「Low」と一致するもの

Jam City - ele-king

 日曜日の朝6時過ぎの井の頭線や小田急線に乗って帰る途中の、電車の窓から差し込む日の光の眩しさは、年老いたいまでも忘れられないものだ。毎週末クラブに行くのが楽しくて楽しくて仕方がなかった日々を経験している人にはお馴染みの話だろう。あの奇妙な感覚は、安易に恍惚とは言いたくないほど恍惚と空虚さとのせめぎ合いのひとときだった……よなぁ〜、はぁ〜。ジャム・シティの新譜を聴いてぼくはあの感じを思い出した。深夜から朝方にかけての、都会の謎めいた集会で磨かれた香気。昨今の話題のダンス・アルバムがいろいろあるなかで、さり気なくエロティックでもある。アンダーグラウンドな感性からするとポップすぎるのだが、ジャム・シティの新作にはクラブ・カルチャーの夜の匂い、そしてエロティシズムが流し込まれている。

 昨年は、『クラシカル・カーヴス』がリリースから10年ということで曲が追加され再発された。これはもう、ジャム・シティのデビュー・アルバムにして2010年代の傑作のなかの1枚、グライム/ダブステップの異境を開拓し、デコンストラクテッド・クラブ(「脱構築クラブ」というマイクロ・ジャンル)に先鞭を付けた作品としてクラブ文化史には記録されている。じゃあだからといって本作『EFM』が、そのクローム状のマシン・ビートを引き継いでいるわけではない。ジャム・シティことジャック・レイサムは、自由人というか気紛れというか酔いどれ船というか、ダンスフロアを政治的抵抗の場と定義し、音楽それ自体は内省的で、インディ・ロック寄りのシンセ・ポップを試みた『Dream A Garden』を出しながら、その次作には、アンフェタミンと彼の混乱した生活が反映したグラム・ロック風のサイケデリア『Pillowland』を作ってみたり、確固たる自分のスタイルがあって、ある程度決まった方向に真っ直ぐ進むタイプではなく、その都度その都度進路を変えてみたりとか、清水エスパルスのことを知らないクセに髪をオレンジに染めてみたりとか、おそらくは自分に正直な根無し草タイプなのだろう。

 ここで少々脱線。デコンストラクテッド・クラブとはまさにそういうことを指す。シカゴ、デトロイト、バルチモア、ニュージャージー、ロンドン等々、その地域の特性が音楽を特徴づけてきたクラブ・ミュージックにおいて、具体的な場も党派性もない、ネット上から情報収集した雑食性に特徴を持つクラブ・ミュージック。『クラシカル・カーヴス』にはグライムもあればジャージー・クラブもハウスもあるし、ほかにもなんかある。
 また、人間不在のそのアートワークは、2010年代前半に脚光を浴びたOPNの『R Plus Seven』や一連のヴェイパーウェイヴとも共通する「non-place(非場所)」ないしは「場所の喪失」と呼ばれる感覚をも暗示していた。地域の匂いも人の匂いさえ感じないショッピングモールが「non-place」を象徴する場であり、今日のインターネット空間のアナロジーでもある。もうひとつ蛇足すると、デコンストラクテッド・クラブ(もしくはかつてのヴェイパーウェイヴ)が往々にしてディストピア・イメージを弄んだのは、地球温暖化から(日本だけではなく、西欧諸国においても中流家庭が減少した)政治経済にいたるまで、未来への失敗が明らかになったことにリンクしているだろう、というのが大方の解釈である。アーケイド・ファイアーの2007年の曲を思いだそう。「恐怖がぼくを動かし続ける/ それでも心臓の鼓動は遅く、ぼくの体はぼくをダンスから遠ざける檻のよう」。当時の若い世代が、ショッピングモールの見せかけだけの微笑みと健全さを破壊し歪ませたいと思ったとしても不思議ではない。「幽霊たちの時代」となった10年代の、これが初期衝動である。

 『クラシカル・カーヴス』のような革命的なアルバムは、若さゆえの恐いモノ知らずがあってこそ作れたと本人は回想しているが、それを思えば本作『EFM』は、曲それ自体の完成度を目指しつつ、クラバー以外にも聴いて欲しいという作者の意図が具現化された、外に向かっている作品だ。オープナーの “Touch Me” 、プリンス風のこの曲がアルバムの目指したところを象徴している。つまり、『EFM』はずいぶん耳障りがよく、バランスの取れたダンス・ポップ・アルバムである——ということで話を締めてもいいのだが、せっかくなのでもう少し突っ込んで書いてみると、“Touch Me” のベースにあるのはハウス・ミュージックで、 “Times Square” のラテン・パーカッションの入れ方もそうだが、80年代後半のシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノをUKベースのフィルターに通しながらR&Bのセンスでポップにまとめ上げているという分析もできそうだ。ケレラのトラックを作っていた頃にくらべるとUKガラージ色は後退し、ハウス色が強調されているのは、ポップに突き抜けたR&B曲の “Wild n Sweet” やトランシーな“LLTB” にもはっきり表れている。ややレイヴィーな “Be Mine” のベースにはダブステップの記憶もあるが、『クラシカル・カーヴス』の壊れた感覚とは交わることのないメロディアスな展開で、4/4ビートながら適度にIDM的ギミックが入っている “Reface” から多幸感に満ちた滑らかな“LLTB” への流れは、なんというか、ちょっと愛の夏を思い出してしまうね、老兵は。いかんいかん。

 もうおわかりのように、ここには錯乱も政治もディストピアもない。“Tears at Midnight”のようなビートダウンした曲にもなかば感傷的な夜の生活の甘い陶酔と苦みがあって、“Redd St. Turbulence” のように具体的な「場所」にこだわった曲もある。ジャック・レイサムも今回は、特定の場面やそこにいた人間たちを思いながら曲を作ったというようなことをリリース・ノートのなかで言っているが、しかしまあ、この作品をひと言でまとめれば夜のファンタジーとなる。いま風のギミック(細かいエディットやピッチシフトされたヴォーカルなど)も交えながらのクオリティの高いアルバムになっているし、ダンスフロアの匂いやその艶めかしさを運んでくれるので、気分はダンスだ。10年代のエレクトロニック・ミュージックが見せた深淵から広がる暗闇のことは忘れて。

interview with Kassa Overall - ele-king

 一口に新世代のジャズ・ミュージシャンに括られる中でも、一際ユニークでほかにない個性を持つひとりがジャズ・ドラマーのカッサ・オーヴァーオールである。ジャズとヒップホップやエレクトロニック・ミュージックをミックスするミュージシャンはいまでは少なくないが、そうした中でもカッサのようにフリー・ジャズなど前衛的な手法を用いる者は異端で、言ってみればポップ・ミュージックと実験音楽を並列させてしまう稀有な存在でもある。そして、自身でラップもおこなうなど言葉に対しても鋭い感性を持つアーティストでもあり、自身の内面を赤裸々に綴る歌詞も彼の音楽を形作る重要な要素である。

 2019年にリリースされた『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』でカッサ・オーヴァーオールの名前は知られるようになり、ジャズの未来を切り開く新しいアーティストとして一躍注目を集める。ただ新しいだけではなく、女流ピアニストでコンテンポラリー・ジャズの世界に大きな足跡を残した故ジェリ・アレンのバンドで活動するなど、ジャズの伝統的な技法や表現も理解した上で、それらと新しい技法を融合するなど、常々実験と冒険を繰り返しているアーティストだ。『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』には故ロイ・ハーグローヴはじめ、アート・リンゼイ、カーメン・ランディなどベテランや実力者が多数参加しており、それら面々とのセッションからもカッサが伝統と新しさを融合することができるミュージシャンであることが伺える。

 2020年には『アイ・シンク・アイム・グッド』をリリースし、そこでは1960年代の黒人解放運動で勃興したブラックパンサー党に属し、社会活動家にして作家として活動してきたアンジェラ・デイヴィスがヴォイス・メッセージを贈っている。社会の抱える問題や不条理などにも向き合うカッサの内面を深掘りしたアルバムでもあり、同時に自身の病気や過去のトラウマなどにも対峙した、よりディープな内容の作品だった。その後、パンデミックなどで世界が激変し、当然彼の周りでも変化があったと想像される。そして、ようやく世界が以前の姿を取り戻しつつある2023年、カッサのニュー・アルバムの『アニマルズ』が完成した。カッサにとってコロナ禍を経てのアルバムであり、その間に長年活動してきたニューヨークから、故郷であるシアトルへと住まいも変わった。そうした中で作られた『アニマルズ』には、一体どのような思いやメッセージが込められているのだろうか。

僕の目標がアルバムごとに少しずつ、じわじわと自由に、そしてポップになっていくことなんだ。そのふたつって矛盾してるだろ? ポップ・ソング、つまりはよりキャッチーな曲を書けるようになりながら、よりアヴァンギャルドで、自由になりたいんだ。

2020年に『アイ・シンク・アイム・グッド』のリリースで来日したとき以来、2度目のインタヴューとなります。そのときはコロナのパンデミックが始まる直前で、その後世界各国でロックダウンがはじまり、ミュージシャンもツアーやライヴができなくなりました。あなたにとっても、パンデミックは大きな影響を及ぼしましたか?

カッサ・オーヴァーオール(以下KO):アルバムはうまくいったんだけど、リリースしたすぐあとに全てが閉鎖されてしまったんだ。だから、あのアルバムから本来得られるはずだったものが実現しなかった気がした。せっかくリリースまでたどり着いたのに、全てが降り出しに戻った気がしてさ。だからとにかく、やり直さなきゃと思った。で、パンデミックのときにミックステープの『シェイズ・オブ・フル』を作りはじめたんだ。あとはいろいろ練習をしたり、とにかく全てを自分ひとりでやっていた。それまでは、曲作りのときは他のミュージシャンと同じ部屋に入って作業していたけど、パンデミックのときは初めてネットでトラックを送り合ったんだ。パンデミックは落ち着いたけど、いまでもまだ少しその手法を活用してる。だから、それは影響のひとつだと思うね。

長年活動してきたニューヨークを離れ、故郷であるシアトルに戻ったのもパンデミックと関係があるのですか? これまでもシアトルとニューヨークをたびたび行き来してきたとは思いますが。

KO:ブルックリンのアパートに住んでたんだけど、休暇でシアトルにいたときにパンデミックでニューヨーク州が閉鎖されてしまってさ。あの期間はニューヨークにいる意味を感じなかったんだよね。ライヴも全然ないし、部屋で仕事をしているだけだったから。シアトルには芝生もあるし、水もあったし、木もあったし、山もあった。そう、つまりもっと自然があるから、あの時期の時間を過ごすのはシアトルのほうがよかったんだ。

いまでもニューヨークにはよく行くんですか?

KO:行くよ。ときどき行って、一ヶ月くらいステイするっていうのを続けてる。だから、シアトルとニューヨークどっちにもいる感じ。ツアーがたくさん決まってるし、いまは住む場所はあまり関係ないんだよね。家族もスペースもあるから、いまはとりあえずシアトルをベースにしてるだけ。

ニュー・アルバムの『アニマルズ』は〈Warp〉からのリリースとなります。〈Warp〉からリリースするようになった経緯について教えてください。

KO:前回のアルバムを出したあと、〈Warp〉の制作部から「ダニー・ブラウンのアルバムのためにビートを作れないか」ってオファーをもらったんだよ。で、ダニーのためにいくつかビートを作ったんだけど、その制作のスタッフが僕の音楽をかなり気に入ってくれて、そこから連絡を取り合うようになり、パンデミックの間もずっと話してたんだ。そして良かったのは、その会話の内容がビジネスよりも音楽の話だったこと。それが、契約するのに良いレーベルだっていうお告げだと思ったんだ。

『アニマルズ』はシアトルの自宅の地下室に作ったスタジオで制作されました。家という概念が『アニマルズ』には投影されていて、その表れが “メイク・マイ・ウェイ・バック・ホーム” という曲かと思います。この曲はどのようなアイデアから生まれたのですか?

KO:トラックを作りはじめたときは、アイデアなんて全然なかったよ(笑)。でも振り返ってみると、僕の場合は新しいサウンドのテクニックをいろいろと実験している中で最高の曲ができ上がることが多い。この曲はアルペジエーターを使って実験している中で生まれたんだ。コンピューターにコードをアルペジオにするアルペジエーターっていうプログラムやプラグインがあるんだけど、それを使って実験してるときにあのコード進行を思いついた。で、それを気に入って、その周りにドラムを乗せ、コーラスを書いた。そこまではすぐだったんだ。でも、そのあとあのラップを書くのに3年かかってさ(笑)。

なかなか納得いくものができなかったんですか?

KO:そう、十分に満足できるものが書けなかったんだよね。あの曲のためにはたぶん4つか5つラップを書いたと思う。

僕の全てのアルバムは全部集めてひとつの作品なんだ。それぞれのアルバムが、ひとつの大きな物語を語るための要素。だから、同じものは二度と作りたくないんだよね。

“メイク・マイ・ウェイ・バック・ホーム” ではシンガー・ソングライターのニック・ハキムと共演しています。彼は私個人もとても好きなミュージシャンなのですが、ニューヨークのジャズ/アーティスト集団のオニキス・コレクティヴで活動していたときに知り合ったそうですね。彼との出会いはいかがでしたか?

KO:彼に初めて会ったのは、オニキス・コレクティヴがロウアー・イーストサイドでプレイしているときだった。僕はオニキスでドラムを叩き、ニックは歌っていたんだ。それが初めて出会ったときの記憶。もう何年も前のことだから、僕が勘違いしていなければだけど。あれはたしかラッパーのウィキのミュージック・ビデオのリリース・パーティーじゃなかったかな。ウィキは僕のアルバムにも参加してくれてる。たぶんオニキスはあのときウィキのパーティーのために演奏してたんだと思う。

ニックの第一印象はどうでしたか?

KO:第一印象は、音楽に対してすごく熱心な人だなと思った。そして彼は、そのとき同じ日に別のショーがあって、サウンド・チェックに参加したあとほかのショーで歌って、そのあとこっちに戻ってきてまた歌ってた(笑)。僕もいつも音楽でバタバタしてるから、この人とは仲良くなれそうだと思ったね(笑)。

ニック・ハキムもそうですが、『アニマルズ』はこれまで以上に多彩なゲスト・ミュージシャンとのコラボがおこなわれています。ジャズ方面を見ると、前作にも参加したシオ・クローカー、ヴィジェイ・アイヤー、ビッグ・ユキ、サリヴァン・フォートナーなどのほか、サックス奏者のトモキ・サンダースやアンソニー・ウェア、ピアニストのマイク・キングといった面々がバンド・メンバーとなっています。中でもトモキ・サンダースはファラオ・サンダースの息子としても知られるのですが、どのように出会ったのですか?

KO:トモキ・サンダースと初めて会ったのは、「スモールズ」っていうニューヨークにあるジャズ・クラブ。ミュージシャンたちがジャム・セッションをやるために集まるバーなんだ。そこで彼を見かけるようになってさ。当時、彼がすごくブリムの大きな帽子をかぶってたのを覚えてる。で、たしか最初はシオ・クローカーが彼のことを紹介してくれたんじゃないかな。それでトモキと連絡をとるようになって、日本に行ったときに僕のショーに彼を呼んだんだ。

彼の第一印象は?

KO:彼って、ほかのミュージシャンに対してすごく謙虚なんだ。「会えて光栄です」みたいなさ(笑)。ほかのミュージシャンをすごくリスペクトしてるのが伝わってくるんだよね。

彼が参加した “スティル・エイント・ファインド・ミー” など、フリー・ジャズ的なアプローチも感じられるわけですが、実際に何らかの影響があったのでしょうか?

KO:トモキはすごく自由なエナジーと溢れるような情熱をあの曲にもたらしてくれたと思う。たしかに、フリー・ジャズ的なアプローチは感じられるかもしれないね。というか、僕の目標がアルバムごとに少しずつ、じわじわと自由に、そしてポップになっていくことなんだ。そのふたつって矛盾してるだろ? ポップ・ソング、つまりはよりキャッチーな曲を書けるようになりながら、よりアヴァンギャルドで、自由になりたいんだ。僕はキャッチーさとクレイジーさを同時に手に入れる方法を探求しているんだよ。

かなり難しそうに聞こえますが(笑)。

KO:その通り(笑)。だからこそ、たくさん実験する必要があるんだ。いつもうまくいくとは限らないけど、ときにはうまくいくこともある。これだ!と心をつかむものが、その過程で生まれるんだよ。それを見つけ出すことが僕の目標のひとつなんだ。

初めからそこまで大きなヴィジョンを持って活動しているんですね。

KO:それはたぶん、僕がほかのアーティストのアルバムの歴史とディスコグラフィの大ファンだからだと思う。僕にとっては、僕の全てのアルバムは全部集めてひとつの作品なんだ。それぞれのアルバムが、ひとつの大きな物語を語るための要素。だから、同じものは二度と作りたくないんだよね。過去に戻るような作品は作りたくないし、前に進み続けたいんだ。ファンやリスナーの人たちが全てのアルバムを聴いたときに、「なるほど、こういうことだったのか」と気付けるような作品を作りたい。

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以前の僕は「ああ、僕はひとりなんだ」という感じだった。でもいまは、生きている人なら誰でも孤独や恐怖、人目を気にするということを何らかの形で経験し、その問題に対処しなければならないと思ってる。

メンバーは基本的にニューヨークを拠点とするジャズ・ミュージシャンが多いようですが、あなたがニューヨークに行って演奏した素材を、シアトルのスタジオに戻ってミックスする、というような作業だったのですか?

KO:演奏はニューヨーク。僕はいまでもよくニューヨークに行くからそれが理由でもあるし、もうひとつの理由は、アルバムの曲の中には長年温めてきた曲もあるから。つまり、ニューヨークに住んでいたときに作っていた曲もあるからなんだ。僕の音楽の作り方は、いろいろな時代のレコーディング・セッションの断片を引っ張りだしてきて、それを基に作っていったりもする。作っているものがそのとき作っているプロジェクトに合わなければ使わずそのまま置いておいて、後からまた準備が整ったときに使うんだ。

ミックスはどこで? シアトルのスタジオですか?

KO:いや、ミックスはニューヨークでやった。エンジニアのダニエル・シュレットと一緒にね。彼はストレンジ・ウェザーっていうスタジオをもっていて、そこで作業したんだ。そこは僕のファースト・アルバムをレコーディングした場所でもある。素晴らしいスタジオなんだけど、いま彼はミックスしかしてなくて、レコーディング用のスタジオは必要ないからもう閉鎖してしまうらしい。ダニエルとはもう何年も一緒に仕事をしてきた。彼は僕がやろうとしていることを理解してくれているんだ。

シアトルではどんな作業を?

KO:シアトルでは自分ひとりでの作業が多かった。シアトルのホーム・スタジオでは、材料が全て揃っている状態だったんだ。そこからそれを編集したり、歌詞を書き足したり、ファイルを送り合ったりしてた。バンドのレコーディング・セッションをシアトルでやることはほとんどなかったね。あと “スティル・エイント・ファインド・ミー” をレコーディングしたのはオークランドだった。

それはどういう経緯で?

KO:ツアーの終わりが西海岸だったから、まずオークランドでスタジオを借りて、それからロサンゼルスに行って、そこで “ザ・ラヴァ・イズ・カーム” とほか何曲かをレコーディングしたんだ。僕は結構どこでも曲を作ることができるから。

前作やその前の『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』でも、ジャズとヒップホップを融合した作品はいろいろ見られ、それらでは主にあなたがラップをすることが多かったと思います。今回もあなたがラップをする曲もありますが、同時にダニー・ブラウンとウィキをフィーチャーした “クロック・シッキング”、 リル・Bシャバズ・パレセズをフィーチャーした “ゴーイング・アップ” など、本職のヒップホップのラッパーたちとコラボするケースが目立ちます。これまでとは違う何か変化などがあったのでしょうか?

KO:僕自身がラップやヒップホップのファンだからだと思う。後はラッパーがどんなサウンドを奏でるのか、別のタイプのプロダクションや、前衛的で実験的なプロダクションで自分の音楽を聴いてみたいと思うから。たとえば今回のアルバムでは、リル・Bのラップの裏で僕がエルヴィン・ジョーンズみたいなドラムを叩いているわけだけど、良い意味でその組み合わせが僕を笑わせるんだ。ダニー・ブラウンと前衛的なピアニスト、クリス・デイヴィスの組み合わせもそうだしね。僕は異なる世界を結びつけるっていうアイデアが好きでさ。ヒップホップと繋がりがないような音楽をヒップホップと結びつけるっていうのは面白いと思う。そのアイデアがとにかく好きなんだよね。次のアルバムがどうなるかはわからないけど、とりあえずいまはそれが自分にとってクールな実験だったんだ。

人生を生きる人間として、僕はときに動物園やサーカスにいる動物のように感じることがある。人前に立ってパフォーマンスをして、オーディエンスを楽しませ、大きいけれど大き過ぎない動きをしなければならない。

スカタライツに参加してきたトロンボーン奏者のアンドレイ・マーチソン、タブー・コンボの創設者であるハーマン・ナウの息子のベンジ・アロンセなど、ラテン系のミュージシャンの参加も目を引きます。それが関係するのか、“スティル・エイント・ファインド・ミー”、“ザ・ラヴァ・イズ・カーム”、“ノー・イット・エイント” といった、ラテンのリズムや旋律を取り入れた楽曲があります。こうしたラテン音楽への傾倒は何か意識したところがあるのでしょうか?

KO:アンドレイとは大学が一緒だった。彼はラテン的なミュージシャンってわけではないけど、スピリチュアルな教会のようなエナジーをもたらしてくれたと思う。そしてベンジは、僕のライヴ・バンドのパーカッショニストなんだ。彼のパーカッションは父親の血を引いているからか、普通のアフロ・キューバンのリズムとは違って、ハイチの影響が混ざってる。それがすごくユニークなんだよね。

ニック・ハキム以外に、ローラ・ムヴーラ、フランシス・アンド・ザ・ライツ、J・ホアードと、それぞれ異なるタイプのシンガーたちが参加しています。これまで以上に歌に対する比重が強くなったアルバムであると思いますし、歌詞の重要性も増しているのではないでしょうか。そのあたりについて、あなた自身はどのように考えていますか?

KO:僕もそう思う。いまはヴォーカル・レッスンも受けてるんだ。曲をパフォーミングするという経験をすると、ヴォーカルがいかにリスナーにとって重要なものかがわかるようになる。コーラスは曲に大きな影響を与えるし、良いコーラスがあればリスナーとまた違う繋がり方で結ばれることができるんだ。

“レディ・トゥ・ボール” は成功や努力の対価としての精神の消耗について歌い、“イッツ・アニマルズ” は人前でありのままの自分を体現することのプレッシャーを描いており、音楽やエンターテイメントの世界で生きるあなた自身が投影された作品かと思います。あなたは『アイ・シンク・アイム・グッド』以降は特に顕著ですが、自身の体験に基づいて、内面をさらけ出すような作品を作ってきて、その傾向は『アニマルズ』でより強くなっているように感じますが、いかがですか?

KO:個人的なことをさらけ出しているのは昔から変わらない。どのアルバムでも、正直なところ僕はかなり多くのことをさらけ出していると思う。『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』の “ワッツ・ニュー・ウィズ・ユー” って曲も、すでに強烈な別れの曲だったしね。でも前回のアルバムでは、内容が違っているんだと思う。あのときは精神的な病とそれとの戦いと向き合っていたから。そして今回のアルバムでは、自分自身の実存的なフィーリングを扱っている。まあもしかしたら、前よりも自分をさらけ出すことに心地よさを感じることができているのかもしれないね。最初のころはもっと大変だったと思う。でもいまは、自然とそれができるんだ。そして後から振り返って、自分がどんな心のつっかえを取ろうとしていたのかがわかる。前よりも意識して自分をさらけ出そうとしているというよりは、もっと楽にそれができるようになったんじゃないかな。

“ソー・ハッピー” と “メイビー・ウィ・キャン・ステイ” は、躁鬱病を患って入院や自殺未遂を経験したあなたが投影されたような作品です。『アイ・シンク・アイム・グッド』でも、そうした病気やメンタルヘルスについて扱った作品がありましたが、こうした作品はあなたがこれからも生きていくうえでテーマとなっていくものなのでしょうか?

KO:前回のアルバムと今回のアルバムの間には、興味深い鏡が存在していると思う。前作は自分と自分の個人的な闘いについてだったけど、今作では自分自身だけについてではなく、世界全体についても考えていて、誰もが抱えている精神的な問題という視点になっているんだ。以前の僕は「ああ、僕はひとりなんだ」という感じだった。でもいまは、生きている人なら誰でも孤独や恐怖、人目を気にするということを何らかの形で経験し、その問題に対処しなければならないと思ってる。だからこのふたつの作品は、異なる方法でお互いを映し出していると思うんだよね。壊れたレコードみたいに聴こえたくはないから、ずっと同じテーマを語るわけにはいかないし、自分でも今後どんなトピックに触れていくかはわからない。でも、このテーマを進化させていきたいことだけはたしか。人間として、毎回進化を続けていきたいからね。

『アニマルズ』は、あなたのエンターテイナーとしての人生のパラドックスを描くと同時に、黒人がどのように扱われているかについての声明も含んでいるそうですね。そうしたことを踏まえて、『アニマルズ』が持つテーマについて改めて教えてください。

KO:『アニマルズ』というタイトルに込められたテーマはいくつかある。そのひとつは、人間であるということはどういうことなのか?という問いかけ。動物ではなく人間であるということの意味だね。僕たちは自分たちを人間と呼び、信仰を持ち、より高い能力を持っているとい考える傾向がある。でも同時に、僕たちはよくお互いを動物のように扱ってしまっているんだ。合わなかったり、自分たちにとって都合の悪いことをすれば共存しない。でも人間であるなら、敵味方関係なく、お互いに共感できる部分を見つけることができるはずなんだ。そしてもうひとつのテーマは、エンターテイナーとしての自分の葛藤。人生を生きる人間として、僕はときに動物園やサーカスにいる動物のように感じることがある。人前に立ってパフォーマンスをして、オーディエンスを楽しませ、大きいけれど大き過ぎない動きをしなければならない。アクションが大き過ぎると人びとを怖がらせてしまうし、小さ過ぎれば相手にされないから。そして、みなやっぱり楽しませてもらうことを期待している。そういう状況下にいると、サーカスの猿じゃなくて僕も人間なんだって感じることがあるんだよね。それは、僕が対処しなければいけない感情なんだ。パフォーマンスをしていると、僕自身も人生というものを体験している人間のひとりであり、経験していることに対して自分がどう感じているかを表現したいだけなんだ、ということを忘れてしまう。僕は商品じゃないんだってことをね。この対立は必ずしも悪いことばかりではないんだ。ツアーも大好きなんだけど、そのエネルギーに流され過ぎてもいけない。来場者と握手もするし、挨拶もするし、写真も一緒にとるけど、自分は人間であって、一足の靴ではないこと、自分はあくまで “人間” というものを共有しているんだということを忘れてはいけないんだ。やるべきことが多過ぎたり、忙しくなると、ときにそれを忘れてしまい、その葛藤と戦うことになるんだよね。

ありがとうございました!

KO:こちらこそ、ありがとう。10月に来日するんだ。また日本に行けるのを楽しみにしているよ。

Kassa Overall Japan Tour 2023

JAZZ界の台風の目!!
革新的ドラマー/プロデューサー「カッサ・オーバーオール」が精鋭のバンドを率いて来日決定!!
最新アルバムでも解放したそのアヴァンギャルドな実験精神と独創的美学を体感せよ!!

Kassa Overall - カッサ・オーバーオール
Support act: TBC

TOKYO
2023.10.19 (THU)
WWWX

OSAKA
2023.10.20 (FRI)
Billboard Live Osaka

シアトル在住、卓越したスキルを持ったジャズ・ドラマーとして、また先鋭的なプロデューサーとして、リズムの無限の可能性を生み出し続けるカッサ・オーバーオールの来日公演が決定!! 進化するジャズ・シーンの行き先を見届けたいジャズ・ファンはもちろんの事、更にはヒップホップの拡張し続ける可能性を体感したい全ての音楽ファンが来るべきライブになること間違いなし!!
今年3月にはエイフェックス・ツインやフライング・ロータス、スクエアプッシャー等が所属する名門レーベル〈Warp Records〉との電撃契約を発表し、遂に5月26日にリリースされる最新アルバム『Animals』は、全ての楽曲でジャズとヒップホップとエレクトロニクスが絶妙に融合した新鮮な作品となっており、ジャズの新しい未来を切り開いてくれるような歴史に残るアルバムであることはもはや一聴瞭然だ。
そんなカッサ・オーバーオールの単独公演では、トモキ・サンダースやイアン・フィンク、ベンジー・アロンスなど豪華なミュージシャンがバンドメンバーとして集結!
ここ日本でも、世界を舞台に活躍するBIGYUKIや、ジャズ評論家の柳樂光隆らから大絶賛を浴びているカッサ・オーバーオール。アヴァンギャルドな実験精神と独創的美学が、ジャズの未来を切り拓く、まさにその瞬間を見逃すな!

東京公演
公演日:2023年10月19日(木)
会場:WWWX
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 ¥7,000 (税込/別途1ドリンク代/オールスタンディング)
※未就学児童入場不可

チケット発売:
先行発売
★ BEATINK主催者先行
5月26日(金)10:00~
https://beatink.zaiko.io/e/kassaoverall
★ イープラス最速先行販売(抽選)
5月30日(火)12:00~6月4日(日)18:00
https://eplus.jp/kassaoverall/

一般発売:6月10日(土)~
● イープラス https://eplus.jp/kassaoverall/
● ローソンチケット https://l-tike.com/kassaoverall/
● BEATINK (ZAIKO) https://beatink.zaiko.io/e/kassaoverall
INFO: BEATINK [WWW.BEATINK.COM]

大阪公演
公演日:2023年10月20日(金)
会場:Billboard Live Osaka
開場/開演(2部制)
1部:OPEN 17:00 / START 18:00
2部:OPEN 20:00 / START 21:00
チケット:S指定席 ¥8,500 / R指定席 ¥7,400 / カジュアル席 ¥6,900

チケット発売:
主催者先行:5月31日(金)
一般発売:6月7日(水)
http://www.billboard-live.com/

INFO: Billboard Live Osaka http://www.billboard-live.com/

企画・制作:BEATINK / www.beatink.com

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【シン・ジャズ・キャンペーン】

~拡張するJAZZ~

ジャズの未来を切り拓く革新的ドラマー、カッサ・オーバーオールの最新作『Animals』発売を記念して、進化系ジャズの注目アイテムを対象にしたキャンペーンを開催!

ソウル、ヒップ・ホップ、ロック、ポップスといった他ジャンルと
クロスオーバーする新世代ジャズをピックアップ!

またキャンペーン期間中、対象商品をご購入頂くと先着特典として音楽評論家:柳樂光隆氏監修による「Kassa Overall Handbook」をプレゼント

*特典は無くなり次第終了致します

【キャンペーン期間】
2023年5月26日(金)~6月25日(日)迄

---------【対象商品】---------
※全フォーマット対象
(国内盤CD、国内盤CD+Tシャツ、輸入盤CD、輸入盤LP、輸入盤LP+Tシャツ)

・Kassa Overall『ANIMALS』(5/26発売)
・Louis Cole『Quality Over Opinion (新装盤)』
・Makaya McCraven『In These Times』
・Nala Sinephro『Space 1.8』
・Emma Jean Thackray『Yellow』

---------【特典詳細】----------
特典:冊子「Kassa Overall Handbook Produced by Mitsutaka Nagira」

「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者、柳樂光隆氏監修によるジャズの枠組みを逸脱する「異端児」の思想を読み解く

掲載内容
・カッサ・オーバーオール インタビュー
・BIGYUKI インタビュー
・トモキ・サンダース インタビュー
・カッサとジャズ人脈の交友関係
・カッサの音楽を彩るラッパー/シンガー
・UK最先端レーベルとジャズの関係
・新鋭ライターが語る越境するジャズ・ミュージシャン
・アーティスト/著名人が語るカッサ:藤本夏樹(Tempalay)/和久井沙良/MON/KU/竹田ダニエル

取り扱い店舗
タワーレコード:札幌パルコ、下田、盛岡、仙台パルコ、渋谷、池袋、新宿、町田、川崎、横浜ビブレ、浦和、津田沼、新潟、金沢フォーラス、名古屋パルコ、名古屋近鉄パッセ、鈴鹿、静岡、梅田NU茶屋町、なんばパークス、あべのHOOP、京都、広島、神戸、倉敷、福岡、若松、久留米、那覇、タワーレコードオンライン

HMV:札幌ステラプレイス、エソラ池袋、立川、ラゾーナ川崎、ららぽーと横浜、イトーヨーカドー宇都宮、イオンモール羽生、ららぽーと富士見、イオンモール太田、阪急西宮ガーデンズ

その他:代官山蔦屋書店、JEUGIA [Basic.]、エブリデイ・レコード、Hachi Record Shop and Bar

label: Warp Records
artist: Kassa Overall
title: ANIMALS
release: 2023.05.26

BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13345

Tracklist
01. Anxious Anthony (feat. Anthony Ware)
02. Ready To Ball
03. Clock Ticking (feat. Danny Brown & Wiki)
04. Still Ain’t Find Me (feat. Tomoki Sanders, Bendji Allonce, Mike King & Ian Finklestein)
05. Make My Way Back Home (feat. Nick Hakim & Theo Croker)
06. The Lava Is Calm (feat. Theo Croker)
07. No It Ain’t (feat. Andrae Murchison)
08. So Happy (feat. Laura Mvula & Francis and the Lights)
09. It’s Animals
10. Maybe We Can Stay (feat. J. Hoard)
11. The Score Was Made (feat. Vijay Iyer)
12. Going Up (feat. Lil B, Shabazz Palaces & Francis and the Lights)

B. Cool-Aid - ele-king

 手短に説明するなら、Awhleeの次のコメントで充分だろう。「レザー・ブルバードとは、金がなくても手に入る場所だ」。いわば黒いファンタジー……このアルバムを編集部で流したとき、(ふだんはエレクトロニックなものにしか関心を示さない)小林が珍しく反応したこともその音楽性を暗に語ってもいる。たとえるなら、これはムーディーマンのファースト・アルバムをヒップホップで再現したようなもので、黒人の平和な日常生活が音楽をもって綴られている。もっとも、日曜日の教会を表現したムーディーマンの “サンデー・モーニング ”の静謐さに対して、『レザー・ブルバード』の黒人たちは買い物をしたり、恋をしたり、雑然としている。また、これはヒップホップ・アルバムではあるが、ジャズ、ソウル、ディスコ、ファンクなどとの境界線は曖昧で、さりげなく音楽的な実験も試みながら、この「黒いユートピア」の領域を拡張している。まあなんにせよ、ここ数年のヒップホップにおけるもっとも眩い輝きのひとつが、ピンク・シーフであることをまたしても証明する1枚だ。

 さらにこのアルバムをシンプルに説明するなら、これはまったく肩に力の入っていない、リラックスしまくっている音楽だということになる。ドリーミーだと言っていい。70年代ソウル風の甘々のストリングスにローズやフルート、そしてピンク・シーフのハスキーなささやき声。アラバマ出身のこのラッパー/シンガーは、ヒップホップが決して強面の男祭り専用の音楽ではないことを思い出させてくれる。

 それにしてもピンク・シーフはアラバマか……。

 いや、数日前に地球で言うところの命日を迎えたサン・ラーに土星以外の故郷があるとしたらアラバマと言われている。「ラーがアラバマ出身であるということに、私たちはもっと早く関心を持つべきだった」とは、グレッグ・テイトの『フライボーイ2』からの引用だが、アラバマというのはかつて黒人にとっては地球外生命体になることを宿命づけられるほど「地獄」だったそうだ。日本でも知られているわずかな手がかりはニーナ・シモンの “ミシシッピー・ガッデム” だ。これは彼女を過激な政治活動に向かわせる契機となった、KKKによるアラバマ教会爆破事件についての歌である。こうしたアラバマは遠い昔の話だが、ピンク・シーフはあまりに平和の使者とういか、黒人たちの素朴で、ゆるくて、平和な暮らしの場面を描くことに意味を見いだしている。フライ・アナキンとの『FlySiifu's』は街のレコード店が舞台だった。それが今回は街の大通りになっている。

 ピンク・シーフとAwhleeは、LAビート・シーンの拠点〈Low End Theory〉を通じて、Mndsgn(〈Stones Thow〉や〈Leaving〉からの作比で知られる)のパーティで出会った。ふたりのプロジェクトであるB. Cool-Aidは、すでに『Brwn』と『Syrup』をリリースしているが、〈Lex〉からのアルバムは今回が初めてとなる。

 エーテル状の音響からはじまるシングル曲 “Cn't Go Back” は、ふわふわのベッドがベースに引っ張られながらじょじょにダンスフロアへと変容するかのような展開で、コズミックな電子音とアンビエントの “Diamonds” がその後に続く。Mndsgnが参加した “Neem” はムーディーでキラキラした夜空に広がり、 “soundgood” は言うなれば坂本慎太郎的AORにも通じているメロディアスな曲だ。エロティックな “If U Can See Me” は、あきらかに〈KDJ〉との音楽的な繋がりが感じられるし、三田格が褒めちぎっていたクエーリ・クリスが参加した“Brandy, Aaliyah” (そう、ブランディ、アリーヤ)では、なかばノスタルジックな90年代モードで迫る。

 ほかにも、ジャジーでスムーズな “ChalkRoundIt” 、甘くメロウな “Wassup” 、レイドバックした生バンドの演奏をバックにラップ寸劇を見せる “ChalkRoundIt” 等々、コンセプト・アルバムというにはとっちらかってしまったけれど良い曲がたくさんある。 メロウなトラックの彼方でひたすら黒人同士の会話が続く“So Soft Salon” なんていう曲も面白いし、なによりもこのアルバムは終始心地よくて気分が良い。夏の夕暮れどきにビールを飲みながら聴いたら最高じゃないのかな。ちょっと酔いが早くまわるかもしれないけど。

Wolf Eyes - ele-king

 〈Warp〉傘下の〈Disiples〉、いいよなぁ。このレーベルの偏ったセンス、この偏愛、まさにインディ精神、冒険心のかたまり。で、その〈Disiples〉からウルフ・アイズの新作が先日出たばかりでございます。
 知ってますか? ウルフ・アイズというのは、21世紀に入ってからのUSノイズ・ロック・シーンにおいてもっとも重要なバンドなのです! このバンドが拓いた道スジに、USノイズ・シーンの後続組——Double Leopards、Yellow Swans、Burning Star Coreなどが登場し、じつはこの流れのポスト・ノイズのなかで登場したのがOPNだったりするのであります。
 また、デトロイト郊外のアナーバー(ストゥージズ、MC5、そしてあのデストロイ・オール・モンスターズの故郷)で結成されたこのバンドのオリジナル・メンバーには、昨年来日を果たしたアーロン・ディロウェイ(https://www.ele-king.net/news/009048/)がいます。そのアーロンがユニヴァーサル・インディアンのジョン・オルソンと出会い、さらにまたネイト・ヤングと出会ったことで「アメリカのノイズの王様」は誕生していると。まあ、ノイズといっても、パンク、インダストリアル、ホラーを漫画のように組み合わせたイメージで、70年代、80年代のノイズとは明らかに一線を画したノイズの新感覚派、と言えるのですが……。であるから、ゼロ年代のなかばには、とにかくソニック・ユースが彼らを最大限に評価したことが後押しとなって、その人気はアンダーグラウンドからオーヴァーグラウンドへと伝染し、一時期は〈サブ・ポップ〉と契約を結ぶにもいたっているのです。また、サウンド・コラージュを駆使する彼らのシュールな世界はエレクトロニック・ミュージック・ファンに受けが良く、〈Warp〉はレーベル内に彼らのためのレーベル〈Lower Floor Music〉を設けているほど。(また、彼らはサン・ラー・アーケストラたアンソニー・ブラクストンとも共演している)
 このように欧米では評価も人気もあって(『Wire』誌などは2回も表紙にしている)、残念ながら日本では過小評価されているのがウルフ・アイズで、今回の〈Disiples〉からリリースの『Dreams in Splattered Lines』は、バンド結成25周年を迎え、ふたたび上昇気流に乗っているバンドのかなり良いところが収められているので、お薦めです。2022年初頭、ニューヨーク市立図書館にて録音されたこのアルバムは、本人たちいわくシュルレアリスムの影響が反映されており、〈Disiples〉レーベルいわく「DIYエレクトロニクスとフルクサスの前衛感覚、中西部の退屈な生活の花こう岩を融合させたもの」だそうです。そんなわけでこの日本でも、もう少し、ノイズに飢えている健全な耳に、このバンドが注目されても良いんじゃないかと思う次第なのです。


 
Wolf Eyes
Dreams In Splattered Lines

Lower Floor Music

Meitei - ele-king

 先日G7サミットが開かれたばかりだが、その広島を拠点に活動し、日本文化をテーマに音楽制作をつづけているプロデューサーが冥丁だ。彼が飛躍するきっかけになったファースト・アルバム『怪談』の5周年記念盤が7月21日にリリースされる。ボーナストラック2曲を追加、初のCD化だ(LPも再発予定)。さらにツアーも予定されているとのこと。詳しくは下記より。

広島を拠点に活動するアーティスト・冥丁の2018年傑作デビューアルバム『怪談』が、ボーナストラック2曲追加した5周年記念盤として初CD化!
※LPヴァージョンは後日カラーヴァイナルで再発予定。

アーティスト:冥丁
タイトル:怪談(5th Anniversary Edition)
フォーマット:国内流通盤CD・デジタル配信
発売日:2023年7月21日(金)
品番:AMIP-0330
レーベル:Evening Chants / KITCHEN.LABEL
ジャンル:ELECTRONIC / AMBIENT
流通:Inpartmaint Inc. / p*dis
本体価格:3,000円(税抜)

TRACK LIST
01. 漣
02. 骨董
03. 塔婆
04. 地蔵
05. 青柳
06. 魍魎
07. 山怪
08. 障子
09. 筵
10. 九十九
11. 涙 (*Bonus Track)
12. 海峡 (*Bonus Track)

日本の幽霊話のジャンルの1つである怪談。その怪談の持つ闇の中の美しさや「Lost Japanese Mood」(失われた日本のムード)と称する雰囲気を、精巧な作曲構成に落とし込んだ冥丁の1stアルバム『怪談』(2018年)は、Pitchforkの「Best Experimental Albums of 2018」への選出をはじめ、Bandcamp、The Wireなど様々な海外メディアから賞賛され、世界のアンビエント~エクスペリメンタルシーンに冥丁の名を確立し、その後リリースされる『小町』『古風Ⅰ』&『古風Ⅱ』などの「Lost Japanese Mood」を主題にしたシリーズの最初のアルバムであり、冥丁独自の音世界と卓越した音楽性を示した重要作。

日本各地に伝わる伝説や幽霊話に独自の解釈を加えて文学作品に昇華させた小泉八雲の名作『怪談』は、本作の方向性に大きなインスピレーションを与えており、「漣(さざなみ)」「骨董」「障子」「筵 (むしろ)」などの楽曲は、小泉八雲作品へのオマージュと言える。また、漫画家・水木しげるからも影響を受けており、「塔婆」や「地蔵」は水木氏の漫画『ゲゲゲの鬼太郎』へのオマージュとして制作された。

このように、日本の重要な芸術から影響を受けた本作には、明らかな不気味な要素だけではなく、ユーモア、情緒、そして哀愁も、まるで霧で濡れた苔のように視覚的に表現されている。さらに、ローファイ・ヒップホップの新しい波に興味を持った冥丁はその要素を再編して絶妙に織り混ぜ、繊細なバランスで怪談の持つ和の雰囲気を構築した。

本5周年記念盤は、オリジナルリリース元のEvening Chantsと、『古風』シリーズをリリースしているKITCHEN. LABELという2つのシンガポールのレーベルによる共同リリースとして、ボーナストラック2曲を追加したCD盤が先行発売、その後、カラーヴァイナル(スモークヘイズ) の発売も予定されている。冥丁本人の曲解説が掲載された8ページブックレットも付属。マスタリングはテイラー・デュプリーが担当。

★7月後半より『怪談(5th Anniversary Edition)』のリリースを記念したジャパンツアーも各地で開催。(※詳細は後日発表。)


【冥丁 / MEITEI】
日本の文化から徐々に失われつつある、過去の時代の雰囲気を「失日本」と呼び、現代的なサウンドテクニックで日本古来の印象を融合させた私的でコンセプチャルな音楽を生み出す広島在住のアーティスト。エレクトロニック、アンビエント、ヒップホップ、エクスペリメンタルを融合させた音楽で、過去と現在の狭間にある音楽芸術を創作している。これまでに「怪談」、「小町」、「古風」(Part I & II)などによる、独自の音楽テーマとエネルギーを持った画期的な三部作シリーズを海外の様々なレーベルから発表し、冥丁は世界的にも急速に近年のアンビエント・ミュージックの特異点となった。日本の文化と豊かな歴史の持つ多様性を音楽表現とした発信により、The Wire、Pitchforkから高い評価を受け、MUTEK Barcelona 2020、コロナ禍を経てSWEET LOVE SHOWER SPRING 2022などの音楽フェスティバルに出演し、初の日本国内のリリースツアーに加え、ヨーロッパ、シンガポールなどを含む海外ツアーも成功させる。ソロ活動の傍ら、Cartierや資生堂IPSA、MERRELLなど世界的に信頼をおくブランドから依頼を受け、イベントやキャンペーンのためのオリジナル楽曲の制作も担当している。

Loraine James - ele-king

 喜びたまえ。出すもの出すものハイクオリティの快進撃をつづけ、昨年の来日公演でもすばらしいライヴを披露してくれたロレイン・ジェイムズが、新たにアルバムを送り出す。『やさしい対決(Gentle Confrontation)』と題されたそれは2年ぶりに〈ハイパーダブ〉からのリリースで、9月22日発売。サプライズもある。日本のマスロックからの影響をたびたび口にし、「とくに好きなのは Toe と mouse on the keys」と語っていたジェイムズだが、新作のCD盤にはなんと、その mouse on the keys をフィーチャーした曲がボーナストラックとして収録される。どんなコラボが実現されているのか楽しみだ。公開中の新曲 “2003” を聴きながら夢を膨らませておこう。

Loraine James

エレクトロニック・ポップ・ミュージックの新たな地平を開く、最高傑作が誕生!
ロレイン・ジェイムスが最新アルバム『Gentle Confrontation』をコード9率いる〈Hyperdub〉より9月22日にリリース!
新曲「2003」がMVと共に公開!

ジャズ、エレクトロニカ、UKベース・ミュージック、アンビエントなど、様々な音楽性を内包したクロス・オーバーな作風で人気を博す北ロンドンの異能、ロレイン・ジェイムス。昨年行われた初の来日ツアーが完売となり、ここ日本でも大きな注目を集める彼女がコード9率いるUK名門〈Hyperdub〉から3枚目となる最新アルバム『Gentle Confrontation』を9月22日にリリースすることを発表、アルバムからの先行解禁曲「2003」がMVと共に現在公開されている。

Loraine James - 2003
https://youtu.be/6gikGLeq6mc

Director & Editor - IVOR Alice
Art Direction & Set Design - Dalini Sagadeva
Lead Assistant (Camera, Lighting, & Set Design) - Charlie Buckley Benjamin
Clothing courtesy of Nicholas Daley

本作は、彼女の過去と現在をつなぎ、彼女自身にとっての新しい章を開く作品だ。この作品は彼女が10代の頃に好きだったドゥンテル(DNTEL)、ルジン(Lusine)、テレフォン・テル・アヴィヴ(Telefon Tel Aviv)のようなマス・ロックやエモーショナルなエレクトロニック・ミュージックを聴きながら制作が行われ、気だるさや楽しさ、様々なフィーリングを感じさせる仕上がりとなっている。シカゴ出身の新鋭シンガーKeiyaA、ニュージャージーのバンドVasudevaでギタリストとして活躍するCorey Mastrangelo、名門〈PAN〉からのリリースで注目を集めたピアニスト/SSWのMarina Herlop、ヴィーガン率いる〈Plz Make It Ruins〉から昨年リリースした作品が注目を集めたロンドンのGeorge Riley他、これまで以上に多くのゲストを起用している。『Gentle Confrontation』は、人間関係(特に家族関係)、理解、そして少しの優しさと気遣いをテーマにしており、水のような柔らかい質感のアンビエンスが漂う中で、ポリリズムやASMRなビートが広げられたエレクトロニック・ポップ・ミュージックの新たな地平を開く、彼女にとっての最高傑作が完成している。マスタリングはテレフォン・テル・アビブのメンバー、ジョシュア・ユースティス(Joshua Eustis)が手がけ、シャバカやキング・クルールを手がけるディリップ・ハリス(Dilip Harris)がミックスを担当した。

待望の最新作『Gentle Confrontation』は9月22日にCD、LP、デジタルと各種フォーマットで発売! CDには、LPに収録されないボーナス・トラック「Scepticism with Joy ft. Mouse on the Keys」が収録される。また、国内流通仕様盤CDには解説が封入される。

label: Hyperdub
artist: Loraine James
title: Gentle Confrontation
release: 2023.05.26

BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13437

Tracklist
01. Gentle Confrontation
02. 2003 02:39
03. Let U Go ft. keiyaA
04. Deja Vu ft. RiTchie
05. Prelude of Tired of Me
06. Glitch The System (Glitch Bitch 2)
07. I DM U
08. One Way Ticket To The Midwest (Emo) ft. Corey Mastrangelo
09. Cards With The Grandparents
10. While They Were Singing ft. Marina Herlop
11. Try For Me ft. Eden Samara
12. Tired Of Me
13. Speechless ft. George Riley
14. Disjointed (Feeling Like A Kid Again)
15. I'm Trying To Love Myself
16. Saying Goodbye ft. Contour
17. Scepticism with Joy ft. Mouse on the Keys

interview with James Ellis Ford - ele-king


 ジェームス・フォードのことを優れた裏方として認識しているポップ・ミュージック・リスナーは多いだろう。エレクトロ・デュオのシミアン・モバイル・ディスコの片割れとしてニュー・レイヴの時期に台頭し(ニュー・レイヴを象徴する1枚であるクラクソンズ『Myths of the Near Future』(07)のプロデュースを担当している)、アークティック・モンキーズやフローレンス・アンド・ザ・マシーンといった人気アーティストの作品を手がけることで名プロデューサーとしての知名度を高めてきたフォードは、ある意味70~90年代にブライアン・イーノがポップなフィールドでデヴィッド・ボウイやU2に対して担ってきたことを現在請け負っているようなところがある。シミアン・モバイル・ディスコもまたニュー・レイヴ、ニュー・エレクトロの狂騒を離れて地道に作品をリリースするなかでよりストイックなテクノへと向かったわけで、きわめて職人的な立場を徹底してきたのがジェームス・フォードなのである。最近もデペッシュ・モードの新作やペット・ショップ・ボーイズの次作といった大御所とのコラボレーションが続いているが、そこでも彼は縁の下の力持ちの役割をまっとうするのだろう。

 だから、〈Warp〉からのリリースとなるジェームス・エリス・フォード名義の初ソロ・アルバムが、彼本人のパーソナリティを強く感じさせる内容に仕上がったのは嬉しい驚きだ。シミアン・モバイル・ディスコのパートナーであるジェス・ショウが病気になったことで活動休止を余儀なくされたことから生まれた作品だが、そのことでフォードは自分自身にフォーカスすることとなった。その結果、マルチ・インストゥルメンタリストとしてフルートやバスクラリネットやチェロといった管弦楽器も含めたすべての楽器を演奏して自身の手でミキシングしているのはもちろんのこと、公の場で歌ったことのないという彼が控えめながらはじめて歌声を披露しているのだ。そして、そのことがアルバムの人懐こい空気感を決定づけているところがある。
 音楽的にはオープニングのアンビエント “Tape Loop#7” に始まり、チェンバー・ポップ、サイケ・ロック、プログレ、ファンクなどをゆるくミックスした雑食的でストレンジなポップ作で、とりわけロバート・ワイアットの諸作のようなカンタベリー・ロックからの影響を強く感じさせる。イーノの『Another Green World』(75)を意識することもあったようだ。少なくともシミアン・モバイル・ディスコのようなテクノやエレクトロからは離れており、内省的でメランコリックだが同時にユーモラスで牧歌的なムードは、どこか懐かしいブリティッシュ・ポップを彷彿させる。派手さはないがそこここに遊びと工夫があり、パレスチナ音楽を取り入れるなど発想もオープンで、気取ったところがまるでない。ガチャガチャした音を方々で鳴らしながらゆるいグルーヴを立ち上げるリード・シングル “I Never Wanted Anything” は、フォードの遠慮がちだが落ち着いた歌声も含めて本作のチャーミングさを象徴する一曲だ。

 その “I Never Wanted Anything” では若さゆえの野心を失っていることをむしろ心地良く感じている心境を歌っているように、フォードがここで主題にしているのは年を取ること、もっと言えば「老い」だ。未熟なままで親になることなど、そこには不安や憂鬱もたしかにあるのだが、そのすべてをゆるやかに受容しようという感覚が貫かれていて、このアルバムの柔らかな響きと通じている。以下のインタヴューでフォードが語っているように、10代のときにあまり興味がなかった父親のレコード・コレクションの良さが年を取るとともにわかってきたというのもいい話だ。人気者たちを輝かせるために裏方として地道に働いてきたジェームス・エリス・フォードはいま、ささやかな人生の面白さや豊かさをじわじわと感じさせる愛すべきレコードを作り上げたのだ。

自分の音楽はいつも後回しにしてきたというか。「また今度やればいいか」っていう。でも「今度」って絶対ないんだよね。


『The Hum』を聴きました。ユニークで実験的であると同時に、フレンドリーでもある素敵な作品だと感じました。ただ、今日はプロデューサーとしての側面もお伺いしたいと思っているので、これまでのキャリアについても、まず少し聞かせてください。

 あなたは多くのミュージシャンのプロデュースを務めてきましたが、そのときにご自身のパーソナリティを極力出さないようにしているのでしょうか? それとも、ある程度あなた自身のキャラクターを出すようにしていますか? というのも、基本的にはプロデューサーはアーティストの作品にエゴは出さないと思うのですが、著名なプロデューサーが関わった作品を聴くと、彼らそれぞれの個性やキャラクターも作品に反映されていると思うんです。

ジェームス・エリス・フォード(以下JEF):前者かな。僕はつねに、誰かのヴィジョンを実現する手助けをするのが自分の仕事だと考えているから、必要とされているものを提供しようとしているし、ときにはそれが演奏だったり作曲だったり、ときにはシンプルに音的なことだったり、あるいは制作過程のガイド役的なことだったりする。僕にとって、それは彼らのレコードであり、自分はつねに手助けする立場であって……なんというか、あまり好きではないんだよ……もちろん例外はあって、ティンバランドやネプチューンズは大ファンだし、彼らの場合は自分の音楽をほかのひとのために作っているという意味合いが強いけどね。ただ、それってポップ・ミュージック寄りの慣習かもしれない。でも自分の領域では、プロデューサーのサウンドが立ちすぎているものはあまり好きじゃないかな。もちろん自分が下す判断によって自分っぽいサウンドになるとは思うけどね。でも誰かの音楽に自分のサウンドを押しつけるつもりはないんだ。

プロデューサーの仕事において、あなたがとくに重要だと考えていることは何ですか?

JEF:これまでやってきて学んだおもなことは、柔軟でいることと、平静でいること。制作過程ではいろんな意味で不安要素やストレスが多い場合もあるから。だからそうだね、着実に前に進んでいくことがもっとも重要だと思う。そして様々な状況における様々なひとのニーズを理解して、親切に対応することを心がける。僕がどう貢献するかという点では、ときには制作プロセスの終盤に入っていってミキシング的な作業をする場合もあれば、あるいはリック・ルービン流にドンと構えて自分は手を出さないこともある。そして正直なところ、これまで作った多くのレコードでは何でも屋で、曲を書いて楽器も全部演奏してそれを自分で録音して。なんというか、ピッチをシフトさせ、ギャップを埋めながら、いいレコードを作るために必要なことをするという感じかな。

シミアン・モバイル・ディスコのファースト・アルバム『Attack Decay Sustain Release』のタイトルが象徴的だと思うのですが、そもそもあなたは音楽制作において、音のパラメータの調整やサウンド・プロダクションに手を入れる作業にもっとも快感を覚えるタイプですか?

JEF:もちろん好きだよ。それって音楽の遊びの部分というか、ものすごく大事なものだと思う。音楽を作る過程にはいくつかの段階があるけど、まずは遊んだり、とにかくいじってみるというところから作り始めるわけだよね。そしてプロジェクトの終盤においては、細部にまでこだわるという部分でもある。EQやコンプレッションのパラメータ、技術的な部分はどこまでも深くいけるし、興味は尽きない。ただし細部に寄りすぎたら引くことを忘れずにいないといけない。「この部分にこだわる価値はあるか?」という。全体像を見失わないということも細部と同じく重要で。そのふたつのちょうどいいバランスを見つけるのが難しい場合もあるんだよね。

シミアン・モバイル・ディスコの活動が休止したことでソロを制作することになったそうですが、それ以前から、いつかソロ作品を作りたい気持ちはあったのでしょうか?

JEF:そうだな……僕はアーティストになりたいという気持ちはあまりないけれど、音楽を作りたいという欲望はつねにあるんだよ。それで、いろいろなひとといっしょに制作したり演奏したり曲を書いたりすることで、創作面の満足感を得られている。コラボレーションは大好きだからね。シミアン・モバイル・ディスコもすごく好きだったし。それでいくつかのきっかけがあって──まず、いま自宅のスタジオがあって、ドラムキットとかシンセサイザーとかたくさん機材が置いてあって。自分のスタジオを持つのがはじめてで、これができたことによって、夜だったり息抜きの時間に遊んだりいろいろ試したりできるようになったんだ。それから知っての通り、ジェスが病気になりいっしょにスタジオに入ることができなくなったこともあって。それからパンデミックが起こった。そういうわけで自分ひとりで作ることが増えて、それまでずっとスマホやパソコンにちょっとしたアイデアやスケッチを書き溜めていて、本当にしばらくぶりにそういったスケッチを開いて、自分ひとりでそこから先へと進めてみることにしたんだ。そしたら楽しくなってきて、気づくとアルバムができていた。どうしていままでやらなかったんだろうと思うけど、僕はいつも忙しくて、それはとてもラッキーなことだったんだよね。つねに次のプロジェクトが控えていて、次はこのひとと、次はあのひとと、という感じでオファーがあるから。いろんなひとと音楽を作るのは楽しいしさ。だから自分の音楽はいつも後回しにしてきたというか。「また今度やればいいか」っていう。でも「今度」って絶対ないんだよね。



ロバート・ワイアットやケヴィン・エアーズといった70年代前半のイギリスのプログレッシヴ・ロックなんかも大好きで。もちろんブライアン・イーノのソロ作も好きで、僕が趣味で聴くのはそういう感じのものなんだ。

あなたのように多岐にわたる音楽的知識や技術を持っていると、音楽性をフォーカスするのがかえって難しい側面があると思うのですが、『The Hum』の音楽面においてもっとも重要な課題は何でしたか?

JEF:たしかに僕はこれまで様々なタイプの音楽を作ってきた。今回もアンビエンドのレコードを作ることもできたし、メロディックなインストゥルメンタル・レコードにしてもよかったかもしれないし、もっと曲っぽい感じのレコードにすることもできたかもしれない。実際このアルバムのなかだけでも、すでにかなり多様なんだ。でもとにかく課題としては、作り続けて完成させることだったかな。あと僕にとっての一番のチャレンジは歌うことだったと思う。いや、歌うのはそうでもなかったけど、歌詞を書くことだったかもしれない。そもそも自分はプロデューサーであってシンガーではないしっていう頭があったんだよね。それで曲を作っているときもヴォーカルのメロディを書いて誰かに歌ってもらうかな、なんて考えていた。でも作っていくうちに「なぜ自分で歌わないんだ?」となってきて、頭のなかで自分を押しこめる枠を作っていたことに気がついた。だからその枠にとらわれず、自分自身に挑戦すべく歌ってみることにしたわけなんだ。そうやって新しい領域に自分を追いこんでみるという発想にすごくワクワクしたし、歌詞を書くというのは僕にとってまったく新しいことで、書く過程はとても楽しかった。やっぱり不安だけどね、とくにこれからライヴをやらなくちゃならないわけだし、歌詞について話さなきゃいけなくなるから。でも自分で安全地帯の外に出て、これは自分がやりたかったことなんだと自分に言い聞かせるんだ。

シミアン・モバイル・ディスコとはまったく違うことをやりたいという気持ちはありましたか?

JEF:一番の望みは、正真正銘これが自分だというものを作ることだったと思う。自分の音楽の趣味、これまで聴いてきたものだったり散歩のときに聴くもの、つまりは楽しみとして聴くものはかなり深遠だったり、かなり静かなものが多くて。ロバート・ワイアットやケヴィン・エアーズといった70年代前半のイギリスのプログレッシヴ・ロックなんかも大好きで。もちろんブライアン・イーノのソロ作も好きで、僕が趣味で聴くのはそういう感じのものなんだ。もともと僕の父がそういったサウンドに傾倒していて、それで僕もそれを聴いて育ったようなところがあるんだよ。DNAに組みこまれているというか。僕はこれまで作ってきた音楽はテクノ、ハウス、ポップ、フォーク、ロックと、あらゆるものが混ざっている。だから今回は本当にただ、自分自身の旗を立てて、これが僕の作る音楽だ、ということを示したかったんだ。

楽器の演奏も歌もエンジニアリングもほとんどあなたでコントロールしていますが、『The Hum』において「すべて自分で作る」のがなぜ重要だったのでしょうか?

JEF:ある意味コラボレーションしないという実験だったんだよね。なぜならコラボレーションは毎日のようにやっているから。それはそれですごく恵まれていて、とても楽しいものだけどね。でも、だからコラボレーションしなかったら何が起こるのかを知りたくなったのかもしれない。自分以外の人間が誰も関わらなかった場合に何が出てくるのか。幸い楽器もいろいろあるし、自分で演奏できるしね。それにおそらく15年前には自信がなかったかもしれないけれど、いまだったら前に進んでいけるという自信もあった。それにもともとはただこの小さな空間で実験しようとしていただけで、誰かに聴かせるつもりもなかったんだ。


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コラボレーションしないという実験だったんだよね。なぜならコラボレーションは毎日のようにやっているから。何が起こるのかを知りたくなったのかもしれない。自分以外の人間が誰も関わらなかった場合に何が出てくるのか。

『The Hum』は多楽器による音色の多彩さが魅力です。あれだけ多くの楽器を演奏できるようになるのは大変だと思うのですが、ほかのプレイヤーに頼るのではなく、自分自身で楽器を弾けるようになりたいというモチベーションはどこから来るのでしょうか?

JEF:新しい楽器を演奏するのが大好きなんだ。じつはバスクラリネットをeBayでかなり安く買ったことがきっかけでこのアルバムが始まったんだ。子どもの頃フルートを習っていたから多少は知っていたし。とにかくバスクラリネットの音が大好きだから取りあえず買ってみようと。クラシックのコンサートで素晴らしい演奏ができるわけではないけれど、メロディを奏でることならできるから。すごく刺激になるんだ。このスタジオには日本のシンセもあって、もちろん全部僕が理解できない言葉で書かれていて音階もちょっと違ったりするけれど、そういうちょっと違うものだったり、少し難しかったりするものが大好きなんだ。たぶんモジュラーシンセが好きなのもそれが理由だと思う。そのチャレンジにおいては普段やらないようなことをしたり、通常とは異なる判断をしたり、いつもとは違う場所へと追いこまれたりする。それはアイデアを生み出し、音楽に対する熱意や興奮を呼び覚ますのにいいと思う。パソコンで音楽を作ろうとすることもあるけれど、あまりにも簡単にできてしまったりするから、面白くするためには難しくする必要があるんだよ。

先ほどもお話しにありましたが、『The Hum』はいろいろな音楽的要素があるなかで、ロバート・ワイアットなどのいわゆるカンタベリー・ロックの要素をわたしは強く感じました。音楽家として、カンタベリー・ロックからの影響はもともと強かったのでしょうか?

JEF:そうなんだよ。父がそういったレコードを大量に持っていて……ジェントル・ジャイアント、キャラヴァンといったバンドがひと通りあって、それを聴いて育ったという背景がまずあった。10代の頃はあまり好きじゃなかったけど、年を取るにつれてある意味父親の趣味に回帰するというか。

そのカンタベリー・ロックもそうですが、雑食的な要素からブリティッシュ・ポップの系譜を感じさせるアルバムだとわたしは感じました。このようにくくることには語弊があるかもしれませんが、ポップ・ミュージックにおけるいわゆる「ブリティッシュネス」というか、英国から生まれる音楽の特色について考えることはありますか? そうだとすると、あなたの視点でポップスにおける「ブリティッシュネス」をどのようにとらえていますか?

JEF:僕も「ブリティッシュネス」が好きだよ。たとえばロバート・ワイアットの声は僕にとって非常にブリティッシュで、ほかのどこからも出てきようがないものだと思う。説明が難しいけれど、簡素というか何というか、若干控えめな感じというか、そこが本当に好きだね。それが不思議なほどエモーショナルなものに感じられるというか。過剰に歌いあげず、ドラマチックになりすぎない。僕はアイヴァー・カトラーの大ファンで、まあ彼はスコットランド人だけど、それと少し似ていて、そういうすごく独特な静かさが大好きなんだよね。とにかく僕もイギリス人だし、今作にも間違いなくブリティッシュネスはあると思う。

いっぽうで、“The Yips” でのパレスチナの音楽の要素も面白いですね。パレスチナの音楽のどのようなところに魅力を感じますか?

JEF:ロックダウン直前に旅行でパレスチナへ行ったんだ。もともと非西欧音楽はすごく好きで、日本にも素晴らしいものがたくさんあるし、いわゆる民謡と呼ばれるもの、インドの民謡やアラビア音楽だったり、その多くが西洋の12音階からは少し外れた音階やチューニングなんだよね。そこにものすごく惹かれるんだ。パレスチナに行ったとき、幸運にも現地のミュージシャンたちに会うことができて、オーケストラの演奏を聴きに行ったんだけど、その演奏に本当に胸が熱くなったし信じられないくらい素晴らしかった。だからたぶんそれも自分のなかに残っていたし、それから僕が大好きな〈Habibi Funk〉というレーベル(註:ベルリン拠点のアラブ音楽を発掘するレーベル)があって、そこは60年代、70年代の音楽を扱っていて、あの辺の地域の人びとがたとえばジェイムズ・ブラウンを真似していたり、でも音階が奇妙だったり、荒削りだったりするっていう。その辺のものが大好きなんだよ。あの曲を作りながら僕の頭にあったのはそういう感じのもの。

パソコンで音楽を作ろうとすることもあるけれど、あまりにも簡単にできてしまったりするから、面白くするためには難しくする必要があるんだよ。


『The Hum』の親しみやすさには、サウンドのユーモラスな感覚によるところも大きいように感じます。“Emptiness” のようなややビターな曲でもどこかファニーな感性があるように思うのですが、だとすると、あなたのユーモア感覚はどのようなものから影響を受けたものですか?

JEF:昔から少しユーモアがあるものが好きだったし、ユーモアと音楽には奇妙な関係があると思う。あまりにもシリアスすぎるものは好きじゃないかな。まあバランスが大事だと思う。同じように、あまりに綺麗すぎたりハッピーすぎるっていうのもね。僕にとっては最高の曲ってどれもメランコリックで、そこに悲しさがあり、明るさもあるというもので。そのふたつの間のバランスというのが興味深い部分なんだよ。さっき言ったアイヴァー・カトラーもそうで、彼の楽曲って僕的には本当に面白くて、完全にシュールで笑えて、ああいったユーモアが大好きだね。それから偉大な作詞家の多く、たとえばレナード・コーエンなんかもそうだけど、彼らの歌詞の下には、つねに小さなユーモアの輝きがあるんだ。

『The Hum』というアルバムで、ミュージシャンとしてあなたが達成した最大のことは何でしょうか?

JEF:これを作ったこと、完成させたこと自体が、もうそうかな。自分自身を乗り越えるというか。僕はこれまでプロデューサーとして、たくさんのひとにたくさんのことを要求したり、自分自身をさらけ出すように言ってきた。だから自分の作品を完成させること、ひとつのプロジェクトを終わらせること、全部が達成だよ。とくにひとりの場合は、誰かが知恵を貸してくれるわけでも背中を押してくれるわけでもないから大変なんだ。自分自身の意思の力で、自信を持って、何かを終わらせて世に送り出すこと自体が大きなチャレンジだったね。でも、常日頃自分がほかのひとにそういうことをやれって言ってることに気づけてよかったよ(笑)。だからやっぱり一番誇りに思うのはそこだね、作ったぞっていうさ。

Ryuichi Sakamoto - ele-king

 坂本龍一のソロ楽曲を集めたコンピレーション『Travesía』(英語で「journey」の意)が〈Milan Records〉からリリースされている。〈Milan〉といえば、これまで海外で坂本の『async』や『ASYNC - REMODELS』などをリリースしてきたUSのレーベルだ。
 キュレイターは映画監督のアレハンドロ・イニャリトゥ。『レヴェナント: 蘇えりし者』で共同作業をした際に、今回の選曲を依頼されていたという。当初はイニャリトゥ自身の誕生日のためのコレクションになるはずだったが、坂本の逝去を受け彼の回顧録として公開。収録されているのは下記の20曲。フィジカルでも2CD盤(RZCM-77722A)、2LP盤(RZJM-77720A)が5月3日に発売されている。

Travesía
Tracklist:
01. Thousand Knives
02. The Revenant Main Theme (Alva Noto Remodel) *未発表音源
03. Before Long
04. Nuages
05. LIFE, LIFE
06. Ma Mère l’Oye
07. Rose
08. Tokyo Story
09. Break With
10. Blu
11. Asadoya Yunta
12. Rio
13. Reversing
14. Thatness and Thereness
15. Ngo/bitmix
16. +Pantonal
17. Laménto
18. Diabaram
19. Same Dream, Same Destination
20. Composition 0919

Milan公式サイト:
https://www.milanrecords.com/release/travesia/
commmonsmart:
https://commmonsmart.com/collections/compilations

 そしてもうひとつ、最新情報をお知らせしておこう。坂本龍一のマネージメント・チームにより彼の「最後のプレイリスト」が公開されている。自身の葬儀でかけるために生前、坂本本人が選曲していた33曲のコレクションで、バッハやラヴェル、ドビュッシーといった彼のルーツにあたる曲からデイヴィッド・シルヴィアンアルヴァ・ノトのような彼のコラボレイターたちの曲までをピックアップ。最後はなんとローレル・ヘイローで締められている。同時代の音楽への関心を失わなかった坂本らしいプレイリストだ。

Jessy Lanza - ele-king

 フットワークからYMOまで、前作で独自の折衷センスを聴かせたシンセ・ポップ・アーティスト、ジェシー・ランザ。Yaejiとの全米ツアーを終えた彼女の新作情報が解禁されている。『Pull My Hair Back』(13)『Oh No』(16)『All The Time』(20)につづく4枚目のアルバムが〈ハイパーダブ〉より7月28日 (金) にリリース。CD、LP、ストリーミング/デジタル配信で世界同時発売とのこと。現在UKGを取り入れた新曲 “Midnight Ontario” が公開中だ。アルバムへの期待が高まります。

JESSY LANZA

ハイブリッドなR&Bスタイルでシーンを牽引!
ジェシー・ランザによる最高傑作が誕生!
最新アルバム『Love Hallucination』
7月28日リリース
新曲「Midnight Ontario」をMVと共に解禁!

卓越したセンスとスキルによって構築されたハイブリッドなスタイルで、FKAツイッグスやグライムス、ケレラらと並び、インディーR&B~エレクトロポップ・ファンからの支持を集めるジェシー・ランザが、最新アルバム『Love Hallucination』のリリースを発表! あわせて新曲「Midnight Ontario」をMVと共に解禁! アルバムは7月28日に発売される。

Jessy Lanza, Midnight Ontario
https://youtu.be/BHt2RXRKCSE

『Love Hallucination』で、ジェシー・ランザはソングライター兼プロデューサーとして完璧な采配を振っている。当初は他のアーティストたちのために曲作りをしていたが、自分のスタイルを屈折させたり実験したりすることに解放感を感じ、実験する過程に自由を感じ、書きためてあったトラックを書き直し、最終的に自分の作品のためにレコーディングすることを決断した。本作のためにジェシーはスタジオでのスキルをレベルアップさせ、自身のサウンドを再構築している。高い評価を受けた2021年の『DJ Kicks’ Mix Series』の足跡をたどるクラブサウンドの曲から、ダウンビートでなまめかしい曲まで、プロダクションスキルと四方八方に広がるエネルギーを駆使して冒険している。

今まで、あけすけにオーガズムを扱ったりサックスを演奏したりしたことはなかったけれど、『Love Hallucination』ではそれがしっくりきた - Jessy Lanza

本作では、その瞬間の自分自身を信じるというテーマが、作品を前進させる大きな力になっている。直感に重点を置いた『Love Hallucination』は、恋に惑わされながら、たとえ納得できるまで時間がかかろうと、自分の感性を最後まで信じる強い意志で完成させた作品である。

『Love Hallucination』では、2013年リリースのデビュー作『Pull My Hair Back』のまだ荒削りなアプローチから、『DJ-Kicks』で見られたエネルギッシュなサウンドまで、まるで彼女の成長を一つにまとめたかのような集大成的作品であり、新たな才能の開花を示す作品とも言える。

オープニング曲「Don't Leave Me Now」、ジャック・グリーンと共同制作した「Midnight Ontario」、テンスネイクことマルコ・ニメルスキーと共同制作した「Limbo」など、生の感情をダイレクトかつパーソナルに歌い上げるアルバムであることがわかる。またジェシーは、ロンドンでピアソンサウンドとして知られるデヴィッド・ケネディーとも仕事をし、プロダクション面やクラブ向けの洗練されたアレンジで楽曲を強化するのに貢献している。他には、ジェレミー・グリーンスパンと共同制作した「Big Pink Rose」「Don't Cry On My Pillow」「Drive」「I Hate Myself」、そしてポール・ホワイトと共同制作した「Casino Niagara」や「Marathon」が収録されている。『Love Hallucination』は、ジェシー・ランザにとってこれまでで最も野心的なアルバムであり、メッセージ性と完成度においても間違いなくキャリア最高傑作と言える。

ジェシー・ランザの最新アルバム『Love Hallucination』は、CD、LP、デジタルで7月28日 (金) に世界同時リリース。CD、LP、ストリーミング/デジタル配信で世界同時リリース。国内流通仕様盤CDには、解説書と歌詞対訳が封入される。

label: Hyperdub
artist: Jessy Lanza
title: Love Hallucination
release: 2023.07.28

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13397
Tracklist
01. Don’t Leave Me Now
02. Midnight Ontario
03. Limbo
04. Casino Niagara
05. Don’t Cry On My Pillow
06. Big Pink Rose
07. Drive
08. I Hate Myself
09. Gossamer
10. Marathon
11. Double Time

interview with Kid Koala - ele-king

 90年代末から2000年代前半にかけて、ターンテーブリストと呼ばれ始めた人たちに惹かれていた。特に魅了されたのは、D・スタイルズ、ロブ・スウィフト、ミスター・ディブス、リッキー・ラッカー、そしてキッド・コアラだった。ヒップホップのコラージュ・アートとジャズのインプロヴィゼーションの未来がそこにあるように感じたからだ。しかし、それは勝手な解釈の投影だとも思っていた。ターンテーブリズムがどこに向かうのかは一向にわからなかった。ただ、彼らがやっていることに魅了されたのは事実だった。
 あれから20年以上が経過したいまも、どこに至るかわからないターンテーブリズムの未来にキッド・コアラは関わり続けているように思える。シンガーソングライターのエミリアナ・トリーニやトリクシー・ウィートリーと作った、「アンビエント」とラベリングされた『Music to Draw To』シリーズでは、シンセサイザーやキーボード、ギター、ベースを自ら演奏し、歌詞も書いた。ターンテーブルはあまり使っていない。それでも、繊細なサウンドを形成するディテイルには、ターンテーブリストとしての彼が確かに存在していた。
 〈Ninja Tune〉からリリースされた初期のアルバムである『Some Of My Best Friends Are DJs』や『Nufonia Must Fall』は、キッド・コアラが描いたコミック/グラフィック・ノヴェルと共にあった。そして、いまもそこに描かれた孤独で奇妙な世界の住人であり続けているようだ。2010年代以降は、ヴィデオ・ゲームやアニメーション、インタラクティヴなライヴ・ショーなどのプロジェクトに積極的に関わってきたが、それらにありがちな派手なスペクタクルとは無縁だった。都会の喧噪の中で自分の声を見つけようと奮闘するエンターテイナーを演じていたと言うべきだろう。
 『Creatures Of The Late Afternoon』は、キッド・コアラのターンテーブルが音楽の中心に戻ってきたアルバムだ。自分が演奏した音源をレコードでカットし、スクラッチをして再構築するプロセスを経てでき上がった。とても手が込んでいるが、慣れ親しんだ手法で作られていて、ビートとスクラッチの世界にいまも自分が存在することを彼一流のユーモアを持って証している。このリリースを機に、これまでの活動についても振り返って話をしてもらった。

コールドカット、デ・ラ・ソウル、パブリック・エネミー、その3枚のアルバムは、僕がスクラッチを始めるにあたって最もインスピレーションを得た作品だと思う。

ターンテーブル・オーケストラなるものの情報をあなたのサイトで見ました。とても興味深く感じましたが、まずはこのプロジェクトの詳細から訊かせてください。

KK:これは、僕がやっている「Music to Draw to」というアンビエント・レコードのシリーズを中心にデザインしたインタラクティヴなショーなんだ。最初の作品は「Satellite」なんだけど、あの作品を使って、観客が退屈しないようなアンビエント・コンサートができないかと考えていたんだよ。そして、観客にハーモニーやクレッシェンド、ダイナミクスを作り出してもらうショーができたら面白いんじゃないかと思った。僕がオーケストラを指揮し、観客は皆、それぞれ自分のターンテーブルに座っている。で、ワイヤレスで異なるステーションを異なる色で照らすことができるという仕組みなんだ。皆異なる音符を持つレコードのセットを持っていて、ステッカーで色分けがされている。だから、例えば、ある曲では自分のターンテーブルがリードをとり、紫のレコードを見つけてそれを取り付け、実際に最後のコーラスで音をならしたりするんだよ。50台のターンテーブルで音を奏でるってすごくクレイジーなことだと思うかもしれないけど、実は、ものすごく素敵な音色が生まれるんだ。

すごいですね。ひとりでそのアイディアを思いついたんですか?

KK:そう。これは僕のアイディア。どうにか観客にレコードで遊ぶ機会を与えることができないかとずっと考えていたんだよね。観客がコンサートの一部になるようなショーをやりたいとずっと思っていたんだ。

〈Ninja Tune〉からデビューした当時から、あなたは他のターンテーブリストとは明らかに異なる音楽を作っていました。ターンテーブリストというより、ターンテーブルを使って自由なアートを作っているという印象でした。当時のことを少し思い出してもらえますか。あの頃、あなたが表現において大切にしていたことは何だったのでしょうか?

KK:何がきっかけで僕が楽器に惹かれるようになったかというと、実は、クラシック・ピアノだった。4歳のときにピアノを弾き始めて、それが僕にとっての初めての楽器だったんだ。そして、小学校の中学年くらいでクラリネットや木管楽器を始めた。そして、12歳のときにターンテーブルと出会い、その “楽器” に心を奪われたんだ。想像力豊かな、カメレオンのような楽器に思えて。当時もいまも、ターンテーブルの魅力、そして可能性は、ヘヴィーでコアなファンキートラックを作って皆を踊らせることができると同時に、すごく繊細で、サウンドデザイン的な使い方や細かいテクスチャーを作ることができること。だから、映画のスコアやゲームのスコア、ターンテーブル・オーケストラのようなライヴ・イヴェントもそうだし、ターンテブルを色々な新しい場所に持っていけるかどうか試したいと思った。ターンテーブルで何ができるか、様々な角度や方法を学び、異なるアプローチをしてみたいってね。可能性というアイディアを提供してくれるターンテーブルというアイテムは、昔もいまも変わらず大好きな存在なんだ。

〈Ninja Tune〉からデビューした当時、いまと比べて特に大切にしていたことはありますか?

KK:〈Ninja Tune〉からデビューした頃は、コールドカットの『What’s That Noise?』に大きくインスパイアされていた。デ・ラ・ソウルの『3 Feet High and Rising』やパブリック・エネミーの『It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back』にもかなり影響を受けたし、その3枚のアルバムは、僕がスクラッチを始めるにあたって最もインスピレーションを得た作品だと思う。当時の僕は、短期間でその3つのレコードに出会い、世界を違う角度から見たり聞いたりするようになったんだ。だからデビューしたときは、彼らのレコードのように、新しいサウンドと昔のサウンドを両方見せることが重要だった。そういうわけで、『Carpal Tunnel Syndrome』なんかはかなり実験的な作品になっているんだよ。あのレコードで僕がやってみたかったのは、作品を完全にターンテーブルで作るという制限を設けながら、ブルースやジャズ、コメディや語りの要素まで全て取り込んで、一体何が起こるかを見てみることだったんだ」

パンデミックの最中に、僕はいろんな楽器を演奏する生き物の絵を描いていた。彼らに声を与えようとしてでき上がったのが今回のレコードのサウンドだったんだ。自分のマペット・ショーみたいな、そんな感じのイメージだね。

いまコールドカットの名前も出ましたが、音楽面において、あなたにとって師というべき存在を教えてください。具体的にどのような影響を受けたかも教えてください。

KK:たくさんいすぎて回答に困るけど、僕が日常生活でいちばん聴いていたミュージシャンは誰かと聞かれたら、それは確実にビリー・ホリデイだと思う。ルイ・アームストロングやエラ・フィッツジェラルド、セロニアス・モンクもそうだけど、僕はジャズ・アーティストに関心を持っているから。彼らの音楽からは、彼らの物語を感じることができる。それが例え彼らによって作曲されていない曲でも、彼らは自分なりのヴァージョンを生み出すことができていると思うんだよね。そして、年齢を重ねるほどそれを明確に表現できるようになっている。それってすごくカッコイイと思うんだ。ルイ・アームストロングのソロやセロニアス・モンクのコンサートを聴くと、たった一小節の中にたくさんの表現があって、それを聴いただけで彼らだとわかる。ターンテーブルを使って作る音楽でも、僕はそういう面で彼らから影響を受けているんだ。僕はまだ、彼らの域には達していないけどね。

ビリー・ホリデイからはどのような影響を受けていますか?

KK:彼女の素晴らしいところは、ときどきわざと狭い音域を選んで歌うところ。僕の場合、何オクターヴも使ってしまいがちなんだけど、彼女の場合、少しのオクターヴだったり4音符くらいの音域だったりで全てのフィーリングを表現することができる。それは、僕にとっていまだに魔法のように感じられるんだ。

映画音楽やアートなど多方面で活動していくヴィジョンは、デビュー当時から持っていたのでしょうか? そうしたヴィジョンは、どのように自分の中で芽生えていったのでしょうか?

KK:そのヴィジョンは、子どもの頃から持っていたと思う。子どもの頃、僕がいちばん最初に聴いたレコードは7インチの本のレコードだった。本の中に挿絵が描かれていて、針を落とすと音楽が聴こえる。その本のサウンドトラックや効果音、声優の声が聴こえてきて、その物語やストーリーに、まるで逃避行のようにより没頭できるんだ。それが僕の初めてのレコード体験だったから、僕の脳内では、音楽と視覚がつながっているんだと思う。絵を描けば、そのための音楽がつねに聴こえてくるんだ。
 今回の新しいレコードを制作しているとき、パンデミックの最中に、僕はいろんな楽器を演奏する生き物の絵を描いていたんだ。カマキリがSP-1200を演奏していたり、エビがクラヴィネットを演奏していたり。僕は生き物も楽器も両方好きだから、好きな物がぶつかり合っているような絵を描き始めたんだけど、描いているうちに、それが単なる空想だけではなくなってきて、「このキャラクターはこういう性格なんだ」と思えるようになってきた。そして、彼らに声を与えようとしてでき上がったのが今回のレコードのサウンドだったんだ。自分のマペット・ショーみたいな、そんな感じのイメージだね。昔からもっていたそのヴィジョンをさらに大きくしたのがターンテーブルだと思う。ターンテーブルはカメレオンのように適応力のある楽器で、サウンド的にも様々な使い方ができるから。僕は30年間ターンテーブル・レコードを作り続けているけど、活動をしていく中でもっと探求するようになったのは、感情的な側面なんだ。音を作るだけではなく、感情的な重みを持ったものを作ることができるか、ターンテーブルでセンチメンタルなバラードを作れるか、それをもっと考えるようになった。ファンキーなものやハード・ロックなものが作れるのはわかっているけど、ブルースっぽかったり、ビーチ・ボーイズみたいなサウンドを作ることはできるんだろうか?というのを段々と意識するようになったと思う。

映画音楽やアートなど、さまざま分野にチャレンジする理由は何でしょう?

KK:もしも、「残りの人生の食事は一生同じものを食べないといけないよ」と言われたらどう思う? それか、残りの人生、ひとつのスタイルの音楽しか聴けないとか、ひとつのスタイルの音楽しか演奏できないとか。そういう状況に自分を置いてしまったら、学習というのはストップしてしまうと思う。僕にとっては、学ぶということは自分の全てであり、核となるものなんだ。僕は、新しいことに挑戦したり、新しいことを探求しているときに最も生き生きした気分になれる。それが、僕にとっての一番の原動力なんだよ。だから、僕はつねに自分が行ける場所がもっと存在していると思っているし、それを発見すべきだ、それを創造すべきだと思っている。その思いが、僕をいろいろな分野に導いているんじゃないかな。例えば、子どもにとって、自転車の乗り方を習得しようとしている瞬間って、きっと人生で最もエキサイティングな瞬間に感じられると思うんだよね。その感覚って、一度覚えたら忘れられない。僕にとって音楽は、終わりのない旅のようなものなんだ。たくさんの楽器や演奏スタイルが存在しているし、その全てを知るには、一生かかっても足りないと思ってる。

この10〜15年くらいのあなたの活動は、特に幅広く、多岐に渡っているように思います。それだけに、レコーディング作品を追っているだけの音楽ファンには知らないことがありそうです。この間で、あなたにとって特に印象深いプロジェクト、作品をいくつか紹介してください。

KK:最近だと、映像音楽の仕事が多いかな。例えば、Nintendo Switchで出た『Floor Kids』っていうヴィデオ・ゲームのプロジェクトに参加したんだ。子どもの頃から任天堂は大好きだったから、スイッチの発売と同時にそのプロジェクトに参加できるのはすごく光栄だった。子ども向けの、ブレイクダンスのフリースタイルのヴィデオ・ゲームで、僕はそのゲームの音楽と効果音を全て担当したんだ。アニメーションを担当したのは友人のジョン・ジョン。彼の画風はすごくかわいいんだけど、彼はBボーイでもあるから、キャラクターのダンスの動きはどの動きも全て本物のブレイクダンスの動きなんだ。2Dの手描きでブレイクダンス・バトルのゲームを作ることができるのは、彼以外いないんじゃないかと思う。だから、彼と一緒に仕事ができたのは本当に素晴らしい経験だったね。

 あとは、ライヴ・ショーのプロジェクトで、まるでライヴ映像のようなショーのプロジェクトに取り組んでいるんだ。東京と大阪でも、いくつかのシアターで新しい映像のショーをやったんだよ。演劇みたいなんだけどステージにはスクリーンと20のミニチュアセットがあって、70のマペットと弦楽四十奏団がいて、僕がピアノを弾き、ターンテーブルを操り、それを8つのカメラで撮影している。そうやって、オーディエンスの目の前でライヴ動画を作るっていう内容。あのツアーはめちゃくちゃ楽しいんだ。そのスタイルでおこなう、『Storyville Mosquito』っていう新しいショーにも取り組んでいるんだけど、そのショーでは、実は今回のニュー・アルバムもサウンドトラックの一部になっている。でもそれは、少なくとも2、3年は初演が公開されることはないかな。いまは、とにかくアルバムのリリースをエンジョイしているところ。

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Nintendo Switchで出た『Floor Kids』っていうヴィデオ・ゲームのプロジェクトに参加したんだ。子ども向けのブレイクダンスのフリースタイルのゲームで、僕はそのゲームの音楽と効果音を全て担当したんだ。

『Nufonia Must Fall』のペーパーバックをいまも大切に持っています。あのイラストレーション、物語、世界観というのは、その後のあなたの様々な作品の根底に流れているもののように感じますが、いかがでしょうか?

KK:そうだね。ストーリーテリングという考え方が、僕の作品作りの原動力になっていると思う。実際、ニュー・アルバムを作っているときも、頭の中でストーリーは描かれていたんだ。そのストーリーにどんな曲が必要なのかを考えることは、曲作りのときにとても役に立った。このショーやストーリーを実現するためには、どんなタイプの曲が必要なのかってね。だから、『Creatures of the late Afternoon』はまるでアクション映画のような仕上がりになっているんだ。制作中にそれが見えてきたから、第3幕の最後には大きな対決バトルが必要だと思ったし、イントロ・トラックがいるな、とか、クリーチャーたちがバンドとして皆で集まって自然史博物館を救うトラックを作ろう、なんて考えるようになった。バイクの追いかけあいのシーンとかもね。物語という観点は、新作でも基本になっているんだよ。

その新作アルバム『Creatures Of The Late Afternoon』のコンセプトについてもう少し詳しく教えてください。「ボードゲーム機能付きのアルバム」とありますね。

KK:アルバムは、ダブルパックみたいな感じになっていて、ボードゲームがついてくるんだ。さっきも話したけど、パンデミックの間、僕は全てのクリーチャーのキャストを作っていた。ゲームに登場するクリーチャーのキャストたちは、全員楽器を演奏するクリーチャーで、プレイヤーはゲームの中を回ってカードを集め、様々なクリーチャーと出会い、バンドを結成して、いろいろなスタイルを作り上げる。ラヴ・ソングから、アクション・ビートのソングまでね。コンセプトは、絶滅危惧種に指定されている生き物のグループがいて、彼らが自分たちの生息地と自然史博物館を守るために団結するんだ。でも、テクノロジー系で頭の固い大手の会社が現れ、音楽をひとつのスタイルだけにすることを強要し始める。そこで、多様な音楽スタイルのクリーチャーたちがバンドを結成しひとつとなり、異なるスタイルが存在することを祝福する。そしてある意味、音楽におけるアルゴリズムというアイディアをからかっているんだ。人気だからといって、全ての人が突然それだけを聴くようになり、それが全てだと思い込んでしまう考え方をね。

音楽的には、ストレートなビートやスクラッチが聴けるアルバムに仕上がっています。これにはどのような意図があるのでしょうか?

KK:たしかにそうだね。『Nufonia Must Fall』では、音楽はもっとチャップリン風だったと思うんだ。だから、ピアノとストリングスがすごくロマンティックなサウンドを作っていたりする。でも今回のアルバムのイメージは、もっとアクション映画のようなスタイルの作品だった。だから、アルバム全体を通して、ヘヴィーなドライヴ感や推進力のあるグルーヴが必要だったんだ。例えば、“High, Lows & Highways” のような曲は、さっき話した数年後に公開されるショーのバイクのチェイス・シーンに必要なトラックだった。ドラムが多めになっているこのトラックは、その瞬間に最適なグルーヴを与えてくれる曲。そういうトラックが、この作品のストーリーを表現するのに役立ってくれると思ったんだよ。

(新作の)コンセプトは、絶滅危惧種に指定されている生き物のグループがいて、彼らが自分たちの生息地と自然史博物館を守るために団結するんだ。でも、テクノロジー系で頭の固い大手の会社が現れ、音楽をひとつのスタイルだけにすることを強要し始める。

Lealaniをはじめ、フィーチャーしたゲストについて詳しく教えてください。

KK:シンガーであり、ソングライターであり、プロデューサーでもあるLealaniは本当に素晴らしい。彼女は、自分のガール・パンク・バンドも持っているんだ。Lealaniはギターとキーボードも演奏できるし、ドラムパッドも演奏できるし、歌えるし、信じられないくらいの才能を持っている。彼女の声を聴いたときに、「この人ならら大丈夫だ」と思った。“Things Are Gonna Change” を書いたとき、歌詞はできていて、ライオット・ガールのような声を持つ人を探していたんだけど、彼女の声ならピッタリだと思ってさ。僕の友人があるプロジェクトで彼女と一緒に仕事があったから繋いでもらって、僕から連絡をとったんだ。「いまこのトラックを作っているんだけど、君ならこのトラックで素晴らしいサウンドを奏でられると思うんだ。どう思う?」と聞いたら、嬉しいことに彼女は僕のLAでの『Nufonia Must Fall』のショーを見たことがあって僕の作品を知ってくれていて、それが楽しかったらしく、オーケーしてくれた。それでコラボが実現したんだ。彼女は本当に素晴らしいと思う。
 それから、“When U Say Love” という曲でヴォーカルを担当しているのは、実は僕の妻(笑)。いま同じ部屋にいて、「言わないで!」ってジェスチャーをしてるけど(笑)、どうせバレるから言っちゃおう(笑)。楽器に関しては、今回は、パンデミックでスタジオに人がいなかったから、ドラム、ベース、キーボード、サックス、ヴィブラフォン、クラヴィネットなどアルバムに収録されている全ての楽器を僕が演奏しないといけなかったんだ。

『Music to Draw To: Satellite』や『Music to Draw To: Io』のようなシンガーとのコレボレーション作品は、あなたにどんなことをもたらしましたか?

KK:『Satellite』のとき、初めて歌詞を書いたんだ。ニュー・アルバムでも全曲の歌詞を書いたけど、初めて書いたのは『Satellite』。エミリアナ(Emilíana)はアイスランド出身のシンガーで、僕は彼女のファンだったから、曲がほとんどでき上がっていた状態のときにモントリオールに招待したんだ。で、5日間しか時間がなかったんだけど、彼女は時間をかけて歌詞を書くタイプのアーティストだったから、僕自身が歌詞を書かないといけなくなってしまって。書いた歌詞を見せたら、「すごく美しいと思う。ぜひ歌ってみたい」と言ってくれて、うまくいったんだ。大好きなシンガーに僕が書いた歌詞を理解してもらえたなんて、本当に嬉しかったね。『Io』のときも同じ。トリクシー・ウィートリーが僕に歌詞を書いて欲しいと言ってきたから、また歌詞を書くことになった。そして、彼女がヴォーカルのメロディを考えて、見事にそれを表現してくれたんだ。シンガーたちとコラボしたことで、またビリー・ホリデイの話に戻るけど、彼女たちの音楽のように、正しいことを正しい言葉で表現することができたと思う。自分の声を美しくコントロールできる人がいるような感覚だったね。彼女たちの声は、まるで自分から発せられた声のような心地よさがあったんだ。

音楽家としてレコーディング作品をリリースすることは、あなたの中で、どの程度のプライオリティを置いているのでしょうか? いまもレコーディング作品を残すことは活動のメインになりますか?

KK:レコードを作りたいのは、まず、自分自身がそれを聴きたいから。そしてその次に、それを演奏してある方法で見せたい、あるいは、一緒に仕事をしたい人たちとコラボレーションしたい、という気持ちが出てくる。音楽は、いつも扉を開き、橋渡しをして、僕と人びとを繋いでくれる存在なんだ。僕にとっては、全ての音楽制作がつながっているんだよね。全て同じスピリットでやってる。僕にとっての活動の違いは、わかりやすく言うと、季節の違いに近いと思う。初夏のような気持ちのいい時期はドライヴに行くときの音楽が作りたくなったり、パーティー・ミュージックを作りたくなる。で、雪が降り始めると、ピアノ音楽でメランコリーなコードを弾くようになったり。カナダの冬は長いからね。そのときの気分に合わせて音楽を作っていく感じ。僕が住んでいる街のエネルギーや天気にも左右されるし。

ターンテーブルは、あなたにとって音楽的な楽器でしょうか? あるいは慣れ親しんできた道具でしょうか? どういう存在なのでしょう?

KK:その両方だと思う。気分を表現できる楽器でもあり、その音を作るのに役立つツールでもあるから。僕は、人と出会ったりオーディエンスとつながるためにターンテーブルを使い演奏することに多くの時間を費やしてきた。だから、ある意味ターンテーブルは僕のDNAの一部になっているんだ。スクラッチを始めると、全てが溶けていくような感じ。禅の世界に入り込むとでも言うかな(笑)。スクラッチしていると、心が安らぐんだよね。すっと一緒に時間を過ごしてきたからなのか、ターンテーブルと一緒にいると、家にいるような感覚になるんだ。


新作に参加したシンガーのLealaniと

スクラッチしていると、心が安らぐんだよね。すっと一緒に時間を過ごしてきたからなのか、ターンテーブルと一緒にいると、家にいるような感覚になるんだ。

現在のターンテーブリストたちの活動に関心はありますか?

KK:最近、ブラジルで日本のDJ KOCOを見たんだ。僕とLealaniでブラジルでショーをやってたんだけど、プロモーターが、その日の夜にDJ KOCOがクラブでプレイしていると教えてくれて、彼を見にいったんだんだよ。彼がやっていたことはかなりすごかった。まるでヒップホップを使って素晴らしい冒険を繰り広げているかのような感じだった。地元のオーディエンスのためにブラジルの音楽もたくさんプレイしていたし、彼のプレイはすごく楽しかったし、本当に素晴らしかったね。

あなたにとって、インスパイアされる音楽というのはどのような音楽でしょうか? また、あなたが最近よく聴いている音楽を教えてください。

KK:D・スタイルズはかっこいいと思う。彼の545っていうプロジェクトがあるんだけど、そのプロジェクトではマイク・ブーやエクセス、Pryvet PeepshoといったDJが集まるんだけど、5日間かけて一枚のアルバムを作るんだ。僕が好きなのは、本当に才能のあるプレイヤーが集まって、リアルアイムでライヴのように演奏して何かを作り上げるってジャズっぽくてすごくいいと思う。だから、僕はこのスタイルのグルーヴが大好きなんだ。スクラッチのフェロニアス・モンクみたいな存在。たった数日間しかないという制約の中で何か一貫性のあるものを考え出すというのは、本当に深いと思うね。
 ポップの世界でいうと、ベンジー・ヒューズっていうシンガーがいる。彼は本当に素晴らしくて、僕はジョン・レノンに近いものがあると思っているんだ。曲にヴァラエティがあるんだよね。風変わりで面白いことをやっていると思う。そしてもちろんLealaniの音楽もよく聴いてる。彼女のパンク・プロジェクトもすごく気に入っているんだ。あと、Walliceっていうシンガーの音楽は聴いたことある? LA出身で、多分日本とアメリカのハーフなんじゃないかな。最近発見したんだけど、彼女の音楽もエンジョイしてる。あと、ラプソディーは好きでいまだに聴いてるね。2年前のアルバム『Eve』はまだ聴いてる。あの作品は、時代を超越した素晴らしい作品だと思う。

現在取り組んでいるプロジェクトや今後の予定を教えてください。

KK:いまは、長編アニメのプロジェクトに取り組んでいるんだ。長編アニメの監督をするのは初めて。原作は『Space Cadet』で、僕の2作目のグラフィック・ノヴェルなんだ。昼間の時間はほとんどそのプロジェクトに使ってる。あと、Lealaniと一緒にショーもやっているんだけど、それもすごく楽しい。2人組の新しいバンドのような感覚でライヴをしてるんだ。

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