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Mamas Gun

FunkSoul

Mamas Gun

Dig!

Candelion / Pヴァイン

風間一慶 Apr 10,2026 UP

 ヴィンテージ・ソウルがそこかしらで溢れている。素朴に喜ばしいことだ。嚆矢となったのは2021年のブルーノ・マーズとアンダーソン・パークが始めたシルク・ソニックだろうか、チカーノ方面からの甘いソウル・ミュージックの再評価がコーヒー&シガレッツ的なフィーリング主導のレトロ趣味と合流したのがここ数年だ(つまり先日のブルーノ・マーズの新作は、自分が生み出したムーヴメントに自分でケリを付けたのだと穿った見方を採ることもできる)。

 もう一枚アイコンを挙げるのならばクレイロの『Charm』はどうだろう。本作のプロデューサーを務めたリオン・マイケルズと彼の主宰するレーベル=〈Big Crown Records〉は確かにヴィンテージ・ソウルを連発しているし、テープ録音されたレコードで世界中に売り捌くのなんて当たり前の光景である。トム・ミッシュであれサム・ヘンショウであれ、2010年代にメインストリームへと登場した作家が次々とバック・トゥ・60~70’s方面へと舵を切っているのが2026年なのだ。

 要因をこじつけることは簡単だ。サブスクリプション・サービスは新作のキュレーションよりも旧作のリヴァイヴァルに親和的、なんてクリシェを持ち出せばダフト・パンクの『Random Access Memories』と絡めて一晩は語れるかもしれない。あるいはパンデミックによるステイホーム化が聴取体験の個人化を推し進め……うん、こっちの論陣も悪くない。だけどまぁ、先述したヴィンテージ・ソウルとレトロ文脈との合流が一種のエスケーピズムとして働いていたことを考慮すると、これ以上問い詰めるのは酷かもしれない。逃してあげよう。ソーシャル・メディアから、バイラル・ヒットへの期待から、そして現実から。冷笑的なリアリストがしげしげと手を伸ばしてくる、その瞬間までは。

 とはいえ、このムーヴメントで割を食っているプロジェクトも少なからず存在する。その筆頭こそママズ・ガンなのではないだろうか。彼らは現在隆盛を極めているヴィンテージ・ソウルがヴィンテージ・ソウルとして呼称される前より、そのチアフルなビートを重ねていたのだ。イギリスという距離が生んだ憧憬も機能したのだろうか、ドレスアップして約半世紀前のドーナツ盤へと馳せた想いが結実したいま、新たに生まれたのが『DIG!』というアルバムだ。

 ただ、「新たに生まれた」とは言ったものの、そのサウンドは徹底してクラシカルなものだし、新規性よりは普遍性に重きを置いているようにも聴こえる。実際、バンドのドラマーを務めるクリス・ブーツは最新インタヴュー(https://secreteclectic.com/2025/11/30/introspective-buttery-and-rousing-interview-with-mamas-gun/)にて「『一歩ごとにより良い作品を作る』という価値観」について尋ねられた際に、「必ずしも毎回『より良い』アルバムを作っているとは思っていません」とあっけらかんと答えている。そして彼の回答はこう続く、「大事なのは正直で、自分たちが心から愛せる音楽を作ること。それはずっと変わっていません。もしワクワクしなかったり、自分たちを追い込めていないと感じたら停滞してしまう。だからこそ、新しい領域を探求している感覚が重要なんです」と。

 実際に『DIG!』へ耳を傾けると、最初に出会うことになるのはギル・スコット・ヘロンの懐刀として重要な役割を果たしたブライアン・ジャクソンとのコラボレーションだ。《君の表層的な「分かったつもり」を引っかいてみな》と軽やかにアジテーションするリリックから始まり、物事を深くディグることへと誘引する彼ら。教条主義的に聞こえるかもしれないが、渦高く積み上げた7インチ・シングルとセッションの山こそが彼らにとっての重密な歴史であることを加味すれば、一朝一夕のスタジオ・ワークと峻別するためにも、必要なレプリゼントなのではないだろうか。そうだろう?

 16トラックのアナログ・テープ、ほぼ一発録音。これは2018年のアルバム『Golden Days』から継続している、現在の彼らの根幹を成す制作プロセスだ。“Living On Mercy” のスプリング・リヴァーブを纏ったスイート・スポットを連発するアンサンブルとギター・ソロにカタルシスを与える構成には職人技の余裕を感じるし、“Hardest Yards” や “Joy” のような小気味よいナンバーでのドラムスのハネ具合は見事だ。何より元ネタをあからさまに仄めかすような文脈当てゲームから距離を取り、一定のテンポを保って進行する風通しの良さ。これ以上、個別の楽曲に言い立てても詮無いだろう。リヴァイヴァルそれ自体がトレンド化してしまい、いよいよエスケーピズムすら外堀を埋められ冷笑の危機に晒される2026年現在にあって、自分たちの趣味性を追求し虚心坦懐に腕を磨くママズ・ガンのようなピュアネスを持つプロジェクトだけが、ほぼ唯一の信頼に値する資産なのかもしれない。

風間一慶