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今年最高のライヴ体験

今年最高のライヴ体験

黒田隆憲×小林祐介(THE NOVEMBERS)、“マイブラ”来日レポート対談

@ DOMMUNELIVE PREMIUM "NEW TRACKS"「my bloody valentine - World Premium Live with 相対性理論」東京国際フォーラムホールA

黒田隆憲、小林祐介  取材・構成:橋元優歩 Dec 25,2013 UP

黒田さんのマイブラ本が2月に!
■2/14発売予定
『マイブラこそはすべて
~All We Need Is
my bloody valentine~(仮)』

(DU BOOKS)
1890円(税込)

Union

 去る9月30日、東京国際フォーラムホールAにて行われたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの来日公演は、間違いなく本年のベストに数えられるべきものだった。〈DOMMUNE〉全面プロデュースによる本企画は、ケヴィン・シールズの要望に忠実に構築されたという独自のサウンドシステムと、それを十全に機能させることのできるホールを前提に、音響を浅田泰氏が監修、「配信は勿論無い!!!!!!!」(宇川直宏)というこだわりきった内容で大いに前評判も呼んだ、まさに「ワールドプレミアム・ライヴ」。入場時に耳栓を配るという冗談も洒落ていたが、ときに伝説化され神秘化されすぎもするマイブラ像から、「轟音」への執着というコアを比類ない形で蒸留してみせた点でも非常にクリティカルな試みであったと言えるだろう。
 語り忘れ禁止。ご存知、『シューゲイザー・ディスク・ガイド』の黒田隆憲氏と、当日は最前で観覧してもらったTHE NOVEMBERSの小林祐介氏に、この稀有な体験とマイブラへの思いを語っていただいた。

ホールで聴くマイブラ

今回のマイブラ公演では、着席スタイルでじっくりと音を体験することができましたが、こうした形式は2009年の〈プリマヴェラ・サウンド(Primavera Sound)〉以来ということですね。今回は、やはり東京国際フォーラムという音響環境+着席ライヴというスタイルがキーだったのかなと思うんですが、そのあたりの感想からおうかがいできればと思います。

黒田:着席スタイルっていう点は、けっこう抵抗があるというか、違和感のある人もいたようですね。それもわかるのですが、僕としてはあそこでシガー・ロスを観たときの印象がすごくよくて。音響といい、音のまわりかたといい、素晴らしかったんです。だからマイブラもあそこでやったらすごくいいだろうなって思っていました。期待どおりでしたね。

小林:はじまる前は「音響設備のいいところでやりたかったのかな」という程度にしか思わなかったんですが、いざ体験してみて思ったのは、スタンディングだとお客さんがリズムを刻みながら観られるけれども、そういうことを一旦排除できる状況に持っていくことが重要だったのかなということです。立ちってことは、前の人の身長しだいで音が遮られてしまうってことじゃないですか。

黒田:ああ、なるほど。

小林:客席に傾斜があって、音の響き自体も計算されているホールなわけですよね。サウンド・デザインに重きが置かれているぶん、いろんなものからの干渉を避けているのかなと感じました。

黒田:小林さんはどのへんで観ていらっしゃったんですか?

小林:僕は最前列で、ステージに向かってやや右側。ケヴィン・シールズのほぼ目の前って感じのところでしたね。ケヴィン・シールズを目の前で観られるという贅沢はあったんですが、おそらくはステージの上の生の音がたくさん聴こえていた場所で、舞台の両端あたりにある大きなスピーカーよりも前に出ちゃっている感じの位置だったんです。だから、もっと後ろの他の位置にいた方にはどんなふうに聴こえていたのかなという興味がありますね。

黒田さんは撮影をしながらという変則的な聴かれ方をされていたわけですが、いかがでしたか?

黒田:音としていちばんいいのはPAのど真ん中くらいかなとは思いますけど、僕もずっとステージの麓みたいなところで写真を撮っていて、そこでは音がわんわんと回っているような、音に包まれているような感覚でした。その後、ちょうど“ユー・メイド・ミー・リアライズ”のノイズ・パートのときに、これはやっぱりちょっと後ろで聴きたいなと思いまして、後ろに回ってPAのところで聴いたんです。そしたらやっぱり、すごい立体感があって、とてもよかったですね。あのへんで観ていた方はいちばんよかったかもしれません。

アンプやエフェクターの配線図も見せてもらったのですが、やっぱり曲ごとに使うアンプと組み合わせが決まっているようですね。(黒田)

轟音ではあるけれど、一音一音、しっかり聴こえたっていう感想もよく見かけますね。マイブラって、衝動でノイズや音量を出すというよりも、そのあたりはずっと意識しながらやってきているバンドなんですかね?

黒田:どうでしょうね。ノイズの積み重ね方ということで言えば、のっぺりとした印象ではないですよね。とても立体感がある。それは以前から感じていたことなんですが、今回はより際立ったりしていたかもしれません。

アンプなんかも30個くらい積み上がっていましたけど、そうしたセット、装置含めてお気づきの点があればうかがいたいです。

小林:アンプに関しては、どの曲でどれを使っているのかっていうところまではさすがにわからないんですけど、多少はギミック的な意味もあるのかなと思いました。アンプの壁っていうのは大音量の象徴でもあるわけじゃないですか。でも、たくさんマイクも立てられていたし、実際のところどうなんだろう……。

黒田:なるほど、実は今年2月に来日したときにステージ裏で機材とかを撮らせていただいたことがあって、そのときにエフェクターやアンプのブロック図も見せてもらったのですが、やっぱり曲ごとに使うアンプと組み合わせが決まっているようですね。たとえば“ユー・ネヴァー・シュッド”という曲だったら、はじめのパートではハイワット等のエフェクターが使われているんです。マーシャルとそのふたつをいっしょに鳴らしていて、次のセクションになるとまた別のアンプをいっしょに鳴らしていると……。セクションごとに切り替えているんですよね。“トゥ・ヒア・ノウズ・ホエン”とかだったらこれ、とか。いちおうアンプは全部使っているみたいですよ。

小林:なるほどなるほど!

黒田:だからけっしてギミックでアンプを積み上げているわけではないと思います。

小林:きちんと意味があるんですね、いろいろ腑に落ちました。


“サムタイムズ”というビッグ・サプライズ

2009年にATPの〈ナイトメア・ビフォア・クリスマス〉で彼らがキュレーターをやったときに演奏したきりで、たぶん91年のときもやってないんじゃないかな。

それほど偶然性に左右されないものというか、確固と組みあがっているような種類のものなんでしょうね。

黒田:やっぱりそれはすごくあるみたいですね。今回“サムタイムズ”を1曲めにやったじゃないですか。あれは2月に来たときもリハーサルではやっていた曲なんですね。ビリンダから聞いた話では、ライヴの前のリハーサルでもいつも入れている曲らしいんですけど、どうもそのギター・アンプの感じ……トーンの感じが納得いかないっていうことで、結局ずっとやらないでいたんです。

そうか、“サムタイムズ”はサーヴィスなんですね。

黒田:演奏前にクルーのひとりがセットリストをヒラヒラさせながら、「今日はビッグ・サプライズがあるよ」って言ってました(笑)。他の国では、それまではまったくやってないはずです。2009年にATPの〈ナイトメア・ビフォア・クリスマス〉で彼らがキュレーターをやったときに演奏したきりで、たぶん91年のときもやってないんじゃないかな。だから、今回で、世界で4回めくらいということになりますかね。

小林:へえー。

けっこう思い入れの深い曲ですか?

小林:いや、回数的にレアかどうかっていうようなことは意識したことなかったですけど、もちろんいいなと思っている曲です。

黒田:マイブラ自体はいつぐらいから聴いていらっしゃるんですか? 年齢的には後追いということになりますよね……?

小林:僕は18くらいですかね、聴きはじめたのは。後追いです。

黒田:“サムタイムズ”が『ロスト・イン・トランスレーション』(ソフィア・コッポラ監督映画、2003年)で使われていたのがきっかけだったりしたわけではなく?

小林:そうではないですね。単純に友人のすすめで『ラヴレス』を聴いて、『イズント・エニシング』を買って、という感じです。

黒田:まわりに洋楽詳しい友人がいて、という感じなんですね。

「シューゲイザー」っていう記号性を意識して入っていったんですか?

小林:あんまり「シューゲイザー」って呼ばれているものを理解できないまま聴いていました。ライドとかジーザス・アンド・メリーチェインとかチャプターハウスとかも好きで、「それをシューゲイザーっていうんだよ」って言われて、なるほどって。

そもそも蔑称的な呼び方だったりしますし、オリジナル世代の人たちも「シューゲイザーやってます」って意識はないと思いますけど、後追いのわれわれだと奇妙に神格化されたジャンルとして出会いますよね。

小林:あんまりいいか悪いかを考えることもなく、「シューゲイザー」って呼ばれているのかあという感じで、シューをゲイズするって意味なのかあ、ふーん、という感じでした。だけど、いろんなバンドを聴けば聴くほどマイブラの特殊性とか、他と次元が違うようなところがあるような気がしてきて。


マイブラの「可聴」域

そうですよね。それこそ、アンプがあれだけ積み上がっているのにひとつひとつ意味があったりとか。

小林:アンプが積み重なっていてもマイキングしない人が多いじゃないですか。でもあの公演では細かにしてましたよね。いまシューゲイザーって言われている音は、僕ら自身も含め、手法や機材面での工夫についてのセオリーがある程度でき上がってしまっていると思うんですよ。でも、いざマイブラのライヴを観て聴くと、発想自体がもう僕らの追っているものと違っていると思いました。
僕はこれまで、可聴域というか、ある意味では狭い範囲のなかで音の広がりや表現をイメージしていたんですけど、マイブラって大気のなかのフル・レンジでそれを考えているんじゃないか。倍音成分をどういうふうに出すかってことで、人の深層心理に働きかけるやり方をしているんじゃないか、って思ったんです。
シューゲイザーと呼ばれているバンドは、いわゆる空間系のエフェクターを使うじゃないですか。それって、言ってみれば、本来ない空間を再現するためのものだと思うんです。それに対して、マイブラはフル・レンジで鳴らしている――最初から空気のある、空間の存在しているところを鳴らしているので、僕らが通常頼っているようなエフェクターの使い方をしていないんじゃないかと感じたんです。僕はやっぱり、(あの轟音が)ギターのものとして聴こえたんですよ。いろんな倍音がキラキラしていたり、ぐーっとくぐもっていたり、ギターらしい中域のあたりが聴こえたり、いろんなものがフル・レンジで鳴っていて、全体として塩梅よくなっている。だから耳に痛くないし。
大音量なのに耳に痛くないってすごく難しいことで、それをずっと浴びていたわけですけど、もうこれ以上の音量はないだろうって思ったその先に、“ユー・メイド・ミー・リアライズ”のノイズ・パートが現れて……って、もう、僕のなかで音そのもの、サウンド・デザインそのものへの考え方がそのときガラっと変わりました。

黒田:たしかに空間系のエフェクターってケヴィンはほとんど使ってなくて、リヴァーブとかディレイはほとんど用いないようにしていた……というのは、80年代後半からずっと変わらないはずです。コクトー・ツインズとかそのへんのネオ・サイケ流れのバンドたちというのはモジュレーション系、たとえばコーラスとかよく使っていたんですけど、ケヴィンたちはダイナソー・Jrとかソニック・ユースとかUSのバンドの影響をすごく受けていたので、じつは音がものすごくドライ。そのへんの違いというのは最初からあったみたいですね。

マイブラって大気のなかのフル・レンジでそれを考えているんじゃないか。(小林)

小林:なるほど、そうなんですね! そうやって考えると、日本でいちばんマイブラっぽいことをやっていたのはディップ(dip)なんじゃないかって思うところもあって、ヤマジ(カズヒデ)さんって空間系を使わないわけではないんですけど、鋼が鳴る音の倍音とかにすごい執着があるんじゃないかなって、「ギターっていうのは中域がおいしいんだ」っていう考え方じゃなくて。

黒田:たしかに、マイブラもはじめ『イズント・エニシング』を聴いたときに鋼みたいな音だなって思いました。そういう意味では近いかもしれませんね。

小林:ヤマハの逆再生系のリヴァーブ、SPX900とかはたぶん『ラヴレス』で使っているかなと思うんですけど、そういう特殊系だけですよね。空間というよりは時空を歪めるような使い方というか。

なるほど、技術的ですけど抽象性を帯びた話で興味深いですね。小林さんのマイブラに対するエフェクター観は、現実にない場所を作り出してぶっ飛ぶものではなくて、現実の空気を拡張させるものだ、という感じなんですか。

小林:マイブラがやっていることが、空気を震わせたりすること、つまり目の前に何かを実現させることだとしたら、他のバンドがやっていることは、イヤホンのなかとか、ライヴハウスとか、限られたサウンド・システムのなかで起こっていることを真似ること、という違いがあるような気がします。機材とかを駆使して。広い空間で鳴らしている音像にしたいときも、それを足元でコントロールしたりとかする。それに対してマイブラは大きいところで本当に空気がビリビリいうことで、実際に広がっているし散っているんですよ。……なんというか、マイブラは「実現」していて、他は「再現」しているというふうに感じるんです。抽象的ですけれども。

実現ということで言えば、サウンドの設計図まできっちりと作られているわけで、そこまでの過程がはっきり示されていますね。「シューゲイザー」っていえばリヴァーブで……っていうイメージも一方には強くありますし、あるいは曖昧模糊とした音像ならばもうそう呼んじゃおうというようなところもあるわけですが。

黒田:あとはデカい音でうわーっと鳴らしていれば、っていうところもありますよね。でもマイブラについて言えば、もっとすごく計算されているものではあるんです。


棒立ちの説得力

ビリンダもケヴィンもいっさい身体でリズムを刻まないじゃないですか。足で拍子をとったりとかもいっさいしない。リズム隊とは反対に、一輪挿しみたいな感じで。(小林)

小林:あとものすごく衝撃的だったのは、マイブラのライヴって、けっこうやり直したりとか、まったくキメが粗かったりとか、緊張感がないところがあるじゃないですか。僕はそういうところだけ話に聞いていて、緊張感のなさはあまり好きじゃない音楽に感じることが多かったので、マイブラもそんなふうに、ゆるい感じでやっているのかなと思っていたんです。それに、ビリンダもケヴィンもいっさい身体でリズムを刻まないじゃないですか。足で拍子をとったりとかもいっさいしない。ブレイクやキメを合わせようともしない。リズム隊とは反対に、一輪挿しみたいな感じで。
人ってリズムを刻むと、音をリズムに当てはめてしまうというか、区分してしまうんだと思うんですね。区切りで考えてしまって持続しない。ループするんだけどどこか持続している感覚にならないというか。ケヴィンはずっと船を漕ぐようなピッキングをしていて……

黒田:そうそう、あのピッキングは音に影響していると思いますよね。

小林:はい、そういうのを見ていて、ある瞬間にギュッと緊張感とか焦点を絞っていくっていうこと自体がマイブラのサウンド・デザインのなかで重要ではない、むしろあっちゃいけないんじゃないかと思ったんです。観ている側に視覚的なリズムを与えないようにしているんじゃないかなって。いろんなことを憶測させながらもどこかでつじつまが合っているような説得力を感じます。

黒田:ノイズを出していると、ついついオーバーアクションでかき鳴らす感じになってしまいがちですけどね。それをいっさいやらずに棒立ちで弾いていられるなんてすごいですよね。

小林:凄みがありますよね。

小林さんが指摘するのは、リズムを刻むとひとつの定形に落ちてしまうというようなことでしょうか。たとえばソングという定形とか。マイブラには疾走感ある曲ももちろんあるわけですが、それらもソングとして収まってしまうことから逸脱している、というような?

小林:おそらく、逆にソングということに執着のある人なんじゃないかと思います。ドローンとかノイズをやっていて陥りやすいのが、ソングから逸脱することに執着するがゆえに、ノイズである必要のない音楽をやってしまうこと。ノイズであるってことは、ノイズのないものが同時にあったほうがコントラストを生む場合もあるわけじゃないですか。僕はライヴを観て、マイブラってリズム隊に関してはロック・バンドのひとつのスタンダードであり、しかも質の良いものだって思ったんです。CDよりも躍動感があるなって思ったし。でもそれにギターふたりがグルーヴ優先で乗っていっちゃうと、ソングだけになるかもしれない。自分たちが出している音は持続するものだって思っているのだったら、そこにリズムの正確さは必要ない。リズムはリズム隊がいるから、自分たちは自分たちのやることを全うするんだっていう意志を感じるんですよね。メンバーで確認し合って「せーの!」とかやらないでしょう? ドラムが一生懸命見てるだけ(笑)。

黒田:コルム(・オコーサク)、一生懸命見てましたよね、ケヴィンのこと(笑)。

小林:「♪ユー・メイド・ミー・リアライズ~」って曲が再開する瞬間に、さすがにビリンダとケヴィンは合うのかなと思ったらバラバラで、ドラムが「いっていいのか!?」って感じになってて。合わせようとしないから合うはずがないのに、張本人のケヴィンがちょっと不満そうにしているっていう(笑)。あそこに、もう、逆に徹底してるなって思いました。キメを外すことを恐れてないですね、まったく。

黒田:普通だったらキメを合わせるっていうところはとても意識して、大事にするものですけど、彼らはあんまり気にしてないというか。

小林:気にしてないですよね。すごいですよね。

ライヴのスタイルとしてもそのへんの変遷はとくにない感じですか。

黒田:もう、ずっとですね。91年のころから、さっき小林さんもおっしゃったように一輪挿しのようになっていて。フォーメーションも何もかも、20年前とまったくいっしょですね。

ブレなさすぎですね。普通、変わっていかなきゃっていう強迫観念とかもあったりするものじゃないかと思いますが。本当にマイペースというか、「十年一枚」みたいな世界ですね(笑)。

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橋元優歩橋元優歩/Yuho Hashimoto
1981年生まれ。音楽系ライター。レコード店勤務等をへて現在はele-king編集などに携わっています。

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