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interview with Shabaka

interview with Shabaka

シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く

質問・序文:原雅明    通訳:丸山京子 photo by atibaphoto   Apr 19,2024 UP

僕にとってのレコーディング・セッションは最初の爆破による爆発のようなもの。そのあとのプロダクション過程で、岩のなかにあるものや美しさを削り取っていくんだ。

『Perceive its Beauty, Acknowledge its Grace』を制作するにあたって、当初思い描いていたヴィジョンがあれば教えてください。

S:ヴィジョンは何もなかったよ。今回に限らず、僕は最終形はこういうものにしたい、というヴィジョンを持たずにレコーディングをはじめ、その時々に起きることにオープンに対応し、次は何しようかと考える。決定を下すプロセスはあくまでもオープンであるべきだし、ヴィジョンは探究の過程で生まれてくるものさ。ひとつの決定が、もしくはターニング・ポイントが次の何かにつながるわけで、そうやっているうちに、そのプロジェクトの方向性や雰囲気が見えてくる。それこそがバンド・リーダーの役割なんじゃないかと思うよ。バンド・リーダーは音楽が向かうべき本来の方向を見極め、その方向に物事が流れるように仕向け、これから取り掛かる音楽について全員がどう考えているかを確認する。流れを円滑にし、強化する。

楽曲はどの程度予め準備されていたのでしょうか?

S:答えるのが難しい質問だな。というのも、メロディは何ヶ月も前から、あくまでも自分のためにたくさん書いていた。どのフルートでどうメロディを演奏しようかと理解したかったからだ。僕自身の音楽的な気質を理解したい。僕はメロディの何が本当は好きなんだろう? と。だからたくさんのメロディをノートに書きとめた。セッションではノートを開いてそのメロディを自分でも、ミュージシャンたちにも使おうと思ってたんだ。でもセッションに必要なのは、雰囲気とプレイへのアプローチなのだと思い直した。そこで雰囲気はどうしたいか、長い話し合いをし、どんなプレイや即興演奏を求めているかという点については意見を言った。セッションでは、長い演奏を続けた。本当に長かった。40分くらいノンストップでプレイし、そのなかであらかじめ僕が考えていたメロディが出てくることもあった。そしてセッションが終わった後で、その部分を取り出した。ヴァン・ゲルダー・スタジオでのレコーディングの後、フルートのためだけのセッションを数日設け、パートを書き直したり、さらにミュージシャンを呼んで演奏してもらい、全体的なアレンジと作曲をおこなったんだ。そんなわけで、最初から情報があったのではなく、あったのは方向性と雰囲気だけ。そこから情報を掘り出すという大変な作業がはじまったんだ。鉱山でダイヤを採掘するのを例に挙げると、まずは採石場を爆破し、大量のダイヤを含んだ岩石を手に入れる。そのなかにはダイヤや貴重な物質が含まれているけど、爆破の直後だから荒い状態なんだ。僕にとってのレコーディング・セッションは最初の爆破による爆発のようなもの。そのあとのプロダクション過程で、岩のなかにあるものや美しさを削り取っていくんだ。何時間も何度も聴き直し、すでに録音したなかの何をどう加えようか、と考える。それはまた別のプロセスなのさ。

ヴァン・ゲルダー・スタジオの名が挙がりましたが、どんなサウンドや雰囲気を求めて、そこを選択したのでしょう?

S:インティメートでエネルギーやヴァイブ感に溢れた雰囲気ということを考えたとき、ジャズにとって最も有名なスタジオのひとつだからね。コルトレーンはじめ、僕のたくさんのヒーローたちにとっていいスタジオだったんなら、僕にとってもいいに違いない。何がすごいのか自分で確かめてみたい、僕が大好きな多くの音楽のサウンドと雰囲気を生み出したスタジオを経験したい、と思ったんだ。実際にスタジオに入り、その素晴らしさがわかった。いままで僕が訪れたなかで最高のスタジオだったよ。周りがそう言ってるからではなく、本当に素晴らしい音響環境なんだ。特にフルートを扱う際には、音がその空間にどうフィットするかというのが重要だ。自然環境であるか、共鳴室かにかかわらず。まさに音響的に優れたサウンドになるべく、ゼロから設計されたスタジオ。ルディ・ヴァン・ゲルダーのこだわりがそこかしこにあった。音が反響する表面が何もなく、すべて木製。全てが曲線で、尖った角がない。そして屋根の高い建物。実際にプレイする側の視点に立った設計さ。僕が全力で演奏にエネルギーを注ぎ込んだら、スタジオがその音を受け取ってくれる気がした。まるでコンサートホールみたいに、僕が出した音が反響することも抑えられることもなく、スタジオにそのまま映し出される。もし静かで繊細な演奏がしたいと思えば、音は広がり、残響を残すことも可能だった。つまりとてもダイナミックな対比を可能にする余白のあるスタジオなんだ。さらに今回は雰囲気が大切だったので、ダイナミック・バランスを敏感に感じ取れるよう、セパレーションもヘッドホンも使わずにレコーディングした。そうすることで全員が “聴く” ことを余儀なくされる。レコーディング・セッションでは自分の周りの動きを調整する能力があれば、その瞬間に自分のやっていることを無視することができる。
 2年前の僕のフルートのテクニックはいまとは違っていた。2年間の練習を経て、腕を上げることができた。スタジオでの僕は、周りの人間に比べれば自分をうまく投影することができなかった。だって他のみんなは自分の楽器に慣れ親しんでいた人たちだ。そこで全員に、楽器のテクニックという意味だけでなく音楽的にも、僕のレベルに寄ってほしいと思ったんだ。とても面白い点なんだよ、これって。もし自分にとって望ましいテクニックがないとき、どうやって意味あるものをクリエイティヴに作り出す解決策を見つけるか。その答えが、全員で深く、インティメートに聴くことだと思えた。それを可能にするには、まるでリハーサルでジャム演奏をしているような空気のなかでやること。実際、そんな最初のリハーサルで最高の音楽は作られることもある。マイクをセットアップする前、コートを脱ぐ前。誰かがピアノで弾いたリフに、楽器を大慌てで手にして一緒に弾いたときに生まれるマジック。マイクのセッティングが終わり、バランスもレベルも決まったときにはマジックは少し失われる。次に、クラブやフェスティヴァルでマイク、もしくはレコーディング卓というテクノロジーに向かって演奏し、そのテクノロジーが今度はモニターというテクノロジーで自分の出した音を返してくる。その段階では自分が作っているものとは全く違うものになってるんだ。でもそれはそれでいいんだよ。ギグをやる、レコーディングをすることは、そういった様々なテクノロジーのつながりの瞬間を理解し、その領域のなかでどう演奏するかを理解することなのさ。でも今回のレコーディングでは、僕自身と音楽とミュージシャンの間の根本的なつながりを、より感じるものにしたかった。フルートを吹く僕とミュージシャンたちとの間のつながりを、テクノロジーが断絶するのはイヤだったんだ。

カルロス・ニーニョは、即興演奏と作曲されたものの演奏の区別をわざと曖昧にするようなアプローチで、ずっと自身の作品を作ってきました。録音に大胆な編集も加えてきました。あなたは即興や作曲に対して、いまどんな考えを持ち、どんなアプローチをしていますか?

S:コメット・イズ・カミングのアルバムを考えてみてくれ。どれも全て、基本は即興演奏だ。スタジオに入り、僕らは即興で4日間くらい演奏した。そのあとは、今回の新作の過程と似ているのだけど、即興的に作曲された瞬間を探し出し、そこから楽曲を作り出す。それはたとえば、不要なものを取り除く作業だったり、様々なシンセサイザーのメロディやドラム・パートを加えたり。でもサックスだけは加えたことはなくて、すでに演奏したのが全てだった。少なくともコメット・イズ・カミングではね。この例を挙げたのは、即興演奏というのが、ときに作曲のアンチテーゼのように見なされることが多いからだ。でも作曲というのは、そこに与えられたアイディアを意識し、それらのアイディアが一貫した音楽システムや表現を作り上げる方法に対して、意図的であるプロセスでしかない。そしてこのアプローチは、希望すれば即興演奏にも取り入れることができる。自分はその場で即興的に作曲しているのだという意識を持って即興演奏をすれば、その作曲は一貫性や、入り組んだニュアンスを持つものになるだろし、繊細でディテールのあるものになる。でももし、自分の知らないことを探しているのだという考えのもとに即興演奏するなら、有機的に形が見つかり、一貫性は二の次になる。どちらが良くて、どちらが悪いという話ではない。ただ即興に対するアプローチの差、というだけさ。僕の場合、スタジオでは大概、即興演奏。でも曲を書くときは作曲的であることを意識する。それは曲が書けた後で、別レベルの作曲がおこなわれることをわかっているから。さっきも言ったように、即興演奏のなかから特定の瞬間を取り出して、レンガのように組み立てて、他の作曲を作り出す。すべてはアプローチの仕方ってことだと思う。コンポーザーによっては書き留めてある複数のアイディアをもとに即興演奏する人もいる。そのアイディアをどこから得るのかといえば、頭に浮かんだインスピレーションだろう。一方で、システムの枠内で曲を書くコンポーザーは、ピアノの前に座って曲を書くかもしれない。その場合はシステミックなハーモニーの置き方をし、そこから音楽の素材を得るのかもしれない。でも僕が知る、そしてリスペクトするコンポーザーの多くは、インスピレーションで曲を書くタイプだ。楽器の前に座り、インスピレーションを音楽情報にかえ、ピアノで演奏し、紙の上に書き出す。作曲の次なる段階は、思いついた音楽的素材を整頓してアレンジすること。多くの場合、僕がやってるのもそういうことだ。当初の曲を書いたときの要素を、スタジオでテープが回っている間、他のミュージシャンたちと形にする。それが終わったら作曲/プロダクションへと移るのさ。

僕にとっていちばん重要なのは、音楽がスタートからフィニッシュまで、どういう弧を描いて流れていくかだ。そこからどんな感情の旅路をたどるのか。

このアルバムはリスニングのさらなる可能性を提示した作品だと感じましたが、音楽にせよ、自然音や環境音にせよ、音を聴くということに関して、あなたのなかで以前と変化したことはありますか?

S:ああ。弧(arc)に注意を払うようになったことかな。それはこのアルバムでとても重要だったことであり、理解するのにいちばん時間がかかった部分だ。音楽自体、その構造を考えると複雑なものなわけだけど、僕にとっていちばん重要なのは、音楽がスタートからフィニッシュまで、どういう弧を描いて流れていくかだ。そこからどんな感情の旅路をたどるのか。1曲の終わりが次の曲のはじまりに流れていく様子とか、そこからどういう感情を僕が感じるか……そんなふうにしてアルバムを聴きはじめたんだ。違った曲の寄せ集めではなく、1曲がたどる旅が、次の曲のはじまりへどう呼応するか。アルバムはトータルで完全な作品になるということ。旅路、という言い方がいちばん正しいね。ひとつの作品としてのアルバム。いわゆるジャズと呼ばれる音楽では、1曲のなかでひとりのソロ奏者が他の奏者とインタラクトし、すごい旅をすることはある。もしくは1曲に4人のソロ奏者がいて、それぞれのソロの即興が次をどう導くかが、旅の重要な点だったりする。1曲における旅路のことばかりで、アルバムとしての旅路は無視されるか、あまり多く語られない。今回のアルバムにトラディショナルなジャズというコンテクストでの即興があまりないのは、ソロの瞬間の旅路ではなく、1曲から1曲への旅路が重要な要素だったからだ。

今回、多彩なゲストが参加していますが、どういった基準で選んだのですか?

S:答えはじつにシンプルで、全員がここ数年間のツアーの間に僕が会ったことがあり、話したことがある人たちだ。連絡を取り続け、何か一緒にやりたいねと話をしていた。なので、僕から連絡をして参加してくれないかとお願いした。全員、これまでになんらかの関係があった人たちだよ。一緒にやったらどうなるだろうか? と。そして嬉しいことに全員が “イエス” と言ってくれた。多くの場合、直感だよ。最初のレコーディングの後で加えたゲストは、音楽を聴き返し、すでにできたものをより強調する上で、誰が適任だろう? と考えて決めた。最初の(ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの)レコーディング・セッションでのミュージシャンは、ここ数年に連絡を取り合ってたなかで僕が一緒に何かを作りたいと感じた、お気に入りのミュージシャンたちだ。スタジオに入ったとき、特にこうしようという決まった考えがあったわけではなく、どう演奏したいか、どう相互にプレイし合いたいか、ということだけだったので、やっていて楽だった。結果にがっかりさせられることは何ひとつなかったよ。最終的な目的地は誰にもわかってなかったわけだから、何をやってもそれで正しかったんだ。

今作は〈Impulse!〉からリリースされます。〈Impulse!〉というレーベルと、そこからリリースされた作品について、あなたはどのような印象を持ってきましたか? 

S:独創性に富んだレーベルだという印象だな。そしてアーティストのコミュニティを抱えていたレーベル。〈Impulse!〉と聞くと、特定のサウンドと音楽へのアプローチと時代を思い浮かべる。その時代は一定期間に止まることなく、その後も現代に合うように形を変えて続いた。最初はまずどうしたってコルトレーン、ファラオ・サンダースアリス・コルトレーンといった時代を思い浮かべるが、興味深いことにそこで終わることなく、その後も素晴らしいアルバムを作り続けた。たとえばガト・バルビエリ……そして70年代、80年代と続いていった。そんなクリエイティヴ・ミュージックのレガシーの一部になれることをとても嬉しく思うよ。

特に影響を受けた作品があれば教えてください。

S:チャーリー・ヘイデンの『Liberation Music Orchestra』にはとても影響を受けたよ。あれはアルバム全体を通して、素晴らしい作曲的フォームと弧を持つアルバムのいい例だよ。当然ながら(コルトレーンの)『A Love Supreme』も。クリシェだと言われるかもしれないが、クリシェにはそれだけの理由があるのさ。音楽史のなかでも、本当に素晴らしいアルバムだと思う。あまりにたくさんありすぎて、何枚か挙げると他のアルバムが嫉妬するんじゃないかと思うんだけど。オリヴァー・ネルソンの『Truth』(『The Blues And The Abstract Truth』)もじつに独創性に富んだアルバムだ。チャールズ・ミンガスのアルバムもあるね。

最後に今後のライヴの予定はありますか?

S:ああ、いまもライヴ・ツアー中だよ。何本かギグをやった。5月にはヨーロッパ・ツアーをおこなう。今回のアルバムはバンドでのアルバムじゃないので、決まったミュージシャンがいつもいるわけではないんだ。いまの僕は必ずしも決まったミュージシャンを必要としていない。もちろんアルバムからの皆が知っている曲をライヴでもやりたいんだが、固定のグループでそれをやるのではなく、クリエイティヴな表現としておこないたい。とはいえ、ヨーロッパ・ツアーではハープ2台、シンセサイザー、ピアノ、そして僕がフルートというグループが決まっている。一方でアメリカでやってきたのは、ベース2本、エレクトロニクス、ドラム、ハープというラインナップ。今度やるNYではハープ、エレクトロニクス、フルート、ドラムになるし、他の都市ではトランペット(アンブローズ・アキンムシーレ)、フルート、ドラムになる……というように変動的なんだ。ハープをフィーチャーするものが中心だが、ハープなしということもある。基本的には、アルバムにもたらされたのと同じ雰囲気を一緒に探ってくれるミュージシャンということだよ。


質問・序文:原雅明(2024年4月19日)

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Profile

原 雅明/Masaaki Hara原 雅明/Masaaki Hara
音楽ジャーナリスト/ライター、レーベルringsのプロデューサー、LAのネットラジオ局の日本ブランチdublab.jpのディレクターも担当。ホテルの選曲やDJも手掛け、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。早稲田大学非常勤講師。著書『Jazz Thing ジャズという何か』ほか。

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