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interview with Oh Shu

interview with Oh Shu

“Roots”よりも“Routes”

──王舟、インタヴュー

磯部 涼    Sep 02,2014 UP

王舟 - Wang
felicity

Indie Rock

Tower HMV Amazon iTunes

 7月17日、夜10時。渋谷・スペイン坂の上にあるライヴ・ハウス〈WWW〉は親密な空気で満たされていた。その日の主役はファースト・アルバム『Wang』をリリースしたばかりの王舟で、彼はオーディエンスの拍手によって2回めのアンコールに引っぱり出されてきたところだ。グレーのポロ・シャツにブラウンのパンツという、普段、酒場で出会すときとまったく同じ格好をして、寝癖がついたままの頭を照れくさそうに掻きながら現れた王舟に、PA卓の後ろで観ていたceroの髙城晶平、Alfred Beach Sandalの北里彰久といった友人のミュージシャンや、ステージにいるホライズン山下宅配便/片想いの伴瀬朝彦、GELLERSのシャンソンシゲルといったサポート・メンバーから冷やかしの声が飛ぶ。それをフロアの壁に寄りかかったトクマルシューゴが楽しそうに見つめている。

 そう、これまでディスコグラフィには2010年に制作した『賛成』と『THAILAND』という2枚のCD-Rしか載っていなかった、世間的には無名だと言っていいだろうこのシンガー・ソングライターは、いま注目を集めつつある東京の新しいインディ・ミュージックにおいて、愛すべき人柄と、何より素晴らしい楽曲でもって欠かせない人物だと認識されているのだ。そして、王舟が簡単な感謝の言葉を述べてから歌いはじめたのが、オープニング・アクトを務めたHara Kazutoshiの「楽しい暮らし」だったのは、彼の哲学を反映していたように思う。たしかに、記念すべきデビュー・アルバムのリリース・ライヴの締めに選んだのがひとの曲で、しかも、最後はHaraにヴォーカルを取らせ、会場も当然のように盛り上がっていたのは奇妙な光景かもしれない。ただ、それぐらい、「楽しい暮らし」は王舟と仲間たちにとってアンセムになっているのだし、王舟は音楽を通して自己を表現するよりも、音楽を通して他者と繋がり、音楽を通して新たな空間をつくりあげることを第一義としているのだ。王舟が歌うとき、そこは、他でもない、音楽の鳴る/生る/成る場所になる。

 アルバム『Wang』の最後を飾る大らかな名曲“Thailand”で、「タイに帰るの」とうれしそうに話す彼女に対して、主人公は困惑しながら呟く。「Where is Thailand?」。この“Thailand”は、つまり、異世界の象徴である。あるいは、それは“音楽のなる場所”のことなのかもしれない。だから、王舟にも訊くことにしよう。――「Where is Thailand?」と。

■王舟(おうしゅう)
2010年に自主制作CD-R『賛成』『Thailand』をリリース。以降、東京を中心にソロ、デュオ、バンド編成など、さまざまな形態でライヴ活動を行う。今年7月に、待たれていたファースト・アルバム『Wang』をリリースした。


自分も含めて関わってくれたひとは他の仕事をしていたりするんで。それもあって、アルバムを“創る”って感じじゃないんですよ。ゼロから何かを生み出すというよりは、日常の用事のひとつみたいな感じで。

■デビュー・アルバムがこうしてプレスされて、いまは「ようやく終わった」という感じ? それとも、「ようやくはじまる」という感じ?

王舟:どうっすかねぇ……。でも、“終わった”って感じはしないな。頭では終わったってわかってるんですけど、身体はとくに反応がなくて。それだけ、時間が長くかかっちゃったから。

■レコーディングが日常になって、身体がその生活に慣れてしまったということ?

王舟:レコーディング自体は2012年の9月には終わってたんですけど、なかなか満足のいくミックスができなくて、そこからさらに時間がかかってしまったので、レコーディングが日常になったというよりは、アルバムについて考えるのが日常になっていたという感じですね。だから、取材を受けているいまもあまり変わらないという。

■“アルバムについて考える”といっても、壮大なコンセプトを掲げたような作品ではないよね。

王舟:そうですね。考えていたというのは、単純に作業のスケジュールを組んだりだとか。自分も含めて関わってくれたひとは他の仕事をしていたりするんで。それもあって、アルバムを“創る”って感じじゃないんですよ。ゼロから何かを生み出すというよりは、日常の用事のひとつみたいな感じで。でも、それがあったからこそ、毎日、張り合いがあった。もちろん、最終的には答えを出さなければいけないことなので、プレッシャーもなくはなかったんですが。

■なるほど。ところで、アルバムを聴いてまず思ったのは、CD-R『賛成』『THAILAND』(鳥獣虫魚、2010年)の楽曲も再演しているけど、雰囲気ががらっと変わったなと。

王舟:『賛成』はほとんどひとりでつくっていて、そうするとああいう雰囲気になるんですよ。でも、ひとりでやるのはいつでもできるので、今回は同じ楽曲を使って、ひとといっしょにつくるとどうなるんだろうかっていうのが最初に考えていたことでした。

■『賛成』につづく『THAILAND』にはmmmやoono yuukiをはじめとして何人かのミュージシャンが参加していたよね。その延長線上で、『Wang』にはさらに多くのひとが関わっているわけだけど、それは、私的なものよりは、なんというか、ガヤガヤしたものをつくりたいという思いがあったということかな?

王舟:そうですね。あんまり濃い感じじゃないほうがいいというか、個性があるっていう感じじゃないほうがよかった。

■『賛成』と『THAILAND』には凛とした空気を感じて、単行本『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト、2011年)の後書きに「東京のボン・イヴェールとでも言いたくなるような美しいCD-R」って書いたんだ。

王舟:そのあと、〈Roji〉で磯部さんに会ったとき「ボン・イヴェールって誰ですか?」って訊いたら「王舟は知らなくていいんだよ」って言われた(笑)。


サポートをお願いしたひとたちも仕事があるのでそこまで練習に入れるわけではなくて。それだったら、オレの楽曲を使ってセッションをするっていうジャズ・バンドみたいな形式でやるのがいいなと思ったんです。

■ははは。酔っぱらってたのかな。失礼しました。でも、インディ・ロックをマニアックに聴き込んでいるというよりは、もっと大らかなタイプのミュージシャンなんだろうなと思ったんだよ。実際、『Wang』はラグタイムだったりカントリーだったりフォークだったり、オールド・タイミーなアレンジで仲間たちとセッションを楽しんでいるようなリラックスしたアルバムに仕上がっている。そういう方向性に関しては意図的?

王舟:『賛成』と『THAILAND』を出したあたりからライヴをよくやるようになったんですけど、サポートをお願いしたひとたちも仕事があるのでそこまで練習に入れるわけではなくて。それだったら、オレの楽曲を使ってセッションをするっていうジャズ・バンドみたいな形式でやるのがいいなと思ったんです。だから、もともとは時間だったりお金だったり、制約がある中で、「だったらこうやろう」という感じでできたスタイルで。

■でも、その制約の中でやるのがおもしろくなったと。

王舟:オレにとって、音楽って遊びなんですよ。もちろん、演奏しているうちに熱くなってくることもあるんですけど、基本的には楽しいからやってる。

■だから、キャンプテン・ビーフハートやジェームス・ブラウンのようにメンバーの生活を犠牲にして、王舟の頭の中で鳴っているサウンドを再現するみたいなやり方ではないってことでしょう?

王舟:それも憧れますけどね(笑)。でも、そういうことがやれる環境にはいないし、そもそも、そういう人間ではないのかもしれない。


取材:磯部涼(2014年9月02日)

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Profile

磯部 涼磯部 涼/Ryo Isobe
1978年、千葉県生まれ。音楽ライター。90年代後半から執筆活動を開始。04年には日本のアンダーグラウンドな音楽/カルチャーについての原稿をまとめた単行本『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』を太田出版より刊行。

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