「PAN」と一致するもの

黄金期NYヒップホップの神髄 - ele-king

 『The Science』。このアルバム名が初めて世に出たのは1992年のこと。同年に出た『Breaking Atoms』以後初となるメイン・ソース待望の新曲 “Fakin' The Funk”、その12インチ・シングルのジャケットに貼られたステッカーに、「Look for the MAIN SOURCE album "THE SCIENCE"」の文字が踊っていたのだ。メイン・イングリーディエント “Magic Shoes” のコーラスを用いた華やかな冒頭から一気に惹き込まれる “Fakin' The Funk” の素晴らしさもあって、『The Science』への期待はこのとき、最高潮に膨れ上がっていたのだが、しかし……。

 メイン・ソースは1989年に結成された。カナダはトロント出身で、子どものときに家族皆でニューヨークはクイーンズに移住してきたK・カット、サー・スクラッチのマッケンジー兄弟。ニューヨークはハーレム生まれでクイーンズに育ったラージ・プロフェッサー。偶然か必然か、K・カットとラージはクイーンズのハイスクールで出会い、意気投合。K・カットの弟も交えてグループを組んだ。
 マッケンジー家は音楽一家だった。ジャマイカ系の祖父はミュージシャンで、彼のレゲエ・レコードのコレクションが、後にメイン・ソースの曲づくりに活かされた。血縁者にはなんと、80年代にカリビアン・テイストのダンス・ミュージックで一斉を風靡したエディ・グラント、そして、90 - 00年代にビート・メイカーとして名を馳せたラシャド・スミスがいる。
 なので、音楽ビジネスもよく知るマッケンジー兄弟の母親、サンドラがマネジメントを担った。彼女はすぐに、クイーンズの名物レコーディング・スタジオ、1212へメンバー3人を連れていくのだが、そこでポール・Cに出会えたことが、メイン・ソースの成功を決定づけた。

 ポール・Cは、E-mu社のSP-1200=サンプラーを用いたヒップホップのビート制作法を確立し発展させたパイオニアのひとり、偉人中の偉人だ。レコード・コレクションもすごかった彼はレアなネタ使いでも、この時代のヒップホップ・ビートを急速に進化させた。1987 - 1989年に彼がプロデュース、プログラミング、ミックスなどを担った、マイキー・D&ザ・LA・ポッセ、スーパー・ラヴァー・シー&カサノヴァ・ラド、ブラック・ロック&ロン、ケヴ・E・ケヴ&AK-B、スティーゾらの諸作は全て名作、聴きものだらけ。詳細なクレジットなしでも、聴けばポール・C仕事だとわかるウルトラマグネティック・MCズ『Critical Beatdown』、エリック・B.&ラキム『Let The Rhythm Hit 'Em』といった名盤中の数曲も語り草だ。そして、オーガナイズド・コンフュージョンもポール・C門下生なのだが、彼の最後の弟子となったのがメイン・ソースの3人だった(ちなみに、ラージ・プロフェッサーからもSP-1200の扱いを学んだピート・ロックは、マーリー・マールとポール・C、パイオニアふたりの技を受け継ぐサラブレッドだ)。

 メイン・ソースのデビュー・シングル「Think c/w Atom」は、サンドラが息子たちのために設立したアクチュアル・レコーズから1989年中にリリースされた。おそらくは、メンバーがベーシックとなるネタのレコードを持ち込み、それをポール・Cがプログラミング、ミックスなどした2曲は、ポール・C印のサウンド、ノリと、最初から光るものがあったメンバーのネタ選びの相性の良さが感じられる、いきなりの名作だった。
 ポール・Cはしかし、1989年7月17日、何者かに殺害され24歳で急逝してしまう。それでも、「ポール・Cの教えの通りにつくろうと思った」というK・カット、そして、後には「Paul Sea Productions」なるクレジットを入れるほど師匠を愛したラージにより、ポール・Cの教えは忠実に受け継がれる。そうして出来上がったのが1991年の、メイン・ソースの1st『Breaking Atoms』だった。

 『Breaking Atoms』は、この時代のニューヨーク・ヒップホップを代表する傑作のひとつ、という評価が世界中で定まっている名盤だ。こちらも師匠の技を受け継いだエンジニア、アントン・パクシャンスカイの働きもあり、ポール・C印のビート・メイクが見事に継承され、他にはない特別な音像が聴く者を魅了する。マッケンジー兄弟の見せ場となるスクラッチ・ワークに、本作でレコード・デビューを果たしたナズやアキネリとのマイク・リレーも含めて、ラージの無骨なラップを活かす様もウマい。そして何より、ネタ選びのウマさ、おもしろさだ。曲の印象を決定づける、これぞ!というネタを用いたワン・ループづくりがとにかく抜群だった。
 DJというよりもターンテーブリストで、ソロ・ワークの少ないサー・スクラッチはいざ知らず。少なくないK・カットのソロ・ワークを聴けば、『Breaking Atoms』がラージひとりではつくり得なかった、グループの集合知が生んだ傑作であることがすぐにわかる。

 マエストロ・フレッシュ・ウェスのアルバム『The Black Tie Affair』、クッキー・クルー “Secrets (Of Success) (Live At The Bar-B-Que Mix)”、クイーン・ラティファ “That's The Way We Flow”、フー・シュニッケンズ “La Schmoove (Remix)”、MC・ライト “What's My Name Yo” などなど、91 - 93年のK・カット・ワークスは必聴だ。『Breaking Atoms』が広くウケた理由であるカラフルな、人懐っこいサンプリング・ワークはK・カットに負うところ大なのでは? ラージのストレートなつくりのソロ・ワークと聴き比べていくと、自ずとそのような結論にいたる。

 いまは、多くの才能が集い1曲を仕上げる「コライト」が海外ではあたりまえになった。楽器を演奏するわけではない、打ち込みでつくる音楽はいわばアイディア(そしてエンジニアリング)勝負だ。ひとりでつくるより、複数でアイディアを出し合いつくる方がより良いものが生まれる確率は高い。チームのアイディアの結晶である『Breaking Atoms』はだから特別な1枚になり得たわけで、ラージの脱退により “オリジナル” メイン・ソースが終わってしまったのは本当に悲しかった。
 マネージャーのサンドラが息子ふたりを優遇、ギャラの取り分を巡りモメた挙句のラージ脱退だったようだが……。以前はLA・ポッセと組んでいたマイキー・Dを迎えて制作された新生メイン・ソースの『Fuck What You Think』も、ラージのソロ・アルバム数枚も、『Breaking Atoms』の続きを聴かせてくれるものではなかった。だからこそ今回、オクラ入りとなっていた『The Science』がおよそ30年の時を経てリリースされたのが、とにかく嬉しい。

 なんらかの形で既に聴くことが出来た曲も多い。が、各曲が当時の流行りだったインタールードで繋がれ、きちんとしたアルバムの形にまとめられた『The Science』は聴きごたえがもう全く違う。ヒップホップが日進月歩で進化していた時代らしく、例えるならア・トライブ・コールド・クエストが1stから2nd『The Low End Theory』で見せたような、持ち味はキープしつつもタイトでハードな作風への成長に胸躍る。そしてとにかく音像がやはりスペシャル。『Breaking Atoms』と『The Science』でしか聴けない、ヒップホップ史上でも最良のひとつと言えるサウンドは永遠の宝だ。低音を効かせて、とにかくデカい音で聴けば、この時代のニューヨーク・ヒップホップの神髄を感じられるだろう。

audiot909 - ele-king

 日本でひたすらアマピアノを追求する人物として名高い、DJ/プロデューサーのaudiot909。彼が新しいシングルをリリースする。その新曲“4U ”には、SIMI LABの元リーダーのQNのラップがフィーチャー。昨年は“RAT-TAT-TAT”あっこゴリラをフィーチャーしたaudiot909がまたもやってくれました。
 この夏の都会の香気を漂わせながら、QNのメロウなラップが交錯するこの曲をぜひチェックしてください。

audiot909
4U (feat. QN)

https://linkco.re/7CUzuCg9
Japanese Amapiano Recordings​


​audiot909
元々ハウスのDJだったが2020年から南アフリカのダンスミュージックAmapiano制作に着手。 2022年にリリースされたラッパーのあっこゴリラをフィーチャーしたシングル「RAT-TAT-TAT」はSpotifyの公式プレイリスト+81 Connectなど数多く取り上げられ、世界に広がるAmapianoを取り上げたドキュメンタリー映像にピックアップされるなど自主リリースながら異例のヒットを飛ばす。 並行してSound & Recording Magazine誌での連載や対談、現地のプロデューサーへのインタビュー、ラジオ出演など様々なメディアにてAmapianoの魅力を発信し続けている。​

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QN
神奈川県相模原市出身。 ​
SIMI LABのリーダーとしてシーンに頭角を表す。 ビートメイカー兼ラッパーとして、ヒップホップ・レーベル〈summit〉から出した3枚目のアルバム『New Country』はジャパニーズ・ヒップホップの名作として語り継がれている。 現在は菊地成孔とのユニットQ/N/Kてしてフジロック・フェスティバルの出演やアルバムのリリースを行う。 また、ヒップホップ・コレクティヴMUSASHI VILLAGEの主要メンバーとして参加し、アブストラクトから王道のヒップホップまで幅広くシーンにアプローチをかけている。

Gilles Peterson - ele-king

 ジャズとクラブといえばこの人、イギリスを代表するDJ、ジャイルス・ピーターソン。その選曲の素晴らしさもさることながら、自身のレーベル〈Brownswood〉においてはUKジャズからアフリカ、グローバルまでと幅広く質の高い作品のリリースを続けている、多くのミュージック・ラヴァーたちから信頼のリジェンドが4年ぶりに来日する。東京はO-EAST/AZUMAYAにてオールナイトで開催。これは行くしかない。日本でジャズとクラブを盛り上げてきた功労者にして盟友の松浦俊夫、ファッション界を中心に活躍するDAISUKE G.、Fraser Cookeといった日英の音楽愛好家が参加する。なお、本イベントにはファッション・ブランド、sacaiのサポートが決定している。

2023年9月9日土曜日
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Contact presents Gilles Peterson
-Still Searching for The Perfect Beat-

supported by sacai
at Spotify O-EAST / AZUMAYA

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Lineup:
GILLES PETERSON (Brownswood Recordings / BBC / Worldwide FM I UK)
TOSHIO MATSUURA
DAISUKE G.
FRASER COOKE

Lighting:
MACHIDA

Laser & Visual Effect:
REALROCKDESIGN

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Open 11PM
¥5000 Door
¥4000 Advance
¥3000 Early Bird Ticket (Limited to 100)
¥2000 Under 23
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Gilles Peterson (ジャイルス・ピーターソン)
1980年代よりクラブ・シーンのキーパーソンとしてジャズを中心にしながらも、ジャンルという音楽の境界線を砕き、多くのアーティストと点で結ばれながら世界中のDJとアーティストに大きな影響を与え続け、またリスナーに愛されてきたイギリスを代表するDJ。ラジオ・プレゼンター、クラブDJ、アーティストのプロデュース、フェスティバル主催・キュレーションなど、40年近く第一線で音楽トレンドを発信し続けるテイスト・メイカー。英国営放送局BBC Radio 6 Musicにて週末の看板番組を担当。また2016年、自らオンライン・ラジオ・プラットフォーム「Worldwide FM」を立ち上げた。ロンドンで開催されるWorldwide Awards、フランスのセットで開催されるWorldwide Festivalのホストを務め、2019年にはイギリスで新しいフェスティバルWe Out Hereを立ち上げた。またレーベル・オーナーとして新世代のアーティストを紹介する為に「Brownswood Recordings」を主宰し、次々と新しい才能を発掘し、世に送り出している。自身の作品としては2021年にインコグニートのブルーイとのプロジェクトSTR4TAをスタート。これまでに2枚のアルバムをリリース。また最近は初の著書「Lockdown FM - Broadcasting In A Pandemic」を上梓した。
http://www.gillespetersonworldwide.com


松浦 俊夫 TOSHIO MATSUURA
1990年、United Future Organization (U.F.O.)を結成。5作のフル・アルバムを世界32ヶ国で発表し高い評価を得る。2002年のソロ転向後も国内外のクラブやフェスティバルでDJとして活躍。またイベントのプロデュースやホテル、インターナショナル・ブランド、星付き飲食店など、高感度なライフスタイル・スポットの音楽監修を手掛ける。2013年、現在進行形のジャズを発信するプロジェクトHEXを始動させ、Blue Note Recordsからアルバム『HEX』をワールドワイド・リリース。2018年、イギリスの若手ミュージシャンらをフィーチャーした新プロジェクト、TOSHIO MATSUURA GROUPのアルバムをワールドワイド・リリース。「TOKYO MOON」(interfm 金曜 23:00) 好評オンエア中。
http://www.toshiomatsuura.com


Daisuke G.
1975年生まれ、2007年。源馬大輔事務所を設立。クリエイティヴ・ディレクター/DJ。ファッション、音楽を取り巻く様々なものをプロデュース。店舗内装、イベントと空間プロデュースなども手掛ける。現在のクライアントにはsacai、香港Joyce、Lane Crawford Consultantなども手がける。人気DJとしても大活躍中。
https://www.mixcloud.com/daisuke-gemma/


Fraser Cooke.
(Nike | Mild Bunch)

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【開催日時】
2023年9月9日(土) 23時~5時

【会場】
Spotify O-East
東京都渋谷区道玄坂2丁目14-8
https://shibuya-o.com/east/

【料金】
当日 ¥5000
前売り ¥4000 *8/11(金)13時よりzaiko / e+にて取り扱い
早割り ¥3000 *8/4(金)12時よりzaiko / e+にて100枚限定取り扱い
23歳以下 ¥2000 *要写真付き身分証明書

【前売取扱】
zaiko: https://contacttokyo.zaiko.io/e/Gilles-Peterson-20230909
イープラス:https://eplus.jp/sf/detail/3931120001-P0030001

*20歳未満の方はご入場できません
*写真付き身分証明書をお持ちください

ジャイルス・ピーターソン・ツアー・インフォ

GILLES PETERSON JAPAPN TOUR 2023
-STILL SEARCHING FOR THE PERFECT BEAT-

9月9日(土) 横浜 Local Green Festival
9月9日(土) 東京 Spotify O-EAST / AZUMAYA
Contact presents GILLES PETERSON
-STILL SEARCHING FOR THE PERFECT BEAT-
supported by sacai
9月15日(金) 京都 CLUB METRO
9月16日(土) 大阪 CIRCUS Osaka
9月17日(日) 福岡 THEATER 010

Theo Parrish Japan Tour 2023 - ele-king

 Rainbow Disco Club、秋のオールナイト公演「Sound Horizon」。今年はセオ・パリッシュの登場です。9月22日(金)23時~、会場は2021年にオープンしたGARDEN新木場FACTORY。演出はREALROCKDESIGNが担当します。チケットは3カテゴリー用意されていましたが、すでに「1」と「2」の枠は完売、9,000円の「カテゴリー3」のみ販売中です。『Wuddaji』(20)に『DJ-Kick』(22)に『Free Myself』(23)にと、近年精力的に活動をつづけているセオ・パリッシュ。その最新型を目撃しましょう。

https://rainbowdiscoclub.zaiko.io/e/soundhorizon0922

 そして追加情報です。上述のモーリサ・ローズとのコラボ作がフィジカルでもリリースされることになりました。3LP、ディジパックCD、カセットの3形態です。9月下旬ころに入荷とのこと。こちらもお見逃しなく。

https://diskunion.net/clubt/ct/news/article/0/116023?utm_source=mailmagazine&utm_medium=email&utm_campaign=20230726vegyn

 さらに追加情報(8/20)です。大阪公演も決定しました。
2023.9.23(土) 大阪 @ Club Joule
- Theo Parrish Japan Tour in Osaka -

DJ: Theo Parrish, YAMA (Newtone Records), SHUN145 (tide and time / Jazzy Sport Kyoto)
PA: Kabamix
Coffee: edénico
Open 22:00
Advance 4,000yen Ticket Link e+ https://eplus.jp/sf/detail/3923880001-P0030001
Door 5,000yen
U-23 3,000yen

Info: CLUB JOULE www.club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7南炭屋町ビル2F TEL06-6214-1223

C.E presents Low Jack, Rezzett & Tzusing - ele-king

 ファッション・ブランドC.Eによる最新パーティが9月8日(金)に開催される。ヴェニューはVENT。パリからロウ・ジャック、ロンドンからレゼット、上海/台北からツーシンとなかなかに強力な面子で、これは楽しい一夜になること間違いなしだ。詳細は下記よりご確認を。

[9月4日追記]
 当日、会場限定のTシャツが販売されるとのことです。これは行くしかない!


K-Lone - ele-king

 K-ローンの新作がこれまたシンプルなんだけどすばらしいテクノ・アルバムで、というのをこの手の音楽が好きそうな人に最近会うたびに言っている、この数週間。このくそ暑いなか、そのリフをクーラーの効いた部屋で、鼻歌まじりで歌いたくもなるメロディアスで涼やかなアルバム。

 その名前を意識したのは2018年のパリスの運営する〈Soundman Chronicles〉からのシングル「In The Dust EP」と自身のレーベル〈Wych〉からの「BB-8 / Barbarossa」。聴きようによってはベーシック・チャンネルのダウンテンポ・ヴァージョンとも言えなくもない “Old Fashioned” にひかれて買ったら、併録の軽やかなチル・エレクトロ “In The Dust Of This Planet” にハマってしまった前者。かたや後者のウェイトレスなグライムに、チップ・チューン的サウンドの鼻歌交じりなメロディにも引っかかってしまい……どちらにしろ、ベース・ミュージック・シーンにおける、そのライトさというか、かわいげというか、とにかくあまり当時他では聴けない「軽やかさ」で気になる存在となりました。前述のパリスとのかかわりに加え、〈Idle Hands〉から出していたり、レーベル〈Wisdom Teeth〉を共同運営する相棒のファクタ(Facta)はホッジ(Hodge)とのコラボ・シングルを出していたり、さらに同年の2018年にはファクタが〈Livity Sound〉から「Dumb Hummer / All the Time」を出していたりと、この人たちはブリストルの……というフォルダに勝手に頭のなかで整理してたんですが、いろいろ調べたらロンドンの人たちなのかと。ちょうどその頃ぐらいからふたりの作り出すサウンドは、どこかラウンジーなライトさをメインに出してきていて、ポスト・ダブステップがひとまわりした2010年代末に、完全に復権したイケイケのUKガラージの傍ら、ベース・ミュージック・シーンのなかでUKガラージも内包しながら、鮮やかな差し色のような音楽性で気になる存在となりました。いま思えばDJパイソンの『Dulce Compañia』も2017年にあってという。いまこうして見ると、いまに続く、わりかしライトでチル・アウトなムードのメロディアスなダンス・トラック、そのサイクルはこのあたりに突端があるんじゃないかなと。結果論ですが。

 2020年4月、コロナ禍での世界的なロックダウンとほぼ時を同じくして、〈Wisdom Teeth〉からK-ローンはファースト・アルバム『Cape Cira』をリリースします。キュートな作品というか、ニューエイジなモードとも、いわゆるUKの叙情的・内省的なテクノとも違った、チルでトロピカルな、どこかイージー・リスニングな空気が漂うこのアルバムが、それこそ初期のロックダウン中に最も聴いたアルバムになったという人も多いのではないでしょうか。2020年といえば、多くのDJたちがロックダウン中にアンビエント/リスニング・テクノの作品を作り、2021年前後にはそうした作品が大量にリリースされるわけですが、それより少し早い、しかもロックダウンが本格的になる4月にリリースされたことを考えれば、制作はその前にあたるわけで、ある種のコンセプチャルなサウンドに思えてきます。2021年には同じく〈Wisdom Teeth〉からは、その『Cape Cira』の軽やかな空気感、パイソン『Dulce Compañia』のトロピカルなリズム感を足して、さらにアンビエント・タッチで骨抜きに溶かし込んだようなファクタのアルバム『Blush』もリリース。さらには先日来日も果たしたトリスタン・アープの、やはり『Cape Cira』を発展させたようなアルバム『Tristan Arp』もリリース。〈Wisdom Teeth〉のサウンド、とりわけレーベルのアルバム単位での路線がこの設立者ふたり+他人で、明確になった印象もありました。でもシングルでは、これまた先日来日したイタリアのピエゾなど外部のアーティストを起用しつつ、主宰の両名もUKガラージやハウスを援用しながら、こうしたアルバムでのライトな音楽性の路線とダンスフロアとの接点を模索していくわけです。また2021年には、もう少しダンス寄りながら、同じようなポップな軽やかさを内包したアルバム『Soaked In Indigo Moonlight』を朋友パリスがリリースして外部から援護射撃したような感覚もありました。

〈Wisdom Teeth〉といえば、2022年、多くの新人とともに、BPM100という、いままでジャンルのフォーマットとして「空き」となっていながらも、実はDJたちにとっては意外となじみ深いBPM(このコンピ以前に、彼らの周辺とは離れたところ、例えば日本にもそうしたコンセプトのパーティやミックスはわりと昔から散見されていた記憶はある)をコンセプトにしたコンピ『To Illustrate』をリリースします。ある種のハウスやテクノの定石であるBPM120~130の、どうしても身体が動いてしまう性急なその “強い” グルーヴィーさを持ったBPMと、それ以下のロウでドープな感覚やチル過ぎるスローでどうしてもグルーヴ感が “弱い” BPMの間。これをレーベルが標榜してきた「軽やかさ」をグルーヴとともに追求するために選んだひとつのコンセプトと考えると、いろいろつながるようにも思えてきます。

 そしてこうした活動の後に、このタイミングでリリースされた本作が、実はわりとオーソドックスなハウスやテクノのBPMの楽曲が多いというのもなかなか興味深いですね。「膨張」と名付けられた本アルバムはゆっくりと空間をカラフルに染め上げていくメロディアスで軽やかなサウンドが続きます。ヴォイス・サンプルとオールド・スクールなビデオ・ゲームのポップな色調のオープニング画面を想起させる “Saws” ではじまり、軽やかなエレクトロ・ハウス “Love Me A Little” でアルバムは走り出します。アルバム中盤の “Oddball”~“Shimmer” は、90年代中頃の〈クリア〉や、ラウンジ・リヴァイヴァル期のエイフェックス・ツインμ-Ziqのコラボ=マイク&リッチを思い起こすようなイージー・リスニングなメロディのエレクトロを展開。ダウンテンポ “With U” のけだるいヴォーカルは、最近のUKガラージのイケイケっぷりを象徴するヒット曲 “B.O.T.A. (Baddest Of Them All)” で知られるエリザ・ローズ。
 そして後半、アルバムのBPMは、ハウスへとシフト・アップしていきます。テクノ的な堅さと、フュージョン的なメロディを併せ持つ、ある意味で正調UKディープ・ハウスとも言えそうな2曲 “Gel” “Love Is”。そしてアルバムはUKのリスニング・テクノのクールな伝統をなぞるようなテクノ・トラック “Volcane” で幕を閉めます。全編、ここ数年、彼が追求してきた「軽やかさ」とメロディアスなイージー・リスニングのような感覚というのが、ダンサブルなテクノやハウスの実はオーソドックスなフォーマットにしっかりと練り込まれたアルバムではないかと。こうしたサウンドが今後、どのようにダンスフロアへと波及していくのかが興味深いポイントで、先日のアンソニー・ネイプルズのアルバムもそうですが、DJカルチャー出身のアーティストがこうしたリスニングにおいてもエポックメイキングな作品を出すのはもまたおもしろいですね。

 彼らの影響もあると思いますが、ここ数年、わりとテクノやベース・ミュージック周辺で、メロディやこうした「軽やかさ」が復権している感じもあって、それはある種のR&Bやソウル、もしくは初期のUKやオランダのデトロイト・テクノ・フォロアー的な叙情性や内省的なメロディ、またはプログレッシヴ・ハウスやトランスの壮大な感じの感覚とも違っていて、このあたりの感覚をふと先日どこかで聴いたな……と思い出したんですが、やっぱり2014年のエイフェックス・ツインの復活作『Syro』なんですよね。特に先行で公開された冒頭の “Minipops 67 (Source Field Mix)”。ひさびさの作品ということで件の曲を聴いて「ああ、こういうのありだよな」というのが実はあって、なんとなくこれがゲーム・チェンジャーになったのではないかという妄想も浮かんだりします。もちろんK-ローンがそこを目指していたかはわかりませんが、サウンドの空気感としては同じモノを感じてしまいます。とはいえ、10年前ですから、いまの音に結びつけるのはちょっと無理筋すか?

interview with Jessy Lanza - ele-king

 2010年代に登場してきたエレクトロニック系のアーティストのなかでも、ジェシー・ランザは独自のポジションを築いてきた。〈Hyperdub〉のなかではかなりポップな立ち位置だけれど、メジャーの豪華なサウンドやハイパーポップの過剰さとは相容れない。折衷的で冒険心はあるもののけっして前衛主義というわけでもない。R&Bを基調としたその親しみやすいシンセ・ポップ・サウンドは、ヴォーカル面でよく比較されるFKA・トゥイッグスケレラとも大きく異なっている。意外と、彼女に似ているアーティストっていないんじゃないだろうか。

 カナダ出身、現在はLAに居を構えるジェシー・ランザ通算4枚目のアルバム『Love Hallucination(愛の幻覚)』は、ハウス・ビートの “Don't Leave Me Now” で幕を開ける。ご機嫌な曲調とは裏腹に、車に轢かれかけ広場恐怖症になった経験から生まれたというこの曲につづくのは、2ステップ調の “Midnight Ontario” に軽快なエレクトロの “Limbo”。どれもからだを揺らしたくなる曲だ。静かなアンビエントR&B的側面も有していたファースト『Pull My Hair Back』(2013)以降、『Oh No』(2016)、『All The Time』(2020)と徐々にダンサブルな要素を増やしていった彼女だけれど、持ち前のはかなげなヴォーカルとシンセ・ポップ・サウンドはそのままに、新作序盤では身体性への欲望がひとつの壁を超えたような印象を受ける。
 おそらく同時並行で『DJ-Kicks』(2021)を制作していたことが影響しているのだろう。プレイするトラックに自身のヴォーカルを載せていくスタイルはケレラのミックスとおなじだが、こちらはテクノ~ハウスが軸で、ジェシー・ランザのなかのアグレッシヴな一面が展開された作品といえる(レーベルメイトのロレイン・ジェイムズとの共作曲も収録)。パンデミック中~直後におけるフロアへの渇望を表現したかのような同ミックスの余波は、確実に今回の新作にも及んでいる(じっさいはクラブにはそんなに行かないらしいが)。

 べつの意味でも序盤の3曲は重要だ。2曲目は〈LuckyMe〉のジャック・グリーンとの、3曲目はテンスネイク名義で知られるドイツのハウスDJマルコ・ニメルスキーとの共同プロデュース作品であり、また、これら3曲すべてにポスト・ダブステップ期における重要人物のひとり、ピアソン・サウンドことデイヴィッド・ケネディが参加している。これは彼女のキャリアにおける画期といっていいだろう。というのも、従来彼女がジェレミー・グリーンスパン(ジュニア・ボーイズ)以外のプロデューサーをアルバムに起用したことはなかったからだ。
 テーマは信頼だという。阿吽の呼吸というわけにはいかない未知の他人と共同作業をやっていくには、たしかに、相手を信頼しておく必要がある。おなじく初めてのプロデューサー、ポール・ホワイトを迎えた “Marathon” ではひとりよがりのセックスが歌われている。他者の存在について考えることを促す歌詞だし、そもそも今回の新作はほかのひとに提供するためにつくられた曲たちがもとになっているのだ。だから「愛の幻覚」なるタイトルはたんに恋愛関係にとどまらず、広く人間同士の関係をあらわしているとも解釈できる。その点でも本作は、多くの人びとが孤独に浸ったパンデミック以降の感覚を体現する作品といえるだろう。

 もちろん、勝手知ったるグリーンスパンとのコンビもいい成果を残している。個人的には、ちょっとだけドレクシアジ・アザー・ピープル・プレイスを想起させる “Drive” にぐっときた。これまでもフットワークやYMOなどさまざまな音楽を貪欲に参照してきたジェシー・ランザ。その好奇心はいまなお健在のようだ。

このアルバムのテーマのひとつが「信じる」ということだった。自分以外の人たちを信頼する、ということ。

お住まいは現在もシリコンヴァレーですか?

JL:いいえ。いまはロサンゼルスに住んでいる。いまはちょうどカナダで家族と過ごしているところなんだけど。パンデミックの期間中はシリコンヴァレーに住んでいて、その後ロサンゼルスに引っ越した。

シリコンヴァレーはITの街のイメージがありますが、音楽カルチャー的にはどのような場所なのでしょう?

JL:そう、そのイメージが強いと思う。リンジー・バッキンガムのようなシリコンヴァレー出身のアーティストはいるけど、音楽シーンがあるという感じではないかな。とくにいまは大きな動きはないと思う。

パンデミックの年に出た『All The Time』以来3年ぶりのアルバムですね。パンデミック以降のこの3年、どのように過ごされていましたか?

JL:まずはロサンゼルスに引っ越したことが大きかった。前作が出たあと、ツアーにも出られなかったから、それ以外は本当に何もしていなかった気がする。じつはそのころグリーンカードが下りるのを待っていたから、国外に出ることもできなかったのよ。グリーンカードを待っている間に、『Love Hallucination』のほとんどの曲を書き上げて。そういう意味では充実した時間だった。普段はライヴをやったり、旅をしたり、家族に会いに行ったり、なかなかじっくり曲づくりに向き合う時間がないから。

ロサンゼルスに引っ越されたのは何か理由があったんでしょうか。

JL:主人の家族がサンフランシスコにいるからわたしたちもシリコンヴァレーに住んでいたんだけど、IT関係の仕事をしていなければあまり住む意味がない場所だった。ロサンゼルスは同じ州だけどもっといろいろなことが起こっていて、ここには文化があるから。それに、シリコンヴァレーは物価がものすごく高い。夫が映像関係の仕事をしていることも、ロサンゼルスに住むことにした大きな理由のひとつね。

以前のインタヴューで、家の離れのツリーハウスをスタジオとして利用していると仰っていましたが、新作はロサンゼルスで制作されたんですよね? 木に囲まれて音楽をつくることと、通常のスタジオでの作業との違いはなんですか? そうした環境の違いが、あなたの音楽に影響を与えたと思いますか?

JL:もちろん大きな違いがある。自分を取り巻く環境に木しかない場所は、とても静かだからヴォーカルを録音するのに理想的で。でも、自分が作品づくりをするときの環境はなによりも、わたし自身の精神状態を大きく左右すると思う。木々に囲まれていると精神的に落ち着くし、わたしを取り巻く環境が音楽に与える影響はとても大きいと思う。自分自身をケアしてあげられるか否かということよりも、環境のほうが影響力は大きいと思う。

人間関係がメイン・テーマであることは間違いない。とくに、恋愛関係。恋愛をしているときのわたしは脆弱で自信がなくて。

2021年に名ミックス・シリーズの『DJ-Kicks』を手がけたことは、あなたにどのような経験をもたらしましたか?

JL:『DJ-Kicks』を制作しているとき、同時に『Love Hallucination』の曲を書いていたから、自分にとっては大きな挑戦だった。それに、入れたい曲をまとめたウィッシュリストのなかの何曲かは権利の関係で収録できなかったこともあったし。でも、自分がDJとしてプレイしたい曲と、自分自身の楽曲とのギャップを埋めるようなものをつくってみたかったから、とても興味深かった。わたし自身のヴォーカルを足していく作業も面白い試みだったと思う。DJをやっていると自分の個性がだんだん薄まっていくように感じることもあるんだけど、そこにあえてわたしにしか出せないヴォーカルを乗せることで、新しい境地を開けたように思う。なにか特別なことをやりたいという思いがあったのは間違いない。

その『DJ-Kicks』に収録された “Seven 55” ではロレイン・ジェイムズをフィーチャーしていました(https://www.youtube.com/watch?v=myYggI17_cs)。彼女の音楽の魅力はどこにあると思いますか?

JL:彼女は唯一無二の存在だと思う。彼女がプロダクションを手がけたものは一聴してすぐに彼女の音楽だとわかるほどの個性を持っているから。

これまでもあなたの音楽はダンス・ミュージックからインスパイアされていましたが、『DJ-Kicks』からはよりあなたのダンス・ミュージックへの愛が伝わってきました。クラブにはよく行くのですか?

JL:う~ん。いいえ(笑)。以前よりもDJする機会が本当に多くなって、クラブに行くと仕事モードになってしまうから純粋に楽しめないのよね。それに、わたしが生まれ育った町にはクラブというものがなくて……バーのようなところはあるけど、TOP40の音楽がかかっているような場所だったから、クラブという感じではまったくなかったし。だから、自分のなかにクラブ・カルチャーのようなものがなくて。クラブを純粋に楽しんでいた時期がないから、それを懐かしく思うようなところもない(笑)。

クラブでDJをするときはどんなふうにセットを組み立てているんですか?

JL:そうね……とにかくヴォーカルがある曲をかけるのが好きなの。だから、ハウス・ミュージックをかけるのが好きだし、それにディスコなんかを混ぜて。メロディのあるダンス・ミュージックが好きだから。そう、自分がクラブに遊びに行って、聴きたい曲をかける感じかな。もちろんみんなが楽しんでもらえるようなものをプレイしているつもりだけど、メロディがあってヴォーカルのある音楽が好きだから、そういうものを選んでかけている。

若いころからそうしたヴォーカル・ミュージックを聴いてきたんでしょうか?

JL:そうね。R&Bがずっと好きだったから。

『DJ-Kicks』も同時進行でつくっていたから、ダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックもたくさん聴いた。ひとつに絞るのは難しいけど、プロデュースの優れたシンセ・ポップをたくさん聴いていたのは間違いない。

では、新作の話に戻りましょう。これまで長らくジェレミー・グリーンスパンとコンビを組んできて、今回の新作もそうなのですが、初めて彼以外のプロデューサーが参加してもいます。彼以外ともやってみようと思った動機はなんですか?

JL:わたしにとって、それまでに会ったことのないひとと仕事をするのはとても怖いことだった。ジェレミーのことは長年知っているし、ついついやりやすいひとと一緒にやってしまいがち……アーティストとしてどうすべき、ということはべつにしてね。でもこのアルバムをつくるにあたって、少し冒険してみようと思って。たとえばジャック・グリーンの音楽は長年聴いていたし、友人を通して知っていたからぜひ彼と一緒にやってみようと。よく知らないひとがスタジオに来てジャム・セッションすることは本来はとても緊張してしまうから得意ではないんだけど、あえて自分の背中を押したところがある。なにか新しい挑戦をしてみたかったのよ。このアルバムのテーマのひとつが「信じる」ということだった。自分以外の人たちを信頼する、ということ。

ピアソン・サウンドが選ばれた理由はなぜですか?

JL:彼の音楽も長年知っていたし、彼のファンなの。友人の友人だったこともある。ロンドンで1週間ほどオフがあったときに彼にコンタクトをとって。当初はミックスだけしてもらう予定だったんだけど、彼のスタジオで一緒に過ごしているうちにとても仲よくなって、プロデュースもお願いすることになった。

このアルバムの曲づくりをしている段階で、今回はいろいろなひとたちとコラボレーションすることを考えていたんですか?

JL:いいえ。実際の制作に入る前に曲はほとんどできあがっていて、そのときは誰とコラボレーションしようというようなことはとくに考えていなかった。曲を磨く段階になって、いろんなひとのアイディアが欲しいと思うようになってきた感じ。もともと今回一緒にやったひとたちとはメールや電話ですでに話をしていたから、実際にお願いするのに支障はなかったけれどね。

先ほど、今回のアルバムのテーマのひとつに「信じる」ということがあったと仰っていましたが、もう少し具体的にアルバムのテーマを教えてください。

JL:これまでにわたしが経験してきた人間関係がメイン・テーマであることは間違いない。とくに、恋愛関係。恋愛をしているときのわたしは脆弱で自信がなくて。だから、タイトルも『Love Hallucination』にしたのよ。脆くて傷つきやすいから、自分がよく知らないひとを信用することが難しい。でも、ひとを信じることのたいせつさを痛感してきたところもあって、自分自身を変えたいという思いがあった。作品づくりにおいても、これまでのわたしはジェレミーのような気心の知れたひととしかやってこなかったし、ミュージック・ヴィデオはつねに夫とつくってきたから、自分の世界の狭さというものに焦りも感じていたのね。だからこそ、このアルバムで「信頼」と「脆弱さ」というテーマを描いてみた。

ひたすら「わたしは自分が嫌い」と繰り返される “I Hate Myself” は、曲調は明るいにもかかわらず心配になってしまう内容です。このリリックはご自身の体験を踏まえて書かれたものですか?

JL:この曲は不思議な過程を経てできあがった。書きはじめたころはけっこう複雑で散らかった感じだったから、歌詞をどんどん削ぎ落としていって、最終的に「I hate myself」という一行だけが残ったのよ。この曲は、YouTubeにアップされていた動画がベースになっているんだけど。プリファブ・スプラウトの「I hate myself」というフレーズをひたすらループして、ずっと馬が走っているだけの動画。わたしはけっして自分を憎んでいるわけじゃない(笑)。ただ、最初に書いたヴァージョンよりもずっと良い出来になったと自負してる。

元ネタの動画はサイケデリックな感じなんですね?

JL:その通り。検索したら出てくると思う。

“Drive” は海中にいるような感覚を持った曲で、雰囲気はダークではありませんが、ドレクシアを思い浮かべました。彼らの音楽のどのようなところが好きですか?

JL:そう言ってもらえるなんて驚いた(笑)。じつは、この曲のシンセ・パートを書いているとき、ドレクシアのひとりのサイド・プロジェクト、ジ・アザー・ピープル・プレイスを思い浮かべていたのよ! たしか彼の名前はジェラルド・ドナルドだったと思うけど(編注:TOPPはドレクシアの本体にして中心人物、ジェイムズ・スティンソンのプロジェクト)。それでエレクトロな楽曲にしたいと思って、ドラム・パートもジ・アザー・ピープル・プレイスっぽい感じを想定してつくった。この曲はとくにお気に入り。ジェレミーがパーカッションを足してくれて、よりエレクトロっぽい雰囲気のある曲に仕上がって。言ってみれば、ドレクシアとジェレミーの曲という感じね(笑)。

歌詞の面でもサウンドの面でも、制作中に参照したものがあれば教えてください。

JL:制作中はいろんなバンドを聴いていた。プリファブ・スプラウトもそうだし、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークもよく聴いていたかな。それにシンセ・ポップのバンドもいろいろ聴いていたし……『DJ-Kicks』も同時進行でつくっていたから、ダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックもたくさん聴いた。ひとつに絞るのは難しいけど、プロデュースの優れたシンセ・ポップをたくさん聴いていたのは間違いない。

興味深いですね。では、本作でもっとも苦労した曲はどれでしょう?

JL:“Gossamer” ね。この曲はかなりトリッキーだった。自分でも好きな曲なんだけど、方向性がなかなか定まらなくて。ヴォーカルを入れるべきかどうか悩んでいて……というのも、テクノ・ポップ調にしたかったから。それでイエロー・マジック・オーケストラを聴いているうちに、自然と方向性が固まっていった(笑)。彼らがやっていることがとても好きで、それに共感することでなにかを得ることができたという感じかな。

それは面白いです。ところでヴォーカリストとしてのロールモデルがいたりするんでしょうか?

JL:そうね……プリンスはとても好き。ボウイの歌い方も好きね。それに、高橋幸宏と細野晴臣。彼らの控えめな歌い方にとても共鳴する。挙げたひとたちは全員ちがう個性を持っているけど、その組み合わせがわたしのシンギング・スタイルを形づくっているんじゃないかな(笑)。控えめな歌い方がとくに好き。若いころは、わたしにアメリカのアイドルみたいな歌い方を勧めてくるひともたくさんいたけど……セリーヌ・ディオンみたいなね。でもわたしの声はそういう歌い方には向いていないし。そうね、イエロー・マジック・オーケストラのスタイルにはとても影響を受けていると思う。控えめでいて、ポップでとても効果的なシンギング・スタイルだと思う。

あなたの音楽ではフューチャリスティックな部分と、どこかレトロな感覚がうまく同居しているように感じます。それはご自身でも意識していますか?

JL:ある意味でどこか過去に生きているところがあるのかもしれない(笑)。家族が昔の話をしたりするからかもしれないけど、30年くらい前はいろいろとおもしろいことが起こっていたし、観るもの、読むものもたくさんあった印象がある。昔のほうがよかったとは言わないけど、前時代を生きているところはあるのかも(笑)。

一方で、あなたの音楽にはフューチャリスティックな要素もありますよね。

JL:そうかもしれない。人間は未来を夢見る生きものでもあるから。

その通りですね。では最後に今後のご予定をお聞かせください。ツアーでしょうか?

JL:ええ。9月22日のサンフランシスコから全米ツアーがはじまる。その後、11月から12月はヨーロッパ・ツアーに入るから、秋から冬にかけてたくさんライヴをやる予定。しばらくツアーに出られなかったから、とても楽しみにしている。

本日はありがとうございました。日本でもあなたのショウが見られる日を楽しみにしています。

JL:わたしも楽しみにしている! 2024年のはじめには行きたいと思ってて。まだ日本に行ったことがないから、すごく行きたいと思いつづけてる。日本で会えるのを楽しみにしている。

talking about Aphex Twin - ele-king

 『Syro』のときはロンドン上空に「A印」の飛行船が飛んだ。今回の『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』では、QRコード化した「A印」のポスターが世界のいろんなところに貼られて、人がそれをレンズに合わせると、そこには新たな「A」の世界が広がった。まだ試してはいないが、フィジカルにはさらにこの先の仕掛けもあるそうだ。相も変わらず、リチャード・D・ジェイムスは私たちを楽しましてくれる。彼もまた、楽しんでいる。もっとも、30年前はしばしばし“子供” と形容されたRDJも、近年は政治や社会に関する発言もしているように、永遠のピーターパンではなかった。それでもまあ、彼のテクノはいまもおおよそ微笑み(失笑、苦笑、冷笑、呆れ笑い……)のなかにある。

 5年ぶりの新作、4曲入り『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』がリリースされた。まさかの出来事、諸君! これを楽しまない手はないですぞ。無類のAFX好きで知られる佐々木渉氏を北海道から呼んで、終わりなきリチャード談義に花を咲かせるとしましょう。(野田)

佐々木渉(ささき・わたる)
サンプリング音源の販売などを手がけていた札幌の企業、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社で2007年にソフトウェア「初音ミク」を開発。すぐさま動画サイトなどで火がつき異例の大ヒットとなる。ジャズや電子音楽などを愛好、これまでエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーのライナーノーツも執筆している。

野田努(のだ・つとむ)
ele-king編集人。

■悪夢と笑いのA印

N:5年ぶりのエイフェックス・ツインの新作、 『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』……曲名は、相変わらず意味わかんないね(笑)。

S:個人のライフログとかに触れているんだと思いますが、それにしても不明ですよね。前みたいに制作機材の名前とか埋め込まれてたほうがましだったのか? いや、その方がニッチ過ぎて、わからないって説もありますよね(笑)。

N:とくに『Drukqs』(2001年)以降はどんどん加速しているよね、曲名の意味のわからなさが。

S:そうですね、曲のなかでも変なことしてましたよね。曲のなかに自分の顔のデータを仕込んでいたのを思い出します(苦笑)。でも、悔しいけど、そういう遊び心があるのがエイフェックスらしいというか、しっくりきますよね。世のなかのエイフェックスが好きな連中が、彼の悪戯を語る度に、リチャードの神話が妄想の中で肥大化していく。そんな感じでエイフェックスがずっと続いていっているし、再発見されるし、これからも続いていくんだろうなと思います。個人的にはSoundCloudでの音源バラマキ戦略がショックでした。あっ! これでエイフェックス・ツインが大量の楽曲をバラ撒いて、ファンを撹乱させたことで、本人の作品群がネットのなかに散らばっていく。それを元にファンが自分で真剣に選曲して『アンビエント・ワークス3』とか命名して公開してるじゃないですか、ファン同士が自分のなかのエイフェックス・ツイン像を交換してる訳ですよ。こういう行為に走らせる魅力がありますよね。エイフェックス・ツインには。

N:サンクラでバラ撒かれた音源も一応アレでしょう、もともとは匿名で上げたはずなのに。なんでわかっちゃうんだろう(笑)。(*最初はuser48736353001 名義でアップロード、途中からはuser48736353001名義)

S:音……サウンドの雰囲気でわかっちゃんじゃないですか。リチャードにしか作れない雰囲気だから。とくに『Syro』(2014年)以降は、作り込まれていて説得力がある。

N:『Syro』以降は、第三期リチャードというか。『Drukqs』から『Syro』までの13年間のリチャードもまたひとつの時代のリチャードで、だってあの時期はAFXとして〈Warp〉からはremix集しか出していない。新作を出したのは〈Rephlex〉からで、「Analord」シリーズ(2005年)と、あとThe Tuss(2007年)でしょ。その13年間があって、〈Warp〉から『Syro』を出す前には、なぜか飛行船をぶち上げて(笑)。あそこからなにかが変わりましたよね。


Syro(2014)*セールス的にも大成功だった。


Drukqs(2001)*いっさいの商業性から遠ざかった00年代AFXのはじまり。

S:そうですね。元々、楽曲の作風も分裂しているけど、その活動時期でも分裂してますよね。『Syro』以降はどの曲も、大分作り込まれているし、比較的分かりやすいテーマで降りてきてくれて、安心して聴ける、なんかシャイなリチャードが目を合わせてくれたぐらいの、出会いの感覚が(笑)。

N:たしかに、 “Minipops 67” がキャッチーだったでしょ、あれが先行公開されたことは大きかったよね、『Syro』は。

S:そうですね。

N:“Windowlicker” (1999年)以来でしょ、ああやってちゃんとポップに仕上げたのは。『Drukqs』がメジャー最後のアルバムだったこともあってか、すごく難しいアルバムだったから。例の「Analord」シリーズはとことんアナログ機材を使い倒したシリーズであって、The Tussもだけど、決してポップではなかった。で、いきなり “Minipops 67” が。メロディアスで歌も入ってるし。

S:彼は、いつでもキャッチーになろうと思えばなれるし、美しいアンビエントも作るし、いつでも凶悪な音も作れるということですよね。そんな彼だから、リスナーも「次はどんな作品が出てくるんだろう?」って期待してしまう。自分もいろんな作風の作品を一挙に聴いて、「エイフェックス・ツインは怖い!」って印象から入りました。学生時代の思い出深いトラウマです(苦笑)

N:それはどこの(時期の)作品?

S:『...I Care Because You Do』(1995年)あたりです。音楽のフレーズとかメロディが違うというか。めちゃめちゃ歪んでたり、かと思えばめちゃめちゃ狂ったドラムンベースになったり、「この人の感情どうなってるんだろう?」というのがわからなくて怖かったですね(笑)。


,,,I Care Because You Do(1995)*いまあらためて聴くとすごい完成度。

N:今回のアー写も怖い。言うこときかないのはどの子じゃぁ〜、がるるるるぅって。しかし……なるほど! あれが最初だったんだ。あれはだってほら、いちばんハードな作品というか、それこそアメリカのメジャーの〈Sire Record〉に移籍して二番目のアルバムで。メジャー第一弾が『Ambient Works Vol.2』(1994年)で、第二弾が『...I Care Because You Do』という。並のアーティストなら、メジャーに行ったら少しはポップな路線を考えてしまうものだけど、リチャードは真逆いったよね。「ここまでやってやる!」みたいな。

S:そうですね。

N:まあ、いま聴いてもカッコいいし、完成度の高い名作だと思うけど。『...I Care Because You Do』のときは、凶暴というよりは子供が暴れるみたいな、ギャグもあっただろうけど。のちの「Come To Daddy」(1997年)にも繋がるよね。


Come To Daddy(1997)*ぐぉぉぉぉぉ。

S:それを実現して、世のなかに提示して、しかもそれがウケてしまう人はなかなかいないですよ。当時は、本当に怒りそのもの、感情や、感覚そのものを鳴らして音楽にしているように聴こえました。

N:『Ambient Works Vol.2』は、いまでこそ最高のアンビエント作品だけど、当時の基準で言ってもアブストラクト過ぎて、リアルタイムではほとんど理解されなかった作品でね。で、佐々木さんが最初に聴いたエイフェックスは、彼のキャリアのなかでは、ちょうどいちばん激しいサウンドを出していた時期、すごいときに当たってしまったね(笑)。ぼくみたいに『Selected Ambient Works 85-92』(1992年)から入ったリスナーとは対極。だって、「Ventolin E.P」(1995年)の時代でしょ?

S:「Ventolin E.P」は、本当に影響を受けましたね。ずっと笑い声だけのトラックが入っていたりして。当時の自分のなかの既成概念を壊してくれましたね。


Ventolin(1995)*いま聴いてもカッコいいAFX流トリップホップ。

N:リミックス・ヴァージョンであったよね、いつの間にか曲が気持ち悪い笑い声ばっかに展開するのが。あれは、もう、ぶっ飛んだ(笑)。(* “Ventolin” Praze-An-Beeble Mix)

S:当時のele-kingのエイフェックス・ツインのインタヴューとかも、「滞在先のホテルのエアコンのノイズ音がすごく良かった」とか言ってたり、毎回衝撃的でしたもんね。テンションも違うし、言ってることもハチャメチャだし(笑)。なんかこう、嘘なのか本当なのかも全然わからないのが、クリエイティヴでカッコいいと思っちゃいました。って……すいません、僕の思い出を(笑)。

N:いや、どうぞどうぞ(笑)。僕ね、ele-kingをスタートした年に、来日公演を手伝ったんですよ。『...I Care Because You Do』が出る前くらいかな。そのときの印象は、すごく素朴な普通の青年でした。なんら変人ではない……すでに戦車は買ってましたけどね(笑)。「戦車持ってるの?」って訊いたら「持ってる」って。でもそれも、なかばギャグとして買ってる気がする。僕が接したときの本人は、大人しい好青年でした。とはいえ、90年代なかばの彼の音楽はエキセントリックで、クレイジーだった。90年代前半のリチャード、作品で言えば『Ambient Works Vol.2』までのリチャードにはロマンティックな牧歌性がまず前面にあって、それは彼の大きな魅力だったんだけど、『...I Care Because You Do』から「Windowlicker」までの90年代後半のリチャードって、これはこれでまたすごかった。

S:そうですね。やっぱりひとつひとつが焼き付くようなインパクトがあって。良い意味でショックだった。自分のなかでは、その辺のリチャードの記憶って時系列がぐちゃぐちゃになってて。インパクトが強いところがまばらにあって。普通だったら時系列順にこのアルバムが出て、あのアルバムが出て、って思い出せるんですけど。変名が多かったこともあって、崩れているんですよね。好きなんですけど、なんかちょっとリチャードの存在も作品も自分にとっては悪夢というか(笑)。悪夢と言っても “Windowlicker” の悪夢と『Selected Ambient Works vol.2』の悪夢はまた全然違うし。でもやっぱり、好きなんですよね。理不尽な恐怖体験だったので、その分、タイムレスなんです。


Selected Ambient Works vol.2(1994)*来年でリリース30周年の名作。

N:たしか3回目に来日したときだったかな、リチャードのライヴに合わせて〈Warp〉の創始者たちが「Donkey Rhubarb」(1995年)の着ぐるみ姿でステージで踊ったんだから、笑える悪夢だったね(笑)。

S:「Donkey Rhubarb」も好きだったなぁ……あの頃のリチャードの音楽って、いまも全然笑えちゃうし、それでいていまだ怖いし、若いネット世代の子たちにも普通にスッと入っていける感覚があるし、「これはヤバい音楽だね。ヤバい人がやっているよね。」ってすぐわかるような雰囲気をちゃんと持っていると思うんです。


Donkey Rhubarb(1995)*またMVが楽しかった。

■最高のアーティストとは自分のことをアーティストだと思っていない人たち

N:アルバムごとに作品のテーマがちゃんとあるじゃない。『Ambient Works Vol.2』はビートレスなダーク・アンビエント、『...I Care Because You Do』ではハード・エッジなトリップホップ路線を追求して、『Richard D. James Album』(1996年)ではドリルンベースをガッツリやって完成させる。『Drukqs』では、プリペアード・ピアノとポスト・ドリルンベースみたいな感じをやって、「Analord」シリーズではアナログ機材のみでどこまでできるかとか。たとえばスクエアプッシャーは、ほとんどずっとドリルンベースを追求して、発展させていくわけだけど、リチャードはいろんなことをやってるよね。

S:リチャードの作ってきたものって、ジャンルを問わず「リチャード印」で。ビートの有る無し含めて、いろいろなスタイルあるのに全部結びついちゃってて。

N:それってなんなんだろうね。

S:それは……なんなんでしょうね(笑)。彼の音には気配がある。

N:すべてにあの「A印」が(笑)。『Syro』を出したときのピッチフォークのインタヴューで、けっこう重要なことを言っているんですよ。ひとつは、「最高のアーティストとは自分のことをアーティストだと思っていない人たちのことであり、自分のことをアーティストだと思っている人間ほど迷惑でつまらない人間はいない」ということ、ふたつ目は「この世界で最高のダンス・ミュージックの形態というのはジャングルだ」と。リチャードの音楽を考える上で、このふたつのことは重要ですよね。しかもね、「ジャングルっていうのは自動車整備工やペンキ屋をやっているような人たちが作った音楽だ」ということも言っている。そういう「非音楽家」を賞揚しているわけ。イーノは自分を「非音楽家」と呼んだけど、リチャードのいう「非音楽家」から見たらイーノなんかぜんぜん「音楽家」なわけで。リチャードは、彼の作品を聴けばわかるように、ジャングルを音楽的な側面はもちろんのこと、ある種階級闘争的というか、社会的な側面からも評価しているんだよね。

S:そしていま、ジャングルは来てますからね。勢いのある怒涛のビート感が、若い子たちに刺さっている。進化が目立つ音楽ジャンルになってる。

N:だからさ、AFXが同じテクノと括られても、クラフトワークやYMOとの違いはそこにある。クラシックを背景にもって、高価な機材にめぐまれた環境とはまったく別のところから生まれたテクノの代表だよね。

S:そうですよね。でも、たぶんそのアプローチには奥行きがあると思います。その時代の機材って適当に選んでいるわけではなくて、安い機材のなかでも面白いものを、個性をちゃんと機材のなかに見出していて、自分でカスタムしたりエフェクターを工夫して、いちばん美味しいところを「Aphex印」で引き出して、ほかの人には出せない味付けで出しているみたいな。

N:昔、佐々木さんがDOMMUNEでいろいろ解説してくれたけど、『Syro』のジャケットに140以上の機材リストを載せたじゃない。あれもすごいよね。140以上だよ!

S:140以上の機材があるってことは140種の機材を選んで、シンセサイザーとエフェクターとサンプラーと、パッチベイを通してシーケンサーにサウンドアウトはミキサーに…って感じで組み合わせて繋げないといけないんですよね。頭のなかに綿密な設計図がないと繋げた上でどれがどのようになっているかはわからない。あと、サンプラーをめちゃめちゃ使ってるので、実際には140どころの話じゃないんですよ。自分のライブラリに落とし込んでいる大量のドラムマシンとか、シンセやヴォーカルのショットの音とかがあるわけで。それをどうやって管理というか把握しながらやっているんだろうなぁ、把握してないのかもしれないですけど。しかも、どの曲を聴いてもエイフェックス・ツインのブレイクビーツは古くならないというか独特な音圧や、歪感が加えられている、「なんで毎回毎回このオリジナリティの高い水準に行けるの?」みたいな感じがあるんです。普通どこか有りがちな音になったりするはずなんですけどね、細部まで作り込まれた、すごい高密度な音という印象なんです。

■『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』の謎解き

N:あとは、未完成に向かうというか。そういう感じを残すじゃないですか。

S:エイフェックス・ツインは『Syro』以降、モジュラーシンセサイザーを大きく取り上げた作品集も公開していました。2014年の『Modular Trax』とか。その流れもあってか、今回の『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』のジャケットはBuchlaというメーカーのシンセモジュールのパネルをコラージュしたものなんですね。

N:へえ。全然気づかなかったな。

S:伝説的なアメリカ西海岸のシンセサイザーで、日本でも販売されているんですが、例えばskylabってシンセモジュラー・システムになると250万くらいする、高級で特殊なシンセですね。。リチャードが、フジロックの2017年のときに、カセットを山積みにして売ってましたよね。そのなかの半分ぐらいがBuchlaのシンセを使った曲でした。ただBuchlaで面白い音を出して遊んでいる、脱力した珍しい作品も入ってました。そこから5年以上経って、ジャケットにどん! とシンセのパネルを載せている、という。本当にこのシンセが好きなんだろうな、と思います。

N:それはなに、上モノの音とかを?

S:高周波とかには「けっこうBuchlaっぽいな」という音はあるんですけど、極端に目立たせる使い方はしていない。Buchlaで、よく知られているのは、西海岸のアヴァンギャルドや即興演奏家や、ニューエイジのシーンで、Buchla奏者という人がいるくらいなんですけど。

N:西海岸のニューエイジとリチャードって、まったく繋がらないんだけど(笑)。

S:ele-kingでもBuchla奏者のチャールズ・コーエン氏が、記事になっていましたね

N:なるほど。しかし、こんな早く新作が聴けるとは思ってなかったですね。『Syro』は本国では、ナショナル・チャートに入ったほどのヒット作で、気を良くしたんだと思うけど、その後立て続けに「Computer Controlled Acoustic Instruments Pt2 (EP)」(2015年)と「Orphaned Deejay Selek 2006-08」(2015年)、「Cheetah EP」(2016年)と出して、そして「Collapse EP」(2018年)も出した。この「Collapse EP」はウケたじゃないですか、とくに “T69 Collapse ” が。これも複雑な曲で、いろいろ詰め込んだ感もあって、CGもすごい見ごたえがあるやつだった。ここからピタっと出さなくなったから、また10年ぐらい出ない時期が続くのかなと思ったんですよ(笑)。そしたら意外とこんなに早く新作を出した、というのがまず驚きだった。


Collapse EP(2018)*10年代にリリースされたEPのなかではダントツ。

S:やっぱりコロナが明けて、今月(2023年6月)ですかね、Sonar Festivalのときに2曲入りの「Barcelona 16.06.2023」というEPを出してたじゃないですか。このときのライヴは、前半がファンクっぽいビートだったり、従来のリチャードの延長線上っぽい包み込むようなサウンド主体だったんですけど、後半はドラムが狂喜乱舞するようなパートが続いていてすごいカッコいいんです。後半のところは前作の「Collapse」と似ている。発展型と言っても良い。ところが、音源としての「Barcelona 16.06.2023」は割りとシンプルなテクノで、今回の『Blackbox Life Recorder〜』はドラッギー過ぎずサイケデリック過ぎない、もっと落ち着いていて、グルーヴィーだけどインテリジェントな感じになっている。なんだろう。変に、ファンが求めるような、刺激的な楽曲を出すことに固執していない。

N:すでに賛否両論だよね、これは。いつものことだけど、期待が大きいから。

S:否定的な意見もありますよね。しかし、こういう雰囲気のテクノだったり、Buchlaとリズムマシンの素晴らしい邂逅を、リチャード以外の誰が更新してくれるのかというと疑問ですね。リスナーとしては、もうちょっと自分たちの時代をカッコよく、新しさで満たしてほしい、という需要もあるのでしょうけど。

N:くだんのピッチフォークのインタヴューで、リチャードは「自分にはもう探求すべきものがないんだよね」って正直に言っちゃってるんだけど、『Blackbox Life Recorder〜』を聴いたときその言葉も思い出した。ただし、このシングルにはリチャードの魅力が詰まっている。エイフェックス・ツインの魅力が凝縮されているじゃないですか、1曲目の “Blackbox Life Recorder 21f” なんかは。ブレイクビーツの感じも良いし、「A印」のシンセ音も良い。ドラムがデヴェロップしていく感じも良い。笑いもちゃんとあるし。

S:笑える感じは良いですよね。あと、誤解を恐れずに言うと、凄く小さい音でもカッコいいんですよね。小さいドラムの音って全クラブ・ミュージックのプロデューサーが恐れるものだと思うんですけど、小さいく鳴らしても存在感がものすごい独特の音で、うわ、カッコいい! っていう感じになる。空間も感じ取れるし。で、めちゃめちゃデカくて歪んでるドラムの曲も……。

N:“in a room7 F760” のこと?

S:そうです、このドラムの歪ませ方はいままでやってなかった感じだな、でも待てよ? あったかも、ってリチャードのライブラリを聴き返してしまって、結局、リチャード沼にハマってしまうような(笑)。こんな曲あったっけ? カウベルこんなに鳴らしてたことあるっけ? みたいな感じで、リチャードを聴き始めると、あれこれ記憶を参照したくなって、アーカイヴのなかに迷い込んでいってしまうような感覚が楽しい。他のコーンウォール出身のプロデューサーのアプローチとは大分違うなと思います。ワゴンクライストやマイクパラディナス、スクエアプッシャーの近作を聴いても、こんなに複雑な心境にならないですね。もっと、音楽アイディアも素直でのわかりやすい。リチャードだけ訳がわからない部分が多い。やっぱりリチャードの無限回廊みたいな音楽世界に浸っていたい感覚になります。水玉を見ると草間彌生を思い出すぐらいの感覚というか、リチャードのシンセ音を聴くとリチャードだな、っていうふうに感覚的に反応してしまいます(笑)。

■リチャードのリズム

N:そうだね。あるいは、自分がどこから来たのをリチャードはまた再確認しているのかもしれないね。俺はレイヴ・カルチャーから来たんだと。実際、彼はコーンウォールのレイヴでDJをやっていたわけでね。実際のところはわからないけど、今回は、リズムに重点を置いていることはたしかでしょ。 “in a room7 F760” もそうだし、 “zin2 test5” もそう。

S:それだけリズムを綿密的にコントロールできるようになった、ということだと思うんですよね。ビートの縦軸となる音響的な面、横軸となるタイミング的な面、音色の奥行きや接近感までコントロールしている感じが強い。リチャードが体得してきたスキル、ドラムマシンやシーケンサーの使い方が極まっているので、スキルや経験に裏打ちされているので説得力がある。知識と基礎がしっかりしてるので複雑な作りの曲でも、リラックスして作れるので良い結果に結びつく。昨今の音楽ではリミッターで音圧を稼いでデカい音で、Trapでもなんでも歪んだ808のドラムを鳴らすのがカッコいい、というのがあるんですけど、その流れとも全然違う。リチャードは「お前ら、まだ808しか使ってないのか。広い世界の可能性を見ろよ」と言うような風に、マイナーなドラムマシンでバキバキに仕上げてくる(笑)。メインストリームと離れて、天邪鬼なのがカッコいい。

N:“in a room7 F760” なんかはさ、途中からジャングルになるように、リズムの変化があるっていうか。

S:しかもすごい新鮮に繋がっていくじゃないですか。ライヴでもどんどんビートが移り変わっていくし。リチャードによる流動性のあるリズム、という感じになっていって。ジャンルもなくなっていって。リズムのスタイル自体がパノラマのように広がっていく。

N:「リチャード宇宙」が膨張してるんだね。

S:(笑)。それも間違いないと思うんですけど。

N:今回のプロモーションで、QRコードがあったじゃん。あれは面白かったね。僕はけっこう、上がってしまった。

S:開いたら “Blackbox Life Recorder 21f” のアンビエント・ヴァージョンだった。

N:あのQRコード化した「A印」ポスターは見事でしたね。

S:効率的にデザインされた、なんならグッズとかTシャツとかまでですけど……毎回欲しいですもんね(笑)。

N:ちゃんとエンターテイメントしているからなぁ。

S:気持ち良い凝ったエンターテイメント。やっぱりこう、いまはネットですべてがデジタル化されてて、音楽もデータ化されてデジタルだし、伝わり方もデジタルだし。話題になったら伝播される。リチャードは顔芸していた頃から、突飛な話題が伝播されるのを感覚的に知っていて、面白い言動もしていて、以前からこのネット時代を想定していたんだな、と。邪推してしまいます。ただし、いろんな音楽が新しい触れ込みで出てきても、アンビエントの名盤が増えても、僕らは『Selected Ambient Works 85-92』を聴いちゃうわけじゃないですか。繰り返し聴いてしまう、あれを作った彼の新作を心待ちにしてしまう。

N:アルバムを出すのかなぁ?

S:出してほしいですけどね。

N:リチャードの場合は気まぐれだったりするから。これが序章、予告編なのか、次はまた5年後なのか……誰も知らないからね。

S:でも、デジタルツール下での自己表現が当たり前になって、InstagramとかTikTokを眺めるのも日常で、触れられるアートとしてTeamlabさんの展示に遊びに行くような、そういう陽キャなデジタル人たちに対して、僕らは陰キャに家で首をかしげながらリチャードの新譜とMVを、「どういうつもりなのかなあ……」と眺めているほうがテンション上がって楽しかったりする(笑)。リチャードが作品を作り続けてくれるなら、いつまでも待ちたい。自分たちのヒーローがアルバムを出してくれるところまで元気に待たなければ、と思いますね(笑)。

N:もう我々の希望ですね。「A印」のためにがんばるぞと。

■裏技を教えてくれない友だちみたいなものです

S:繰り返しになるんですけどSonarのライヴセットもすごくカッコよかったみたいで。アルバム出さなくても、ライヴ行けば楽しそうだなあ……と。リチャード自身も肩肘張らずにシンセやリズムマシンで遊んでいて、楽しんでいる感じがするんですよね。彼が人生を楽しんでいないイメージがなくて。

N:それは言えてるね。

S:音源を聴かせてもらうことによって、彼に楽しい時間を僕らは分けてもらってる、っていう。「リチャード、今日どのシンセで、何して遊んだのかな?」みたいな。所謂、ゲーム実況に近いくらい(笑)

N:いや、僕はそこまではいってないです(笑)。まだ修業が足りないですね、リチャード業が足りてない。リチャードは、「金のためにやってる」ってよく言うでしょ。インタヴューで「あの年はよくライヴをやったね、金のために」とか。いちいち「金のために」って言うところがいいんだよね。ってことはつまり、「金のために」やっていないこともあるわけだから。もともと、上昇志向があって、なにがんでも音楽でのし上がってやるみたい野心があってこうなった人じゃないでしょ。デビュー作の「Analogue Bubblebath」なんか、レーベル側の話が長くなるのが面倒で、出して良いよって言ったそうだし。この人の原点ってやっぱり「Analogue Bubblebath」だな、ってつくづく思いますね。今回の『Blackbox~』を聴いても。やっぱ、あそこに行くんだな、と。


Analogue Bubblebath(1991)*ジャケットは94年の再発盤。三田さんはリアルタイムで買ったオリジナル盤を所有しているんだよなぁ。

S:稼いだ「お金」を上手く使って新しいことや楽しいことに繋げてるって信じたいですね。デイヴ・グリフィスとAI合成ソフト「samplebrain」作ったりしてますし。リチャードは、このソフトの可能性について「泡立った泥の音とTB303のかけあわせたり……」って発言してるのですが、やはりリチャードってポコポコした音とか、グニャグニャした音とか、そういう方向をいまだに純粋無垢に追求して楽しんでるという。

N:あと、間の抜けた人の声とかね(笑)。

S:ですね(笑)。で、つまり(エイフェックス・ツインは)新しい技術も使って、シンセも買っているわけですよね。「新しいことを探求する余地がない」と言いながらも、たぶん面白そうなものがあったら無垢に使って楽しんで、変な音が出たら次の曲に使ってみよう、とやっていること自体、新しいことではないかもしれないですけど、今日もまた新しい音を作って面白がってるじゃん、というのは枯渇しているようにはとても思えない。最高に楽しそうだな、っていう感じですよね。(今回のジャケットにも)リチャードの顔がまた埋め込まれてるとか……初心を忘れない(笑)。

N:本人もやっぱ意識してるみたいなんですよね、笑いを取るっていうのは。

S:でも、自分のギャグに拘って、いちばん笑ってるのが自分、じゃないのかな(笑)。等身大の個人的な笑いだから、聴いてる我々も子どもに帰れるというか。そうそう今、お仕事でご一緒している「松田直」さんって、サウンドエンジニアの方と、音楽のお話をするのですが。エイフェックス・ツインについて話したことがあったんです。メジャーではSKI-HIさんのミックスをしたりしながら、ご自身はフランソワ・ケヴォーキアンなどの音作りを研究してて、めちゃくちゃ詳しいという、音作りのエキスパートの方なんですけどね。で、その方が言うには、Amigaという昔のコンピュータのトラッカーソフトウェアのサウンドの美味しいニュアンスをリチャードは使っている。しかも、絶妙にAmigaやCommodore64というような昔のパソコンの音をを工夫して使っているんじゃないかとおっしゃってて(笑)。『Syro』のリストにはAtariってコンピュータの記載があったんですけどね。その辺、リチャードには音作りの秘伝のタレみたいな技法があって、AmigaやAtariにいろいろぶっ込んだやつをまたCASIOとかAkaiの古いサンプラーに入れたり、AIで歪んだドラムサウンドをかけ合わせたり、なんかいろいろなことをやってるんじゃないかと。機材リストは晒すけど、料理の仕方が特殊だから、みんな本人の音に辿り着けない。ゲームの裏技を教えてくれない友だちみたいなもんですね(笑)。

N:ははは。教えてくれないよねえ。『Selected Ambient Works 85-92』の頃も、最古の曲が本当に14歳の頃の曲なのか、という疑問もあったし(笑)。14歳で作りはじめたのは間違いないだろうけど。まあ、リチャードの音楽は飽きないところがすごいよね。聴くたびに発見がある。前聴いたときにはベースがよく聴こえたんだけど、新しく聴くとドラムが……。というような。


Selected Ambient Works 85-92(1992)*昨年はリリース30周年の名作。

S:ひとつひとつの音にも、音と音の間にも、凹凸感があるんですよね。ハードウェアや古いデジタルサンプリング機器を使うことで、たくさんのデジタル・アナログ変換が行われているのが凹凸感にも繋がっている。パソコン完結だけだと荒っぽい凹凸になりにくいんですよね。『Drukqs』のころはちょっとPC完結の感じもありましたけど、またすぐに戻っていって。パソコンだけで合理的に音楽を作る人がこれだけ増えたことによって、アンチテーゼとして昔の時代のテクノロジーによるアナログや古いデジタル機材を扱う故、結果的にエイフェックスの音が差別化されちゃった、という印象です。安い機材を面白く使ったり、センスの良くリズムを組んだり、音遊びで空間を作ったりという意味だったら、最近のアフリカの若い子とかはカッコいいビート・ミュージックを作っていますけど、音の深みみたいな方向がリチャードとは全然違っていて。その差が面白い。どっちも好きなんですけどね(笑)。リチャードは、センスもスキルも円熟している印象があります。

N:深いですねぇ、リチャードの世界は。フィリップ・グラスが “Heroes”を手がけたとき、なんかのインタヴューで「なんでエイフェックス・ツインにリミックスを依頼したんですか」と訊かれて、「彼の音楽は私にはまったく理解できないからだ」と答えたのね。そう言えてしまう、フィリップ・グラスもすごいんだけど。普通、クラシックから来ているような人って理解できないものは却下しちゃうから。で、たしかにリチャードには、いまだにその「理解できない」ところがあるからね。それもまたすごい。


〈8月3日追記〉

N:この対談の後、作品がリリースされ、いくつかわかってきたことがあるので軽く追加しましょう。まず、QRコードからダウンロードした「YXBoZXh0d2lu」というアプリを使って、実物のジャケットをスキャンすると、立体が飛び出してきて、いろいろ楽しめるということ。これはぜひトライして欲しい。フィジカルを買う楽しみというものがある。それから、MVが公開されたことで今回の “Blackbox Life Recorder 21f”が、どうやら亡くなったリチャードのご両親に捧げられている曲ではないかということ、曲名もそのことにリンクしているのかもしれないね。

S:「Girl/Boy ep」のときも彼の兄弟へのパーソナルなメッセージ性があったと思いますが、表現の仕方が進化してますよね。彼の曲の成熟度は、リチャードのスキルを体現するセンスや彼の人間性も物語っていて、個人史と交差する際に、こんな見せ方ができるのかと思いましたね。

N:それゆえに、ピースなフィーリングをもった曲になったのかもしれないね。

S:彼のフォーリングは、異常気象に代表される社会不安や、ありがちな「暗さ/終わり」を超えていると思います。エイフェックス・ツインの表現は、ユーモアを介していて、その上で有機的な方向性を帯びてますよね。ネット時代では「暗さ」や「死」の引用が氾濫しているし、それゆえリチャードの行為はより深さを増しているというか、家族への想いをシンプルに表現することの深さも痛感します。

N:可笑しさもありつつも、慈愛のこもった曲というかね。リチャードのお母さんの声は、 “Come to Daddy”の「Mummy Mix」で聴けますね。 ところで「YXBoZXh0d2lu」ですが、まだまだなんかあるかもしれないっていう噂がありますね。あくまでも噂ですが……。ということで、まだまだ続きがありそうな夏のAFX祭り、楽しみましょう。

interview with YUKSTA-ILL - ele-king

 1982年生まれ、三重県鈴鹿市在住のラッパー、YUKSTA-ILL(ユークスタイル)を知らずして、東海地方のヒップホップとその歴史について語ることはできない。彼は00年代後半からいままでブレることなくコンスタントに作品を発表し、そのたびに全国をツアーで回っている。以下のインタヴューでは、東京、大阪、名古屋などの大都市ではない地域でアンダーグラウンドな音楽をつづけることの困難とそれを乗り越えてきた経験の一端が語られる。

 YUKSTA-ILLは00年代後半にはヒップホップとハードコアが独自に深くつながる名古屋、東海地方のストリート・カルチャーの土壌が生んだ突出したラップ・グループ、TYRANTの一員として活動。その後、15、16年に『WHO WANNA RAP』とそのリミックス盤『WHO WANNA RAP 2』という決定的な作品を発表した大所帯のクルー、SLUM RCに参加。個性豊かな面々が混じりけのないラップの魅力で競い合う美しさにおいて日本語ラップ史に残る2枚のアルバムだ。TYRANTとSLUM RCは、「日本語ラップ史」における重要度に比してあまりに評価が追いついていないと言わざるを得ない。が、YUKSTA-ILLについて語るべきことはそれだけではない。

 YUKSTA-ILLのラップの特異性は、「どんな奇妙で変則的なビートでもラップしてやろう」という好奇心と冒険心から生まれている。日本でこれだけラッパーが増えた現在でも、YUKSTA-ILLのような、ブーム・バップとトラップの二元論やトレンドに囚われない冒険心を持つラッパーというのは少数派だ。ダニー・ブラウンが風変わりとされ、唯一無二であるように。良くも悪くも、一般的にラッパーは、その時代のトレンドの形式や様式のなかで個性やスキル、人生経験を競い合うものだ。すでに約10年前、ビートメイカー、OWLBEATS『? LIFE』(12)におけるYUKSTA-ILLのラップは、まさにele-kingのレヴューにおいて、実験的なエレクトロニック・ミュージックの観点からも驚きをもって評されている。

 だから、YUKSTA-ILLが今年4月に発表した通算4枚目のアルバム『MONKEY OFF MY BACK』は、“オルタナティヴ・ヒップホップ” と言えよう。彼がこれまでリリースしたファースト『questionable thought』(11)、セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』(17)、サード『DEFY』(19)がそうであったように。彼はアルバム以外に、盟友=ATOSONEとの12分間の実験作品『ADDICTIONARY』(09)、KID FRESINOやPUNPEE、16FLIPら東京のビートメイカーとの共作EP『tokyo ill method』(13)、あるいは、『MINORITY POLICY OPERATED BY KOKIN BEATZ THE ILLEST』(15)や『ABYSSS MIX』といった自身の楽曲などを仲間のDJがミックスする作品を残している。後者のミックスは、YUKSTA-ILLの未発表曲、リミックスなどとアメリカのラップを混ぜてミックスしていくDJ BLOCKCHECKの手腕によって、YUKSTA-ILLの多彩なフロウがいかにグルーヴィーであることを伝えている。

 本作では、呪術的なムードが漂う “DOUGH RULES EVERYTHING”、ジャズのドラムロールの一部をループしたような騒々しいビートでCampanellaとスキルを競い合う “EXPERIMENTAL LABORATORY(その名も「実験室」)” の2曲が象徴的だ。両者ともOWLBEATSのビートだ。その他にMASS-HOLE、KOJOE、ISAZ、UCbeatsのビートがある。さらに、山口のラッパー、BUPPONとの “BLOOD, SWEAT & TEARS” はいわば “ローカルからの逆襲” である。このふたりが、あのtha boss(THA BLUE HERB)と共作した “HELL'S BELLS”(『IN THE NAME OF HIPHOP』)の続編としても聴ける。

 今年41歳になる彼は自主レーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を立ち上げ、最新作をそこから出した。音楽を、表現をつづけることが闘いなのだと言わんばかりに。ライヴで渋谷にやってきたYUKSTA-ILLに話を訊いた。

YUKSTA-ILL - BLOOD, SWEAT & TEARS feat. BUPPON

工場が多くて、トラックもめちゃめちゃ多い。物流が産業の中心だから、東北や九州から来た出稼ぎの労働者の人も多くて、そういう人がお店やクラブに迷い込んでくることもあるんですよ。

4年ぶりのアルバムですね。この数年間はどう過ごしていました? コロナもあったじゃないですか。

YUKSTA-ILL:前のアルバム『DEFY』を2019年2月に発表してから約1年はツアーを回っていましたけど、2020年の年が明けてほどなくして世の中コロナになってしまって。ライヴが決まっていても、緊急事態宣言やまん防(新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置)で延期か中止になるからライヴに向けてのモチベーションが保てなくて。そのころNYの街もロックダウン中で、当時はまだ現地にいたSCRATCH NICE、GRADIS NICEから届いたビートで、『BANNED FROM FLAG EP』(20)を作って。それからは、水面下で曲は作り続けていましたけど、三重からはあまり出なかったですね。近くの公園にバスケのゴールができたから、早朝にバスケして、散歩してるおじいちゃん、おばあちゃんと戯れて、帰って午前中からリリックスを書いたりしてました。

マイペースにやっていたと。

YUKSTA-ILL:アルバムを出したら、曲を引っ提げて全国を回りたいじゃないですか。『NEO TOKAI ON THE LINE』のときはOWLBEATSと、『DEFY』のときはMASS-HOLEといっしょに全国を回りました。俺は、フル・アルバムを出すというのはそういうことだと思っていますから。『BANNED FROM FLAG EP』を出したあとも、三重以外でも呼んでくれる土地には行きましたけど、中止や延期の可能性も高かったから自分からはアプローチはしなくて。心置きなくライヴをできるまではアルバムを出すタイミングじゃないと思っていましたね。

ライヴをやってナンボですからね。

YUKSTA-ILL:ホントそうなんですよ。だから、とりあえず曲を作り溜めてそれから考えようと。

たとえば、“JUST A THOUGHT” の冒頭の「時として なんなら飛び込みてぇ/脱ラッパー宣言 『例えば』とか『もし』の視点」っていうリリックはコロナ禍での鬱積した気持ちの表れなのかなと。

YUKSTA-ILL:田舎は人が落ち着くのが早くて、まだ若いのにクラブやライヴ・ハウス、遊ぶ場所に来なくなる人も多いんですよ。名古屋や東京のような都会では、年齢層高めでも遊んでいる人が多いじゃないですか。そういう都会に行くと、ずっとやってるヤツ、ギラついているヤツにも会って自分のマインドを保てるけど、田舎はそうじゃないから。それに追い打ちをかけるようにコロナも流行して、俺自身も三重にこもりっきりになって、プライヴェートでもいろいろあって、そういうなかから出てきたリリックスですね。ラップを辞めるつもりはないですよ(笑)。ただ、やっぱり人生についていろいろ考えるじゃないですか。だから、「『例えば』とか『もし』の視点」と書いているし、曲の最後は、「どこまで行こうとも根本 芯はDEFY」と締めている。『DEFY』は前のアルバムのタイトルで、「ブレない」「確固たる」という意味。そこに最後は戻るという構成になっている。アルバムのなかでいちばん早い段階ぐらいでできた曲ですね。

リリックで面白かったといえば、“DOUGH RULES EVERYTHING” の「金だ金だ金だ金だ金だ」っていうフックの反復ですね。

YUKSTA-ILL:これは、J・コールが金について歌った “ATM” っていう曲のオマージュなんですよ。J・コールとゴタゴタがあったリル・パンプへのアンサー・ソング(“1985”)があるじゃないですか。あの曲と同じく『KOD』に入っていますね。フックで「Count it up, Count it up」ってくり返す箇所が「金だ金だ」に聴こえるし、意味としても「金を数える」だからサンプリングしたんです。俺のフックの「あの世に持って行けんけど/ないと生きていけん」というリリックも、その曲の「Can't take it when you die, But you can't live without it」の和訳なんですよ。

J. Cole - ATM

なるほど、そうだったのか。ユークくんは、J・コールについて前回のインタヴューでも語っていましたね。やはり好きなラッパーのひとり?

YUKSTA-ILL:J・コールはカッコいいと思いますね。J・コールは、バスケへの愛があるし、プロのバスケ選手にもなったじゃないですか(バスケットボール・アフリカ・リーグのルワンダのチーム「Patriots」に一時所属、試合への出場も果たした)。ラップのリリックスにもそういうのを盛り込んでくるんですよね。だから、俺も無条件にフィールしている。『The Off-Season』(2021年)のアルバムのジャケでもバスケット・ゴールが燃えているし。それと、J・コールの出身地のノースカロライナ州はアメリカの田舎なんですよ。そういうローカルな感じも好きですね。

ユークくんはアメリカのどこに住んでいたんでしたっけ?

YUKSTA-ILL:ペンシルベニア州のポコノですね。フィラデルフィアやニューヨークに近い山地で避暑地みたいな場所です。子どものころに4年ぐらい住んで、現地の学校に通っていました。日本人は俺と妹しかいなかったですね。物価が安いからポコノに住んでNYに出稼ぎに行く労働者も多かったみたいだし、黒人の人も多くて、クール・G・ラップやDMXのリリックにもポコノの名前が出てくる。だから、なおさらヒップホップにのめり込みましたね。

ということは、ラップはアメリカで始めたんだ。

YUKSTA-ILL:高校生のころ、ポコノの地元のヤツらがラップをはじめて、俺もそこに交じった感じです。クルーとまでは言えないけど、集団になって。で、そのなかのひとりの父ちゃんがビートを作っていて、アメリカによくあるベースメント、要は地下室をスタジオにしていたんです。そこにみんなで集まってやっていましたね。

最初は英語でラップしていた?

YUKSTA-ILL:いや、それが日本語でやるんですよ(笑)。一時帰国したときに、ちょうど “Grateful Days”(1999年)がオリコンで1位になっていたんです。しかも当時、ヤンキーもFUBU(90年代のヒップホップ・ファッションを代表するブランド)とか着ていたじゃないですか。それで、「日本でもヒップホップが来てるのか! ヤベェ!」って興奮したんですけど、周りのヤツらに話をよくよく聞いてみると、音楽は浜崎あゆみを聴いていると。俺はそれぐらい日本の事情を何もわかっていなかったから。いまだから言えますけど、自分でリリックを書きはじめる前は、“Grateful Days” のZEEBRA氏のヴァースを向こうのヤツらの前でキックしたりしていました(笑)。すると向こうのヤツらも「こいつヤベエよ! ライムしてるぜ!」ってなって。

はははは。いい話。

YUKSTA-ILL:あと、『THE RHYME ANIMAL』(ZEEBRAのファースト・アルバム/98)の “I'M STILL NO.1” のヴァースもやりましたね。そうそう、フォースM.D.'Sっているじゃないですか。そのうちのひとりがポコノで服屋をやっていたんですよ。そこに遊びに行って、「俺、ラップするんだよ」ってラップをやってみせたりしていました(笑)。もちろん、その後はちゃんと自分で日本語でリリックを書くようになりますね。

ポコノには、日本人が他にいなかったということでしたけど、差別も厳しかったですか?

YUKSTA-ILL:まあ、どこ行っても差別みたいのありましたね。車でモールに行って買い物して帰って来たらタイヤの空気が抜かれていたり。アジア人だからってそういうことはありましたよ。俺、中学生のころはバスケ部だったし、向こうにはコンビニ感覚でゴールがあるからとうぜんやっていたんです。ちょうど(アレン・)アイバーソンが登場して活躍しはじめる時代です。そのアイバーソンの必殺技にクロスオーバー・ドリブルっていうのがあって。俺はそのドリブルを中学生のころに習得していたから、アメリカでもそれをかましたら、向こうのヤツらがぶち上がっていましたね(笑)。

それでリスペクトをゲットしたと。

YUKSTA-ILL:そうそう。それでリスペクトを得て打ち解けていったのはありましたね。そもそも俺は、バスケからヒップホップに入ったんです。アイバーソンが出てきて、バスケとヒップホップがリンクしているのを知ってヒップホップに興味を抱いた。今回のアルバム・タイトルの『MONKEY OFF MY BACK』もよくスポーツ選手が使う諺みたいな言葉で、「肩の荷を下ろす」とか「苦境を脱する」みたいな意味合いで、“FOREGONE CONCLUSION” の最後で、この言葉を使うコービー(・ブライアント)のインタヴューをサンプリングしているんですよ。

なるほど。

YUKSTA-ILL:当時、日本のバスケ雑誌にも、毎月1ページだけ、ヒップホップのアーティストが紹介されるコーナーがあって。アメリカにいるときに、日本から雑誌を取り寄せてもらって、そのコーナーを隅から隅まで読み込みましたね。1回目がZEEBRA氏、2回目がDEV LARGE氏、3回目がK DUB SHINE氏で、4回目がYOU THE ROCK★氏でした。その雑誌を読んで、日本にもヒップホップがあるのを知ったぐらいですから。

00年に、ナイキのキャンペーンで、ZEEBRA、DEV-LARGE、TWIGYの3人がバスケットをテーマにした “PLAYER'S DELIGHT” を作っていますよね。

YUKSTA-ILL:ありましたね。

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DJをやるようになって、ライヴに行った先々の土地でレコードを買う楽しみができて、ヒップホップの新譜のLPをDJでかけたいから買うようになりました。

ところで、今回の作品は、自身の自主レーベル〈WAVELENGTH PLANT〉の第一弾リリースじゃないですか。このタイミングで自分のレーベルを作ろうと思ったのはなぜですか?

YUKSTA-ILL:自分の地元の三重の鈴鹿・四日市を色濃く形作るためにはやっぱりレーベルを立ち上げてやった方がいいと思ったんですよね。

ピッチダウンさせたソウル・ヴォーカルをループしているような “TBA” を作っているUCbeatsさんはユークくんの地元・鈴鹿のビートメイカーなんですよね。

YUKSTA-ILL:そうっすね。地元の鈴鹿・四日市の現場にも20代前半ぐらいの若いヤツらも増えましたけど、UCbeatsは、俺とその若いヤツらのあいだぐらいの世代ですね。UCbeatsは、鈴鹿にあるゑびすビルという複合ビルに〈MAGIC RUMB ROOM〉というスタジオを持っていて、自分もそこにいたりしますね。〈KICKBACK〉(三重県のハードコア・バンド、FACECARZのヴォーカルのTOMOKIが営む洋服屋)もあって、2階が〈ANSWER〉っていうライヴ・ハウスです。もともとヤマハ楽器のビルだから防音の扉もしっかりしているんです。

YUKSTA-ILL - TBA

〈WAVELENGTH PLANT〉というレーベル名はどこから?

YUKSTA-ILL:WAVELENGTHには「波長」とともに「個人の考え方」という意味があり、さらに、鈴鹿・四日市は工業地帯だからPLANTと付けました。ロゴは四日市コンビナートと、波形データをイメージしてデザインしてもらいました。

鈴鹿や四日市はどんな町なんですか。やはり労働者の町?

YUKSTA-ILL:そうですね。工場が多くて、トラックもめちゃめちゃ多い。物流が産業の中心だから、東北や九州から来た出稼ぎの労働者の人も多くて、そういう人がお店やクラブに迷い込んでくることもあるんですよ。だから、仕事を選ばなければ仕事はあって職には困らない地域とも言えます。で、鈴鹿の隣町の四日市が三重ではいちばん栄えている町で、そこに〈SUBWAY BAR〉というクラブがあるんです。

そこが、地元の活動の拠点なんですね。

YUKSTA-ILL:そうですね。今日バックDJとして(渋谷に)来てくれてるキヨシローっていうヤツが〈TRUST〉ってパーティをやっていて。俺がライヴをやるときもあれば、「レコード持って行っていい?」ってDJやりに行く回とかもあるんですよ。コロナ前に1982S(YUKSTA-ILL 、ISSUGI、仙人掌、Mr PUG、YAHIKO、MASS-HOLEの1982年の6人から成るヒップホップ・グループ)が中目黒の〈SOLFA〉でDJオンリーのパーティをやるときに、MASSくんから「DJできる?」って声かけられて、そこで初めてDJしました。

ああ、そうだったんですか。

YUKSTA-ILL:今回のアルバムのCDの特典に、DJ 2SHANの『BLUE COLOR STATE OF MIND』ってミックスCDを付けているんですけど、そのDJ 2SHANは四日市で〈RED HOUSE〉っていうレコ屋をやっている。レコードでDJする彼にDJを教えてもらって、本番に臨みましたね。MASSくんも悪い男だから、俺は初めてのDJなのにメインフロアの1時ぐらい、しかも16FLIPのDJの前に組まれて(笑)。この世のDJの皆さんには謝りたいぐらいですけど、つなぐだけで盛り上がってくれてほっとしました(笑)。DJをやるようになって、ライヴに行った先々の土地でレコードを買う楽しみができて、ヒップホップの新譜のLPをDJでかけたいから買うようになりました。和歌山にラッパーのSURRYくんがやっている〈Banguard〉っていうお店があるじゃないですか。

おお~、SURRYくん! わかります。

YUKSTA-ILL:嫁の地元が和歌山で、〈Banguard〉にも行く機会が増えて。あのお店はヒップホップのみならずレコードの品ぞろえがいいんですよ。それで行くとテンションが上がって、行くたびに何かを買って帰るようになりましたね。DJをやるようになってから新しい視点が加わりましたね。“JUST A THOUGHT” の「まるでレコードの溝 はみ出るニードル 対応には全神経集中する肉眼を駆使」とかは前の俺からは出てこないリリックスですし。DJをちゃんとやっている人にたいして、俺なんかが大それたことは言えないですけど、楽しみが増えたって感じです。ソウタ(ATOSONE/RC SLUM主宰/ブランド「Comma Violeta」のオーナー)もたまに「〈COMMON〉(ATOSONEが名古屋にオープンしたGallery&Bar)でDJしないか?」って誘ってくれますし。

三重のヤツらは才能があるのに発信しようとしないヤツらも多いんですよ。だから、〈WAVELENGTH PLANT〉では、若くてやる気はあるけど、右も左もわからないヤツをサポートしたい。

DJは楽しいですよね。音楽との関わり方のチャンネルがひとつ増えますよね。ユークくんの周りにはお手本になる良いDJがたくさんいるんじゃないですか。今回のアルバムでもビートを2曲手掛けているISAZもミックスCDをコンスタントに出していますし、ぼくは彼のミックスCDがすごく好きで。

YUKSTA-ILL:ISAZのビートは軽やかですよね。あと瞬発力がある。じつは今回のアルバムは作り溜めてきたものをいろいろ調整して作り上げたんです。KOJOEくんが大阪にいたときにいっしょに作品を作っていたんですけど、その途中で沖縄に行っちゃったんで(笑)。

KOJOEさんは、東京、大阪に〈J.STUDIO〉という音楽スタジオを作って、東京はMONJUに、大阪はTha Jointzに任せて、さらにスタジオを作るために沖縄の那覇に移住したんですよね。

YUKSTA-ILL:そうなんです。KOJOEくんもいろいろプロジェクトを抱えている人なので、俺の考えるペースではアルバムが出ないと判断してスウィッチを切り替えて。KOJOEくんとのプロジェクトはいずれなんらかの形で発表するとして、俺のフル・アルバムをまず出そうと。それで、KOJOEくんに了承を得て、KOJOEくんと作った曲からピックアップして、今回のアルバムに収録した。ただ、KOJOEくんのビートをそのまま使っているのは2曲だけで、ほとんどビートは差し替えました。すでにREC済みのアカペラをビートメイカーに送ってビートを作ってもらって、送り返してもらって、さらにラップを録り直してブラッシュアップしていった。だから、けっこう迷走した時期もあって。俺はフル・アルバムを出すときにはやい段階でタイトルやコンセプトを決めて作っていくんですけど、今回は溜まった曲を並べていった。そうしたら、ぜんぜんまとまりがなくて、ISAZの2曲は、アルバムがじょじょに肉付けされていくなかで、アルバムに足りない部分を加えた曲だった。いままでと違う作り方をして完成させることができたのは新しい経験でしたね。

そもそもユークくんとKOJOEさんとの出会いっていつですか?

YUKSTA-ILL:KOJOEくんが2009年にアメリカから帰国してからの付き合いなんで長いんですよ。KOJOEくんが帰国して最初のライヴは〈MURDER THEY FALL〉(1998年に第1回が開催された東海地方のハードコア、ヒップホップ、ストリート・カルチャーを象徴する重要イヴェント)で、自分はそこにTYRANTとして出演していたんです。それからじょじょに親しくなっていった。仲が良いからこそ、KOJOEくんからは厳しく言われますね(笑)。

“TIME-LAG” はKOJOEさんのビートですが、ベースラインがカッコいいですね。

YUKSTA-ILL:いいですよね。WELL-DONE(大阪を中心に活動するクルー、Tha Jointzのラッパー) との “GRIND IT OUT” は、俺がTha Jointzのみんなも出てる大阪のイヴェントに行ったときにやることになった曲です。まだKOJOEくんも大阪にいました。ただ、KOJOEくんのビートをOWLBEATSのものに差し替えていますね。

OWLBEATSさんも精力的に活動していますよね。〈OILWORKS〉から出した『ON-SHOCK』も今年出した『BAN-ZOK-HEADZ』も素晴らしかった。

YUKSTA-ILL:鹿児島出身のOWLBEATSとも古いです。OWLBEATSはファースト・アルバム『? LIFE』を〈RC SLUM〉からリリースしていますけど、その前から、鹿児島や沖縄にはよくライヴで行っていましたし、名古屋や地元以外で、いちばんライヴで行っている土地が鹿児島ですね。というのも、自分たちの周りは昔からハードコアとヒップホップのつながりは強くて、OWLBEATSはLIFESTYLEという鹿児島のハードコア・バンドと仲が良くて、名古屋にいっしょに来ていたんですよ。WELL-DONE も元々ハードコア・バンドをやっていましたしね。OWLBEATSが2015年にOTAI RECORDが主催して〈club JB'S〉で開催したビートメイカーのバトル・イヴェント〈BEAT GRAND PRIX 2015〉で優勝したときは、俺らは誇らしかったですよ。ブレずに自分のスタイルでやり続けていますよね。

“SPIT EASY” にはALCIとGIMENが参加していますけど、すこし前に東京で観たALCIのライヴがめちゃくちゃパワフルでした。

YUKSTA-ILL:ALCIと兄貴のBRUNOの日系兄弟のライヴもすごいですよ。ぜひ観てほしいですね。兄弟だから出せるグルーヴがあって、あれは他のヤツらには真似できないっすね。ALCIはいまは名古屋にいますけど、四日市に2年ぐらい住んでいた。ヤツは、〈SUBWAY BAR〉で「AMAZON JUNGLE PARADISE」ってずっとやっているオープンマイクのイヴェントに三重に住む前から来ていて、ラッパーとしてそこで培ったものは大きいと思います。ALCIのソロ・アルバム『TOKAI KENBUNROKU』でも1曲やっています。でも、三重のヤツらは才能があるのに発信しようとしないヤツらも多いんですよ。だから、〈WAVELENGTH PLANT〉では、若くてやる気はあるけど、右も左もわからないヤツをサポートしたい。今回は自分のアルバムだけど、俺だけのレーベルじゃなくて、地元の他のヤツらにもみんなのレーベルと思ってほしいんです。

 昨年、ブライアン・イーノのインスタレーション展を開催した「AMBIENT KYOTO」、2023年の第二回目の出展アーティストが発表された。まずは坂本龍一+高谷史郎、 コーネリアス、バッファロー・ドーター+山本精一というじつに興味深いメンツだ。
 展覧会の会場は、昨年と同様、京都中央信用金庫 旧厚生センターを拠点としながら、今回はさらに拡張され、京都新聞 ビル地下1階の2会場も使用される。
 また、会期中にライヴを開催。ミニマル・ミュージックの巨匠テリー・ライリーが東本願寺・能舞台で10月13日(金)と14日(土) の二日間に渡ってライヴ出演。
 いったいどんな内容になるのでしょう。ほかにも関連イベントなどもあるかもしれないそうで、これは秋の京都が楽しみ。詳しくはホームページ(https://ambientkyoto.com/)を参照ください。

[8月30日追記]
 追加情報が公開されました。コーネリアスによるライヴが開催(11月3日@国立京都国際会館 Main Hall)、一夜限りの「AMBIENT KYOTO 2023 presents Cornelius 夢中夢 Special Live Set」を披露します。
 また、芥川賞作家の朝吹真理子も朗読作品で参加することが判明。会期中にPodcastで公開されます。
 チケットは9月5日(火)より発売開始です(https://ambientkyoto.com/about#tickets-info)。
 また、テリー・ライリーの東本願寺・能舞台でのライヴが立体音響ライヴになることも発表。あわせて各展示会場が下記のようになることも決定しています。

京都新聞ビル地下1階
・坂本龍一 + 高谷史郎

京都中央信用金庫 旧厚生センター
・コーネリアス
・バッファロー・ドーター
・山本精一

【AMBIENT KYOTO 2023(アンビエント・キョウト2023)】
 
参加アーティスト
《展覧会》
坂本龍一 + 高谷史郎、コーネリアス、バッファロー・ドーター + 山本精一
《ライヴ》
テリー・ライリー(10月13日/14日)

《開催期間》
2023年10月6日(金)〜12月24日(日)
*休館日:11月12日(日)、12月10日(日)
《会場》
京都中央信用金庫 旧厚生センター (展覧会)
京都新聞ビル地下1階 (展覧会)

《ライヴ会場》
東本願寺・能舞台

主催:AMBIENT KYOTO 2023 実行委員会
(TOW / 京都新聞 / Traffic / 京都アンプリチュード)
企画・制作:TOW / Traffic
協力:α-station FM KYOTO / 京都 CLUB METRO
後援:京都府 / 京都市 / 公益社団法人京都市観光協会 / FM COCOLO
機材協賛:Genelec Japan / Magnux
協賛:Square
特別協力:京都中央信用金庫
[Key Visual:Artwork design by Alex Somers / Logo design by Seri Tanaka

*チケット発売日、料金など詳細は後日発表。

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