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interview with Eiko Ishibashi

interview with Eiko Ishibashi

暗い道の濃い霧のなかから……

――石橋英子、インタヴュー

野田 努    photos by Yasuhiro Ohara   Jan 13,2011 UP

死は大きなテーマなんですね。友だちの死、自分に近い人間の死、あるいは自分の死とか......。想像のなかの死、想像のなかで人を殺したりとか。前作でもそれはけっこうあったんですけど、今回ではより明確になったというか、強いと思います。曲を作っているときにつねにつきまとうものですね。

いまとなってはそういう感じですよね。20世紀だなーという感じがしますよね。ところで、石橋さんのインスピレーションはどこから来るんですか?

石橋:子供のときの心象風景だったり、まわりの出来事だったり......ですかね。

感情についてはどうですか?

石橋:感情の扱い方は難しいです。いつもバランスを考えています。感情はすごく大事なものだけど、ある意味では危険なモノというか。あまり感情に流されると面白くなくなるんですよね。それをパッション、情熱という言葉に置き換えたら私のなかではすごく扱いやすいものなんですけど、でも感情となると一筋縄にはいかない。もちろん大事なものだと思うんですけど。心が出発点でなければぜんぶが嘘になるし。

いまおっしゃったことって、石橋さんの音楽にも出ていると思います。Phewさんも感情を決して露わにしないことのすごさみたいなのがあると思いますけど、石橋さんはなぜ感情に支配されたくないんですか?

石橋:子供の頃から、感情に振り回されたくなかったんですよね。親に今日はどうだった?」と言われてもなんと答えていいのかわからないというか、いちどに複雑な感情や表情を表にできない子供だったし、ずっとそのまま来ているというか、昔からの癖みたいなもので。感情を表に出すのが苦手だというのもあると思うんですよね。

なるほど。曲のテ-マはどういうものが多いんですか?

石橋:死ですね。

し?

石橋:死です。死ぬこと。

それはどうしてまた?

石橋:死は大きなテーマなんですね。

非常に抽象的な言葉ですけど、どんな文脈における死なんですか?

石橋:友だちの死、自分に近い人間の死、あるいは自分の死とか......。想像のなかの死、想像のなかで人を殺したりとか。

なるほど。死か......死をテーマにしているという話は初めて聞いたなぁ。

石橋:前作でもそれはけっこうあったんですけど、今回ではより明確になったというか、強いと思います。

それは主に歌詞に出てくるんですか?

石橋:曲を作っているときにつねにつきまとうものですね。

僕は聴いてて、死は感じなかったなぁ。重たくなるような死は。

石橋:それは良かったなと思います。

1曲目なんかはむしろ軽やかな感じさえしたのですが......。

石橋:良かった。

歌詞を書くのは好きですか?

石橋:書き溜めするほうじゃないし、好きじゃないんだと思います。好きな人はつねに書いているでしょう。ただ、歌は言葉があったほうがいいので、それで書いてるって感じですね。歌詞となると歌い回しもあるし、言葉がそのまま使えるわけではないので、難しいですよね。

演奏と歌のバランスで言うと、繰り返し聴いていると演奏のほうが耳に残るんですよね。そこは意識されたんですか?

石橋:意識してないですね。音量のバランスで言えば、ジム(・オルーク)さんがミックスしているんですけど、ジムさんも、いわゆる歌手という感じの方ではないので、そういうバランスになったかと思います。私自身も恥ずかしいとうのもありますし(笑)。

恥ずかしいんですか(笑)?

石橋:恥ずかしいですね(笑)。

メロディは残るんですが、言葉が残らないんですよね。あえてそうしたミックスにしているんですか?

石橋:あー、そこは私が滑舌が悪いんです。とあるピアニストの方に言われたことがあって。「あなた滑舌が悪いからもっとはっきり歌ったほうがいいわよ」って(笑)。

親しみやすさみたいなことは意識しましたか?

石橋:そこはまったく意識してませんね。そういうことを意識するといい結果を生まないので。

ピアノを強調しようとかも?

石橋:前もって考えないですね。

前もって考えたことはないですか?

石橋:ピアノと歌だけでデモを作ろうと。それが自分にとっての決まりで、大きな縛りでしたね。前作はもっと自由でしたね。ドラムから作った曲もあった......。

さっき録音のバランスについて話してくれましたが、ジム・オルークが関わることによって他に変わったところはどんなところですか?

石橋:私の実感だけなんですが、デモは産みの苦しみがあったというか、曲もボツにしたいくらいの勢いだったというか......。

なんでですか?

石橋:やっぱひとりで作っているからじゃないですかね。ずっとひとりでやっているとわからなくなってしまうんです。「こんな作品を出す意味があるのだろうか」とか、「なぜ出すのだろうか」とか、「多くの名作があるなかでこんな駄作を出しても仕方がないじゃないか」とか......。そういうことを考えてしまうんですね。ジムさんにデモを渡すまでなんの確信も持てなくて、大丈夫かなと思ってて、それでジムさんに聴いてもらって、そうしたらジムさんが1曲づつアイデアを書いてくださって。そのときはまだプロデュースするとかぜんぜん決まってなかったんですけど、録音の何日か前だったのかな......、録音と演奏を手伝ってくれることぐらしか決まってなかったんです。それで、まさか彼がいろんなアイデアを出してくださるとは思わなかったんです。でも、ジムさんがいろんなアイデアを出してくださって、彼のアイデアを聞いているだけで曲が生き返ってくるというか......。

細かいアレンジまで?

石橋:そうです。ここにホーンセクションがあって、ここにはヴァイオリンだとか。曲のデモを聴いて、そこからいろんなことを感じ取ってくださって、上っ面ではないアイデアをどんどん出してくれて、そうしたら曲が息をしはじめたというか......。それは私の実感としての彼がもたらしてくれた"変化"です。

本当に彼がプロデュースした、ということなんですね。

石橋:そうです。

つまりコニー・プランクだったんですね(笑)。

石橋:ジムさん、コニー・プランク大好きで、コニー・プランクのTシャツ着てましたからね(笑)。

ハハハハ。それはすごい。石橋さんから見て、ジム・オルークのどこが突出していると思いますか?

石橋:うーん、難しいなぁ......。作曲家としても演奏家としても、プロデューサーとしても、どれとっても優れてますけど、私がいちばん驚いたのは......、ジムさんは自分が良いと思った埋もれた作品をリイシューするレーベルを作っていたんですね。私、それを知らなくて。で、彼のそういう精神が、すべてに反映されているんですね。演奏するときにも、プロデュースするときにも、ジムさん自身を大切にしないというか、捧げている感じがあるんですね。カヒミさんのサポートをいっしょにやっていてもわかるんですけど、すごいさりげないんですね、演奏も。実はすごいことやっているんだけど、あまり表立たないというか......、つねに音楽の全体像が見えている。そのなかにジムさんという人間が埋もれたとしてもそれを良しとする清らかさみたいなものがあるんです。音楽に対する清らかさがあると思います。それが素晴らしい。ジムさんのおかげでこの作品もできたと思っているし。ジムさんは「私は何もしてない」と言うけど、かなりいろんなことをしているんです(笑)。

なるほど。ところで、歌うのが恥ずかしいとのことですが、前作はたしかに旅人くんの力を借りたりしてましたよね。でも、今回はすべて自分で歌っていますよね。

石橋:前作から今作にかけての期間は、ひとりでライヴをやることが多かったんです。小さなライヴハウスで25人くらいのお客さんを前に2時間くらいやるんです。それを定期的にやってました。そのときはすごく緊張するんです。緊張しながらも、自分の作品は自分が歌うべきじゃないかという気持ちが芽生えたんでしょうね。自分の声とつきあうようになってきたということかな。そういう心構えができた(笑)。

いろんなゲスト・ヴォーカルを招いてやるという考えはなかったんですね。

石橋:まったくなかったです。今回はなかったです。

しかし、25人を前に2時間というのは緊張感ありそうですね(笑)。

石橋:観ているお客さんも緊張すると思いますよ。私の緊張感がフィードバックされて、お客さんと私で緊張のキャッチボールになるとういか(笑)。

アルバムのタイトルの『キャラペイス(carapace)』はどういう意味が込められているんですか? 言葉自体は「甲羅」という意味でいいんですか?

石橋:甲羅......殻のなかに閉じ籠もって作った感じだったのと、歌詞が最初、生々しかったので、それでぜんぶ亀が歌ったことにしてやろうかとか(笑)。自分が子供の頃から亀は特別な動物だったので......。

いちばん大きな理由は?

石橋:作っているときの自分の状態ですね。甲羅のなかでいろんな景色を見たというか......人それぞれの甲羅のなかにはどんな景色があるのか、とか。

アルバムのなかでとくに思い入れがある曲はどれですか?

石橋:3曲目の"rhthm"か、最後の"hum"ですね。

それは曲自体に対する思い入れですか?

石橋:そうです。"hum"に関しては、いちばん最後にできた曲だったというのもあrますけど。

アートワークの写真もとても良いですね。まるで闇のなかに佇んでいるようですけど、この音楽に暗闇があるとしたら、それはさっきも言った死という言葉に集約されるものですか?

石橋:そうですね。それと、夜中によく徘徊しているので。闇のなかを歩いて行く感覚......そういうのって誰にでもあると思います。そういうものに興味があります。

じゃ、最後に石橋さんの2011年の抱負を聞かせてください。

石橋:企画を仕掛けたいですね。2010年は自分の作品に時間を費やしたので、企画をやる時間がなかったから。それから、勉強したいですね。自分には足りない部分がなくさんあって、次に向けて勉強しなければならないことがたくさんあります。

どこが足りないと思ったんですか?

石橋:演奏もそうですし、曲を作ると言うことを一から見直したいと思っています。もっといろんな音楽を知って、知ったうえで自分の作品を作っていきたいです。ミックスも自分でやりたいし、自分の演奏できない楽器も弾けるようになりたいし(笑)。

なるほど(笑)。今日はどうもありがとうございました。

取材:野田 努(2011年1月13日)

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