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Sherelle

Drum 'n' Bass

Sherelle

With A Vengeance

Method 808

Bandcamp

三田格 Apr 21,2025 UP
E王

 この10年のドラムンベースを聞き続けた人ならわかると思うけれど、相変わらず破天荒なスクリームや新進のティム・リーパーなどDJはガンガンいっているのに、ハーフ・タイムが停滞して以降、新作としてリリースされるものは紋切りでつまらないものが増えている。もちろんいい作品を出し続けている人はいる(Dev/Null, Sully, Nebula, Pugilist, etc)。最近だとレイクウェイだとかゼアティス(Xaetis)などEDMと絡み合った動きの方がまだしもユニークに感じられるところがあり、先に進めないのなら後に戻るということなのか、ゴールディ『Timeless』の25周年記念盤を筆頭にクラシックの再発がやたらと続き、何事もなかったように黄金時代のクリシェが反復されていく。咋24年も〈1985 Music〉や〈Over/Shadow〉といったレーベルはクリシェの波を立て散らかし、〈Samurai Music〉だけが相変わらず踏ん張り続けたという印象がある(ドラムン・ベースとダブ・テクノを融合させたリーコ(Reeko)『Urmah』やテクノの中堅がいきなりスタイルを変えてコービー・セイをMCに起用したブレンドン・メラーにはけっこう驚いた)。そして、今年の初めにトルコ(現ベルリン)のDJストロベリーことエムレ・オズトゥルク(Emre Öztürk)がリリースしたセカンド・アルバム『Playground』はグルーヴのあるドリルン・ベースであると同時にダブ・テクノと交錯させたアシッド・ジュークともいうべき属性を兼ね備えていて、これが久しぶりのブレイクスルーとなった。『Playground』のリリースを待っていたかのようにその後はどんどんユニークな曲が続き(Baalti“Overbit”、Patås“Bontelabo”、Svagila“Niteee”、Briain“Coma Cluster”etc)、ドラムン・ベースのタグから旧態依然としたものとそうではないものを聞き分ける楽しみが1ヶ月半ほど続いた。そして、なんの予告もなくシェレルのデビュー・アルバムがサプライズ・リリースされたのである。なんというタイミングだろう。シェレルはここ数年、ティム・リーパーと並んでハードコアの復権を促してきたアイコニックなDJであり、自分の作品をリリースすることにはそれほど意欲的ではないのかと思っていたら、実はアルバムをつくっていたとは。これが、そして、なんとも痺れる内容で、間違いなくハードコアの刷新といえるものだった。アルバム・タイトルの『With A Vengeance』はイギリスの慣用句で「無闇に」とか、最近の日本でいえば「鬼のような」というニュアンスのイディオムである。「鬼のように」、そう、シェレルは鬼のようにスネアを叩き込んできた。

 6人編成のフットワークDJ、6フィギュアーズ・ギャングのメンバーでもあるシェレル・トーマスがソロで脚光を浴びたのはコロナ直前に行われたボイラールームのDJで、前半にUKガラージ、後半にハードコアを配した構成は現在の流行りからいつのまにか異次元へ飛ばされる驚きがあった。2010年代後半にTSTS: Radio Chillでシェレルが担当していたミックス・ショーはもっと幅広い選曲で、ときにAORやエキゾチック・サウンドを聞かせる時間もあったから、彼女がハードコアにスタイルを定めたのはコロナ直前ということになるのだろう。聞いていると体内から湧き上がってくる力を抑えきれなくなる彼女のDJはボイラールームの翌年にBBCエッセンシャル・ミックス・オブ・ジ・イヤー、さらに次の年にはDJ Magのベスト・ブリティッシュDJに選出され、bpm160で統一されたミックスCD『fabric Presents SHERELLE』へとつながっていく。その勢いで黒人とクィア専門のレコーディング・スタジオ「BEAUTIFUL」を設立し、最初のコンピレーション『BEAUTIFUL presents BEAUTIFUL Vol.1』には気鋭のナイア・アーカイヴスからヴェテランのロスカ、さらにはロレイン・ジェイムスや:3lONといった変わり種もフィーチャー。また、ダンス専門の〈Hooversound Recordings〉もスタートさせ、ドラムン・ベースにこだわらず、UKガラージやエレクトロにハウスと幅広くリリースを重ねていく。無観客のロンドン・コリセウムでティム・リーパーとb2bを行なった2022年には初の日本ツアーも行い(昨年、2回目のツアーも)、23年にはマルセル・デットマンやモデラートなどドイツ勢のリミックスを立て続けに手掛けるも、なぜか自分の作品はEPが1枚(「160 Down the A406」)とスプリット・シングルが1枚(「GETOUTOFMYHEAD」)のみで、レコード・プロデューサーとしての活動はあまり活発ではなかった。「160 Down the A406」はしかもまるで後期の808ステイトをアップデートさせたようなテクノ・ガラージだし、“GETOUTOFMYHEAD”もbpm160のソリッドなUKガラージ。さらに『fabric Presents SHERELLE』に提供した“JUNGLE TEKNAH”はジェフ・ミルズ“Change of Life”をサンプリングした(?)UR式のブレイクビーツ・テクノと、正直、DJとしてガンガンぶっ飛ばしてきた彼女が自分ではどんな曲をつくるのか、ほとんど未知数だったのである。

 ここにドカンと10曲入りである。期待を膨らませる助走期間も設けず、ヴィジュアル戦略もなく(サプライズ・リリースの2日後に“Freaky”のヴィデオが公開)、先入観が一切なく音が飛び込んでくる状態はとても理想的。最初は座って聞き、次はランニングをしながら聴いた。体を動かして聞いた方が圧倒的にいい。いつもより長い距離を走ってしまった。構成の骨組みは『fabric Presents SHERELLE』と同じで前半部がハードコア一辺倒。ハードコアを基本としながらもDJストロベリーと同じくフットワークとドラムン・ベースの境界がぜんぜんなく、独自のセンスでスネアを叩きまくる。フットワークはベースが16で、ドラムン・ベースはドラムが16だから両者が混ざるはずはないのに、どうしてそう聞こえるのだろう? 折り返し地点で意外にもジョージ・ライリーのヴォーカルをフィーチャーした“Freaky”。流れで聞くとそうでもないけれど、単独で聞くとかなりポップで、さすがにセル・アウトした印象を受ける。そうかと思うと“JUNGLE TEKNAH”をつくり変えた“Ready, Steady, Go!”は一転して実験的になり、次はURを思わせる“Speed(Endurance)”。これは『fabric Presents SHERELLE』でピック・アップしていたDJラシャド“Acid Bit”を自分なりにつくり変えたものだろう。様々なジャンルを横断していたTSTS: Radio ChillでもDJラシャドの曲をかけなかった日はないのでDJラシャドには相当な影響を受けていると思われる。最後にまたハードコアを畳み掛けるかと思いきや、最近のDJセットで試していたエレクトロ・ファンクや様々な音楽ジャンルが渾然となった“Thru The Nite”でクロージング。シェレルのDJはいつも終わった気がしない終わり方で、もっと続けろという気持ちになるけれど、ここでもそれは同じだった。『地面師たち』のピエール瀧とは正反対に「まだ行けるでしょう」と呟いてしまうというか。この感覚をサプライズ・リリースがあった次の日に早くもガーディアンでベン・ボーモン-トーマスは「最後までスピードを緩めない粘り強さと回復力の表現」と捉えていた。彼によると「イギリス中がスピードに取り憑かれ、そのなかでも最も早いのがシェレル」であり、「シンゲリやシャンガーンといったアフリカのダンス・ミュージックが異様に早いbpmだということが影響している」と。なるほど。どちらかというと長らく欧米から現れることがなくなった新しいリズムを次々とアフリカが生み出していることに対して、ロックでいえばブリット・ロックのような位置にハードコアがいて、ポップ・ミュージックにおけるイギリス人のアイデンティティを再確認していると考えた方がしっくりくるのではないだろうか。『fabric Presents SHERELLE』で要になっているのはアフロダイトで、93年と94年にそれぞれリリースされた“Feel Real”と“Navigator”が前半でも後半でも最もエモーショナルなポイントをなし、このダイナミズムを自作をもって置き換えようとしたのが『With A Vengeance』ではないかと(アフロダイトも16~21年にかけて『Classics』が6集までまとめられている)。それこそ冒頭に書いたように黄金時代のクリシェを反復しているのは基本の部分ではシェレルも同じで、イギリス人がイギリス人を演じたのがブリット・ポップなら、同じことを移民文化のフェイズでも繰り返し、「最後までスピードを緩めない粘り強さと回復力」をアンダーグラウンドの存在意義として再提示したのである。シェレルがレイヴ・カルチャーに待望されること。EUと分かれたイギリスが必要としているエネルギー。独立した経済圏とイギリスらしさの確保。コロナ禍を経てイギリスのクラブは1/3が閉店したままであり、それは観光資源の枯渇を意味している。

三田格