Home > Interviews > interview with Kingdom - ベースからポストR&Bまで
ニューヨークに住んでいたころは地元発の音楽がすごく魅力的だった。プエルトリコ系移民がたくさん居たから、クラシックなレゲトンのスタイルにはとても魅了されていた。サンプルを大胆にチョップして作られた生々しさのあるクラブ・ミュージックだったんだけど、ストリートでブートレグのCDを買ったりしていたよ。ジャマイカ系移民がやってたダンスホールも同様だったし、ヒップホップもね。
Kingdom Vertical XL Fade to Mind |
Kelela Cut 4 Me Fade To Mind |
■〈フェイド・トゥ・マインド〉はングズングズをリリースするためにはじまったと聞いていますが、どのような流れだったのでしょうか? また、なぜ〈フェイド・トゥ・マインド〉はイギリスの〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベルとして運営されているのでしょうか?
キングダム:ングズングズのことはボク・ボクに出会った頃くらいから知ってるけど、インターネットとアシュランド(=トータル・フリーダム)を通して知り合った感じかな。
遡ると、そもそもアシュランドと出会ったのはたしか2004年頃。僕がバンドをやっていたときに、当時シカゴに居た彼にブッキングされたんだ。その時は彼が住んでたロフトで演奏したんだよね。
彼の紹介やマイスペースをとおして、シカゴに住んでたングズングズとも連絡を取り合うようになって。彼ら、スプレーで雑に塗装したCDRにデモを入れて僕に郵送してくれたりしててさ。2008年頃のことなんだけど、当時のアンダーグラウンドの音楽的ランドスケープはエレクトロとかブログハウスだとか呼ばれてるジャンルで構成されてた。だからボルティモアクラブにR&Bやノイズを混ぜてるような、めちゃくちゃな音を聴くのは本当に……なんていうか、ただただ僕はングズのファンだったんだよ。それで実際に出会ったその日からすぐに打ち解けることが出来たし、アズマとは誕生日が同じだったしで、本当に仲の良い友だちになった。トータル・フリーダムやングズの近くにいくためにLAに引っ越して、それからレーベルをはじめたんだ。
だからわかると思うけど、仲のいい友だち同士で作品をリリースしなくちゃいけなくなったときに、そういうディレクションでやってるレーベルが他に無かったから、レーベルを立ち上げるのはごく自然な流れだった。それに〈ナイト・スラッグス〉にも僕ら全員が入り込む余地はなかった。アメリカには多くのアーティストの友だちがいたし、みんな〈ナイト・スラッグス〉とは少し違う方向性に向かっていて。ボク・ボクはすでに彼自身のヴィジョンをはっきりと持っていたし、〈ナイト・スラッグス〉のディレクションを変えるだなんてことはあり得なかったからね。だからふたつのコレクティヴでやっていくのに意味があったんだ。
ふたつのレーベルに繋がりが必要だったっていう点に関してだけど、元々僕はアーティストとしてシーンに居た人物だし、レーベルを運営した経験もなかった。それでアレックス(ボク・ボク)はレーベルを運営していく事に対して明確な意見を持っていたし、彼のレーベルの構築の仕方を本当にリスペクトしていたから、Tシャツやカヴァーアートのデザインを決める際に、始めから〈ナイト・スラッグス〉の持っている一貫性を参考にするのが一番だった。それに、レーベルに属しているみんながインターネット上だけでの関係に留まらず、実際にハング・アウトする仲の良いコミュニティーなんだ。ふたつのレーベルに繋がりがあるのは、何よりも僕らがみんなパーソナルな関係で繋がっているからだよ。マイクQ(Mike Q)とかリズラ(Rizzla)はニューヨークにいるけど、僕自身LAとニューヨークを行ったり来たりしているから、彼らのこともとても近くに感じているんだ。
■(インタヴュー会場で流れていたキングダムのミックス内の1曲を聴いて)
キングダム:この曲なんだけど、これはガール・ユニット(Girl Unit)の“クラブ・レズ”っていう曲にリズラがヴォーカルとパーカッションを乗せたリミックスなんだ。みんなが気に入ってかけているよ。今後の話をすると、〈ナイト・スラッグス〉と〈フェイド・トゥ・マインド〉ではこれからより多くのコラボレーションを行っていく予定だ。ふたつのレーベル内で様々なコンビネーションが生まれつつあるからね。大体の場合〈ナイト・スラッグス〉のインストゥルメンタル曲に〈フェイド・トゥ・マインド〉がヴォーカルを乗せるパターンが多い。例えばこのリミックスもそうだし、エルヴィス1990とマサクラマーンはいま一緒に音楽制作をしている。今後がとても楽しみだね。
■女性シンガーの重要性に関しての話を他メディアのインタヴューで読んだのですが、やはりレーベルを発展させていく上で女性ヴォーカルは重要な要素だったのですか?
キングダム:そうだね。男性ヴォーカルも好きなんだけど。ただ女性をフィーチャーした革新的な作品が近年はそこまで出てきていなかったように思う。とくにここ5年間くらいは女性シンガーの人気が低迷していたように感じていたし、それはヒットチャートを見れば明らかだった。とくにアーバン・ミュージックの世界では目立った女性シンガーの数が異常に少なかったよね。だからいまその状況を変えるのは重要なことだと思ったし、それは同時に次の5年間では女性のヴォーカルが再び台頭してくることを意味していると思った。だってそう思わないか? 90年代後半にミッシー・エリオットや女性のR&Bグループがあれだけ出てきていたのに、それ以降はめっぽう新しい女性の声を耳にしなくなっただろう?
■ケレラは素晴らしいシンガーですね。
キングダム:彼女は素晴らしいよ。すごくエキサイティングだ。というのも世の中には歌が入っている音楽しか聴かないリスナーがたくさん居るから、レーベルがそういう人たちにもアプローチできるのは本当に良いことで、僕らみんながやりたかったことでもある。それに僕とングズングズとアシュランドも昔からDJでのミキシングやサンプリングの場面において、様々なR&Bのヴォーカルの使い方を実験的に試してきていた。
ケレラは僕らがやっている音楽について昔から知っていた訳ではないんだ。昨年友だちになって僕らのやっている音楽を初めて聴いたんだけど、彼女はとてもスマートだから、僕らがヴォーカルをどう受け止めているのかをすぐに理解した。だから僕らの持っていたコンセプトと、サンプリングやリミックス文化でのヴォーカルの使われ方も考慮に入れながら、彼女はピッチングやハーモニー、そしてメロディーを作った。だからそういう点ではこの音楽はポスト・リミックスR&Bなんだ。
■女性シンガーの話から派生しますが、アルーナジョージやFKAトゥイッグスなどについてはどう思いますか?
キングダム:アルーナジョージはそんなに聴いたことがないな。でも良い評判は聞いてるよ。FKAトゥイッグスは好きだね。高校時代にたくさん聴いていたトリップホップを彷彿させる。それにプロデューサーのアルカ(Arca)も友だちなんだ。人びとが彼女とケレラを同じような括りで見ていることもクールだと思っているよ。新しい実験的なR&Bのカテゴリーとして。もちろん僕は個人的にケレラに深く関わっているから全然違う音楽に聴こえるけれど、多くの人びとが彼女たちをまとめてひとつのムーヴメントとしてとらえているみたいだね。
■ケレラをフィーチャリングした“バンク・ヘッド”も収録されているあなたの最新作「ヴァーティカル・XL」では、以前の作品よりもタムの音が増え(ゴルくなっ)たように感じるのですが、その点は意識していたのでしょうか?
キングダム:タムの音はいままでもあちこちで使ってきたからなぁ。ただ多くの音楽にクラップとスネアが使われすぎているよね。タムはただ単にそれらと違うっていうことじゃないのかな(笑)。クラップを使わずに曲を仕上げるのはすごく難しいし、いい音のスネアを見つけるのもすごく大変だ。そしてタムってのはキックとスネアの中間に位置していて……説明するのが難しいけど、とにかくジュークをたくさん聴いていたからそのクレイジーなタムの使い方には影響されたよ。
取材:斎藤辰也&前田毅(2014年1月15日)