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interview with Oh Shu

interview with Oh Shu

“Roots”よりも“Routes”

──王舟、インタヴュー

磯部 涼    Sep 02,2014 UP

そもそも、音楽がすごく大事なものとして扱われるのがあまり好きじゃないんですよ。スタンダードってそういうところがないじゃないですか。


王舟 - Wang
felicity

Indie Rock

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達彦としては、ここまで主張のないアーティストを売り出すことを難しいと思わない?

仲原:曲はわかりやすいじゃないですか。聴いてさえくれれば理解してもらえるはずなので、そこまで難しいとは思っていないですね。だから、ジャケットに関しては王舟のそういう性格を上手く生かすというか……「何だろう、このCD?」って手に取ってくれるようなものにしようと。僕自身、『賛成』を初めて聴いたとき、どんなひとなのか前情報が何もない状態で再生して「いいな」と感じたので、これから王舟を知るひとにもできるだけそういう状態で触れてほしいんです。

ひとつ思うのは、本当に衒いがないというか、オーセンティックでスターンダードなひとなんだなということだよね。最近のライヴで“500マイルズ”と“アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ”をカヴァーしてるでしょう? いま、あの2曲を普通に歌えるひとはなかなかいないよ。

王舟:いろいろな音楽を聴くんですけど、サイケでもレア・グルーヴでも、結局、それぞれのジャンルでいちばん有名なひとが好きなんですよ(笑)。だから、ジュディ・シルを知ったときは「こんなにスタンダードなことをやっているひとがなんでこんなに知られてないんだ?」って驚きましたね。

まぁ、ジュディ・シルも音楽好きにはよく知られているわけだけど、「こんなにスタンダードなことをやっているひとがなんでこんなに知られてないんだ?」というのは、王舟自身がまさにそうだよね。そういえば、アルバムの1曲め“tatebue”の歌い出しが“バッド・バッド・ウィスキー”に似ているんだよね。あの曲は『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)の挿入歌でもあるから、王舟が酔っぱらってる姿を思い出して笑っちゃうんだけど(笑)。

王舟:その曲と似ているのはいま言われて気づいたんですけど、オレもそういう酒場の音楽が好きっていうか、そもそも、音楽がすごく大事なものとして扱われるのがあまり好きじゃないんですよ。スタンダードってそういうところがないじゃないですか。

昔、「音楽のいちばん美しい消費のされ方はBGMである」というコラムを書いたことがあるけどね。

王舟:まさに。そういう方が美しいですよね。

王舟にとっての理想の音楽は、陶酔するようなものではなく、むしろ、聞き流せるようなものだということかな。

王舟:みんながガヤガヤしているところで何か曲が流れている。ふと、「これって何て曲なんだろう」って耳を澄まして聴いてみたらすごくいい曲だった。そんなときって感動するじゃないですか。

そこにいる誰もが音楽を聞き流しているようで、じつはその音楽が空間に作用していたことがわかる瞬間というかね。

王舟:いまって、何の音楽を好きかによって派閥になっているようなところがありますよね。オレはそういう、ひとの価値観を限定する音楽よりも、むしろ、価値観が凝り固まって疲れたときにラクにさせてくれるような音楽の方がいい。もちろん、何かにハマるのは楽しいことだけど、音楽にハマることが他人との壁をつくるように機能してしまったら残念じゃないですか。


オレはそういう、ひとの価値観を限定する音楽よりも、むしろ、価値観が凝り固まって疲れたときにラクにさせてくれるような音楽の方がいい。もちろん、何かにハマるのは楽しいことだけど、音楽にハマることが他人との壁をつくるように機能してしまったら残念じゃないですか。

ただ、“BGM”や“ラクにさせてくれるような音楽”といっても、『Wang』はエレベーター・ミュージックやヒーリング・ミュージックみたいな無味無臭なものとも違う。どこか人懐っこいところがあるのは、職人的な作業としてではなく、仲間と遊びながらつくっているからだと思うんだけど。

王舟:ああ、そうかもしれませんね。

ちなみに、先程、英詞が多いのは「日本語だと滑らかさが減る」からだと解説してくれたけど、内容自体も淡いイメージというか、まぁ、言ってみればたわいないラヴ・ソングが多いよね。

王舟:そうですね。たわいない感じがむしろいいんじゃないかと思うんですよね。Hara Kazutoshiさんの歌なんかも簡単な言葉しか使ってないけどぐっとくる。だから、歌詞にしてもコードにしてもできるだけシンプルなものを使うっていう制約の中でやりたいと思ってます。印象に残る言葉みたいなものは要らないんじゃないかな。ありきたりな言葉を、ありきたりじゃない響きで聴かせられたらいいなと。


音楽に影響を与えているとしたら、「どこがルーツか」ということよりも、「どういうひとと接してきたか」ということがデカいんじゃないかな。

言葉と言えば、王舟は上海生まれだよね。このアルバムも『Wang』という君の名字をタイトルにしているわけだけど、“王”は中国でいちばん多い名字でもある。つまり、私的にも、抽象的にも取れる。そこで訊きたいのが、「自分のルーツが自分の音楽に影響を及ぼしていると思うか」ということ。

王舟:『Wang』ってタイトルもタッツが付けたんですよね。オレ自身はルーツに関してとくに意識はしていないです。大事にしようと考えているわけでもなくて、かと言ってぞんざいに扱っているわけでもない。でも、音楽に影響を与えているとしたら、「どこがルーツか」ということよりも、「どういうひとと接してきたか」ということがデカいんじゃないかな。美意識みたいなものは生まれつき持っているわけではなくて、積み重ねでできあがるものだと思うから。

ああ、なるほどね。自分で選べない“Roots”よりも、自分で選び取ってきた“Routes”の方にリアリティを感じるというのは、当然と言えば当然の話だよね。

王舟:それも意識してないんですけどね。たとえば、「この音楽、いいな」と思うのって無意識じゃないですか。そして、その経験が積み重ねられていくことによって、「ああ、おれはこういう音楽が好きなんだ」って意識する。音楽をつくるときも、曲の書き方だったり、音の出し方だったりは無意識だと思うんですよね。いまはそれを意識的に説明してますけど。

そういえば、松永良平さんのインタヴューで「ちっちゃいころに上海でニューオリンズ・ジャズを結構聞いてたんですよ。でも、そのころの記憶って、一回日本に来てから、完全に途切れて忘れてた。それを、NRQを聴いたときに思い出したんです」と語っていたけど、NRQって疑似的なルーツを鳴らすバンドなわけで、それを聴いて自分のルーツを思い出すというのはおもしろい話だなと思ったんだよね。王舟の音楽自体、スタンダードだったり、ノスタルジックだったりするものの、それって擬似的な標準だったり記憶だったりするんじゃないか。

王舟:ニューオリンズ・ジャズを聴くと「懐かしい」と思うんですけど、ニューオリンズなんて行ったことないですからね(笑)。それってよく考えるとすごい。

それは、ジャズを通して子どもの頃にいた上海を懐かしんでいるだけではなく、音楽そのものからノスタルジーを感じ取っているということだよね。

王舟:そういうふうに、音楽が感じさせてくれるものって、演奏者の自己だけじゃなくて、見たこともないどこかの風景だったりするからこそおもしろいと思うんですよね。

王舟の音楽に“ルーツ”があるとしたら、それは参加している友人たちとの関係なのかなという気はする。

王舟:そうかもしれませんね。でも、聴いているひとは気づかなくてもいいかな。


自分の生まれ育ちが自分の音楽に影響を与えているとしたら、それこそ、“個性を出す”という欲求がないところなのかもしれないです。だって、オレが子どもの頃に日本に来たとき、まず思ったのは、「普通になりたい!」ってことだったんですもん。

しかし、自分自身に興味がないところは徹底してるよね。

王舟:ああ……話していて思ったんですけど、自分の生まれ育ちが自分の音楽に影響を与えているとしたら、それこそ、“個性を出す”という欲求がないところなのかもしれないです。だって、オレが子どもの頃に日本に来たとき、まず思ったのは、「普通になりたい!」ってことだったんですもん。わざわざ個性を出そうとしなくても、まわりから個性的だと思われちゃうから。それと「普通のアルバムをつくりたい」と思ったことは繋がっているのかもしれない。

さっき、「王舟にとっての理想の音楽は、陶酔するようなものではなく、むしろ、聞き流せるようなもの」と言ったけど、むしろ、君は、音楽が陶酔によって自己から解放してくれるところに魅力を感じているのかもしれないね。

王舟:それはあるかもしれないです。たとえばニューオリンズ・ジャズの歴史を調べていたら、もともとは日曜の公園にバラバラの土地からいろいろなひとが集まっていっしょに演奏するところからはじまったっていう。そういう音楽のあり方には憧れますね。

演奏の中で自己から解放されてひとつになっていくという。ただ、王舟の音楽は、ニューオリンズ・ジャズをそのまま模倣しているわけではなくて、“王舟の音楽”としか言いようがない独特のものになっているわけだけど、あたかも昔から存在しているもののように自然に聴けるっていうのが『Wang』のおもしろいところだね。

王舟:みんなで集まって音楽をやるという行為から、ジャズという名前を取ったとしても、楽しさは残っているじゃないですか。それを言い表す言葉はないけど、まさに“そういう音楽”がやりたいんですよね。


取材:磯部涼(2014年9月02日)

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Profile

磯部 涼磯部 涼/Ryo Isobe
1978年、千葉県生まれ。音楽ライター。90年代後半から執筆活動を開始。04年には日本のアンダーグラウンドな音楽/カルチャーについての原稿をまとめた単行本『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』を太田出版より刊行。

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