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『シンプル・ソングズ』の周縁〜完全読本こぼれ話

interview with Jim O'Rourke

interview with Jim O'Rourke

なにかが正しくない
『シンプル・ソングズ』の周縁〜完全読本こぼれ話

──ジム・オルーク、インタヴュー

松村正人    May 21,2015 UP

若い頃は意図的に録音する場所を選んでいたんですが、いまはそうしないことにしています。いまは時間がないこともありますが、偶然にいい音を発見したときに録ります。

■フィールド・レコーディングはどうです? 私は『別冊ele-king』の作業中、『USE』をよく聴いていましたよ。デザイナーの佐々木暁さんに音源をもらったんですね。

JO:ホントに! あれは聴くものじゃないよ。「どうぞ、使ってください」という意味で、だから「Use」なんです(笑)。

■(笑)流しているといいですけどね。

JO:私、聴いたことない(笑)。

Pヴァイン安藤氏:『Use』ってDATで出した作品ですよね?

■そうそう。DATの長時間録音機能を使った4時間ちかい作品。

JO:私はもってない(笑)。『Use』はあれを出した〈Soleilmoon Recordings〉のひとがそういった作品をやりたかったんですね。それで「どうぞ、どうぞ」って。音源自体は『Scend』(1992年)で使ったものの残りですね。それをどんどんくっつけて、「はい、終わり」といって渡した。

■『Scend』のマテリアルということですか?

JO:はい。

■エディットしたのはジムさんですよね?

JO:編集というほどのものじゃない。

■適当?

JO:はい(と声高らかに)。編集しなかった。あのときはポータブルのDATプレイヤーでいろんなところで録音していましたから、音源はいくらでもあったんです。

■当時フィールド・レコーディングにハマッていたんですか?

JO:いまもやっていますよ。

■どういうときにやるんですか?

JO:若い頃は意図的に録音する場所を選んでいたんですが、いまはそうしないことにしています。時間がないこともありますが、偶然にいい音を発見したときに録ります。若い頃は、そういった作品をつくりたくて、たとえば工場などですね、そういったところにわざわざ出かけていきました。いまは聴いたことのないような音を偶然見つけたときにレコーダーをまわします。

■DATはまだおもちですか?

JO:もっていますけど、でもDATはほんとうにダメだね。音が悪い。とくにA-DAT。あれはヒドい。音よくないよ。レッド・クレイオラのレコーディングは全部A-DATだったんですよ。メイヨ(・トンプソン)さんはA-DATで作業するから。まだS-VHSのテープを使っているかはわからないけど。私が最初に参加したレッド・クレイオラの『ザ・レッド・クレイオラ』(1994年)はアルビニさんのスタジオで録りましたけど、『ヘイゼル』(96年)も『フィンガーペインティング』(99年)もA-DATだったね。

■メイヨさんは音にこだわりがない?

JO:わけではないですけど、普通の意味でのいい音にこだわりがないということでしょう。彼にはほしい音色がわかっているんですけど、それはかならずしも正しい録音ではないということですね。

■ジムさんはいっしょにやったとき、メイヨさんに「こういう音がほしい」といわれました?

JO:私はアルバムの何曲かをミックスしているんですが、私のミックスはあまり好きじゃなかったので、別の音源を使ったんですね。それで私がミックスした『フィンガーペインティング』を10年後に偶然聴いて気に入ったので『フィンガーポインティング』(2008年)として出し直した。でも逆に私があのミックスはメイヨさんの好きそうなミックスを試してみたものなので、ちょっと気に入らないところがあるんですね。

■ジムさんがいま聴いて気に入らないものはほかにもありますか?

JO:いっぱいあるよ(笑)。

■たとえばウイルコなんかは出世作だといわれていますよね。

JO:ウイルコは大丈夫。でも私は『ヤンキー・ホテル・ホックストロット』(2002年)より次の『ア・ゴースト・イズ・ボーン』(2004年)のほうが好き。『ヤンキー~』は途中から参加した作品ですが、『ゴースト』は最初から最後までかかわったレコードでしたから。

NYはなんというか……水が合わなかった(苦笑)。60年代か70年代だったらよかったんだけど、90年代はもうまったくちがっていました。ビジネスのディズニーランドになってしまった。いまはわからないけど。

■話は戻りますが、ミニマル・ミュージックにはジムさんは多大な影響を受けていますよね?

JO:大学のころ、そういった音楽は勉強しましたが……いちばん影響を受けたのは高校生のころですね。グラス、ライヒ、ウィム・メルテン、マイケル・ナイマンも好きだった。当時はフィリップ・グラスの“Strung Out”のような、作者の考えが見える、聞こえる作品が好きでした。2+3+1+2+……のような構造ですね。私もじっさいそういった作品をつくって、カセットもありますけど、ちょっと恥ずかしいだね(笑)。

■出したらいいじゃないですか?

JO:なんで(笑)!?

■デジタル・リリースすればいいじゃないですか(笑)?

JO:イヤですよ。

■演奏はジムさんがやっているんですか?

JO:私と、私ができない楽器は別のひとに頼みました。大学のときに、私はフィル・ニブロックはじめ、ヨーロッパのミニマル・ミュージックに傾倒していきました。なかでもマイケル・ナイマンは大好きだった。

■マイケル・ナイマンは後に映画音楽で有名になりましたよね。

JO:あとのことはわかりません。私は『ピアノ・レッスン』(1992年)も知らない。『プロスペローの本』(1991年)までですね。さいきんまた追いかけるようになって、聴いていなかったCDを買いました。ギャヴィン・ブライアーズも同じ。84、85年まではリアルタイムでレコードを買っていましたが、次第に買わなくなったので聴き直したいと思ってナイマンのレコードを探したんですけど、びっくりしました。彼はこの25年でいっぱいレコードを出したんだね。でも私はむかしのほうが好きです。彼も後年“コンポーザー”になってしまった。グラス、ライヒ、ブライヤーズ、アダムズは過去25年間の作品は私はほとんど知りません。そのなかではグラスやライヒは25年前の時点ですでに私の興味を引くようなものではなくなってしまっていた。(ライヒが)『The Desert Music』を出したとき(1985年)、私はそれを買って、そういった音楽が好きな友だちと喜び勇んでいっしょに聴いたんですが、レコードが終わるころには無言になった(笑)。そのあとは『Different Trains』(1989年)ですから。もういい、と(と両手を振る仕草をする)。もちろん尊敬はしていますよ、ただ興味がないだけで。グラスは83年の『The Photographer』までですね。『Songs From Liquid Days』(86年)でやめました。

■リアルタイムで聴いてそう思ったんですね。

JO:そうです。『Music In Twelve Parts』(74年)や『Einstein On The Beach』のもともとのヴァージョンは好きですよ。新録はよくないけどね。むかしのファーフィサオルガンには重さがあるんだね。

■ヴィンテージとシミュレーションだとちがうでしょうね。

JO:彼らの音楽から重さが消えたらプラスチックみたいになってしまう。たぶん年をとると気になるポイントが変わるんですね。重要なのは、彼らは若いころ、演奏まで自分たちで行っていたんですね。それが“コンポーザー”になると役割は紙の上で終わり、演奏は知らないひとがやるわけです。ワーグナーの時代では作曲家はもともとそういった性格のものだった。彼らは自分たちのグループのために作曲することのできた時代のコンポーザーなんですね。その典型がグレン・ブランカで、彼の委嘱作品は自作自演には劣りますよ。音楽が手段に戻っている感じがあるんですね。これは非難ではありませんよ、作品が変わってしまうんです。

■ジムさんはそこに参加したくなかった、と。

JO:そうそう。

■ミニマル・ミュージックと厳密に定義できないかもしれませんが、シャルルマーニュ・パレスタインはどう思われますか?

JO:彼は音を使ってはいますが、作曲家というよりアーティストですね。人生そのものが彼の作品だと思います。

■アーティストで音楽をやるひと、たとえばマイク・ケリーさんのようなひとたちはどう思いますか?

JO:ジェネレーションの問題があるんですね。尊敬していますが、ほんとうの意味で心底つながった感覚を得ることはなかなかむつかしい。彼らの前の世代に私は強く惹かれて、そのあとの世代も理解できるんですが、マイク・ケリーさんの世代、トニー・アウスラーさんもそうですね、すごく尊敬しますが、入口をいまにいたるまで見つけられないんです。ふたりともトニー・コンラッドの生徒なんですけどね。

■ジムさんもそうですよね。

JO:そう(笑)。(いうなれば)兄弟子なんですよ。その葛藤がたぶん……ある。つまり尊敬の対象であっても興味のそれではないということなすね。たとえばリチャード・プリンスはわかるけど、興味を惹かないのと同じで。

■『Sonic Nurse』のときはジムさんはソニック・ユースにまだいましたよね?

JO:いちばんがんばったアルバムです(笑)。

■あのカヴァー・アートはリチャード・プリンスでしたね。

JO:あれを決めたのはキム(・ゴードン)さんですね。彼らはむかしからの友だちで、私も会いましたけどいいひとでしたよ。

■ジムさんは、NYだとジョン・ゾーンについては言及するけど、ほかのミュージシャンについてあまり話しませんね。

JO:関係ないんですね。

■そこには興味がない?

JO:いやいや、ジョンさんがなにをやっているかはいつも興味をもっていて、つねに聴きたいですよ。ただルーツではないという意味です。

■アラン・リクトやマザケイン・コナーズは似たようなルーツをもっているということですか?

JO:アランさんはむかしからの友だちですね。NYはなんというか……水が合わなかった(苦笑)。60年代か70年代だったらよかったんだけど、90年代はもうまったくちがっていました。ビジネスのディズニーランドになってしまった。いまはわからないけど。でもあの時代は、前のインタヴューでもいいましたけど、私はNYの部屋にほとんど住んでいなかった。ツアーに出ているか、そうでないときはプロデュースの仕事で別の街にいました。

『シンプル・ソングズ』でも、ピアノとベースがちがうリズムを刻み、建築物のように組み上げる。ポップ・ソングはリズムの拍子はヴァーティカルにみれば一致しますよね。私はそれを楽器ごとに別々に動かして、最後に全部合うようにするんです。

■話は戻りますが、ミニマル・ミュージックの影響はジムさんのなかにまだ残っていますか?

JO:あるでしょう。表面的なものではなくて、作曲における構造上の影響ですね。音を垂直的に考えない。それはミニマルやチャールズ・アイヴズのような作曲家からの影響ですね。

■ポップ・ソングを書くときもそうですか?

JO:ええ。『シンプル・ソングズ』でも、ピアノとベースがちがうリズムを刻み、建築物のように組み上げる。ポップ・ソングはリズムの拍子はヴァーティカルにみれば一致しますよね。私はそれを楽器ごとに別々に動かして、最後に全部合うようにするんです。それが目立たないようにも工夫しますけど。目立っちゃうとフュージョンになっちゃうから(笑)。

■それはあからさまなポリリズムということですか?

JO:ポリリズムはすごく大事です。だけどいかにもなポリリズムな感じはほしくない。むしろ「なにかが正しくない」といった感じになってほしいんです。不安な、どこに坐ったらいいのかわからない感じですね。それが目立つとテーマになってしまいますから。あえて目立たせることもありますけど、それは冗談みたいなものというか、プログレやフュージョンが好きなことにたいする罪の意識かもしれない(笑)。

■たとえばキング・クリムゾンの“Fracture”にも途中ポリリズムのパートがありますよね。ああいったわかりやすい感じはあまり好きじゃない?

JO:“Fracture”は難しくないよ。それよりUKですよ。UKは仕方ない、私、UK大好きですから。聴くのは楽しいけど、でもちょっと恥ずかしいかもね(笑)。

■ジェネシスとキング・クリムゾンの大きなちがいはなんですか?

JO:キング・クリムゾンにはナゾがあまりないですね。聴くとわかってしまって、聴き直す気があまりおこらない。ライヴ音源には失敗があるから味があっていいんですが。

■ロバート・フリップは失敗がいいとは思っていないはずですよ。

JO:ちょっと潔癖症なんだね。これも非難ではありませんよ。興味の問題であってね。

音楽史において、もっともレコードを売ったバンドはビートルズ、ローリング・ストーンズ、そしてラッシュです。

■シカゴ時代まわりにいたひと、たとえばトータスのメンバーにキング・クリムゾンが好きなひとはいなかったですか?

JO:バンディ(・K・ブラウン)さんは好きだったかもしれません。私はそうじゃないけど、インディ・ロックのひとたちにとってプログレはクールじゃないんだね。「ウェザー・リポートっぽい」と褒めたつもりでいったらすごくイヤな顔をされた憶えがありますよ。

■『別冊ele-king』のインタヴューではシカゴに住んでいた当時、プログレ・フレイバーの音楽が流行っていたとおしゃっていましたね。当時ジムさんのまわりでもラッシュみたいなバンドは人気だったんですか?

JO:ものすごい人気でしたよ。いつでもラジオから流れていましたから。

■ジムさんはラッシュをコピーしたことはないの?

JO:高校生のとき、バスケの試合でハイスクール・ジャズバンドがハーフタイムで演奏するんですね。私はそのバンドでギターを担当していて、そのとき“Yyz”をジャズバンド用にアレンジしたことがあります(笑)。

■うけました?

JO:めちゃくちゃもりあがりました(笑)。日本ではラッシュはちょっとアングラですけど、アメリカでラッシュはすごく有名でしたよ。音楽史において、もっともレコードを売ったバンドはビートルズ、ローリング・ストーンズ、そしてラッシュです。

■ウソー(笑)。

JO:ウソじゃないよ! ラッシュはいまでもライヴするとなるとスタジアムですよ。彼らのファンは死ぬまでファンですよ。テレビには映らない、新聞にも載らない、でもブラジルにもスタジアムを埋めるほどのファンがいる。じつはまだ観たことがないんですよ。それはすごく残念。もし彼らが韓国でライヴするなら、私は福岡から船で行きますよ。彼らは日本ではあまり人気がないから、ギャラと釣り合わなくてコンサートができないんですよ。

安藤:84年に一度来日していますね。

■大きい会場ではムリですよね。

安藤:武道館でやったと思うけどね。

JO:海外の規模を考えると武道館が彼らにはちいさすぎるんですよ。AC/DCも同じですよね。AC/DCはさいたまスーパー・アリーナで観ましたけど。彼らのすべてのレコードを聴く気はありませんが、あの手の音楽では一番でしょうね。

■モーターヘッドも同じようなものではないですか? フジロックに来ますけど。

JO:モーターヘッドはAC/DCにはおよびません。『Back In Black』(80年)はものすごい傑作ですよ。当時のツアーを私はシカゴで観ましたけど最高でした(と嘆息気味に)。

■『スクール・オブ・ロック』もAC/DCですものね。

JO:そうだね。ほかのそういった音楽はあまり興味ないんですけどね。残念なことに彼らも日本ではあまり人気がないんだね。

■さいきんは人気出てきましたけどね。おそらくワンパターンに聞こえるんでしょうね。

JO:ヴォーカルが?

■曲調じゃないですか。

JO:同じじゃないよ。だったらスマップの曲のほうが全部同じですよ(笑)。


取材・文:松村正人(2015年5月21日)

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