説を自分の口から取り出して見せる(“KIMUCHI DE BINTA”)。リスナーに人生を見世物扱いされ、自分の愛が敗れる気配を悟る(“losing My Love”)。自分が口にした変革の意思を、当の自分が信じられなくなっていることを明かす(“Hunting Season”)。被差別の経験を持つファンの子どもたちを見て、苦しみながら守られる側から守る側へ立ち上がることを決意する(“Garcon in the Mirror”)。

 Moment Joon は、他人の痛みを俯瞰することに慣れきった列島社会(a.k.a. いじめの蔓延した教室)の中で傷を晒し、どうにかこの場に対面性を持ち込もうと試みている。考えてもみてほしい、これらの曲を歌って、痛みがないわけがない。作って終わり、ではなくて、ステージの上でこの曲を歌うたびに、Moment Joon の身体は繰り返し削り取られるはずだ。受けた傷を何度も自分の身体の上で反復して見せるような楽曲を、Moment Joon は他ならぬその傷を見せるために発表し、歌っている。
 この痛みを耳にして、Moment Joon の傷の反復を終わらせなければならないと思わないなら、そのリスナーはいじめ教室の住人のまま一生を終えることだろう。Moment Joon に「もう傷を負わなくていい」と言える状況を作りだすにはどうしたらいいか考え、全員が動かねばならない。マジョリティとお金と男根的権力を主人とする政治家ではなく、弱い人の生存を一番に考える政治家を探し出して投票したのかどうか、身近な場所で行われている差別に「それダメですよ」と声を上げたかどうか、そういう選択の瞬間にこそ、Moment Joon の声を聞いたことへの責任がある。一瞬でも人の痛みに対面したなら、その責任は絶対に重い。

 本作の最後は、「feat. Japan」と付け加えられた楽曲 “TENOHIRA” で締められる。この曲だけが、明確に連帯への希望を見出している。

この島のどこかで君が手を上げるまで
寂しくて怖いけどずっと歌うよ
見せて手のひら(ひら、ひら)
見せて手のひら(ひら、ひら)
Moment Joon “TENOHIRA”

 この曲を聴いて手のひらを掲げたなら、それはもう約束だ。あなたと協働する、あなたの痛みを受け止める、という Moment Joon との約束である。そして「約束を守る」というごくささやかな公共を繋いだ先に、列島社会を覆う空気は晴れるのではないか。楽観ではなく戦略として、私は希望を信じたいと思う。

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