「Low」と一致するもの

Bbno$ - ele-king

 カナダでファーウェイのモン副社長が拘束された後、カナダ資本のショップが中国での開店時期を遅らせるなど両国の関係悪化が懸念されたりもしたけれど、ヴァンクーヴァーのラッパー、ベイビーノーマニー(BabyNoMoney)ことアレキサンダー・グムチアンはむしろ中国だけで大スターになっている。中国初の少年アイドル、TFボーイズのメンバーが彼の曲で踊っているヴィデオをソーシャル・メディアにアップしたらしく、一気に彼の名が知れ渡たったため、中国に行けば地元でもやったことがないような大きな会場でライヴをやるようになったのだという。流行りのサウンドクラウド・ラッパーとして知られるグムチアンの曲をTFボーイズがどうやって見つけたかは謎だけれど、おそらくはまだグムチアンがトラップをコピーしていた時期のものを材料に「ハーレム・シェイク」のマネでもしようと思っただけなのだろう。グムチアンがトラップにこだわっていた時期は2年ほどで、今年に入ってリリースされた『Recess』でも最後の1曲だけはトラップを引きずっているものの、すでに彼はそこから大きく飛躍してしまった。

 音楽に出会ったのは背中を折ったことがきっかけだったというグムチアンはブローク・ボーイ・ギャングというクルーとして活動を開始し、すぐにもひとりになってしまったにもかかわらず、2016年が終わる頃にはとにかく曲を量産し、片端からサウンドクラウドにアップしまくったという。スーサイド・ボーイズやポウヤなどがインスピレーションだったというわりには明るい曲調が多く、実際、それは彼の信条でもあるらしく、『Recess(=凸)』でもリリックのほとんどは自分がいかに成功し、人々に感謝しているかということで占められている。そして、現在でも大学に在籍している彼は背中を折ったことで興味を持った運動学などを専攻しつつ、ラッパーらしくなくありたいという動機から大学の学位を持ったラッパーを目指しているという。そう、汚い言葉を多用し、典型的なマンブル・ラップにもにもかかわらずいわゆるマンブル・ラップにありがちなリリックから遠ざかることも意識的なら、そうした姿勢に導かれたのだろう、『Recess』というアルバムはサウンド的にもあまり聴いたことがない領域へと踏み込んだヒップホップ・アルバムとなった。ひと言でいえばワールド・ミュージックとヒップホップを不可分なものとして結びつけ、それはかつてネプチューンズが試みたポリリズムを飛び石的に受け継ぎ、躍動感を削ぎ落としたものといえる。USメインストリームよりもイキノックスやダブ・フィジックスといった最近のUKモードに近いビート感。実にリラックスしていて、ファティマ・アル・ケイディリとかウエイトレスの流れと結びついたら面白そうなんだけど。

 ワールド・ミュージックと接点を持ったのはサウンドクラウドをたどっていくと、グレイヴス“Meta”にフィーチャーされた時が最初だったのかなあと思う。兆候などというものを探し始めると限りなく存在する参照点に振り回されるだけかもしれないけれど、次にピンときたのは昨年アップされていた“Who Dat Boi”。民族楽器に特有の高音がループされ、明らかに原型はここから始まっている。共にレントラ(Lentra)のプロデュースとなる“tony thot”や“Moves”などがこれに続き、それらとはやや趣向を変えた“Opus”がウェブ上では初のブレイクスルーになったとされている。つまり、この段階ではまだ方向性は厳密に定まっていなかったということで、“Opus”を含む「BB Steps」EPは実にヴァラエティ豊かな内容でもあった。しかし、ソー・ロキとの「Whatever」EPを挟んでリリースされた『Recess』は11曲中8曲でレントラとタッグを組み、完全にサウンド・イメージをひとつに固めている。こういう人は次でまったく違うことをやりそうなので、この先も楽しめるかは未知数だけれど、しばらくこの路線にこだわってくれないかなあと。

Bendik Giske - ele-king

 サックスはもっとも人の声に近い楽器である。そんな話をどこかで聞いたことがある。著名なジャズ・ミュージシャンの発言だったか、身近な知り合いとの雑談だったかは忘れてしまったけれど、その後もちょくちょく耳に入ってくる話だったから、きっと一般的にもそう言われることが多いんだろう。ただ個人的にはこれまで、サックスの奏でるサウンドが人声のように聞こえたことは一度もなかった。あるいは聞こえたとしても、あくまで他の楽器にも置き換えられる、比喩のレヴェルにおいてだったというか。
 コリン・ステットソン以降というべきか、ラヴ・テーマことアレックス・チャン・ハンタイ以降というべきか、近年どうにもサックスとミニマリズム、サックスとアンビエントという組み合わせに惹きつけられてしかたがない。もし仮にサックスがほんとうに人の声に近い楽器なのだとすれば、ミニマル~アンビエントの文脈に落とし込まれたそれが、いま強くこちらの耳を刺戟してくるのはなぜなんだろう。

 昨秋リリースされたシングル「Adjust」(リミキサーにはトータル・フリーダムロティック、デスプロッド、レゼットの4組を起用)で注目を集めたオスロ出身ベルリン在住のサックス奏者、ベンディク・ギスケのファースト・アルバムがおもしろい。自らを「クイア・パフォーマンス・アーティスト」と規定する彼は、ゲイ・カルチャーに関連した「surrender(すべてを与える=身を委ねる)」という行為をテーマに今回のアルバムを練り上げている。いわく、その行為は世界といかに関わるかについて、それまでとは異なる見方を提供してくれるものなのだという。
 このアルバムの制作にあたりギスケとプロデューサーのアマンド・ウルヴェスタは、マイクの設置のしかたをあれこれ工夫し、音符と音符のあいだに侵入する吐息の録音方法を新たに考え出したそうだ。その技術が他の音にたいしても応用されているのか、サックスのキイを叩く指の音だったり、中盤の“Stall”や“Hole”におけるノイズのように、微細な具体音の数々がさまざまなかたちでこのアルバムを彩っていて、ミュジーク・コンクレートとしてもじゅうぶん聴き応えのある仕上がりなのだけど、まさにそれらのノイズに寄り添いながらサックスと人声とが絡み合っていく点にこそ本作の肝がある。件のシングル曲“Adjust”やそれに続く“Up”、あるいは終盤の“Through”や“High”ではサックスが惜しみなくミニマルなフレーズを吐き出す一方、背後では意味を剥奪された人声がひっそりと唸りをあげているが、それらが絶妙に重なり合っていく様に耳を傾けていると、なるほど、サックスが人の声に近いという所感は、両者をともにノイズとして捉え返したときにこそはじめて浮かび上がってくる、オルタナティヴな聴取の可能性なのだということに思い至る。

 アンビエントの文脈におけるサックスと声の活用という点にかんしていえば、ギスケの「Adjust」とおなじ頃にリリースされたジョセフ・シャバソンのアルバム『Anne』にもところどころ惹きつけられる箇所があったのだけれど(たとえばサックスと人の声と鳥の声とその他のノイズが必死にせめぎ合う“Fred And Lil”など)、サックスがふつうに叙情的な旋律を奏でているせいか、はたまた「パーキンソン病を患った母」というテーマのためか、全体としてはセンチメンタルな要素が強く出すぎている感があった。ひるがえってギスケのアルバムには余計なものがいっさい含まれていない。シンプルに音の尖鋭化を突き詰めているという点でも出色の出来だと思う(もしかしたらそれが音に「サレンダー」するということなのかも)。
 では、なぜいまそのような試みが新鮮に響くのか? それはたぶんギスケの音楽が時代にたいする無意識的な応答になっているからだろう。たとえばオートチューンに代表される変声技術の流行は、地声とはまたべつの角度から声なるものを特権化しているとも考えられるわけで、となればギスケのこのアルバムはそれにたいするすぐれた批評としてとらえることもできる……とまあそんなふうに、耳だけでなく思考まで刺戟してくれるところもまた本作の魅力のひとつなのである。

King Midas Sound - ele-king

 2019年はダブに脚光があたりそうだ。昨年はミス・レッドのアルバムをサポートしたザ・バグとMCのロジャー・ロビソンによるキング・ミダス・サウンドが2月14日に新作を出す。フェネスとのコラボ作品『エディション1』以来の4年ぶりのアルバムだ。
 サウンドクラウドにはアルバムの冒頭の曲“You Disappear'”がすでにアップされている。「おまえは消える、おまえは消える、おまえは消える、おまえは……」、ほんとうに消えてしまいそうな、ウェイトレス・ダブ? などと思わず口走ってしまうわけだが、ウェイトレス・グライムの流れともリンクする濃厚なダブ・サウンドである。

 アルバムのタイトルは『Solitude(孤独でいること)』。
 かなり期待できる内容になりそうだ。


Aphex Twin - ele-king

 相変わらず話題が尽きない。昨秋は原宿でポップアップ・ショップを展開し、この4月にはコーチェラへの出演が決定しているエイフェックスだが、彼が90年代半ばにニューヨークのライムライト(Limelight)というクラブでおこなったライヴの音源が発掘され、一部で大騒ぎになっている。90年代半ばのエイフェックスといえば、ダンス全盛期に大胆にもビートを排した『Selected Ambient Works Volume II』を発表し、リスナーやメディアを大いに困惑させたわけだけれど、今回の音源は全体的にレイヴィかつアシッディ、インダストリアルなセットで、ミート・ビート・マニフェストやメスカリナム・ユナイテッドのリミックス、ブラッドリー・ストライダー名義で発表した曲などに加え、LFO や L.A.M.(ドレクシアのエイリアスのひとつ)も聴くことができる。

 1ヶ月ほどまえに SoundCloud に出現したこのライヴ音源は、ニュージャージーのレコード店〈Lofidelic〉がポストしたもので、それを独『Electronic Beats』誌が報じたことで一気に注目を集めることとなった。当初の投稿者の説明によれば、1991年または1992年にソニーのポータブルDATレコーダーで録音し、そのまま25年以上放置していた音源で、最近になって友人に協力を仰ぎデジタル・コピーを作成したとのことなのだけれど、どうも記憶があやふやだったようで、現在は1993年以降の音源だろうと訂正が加えられている(じっさい、1994年のデイヴ・クラークのトラックや、翌年のキネステシアやサイロブといった〈Rephlex〉勢の曲もプレイされている)。なかには「1995年8月15日」と日付を特定しているファンもいて、仮にその某氏が正しいとすると、『...I Care Because You Do』が出て4ヵ月後のショウということになるが、はたして真相やいかに。

 なお、エイフェックスは3年前にも90年代のライヴ音源が SoundCloud にアップされ話題になっていた。

The Comet Is Coming - ele-king

 昨年私たちが年間ベスト・アルバムの1位に選んだのはアースイーターでした。では、2位は? はい、読んでくださった方はご存じですね。サンズ・オブ・ケメットの『Your Queen Is A Reptile』です。アフロ・カリビアンからサウンドシステムまで横断する同作はまさに「ブラック・アトランティック」を体現する1枚で、いまのUKジャズのエネルギーを凝縮したじつに魅力的なアルバムでした。中心人物であるサキソフォニストのシャバカ・ハッチングスは、他方でザ・コメット・イズ・カミングというプロジェクトにも参加しており、そちらではポストパンクやエレクトロニック・ミュージックからの影響を強く打ち出しています。そんなTCICの新作が3月に〈Impulse!〉からリリース! まずは先行公開された“Summon The Fire”を聴いてみてください。めちゃくちゃかっこいいコズミック・ジャズ・ロックです。去年に続いて今年もシャバカがジャズ・シーンを席巻するのでは――そんな気がしてなりません。

現行UKジャズ・シーンの中心人物シャバカ・ハッチングスの大本命ユニットが、遂にメジャー・ファースト・アルバムをドロップ!

●2018年、サンズ・オブ・ケメットで米国〈インパルス〉からメジャー・デビュー(アルバムは英国マーキュリー・プライズにノミネートされる快挙)を飾った、現行UKジャズの中心人物シャバカ・ハッチングス(キング・シャバカ)率いる大本命ユニット、ザ・コメット・イズ・カミング。

●サックスのキング・シャバカ、シンセサイザーのダナログ、ドラムのベータマックスによって2013年に結成。2015年末に12インチとデジタル配信のみでリリースされたデビューEP「The Prophecy」は英 DJ Mag 誌で10点中9.5点の高評価を獲得し、ジェイミー・カラムも自身のラジオ番組で「最高のニューカマー」と絶賛。翌2016年にはデビュー・フル・アルバム『Channel The Spirits』を発表。そして今回、満をじしてメジャー・デビュー作をドロップ。

●エレクトロニカやポスト・ロック色の濃厚なスペーシーなサウンド・プロダクションとシャバカが奏でるキャッチーなメロディはトリップ効果絶大!

THE COMET IS COMING
TRUST IN THE LIFEFORCE OF THE DEEP MYSTERY

ザ・コメット ・イズ ・カミング
『トラスト・イン・ザ・ライフフォース・オブ・ザ・ディープ・ミステリー』
2019. 3. 1 ON SALE
UCCI-1045
¥2,700 (税込)
impulse! / Universal
全世界同時発売
日本盤ボーナス・トラック収録

【収録曲】
01. ビコーズ・ジ・エンド・イズ・リアリー・ザ・ビギニング
  Because The End Is Really The Beginning (4:49)
02. バース・オブ・クリエーション
  Birth Of Creation (5:04)
03. サモン・ザ・ファイアー
  Summon The Fire (3:55)
04. ブラッド・オブ・ザ・パスト feat. ケイト・テンペスト
  Blood Of The Past feat. Kate Tempest (8:15)
  (Danalogue/Betamax/Shabaka Hutchings/Kate Tempest)
05. スーパー・ゾディアック
  Super Zodiac (4:02)
06. アストラル・フライング
  Astral Flying (4:44)
07. タイムウェーヴ・ゼロ
  Timewave Zero (5:21)
08. ユニティ
  Unity (4:14)
09. ザ・ユニヴァース・ウェイクス・アップ
  The Universe Wakes Up (5:25)
10. クロッシング・ザ・リヴァー(ジャーニー・オブ・ザ・デッド)*
  Crossing the River (Journey of the Dead) (6:22)

All tracks written by Danalogue, Betamax, & King Shabaka
except where noted.
Arranged by Danalogue, & Betamax

* 日本盤ボーナス・トラック

【パーソネル】
キング・シャバカ (ts, bcl)
ダナログ (key, synth)
ベータマックス (ds, per, programming)
ケイト・テンペスト (vo) on 4
グラニー (vln) on 4

Recorded by Kristian Craig Robinson at Total Refreshment Studios, Dalston, London, February 20-22, 2017 and August 3, 2017
Mixed by Danalogue & Betamax at Total Refreshment Centre, Dalston, London & The Shard, Forest Gate, London, Oct. 2017 - Aug. 2018
Mastered by Daddy Kev

Produced by Danalogue & Betamax

Amazon / Tower / HMV / iTunes

https://www.thecometiscoming.co.uk/

interview with Swindle - ele-king

 スウィンドルが2013年に発表したデビュー・アルバム『Long Live The Jazz』に収録された“Do The Jazz”。ダブステップのビート感、レイヴなシンセ、そしてファンキーなリフをミックスしたこの曲は、彼のなかにある多様な音楽の生態系を1曲のなかに凝縮したような音だった。多くのラップトップ・ミュージシャンと同じように、ひとりで作曲・編曲をこなしミクスチャーな音を届けてくれたスウィンドルは、新作『No More Normal』でさらなる進化を遂げている。自己完結型の作曲・編曲だけでなく、共作するミュージシャンを集め、その「指揮者」となって、彼らの演奏からオリジナルなサウンド・言葉を引き出していったのだ。グライムMC、シンガー、ポエトリーリーディング、サックス奏者、ギタリストなど様々な才能の真ん中に立ち、彼らと制作している。僕が気になったのは、そうした制作手法の意味やコラボレーションのコツだ。どのようにして彼らと出会い、どんな関係を築いていくのか。どのような工夫をすれば有機的な時間を作り出していけるか。スウィンドルのアルバムを聴いたとき、こうした問いに彼がなにか答えをもっているのではないかと思った。

 制作・コラボの秘訣からはじまったインタヴューは、『No More Normal』の問いの意味をめぐる話につながっていった。2018年11月、アジア・ツアーを周り、代官山UNIT の DBS×BUTTERZ の出演を控えたスウィンドルが誠実に答えてくれた。

自分がダブステップを見つけたというよりは、ダブステップが自分を見つけたという感じ。それはグライムにおいても同じで、自分はずっとグライムの「アウトサイダー」なんだ。

前回ele-kingに登場いただいたのは2016年来日時のインタヴューでした。それから、編集盤『Trilogy In Funk』を2017年にリリース、プロデュースの仕事など様々な仕事をされてきましたが、今作『No More Normal』はどのくらいの制作期間だったんですか?

スウィンドル(Swindle、以下S):『Trilogy In Funk』 の後にこのアルバムのプロジェクトをはじめたというわけではなくて、コージェイ・ラディカル(Kojey Radical)と同時並行でいろいろ作っていたりするなかで、このアルバムが生まれたんだ。音楽は「日記」のように書き続けているから、音楽の仕事はすべてが繋がっているように感じているよ。

なるほど、『No More Normal』にはエヴァ・ラザルス(Eva Lazarus)、ライダー・シャフィーク(Rider Shafique)、コージェイ・ラディカル、マンスール・ブラウンといったジャンルやエリアを超えた多彩なアーティストが参加しています。アルバム制作のコラボレーションはどのように進んだのでしょうか。

S:ロンドンの郊外にある Real World Studio という素晴らしいスタジオを2週間貸し切って制作に入ったんだ。そこに自分が一緒に作りたいアーティストを招待した。じっさいにどういうふうに制作が進んだかというと、朝10時にはエヴァ・ラザルスがきて、12時にはべつの人が来てエヴァに加わったり、マンスール・ブラウンがギターで加わったりとか。だから何も強制せずにすべてが自然に起こったんだよね。 アーティストと一緒に制作するとき、いま取り組んでいることを止めてべつのことをやらせたりとか、「時間が無駄だからこれをやって」というように言ったりすることはしないんだ。夜9時になって、全体を見て「ひとつアイディアがあるんだけど、こういうことをやってみるのはどう?」と提案することはあるけど、やっぱりルールがあるわけじゃないし、プレッシャーもなかったよ。

それはすごく理想的な環境ですね。短い時間だけスタジオに入って作業すると、「この時間内に成果を出さなきゃ」というプレッシャーがあったりします。

S:そうだね。参加してくれたアーティストのなかにはロンドン以外を拠点に置いている人もいて、べつべつに作業することもあったけど、基本的なアイディアとしてはみんなで長い時間いて、その場所にいて制作するということ。これまでは、言ってくれたように2時間だけスタジオを借りて、そこでちゃちゃっと作っちゃうっていうことをしてきたけど、今回はそうじゃなくて、2週間という期間があったのがよかった。

このアルバムを聴いていて、じつは最初は「なんて生音のように素晴らしいシンセサイザーなんだ」ということを思ったんです。僕のミュージシャンの友だちはあなたのお気に入りの VST(作曲ソフト上で作動する音源ソフト)を知りたいみたいだったんだけど、そういうわけではないようですね。

S:VST は入ってないね。今回はサンプリングもいっさいしていない。808 の部分とピアノのいくつかは使っているけど、それ以外では MIDI も使っていない。ほんとうにそのスタジオで録った音しか収録されてないんだ。

アナログな手法が音の質感の変化にもつながっていますね。一方で『Trilogy In Funk』に引き続き、ゲッツ(Ghetts)やD・ダブル・E(D Double E)、他にもP・マニーといった第一線のグライムのMCが多く参加していますが、レコーディング中のエピソードはありますか。

S:ゲッツとの共作“Drill Work”を作っているときかな。ロンドンのスタジオで、初日はビートを作って、その次の日にヴァイオリン、その次の日にホーンというふうにレコーディングしていったけど、ゲッツはその音に対してノートも使わずにその場でビートをスピットしていったんだ。マイクの前に立って、ゲッツが「Been there, Done there, No Talk, Don chat」とスピットして、俺は「イェー」って感じ。そういうことが生まれるのもスタジオのいいところだね。まるでスタジオを「白いキャンバス」として使うようで好きなんだ。自分の音楽がほかの人をインスパイアして、それがさらに次に繋がっていって、一緒に作っているという感覚がある。

生の空気がそのまま制作につながっていくんですね、ヴァイブスの高さはゲッツらしい感じがします。ほかに一緒に参加したアーティストはどのように選んでいますか?

S:とにかくまずはその人の音楽が好きなこと、そして「正直」なことをやっている、音楽を感じられること。「真のアーティスト」であると感じられること、そして自分がつながりを感じられること。「人気がある」とかほかの瑣末なことは関係ないよ。スタジオでケミストリーが生まれるかどうかが大事だな。

誠実さというのがいちばんキーになるのはすごくおもしろいと思いました。少しむかしのことを振り返るような感じになりますが、スウィンドルが「スウィンドルになる前」についても聞かせてください。私は最初あなたの音楽を「ダブステップ」や「UKベース」の棚で見つけました。ご自身はダブステップのシーンが非常に勢いづいていたクロイドンで生まれ育っていますが、そこまでダブステップにハマっていたというわけではなかったんですね。

S:自分がダブステップを見つけたというよりは、ダブステップが自分を見つけたという感じ。クロイドン(*)が出身だけど、もともと作っていたものを外の人が聴いて、「こういうのやらない?」と誘われた感じだね。それはグライムにおいても同じで、自分はずっとグライムの「アウトサイダー」なんだ。たとえば、アラバマ出身でカントリー・ミュージックをやるっていうのは「ふつう」のことかもしれない。だけど、「ふつう」にはないようなユニークなことをやっている人が、お互いをサポートするためのシステムが〈Butterz〉だったりするんだ。たとえば僕が応援している ONJUICY が日本でグライムをやっているってことは、もうそれだけで「違うこと」をしているわけだよね。だから彼をすごく応援したいし、彼の立場に共感できるんだ。

オーセンティックになるためには「自分自身」でなければいけないと思うよ。ただそれは「何かから距離をとる」っていうことじゃなくて、あらゆるものにより近づくってことだと思う。

いまUKのジャズ・シーンにはすごく勢いがあって、おもしろい作品がたくさん生まれています。今回のアルバムにはヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)やマンスール・ブラウンが参加していますが、ジャズとの関わりはいかがでしょうか。

S:ヌバイア・ガルシアとはむかしからの仲で、僕のショーのサポートでも演奏してもらっている。彼らとのストーリーといえば、2013年に1st アルバム『Long Live The Jazz』をリリースしたときにいろいろな人から「ジャズというジャンルは人気じゃないし、そのジャンルに自分を並べることは今後の音楽活動に悪い影響がある」という話をされたんだよね。でも後から、アルバムに参加しているマンスール・ブラウンとかヌバイア・ガルシアや、ヘンリー・ウーユセフ・デイズ、エズラ・コレクティヴ、フェミ・コレオソ(Femi Koleoso)といったミュージシャンが僕を見てくれていて、僕が「ジャズ」という言葉を使ったことで、彼らが新しいムーヴメントを起こすときに後押しされたと言ってくれた。だからといって、べつに僕は「彼らの成功は自分のおかげだ」と言うことはまったくないけどね。僕はジャズという言葉を文字通りの意味以外の意味で使っていた部分もあるけど、僕がしてきたことで彼らを後押しできたことはとても素晴らしいことだと思っている。

非常におもしろい話ですね。そういったことを踏まえて、ジャズについてご自身はどのような立ち位置だと感じていますか? グライムやダブステップと同じようにやはり「アウトサイダー」でしょうか。

S:やっぱりアウトサイダーのような感じだね。ヌバイア・ガルシアと自分は同じアーティストとしてメッセージを発していて、彼女とは従兄弟のような感じかな。

そういう意味では影響を受けている音楽も含めて、あらゆる音楽から少し距離を置いているというか、言い方を変えれば「孤立」しているという感じでしょうか。そういういわゆる「オーセンティックなもの」からは……

S:だから「自分がオーセンティック」なんだよね。たとえば「オーセンティックなグライムをやる」っていうのは、他のオーセンティックな人に合わせるっていうことだと思う。そしたら、オリジナルの人はオーセンティックかもしれないけど、フォローする人はオーセンティックじゃないんだよね、オーセンティックになるためには「自分自身」でなければいけないと思うよ。ただそれは「何かから距離をとる」っていうことじゃなくて、あらゆるものにより近づくってことだと思う。(ジャズ・レジェンドの)ロニー・リストン・スミスとも仕事するし、(グライムMCの)D・ダブル・Eとも仕事してきた。ほかの人から、「そんないろんな人と仕事をしているのはスウィンドルだけだ」って話を聞いた。だから、オーセンティックになるためにダブステップやグライム、ジャズから距離を取るのではく、あらゆるものに近づいて、いろいろなものから影響を受けるっていうことだと思った。

でもそういう人と仕事をするのってけっこう大変なときもありませんか。「友だちになる」っていうこともコラボレーションのなかには入っているでしょうから。

S:でも何も強制することはないよ。自分はこれだけ音楽に浸ってきているので、ライヴとかショーとか、他のときに一緒にいたというきっかけで繋がって打ち解けることが多い。具体的に「どこで」出会ったかとかは忘れてしまっているけど、音楽に対して向き合う姿勢やリスペクトはすごく大事だね。

なるほど。少しネガティブな話になりますが、そうした音楽キャリアのなかで自分の成功やこれまでの評価が逆にプレッシャーになることはありませんか。

S:2013年に、ロンドンのクラブ Cable でDJしたときに、電源が止まって、音が止まってしまったんだ。そのときに満杯のお客さんに対してどうしたらいいかわからなくて。

それはある意味でプレッシャーですね(笑)。

S:そう、でもそのときに自分の口から「Long Live the Jazz」という言葉が出て、それでお客さんとコール・アンド・レスポンスしたんだ。そこからはじまった。いまは多いときは毎週5000人のお客さんに会うことになる、そんな生活はすごく恵まれていると思う。音楽キャリアのなかでいちばん大変なのは飛行機とか車で移動することだけど、音楽をやることはぜんぜんプレッシャーには感じてない。一方で、音楽で生計をたてていることには責任を持たなければいけないと思っているよ。なぜかというと、音楽をやって生活しているということは特権的な生活だから。そのためには、自分が好きな音楽だけをやってそれで自分がハッピーになって、周りの人にポジティヴなものを返す、与えるっていうことを大事にしているよ。

みんなが憧れるような人気DJやアーティストとして素晴らしい仕事をしていても、不幸になってしまう人もいますね。

S:そうだね、それはすごく気をつけなくちゃいけない。結局不幸せになるっていうのは「やりたくないことをやっている」からだよね。たとえば歌がうまくて歌手になったのに、着たくない衣装を「人気が出るから」という理由で着るとか. そういうことが不幸になってしまう最初の状態だったりする。家具職人が最初は手の込んだ家具を作っていたのに、「お金が儲かるから」とか「これが仕事だから」とか、そういう理由で組み立て家具ばかり作らされてしまうみたいなことだ。そうしたら、家具職人はむかしやっていた自分の好きなことが懐かしくなって、いまがすごく不幸に感じられてしまう。それはなぜかというと、「自分はなんでいまこれをやっているのか(Why are we doing what we do?)」っていうことに気を配ってないからなんだ。

まさにアルバムの最初のライダー・シャフィークのメッセージですね(**)。そういう話を聞くと一層メッセージが強く伝わってくる感じがします。アルバムのタイトルになっている「No More Normal」というメッセージはどのような意味がありますか。

S:自分はまずタイトルが決まってからアルバムを作りはじめるといった性なんだよね。3年前に自分が思いついて、いまは自分にとっては「連帯」やコラボレーションを通じて自分たちの未来を作り上げていくというような感じかな。ジャンルやバックグラウンドが違っても、「自分たちらしくある」ことで自分たちの未来を作り上げていくというメッセージを込めているんだ。

(*) クロイドンは南ロンドンの郊外にある地区。2000年代のUKダブステップの興隆の中心となった。
(**) “What We Do (Feat. Rider Shafique, P Money, D Double E & Daley)”『No More Normal』

TINY POPというあらたな可能性 - ele-king

 2018年、私は新しいポップスの気配を感じながら過ごしていました。明確にポップス構造を持った、しかし小さくささやかな音楽が生まれつつあるようです。何年か前に“あたらしいシティポップ"などと言われた音楽は、どうしてもフォークやロック的な価値観がそこにありましたが、インターネット以降に音楽を始めた世代の人たちはギター・ミュージックに迂回することなく直接ポップスに接続し、それを手元のプラグインで再現しています。ポップスを獲得して手元に置いておくささやかな喜び。表面的な粗さ、ローファイさ、デモっぽさはありますが、それすら魅惑的に思える曲たちを、ここではTINY POPと呼んでいくつか紹介させていただきます。


1.mukuchi – 冷蔵庫


mukuchiは兵庫県北部の日本海側沿岸にある漁村で1人音楽を作っている女性宅録ミュージシャン。
Teenage Engineering POシリーズ、KORG VOLCA-KEYSなどのガジェット系シンセを駆使して作られたこのトラックの隙間から普遍的なポップスが立ち上がるのが見えませんか。毎回1小節だけ挿入される聞き慣れない転調にも驚かされる。


2.NNMIE – 風は吹いていた方がいい


NNMIEは山形出身のミュージシャン。2011年からインターネット上に曲をアップし始め、彼の影響で音楽を始めたと公言する人も多い。2017年に入ってから東京でもライブ活動を始めている。この男女のユニゾンで歌われるメロディは2018年耳にしたもので最も美しいものの1つだった。


3. ゆめであいましょう - odayakani hisoyakani


ゆめであいましょうは5人のバンド編成では日本のフォークやサイケの影響を感じさせる演奏をするが、この打ち込み80年代歌謡の路線は現世を生きている人とは思えない歌詞とメロディだ。完全に構造を把握して作曲しているのがうかがえる。中心人物の宮嶋さんはヤマハのポプコンに出場するのが目標と言っていたがやはり現世を生きているとは思えない。女性ボーカルのJ-POP的な上昇志向とは無縁の真っ直ぐな歌声(これもJ-POP的な声の評価で使い古されている表現だがまさに)も本当に素晴らしい。2019年はこの打ち込み80s路線の音源を作るらしいので期待です。


4. どろうみ - 花よ花よ


どろうみは日本のオルタナティブフォークの伝統を受け継ぐユニットで、現在はボーカル・ギター・チェロ・アコーディオンの4人で活動している。この曲は天童よしみに歌わせるつもりで作ったとコメント欄にあるように演歌の構造を手元にトレースすることに成功している。関係ないが先日浅草の宮田レコード(演歌の営業・インストアライブでも有名な老舗レコード屋)に久しぶりに立ち寄った際、店内を見回してもまだ新譜を7インチで出すという文化は演歌界には届いていないことがわかった。インディー演歌という理論上は存在するジャンルのこの曲をレコードにしてどろうみのポスターと一緒に店頭に並べることは可能だろうか?


5. onett - 干されてもいい


onettは埼玉の宅録ミュージシャン。この曲は彼の代表曲ではないかもしれないが筆者の心に刺さり2018年の前半によく家で口ずさんでいました。エルヴィスコステロ、そして"日本のエルヴィスコステロ"の構造を譜割りから音色まで抽出することによって明らかにし、そこに平易な歌詞が載る(いきなり拙者という言葉が飛び込んでくると驚いてしまいますね)。この曲から、ポップスの構造把握には移入とは別にまだまだ可能性があると気づかされました。


6. アフリカレーヨン – 上海で逢いましょう


アフリカレーヨンはボーカルを担当するmimippiiiと作曲を手がけるmikkatororoのユニット。現在は活動を休止している。
ボーカルのmimippiiiも80年代初期グループアイドルを彷彿とさせるような曲を作る優れたソングライターだが彼女の楽曲は現在全て非公開になっている。(ナイーブさを持った作家の人も多いので曲がアップされたらすぐ聴かないと!という気になってしまいます。) mikkatororoが作詞作曲を手がけたこの曲はアフリカレーヨンが残した全6曲の中の最高傑作で、このまま他のシンガーが歌ってヒットになってしまってもおかしくないくらいのクオリティだ。活動再開としかるべき形でのリリースを期待したい。


7. Maho Littlebear – リスボンの夏


シンガー・トラックメイカーのMaho Littlebearは現在は京都からドイツ・フランクフルトに拠点を移して活動中。硬質なビートに自身のボーカルが乗るトラックが多数soundcloudに公開されているが、3年前のこの曲は趣を異にしている。これはリスボンへの郷愁を歌ったもので、ここで発せられるカリプソのパルスからは80年代後半のワールドミュージックブーム(トレンディエスノ by anòuta)を取り入れた日本のポップス(早瀬優香子、ANNA
BANANA、戸川京子、岩本千春の91年コンピレーション”World Beat Beauty”が有名)が偶然か聴こえてこないだろうか。


8. にゃにゃんがプー - おねむのくに


モバイル版GarageBandで制作したオケにチャイルディッシュなボーカルを載せるスタイルで"ニュー餅太郎(2015)"という名曲とともに世に登場したにゃにゃんがプー。その音色から日本のニューウェーブやテクノポップの文脈で語られることが多いが、一昨年に出たこの曲のイントロや間奏への転調、音色を使い分け交わされるインタープレイなどを改めて聴くとlate 80s歌謡を現代にトレースした最良の曲の1つだという確信をもった。今年アルバムが出るらしいので期待したい。


9. mori_de_kurasu – MIMOCA


“森で暮らす”氏はジャズスタンダードを素材にしたサックスの多重録音やジャズクラブでの演奏にも取り組むアルトサックス奏者。この曲はシンセを使ったフュージョン調でここ数年のVaporwaveやフュージョン再評価の流れに沿ったものではあるがジャズプレイヤー側から出てきたのは悲願というかやっと来たか!と唸ってしまいました。ジャズ出身の人でこの価値観をsoundcloudでやる人が出て来てほしいと思っていた人も多いだろう。サックスの音色が素晴らしい!今後の活動にも注目です。


10.Utsuro Spark – シーサイド


 Utsuro SparkはPIPPI・コロッケ・土萠めざめの3人によるユニット。昨年各所で話題になったネットレーベルLocal Visionsから出たEPは私の2018年ベストチャート1位でした。声・作曲・編曲全て素晴らしい。どの曲もアイデアがありながらオーセンティックな響きを持っているがこの曲だけ一聴しても異様で、様々なポップスの記憶に引っ張られそうになりながらもそれを裏切り続けて進むコード進行が素晴らしい。PIPPI氏は "最近もう「明日からアマチュアの曲しか聴けない」という制約を受けても余裕だと思えるな。音楽が商業化して大資本が管理してた時代が一段落して個人個人のもとに戻ってきたように思える"とツイートしていたがそれこそTINY POPの思想そのものです。


11. wai wai music resort - 夜の思惑〜Last Bolero


waiwai music resort は作曲と演奏を担当するエブリデと歌のLisaによる兄妹ユニット。ここ数年、日本でも起きているキューバのフィーリン再評価によってボレロという言葉がポジティブに響く時代になっているが、その反射がTINY POPS界にも届いている。この曲はそのボレロのリズムに乗って螺旋状に上昇していくブラジル寄りのメロディが素晴らしい。


12. feather shuttles forever - 提案 to be continued edit (feat. Tenma Tenma, kyooo, 粟国智彦, 入江陽,SNJO, 西海マリ)


 feather shuttles forever はhikaru yamadaと西海マリによるユニット。この曲は関西を代表する90年代シティポップディガーのinudogmask
aka.台車によるmix(https://soundcloud.com/inudogmask/inudogmask) にインスパイアされて書きました。多数のゲストを迎えたTINY POPSのチャリティーソング。2人でメロディを書き分けているので一度もループしないのが特徴です。


この他にも自薦・他薦に関わらずこれこそtiny popだと思うものがあったら連絡ください。ぜひ紹介させてもらいたいしリリースの手伝いなどもやります。

Merzbow - ele-king

 ノイズ/ミュージックとは物体の持つ「声」の残滓だ。いまは/いまも存在しない「声」でもある。発したモノがなにものかわからない「声」。しかし、その「声」は、かつて確かに世界に響いていた。音、音として。どんなに小さく、どんなに儚くとも、その「声」は世界に対して轟音のような己の意志を発する。そのようないまは消え去ってしまった「声」のすべてを蘇生すること。「声」とは存在や物体すべてが有している音でもある。「声」とは音だ。となれば刹那に消え去ってしまった「声」は「最後の音楽」といえないか。音。その音は小さく、しかし大きい。存在と幽霊。蘇生と爆音。となればノイズ/ミュージックとは「声」=音の存在を拡張する方法論だ。いまここでは幽霊になってしまった最後の「声」=音たちの蘇生の儀式なのである。

 メルツバウの新作『Monoakuma』を聴きながら、改めてそのようなことを思ってしまった。なんと想像力を刺激するアルバム・タイトルだろうか。「モノアクマ」。具体と抽象が同時並走するようなこの言葉は、先のノイズ/ミュージックというマテリアルな「音楽」の本質を見事に掴んでいるようにも思える。まず、このティザー映像を観て頂きたい。

 まるで黒い幽霊の「声」と「影」のごとき映像は、まさに「モノアクマ」ではないか。「モノアクマ」の発する「最後の音楽」としてのノイズ(の断片)。この感覚は、本作だけに留まらない。私は、メルツバウのノイズを聴いていると、いつも「最後の音楽」という言葉が頭を過ってしまうのだ。音楽から轟音/ノイズが生まれ、やがて音楽はノイズに浸食され、融解し、そのノイズの中にすべて消失し、やがて終わる。消失直前の咆哮のごとき「最後の音楽」。
 だが重要なことは、「最後の音楽」である以上、「最初の音楽」もあったという点である。その「最初の音楽」とはキング・クリムゾンの『アースバウンド』かもしれないし、ピンク・フロイドの70年代の演奏かもしれないし、ジミ・ヘンドリックスかもしれない。もしくはサン・ラーかもしれないし、ブラック・サバスかもしれない。あるいはデレク・ベイリーなどのフリー・インプロヴィゼーションかもしれないし、ヤニス・クセナキスなどの現代音楽/電子音楽かもしれない。
 しかしここで重要なことは、それぞれの固有名詞「だけ」ではない。メルツバウにとって「最初の音楽」が「複数の存在」であったことが重要なのだ。複数性からの始まりとでもいうべきか。ノイズという原初の音の中に複数の音楽聴取の記憶が融解し、生成変化を遂げている。いわばノイズ/ミュージックとは、千と一の交錯であり、音の記憶の結晶であり残滓なのだ。
 そこにマイクロフォンによる極小の音から最大への拡張があったことも重要である。マイクロフォンで音を拾い、拡張し、どんな小さな音も轟音へと変化させること。メルツバウがその活動最初期に掲げていた「マテリアル・アクション」は、そういったノイズの原初の音響を示していた。

 つまり、メルツバウというノイズ・プロジェクトは、その活動最初期から三段階の進化を一気に得ることでスタートしたといえる。まず、ロックやフリージャズ、現代音楽などの音楽の記憶、ついでマイクロフォンによる音の拡張、そしてそれらの意識/手法の融合としてのノイズ/ミュージックの生成。となると2010年代のメルツバウは、その進化の最先端/最前衛に位置しているともいえる。
 じじつ10年代のメルツバウは、まるで巨大なノイズの奔流と微細な神経組織が交錯するようなノイズ・サイバネティクスとでもいうべきノイズの生態系へと至っているのだ。それは実体と抽象が交錯するノイズ/ミュージックの必然的な進化=深化だろう。現在のメルツバウのサウンドを聴取すると、私などはローラント・カインの音楽を思い出してしまうほどである。40年近い活動の中で、メルツバウのノイズを生み、ノイズを越境してきたのだ。

 その意味で、00年代以降のドローン音響作家を代表するローレンス・イングリッシュが主宰するエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈Room40〉からリリースされた『Monoakuma』は重要な作品に思える。まずここで重尾なのは「40」という数字だ。1979年から活動を開始したメルツバウ(初期は水谷聖とのユニット)は、2019年に活動40周年を迎える。
 その「40周年」を直前とした2018年12月に「40」という数字を持った名のレーベルからアルバムをリリースしたのだ。これは非常に意味深いことに思える。むろん、ローレンス・イングリッシュはヘキサとしてメルツバウとのコラボレーション・アルバムをリリースしているし、イングリッシュ自らが署名付きで執筆した本作のリリース・インフォメーションで、2000年代半ばにおけるメルツバウ/秋田昌美との出会いを書き記してもいた。つまり〈Room40〉との邂逅は10年以上前から準備されてはいたのだが、それゆえに「40」という数字を巡る必然には改めて唸ってしまう。アンビエントを基調とするレーベルからメルツバウのアルバムがリリースされたことは、やはり必然/運命だったのだろう。

 録音されている音自体は、2012年にブリスベンの Institute of Modern Art でおこなわれたライヴ録音だという。しかし一聴しただけでも10年代のメルツバウのノイズ音響そのもののような音だと確信できる。まさにメルツ・ノイズの現在形そのもののような素晴らしい演奏と音響なのである。
 マテリアルとアトモスフィア、モノと幽霊の交錯のような硬質なノイズが、激流のように変化を遂げている。加えて不思議な静謐さすら感じさせてくれた。爆音のノイズが生成するスタティックな感覚。具体音、ノイズ、エラー、モノ、アトモスフィア、生成、終了……。そう、この『Monoakuma』から、過去40年に及ぶメルツ・ノイズの時間の結晶を感じてしまったわけである。
 80年代のマテリアル・アクションからノイズ・コラージュ時代、90年代のグラインドコアの潮流と融合するような激烈なアナログ・ノイズ時代、00年代の〈メゴ〉などによって牽引されたグリッチを取り入れたデジタル・ノイズ時代のサウンドの手法と記憶と音響が、さらなるアナログ・ノイズの再導入と拡張によって結晶化し、聴いたこともないエクセレントな衝撃性を内包したノイズ音響空間が生成されている。まさしくノイズによる無数の神経組織の生成だ。そのような「神経組織の拡張」は、当然、コラボレーションに及び、アンビエントやフリージャズや電子音楽などの音響空間にも浸食し続けている。

 浸食するノイズ/ミュージックの巨大/繊細な神経組織としてのメルツバウ。むろん、マウリツィオ・ビアンキもホワイトハウスもラムレーもスロッビング・グリッスルも SPK もニュー・ブロッケーダースもピタもフランシスコ・メイリノも、すべてのノイズ音楽は「音楽」に浸食する存在だった。そもそも20世紀という時代は、ノイズと楽音の区別が消失した時代である。しかし、そのなかでもメルツバウは、ひとつの原初/オリジンとして20世紀音楽から21世紀の音響音楽に巨大なメルクマールを刻んでいるのだ。メルツバウは、まさに「ノイズ/ミュージック」のひとつの最終形態とは言えないか。

 メルツバウにおいて、「音楽」はノイズの波動と化した(「最後の音楽」だ)。そのノイズ=波の中には無数のノイズが蠢き、ひとつの/無数の音の神経組織を形成する。その聴取は驚異的な快楽を生む。そう、メルツバウを聴くことの刺激と快楽は、そのマクロとミクロが高速で生成されることに耳と肉体が拘束される快楽なのだ。ノイズはモノであり、そのノイズ=モノはアクマのようにヒトを拘束し、しかし魅惑する。
 本作もまた50分が一瞬で過ぎ去ってしまうような刺激と、永遠を感じさせるノイズ・コンポジションが発生している。その音はまさに「40」という時間を超える「22世紀のノイズ」の胎動そのものに思えてならない。

Phony Ppl - ele-king

 先週初の来日を果たし、熱気あふれるパフォーマンスを披露してくれたブルックリンの新世代5人組ソウル・バンド、フォニー・ピープル(Phony Ppl)。「西がジ・インターネットなら、東はフォニー・ピープルだ!」と、大きな注目を集めている彼らのニュー・アルバム『mō zā-ik.』が、本日ついにCDでリリースされる。マーヴィン・ゲイやスティーヴィーなど70年代黄金期のソウルを彷彿とさせるその新作は、古き良きブラック・ミュージックの魂が現代においてもしっかり息づいていることを教えてくれる。聴かないと単純に損しちゃいますよ。

現代最高のヒップホップ~ソウルを響かせるフォニー・ピープルによる最新作『mō zā-ik.』が遂に本日リリース! KANDYTOWN の MASATO、KIKUMARU からの推薦コメントも到着!

これが現代最高のヒップホップでありソウルだ! 歌姫エリカ・バドゥとの共演も果たすブルックリンのヒップホップ・ソウル・コレクティヴ=Phony PPL(フォニー・ピープル)による最新作『mō zā-ik.』が念願の世界初CD化! さらに KANDYTOWN の MASATO、KIKUMARU からアルバムへ対する推薦コメントも到着!

https://www.youtube.com/watch?v=ri_3z0l1HMI

■MASATO(KANDYTOWN)
ジャンルに縛られないメロディとドラミングが Phony Ppl のオリジナルさだと感じる。
曲の展開はいい意味で期待を裏切ってくる。特に、“Move Her Mind.”がHookに入る前の引き的な感じでずっと進んで、気持ちよく終わって行くのがいい。アルバム通して聴ける作品。

■KIKUMARU(KANDYTOWN)
Phony Ppl は何よりもライブが良い。New Yorkでドラマーのマヒューと出会い、Blue Noteでの公演を見たあの日から完全に彼等のファンになってしまった。
何処と無く感じるNYのGroove。“Way Too Far”から“on everytinG iii love”までのSmoothな流れに誰もが心を踊らされるだろう。
今後の Phony Ppl に期待せざる得ない。


◆これまでに届いた豪華推薦コメントの数々も必読!

■DJ JIN(RHYMESTER, breakthrough)
連綿と続くソウル・バンドの系譜を思い起こしながら、いまの極上グルーヴをシミジミと味わう。やっぱ音楽最高。個人的には、あのヒップホップ・レジェンド、DJジャジー・ジェイの息子=マフューがドラムを務めていることにグッとくる。

■小渕 晃(元bmr編集長、City Soul)
ロスアンジェルスの The Internet、ロンドンの Prep、それに Suchmos らと同時進行で、いまの世界的なソウル・バンド・ブームを牽引するニューヨークの注目株の、注目しないわけにはいかない新作。
ポップさと、コンシャス具合のバランスがオリジナルで、繰り返し聴きたくなる1枚です。

■末﨑裕之(bmr)
西がジ・インターネットなら、東はフォニー・ピープルだ!
ジ・インターネットが「仲間」だと認め、マック・ミラーやドモ・ジェネシス作品に関わるなど西海岸からも支持を得るだけでなく、チャンス・ザ・ラッパーとも共演したブルックリンの音楽集団がさらなる成長と深化を見せるマスターピース。
メンバー個々の才能が混ざり合い、R&B、ファンク、ジャズ、ラテン、ヒップホップが自在に組み合わさった、ひとつのユニークなモザイク画として完成した。
フォニー・ピープル。彼らは間違いなく、知っておくべき“ホンモノ”だ。

■OMSB(SIMI LAB)
あらゆるジャンルを飲み込みながらも、絶妙で軽やかなポップセンスで、どこかレアグルーヴ的な懐かしさも残す本当の意味での王道neo soul。
恐らくそんなジャンル分けにも固執せず、純粋に phony ppl 式の心地良い音楽を作ろうと言う気概を感じます。
信頼のド直球なフリをして程よく裏切るフレッシュなバランス感が最高!
全曲心地良いですが、一押しはビートレスのアコギ一本にハスキーな子供の声風ピッチチェンジが効いたM7 “Think You're Mine”! 兎に角楽しんで!

【アルバム詳細】
PHONY PPL 『mo'za-ik.』
フォニー・ピープル 『モザイク』
レーベル:Pヴァイン
発売日:2019年1月23日
価格:¥2,200+税
品番:PCD-22412
[★解説:末﨑裕之 ★世界初CD化]

【Track List】
01. Way Too Far.
02. Once You Say Hello.
03. somethinG about your love.
04. Cookie Crumble.
05. the Colours.
06. One Man Band.
07. Think You're Mine.
08. Move Her Mind.
09. Before You Get a Boyfriend.
10. Either Way.
11. on everythinG iii love.

On-U Sound - ele-king

 いやー、嬉しいニュースですね。かなり久びさな気がします。〈On-U〉がそのときどきのレーベルのモードをコンパイルするショウケース・シリーズ、『Pay It All Back』の最新作が3月29日に発売されます。
 最初の『Vol. 1』のリリースは1984年で、その後1988年、1991年……と不定期に続けられてきた同シリーズですけれども、00年代以降は長らく休止状態にありました。今回のトラックリストを眺めてみると、ホレス・アンディリー・ペリーといった問答無用の巨匠から、まもなくファーストがリイシューされるマーク・ステュワートに、思想家のマーク・フィッシャーが『わが人生の幽霊たち』(こちらもまもなく刊行)で論じたリトル・アックスなど、〈On-U〉を代表する面々はもちろんのこと、ルーツ・マヌーヴァやコールドカットやLSK、さらに日本からはリクル・マイにせんねんもんだいも参加するなど、00年代以降の〈On-U〉を切りとった内容になっているようです。これはたかまりますね。詳細は下記をば。

Pay It All Back

〈On-U Sound〉より、《Pay It All Back》の最新作のリリースが3月29日に決定! リー・スクラッチ・ペリーやルーツ・マヌーヴァらの新録音源や未発表曲を含む全18曲入り! 日本からはリクル・マイ、にせんねんもんだいが参加!

ポストパンク、ダンス・ミュージックなど様々なスタイルの中でダブを体現するエイドリアン・シャーウッドが率いるUKの〈On-U Sound〉より、1984年に初めてリリースされた《Pay It All Back》シリーズの待望の最新作、『Pay It All Back Volume 7』のリリースがついに実現! リリースに先立ってトレイラーと先行解禁曲“Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich”が公開された。

Pay It All Back Volume 7 Trailer
https://youtu.be/Ro8QcLi5azg

Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich
iTunes: https://apple.co/2W5AA6l
Apple: https://apple.co/2R36YD1
Spotify: https://spoti.fi/2DmeqW0

今回の作品にはルーツ・マヌーヴァ、リー・スクラッチ・ペリー、コールドカット、ゲイリー・ルーカス(from キャプテン・ビーフハート)、マーク・スチュワート、ホレス・アンディといった錚々たるアーティスト達の新録音源、過去音源の別ヴァージョン、そして未発表曲などを収録した、まさにファン垂涎モノの内容となっている。また、日本からはリクル・マイ、にせんねんもんだいが参加している。

LPとCDには〈On-Sound〉のバックカタログが全て乗った28ページのブックレットが付属し、デジタル配信のない、フィジカル限定の音源も収録されている。また、アルバム・ジャケットにはクラフト紙が使用された、スペシャルな仕様となっている。

〈On-U Sound〉からのスペシャル・リリース『Pay It All Back Volume 7』は3月29日にLP、CD、デジタルでリリース。iTunes Storeでアルバムを予約すると、公開中の“Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich”がいち早くダウンロードできる。

label: On-U Sound / Beat Records
artist: VARIOUS ARTISTS
title: Pay It All Back Volume 7
cat no.: BRONU143
release date: 2019/03/29 FRI ON SALE

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10072

TRACKLISTING
01. Roots Manuva & Doug Wimbish - Spit Bits
02. Sherwood & Pinch (ft. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich
03. Horace Andy - Mr Bassie (Play Rub A Dub)
04. Neyssatou & Likkle Mai - War
05. Lee “Scratch” Perry - African Starship
06. Denise Sherwood - Ghost Heart
07. Higher Authorities - Neptune Version*
08. Sherwood & Pinch ft. LSK - Fake Days
09. Congo Natty - UK All Stars In Dub
10. Mark Stewart - Favour
11. LSK and Adrian Sherwood - The Way Of The World
12. Gary Lucas with Arkell & Hargreaves - Toby’s Place
13. Nisennenmondai - A’ - Live in Dub (Edit)
14. African Head Charge - Flim
15. Los Gaiteros de San Jacinto - Fuego de Cumbia / Dub de Sangre Pura (Dub Mix)
16. Little Axe - Deep River (The Payback Mix)
17. Ghetto Priest ft. Junior Delgado & 2 Bad Card - Slave State
18. Coldcut ft. Roots Manuva - Beat Your Chest

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291