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Wendy Eisenberg

Wendy Eisenberg

Viewfinder

American Dreams

FolkFree ImprovisationJazzPost-Punk

Caroline Davis & Wendy Eisenberg

Caroline Davis & Wendy Eisenberg

Accept When

Astral Spirits

野田努   Dec 19,2024 UP

 ニック・ドレイクの曲に “River Man” がある。アコースティック・ギターの弾き語りに近い曲だが、何気ない5拍子のリズムと不協和音がジャズを感じさせるという、シンプルだが単純な曲ではない。西東京の自分が住んでいるエリアには、多摩川までに仙川と野川という小さな川がある。自転車を降りて、川沿いを歩いているときに“River Man” を思い出してしまうのは、自分も黄昏れている人間だからなのだろうか。はあ……出るのはため息ばかりだが、音楽のことを考えよう。
 そう、ジャズとフォークだ。年明けにはティモシー・シャラメ主演のボブ・ディランの若き日々を描いた映画が上映されることなので、現代のニューヨークから熱狂的なジャズを我がものとし、雑食性とフリー・インプロヴィゼーションに興じる若き前衛による、冬の空気のように澄み切ったアルバムを紹介したい。
 ウェンディ・アイゼンバーグはギターの名手で、「音楽シーンにおいて、私は女性として扱われ、私の性別は神話化されている。『あなたは女性ギタリスト』だとか、『かわいいから雇っただけ』といった感じで、それに対抗するために私がとった方法は、その楽器をとんでもなく上手に演奏することだった」——とアイゼンバーグは『Tone Glow』のインタヴューで語っている。が、しかしながらこの人物は、自分の技術をひけらかすことよりも音楽のなかの自由を拡張し、思索することに長けている。たとえばアイゼンバーグは、セシル・テイラーあるいはモートン・フェルドマンの領域、レインコーツにロバート・ワイアットあるいはジョアンナ・ニューサム、ときにはジョアン・ジルベルトやエグベルト・ジスモンチへと、そしてデレク・ベイリーとデイヴィッド・シルヴィアンの回路を自由に行き来し、ジョン・ゾーンのレーベルからも作品を出している。ジャズを流暢に演奏しながら、アイゼンバーグにはソングライターとしての側面があって、だからヴォーカリストでもある。詩を書き、歌を歌う。メアリー・ハルヴォーソンとの大きな違いはそこで、ジャズでSSWといえばジョニ・ミッチェルの名前も出てくるだろうが、この人はもっとオルタナティヴに尖っていて、ずいぶんな読書家でもあるアイゼンバーグは音楽を感覚的なものであると同時に思考の契機としても捉えている。

 音楽は言葉では語れないというミュージシャンに限って言葉で語れるような紋切り型の音楽をやっていることが多い。そもそもそ言葉で語れない音楽を聴きたいから我々はこうして音の海を探索している。そして、紋切り型の音楽に限って音楽を視覚化する(MVを作ったりする)傾向にあるわけだが、この世界には、視覚化しようがない音楽もある。2024年、アイゼンバーグは2枚のアルバムを出している。1枚は『Viewfinder』で、これは彼女のレーシック手術を契機として生まれたソロ作品、もう1枚はサックス奏者のキャロライン・デイヴィスとのコラボレーション作品、まずは前者からいこう。
 『Viewfinder』、カメラで撮影のさいに視覚的に確認するため目で覗く部分のことで、比喩的に言えば「ものごとの視点を決めるもの」、すなわち「世界の見方」のようなことになるのだろうか。作中でもっとも人気のある曲は冒頭の“Lasik”で、これは視力を矯正して見えるようになったはずが治癒にはなっていないという暗喩的な歌詞が歌われている。「自分が愛することもできない物語に向けて/視線を定めているわけにはいかない/さてと、次なるポップショーを観るため/お気に入りのアーティストのチケットを取ろう」。こうしたウィットが、トロンボーンとベース、ピアノの神妙な絡み合いに溶け込んでいる。
 アルバムには、“Two Times Water”のような華麗な室内ジャズがあるいっぽうで、“HM”や“Afterimage”では透き通った空間におけるポスト・パンク的な遊び心があり、作者が言うようにレインコーツの『オディシェイプ』と共鳴しているように思える。これらは個人的にとくに没入できる曲でもあるのだけれど、作中、もっともポスト・パンク的なささくれだった感覚が聴けるのは表題曲の“Viewfinder”だ。スティル・ハウス・プランツとも充分に通じ合う、2024年の喜ばしきオルタナティヴ・ロック・ソングである。
 「ファシズムに対するもっとも真の反抗は複雑なものを作ること」だとアイゼンバーグは信じている。実際我々の感情は複雑で、紋切り型のラヴソングですべてが解決できるほど人生は簡単ではない(少なくともぼくの場合は)。いろんな感情を込めて孤独な魂を歌う深夜のジャズ・ソング“In the Pines”でアルバムは締めくくられるわけだが、アイゼンバーグの世界をもっと楽しみたい人にとっては、今年は嬉しいことにキャロライン・デイヴィスとの『Accept When』もある。複雑なリズムの曲のなかにもギターとサックスの美しいメロディが交錯し、いくつもの素晴らしい瞬間が待っているこのアルバムには独特の温かみがあって、とくにアイゼンバーグのヴォーカルが聴ける冒頭の“Attention”は2024年のベスト・ソングのひとつ。川沿いを歩くには寒い季節だが、最近の乾燥した空気はこの音楽とうまく調和している。ぜひ聴いて欲しい。

野田努

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