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B. Cool-Aid

FunkHip HopJazzy VibesR&BSoul

B. Cool-Aid

Leather BLVD

Lex

野田努 Jun 02,2023 UP

 手短に説明するなら、Awhleeの次のコメントで充分だろう。「レザー・ブルバードとは、金がなくても手に入る場所だ」。いわば黒いファンタジー……このアルバムを編集部で流したとき、(ふだんはエレクトロニックなものにしか関心を示さない)小林が珍しく反応したこともその音楽性を暗に語ってもいる。たとえるなら、これはムーディーマンのファースト・アルバムをヒップホップで再現したようなもので、黒人の平和な日常生活が音楽をもって綴られている。もっとも、日曜日の教会を表現したムーディーマンの “サンデー・モーニング ”の静謐さに対して、『レザー・ブルバード』の黒人たちは買い物をしたり、恋をしたり、雑然としている。また、これはヒップホップ・アルバムではあるが、ジャズ、ソウル、ディスコ、ファンクなどとの境界線は曖昧で、さりげなく音楽的な実験も試みながら、この「黒いユートピア」の領域を拡張している。まあなんにせよ、ここ数年のヒップホップにおけるもっとも眩い輝きのひとつが、ピンク・シーフであることをまたしても証明する1枚だ。

 さらにこのアルバムをシンプルに説明するなら、これはまったく肩に力の入っていない、リラックスしまくっている音楽だということになる。ドリーミーだと言っていい。70年代ソウル風の甘々のストリングスにローズやフルート、そしてピンク・シーフのハスキーなささやき声。アラバマ出身のこのラッパー/シンガーは、ヒップホップが決して強面の男祭り専用の音楽ではないことを思い出させてくれる。

 それにしてもピンク・シーフはアラバマか……。

 いや、数日前に地球で言うところの命日を迎えたサン・ラーに土星以外の故郷があるとしたらアラバマと言われている。「ラーがアラバマ出身であるということに、私たちはもっと早く関心を持つべきだった」とは、グレッグ・テイトの『フライボーイ2』からの引用だが、アラバマというのはかつて黒人にとっては地球外生命体になることを宿命づけられるほど「地獄」だったそうだ。日本でも知られているわずかな手がかりはニーナ・シモンの “ミシシッピー・ガッデム” だ。これは彼女を過激な政治活動に向かわせる契機となった、KKKによるアラバマ教会爆破事件についての歌である。こうしたアラバマは遠い昔の話だが、ピンク・シーフはあまりに平和の使者とういか、黒人たちの素朴で、ゆるくて、平和な暮らしの場面を描くことに意味を見いだしている。フライ・アナキンとの『FlySiifu's』は街のレコード店が舞台だった。それが今回は街の大通りになっている。

 ピンク・シーフとAwhleeは、LAビート・シーンの拠点〈Low End Theory〉を通じて、Mndsgn(〈Stones Thow〉や〈Leaving〉からの作比で知られる)のパーティで出会った。ふたりのプロジェクトであるB. Cool-Aidは、すでに『Brwn』と『Syrup』をリリースしているが、〈Lex〉からのアルバムは今回が初めてとなる。

 エーテル状の音響からはじまるシングル曲 “Cn't Go Back” は、ふわふわのベッドがベースに引っ張られながらじょじょにダンスフロアへと変容するかのような展開で、コズミックな電子音とアンビエントの “Diamonds” がその後に続く。Mndsgnが参加した “Neem” はムーディーでキラキラした夜空に広がり、 “soundgood” は言うなれば坂本慎太郎的AORにも通じているメロディアスな曲だ。エロティックな “If U Can See Me” は、あきらかに〈KDJ〉との音楽的な繋がりが感じられるし、三田格が褒めちぎっていたクエーリ・クリスが参加した“Brandy, Aaliyah” (そう、ブランディ、アリーヤ)では、なかばノスタルジックな90年代モードで迫る。

 ほかにも、ジャジーでスムーズな “ChalkRoundIt” 、甘くメロウな “Wassup” 、レイドバックした生バンドの演奏をバックにラップ寸劇を見せる “ChalkRoundIt” 等々、コンセプト・アルバムというにはとっちらかってしまったけれど良い曲がたくさんある。 メロウなトラックの彼方でひたすら黒人同士の会話が続く“So Soft Salon” なんていう曲も面白いし、なによりもこのアルバムは終始心地よくて気分が良い。夏の夕暮れどきにビールを飲みながら聴いたら最高じゃないのかな。ちょっと酔いが早くまわるかもしれないけど。

野田努