「Low」と一致するもの

Telefon Tel Aviv - ele-king

 なんてエモーショナルなエレクトロニック・ミュージックなのだろうか。悲しみがある。希望を求める感情がある。夢の中を生きている浮遊感覚がある。現実の都市をスキャンするような緊張感も漲っている。死がある。そして再生がある。

 テレフォン・テル・アヴィヴ、10年ぶりの新作アルバム『Dreams Are Not Enough』を聴いたとき、私はそう感じた。『Dreams Are Not Enough』は壊れかけた電子音とビートとヴォイスによる都市と人のいまと心を彩るサウンドトラックであり、「夜」のムードが濃厚なアルバムである。われわれは、いま、喪と悲しみが横溢する「夜の時代」を生きている、とでも告げるように。
 もちろんかつてのテレフォン・テル・アヴィヴも十分にエモーショナルだったわけだが、本アルバムではさらに深まった。10年という歳月は大きい。ジョシュア・ユースティスの盟友チャールズ・クーパーの死が深く関係しているのかもしれない。

 2009年にチャールズ・クーパーがこの世を去って、ジョシュア・ユースティスひとりとなったテレフォン・テル・アヴィヴは活動を停止した。最後にリリースしたアルバムは2009年のサード・アルバム『Immolate Yourself』だった。
 2001年、ニューオリンズ出身のジョシュア・ユースティスとチャールズ・クーパーは、テレフォン・テル・アヴィヴのファースト・アルバム『Fahrenheit Fair Enough』を、シカゴの〈Hefty Records〉からリリースした。細やかなグリッチと電子音響による00年代以降のサウンド・プロダクションと、デトロイト・テクノのエモーショナルさ、ハウス・ミュージックのエレガントさを併せ持ったトラックは、世界中のIDMファンの耳を虜にし、彼らは一躍、ゼロ年代初頭=「エレクトロニカの時代」を象徴するユニットになった。ちなみに『Fahrenheit Fair Enough』がリリースされるまでの経緯は2016年に〈Ghostly International〉からリイシューされた『Fahrenheit Fair Enough』のライナーノーツに詳しい。
 2004年、〈Hefty Records〉からセカンド・アルバム『Map Of What Is Effortless』をリリースした。ヴォーカル・トラックを中心としたシルキーなIDM/R&Bといった趣の曲を収録し、このアルバムも多くのファンから愛されている名盤である。
 2009年、チャールズ・クーパー存命時のラスト・アルバムにしてサード・アルバム『Immolate Yourself』を発表する。アナログ・シンセサイザーの音などを盛り込み、新たな可能性を模索しだ意欲作だった。しかしその直後、チャールズ・クーパーが亡くなった。テレフォン・テル・アヴィヴは活動を停止した。

 むろん、ジョシュア・ユースティスは音楽活動を停止したわけではない。ソロ・ユニットであるサンズ・オブ・マグダリーン、2013年のナイン・インチ・ネイルズのツアー参加など積極的に動いていたように記憶する。近年もヴァチカン・シャドウとのコラボレーションやビロングのターク・ディートリックとのユニットであるセコンド・ウーマンなど、インダストリアル/テクノ以降ともいえる10年代の先端音楽の領域に介入するなど、その手を休めたことはない。
 特に〈Spectrum Spools〉からリリースされたセカンド・ウーマンの二枚のアルバムは、グリッチ以降の電子音響をモードなムードの先端音楽へと変換させた決定的な作品であった。テレフォン・テル・アヴィヴ『Dreams Are Not Enough』のサウンドには、どこかセカンド・ウーマンのサウンド・マテリアルを継承する面があるように感じられる。セコンド・ウーマンの活動がテレフォン・テル・アヴィヴ再起動に影響を与えているのではないかとも推測してしまうほどに。
 じじつ、セカンド・ウーマンのファースト・アルバム『Second Woman』が〈Spectrum Spools〉からリリースされたのは2016年で、廃盤になっていたテレフォン・テル・アヴィヴのアルバムが〈Ghostly International〉からリイシューされ、テレフォン・テル・アヴィヴ復活へと動き出した時期も2016年だ。2017年もセカンド・ウーマンは新作アルバム『S/W』をリリースし、テレフォン・テル・アヴィヴはライブ活動をおこなう。このふたつのプロジェクトは10年代後半において並行して走っていた。共通するサウンドを感じられるのは当然かもしれない。

 ではなぜテレフォン・テル・アヴィヴなのか。盟友がこの世から去り、ひとりとなったテレフォン・テル・アヴィヴは「テレフォン・テル・アヴィヴ」として存在できるのか。2014年にリリースしたチャールズ・クーパーと亡くなる直前に完成させた曲も含まれていたサンズ・オブ・マグダリーン『Move To Pain』は、テレフォン・テル・アヴィヴを継承するサウンドを展開していたがテレフォン・テル・アヴィヴ名義ではない。となれば10年代中盤以降のテレフォン・テル・アヴィヴの復活は、ジョシュア・ユースティスが死という喪失を受け入れ、テレフォン・テル・アヴィヴを再生するための儀式といえなくもない。
 つまり『Dreams Are Not Enough』の収録曲はソロ作品や他ユニットのものではなく、テレフォン・テル・アヴィヴの作品なのだという確信にジョシュア・ユースティスが至ったのではないかと想像するのだ。ゴーストのようにトラックの中を徘徊し浸透するヴォイス(極端に加工されている)と幽玄な電子音の交錯を聴くとそんなことをつい考えてしまった。

 アルバムには全9曲が収録されているが、どの曲も亡霊が真夜中の都市を徘徊するような緊張感が漲っている。中でも M2 “a younger version of myself,”と M3 “standing at the bottom of the ocean;”は本作を代表する曲だ。クラッシュするような電子音と透明なヴォイス、断続的に鳴らされるビート、全体を包み込む密やかな刺激と静かなアンビエンスのバランスが奇跡のように美しい。“a younger version of myself,”はリード・トラックでありMVも作られた。エドワード・ホッパーの夜の街を思わせる映像も本作のムードをよく表現している。

 M4 “arms aloft,”も軋むようなグリッチ・ノイズと霧のようなヴォイス/ヴォーカルにアトモスフィアなアンビエント/アンビエンスが交錯する。曲の終わりではすべてが溶け合ったようにアンビエント/ドローンへとカタチを変えていく。
 M5 “mouth agape,”では前曲を継承するようにアンビエント/ドローンで幕を明けるが、うっすらとした声が重なり、サウンドもまた闇から光が溢れるように変化する。この流れが非常にエモーショナルだ。M6 “eyes glaring,”と M7 “not seeing,”もさまざまなサウンド・エレメントが融解したようなアンビエントな曲。ここでは声がまるで讃美歌のようにサウンドが溶け合っている。おそらく“arms aloft,”、“mouth agape,”、“eyes glaring,”、“not seeing,”の4曲は組曲的な扱いではないか。アルバム冒頭で提示された“a younger version of myself,”と“standing at the bottom of the ocean;”のサウンド・フォームとエレメントが融解し、聴き手の意識の深いところで音が作用するような感覚を覚えるのだ。まるで瞑想への誘いのように。
 続く M8 インダストトリアルな“not breathing,”で、リスナーは心地良いインナースペースから目を覚まさせられることになるだろう。このハードなエレクトロ・トラックを経てアルバムは再び現実へと回帰し、穏やかにして不穏な M9 “still as stone in a watery fane.”で、終局を迎える。

 こうしてアルバムを聴き進んでいくと、『Dreams Are Not Enough』は、この10年あまりにジョシュア・ユースティスが経験したふたつの死(親しい友人と父親の死)への思いが込められているように感じられた。喪失と再生のように。そんなパーソナル/エモーショナルさゆえに本アルバムの曲たちは、セカンド・ウーマンでもなく「テレフォン・テル・アヴィヴの曲」である必要があったのだろう。個人的であることは大切な他者を心の中に思い続けること意味する。そう、『Dreams Are Not Enough』には、ひとりの音楽家の新たなはじまりが刻み込められている。

Looprider - ele-king

 『バンドやめようぜ!』でお馴染みのイアン・F・マーティンのレーベル〈Call And Response Records〉の新たなリリースは、東京ストーナー・ロックの新世代、Looprider(ループライダー)が待望の新作『Ouroboros(ウロボロス)』。ベースレスの3人編成となったLoopriderの新境地は、メロディアスな側面が際立っており、Borisの面影もちらほら。ぜひ注目して欲しい。
 なお、アルバムのリリースにともない、9月22日(日)に東高円寺二万電圧でリリース記念イベントの開催も発表。ゲストアクトとして Melt-Banana、GROUNDCOVER.、P-iPLEが出演。東京のアンダーグラウンドなノイズ・ロック・シーンを体験しよう。

アーティスト: Looprider
タイトル: Ouroboros
発売日: 2019.10.02 on sale 品番: CAR-49
価格: 2,000円 (税抜)
レーベル:C​all And Response Record
https://callandresponse.jimdo.com/
https://looprider.com/


リリースイベント

2019.9.22 (Sun)
東高円寺二万電圧

Call And Response Records presents Looprider “Ouroboros” Release Party
Open: 18:00
Start: 18:30
Adv: 2,500円+1 drink
Door: 3,000円+1 drink
Acts: Looprider, Melt-Banana, GROUNDCOVER., P-iPLE

Have a Nice Day! - ele-king

 Have a Nice Day!のライヴはすごい。“FOREVER YOUNG”であらゆる場所をパーティ・フロアに、“FAUST”でオーディエンスを昇天させる。2011年新宿のアンダーグラウンドを拠点に活動を開始、数年のうちにわずか数人のフロアからZEPPまで駆け上ったHave a Nice Day!の原動力となったそれら代表曲が新録音でアナログ発売。
 カップリングは日本のパーティ・シーンにおけるバレアリック・スタイルのオリジネイター、YODATAROと東京のハウス・シーンを20年渡って牽引してきたSugiurumnによる本格的フロア・リミックスを収録。世代を超えて、ダンスしよう。
 

7インチの先行予約受付中!
FOREVER YOUNG
https://store.kilikilivilla.com/product/receivesitem/KKV-094VL

FAUST
https://store.kilikilivilla.com/product/receivesitem/KKV-095VL


https://open.spotify.com/track/1V5SlTvrW6m52Y87Fr8eBF

アス - ele-king

 タイトルだけを観て最初に考えたことはダヴィッド・モロー監督『正体不明 THEM』(06)と何か関係があるのかなということ。ルーマニアの初代大統領チャウシェスクは国の人口を増やすために堕胎と離婚を国民に禁じ、結果、ルーマニアの人口は増え、GDPを上げることに成功する(日本会議や安倍晋三には教えたくない政策だなあ)。しかし、無理に子どもを産ませれば歪みが出るのは当然で、子どもを育てられなくなる親はもちろんいるし、ルーマニアではストリート・チルドレンが社会問題化していく。そうした子どもたちのエイズ感染率の高さや、政府の特殊部隊として孤児たちが戦闘訓練を受けていたことも明るみに出るなど独裁政権の末路は壮絶なものとなる(本誌でも話題になったクリスティアン・ムンジウ監督『4ヶ月、3週と2日』(07)はチャウシェスク政権下で堕胎を試みることがどれだけ困難であったかを扱ったルーマニア映画)。『正体不明 THEM』はそうした史実を背景に持つ地味なフランスのホラー映画で、スパニッシュ・ホラーの評価を高めたアメナーバル監督『アザーズ』(02)の世界的なヒットを意識した演出だったことは明らかだった。「THEM」というタイトルがそもそも『アザーズ』を言い換えたとしか思えないし、少女とゾンビばかりでなく、「誰のことを怖がるか」ということがこの時期はホラー映画のトレンドになっていた。カメラに映っていたあれや『ミスト』のあれ、外の世界は放射能か化学兵器で全滅してしまったと言い張る農夫とか(あれはもっと後か……)。ちなみに僕がその当時、一番怖かったのはパク・チャヌク『Cut』(04)に出ていたエキストラ役でした。あの男は……怖かった。

「この世で一番怖いモンスターは自分自身ではないか」とジョーダン・ピール監督は考えたという。恐ろしいのは「THEM」ではなく「US」だと。海沿いの遊園地に遊びにきた黒人一家はそれなりに裕福な暮らしをしているようで、休みには別荘に出かけていく。別荘地には知り合いの白人一家もいて、彼らはビーチに寝そべり、裕福な人たちが言いそうな悪態をつき、この人たちは誰の役にも立っていない人たちなんだろうなということが印象づけられる。夜になると、家の外に誰かが立っていることに家族は気がつく。父親のゲイブ・ウイルソン(ウィンストン・デューク)は自分たちの家の敷地内から出て行けと彼らに向かって怒鳴るが、彼らは一向に立ち去る気配を見せない。それどころか、彼らは玄関を壊し始め、家の中へと押し入ってくる。それはウィルソン一家とまったく同じ4人家族。つまり、自分たち自身だったのである。監督のジョーダン・ピールが一昨年、『ゲット・アウト』でいきなりビッグ・ヒットをかましたことは記憶に新しい。(以下、ネタばれ)『ゲット・アウト』を観て、ジョン・フランケンハイマーが66年に撮った『セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身』が下敷きになっていると思った人は多いことだろう。カリフォルニアのヒッピー・カルチャーを変な角度から眺めることのできる『セコンド』は個人とアイデンティティの結びつきを絶対のものとしてではなく、最近でいえば『殺し屋1』のように書き換えることが可能だという認識のもとにつくられた作品で、キャリアの初期に『影なき狙撃者』(62)という大作を撮ったフランケンハイマーがさらにテーマを深めた傑作であった。僕が驚いたのは、『ゲット・アウト』だけでなく、『US』もまた『セコンド』にインスピレイションを得ている作品だということで、1粒で2度おいしいというか、カニエ・ウエストが単純に自分を黒人と同定できない時代につくられたブラック・ムーヴィーとして、奇妙なシンクロニシティを感じてしまったことである。マイケル・ジャクソンのように白人と黒人を対立項として扱えば議論が成立するという土壌の上にはもはやいない。『US』ではとにかく自分が襲ってくるのである。

 ジョーダン・ピールは映画のプロパーではなく、アメリカではむしろ『キー&ピール』というコメディ番組の製作者として知られている。『キー&ピール』の持ちネタにバラク・オバマが世界情勢について何かコメントすると、隣でオバマの本音が炸裂するというコントがあり、オバマがしたたかだったのは彼らをホワイトハウスに呼んで、このコントを一緒に演じてしまったことである(安倍晋三にはとてもできない芸当!)。ジョーダン・ピールはここでもひとりの人間を相反する要素に分解して見せている。カニエ・ウエストが何を言っているのかまるで一貫性がなく、全体としては整合性がないように、ジョーダン・ピールが描き出す人物像も統一された人格からはほど遠い。しかも、一方はかなり暴力的である。『US』は中盤以降、そうした自分への暴力行為の範囲がどんどん拡大し、別荘仲間であるタイラー夫妻の家にウィルソン一家が駆けつけたところで最初のクライマックスに達する。スマート・スピーカーを使ったギャグや軽妙洒脱なヴァイオレンスなど、このパートには見どころがたくさんあるのだけれど、このところどんな作品に出ても絶賛されるエリザベス・モス(映画『ザ・スクエア』でのコンドームの奪い合いとか)がここでも素晴らしい演技を見せ、鏡を見てニヤリとするシーンはトラウマ級のインパクトに感じられた。本当は主演のルビタ・ニョンゴを絶賛してしかるべきなんだろうけど(実際、熱演ではあった)、しかし、個人的にはモスに全部持っていかれちゃった感じです。ああ、モスちゃんに噛まれてみたい……なんて。

 ひとりの人格をふたつに分けて扱うのとは対照的に、この作品には一卵性双生児のタレント、タイラー姉妹が起用され、ふたりなのにひとり分の役割しか与えられていない。これもかなり意図的な演出なのだろう。また、この作品にはアメリカ大陸を横断する人間の鎖が登場するなど格差社会を批判する要素が持ち込まれているのは確かだけれど、そうなると最後のオチも複雑な入れ子構造になっていて、どこがどういう批判になっているのかすっきりはしなくなってくる。それこそカニエ・ウエストが「黒人は自ら奴隷になったとしか思えない」的な発言と重ねて考えると映画的な主体がどこにあったのかは少し混乱してくるし、説明的なところも気になり始める。問題意識は十分に伝わってくるし、ひとひねり加えたい気持ちはわかるけれど、最後は少し面白くし過ぎたのではないだろうか。そして、エンドロールにスティーヴン・スピルバーグの名前があったことはジョーダン・ピールがどこに向かうかを示唆していたようで、ある種の不安がこっそりと忍び寄ってくるのであった。

『アス』予告編

 スケシンさんの〈C.E〉がまた面白いパーティをやります。今回は、Joy OrbisonとRezzettのふたりに、ホンジュラスのテグシガルパ出身のプロデューサー、Low Jackも来日。最近は、自身のレーベル〈Editions Gravats〉からのリリースも注目を集めており、たぶんダンスホールをがんがんプレイしそうな予感。また、初来日となるマンチェスターをベースに活動をおこなうJon K、C.Eのパーティではお馴染みThe Trilogy Tapes / Hinge Finger主宰のWill Bankhead、1-Drink、LIL MOFOが出演。

 現在、激安のアーリーバードチケット(チケット代1000円+手数料50円!)が数量限定で発売中。前売りも1500円、当日も2500円と安い! 偉い!
 こりゃ、絶対に行ったほうがいいよ。

C.E, TTT & HINGE FINGER present

JOY ORBISON
REZZETT
LOW JACK
JON K
WILL BANKHEAD
1-DRINK
LIL MOFO

Friday 25 Oct 2019(2019年10月25日金曜日)
Open/Start: 12:00 AM(深夜12時オープン/スタート)
Venue: WWW X www-shibuya.jp
Advance ¥1,500 / Door ¥2,500

Tickets available from Resident Advisor https://www.residentadvisor.net/events/1316924
Over 20's Only. Photo I.D. Required

Little Brother - ele-king

 ノース・カロライナを拠点とするヒップホップ・グループ、Little Brother が8年ぶりに突如リリースした、通算5作目となるアルバム『May The Lord Watch』。昨年9月には、元メンバーである 9th Wonder と共に、11年ぶりとなるオリジナル・メンバー3人によるライヴが彼らの地元で行なわれ、ファンを大いに喜ばせたが、残念ながら今回のアルバムには 9th Wonder は参加していない。しかし、彼らの黄金期である2000年代半ばのエナジーが本作には充満しており、実に見事な復活アルバムとなっている。

 本作は架空のテレビ局である UBN(=U Black Niggas Network)を舞台に進行し、曲間には番組のミニ・コーナーやニュース、CMがスキットとして挟み込まれている。UBN という名称も含めて、これは2枚目のアルバム『The Minstrel Show』でも用いられていたコンセプトである(さらに言えば1作目『The Listening』は架空のラジオ局が舞台)。アルバム一枚をコンセプチュアルに構成するということ自体が非常に珍しくなっている今の時代、1曲目から最後まで通して聴く前提で作られているこのスタイルは、改めて(昔は当たり前であった)アルバム単位での作品の楽しみ方を思い出せてくれる。

 本作の肝となっているのは、兎にも角にもプロデューサーの素晴らしさであり、Phonte と Big Pooh、ふたりのラップとのそれぞれのトラックとの相性の良さは完璧にすら思える。これまでも Little Brother の作品に多数関わってきた Justus League の Khrysis をメインに、さらに Nottz、Focus……といったメジャーなフィールドでも活躍するベテラン勢に加えて、スキットでは Devin Morrison や Soulection の Abjo といった若手も起用するなど、プロデューサーの顔ぶれにも貪欲にベストなサウンドを求めているという彼らの姿勢が表れている。アルバム前半ではリリース直後にMVも発表された“Black Magic (Make It Better)”が核となって、彼らのアティチュードがストレートに表現されているが、個人的には心地良いビートが病みつきになる“What I Came For”から始まるアルバム後半の流れに完全にヤラれてしまった。Questlove が客演するスキットを挟んで、Bobby Caldwell “Open Your Eyes”をストレートにサンプリング・ネタとした“Sittin Alone”では悲哀の感情さえも美しく響かせ、Black Milk がプロデュースする“Picture This”は、トラックがノスタルジー溢れる曲のメッセージ性をより深く響かせる。Anderson .Paak の作品にもプロデューサーとして参加している King Michael Coy が手がけた“All In A Day”はシンセと間の使い方が絶妙で、そして、“Work Through Me”では Common のクラシック・チューン“I Used To Love H.E.R.”のフレーズ「Yes, yes, ya'll ~」も見事にハマり、アルバムのラストを実に可憐に締めくくる。

 90sヒップホップに多大な影響を受けて、2000年代初頭にデビューした彼らのスタイルは、当然、ブーンバップ・ヒップホップの流れにあり、アフリカン・アメリカンとしてのスタンスの上での、コンシャスなメッセージ性が貫かれ、さらにユーモアのセンスも程良く注入されて、エンターテイメントとしてのバランスも上手く保たれている。ただし、2000年代の焼き直しではなく、彼らのラップも含めて、このアルバムのサウンドは間違いなく現在進行形のものであり、ヒップホップとしての普遍的な魅力が詰まった傑作だ。

interview with Moonchild - ele-king

 ケンドリック・ラマー、アンダーソン・パーク、フライング・ロータス、サンダーキャット、カマシ・ワシントン、テラス・マーティン、ジ・インターネットなど、さまざまなアーティストたちで賑わうロサンゼルスとその近辺の音楽シーン。現在、世界的にもっとも活況溢れるシーンが形成されているのだが、その中で3人組のネオ・ソウル・グループとして確固たる足取りを残してきたのがムーンチャイルドである。
 マックス・ブリック、アンドリス・マットソン、アンバー・ナヴランからなる彼らは、2012年のデビュー・アルバム『ビー・フリー』に始まり、2014年の『プリーズ・リワインド』、2017年の『ヴォイジャー』と、これまでに3枚のアルバムを発表してきた。アンバー・ナヴランのヴォーカルを中心としたネオ・ソウル的な側面がフォーカスされがちな彼らだが、実は3人は大学でジャズの器楽演奏や作曲などを学び、そこから生まれたグループなので、そのベースにはジャズがあるとも言える。だからムーンチャイルドの楽曲には彼ら自身が演奏するサックス、フルート、トランペット、クラリネットなど多彩な管楽器がフィーチャーされ、その芳醇なアンサンブルが一番の聴きどころなのである。ライヴ演奏を観ると、そうした彼らの魅力がより伝わってくるだろう。
 また、いろいろとゲスト・アーティストがフィーチャリングされ、一体誰の作品なのかよくわからないことが多いいまのアルバム制作だが、ムーンチャイルドの場合はほとんど3人のみで演奏や制作がおこなわれ、自身の音楽や個性に磨きをかけている点も共感が持てる。新しいアルバム『リトル・ゴースト』ではさらに演奏する楽器も増え、さらに成長した彼らの姿が伺える。


ストリングス以外のほとんどすべての楽器を自分たちで演奏したっていうのは確かで、自分たちが演奏したものを自分たちでミックスした。その点でいうと、全工程を3人だけでやっているわけだから手作り感は強くなっているかもしれないね。 (マックス)

ニュー・アルバム『リトル・ゴースト』の完成おめでとうございます。早いものでファースト・アルバムの『ビー・フリー』から数えて4枚目のアルバムとなります。まずデビューからここまでの活動を振り返って、どのように感じていますか?

アンドリス・マットソン(Andris Mattson、以下アンドリス):僕たちの誰も予想していなかった、夢のような旅になったと思ってるんだ。でも、僕たち自身はファースト・アルバムを作っていた頃と何も変わっていない。そして同時に、このメンバーじゃないとできなかったことだと思ってる。

アンバー・ナヴラン(Amber Navran、以下アンバー):完璧な答えね! 私も同意するわ。

南カリフォルニア大学ジャズ科のホーン課程でアンバー、マックス、アンドリスが知り合い、意気投合して演奏や楽曲制作をおこなうようになってムーンチャイルドが結成されました。そうした音楽好きの友人が集まった学生サークル的な雰囲気が、いい意味で現在のムーンチャイルドでも続いているように感じますが、いかがでしょうか?

アンバー:そうね。ミュージシャンは皆、学び続けることが大事だと思っているの。前作から成長して、新しいスキルを身につけたりね。私たちの間に流れている雰囲気は、バンドをはじめたころから変わっていないわ。自分たちの好きな音楽を作って、一緒にひとつのものを作り上げてね。でもあの頃からバンドとしては成長することができて、もっといいバンドになったと思ってる。

楽器演奏や作曲などについて常にスキルを磨くなど、あなたたちはとても向上心を持って音楽に接しているように感じます。だから、アルバムを発表するたびに手掛ける楽器の種類が増え、いまでは3人が3人ともマルチ・ミュージシャンでソングライターとなり、ムーンチャイルドでの対等な関係性を築いているのではないでしょうか。ムーンチャイルドにおける現在の3人の立ち位置、役割はどのようになっているのでしょうか?

アンバー:私はヴォーカルとプロデュースの他に、楽器はサックス、フルート、クラリネットを担当してるわ。

アンドリス:僕もプロデュースをするし、楽器としては主にベース、ギター、トランペットだね。

マックス・ブリック(Max Bryk、以下マックス): 僕らはみんなだいたい同じことをやっているんだよね。僕もプロデュースをやって、ベースも引くしミックスもやる。僕は楽器でいうとアルトサックス、クラリネット、あとはフルートをやることもあるね。

アンバー:曲作りに関しては、私たちは別々に曲を作って持ち寄るの。だから最初は個人で作った曲で、それを他のふたりに聴いてもらって何か足したい要素はないか聞いてみる。曲をふたりに送って、追加したい楽器なんかをシェアして、曲作りをしていく。ここにギターを足したい、ヴォーカルを入れたい、っていう感じでね。マックスが言っていたみたいに、役割としては、私たちはほとんどみんな同じことをしているのよね。

アンドリス:そうだね。ただ、お互いにアドバイスをし合うってことはしない。誰が何をやったらいいっていうのを、別のメンバーが言うことはない。自然に自分から生み出していくんだ。例えばアンバーが最初にビートを送ってきたら、マックスがサックスを加えてみて、とかね。個人のアイディアを持ち寄って、みんなで一緒に、同時に曲を作り上げていくんだ。他のメンバーの動きを見ながら自分で自分の役割を見定めていってるよ。

『リトル・ゴースト』は過去3枚のアルバムの延長線上にあるもので、基本的にはこれまでのムーンチャイルドの世界を押し広げたものだと思います。今回はどのようなヴィジョンを持ってアルバム制作に取りかかりましたか?

アンバー:サウンドとしては前作までの雰囲気を引き継いでいこうと思って作ったけれど、自然と、私たちにとっては新しい曲を思いついたり、新しい楽器を使ったりしたわね。アルバムを作りはじめるときには毎回、ヴィジョンというものは特にないの。そのとき聴いている音楽に自然と影響を受けたりしているのかな? ふたりはどう思う?

アンドリス:毎回新しい楽器に挑戦しようとしているから、それが音楽的な成長に繋がっているんじゃないかな。新しい楽器を習得すると耳も肥えるから、どこの部分にどの楽器を入れるといい感じのサウンドになるだろうっていう感覚が研ぎ澄まされていくんだ。

基本的にムーンチャイルドのアルバムはセルフ・プロデュース作品ですが、『リトル・ゴースト』ではストリングスを除いたすべての楽器演奏も3人でおこなっていて、いままで以上に3人で練り込んで作り上げたアルバムという印象が強いですが、いかがでしょう?

マックス:プロセス自体は、これまでとほぼ変わっていない。これまでも完全にセルフ・プロデュースで作ってきて、今回もそうだからね。ただ、ストリングス以外のほとんどすべての楽器を自分たちで演奏したっていうのは確かで、自分たちが演奏したものを自分たちでミックスした。その点でいうと、全工程を3人だけでやっているわけだから手作り感は強くなっているかもしれないね。

新たな楽器の導入という点では、アンドリスが“トゥー・マッチ・トゥ・アスク”や“ジ・アザー・サイド”などでアコースティック・ギターやウクレレを演奏しているのが新鮮でした。前作の『ヴォイジャー』(2017年)リリース後、ボン・イヴェールのサウンドに傾倒し、彼らが『22・ア・ミリオン』でやっているアコースティック楽器とシンセの電子音の融合にいろいろインスピレーションを受け、それが『リトル・ゴースト』に生かされているそうですね。それに加えて、あなたたちが得意とする管楽器のアンサンブルはもちろんですが、“ホイッスリング”や“スティル・ワンダー”などではシンセやシンセ・ベースなどのエレクトリックな楽器のコンビネーションが、いままで以上にサウンドの大きな比重を占めているなと感じました。これもボン・イヴェールの影響のひとつですか?

アンドリス:そう。その通りなんだ。ボン・イヴェールには影響を受けているね。これまではギターを今回のような形で使うっていうアイディアには思い至らなかったけど、彼の楽器の使い方にはインスピレーションをもらって、試してみたらしっくりきて。他にも影響を受けたミュージシャンはいるけどね、例えば……

アンバー:エミリー・キングなんかもそうよね?

アンドリス:たしかに。リンドラムを使ったのも僕たちにとっては新しい挑戦だったからね。あのアイディアはエミリー・キングのアルバムを聴いてからかも。

ボン・イヴェールやエミリー・キング以外に、音楽家やアーティストに限らず何でも結構ですが、『リトル・ゴースト』を制作する上で影響されたもの、インスピレーションを受けたものはありますか?

アンバー:私は詩をたくさん読むんだけど、それを曲作りに活かしているわね。ナイラ・ワヒード、E・E・カミングス、パーシヴァル・エヴェレット、そしてイエルサ・デイリー=ウォードが私の中のトップ4ね! ふたりは?

アンドリス:僕はそうだな……ちょっと違う観点からいくと、ジョン・バトラー・トリオには影響を受けてるね。前の曲なんだけど繰り返し聴いてるのがあって、なんだっけ……「細かいことは気にしなくていい」、みたいな歌詞の……

アンバー:ベター・ザン”じゃない?

マックス:“ベター・ザン”だろ?

アンドリス:“ベター・ザン”だ!(笑) すごく好きな曲でね、トリオはピアノの使い方もうまいし、インスピレーションをもらっているよね。

そのときの自分たちの気持ちだったり思いつきで自然とサウンドが変わってくるものだから、特に意識はしていなくて、その場で生まれた変化というか。とにかく、僕たちはオーガニックな曲作りの手法を取っているから、すべてが自然発生なんだよ。 (アンドリス)

“スウィート・ラヴ”ではマックスがカリンバを演奏していますが、これはどのようなアイデアから取り入れたのですか? カリンバはムーンチャイルドのオーガニックなサウンドにとてもマッチしていると感じますが。

マックス:単純に、カリンバにはまっていたんだ。ディアンジェロとか、ジェイムズ・ポイザーを聴いていて、1990年代後半のサウンドがいいなと思って。あたたかみのある楽器だし、ライヴでも効果的に使えるんじゃないかと思ったんだ。他の曲でも使ったんだよ、“トゥー・マッチ・トゥ・アスク”とか、“エヴリシング・アイ・ニード”でも使ったね。バンドの雰囲気に合っていて、とてもはまったなと思っているよ。

ストリングス・アレンジはアンドリスが担当して、ホーン・アレンジは3人でおこなっているというのは『ヴォイジャー』と同じかと思いますが、アルバム全体のストリングス・セクションを担当しているカルテット・405はどんなグループなのですか?

アンドリス:彼らとは以前から友達だったんだけど、今回ストリングスをお願いしようという話になって。一緒に何回かストリングスのパートを録ったんだけど、ただのストリングス・カルテットというよりはオーケストラのようなサウンドの広がりがあるグループでね。その特徴が生かされたサウンドに仕上がったと思う。

『リトル・ゴースト』ではアンバーの楽器演奏の比重がいろいろ増えていますね。これまではシンセなどを一部で手掛けるものの、基本的にはヴォーカルとフルート演奏がメインだったのですが、今回は数々の作曲でローズ、サックス、シンセ・ベース、ドラム・プログラミングなどを手掛け、ムーンチャイルドのサウンドの骨格に大きな役割を果たしています。こうやっていろいろな楽器や機材を手掛けるようになったことについて、アンバーの中で何か変化があったのでしょうか?

アンバー:前作までは、私はピアノで曲を書いてマックスとアンドレスに渡してトラックを作ってもらっていたの。プロデュースというのはやったことがなかったから。でもここ2年ほどでプロダクションにも携わりたいと思ったからそのやり方を学んで、トラックメイキングの部分を人にお願いするんじゃなくて、自分で作れるようになった。そうやって今回の変化が生まれたの。最初に言ったように毎回新しいスキルを習得したいと思っているから、今回はプロダクションを学んで、それを早速生かしたのね。

アンドリス:だから、今回は本当に全員でプロデュースをしたね。

アンバー:すごく楽しかったから、今後もやりたいわ!

『リトル・ゴースト』の特徴を挙げるなら、いままで以上にリズム感が前に出た楽曲作りがおこなわれている点かなと思います。たとえばファンク調の“オントゥ・ミー”や、アコースティック・ギターとタイトなビートが心地よいグルーヴを生み出す“ホワット・ユー・アー・ドゥーイン”は、メンバー3名がすべてドラム・プログラミングに関わっていて、そのスキルが合わさることによってでき上がった楽曲です。“ワイズ・ウーマン”も同様にアンバーとアンドリスのふたりでドラム・プログラミングをおこなっています。いままでのアルバムではこういった楽曲作りはおこなっていなかったと思いますが、今回は新たな作曲手法にアプローチしているのですか?

アンバー:意図的にそうなったわけではないのよね。いままでと違ったテンポの早い曲なんかも、自然と出てきた感じで。

アンドリス:そうだね、そのときの自分たちの気持ちだったり思いつきで自然とサウンドが変わってくるものだから、特に意識はしていなくて、その場で生まれた変化というか。曲作りの段階で3人で色々と試してみるんだ。その中でしっくりきたものを採用する。だから、今回の変化も次のアルバムではもうやらないかもしれないし、「新しい作曲手法」としての認識は特になかったな。とにかく、僕たちはオーガニックな曲作りの手法を取っているから、すべてが自然発生なんだよ。

アンバー:基本的な曲作りのやり方はこれまでと変わっていないけど、私の変化としては曲を書くだけじゃなくて、さっきも話にあがったようにプロデュースも自分でやるようになった。それによってバンドの役割がより対等になったから、今回のアルバムに入っているアップテンポな曲に関しても、3人全員のグルーヴからああいう曲が生まれたのよ。

歌詞はアンバーが作っているのですか? 主にラヴ・ソングが多いのですが、単にあなたが好きだとかストレートなものではなく、たとえば“ワイズ・ウーマン”や“マネー”のように、女性の目線による生き方や人生そのものも含んだもう少し抽象的で広がりのあるものに感じるのですが、それはアンバー自身の人生経験から来ているものなのでしょうか?

アンバー:すべての曲の歌詞が個人的な体験に基づいているもので、プライベートなものなの。それは私自身に起こった体験でもあるし、周りの人たちの体験でもある。まさに人生経験に基づく歌詞ね。抽象的に聞こえたのはきっと、私のいまの人生がそういうモードだからなんじゃないかな(笑)。女性の複雑な心境みたいなものが理解できる年齢になったというか。しっくりくるようになった気がする。自分の気持ちに正直でいられない、みたいな感覚を自分でも経験して、理解できるようになったのね。たぶん、それが今回の変化の理由だと思う。

最後に『リトル・ゴースト』で聴いてもらいたいポイントと、今後の活動予定などをお願いします。

アンドリス:ポイントというのとは少し違うかもしれないけど、3人全員で作ったサウンドを楽しんでほしい。ひとつの曲に対して3人で試行錯誤しながら作り上げたっていう部分をね。どの曲から聴いても、どの順序で聴いてもらってもいい。

マックス:僕はそれぞれの曲のブリッジに注目してほしいと言おうと思ってた。アウトロに向かう部分かな。僕たち全員が色々な楽器を使ってコラボレーションしているっていうのがいちばんよく伝わるのがその部分だと思うし、それが僕たちの特色でもあるからね。

アンバー:私はとにかく、楽しんでほしいわね!(笑) アルバムを聴いたあとにいい気分になってくれたらとても嬉しいわ。


Aphex Twin Live Stream - ele-king

 本サイトの告知にあったように、日本時間で9月15日(日)の午前6時からライヴ配信がスタートしたリチャード・D・ジェイムズのDJ。少しだけ観るつもりが、レオ・アニバルディだ、バング・ザ・パーティだとじょじょに沸き立っているうちに、結局、最後の客出し部分までぶっ通しで観てしまった。どうせそんなやつらばかりなんでしょうけれど。次の日は近所の中華屋で……ま、いっか。

 2年前のフィールド・デイではスタッターなリズムでスタートし、全体に実験的な曲が多く(チーノ・アモービとかマーク・フェルとかクラウドはかなり辛そうで)、とてもフロア・フレンドリーといえるような内容ではなかったし(https://www.youtube.com/watch?v=nzvLiwUK3R8)、12年にはロンドンのバービカン・ホールでミュジーク・コンクレート風のアート・インスタレイションを着席スタイルでやったりしていたので(https://www.youtube.com/watch?v=jVvLf0vJJ9s←最後のジェスチャーが……)、彼らしさはあるとはいえ、RDJでもここまでバリバリにアカデミックなモードになるんだなと思っていたこともあり、あまりストレートな展開は期待していなかったのだけれど……あれ、なんか聴いたことあるな、なんだっけな、これ……と、結論からいうと、最初の1時間は89年か90年にリリースされた曲がほとんどで、これは、94年に初めて日本に来たときとかなり近いDJだと思い当たった。2回目、3回目とどんどんダメになっていったRDJのDJとは比較にならないほど初来日のDJは2日とも素晴らしいものだったので、そのときとメガドッグで来日した際のDJはいまだに特別な思いがあったのである。あのときの記憶がどんどん蘇ってきた。

 前半はビザーレ・インク(後のチッキン・リップス)やデプス・チャージの変名であるジ・アクタゴン・マンなど〈Vinyl Solution〉周辺の人脈が大量に投入され、これらとスネアの音や刻み方がまったく同じレニゲイド・サウンドウェイヴやフューチャー・サウンド・オブ・ロンドン、あるいはグレーター・ザン・ワンの変名であるジョン&ジュリー「Circles」に808ステイト「Cubik」のリフをカット・インしたり、ホーリー・ゴースト・インクやDJドクター・メガトリップ(サイキックTV)といった癖が強すぎる連中に「Sueño Latino」をパクったシャドウズ・Jと、イギリス愛に満ち満ちた選曲で(いま風の流行り言葉でいえば「Throwback British Techno」セット?)、テクノという呼称が定着する前のブリティッシュ・ブレイクビートとカテゴライズすればいいのか、それこそリチャード・D・ジェイムズが頭角を現したことで葬り去られてしまった人たちの曲がこれでもかと並べられた感じ。これにユーロ・テクノや〈Nu Groove〉、あるいは定番ともいえるアンダーグラウンド・レジスタンスも織り交ぜて、まさかのポップ・チャートからクオーツやD–シェイクまでシームレスにミックスされ(あるいは独自にドラムを足して)、これにノスタルジーを感じるなという方が無理であった。つーか、「Techno Trance (Paradise Is Now)」なんて普通かけないよな~。当時、エレキング界隈でD–シェイクなんかかけようものなら……いや。

 意外にも初来日のDJがまざまざと蘇ったのは前半のクライマックスで、ここからは最近の曲が続き、ユージ・コンドウ「Chambara」で少し焦らせるような時間をつくった後に、ジョージア(グルジア)からHVLによる昨年の「Sallow Myth」を始め、ズリ、スタニスラフ・トルカチェフ、カツノリ・サワと、最近の曲をベースとした流れに。なお、カツノリ・サワとユージ・コンドウはときにタッグを組んで活動する京都のプロデューサー。後半はRDJ自身の曲も多くなり、限定リリースが話題となった『London 03.06.17』から「T16.5 MADMA」だとか、user18081971名義でサウンドクラウドにアップした曲も。自分の曲がうまく使えるのは当たり前だろうけれど、『Selected Ambient Works Volume II』から「Stone In Focus」を(スクエアプッシャーの未発表だという曲に)被せるタイミングはやはり絶妙でした。11分に及ぶライヴ・セットは軽いドラミングからアシッド・ベースを加え、シカゴ・アシッドに憂いを含んだメロディを地味に展開させつつ、ブレイクを挟んでデトロイト・スタイルに調子を強めたり。初来日のときには「Quoth」を4回連続でかけて、それらがどれも違う曲に聴こえるという離れ業もやっていたので、そのような展開がなかったのはちょっと残念でしたが。

 後半はVJもかなり派手になり、ボリス・ジョンソンの変顔ではやはり歓声が高くなったり。そして、最後の30分はもう何をやっても受けまくり。ドラムン・ベースを基調に(95年の曲が3曲も)、かなり無茶な曲(これもスクエアプッシャーの未発表曲だそう)でもクラウドは食らいついている。チル・アウトはカレント・ヴァリュー「Dead Communication」ときて、約2時間のセットは終了。エンディングのめちゃくちゃがまたカッコよく、これも初来日のときよりはあっさりだったかも(やはり歳をとったか)。Reddit(アメリカの2ちゃん)にはRDJの隣でマニピュレイターを操作しているのは奥さんだという書き込みがあったけれど、そうなんだろうか? 確かに女性のようには見えたけれど。

 ところで音楽ファンではない人にRDJというイニシャルを書くと、「ロバート・ダウニーJrですか?」と言われてしまいます。皆さん、ご注意を。

 なお、見逃した人は〈Warp〉の公式サイトで観ることができます。
 https://warp.net/videos/1088517-aphex-twin-london-140919

ユーチューブのAphex Twinチャンネルにアップされた曲目リストは以下の通り。

https://www.youtube.com/watch?v=5yQRp4j2RQM

0:00:00-0:02:31 sounds, intro
0:02:32-0:07:10 RB Music Festival 2019 - London trk1 ("unreleased afx”)
0:06:23-0:10:01 Leo Anibaldi - Muta B2
0:07:23-0:12:29 [+ live drums by afx]
0:10:01-0:11:07 [+ vocals and melodies]
0:11:06-0:13:56 Quartz - Meltdown (remix?)
0:13:27-0:15:45 Equation- The Answer (Frankie Bones Long Division Mix)
0:14:28-0:16:55 Bang The Party - Rubba Dubb (Prelude)
0:16:16-0:19:11 Renegade Soundwave - The Phantom (It's In There)
0:17:34-0:20:26 [+ sounds, drum break]
0:19:58-0:23:53 The Octagon Man - Free-er Than Free
0:23:36-0:26:28 Shadows J Hip This House (The Leon Lee Special)
0:25:50-0:28:00 Exocet - Lethal Weapon
0:27:43-0:31:03 D-Shake - Techno Trance (Paradise Is Now)
0:30:32-0:32:53 John + Julie - Circles (Round And Round) Hyperactive Mix
0:31:55-0:32:58 [+ additional drums]
0:32:43-0:34:21 The Unknown - Put Your Fuckin Hands In The Air
0:34:08-0:37:39 Trigger - Stratosphere
0:37:20-0:40:41 The Future Sound of London - Pulse State
0:40:03-0:42:10 2 Kilos ? - The Dream
0:41:47-0:46:40 GESCOM- D1 (+manipulation)
0:45:28-0:47:48 Psychic TV - Joy
0:46:51-0:49-37 The Holy Ghost Inc - Mad Monks On Zinc
0:49:37-0:52:12 Underground Resistance - UR My People
0:52:02-0:56:09 Bizarre Inc. - Plutonic
0:55:14-0:58:44 Ye Gods - Becoming
0:57:19-0:59:46 Hound Scales - A Clique of Tough Women [Yuji Kondo Remix]
0:59:30-1:02:37 Yuji Kondo - Chambara
1:01:11-1:06:02 HVL - Sallow Myth
1:04:29-1:07:15 Martyn Hare - Is This Happening?
1:07:05-1:09:12 [+ live, 'aggressive'?]
1:08:34-1:12:18 user18081971 - Fork Rave
1:11:02-1:14:10 Aphex Twin - T16.5 MADMA with nastya+5.2 (+live elements
1:12:56-1:15:51 The Octagon Man - Vidd
1:15:23-1:18:41 ZULI - Trigger Finger
1:17:58-1:20:10 Stanislav Tolkachev - Disposable Killer
1:19:19-1:20:38 Katsunori Sawa - Pluralism
1:20:27-1:22:43 AFX - Umil 25-01 (live version?)
1:22:44-1:26:46 [RB Music Festival 2019 - London trk2 "mini live set" (pt1)]
1:26:47-1:28:50 [RB Music Festival 2019 - London trk3 "mini live set" (pt2)]
1:28:50-1:30:49 [RB Music Festival 2019 - London trk4 "mini live set" (pt3)]
1:30:50-1:33:47 [RB Music Festival 2019 - London trk5 "mini live set" (pt4) lush]
1:33:48-1:37:45 [AQXDM - 12 November (unreleased)]
1:37:14-1:41:04 Unknown Artist - Untitled (GBBL01 A1)
1:39:45-1:43:16 [Squarepusher - Unreleased]
1:41:27-1:45:18 Aphex Twin - Stone In Focus
1:44:25-1:48:39 DJ SS - Black
1:47:04-1:51:09 Torn - Dance On The Bones
1:50:07-1:54:19 The Higher - Stick 3
1:52:20-1:55:56 Fusion - Truth Over Falsehood
1:55:18-1:57:04 Chatta B - Bad Man Tune
1:56:45-1:59:33 Current Value - Dead Communication (feat DR & Lockjaw)
1:59:08-1:59:43 . . . - avearro
1:59:44-END [live modular noise]

*それぞれのタイムをクリックすると、曲別に聴くことができます。

interview with Joe Armon-Jones - ele-king

 サウス・ロンドンを主な拠点としたUKジャズ・シーンはますます注目を集めている。今年だけを見ても、フジロックでの演奏も記憶に新しいザ・コメット・イズ・カミングの『Trust In The Lifeforce Of The Deep Mystery』をはじめ、ココロコのEP「KOKOROKO」、ヌビヤン・ツイスト『Jungle Run』、そしてエズラ・コレクティヴのデビュー・アルバム『You Can't Steal My Joy』といった話題作が、次々とリリースされた。

 そのエズラ・コレクティヴのメンバーとしても知られるキーボーディスト、ジョー・アーモン・ジョーンズは、アフロビート、ダブ、ブロークンビーツなどの要素が混ぜ込まれた昨年のデビュー・アルバム『Starting Today』が高い評価を得て、シーンの中心人物となった。そんな彼が満を持して放つセカンド・ソロ・アルバムが、この『Turn To Clear View』だ。
 前作同様、〈Brownswood Recording〉からのリリースとなった本作は、サックスのヌビア・ガルシア、ドラムのモーゼス・ボイド、ココロコのベーシストのミュタレ・チャシといった、ヴォーカル以外の参加ミュージシャンも全く同じだが、“Yellow Dandelion”など、ヒップホップ色の強い曲が前作以上に多くなっている。また、驚くべきはその“Yellow Dandelion”へのジョージア・アン・マルドロウの参加だろう。これまで、サウス・ロンドンという地域と関連づけて語られることが多かったジョー・アーモン・ジョーンズが、LAのシーンに接近したのは意外だった。UKジャズ・シーンの深化と広がりが同時に見出せるこのアルバムについて、彼に話を聞いた。

僕が好きなサン・ラーの音楽が嫌いな人もいれば、僕が嫌いなサン・ラーの曲に感動する人もいる。サン・ラーの不思議なところは、各々が楽しめる曲があるということなんだ。そこから入って、徐々に、他のものへの理解を深めていき、その底にある意味を理解していく。

まず、“Yellow Dandelion”にジョージア・アン・マルドロウが参加した経緯を教えてください。

ジョー・アーモン・ジョーンズ(Joe Armon-Jones、以下JAJ):僕は長い間、彼女のファンだった。世界で最も好きなミュージシャンのひとりに入るくらいにね。だから、彼女がロンドンの Bleep Records という所で小さなインストア・ライヴをやったときに観にいって、『Starting Today』を彼女に渡し、何か一緒にできたら嬉しいと伝えたんだ。その1、2日後、ロサンゼルスから連絡をくれて、一緒に何かやりたいと言ってくれたから、彼女にトラックを送った。このトラックは元々、彼女を念頭に置いて作ってあったからね。彼女が参加できなかったら他の人に歌ってもらおうと考えていたけど、トラックを気に入ってくれたから一緒に作業できたんだ。

トラックのファイルを送った後はどのように曲を仕上げていったのですか?

JAJ:僕がセッションを先にやっていたから、曲は録音されていて、僕がミックスした最終版ができていた。だから曲はもうプロダクション過程にあったんだ。彼女には何も撮り直してもらう必要がなかったよ。最初彼女が送ってくれたのはハーモニーとリードラインだったけど、僕が頼んだ通りにやってくれて、必要なものは全て揃っていたから完璧だった。その後から仕上げるのに時間はかからなかったね。

ジョージア・アン・マルドロウの作品、そして、〈Brainfeeder〉をはじめとしたLAのビート・シーンの曲も、普段からよく聴いていますか? 彼女たちや彼らの魅力はなんでしょうか?

JAJ:あのシーンは最高だと思うよ。それに、あのシーンやコミュニティーに対しては強いリスペクトと憧れを感じている。ラス・Gが亡くなったのはとても悲しい出来事だったけれど、あのときにみんなが集まって、彼の家族をサポートして、ラス・Gへの愛情や尊敬の念を表している姿を見ると、どれだけシーンの結束が強く、コミュニティーを基盤としているか分かるよね。アメリカで、そういう繋がりを見ることができて嬉しい。どの国でも、なかなかあそこまでの結束は起きないと思う。友達同士で一緒に仕事をして、お互いを大切に思い合える関係は貴重だ。自分も、それと似たようなロンドンのコミュニティーに属していることを嬉しく思う。

エズラ・コレクティヴでは“Space Is the Place”を二度もカヴァーしていますし、あなたのアルバムのアートワークは2枚とも宇宙的で、スピリチュアルなデザインですね。以前、ele-king のインタヴューでチック・コリアからの影響を語っていただきましたが、サン・ラーについてはいかがですか? 

JAJ:サン・ラーが作ったものが全て好きというわけじゃないよ。サン・ラーのレコーディングで、僕が深く感動するものはいくつかあるけど、聴くに耐えられないものもある。でも、そこがサン・ラーの音楽の良いところだと僕はちゃんと認識している。友人の中には、僕が好きなサン・ラーの音楽が嫌いな人もいれば、僕が嫌いなサン・ラーの曲に感動する人もいる。サン・ラーの不思議なところは、各々が楽しめる曲があるということなんだ。そこから入って、徐々に、他のものへの理解を深めていき、その底にある意味を理解していく。それは旅路であって、後になってから、自分が好きなバンドやその他に与えたサン・ラーの影響に気づいていく。先ほど話していたラス・Gも、音楽だけでなくアーティスティックな部分でサン・ラーに影響を受けていたよね。エジブト神話の側面などは、例えば、アース・ウィンド・アンド・ファイアーも影響を受けていた。それは音楽的な影響だけではない。その背景にあるアートワークや世界観などにも影響しているんだ。

前作と合わせて見ると、アートワークはとてもコンセプチュアルに感じられますが、アルバムの曲作りに関しては、全体としてのコンセプトはありましたか?

JAJ:とても曖昧なコンセプトはあったけど、具体的なものはないよ。アルバムが録音されて、曲順が決まってから、アートワークがどのようなものになるかというのが見えてくるからね。

アルバムの最後の曲はアフロビートだけど、そこからヒップホップな感じになる。曲が行きたい方向に自由に向かわせるのさ。例えば、最初から、これはファンクの曲だ、と考えて作曲すると、曲が行きたい方向に行けなくなってしまうかもしれないだろ?

このアルバムの制作期間中、よく聴いていたアーティストや曲があれば教えてください。

JAJ:ジャズやヒップホップシーンの新しい音楽はチェックしている。あとは、キング・タビー、サイエンティスト、ザ・レヴォリューショナリーズやハービー・ハンコックとか、比較的昔のレゲエやファンクをレコードで聴いたり。それと、ブラジルのミルトン・ナシメントも最近よく聴いてるよ。

以前までは、ブロークンビーツとのつながりを指摘するメディアが多かったですが、今作はブロークンビーツの色が前作よりも薄く、ファンクやヒップホップの要素が強いと感じました。また、これまで以上に、全体的にチルアウトな雰囲気もありますよね。それは意識して曲を作りましたか?

JAJ:いまではそう思うけど、作曲しているときは、ひとつのフィーリングに制限されないようにしている。アルバムの最後の曲はアフロビートだけど、そこからヒップホップな感じになる。曲が行きたい方向に自由に向かわせるのさ。例えば、最初から、これはファンクの曲だ、と考えて作曲すると、曲が行きたい方向に行けなくなってしまうかもしれないだろ? だから、そういうジャンルについての言葉は意識しないようにしている。

前作同様、このアルバムでもモーゼス・ボイドとクエイク・ベースのふたりがドラムを担当していますが、シングルになった“Icy Roads (Stacked)”をはじめとして、前作以上にクエイクの存在感が増しているように思います。ですが、日本では、まだ十分に紹介されているとは言い難いです。彼はどんな人物ですか? 

JAJ:日本はまだクエイクに目覚めていないな(笑)。彼は僕がいままで会ったミュージシャンの中で最もすごい人のひとりだ。クエイクのようにドラムを演奏できる奴はいないし、見たことがない。“Icy Roads (Stacked)”ではいくつものドラムのレイヤーが聴こえると思うんだけど、分かるかな? ドラムにエフェクトがかかっていたり、サンプルされたドラムの音も入っている。それは全てクエイクが生でやっているんだ。だから録音セッションのとき、部屋からはドラムしか聴こえないけれど、ブースに入って何が録音されているのかを聴くと、全く違ったものが聴こえてくる。言葉で説明するのは難しいから見てもらうのが一番だけど、カオスパッドやトリガーなどの機材が配置されていて、それが彼独自の音を生んでいる。彼もソロ・プロジェクトをやっていて、サンプルやトリガーやドラムを使った作品を出している。クレイジーだよ。クエイクの音楽は素晴らしいから、日本のみんなにもチェックしてもらいたいな。

ジャイルスはほとんどの場合、自分の好みでない音楽はかけないんだ。好きならかける。嫌いならかけない。すごく単純に聞こえるけれど、忘れがちなことだよ。全てのミュージシャンがそうであるべきだと思う。

そのモーゼス・ボイドとクエイク・ベースはちょうどアルバムの半分ずつドラムを担当していますが、リズム隊が変わると、意識的に変化はありますか?

JAJ:録音には2日間しか使わなかった。スタジオでの作業は2日間だったから。1日目はドラムにクエイク、ベースにミュタレ・チャシで、2日目はドラムにモーゼス・ボイド、ベースにデヴィッド・ムラクポルだった。僕の意識も少しは違ったけど、それはドラマーとベーシストが違うからというだけだよ。そうなるとサウンドも変わってくるからね。だから意識が変わるというよりも、サウンドが変わるという方が正しいと思う。それ以外の参加者はみんな一緒だったし、ラインアップが変わってから2回目の録音をしたときもあったから、同じ曲を演奏したときもあった。

アルバムの最後の曲、“Self Love”には、ナイジェリア出身のオーボンジェイアーが参加しています。彼はどんなシンガーですか?

JAJ:彼はエモーショナルなシンガーだよ。全てのシンガーがそうあるべきなように、彼は感情を音楽に注いでいる。多少陳腐な言い方だけど、彼は音楽の世界に入って没頭することができる。それは実際には難しいことなんだ。自分の意識が妨げになってしまうことが多い。でも、彼はそれができるからすごい。それに、他の人とは違う、彼独自のサウンドも持っているしね。それが素晴らしいところだよね。

“Self Love”の前半は、前作の曲以上にアフロビート感が強い印象ですが、これはオーボンジェイアーの存在が大きいのでしょうか?

JAJ:僕とオーボンジェイアーがこの曲を一緒に作っていたら、そう答えられるけど、この曲とビートは僕が作って、オーボンジェイアーに参加してもらう前に録音もしていたんだ。他の曲が録音されたのと同じ日にこの曲も録音された。また、この曲はアフロビートでもあるけど、4分の3拍子だからアフロビートの変わった演奏方法なんだ。そして曲の中盤以降からはヒップホップのようになる。そういうスタイルなんだ。モーゼスが4分の3拍子のアフロビートを演奏できるか試させたかった。曲が録音された後、僕は曲を聴き返していて、ちょうどその頃にオーボンジェイアーと他のプロジェクトで一緒に作業していたから、彼にヴォーカルを加えてもらおうと考えた。彼も曲を気に入ってくれたから、そこからはふたりで作業した。

4月にリリースされたエズラ・コレクティヴのアルバムではロイル・カーナーが、このアルバムの“The Leo & Aquarius”ではジェストがラップを披露しています。今年はラッパーとのコラボレーションも目立っている印象ですが、彼らとの作業はいかがでしたか?

JAJ:最高だったよ。ジェストもロイル・カーナーもいい奴だから大好きだし、付き合いも長いんだ。だから一緒に音楽を作るのは自然な流れだった。特にジェストとは、何年も前から知っているし、彼と僕は偶然出会うきっかけが何度もあって、今回のアルバムの参加者と同様、僕が知っているミュージシャンとも様々な形で繋がっている。そこで僕は彼にトラックを送ったら、すぐにラップを入れて返してくれたよ。ジェストはイギリスでナンバーワンのラッパーだと思うから、彼が曲に参加してくれたのは、僕にとってものすごく光栄なことだった。

ジェストの〈YNR Productions〉のようなUKのヒップホップは以前から聴いていましたか?

JAJ:ああ、UKヒップホップ全般を以前から聴いていたよ。UKヒップホップからは数々のインスピレーションを受けてきた。特に若い頃はね。スキニー・マン、ルーツ・マヌーヴァ、ロドニー・Pなど、UKヒップホップにはレジェンドがたくさんいるからね。

以前からダブへの影響を公言していますが、普段の曲作りの際に、クラブでの鳴りを意識していますか? 

JAJ:もちろんだよ。特にミキシングの過程ではね。作曲のときも意識するけど、このミックスがクラブやサウンドシステムでどう響くかっていうのを考えて試してから、最終版のミキシングをしている。

「Starting Today in Dub」のように、このアルバムの曲のダブ・ヴァージョンを作る予定はありますか? 

JAJ:もしかしたら作るかもしれないけど、あれは自然にできたものだったからね。曲をいじって遊んでいたら、あの作品ができた。同じことをやろうとは思わないけど、アルバムの曲の別ヴァージョンは作るかもしれない。ダブ・ヴァージョンとは呼ばないかもしれないけれど、誰かにラップを載せてもらってヴォーカル・ヴァージョンと呼ぶとかね。まあこれから様子を見ていくよ。

昨年はマカヤ・マクレイヴンの『Where We Come From (Chicago X London Mixtape)』にも参加しましたね。マカヤとの共演はいかがでしたか?

JAJ:とても素敵な体験だったな。彼と初めて会ったのが、あのギグで彼がロンドンに来たときだった。大勢の前で演奏して即興をしなければいけなかったから、違和感のあるギグになる可能性もあったのに、彼はとても良い姿勢で臨んでいて、雰囲気も素晴らしいものとなった。それ以来、彼とはツアー中にしょっちゅう出くわすんだ(笑)。

あなたはサウス・ロンドンという地域で括られることが多いかと思いますが、UK以外の、LAやシカゴといったアメリカのミュージシャンとの交流も、以前より深まっているのでしょうか? 

JAJ:それは間違いないね。シーンがロンドンという地域を超えて大きくなるにつれ、より多くの人が交流して共演していくのは自然なことだと思う。それと、外国に行きやすくなったから、他の国へ演奏しに行くアーティストも増えている。多くの人が海外へ出て、交流を深めて、ネットワークを作っている。

そういった他の地域のミュージシャンとは、お互いにどのような影響を与え合っていると考えていますか?

JAJ:インスピレーションや労働倫理だね。高い職業倫理を持つ人たちからはインスピレーションを受ける。

今作も〈Brownswood Recording〉からのリリースですが、あなたにとって、レーベル主宰のジャイルス・ピーターソンはどのような存在ですか?

JAJ:ジャイルスのことはとても尊敬しているよ。彼は音楽の領域を、良い意味で広めているからね。彼にはDJの必須要素が備わっている。それは、「気に入らない音楽はかけない」ということだ。DJの中には、人気の曲だからとか、キッズが好きだからという理由で、自分が好きでもない曲を無理にかけている人がいる。でも、ジャイルスはほとんどの場合、自分の好みでない音楽はかけないんだ。好きならかける。嫌いならかけない。すごく単純に聞こえるけれど、忘れがちなことだよ。全てのミュージシャンがそうであるべきだと思う。

最後に、今後の予定を教えてください。

JAJ:『Turn To Clear View』を9月20日に出してからツアーをやる。その後は……また音楽を作っていると思うよ(笑)。

Headie One - ele-king

 北ロンドン出身のラッパー、Headie One の7枚目のミックステープ『Music x Road』が8月にリリースされた。5年間の活動の中で7枚のミックステープという多作ぶりもさることながら、『Psychodrama』で才能を開花させた Dave との共作“18 HUNNA”の大ヒットによって勢いを得た Headie One は、このミックステープでストリートのラップであることを全く譲らずに、トピック・音楽性の幅を広げている。

Headie One - 18HUNNA (ft. Dave)

Rusty のために1,800*
手にとってラグビーみたいにキックする
T-House にいたら塵まみれに戻る
ヌードで目を覚ます
バンドで4と半分、利益はいい感じ

18 hunna for the new rusty
Man grab it and kick it like rugby
I was in the T house, head back dusty
Still waking up to nudes in country
Four and a half in the bando Profit oh so lovely

* Rusty - 旧式ショットガン

“19 HUNNA (ft. Dave)”

 Headie One はこの1~2年でUK国内で大きなうねりとなっているジャンル、「UKドリル」のスターとして注目を集める存在だ。「UKドリル」については、Reeko Squeeze の『Child's Play 2』のアルバムレヴューで三田格さんが書かれている通り、アメリカのドリル・ミュージックがUKに派生して進化を遂げたジャンルである。UKサウンドの核のひとつである「シャッフルされたビート」がアメリカのドリル・ミュージックと融合し、縦ノリのラップ・ミュージックとしてさまざまな形に進化を遂げてきた。Headie One と RV の2018年のヒット・チューン“Know Better”は、全体のダークな雰囲気とそれを支える伸びるベースライン、表拍で打つハイハットやパーカッションを特徴とする。“Know Better”では、ワイリーが発明したクリック音も顔を覗かせる。

Headie One X RV - Know Better

 “18 HUNNA”や“Know Better”のように、UKドリルはリズム・パターンや音楽性が一貫していて、悪く言えばあまり「特徴のない」サウンドといえる。それはトラックが舞台装置の役割をしていて、ラッパーはその上でドラマを展開するためだ。また歌詞はリアルであることを追求し、“18 HUNNA”のようにフックが複雑で長い曲がヒットすることも多い。

 本作でも前作から一貫したラップに加えて、より音楽的なヴァリエーションを広げている。タイトル・トラックの 1. “Music × Road”でソウルフルなビートに合わせて内省的なテンションのラップを披露したかと思えば、Spotify では700万回以上再生されている 2. “Both”では、Ultra Nate の“Free”をサンプリングしたビートに合わせて、本アルバムのテーマである音楽とトラップ、ショーとドラッグ、ジュウェルとウィード、様々な欲望を対比させながら、Headie One は「両方」を手にいれるとラップしている。サンプリングの Ultra Nate の“Free”の原曲には、ソウルフルな歌にのせて「あなたはなんでもやりたいことができる、自由なのだから。あなたの人生を手に入れて、やりたいことをやりなさい」というメッセージがある。Headie One はそれを「ドリラー」として再解釈しているともいえる。

 4. “Rubbery Bandz”や 7. “All Day”、8. “Kettle Water”などは彼が呼ぶところの「T-House」(トラップハウス)でのビジネスを中心にした曲だが、“Interlude”を挟んで後半の 10. “Home”、12. “Chanel”では女性に対する真摯な姿を披露する。彼が他の多くのドリル・ラッパーと違って、いい意味で稀有な部分はここだ。女性をある種「利用」して自身の強さや横柄さを披露するのではなく、Headie One が女性を大切にしているところが伝わってくる。Stefflon Don と NAV を客演に迎えた 11. “Swerve”ではトラップ・ライフに対するネガティヴさも含めて彼なりの意見を表現している。『Music × Road』その両方を描写するコンセプトにふさわしく、彼の「強さ」や「賢さ」だけでなく、彼の苦悩や優しさも音楽の中で表現されている。一方で他のグループやエリアの脅し文句といった類は少なく、彼自身の成長を感じる。『Music × Road』は彼のトラップ・ライフの成功とその裏側にある苦悩や人間としての優しさが表現された1作であり、UKドリルという音楽の歴史を前に進めた作品だ。

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