Home > Interviews > interview with Seiho part.2 - テクノ新世紀・愛慾篇
フィジカルで僕がいちばん大事にしてるのは、アーティストの責任というか。バンドキャンプでデータで3枚4枚出してても、「うわーあれダサいなー」と思ったら消せるんですよ。でも、フィジカルで出しちゃうと残るんですよね。
Seiho Abstraktsex [Limited Edition] Day Tripper |
■今回のアルバムのアートワーク。あれは外国人の女性?
セイホー:そうです。
■アリエル・ピンク(笑)?
セイホー:(笑)でもあのジャケットは、僕のなかで言うタンブラー感というか。タンブラーであれが流れてきたらファボるな、みたいな。いいね! つけるな、みたいな。ちなみにあの人はフィンランドですね。北欧のほうですね。あの子も、PVを撮ろうって決めてスタジオを押さえてから、クラブいろいろ行って、ナンパしたんですよ(笑)。
■ナンパして、「いいよ」って?
セイホー:1日だけ空けてもらって。
■あのポーズとかも全部決めて?
セイホー:そうです。僕のなかでは"アイ・フィール・レイヴ"の映像も、断片的なGIF画像の積み重ねのなかのエモーションみたいな部分があって。短く印象的なものが積み重なって1本になってるみたいな。プラス、僕らのジャンルはユーチューブとかでああいう女性の写真とかとくっつけられてアップされまくるんですよ。
■へえー。そうなの?
セイホー:僕もこの現象が何なのかよくわかんないんですけど、音源をエロい女の子の画像と合わせてアップされるんですよ。有名なサイトやったら〈マジェスティック〉とか、ユーチューブのサイトで。フォトグラファーの紹介でもあると思うんですよ、あの場所は。向こうのフォトグラファーとモデルといまの音楽っていうのを3つ同時に紹介する場所としてあって。だからまったく知らん女性のちょっとエロい写真と、〈マジェスティック〉のロゴと、自分らの曲がアップされてるんですよ。まあ、そこのサイトはフリー・ダウンロードの曲に限るんですけど。〈マジェスティック〉を運営してるやつらとも、いまはもう知り合いになって、フェイスブックとかでコミュニケーション取ったりするんですけど。向こうではそれはそれで一種のメディアになってるんですよね。〈マジェスティック〉さえ聴いといたら最近の音楽聴けるみたいな感じで、みんな〈マジェスティック〉から聴いてますね。
■へえー。全然知らなかったよ。
セイホー:で、海外のアーティストはけっこう〈マジェスティック〉に嫌悪感があるらしくて、「〈マジェスティック〉に発表せんといてほしい」って感じなんですけど、僕は敢えて面白がってああいう感じのジャケットにしてるんですよ。だからタイトルの感じも、見てもらったらわかるんですけどユーチューブの動画まんまなんですよね。
■デジタルな世界とリアルな世界を両立させるっていう。
セイホー:くっつけてるというか。とにかく、エロいっていうのが僕のなかでは重要ですね。
■セイホー君は大雑把に言えばオタク世代だからさ、エロと言えばアニメじゃない? 日本のアニメって、あれがフランスで受けているのはエロだからだと思うし。
セイホー:そうなんですよ! そこは僕もあんまりわからない。僕はやっぱり、生身の女性が好きなんで。
■しかもロリータだしな。
セイホー:そうなんですよ。わかんないですね、そこは。
■橋元からはどう?
橋元:わたしが面白いなと思ったのは、お父さんとの関係が大きいのかなって。いまごろ音楽のモチーフで父が出てくることってあんまりないっていうか。
セイホー:でも僕のなかでも、おかんもデカいですよ。服は全部おかんのお下がりなんですよ。
■えっ、それも!?
セイホー:これ、おかんのお下がりです。
■お母さんすごくいいセンスしてるね!
セイホー:最近、アルバムを見てたらおかんがこれ着てるの見つけて、「これどうなってるねん」みたいな(笑)。で、「押入れのなかにあるはずや」ってなって、実家帰って押入れのなかから探したら出てきたっていう(笑)。ここに僕を抱っこしたときのヨダレがついてるんですよね(笑)。
■そうなんだ!
セイホー:だからいまだにおかんとふたりで服買いに行きます、僕は。
橋元:なるほど、おかんですか。共有できる服をいっしょに買いにいくとか、母と息子の関係としてはわりと新しいですよね。一種のフェティシズムとして先ほど生身の肉体の女性の話も出てきましたが、そういうおかんからの連続性ってあるんですかね?
セイホー:そうですね。僕のアルバムの1曲目でランス(RHEIMS)って入ってるんですけど、それはベティーナ・ランスのことで。ベティーナ・ランスのマドンナとかを撮ってる写真って、その両面を持ってるんですよね。エロいんですけど、男だけがわかるエロじゃないエロさみたいな。そこにけっこうこだわって作りましたね。
■ダンス・ミュージックはそこ重要だよね。セイホー君が赤ちゃんだった頃に比べて、情報社会っていうのはさらにカオティックになってるじゃない?
セイホー:そうですね。さっき、CDをコンポで聴く話をしたじゃないですか。あれが僕のなかでいちばんやりたいことで。データのなかでももっともフィジカルに近いデータっていうものが僕らのなかであるんですよね。「もの」に近いデータっていうのがあるはずなんですよ(笑)。この感覚は、僕らのなかで話してても誰にも通じないんですけど、iTunesで買ったなかでも大事じゃないデータと大事なデータってあるじゃないですか。でも、おんなじはずなんですけど。でも、それが好きな曲か嫌いな曲かってことだけじゃなくて、フィジカルに近いデータっていうのがあるんじゃないかって僕のなかでは思ってて。
■なるほどねー。
セイホー:で、その感覚っていうのを突き詰めたことをしたいなっていうのがいちばんにあります、いまは。難しいんですけどね(笑)。
■セイホー君が「レイヴ」っていう言葉を使うときの「レイヴ」っていうのがさ、ダンスの「レイヴ」だけじゃなく、こんにちの情報社会のカオスのなかにおける「レイヴ」って感じだと思うんだよね。
セイホー:それはあります。
■セカンド・サマー・オブ・ラヴみたいなああいう60年代ぽいものではなくて。カオスなんだけど、カオスとして受け入れたなかでのある種の祝祭空間みたいなものだから、すごくアッパーになってるのかなって。
セイホー:サンプリングができた頃からそういうような感覚があったのかもしれないですけど、たとえば808のカウベルが鳴るだけで、「はい、80年代っぽい」とか、1音のマイクロ・サンプリングのなかに文脈を感じられるっていうのをみんな持ってて。たとえば「このキックやったら、はい、誰々で」、「このキックやったら○○年代ぽくって」、みたいなものが、すごく複合的に頭のなかで処理できるスピードの勝負みたいなものが――。
■すごいところで勝負してるんですね。
セイホー:それと、文脈をどう併せ持つか、というか。
■インターネットと、セイホー君や〈デイ・トリッパー・レコード〉がどのようにして付き合っていくか、どんな考えがある?
セイホー:〈デイ・トリッパー〉は、この形態を続けようと思うんですよ。で、もしも変わるとしても、データ配信10本、20本して、10枚組のボックスめちゃくちゃ高いのを出すみたいなものになったりするのかな、って思ってるんですけど。まあでも、〈デイ・トリッパー〉は〈デイ・トリッパー〉で単純に場所なだけなんで。〈デイ・トリッパー〉としては、まあ〈ファクトリー・レコード〉みたいになりたいな、と。装丁がいまみても、やっぱ豪華やし。あんだけカネ使ったフィジカル出せる余裕っていうか......まあそれで潰れるんですけど(笑)。でもそれがおもろい、やっぱあれぐらいやりたいなっていう。
フィジカルで僕がいちばん大事にしてるのは、アーティストの責任というか。バンドキャンプでデータで3枚4枚出してても、「うわーあれダサいなー」と思ったら消せるんですよ。でも、フィジカルで出しちゃうと残るんですよね。そこのケジメを踏むか踏まんかっていうので、ミュージシャンが進むか進まないかっていうのが僕のなかではけっこう大きくあって。同世代よりも下の世代にそれを踏ませたいっていうか。だからフィジカル・リリースに関しては、対お客さんに関してはどうでもいいことなんですけど、僕のなかではけっこう重要なことで。やっぱそこを踏んだアーティストと踏んでないアーティストは、僕のなかではライヴの質が違うような感じがするんですよ。
■いまは、下手したら現在の音楽よりも過去の音楽のほうが売れる時代だと言われていて、新しい音楽をやってる立場としてはさ、いま起きてることにもうちょっと注目してほしいという気持ちはない?
セイホー:僕のなかのさっきのバランスの話で言うと、僕らが直面してる問題として、1回きりの音楽が大量にあるんですよ。僕らの仲間で言うと。ツイッターで流れてきてサウンドクラウドで聴いて、しかも30秒ぐらいだけ聴いて、一生聴かれない音楽が山ほどあるわけじゃないですか。それと繰り返し聴けるアルバムが両方あったときに、僕らはどっちがいいか決められないんですよ。「明らかにこっちやろ」っていうのはないし、1回きりの音楽も、スリリングで魅力的なんですよ。一生出会えへんけど、ツイッターで流れてきたから聴いた音楽のスリリングさとか、アーティストもそれが誰かの耳に1回きりしか入らんことを前提に作ったスリリングなものへの魅力と、通して聴く作品の魅力と両方あるから、そこは何とも言えないですよね。
■音楽が売れなくなった理由として、非合法のフリーダウンロードがあるからだって意見があるわけだけど、それに関してはどう思う?
セイホー:それはまったく関係ないですね、僕のなかでは。フリーダウンロードして良かったら、買うっていう(笑)。
■俺も、そう思う。
セイホー:そうですよね。そこはあんま関係ないっていうのと、あと作り手も多くなってるし、聴き手も減ってはないと思うんですよ。だから分散されただけで、危機的な状況じゃ全然ないと思う。だからノイズとかやってる人らからしたら、状況はずっと変わらないんかな、みたいな。
取材:野田 努(2013年7月08日)