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interview with Kenichi Hasegawa

interview with Kenichi Hasegawa

極北の歌のなかの光景

――長谷川健一、インタヴュー

松村正人    写真:三田村陽   Mar 05,2013 UP

ゴスペルとか賛美歌が好きで、賛美歌なんかは日本語のものとかをライヴで歌ったりするんですけど、宗教とか祈りというものと切り離せない音楽というのはいまとちがう高みに連れて行ってくれるような気がするんです。


長谷川健一
423

Pヴァイン

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いろんなひとに訊かれたと思ったんですが、アルバムのタイトル“423”は由来はどういうところにあるんですか? 同名の楽曲も収録していますが。

長谷川:アルバム・タイトルは曲名からとろうと思っているんです。曲名は曲を書いてから決めるんですけど、なんとなく、ひとが生きることという漠然とそういう意味合いがある歌かなと思って、“人生”とかつけると重苦しい、というか演歌みたいなので(笑)、スフィンクスのナゾナゾってあるじゃないですか?

ああ、ハイハイする赤ん坊から成人になって、杖をつく老人になるというあれですね。

長谷川:その答えが「人間」じゃないですか。そうやって数字で表したら重苦しい意味から逃れられると思ったんですね。

長谷川さんの言語感覚は、私はすごくおもしろいと思うんですね。ハセケンさんの歌は世界というか何かの塊のようなものをもっていて、そのなかに登場人物が複数いて視点が切り替わる、その移動の仕方が自由だし多様だと思うんです。最初にもいいましたが、そこがほかのシンガー・ソングライターとは異質だと思うんです。それはどういったところで培われた、とご自分では思われますか?

長谷川:その質問は今日はじめてですね(笑)。

俗な質問ですが、好きな本や作家などいますか?

長谷川:僕はあまり本は読まないですが、いっとき中上健次は読みました。即興をよく聴いていたときは、哲学とか......間章のライナーノーツとかわけわかんないじゃないですか(笑)。でも何が書いてあるのか知りたいと思ったので、アルトーとかセリーヌとか、あんまりわかんないんでけど(笑)、読んでみたことはありました。まわりに現代詩をやっているひともいて、そういう本に載せてもらったこともあるんですが、いいのかな、とは思っていました(笑)。僕にとっての歌詞は発声してなんぼのものなんです。詩でもあるんですが、完全に意味が通っている必要もないだろうと思っていて、どこかしら余白があって、聴いているひとが意味付けをして、聴くひとの数だけ歌があればいいと思っています。井上陽水さんなんかもそうだと思うんですが、なんのことかはわからないけど、でも強烈なイメージがはっきりある。

井上陽水さんの歌詞はそれでもイメージの像は結びやすいと思うんですね。ハセケンさんの歌詞はもうちょっと散文的だと思います。聴いてみると美しく清澄なものとして通り過ぎるひともいると思うんですね。

長谷川:そうですね。

その言葉を自分のなかで噛みしめていくとナゾが深まる、そういった歌だと思いました。

長谷川:ありがとうございます(笑)。でもそういった意図はあまりないです。でも、なんていうんでしょう、京都にずっと住んでいるんですが、京都にずっと住んでいるからできた歌だという気はします。空気というかテンポというかリズムというか......ほかの土地に住んだことがないのでわからないですけど、大阪に住んでいたらこの歌はではなかったような気がしますし、東京でもちがったと思います。ただ、京都に住んで自然に書いたらこうなった、というだけのものではあるので、どういうふうにしてやろうというのはないですね。

京都への愛着と反対に嫌いな部分はないですか?

長谷川:好きも嫌いもないんですよ(笑)。これからもずっと住むと思うんで。それでも観光客のひとたちが見ない部分は見ているんだろうし、京都市内にもいろいろややこしい地域もありますからね。排他的な部分もありますから。

東京に出てくる、といういいかたは好きではありませんが、そういった気持ちはないんですか?

長谷川:そうですね。

そうするとなにかが変わってしまう?

長谷川:そこまでかたくなに思っているものはないんですけど、このペースで歌を書いてきたので、この先もこういう感じでいくんだろうな、という漠然とした思いです。

土地ということで思いだしたんですが、私は奄美の出ですが、奄美のシマ唄は裏声を多用するんですね。そういったロックとかポップスとか以外の音楽からの影響はありますか?

長谷川:そこまでコアに音楽は聴いていなかったですが(笑)、ゴスペルとか賛美歌が好きで、賛美歌なんかは日本語のものとかをライヴで歌ったりするんですけど、宗教とか祈りというものと切り離せない音楽というのはいまとちがう高みに連れて行ってくれるような気がするんです。そうじゃないひとももちろんいると思うんですけど。そういう部分がやっていてもつくっていても、意識しているのかもしれませんね。

歌詞のなかにも「神」という言葉が出てきますが、それは宗教心なんでしょうか? それとも、ゴスペルや賛美歌からの影響の名残りでしょうか?

長谷川:僕が賛美歌に興味をもったのはあくまでも音楽の形態として、なんですね。でもそこになにかただの音楽じゃないものがくっついている気がして。「神様」という単語はちらほら出てきますが、キリスト教徒でもないですし、神がどうのこうの、という話できる人間でもないんですけど、なにか大きなものがあるんじゃないかな、という気持ちはあります。人間がわからない大きな存在があるかもしれない、それくらいの思いはあります。

歌を歌っているときは、そういうものの存在と向き合っているんでしょうか?

長谷川:歌っていて恍惚とする瞬間はありますが、分析していくと、昨日下北沢のleteというお店でライヴをしたんですが、そこではマイクを使わないんですね。ヴォーカルをどうするか、どうしたらよく聞こえるか、と考えたんです。そこで定期的に2年以上やっているんですが、最初はあまりやり方もわからないんです。ライヴハウスにはかならずマイクがありますし、それに頼ってきているんです、どうしても。でもナマでふとやると、どうしたもんかな、というところを考えたんですよ。で、やっぱりナマなので、出ているものしか聞こえないですし、単純にマイクがないということは音が小さいものだということで、声を張るんですけど、だからといってそれがいいわけでもないし、小さくたって聴かせ方はあると思うんですね。そこでライヴを続けているうちに、声の響かせ方、身体をどういう向きにしたら声が通るかとか、そういうことを考えるようになったんです。

マイクがあるとそういったことをあまり考えないですからね。

長谷川:そうなんですよ。モニターもありますし。出ている音というものも、部屋でやっているのと同じようにしか聞こえません。僕の地声は倍音成分がわりと出ていると思うんですよ。で、何回か感じたんですけど、頭蓋骨がものすごく響いている感覚がありとても恍惚となった瞬間があったんです(笑)。

それはオフ・マイクになったときの歌というのを一度考えないとたどりつかない境地かもしれませんね。

長谷川:そうですね。勉強になるというか。ためになりますね、ナマでやっているのは。ギターも声もナマだし、コンディションがすごく出ますし。

音楽の最先端の技術はごまかす方向にも転用できますからね。

長谷川:波形から変えられますからね(笑)。

さっきのジムさんの話もそうだと思うんですよ。音楽が「呼吸」する感覚。その点について、あらためてどうお考えになりますか?

長谷川:生きている呼吸ってひとそれぞれだと思うんですよ。自分のものは自分のもので、換えられないじゃないですか。ブラック・ミュージックをそのままやったって、それはつくったものだし、借りてきたスタイルだし。自分なりのテンポだったり訛りだったり呼吸でしかできないことはありますよね。借りてきたものだとおもしろくないし、自分を出さないと意味がない、と思うんです。そこは隠す、というか、直さなくていいんだな、ということはコーディングで感じました。

取材:松村正人(2013年3月05日)

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