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interview with Kyle Hall

interview with Kyle Hall

デトロイト新時代

──カイル・ホール、来日直前インタヴュー

浅沼優子    Jul 07,2014 UP

僕は「白人みたいな喋り方をする」と言われて、壁を感じた。自分の居場所を探すのに苦労したんだよね。そういうときに人はどうするかというと、自分の好きなことに没頭するようになる。僕の場合は、それが音楽だった。

以前、あなたのアルバム『Boat Party』の日本版CDにライナーノーツを書かせてもらったんですが、あなたがデトロイトの希望であると書いて締めくくったんです。もしかしたら、若さを強調されることも自分では嫌かもしれませんが、その若さで完全にDIYでレーベルをやって、音楽を制作して、しかもジェイ・ダニエルやMガンといった地元の同世代の若い子たちをそこから紹介している。率直に凄いと思いますよ!

KH:たまたま僕の場合は他より少し若いときにはじめたというだけで、やっていることはそれほど珍しいことじゃないんじゃないかなぁ。

その若さで、自分がやりたいことの方向性が定まっていて、しかも実行に移しているというだけで本当に凄いと思います! 自分が16歳の頃なんて音楽のことすら大して知りませんでしたよ。

KH:それはもしかしたら、僕の場合は「何も考えずに適当に生きる」というオプションがなかったからかもしれないな。僕の場合はすべてが目の前で選択を迫ってくるような環境だったから、ぼんやりとしている余裕はなかったというか。僕は姉がいるんだけど、ひとりっ子みたいな育ち方をしたんだ。だから、退屈だったら自分で遊びを考えなければいけなかった。僕は単純に、他のアーティストとプレイしているだけでもいい、という選択肢があることを知らなかった(笑)。何か変化を起こしたければ、自分でやるしかないと思い込んでいたんだ。子供の頃から、「もっとこうなればいいな」と思うことがたくさんあったし、その変化への欲求が原動力になると思っていた。デトロイトは、他の多くの町よりも嫌なところ、過酷なところが目につきやすい町だからね。年上の人と付き合うことが多かったことも影響しているかな。もっと若いときに、リック・ウィルハイトのレコード屋に通っていたことはすでに話したけど、僕の交友関係や情報源になっていたのは、僕の両親くらいの年齢の人が多かった。
 デトロイトでは、自分の社会的・文化的な立ち位置によって、かなりの部分の人格が決まる。例えばどんな喋り方をするか、どうして僕の好むような音楽を好きになったか、ということもだいたい説明がつく。例えばデトロイト市内の人口はほとんどが黒人で、ほとんどの子供は市内の公立学校に行く。でも、公立学校は問題を抱えているところが多い。僕の場合は平均的か、もしかしたら平均よりも恵まれた環境で両親にもちゃんとケアしてもらって育って来た。僕は市内ではなく郊外の学校に入れてもらったから、より広い視野を持てたと思う。エレクトロニック・ミュージックについて知ったのも、郊外の白人学校に通っている友だちからだった。彼らは黒人だったけど、白人ばかりの学校に行っていたんだ。
 だからかなり早い時期から、自分は何者なのか、ということを意識させられ続けていたと思う。まわりは白人の子ばかりで、僕が住んでいたデトロイト市内は「危険なところ」という見方をしていることを知ったり、例えば僕はカトリックの学校に行ったから、市内によくいる、結婚していない両親のあいだに生まれた子は地獄に行くって教えられたり……こういうことが子供にとっては重いプレッシャーになる。だから、郊外の学校から市内の自分の家に戻ると、自分がエイリアンに感じるんだ。逆にまわりの黒人の子供たちがどんなことをやっているかわからなくなるから。
 僕はその後、高校は市内の学校、Detroit School of Artsに進学した。公立だけど良い学校とされている。でも、やはり公立だから、そこに来ている子たちは僕とは違った育ち方をしていたりする。ものの見方も違うし、人との付き合い方も違った。僕は「白人みたいな喋り方をする」と言われて、壁を感じた。自分の居場所を探すのに苦労したんだよね。そういうときに人はどうするかというと、自分の好きなことに没頭するようになる。僕の場合は、それが音楽だった。僕の母はシンガーで、音楽をやっている友だちがたくさんいた。そのなかでもとくに仲が良かったのがDJレイボーンという人で、彼が僕にレコードでのDJの仕方を教えてくれた。それが僕の楽しみになって、音楽を通じて仲間が見つかった。

私個人も似たような体験をしたので良くわかります! 私の経験から言うと、ハイスクールで負け組だった子の方が、その後活躍しますよね!

KH:ははは。そうかもしれない。自分のことに集中出来るからかもね。ハイスクールの頃から恵まれていて、そのまま調子良くいく人もいるけどね! まあ僕の場合はそうではなかった。僕は同年代の子にはそれほど共感できなかったから、上の世代の人たちに音楽のことを教えてもらって、こういう好みになっているんだと思う。

自分に置き換えて考えると、15〜16歳の音楽に興味を持っている子が自分の近くにいたら、喜んで何でも教えてあげちゃうと思うんですよね。やはりリック・ウィルハイトのような年上の人たちからかわいがられたでしょう?

KH:リックは本当にそうだったね。彼は音楽の知識を人に伝えるのが大好きなんだ。単純にレコードの話をするのが好きだしね。そうじゃない人もたくさんいるよ。教えたくない、話さないって人も! まだお前には早いとか、もっと努力しないと得られないものだとか、そういう風な態度の人もね。デトロイトのダンス・ミュージックのシーンは、若者に解放されたものではなかった。どこへ行っても、いつも僕が最年少だった。若い人たちにとって魅力があるものではなかったとも言える。お母さんと同じ年の人たちとつるみたくない、とかね(笑)。
 人気のあるダンス系のミュージシャンは、ヨーロッパにファン基盤があって、地元にはあまりない。地元の若者たちにその魅力を伝える方法すらなかったと言える。世代間の隔たりは大きいと思うね。僕が高校に行っていたときも、「こんなのゲイの音楽だ」とか、「年寄りの音楽だ」、「何だこのゴミみたいな音楽」って言われていたもん。

そんな(笑)! でもいまは、あなたやジェイ・ダニエルが一緒にパーティをやったりしているじゃないですか? 少しは若い子たち、あなたと同世代の子たちも興味を持ちはじめたと思いますか?

KH:うん! いまはまったく状況が変わったと思う。僕自身も、自分がこの世界に足を踏み入れたときよりもずっと楽観的だよ。僕は自分の経験を、なるべく多くの人とシェアしたいと思っているから、僕が「いい」と言えば、僕のことを好きでいてくれる人が興味を持ってくれるんじゃないかと思う。僕がやっていることに興味を持って聴いてくれる若い子もいるし、実際にパーティにも来てくれるよ。
 僕らがMotor City Wineというバーでパーティをやりはじめたときは、年齢制限の問題があった。アメリカで若い子がダンス・ミュージックに興味を持たない理由のひとつが、この年齢制限だと思う。ほとんどの州では21歳以上じゃないとクラブに入れないから。飲酒が21歳からだからね。
 でもいまは、僕がある種前の世代といまの世代の架け橋になっているのかな、と思う。年上の人たちに聞いてもたぶん若い子のシーンは知らないと思うけど(笑)、確実に出来てきていると思うよ。だから、僕は希望を持っている。音楽を作っている子がたくさんいるし、これから大きくなってくると思う。僕より若い子もいっぱいるし、もともとこういう音楽に興味があってデトロイトに移り住んで来ている若い子もいる。

素晴らしい! それは嬉しいですね。このインタヴューがあなたのDJツアーの宣伝になるかは疑問ですが(笑)、インタヴューとしてはとてもいい内容になったと思います。ありがとうございます。

KH:DJの宣伝のためのインタヴューなんて、意味がないよ! 僕は逆にこういう話が出来て良かったと思っている。ありがとう!

あなたのDJを楽しむに当たって日本のお客さんには、先入観なしに、自然な反応を素直に出してくれたらいいですね。

KH:そうだね、そうしてもらえるのがいちばんありがたい。

最後に何か今後のプロジェクトなどの告知はありますか?

KH:あまり先に情報は出さない主義だけど……近々、〈Wild Oats〉から、必ずしもデトロイト出身ではない若いアーティストを紹介していくので、注目していて下さい。いい音楽を用意していますから!



■KYLE HALL Asia Tour

2014年7月11日(金)
22:00〜
@代官山AIR

料金:3500円(フライヤー持参)、3000円(AIRメンバーズ)、2500円(23歳以下)、2000円(23時まで)

出演:
【MAIN】Kyle Hall(Wild Oats/from Detroit)、DJ Nobu(FUTURE TERROR/Bitta)、sauce81 ­Live­, You Forgot(Ugly.)
【LOUNGE】ya’man(THE OATH/Neon Lights)、Naoki Shinohara(Soul People)、Ryokei(How High?)、Hisacid(Tokyo Wasted)
【NoMad】O.O.C a.k.a Naoki Nishida(Jazzy Sport/O.O.C)、T.Seki(Sounds of Blackness)、Oibon(Champ)、mo2(smile village)、Masato Nakajima(Champ)

取材:浅沼優子(2014年7月07日)

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Profile

浅沼優子浅沼優子/Yuko Asanuma
フリーランス音楽ライター/通訳/翻訳家。複数の雑誌、ウェブサイトに執筆している他、歌詞の対訳や書籍の翻訳や映像作品の字幕制作なども手がける。ポリシーは「徹底現場主義」。現場で鍛えた耳と足腰には自信アリ。ディープでグルーヴィーな音楽はだいたい好き。2009年8月に東京からベルリンに拠点を移し、アーティストのマネージメントやブッキングも行っている。

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