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MARQUEE BEACH CLUB - Flavor Pヴァイン |
ぶっ壊すとかNOを突きつけるとか背くとか、あるいは無言を通すとかのかわりに、ここ10年くらいのインディ・ミュージックにおいては、なにかと建設的で、計画的で、コミューナルなヴィジョンを感じることが増えた。破壊よりも設計がクールだというのは、音楽にかぎらずこの間の時代性を反映する志向だったとも言える。水戸の6人組バンドMARQUEE BEACH CLUBも、その名を構成する3語がすべて「人の集まる場所」を暗示するように、ひとつの「設計」を試みるバンドのようだ。マーキーのような、ビーチのような、クラブのような──バンドではあるけれども、そんな場所性をもった何かとして、音楽以外のものも巻き込みながら発展していきたいという発想。それはユートピア的でありながらもわりと切実な希望を含み、酷薄な時代を裏返しに見せてもいる。
2008年から2010年あたりのインディ・ポップ──シンセ・ポップ・リヴァイヴァルに彩られ、パッション・ピットやフレンドリー・ファイアーズの対向にチルウェイヴが並走していた時期の影響を素直ににじませる彼らは、ロックとダンスの狭間で空想のダンスフロアを呼び寄せ、リヴァイヴァルでしか触れたことのないポストパンクやシューゲイズと戯れ、イーノを知らずしてシンセの輝きに目を細める。どこか冷めた視点も持ちながら、正直に自分たちのちいさな時代を呼吸し、控えめに楽園を夢見ている。
そもそもはコイブチマサヒロのベッドルーム・プロジェクトとしてはじまったこの音楽が、無邪気さと素直さを失わないままメンバーという個々のヴィジョンを得て肉付けられ、バンドとしてひとつの場所を開き、とりどりの花を咲かせていることを肯定したい。
それでは、水戸からやってきた移動式ユートピアにしばし瞳を凝らしてみよう。
■MARQUEE BEACH CLUB / マーキー・ビーチ・クラブ
東京を拠点に活動するエレクトロ・ロック・バンド。2015年4月から都内で活動を始め、正式な音源リリース前でありながら、下北沢インディーファンクラブやGFB'15(つくばロックフェス)等のフェスに出演。2016年4月には自主リリースにこだわった初音源『wonder ep』を一部のタワーレコードやレコード店で限定販売。同年6月22日には7インチシングル「eye」をリリース、Apple Music「今週のNEW ARTIST」に選出される。8月、ファースト・アルバム『Flavor』を発表する。
メンバー:コイブチマサヒロ(Vo.Gt.Syn.)、シマダアスカ(Vo.Per.) 、ミヤケマサノリ(Gt.Syn.Per.Cho.)、カワマタカズヤ(Gt.Cho.)、マコトニシザワ(Ba.Syn.)、イシカワヒロヒサ(Dr.Cho)
曲をつくるならずっと残るものにしたい、っていう思いが根本にあったんですよ。それには、みんなが歌える曲──たとえば合唱とか、男女が歌えるものじゃないといけないなと。(コイブチマサヒロ)
■男女ヴォーカルでいこう、っていうのは最初から決まっていたコンセプトなんですか? バンドを大きく特徴づける部分ですよね。
コイブチマサヒロ(以下、コイブチ):そうですね。曲をつくるならずっと残るものにしたい、っていう思いが根本にあったんですよ。それには、みんなが歌える曲──たとえば合唱とか、男女が歌えるものじゃないといけないなと。前提として男女が歌えるようなバンドをつくって、それからリリースしなきゃなって思いました。
■それはおもしろい考え方ですね。「男女が歌える」というのは、キー的な意味で?
コイブチ:キー的な意味ですね。僕ら二人が歌えれば、基本的には男性も女性も歌えるなって思って。
■なるほど、口ずさめるようにする取っ掛かりですね。コイブチさんの自我を薄めたいというようなことではなくて?
コイブチ:そういうことではないんですけどね(笑)。憧れている海外のバンドが女性ヴォーカルを入れていたりするので、そういう影響はあるかもしれません。
■なるほど。声なんかも、ある程度「こういう人がいいな」って思い描いていたわけですか?
コイブチ:いえ、あまりそこはなかったんですけど、ふたを開けてみたらすごく声の性質とかが合っていて……すごくいい感じに声が乗ったし、彼女は僕に無い部分を持っているなって感じたりしました。何より、僕らは茨城の水戸の人間が集まっているバンドなんですけど、水戸の中でいちばん僕の曲を解釈してくれるのが(シマダ)アスカちゃんなんじゃないかなって思えたところがあったんですよね。
■へえ。すでにシマダさんは活動されてたんですね。
コイブチ:シンガーソングライターとして活動されていて、そのライヴはよく観に行ったりしてたんです。
シマダアスカ(以下シマダ):コイブチさんはお世話になっている先輩、という感じでした。コイブチさんの前のバンド(STELEOGRAM)も観に行ったりしていて、とても好きだったので、誘ってもらえてうれしかったです。
コイブチ:なんか、改まった感じになって恥ずかしいですね(笑)。
■あはは。しかし、ハモる部分もありつつも、かなりびっしりユニゾンでいきますよね。
コイブチ:そうですね、あえてユニゾンにしていて。やっぱり「みんなが歌えるように」っていうところを意識してるんです。二人あわせて一つのヴォーカルみたいなイメージで曲はつくってますね。レコーディングしたものをどのテイク、どの段階でOKにするかっていうのも二人で決めてます。
「コーラス」って言われちゃうと、違うなって思います。ヴォーカルだと思って歌ってて。(シマダアスカ)
■たしかに二つで一つですね。そうなると、シマダさんの歌い手としてのエゴってどんなふうに出てくるんですか?
シマダ:そうですね……「コーラス」って言われちゃうと、違うなって思います。ヴォーカルだと思って歌ってて。コイブチさんがメイン・ヴォーカルとして前に立っていますけど、私はそれを食うぞ! って思ってます。
(一同笑)
シマダ:コイブチさんがいないとマーキーじゃないんですけど、私も、私の声がないとマーキーじゃないって思ってますね。
■そうですね。それはすごくわかります。詞だったりメロディみたいな部分にシマダさんが浸食していくことはないんですか?
シマダ:コーラス……ですかね。コイブチさんがメロを出してくださるんですけど、ハモりどうしようかねって話になると「こういうのどうですか!」って提案します。それが、コイブチさんにとっては新しいものだったりすることはあるみたいですね。
コイブチ:やっぱりシンガーソングライターとして活動してきたから、「曲をどう解釈して(コーラスを)付けていこう?」ってふうに考えてくれるんですよね。だからコーラスについてはおまかせしている感じです。いいメロをつけてくれますから。そういうところにエゴみたいなものは出してもらえているのかなと思います。
■バンドだからこそ出せるエゴですね。そのあたり他のメンバーの方にもお訊きしたいんですが、まず前提として、このバンドのそもそもの出発点は、コイブチさんのベッドルーム・プロジェクトみたいなものだったんですかね?
コイブチ:そうですね。
■それを肉付ける存在が5人集まってくれたという。それはコイブチさんからのお声掛けですか?
コイブチ:みんな、「この人だったら」ってところで声をかけさせてもらって。ドラムのイシカワくんとかは前のバンドからいっしょにやってたんですけどね。前のバンドではヴォーカルもやったことがなくて、ギターしか弾いてなかったんです。で、新しくバンドをはじめるにあたっては、やっぱりずっといっしょにやってきたドラムじゃなきゃ歌えないなって思ったんですよね。あとは、家でいっしょに音楽の話をしながら飲んだりした間柄というか(笑)、音について共有できる仲間を集めた感じですね。
新しくバンドをはじめるにあたっては、やっぱりずっといっしょにやってきたドラムじゃなきゃ歌えないなって思ったんですよね。(コイブチ)
■ドラムが大事というのは、やっぱりリズム・コンシャスなバンドなわけですしね。特に重要だというのはわかります。カワマタ(カズヤ)さんはどんな感じで入られたんですか?
コイブチ:カワマタさんは大学の先輩で、同じ研究室の一コ上の人なんです。いつもいっしょにご飯を食べたりしながら音楽の話をしてた、僕の大学時代でいちばん近かった人です。
■学部はどちらなんですか?
コイブチ:工学部なんですよ。
シマダ:ははは。
コイブチ:なんで笑うの?
(一同笑)
■そっちの選択肢はなかったんですか?
カワマタカズヤ(以下カワマタ):そっちはぜんぜんで。ふらふらしてたんです(笑)。
コイブチ:だから、これは声を掛けるしかないなと思って。突然連絡して、新しいプロジェクトをやろうと思うんですけど、ギター弾いてもらえませんかって誘いました。学生時代から活動していて、オリジナルをやっていたわけではないんですけど、いろんなバンドでギターを弾いて、どこでも一つ抜きんでるというか、目立っていたんですよね。
■へえ。印象ですけど、カワマタさんにはちょっとポスト・パンク的な根っこがあったりします?
カワマタ:僕は、何ですかね、ポスト・パンクとか。でも基本的にはオルタナですね。アメリカの方の、うるさそうなバンドが好きですね。
■グランジ的な。
カワマタ:グランジ的な。
■髪型とかそうですよね。
カワマタ:けっこう最近なんですけどね、これは(笑)。どこまで(伸ばしっぱなしで)許されるのかなって。
(一同笑)
いざ入ってみたら「ミヤケ、シンセサイザー弾いてみようか」って言われて。「僕、弾いたことないんですけど」って言ったら、「こうやれば音が鳴るから!」って(笑)。(ミヤケマサノリ)
■ははは、いいですね。ミヤケさんは?
ミヤケマサノリ(以下ミヤケ):僕はギターにシンセに……いろいろやっている人です(笑)。
■シンセの果たす役割も大きいですよね。アナログな機材をつかったりもしているんですか?
ミヤケ:完全にそうですね。
■シンセ体験はどのあたりからなんでしょう。イーノが好きで……って感じでもないじゃないですか。
ミヤケ:シンセ体験っていうことでは、このバンドからですね。「バンドやろう!」「OK!」ってなって、いざ入ってみたら「ミヤケ、シンセサイザー弾いてみようか」って言われて。「僕、弾いたことないんですけど」って言ったら、「こうやれば音が鳴るから!」って(笑)。
■ははは、その時点でピアノの嗜みもなく?
ミヤケ:そうですね。いままで鍵盤というものをやったことがなく。
コイブチ:彼は音楽を広く聴いている人なんですよね。海外のバンドって、メンバーがいろんな楽器をやっていたりするじゃないですか? 楽器経験のあるなしに関わらず、表現の手段として。そういう役割というか、場所になる人が一人いなくちゃなと思って、それなら彼しかいないとお願いをしました。なんでも任せたみたいなところがありますけれども(笑)。
■へえ。ミヤケさんは「どんな音楽が好きなんですか?」って訊かれたらなんて答えます?
ミヤケ:邦楽ならスーパーカーですね。あと、ベースの(マコト・)ニシザワとかカワマタとかと共通して好きなのはシューゲイザーですね。
■なるほど、それは若干反映されていますよね、シューゲイジンな雰囲気が。
ミヤケ:3人がほんと、めちゃくちゃ好きなんですよ。
■カワマタさんなんて、めちゃめちゃ歪ませてやりたい、みたいな欲求とかないんですか?
カワマタ:もうずっとリヴァーブかけてますよ。そういう曲も何曲かあるんですけど、元気になっちゃいますね(笑)。
(一同笑)
もうずっとリヴァーブかけてますよ。そういう曲も何曲かあるんですけど、元気になっちゃいますね(笑)。(カワマタカズヤ)
■そういえば歌詞で「slow dive」(“dive”)って出てきませんでした? あれはスロウ・ダイヴなんだ。
ミヤケ:そう……ですね(笑)。
コイブチ:まあ、別々の単語のイメージなんですけどね。
■あれ、そうでもなかった(笑)。わかりました。ではベースのニシザワさん。ニシザワさんはどんなふうな経緯で?
マコト・ニシザワ(以下ニシザワ):僕はコイブチさんの後輩なんですけど、4歳くらい下で。だから自分は3人よりはコイブチさんと関わる機会がなかったんですけど、前のバンドのSTELEOGRAMのライヴを観に行って、初めて話したんです。その後ツイッターとかでもやりとりしたり、お互いに機材が好きなのでそんな話をしたりもして。そんな中でバンドやろうというメールが来たんです。最初は誰が何をやるというのもぜんぜんなかったんですけど、「ベースやる?」みたいなことになり(笑)。ギターもやったことはあったんですけど、ベースからはじめたこともあって、ベースに決まったときには「よかった!」って思いました。
■ダンス寄りのバンドであればあるほど、ベースの役割もすごく重要になりますよね。プロダクションもとてもクリアにベースを出しておられますけど、これはどなたかのディレクションなんですか?
コイブチ:ベースとドラムについてはすごくこだわってて、クラブ・ミュージックとの融合というか、普通のポップ・ミュージックの歌メロとクラブ・ミュージックのよさを混ぜ合わせたい──そう思うとベースとリズムに焦点が当たりますね。僕自身がベースの音が好きで、曲の中で全体を支えてまとめる存在だと思っていることも反映されていると思います。あとは、彼に与えた最初の試練でもありました。彼はピッキングしかやったことがなかったんですけど、「マーキーっていうのは指弾きの音楽だから」って(笑)、指弾きだけしかやっちゃダメって言ったんです。
ニシザワ:大学時代にコピーをやっていたときは、ナンバー・ガールとか、パワー重視の演奏をやっていたんですけど、指弾きはやったことがなかったんですよね。
■じゃ、指弾きのコンセプトには惹かれるものがありました?
ニシザワ:ブロック・パーティとかMGMTとかも好きなので、そうですね。
初めて海外のいろんなサウンドに触れた感じ──「こういうものがあるんだ!」って驚いた感覚をマーキーにも出していきたいんです。(コイブチ)
■なるほど、パッと聴いたときに思い浮かべるのはパッション・ピットとか、あとフレンドリー・ファイアーズとかなんですけど──
コイブチ:ああ、そうですねえ。
■あるいはチルウェイヴとか、男女で大所帯ってところだとロス・キャンペシーノスとかね。なにか、2008年前後の音楽に感じていたときめきがいっぱい詰まっている感じがするんですよね。そのあたりの時期って、やっぱりリスナーとしても濃い体験があったんでしょうか?
コイブチ:そうですね、僕がほとんどの曲のディレクションとかをやっているんですけど、僕は2008年から2010年にかけての音楽シーンっていうのがすごく好きで、ちょうどその頃はロックとエレクトロニックなものが混ざっているんですよね。僕自身、それは大学に入って音楽を広く聴きはじめた時期でもあって、初めて海外のいろんなサウンドに触れた感じ──「こういうものがあるんだ!」って驚いた感覚をマーキーにも出していきたいんです。それがそういうあたりが音に出ているとすれば、狙いでもあり、自然で必然的なことでもあるんですよね。
■なるほど。単純にマネしてできるものというよりは、いまおっしゃったような憧れみたいなものの手触りが生々しく感じられますね。一方で、たとえばフレンドリー・ファイアーズなんかはその後もうちょっとハウスっぽい方向に行きますけど、みなさんは少しファンクっぽいところでやってますよね。このあたりは何なんでしょうね、時代性?
コイブチ:それはあるんじゃないですかね。あとは、コンセプトをあんまり曲げたくないというか、変化していくことは大事ですけど、あれもこれもやるような急激な変化はできないなと思っていて、僕はやっぱり最初のときめきを大切にして突き詰めていきたいですね。あとは、6人の共通項もそこで、自然に音をならすとこうなるんです。それがブレないところですかね。
■みなさんの嗜好なんですね。
MARQUEE BEACH CLUB 『Flavor』 / Album Trailer
「マーキー」も「ビーチ」も「クラブ」も、全部人が集まるところを指す単語なんですよね。結果的には僕らのバンドの展望というか、僕ら自体がひとつの場所になればいいかなってイメージかもしれないです。(コイブチ)
■ところでバンドの名前なんですけど、他誌さんのインタヴューで由来をちらっと見かけまして。「マーキー」っていうのは〈フジロック〉のステージ名から、「ビーチ」っていうのは、なんかバカみたいから(笑)。
ミヤケ:そうですね(笑)。
■はは。で、「クラブ」っていうのはどうしてもつけたかった、と。
コイブチ:親しみやすいし、その頃のバンドに「クラブ」ってつくものがいくつもあったし……ただ、そういう風潮がありすぎてちょっとどうしよう、みたいな感じになっちゃいましたけれども。
■まあまあ(笑)。でも、クラブにどんな思いがあったのかなって思って。だって、みなさんはクラブ遊びをするって感じでもないじゃないですか。
(一同笑)
イシカワ:わりと静かな人たちです。
■わりと静かな人たちですよね? だから、「クラブ」って言葉にどんな思いとかイメージを乗せてたのかなと思って。
コイブチ:そういう言葉への憧れがあった部分はあると思うんですけど、なにかしっくりきたんですよね。けっこうめぐりめぐって落ち着いた名前ではあって。「マーキー・ビーチ」は決まっていたんですよ。それで最後の言葉を探していたんです。最初の候補に「クラブ」があったものの一回ボツになって、また戻ってきた名前なんですね。
■へえ。「部活」とかに近いニュアンスでもなく?
コイブチ:ははは。後付けではありますけど、「マーキー」も「ビーチ」も「クラブ」も、全部人が集まるところを指す単語なんですよね。結果的には僕らのバンドの展望というか、僕ら自体がひとつの場所になればいいかなってイメージかもしれないです。僕らはマーキー・ビーチ・クラブっていう名前を通して音楽を演奏する。そこに映像作家とか写真家とかが来て、僕らという場所を通して何かを発信していく。そういう感じになっていけばいいなって思っているので、結果として「クラブ」でぴったりきましたね。
歌詞の世界観としては、どこに脱出するわけでもなく、かといってここにいるわけでもなくっていう、不安定なものを歌っているでしょうか。アップ・ダウンの中間あたり──日常みたいな部分を地道に行くことで、いつかいい景色が見れるだろう、というか。(コイブチ)
■なるほど、ひとつの社会の単位なんですね、きっと。一方で、詞を見たりすると、「クラブ」にこだわるわけじゃないんですけど、やっぱりナイトライフ的なものへの言及が出てくる。朝まで踊ろう、みたいなことが歌われるでしょう? フレンドリー・ファイアーズの「パリス」じゃないですけれども、そういう夜のクラブと音楽の高揚感みたいなモチーフが出てくるのはなぜなのかなと。
コイブチ:音像とかにはやっぱり憧れる部分はありますね。クラブでは遊ばないんですけど、僕らのフィルターを通したダンス・ミュージックへの憧れはあって、そういうものが詞にも反映されるのかもしれないですね。
■歌詞っていうところではもうひとつ、「ユートピア」ってコンセプトも何度も出てきますよね。これは……なにか脱出願望があるんですか?
(一同笑)
■いやマジに(笑)。かと思えば、まさに“utopia”って曲では、べつにユートピアも信じてないみたいなことが歌われるじゃないですか(「I do not believe in utopia」)。
コイブチ:そうですね……。歌詞の世界観としては、どこに脱出するわけでもなく、かといってここにいるわけでもなくっていう、不安定なものを歌っているでしょうか。アップ・ダウンの中間あたり──日常みたいな部分を地道に行くことで、いつかいい景色が見れるだろう、というか。僕は日常に寄り添った曲を書きたいので、歌詞によってばらつきがあるのもそのせいなんですよね。そこにいたい、変わらない生活をつづけていきたい、みたいな気持ちの中で書いているので、どっちにも振れないのはそのせいかもしれないです。
■へえ。まんま“escape”って曲もありますけど、そう逃避願望があるわけでもないと。
コイブチ:そういう気持ちも抱いている、その瞬間も切り取っているという感じでしょうか。
■そうか、何かどこに行っても何もないみたいな、クールな現実認識の下に書かれているのかなと想像させる部分があるんですけどね。
イシカワ:そういう部分もあると思います。その中で自分がどうやっていくか、動いていくか、ということなんですよね。もちろん聴き手によって解釈が変わっていいように話しかけてはいるんですけどね。
めちゃくちゃざっくり言えば、大変なこともたくさんあるけど、なんとかなるさって。そこで楽しいことを見つけていこうって……。(イシカワヒロヒサ)
■では、個人的な展望としてはどうですか? この世界は。
イシカワ:めちゃくちゃざっくり言えば、大変なこともたくさんあるけど、なんとかなるさって。そこで楽しいことを見つけていこうって……前向きかと言われればけっして前向きというわけでもないんですけどね。けど、後ろ向きというのも個人的にはあんまり好む考え方ではなくて。そういう意味で本当に中間なんですよね。
コイブチ:レット・イット・ビーなんだよね(笑)。
イシカワ:そうだね(笑)。聴き手の中で、それぞれはっとしてもらえる歌詞ならいいなって思います。解釈はちがっていてもいいけど。そういうものを提示できたらうれしいですね。
■そういう感覚はみなさんで共有されているものなんですか? 歌われる内容については何か協議があったりします?
コイブチ:僕が歌詞をつくっているんですけど、メンバーにはそんなに多くは説明しないんですよね。説明しちゃうと僕の曲になっちゃう。僕はみんなにそれを強要するわけじゃないし、みんなの曲にしたいので……。たぶんそこを説明しないことでバラバラな詞になっているのかもしれないですね(笑)。
■なるほど、逆にみなさんからフィードバックがあったりします?
コイブチ:「こういう曲ですか?」って、妄想をふくらませて訊いてくるひともいますけどね(シマダさんを見ながら)。
(一同笑)
取材・文:橋元優歩(2016年8月09日)
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