Home > Interviews > interview with The D.O.T. - ソウルと頭脳
その当日、結局マイク・スキナーの体調は戻らず、取材はキャンセル。帰国後、電話を使っての取材となった。ロブ・ハーヴェイが言うように、言葉表現の巧みさを持った彼の作品について訊くのは、歌詞を精読してからのほうがベターなのは間違いないが、いままで知らなかった彼の音質へのこだわりなど、興味深い話が聞けた。
僕はダンス・ミュージックが大好きでDJもよくするし、僕のルーツのひとつだからね。いまはThe D.O.T.のリミックスもやっているところなんだけど、そっちはよりクラブっぽい音になってるよ。
The D.O.T. Diary ホステス |
■『コンピュータ&ブルース』がラップ、ダンス、ロックのブレンドだったわけですが、ロブは3曲参加していますよね。ザ・D.O.T.は、『コンピュータ&ブルース』を契機に生まれ、その延長として発展したプロジェクトとして考えて良いのでしょうか?
マイク:そうだね。これがはじまったのは偶然みたいなものなんだ、ちょうどその頃僕たちふたりとも当時やっていたプロジェクトがひと段落するところでさ、最初にまず2曲くらい一緒に作ってみたらすごくいい感じのものができて、そこからそのまま一気に進んでいったんだよ。
■『コンピュータ&ブルース』制作中にはすでにThe D.O.T.の構想はありましたか?
マイク:えーっと、ロブがザ・ストリーツのツアーを一緒に回って、その後にザ・ミュージックのラスト・ツアーに出てたから、はじまったのはザ・ストリーツの活動が終わってすぐかな。僕のスタジオを中心に、ロンドンのいろんなスタジオで制作していったんだ。僕にとっては、ずっとほとんどひとりで音楽を作っていたから他の誰かとやるっていうのは初めてだったし、ずっとバンドでやっていたロブにとってはふたりだけでやるのは初めてだったから、お互いに新しい挑戦だったよ。
■『コンピュータ&ブルース』に入っている"Going Through Hell"なんかはザ・D.O.T.の原型みたいじゃないですか?
マイク:ああーうん、そうだね! The D.O.T.の基本的なアイデアとしては、僕のプロダクションの上にロブの歌やメロディをのせていくって感じのものが多いんだけど、"Going Through Hell"でもロブがメロディを書いたんだ。今回のアルバムの曲の多くとは、基本的な原理は同じで組み合わせている要素も同じだから、結果的にかなり近いものが出来たと思う。
■あなたは、『コンピュータ&ブルース』というザ・ストリーツの最後のアルバムで、なぜロック的なアプローチを取り入れたのでしょうか?
マイク:いろいろな違った方法を試してみるっていうのは大事だと思うんだ。同じことを同じ方法でやってばかりいると、ありきたりで予想のつく音楽になってしまうからさ。ただ僕自身はあれがとくにロック的だとは思っていないよ。ロックっぽく聴こえるのは、良いヴォーカルを入れようとした結果じゃないかな。
■ザ・D.O.T.で、よりソウルフルな、エモーショナルなポップ・ミュージックにアプローチした理由を教えてください。
マイク:今回The D.O.T.の音楽を作る上では、あんまりいろいろなことを意識してやっていたわけじゃないんだ。特定の誰かと一緒にスタジオに入ったときに、なんとなく楽器を手に持って弾きはじめる......みたいな感じだった。ただ僕は元々がラップ・ミュージックから来ているから、アルバムを作るときも自然とエモーショナルな方向にいくし、ロブはソウルフルなシンガーだからそういう音になったね。
■とても聴きやすいアルバムだと思うのですが、とくにザ・D.O.T.らしい曲はだれだと思いますか?
マイク:"Blood, Sweat and Tears"は僕らがThe D.O.T.としてできることのいい見本になっていると思うよ。かなり短時間でできたストレートな曲で、僕の好きなビッグなドラムの音が入っていて、ロブのヴォーカルにもすごく感情が込もっている。
■"Under a Ladder"は?
マイク:"Under a Ladder"は僕がほとんど自分ひとりで作った曲だね。なんていうか、このアルバムは僕らが作った幾つものトラックの中から選んだベスト・トラック集みたいな感じなんだよ。
■では実際に作ったトラックは何曲ぐらいあったんですか?
マイク:僕のデスクにある記録だと、70曲強だね。そのなかから完成させたのは40から50曲くらいかな。
■かなりありますね! そちらのリリースはしないんですか?
マイク:次にアルバムを作るときは、またいちから新しい曲を書くと思うよ。これまでにインターネットに上げた曲や今回のアルバムの曲はみんな似たような雰囲気があるしさ。でも、またもう少ししたら新しい曲を書きはじめるつもりでいるよ。
■トラックの基本はマイクが作ったんですよね?
マイク:その曲によって作り方は違ったよ。まずロブがメロディを作って僕がプロダクションをしてってパターンが多かったんだけど、その逆になるときもあった。僕がビートを作るところからはじまって、ふたりで完成させたりとかさ。ほとんどの曲は僕がプロダクションの部分を仕上げたけど、なかにはロブがほとんど完成までやった曲もあったしね。他のミュージシャンと一緒にスタジオに入って、みんなで曲を書いたこともあったよ。ひとつのパターンにはまるんじゃなくて、いろいろとやり方を変えることで、いろんな違ったものが作りたかったんだ。
■プロダクション面はマイク主導でやっていたんですね。具体的にはどのような感じでしたか?
マイク:僕の持っているスタジオでやることが多かったんだけど、僕はオールドスクールなやり方で作るのが好きなんだ。もちろん基本はコンピュータを使っているけど、まわりの機材はアナログが多いから、ちょっと70年代っぽい音になっていると思う。僕らはマスタリングまで自分たちでやるんだけど、マスタリング関連の機材は使っていて楽しいよ。
■アーティスト自らマスタリングまでやるというのは珍しいですね。
マイク:うん、僕にとっては、ミキシングやマスタリングまでやるっていうのは大事なんだ。ミキシングまでやるミュージシャンは多いけど、マスタリングまでっていうのはあんまり多くないよね。自分で曲を書いたならプロダクションまで自分でやる方がいいと思うんだ、その曲がどういう風に聴こえるべきか自分でわかってるんだからさ。とくにマスタリングって、その曲がどう聴こえるかに大きな影響を与えるから、自分でその部分のコントロールもするっていうのが理にかなっているよ。
■ダンス・ミュージックというところは意識しましたか?
マイク:もちろんさ、僕はダンス・ミュージックが大好きでDJもよくするし、僕のルーツのひとつだからね。とくに(ザ・ストリーツの)ファースト・アルバムにはそういう部分がより出ていたと思う、クラシックっていうか、ストレートにアップビートな感じの曲が多かったセカンドよりも、より遊びのあるダンスっぽい感じの音さ。いまはThe D.O.T.のリミックスもやっているところなんだけど、そっちはよりクラブっぽい音になってるよ。
■自分たちの方向性に影響を与えた作品はありますか?
マイク:わからないな。僕らふたりとも、年齢とともにだんだん「これに影響を受けた」ってはっきり言うのが難しくなってきてると思うんだ、これまでにいろんな音楽を聴いたり、映画を見たり、本を読んだりしてきたからさ。最近はとくに音楽以上に、映画や本から影響を受けているんじゃないかな。
■映画や本ですか。普段どのような本を読むんですか?
マイク:いま読んでいるのはハリー・セルフリッジ(イギリスの高級デパートチェーンの創業者)についての本だけど、普段好きで読むのは第一次世界大戦前の、エドワード朝時代あたりを題材にしたものとかだね。世界大戦で人びとの生活も何もかもがすっかり変わったから、その前の時代のことってすごく魅力を感じるんだよ。
■個人的にいちばん好きな曲のひとつなのですが、"How We All Lie"は何についての歌ですか?
マイク:The D.O.T.の曲の多くは抽象的で曖昧なんだ、それぞれの曲にはっきりしたストーリーや視点があったザ・ストリーツのときとは違ってね。僕自身、そういうストーリーとかの制約から自由なところで活動したかったからさ。"How We All Lie"では、基本は人びと全般について歌っているんだけど、スタジオに居たときにそこにあった新聞のスポーツ面を見ながら書いたから、サッカーについてのテーマも同時に曲全体に入って いるよ。
ザ・ストリーツでは歌詞を書くのに時間をかけていたけど、今回はできるだけ時間をかけないようにしたんだ。そうするとその分、ほかの面でクリエイティヴになる余裕ができるんだよ。
■"How Hard Can It Be"は社会風刺ですか?
マイク:あの曲はちょうど、次期首相を選ぶ総選挙の直前に書いたんだ。(その選挙で選ばれた)いまのイギリスの首相(デイヴィッド・キャメロン)はエリート学校出身のお坊ちゃんなんだけどさ。
■それが歌詞の「You don't know the price of bread(アンタはパンの値段なんか知らないクセに)」に繋がるわけですね。
マイク:その通り! それとその曲では、人びとのなかには、世界で何が起こっているのかよくわかっていない人たちもいるっていうことにも触れているんだ。
■ザ・ストリーツには作品ごとにそれぞれのコンセプトやテーマがありましたが、そういう意味でのコンセプトやテーマが今回もあったら教えてください。
マイク:そうだね、さっき言ったように今回はより抽象的だし、コンセプトっていうのはないと言えると思う。あんまり音楽にヘヴィで現実的なテーマばっかり求めてしまうのも良くないと思うんだ。
僕はこれまでにコンセプト・アルバムっていうのはひとつだけ作ったことがあって、あれは曲それぞれにストーリーがあって、それを繋げていくっていうものだったから、それほど現実的なテーマではなかったんだ。それを批判する人も多かったんだけど、それも無理はないと思うよ、人って音楽に何か「リアル」なものを求めてしまうものだからさ。
質問:野田 努(2013年4月19日)
12 |