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interview with Charles Cohen

interview with Charles Cohen

幻のシンセと孤高の電子音楽家

──チャールズ・コーエン、インタヴュー

浅沼優子    Sep 03,2014 UP

実は、シンセサイザーを生演奏しているのを初めて見たのはサン・ラーのコンサートでした。それまでスタジオ機材としか考えていなかったので、彼が最初のきっかけとも言えますね。セシル・テイラーは、彼のワークショップに参加したこともあり、非常に影響を受けた人です。

あなたはずっとフィラデルフィアを拠点にされているんですか?

CC:そうです。

フィラデルフィアにはそのような実験的、あるいは冒険的な音楽のシーンが常にあったのでしょうか?

CC:拡大と収縮を繰り返していますね、一定の周期で。大学院でニューヨークに行っていたこともあったんですが、中退することにして、同じ頃にフィラデルフィアの劇場でサウンド・デザインの仕事を紹介してもらったので、戻って働きはじめました。新しい劇場で、スタジオには4トラック・レコーダーがあったので、それで色々と実験をしはじめたわけです。

それ以降はフルタイムの音楽家として活動されてきたんですか?それとも「本業」のお仕事は続けていらした?

CC:ええ、サウンド・デザインの仕事はずっとやっています。その後はテンプル大学でずっとやっていました。素晴らしい仕事でしたよ。

あなたの音楽に対するアプローチで非常に興味深いところは、作曲や録音をほとんどせず、即興パフォーマンスに完全にフォーカスしていらっしゃるところです。録音をされていた時期もあったようですが、どうしてそういう活動方針になったのですか?

CC:実は録音もしてきたんですよ、仕事としては。ダンスや演劇のための音楽は録音していました。でも、自分の作品としてリリースするということに関しては……私にはたくさんのミュージシャン友だちがいますが、その多くがレコードを作っても売れませんでしたし、聴く人がいなかった。「チャールズ、頼むから僕のレコードをもらってくれ」なんて言われたりしてね。それでは何だか悲しいので、出したいと思わなかったんです。
 でも、いまは状況が違います。私がかつて録音した音楽も聴いてもらえているようですし、新たに作曲をして作品にしてもいいかなと考えるようになりました。

それは大変興味深いお答えですね。一般的には、今の時代は録音作品を作っても売れなくなってきたので、音楽ビジネスはよりライヴ・パフォーマンスにシフトしてきていると言われています。

CC:それも事実のようですね。私自身、パフォーマンスを重視してきましたから、それがもっとも満足を得られる音楽活動だと思っています。優れた録音作品を完成させるには、根気を必要とします。楽曲が出来上がってから、それを完成形に仕上げるまでの作業や編集に多くの時間を要するからです。私はとても怠け者で短気なので、それが出来なかったんです。でも、現代のデジタル技術を使えば、プロダクション行程に時間を取られすぎることなく、即興演奏を作品化することが可能になったと思うので、やっとそれをやる気になってきたんですよ。マルチ・トラックのテープに録音していた時代には、ポスト・プロダクションは非常に骨の折れる行程でした。今はそうではなくなったので、だいぶ(録音に対する)態度を改めました。
 それに、アーカイヴ音源(〈Morphine Records〉から発売された『The Middle Distance』、『Group Motion』、『Music For Dance and Theater』、『A Retrospective』)の成功のお陰で、作品を出しても無視されることなく、誰かに買ってもらえるんじゃないかと思うようになりました(笑)。ですから、いまは前向きな気持ちです。

なるほど。それと関連して伺いたいと思っていたのが、音楽とテクノロジーについてのあなたのお考えです。一方であなたはとても古風なシンセサイザーをずっと演奏し続けてきていらっしゃるわけですが、その一方で音楽制作の技術は凄いスピードで進化してきています。新しいシンセサイザーもたくさん作られましたし、いまはソフトウエアでも無限の音が作れるようになった。

CC:そうですね。本当に驚くべきテクノロジーが存在しています。

録音に際してはそういう技術も使っていらっしゃいますか?

CC:デジタル・エフェクトは使います。私はアナログ信奉者というわけではないので、アナログだけとか、デジタルだけとか、こだわるつもりは全くありません。私は、自分が実践する上で最適だと思う技術を使うようにしています。アナログの楽器を使い続けているのは、私にとって使い心地が良く満足のいく結果が出せるからで、それを変える必要性を感じないからです。これまで培ってきたテクニックとアイディアがあれば、やりたいことは全て出来るのです。もし限界を感じるようなことがあれば、他のものに変えようという日が来るかもしれませんが、今のところは間に合っています。(操作に対する)反応が良く、シンプルなところ、選択肢が限られているところがいいんです。現代の楽器の問題点は、選択肢が多過ぎるところ。何を選べばいいのか分からなくなってしまう。
 Music Easelには23個のノブしかありません。4~5つの基本構成要素と、オシレーターもひとつしかありません。そう聞くと、何もできないように感じますが、各パラーメーターでコントロール出来る範囲はとても大きい。私は、その方が自分の表現力が発揮出来ます。

取材:浅沼優子(2014年9月03日)

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Profile

浅沼優子浅沼優子/Yuko Asanuma
フリーランス音楽ライター/通訳/翻訳家。複数の雑誌、ウェブサイトに執筆している他、歌詞の対訳や書籍の翻訳や映像作品の字幕制作なども手がける。ポリシーは「徹底現場主義」。現場で鍛えた耳と足腰には自信アリ。ディープでグルーヴィーな音楽はだいたい好き。2009年8月に東京からベルリンに拠点を移し、アーティストのマネージメントやブッキングも行っている。

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