ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Kendrick Lamar - GNX | ケンドリック・ラマー
  2. Columns ♯10:いや、だからそもそも「インディ・ロック」というものは
  3. Columns 夢で逢えたら:デイヴィッド・リンチへの思い  | David Lynch
  4. guide to DUB ──河村祐介(監修)『DUB入門』、京都遠征
  5. eat-girls - Area Silenzio | イート・ガールズ
  6. FKA twigs - Eusexua | FKAツゥイッグス
  7. Waajeed ──デトロイトのワジード、再来日が決定! 名古屋・東京・京都をツアー
  8. Panda Bear ──パンダ・ベア、5年ぶりのニュー・アルバムが登場
  9. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第1回 悪夢のような世界で夢を見つづけること、あるいはデイヴィッド・リンチの思い出
  10. パソコン音楽クラブ - Love Flutter
  11. Teebs ──ティーブスの12年ぶり来日公演はオーディオ・ヴィジュアル・ライヴにフォーカスした内容に
  12. Shun Ikegai ──yahyelのヴォーカリスト、池貝峻がソロ・アルバムをリリース、記念ライヴも
  13. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  14. Lambrini Girls - Who Let the Dogs Out | ランブリーニ・ガールズ
  15. Brian Eno & Peter Chilvers ──アプリ「Bloom」がスタジオ作品『Bloom: Living World』として生まれ変わる | ブライアン・イーノ、ピーター・チルヴァース
  16. ele-king presents HIP HOP 2024-25
  17. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  18. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  19. Lifted - Trellis | リフテッド
  20. goat ──日野浩志郎率いるエクスペリメンタル・バンド、結成10周年を記念し初の国内ツアー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Headie One- Music x Road

Headie One

UK DrillUK Rap

Headie One

Music x Road

Relentless

Spotify Amazon iTunes

米澤慎太朗   Sep 19,2019 UP

 北ロンドン出身のラッパー、Headie One の7枚目のミックステープ『Music x Road』が8月にリリースされた。5年間の活動の中で7枚のミックステープという多作ぶりもさることながら、『Psychodrama』で才能を開花させた Dave との共作“18 HUNNA”の大ヒットによって勢いを得た Headie One は、このミックステープでストリートのラップであることを全く譲らずに、トピック・音楽性の幅を広げている。

Headie One - 18HUNNA (ft. Dave)

Rusty のために1,800*
手にとってラグビーみたいにキックする
T-House にいたら塵まみれに戻る
ヌードで目を覚ます
バンドで4と半分、利益はいい感じ

18 hunna for the new rusty
Man grab it and kick it like rugby
I was in the T house, head back dusty
Still waking up to nudes in country
Four and a half in the bando Profit oh so lovely

* Rusty - 旧式ショットガン

“19 HUNNA (ft. Dave)”

 Headie One はこの1~2年でUK国内で大きなうねりとなっているジャンル、「UKドリル」のスターとして注目を集める存在だ。「UKドリル」については、Reeko Squeeze の『Child's Play 2』のアルバムレヴューで三田格さんが書かれている通り、アメリカのドリル・ミュージックがUKに派生して進化を遂げたジャンルである。UKサウンドの核のひとつである「シャッフルされたビート」がアメリカのドリル・ミュージックと融合し、縦ノリのラップ・ミュージックとしてさまざまな形に進化を遂げてきた。Headie One と RV の2018年のヒット・チューン“Know Better”は、全体のダークな雰囲気とそれを支える伸びるベースライン、表拍で打つハイハットやパーカッションを特徴とする。“Know Better”では、ワイリーが発明したクリック音も顔を覗かせる。

Headie One X RV - Know Better

 “18 HUNNA”や“Know Better”のように、UKドリルはリズム・パターンや音楽性が一貫していて、悪く言えばあまり「特徴のない」サウンドといえる。それはトラックが舞台装置の役割をしていて、ラッパーはその上でドラマを展開するためだ。また歌詞はリアルであることを追求し、“18 HUNNA”のようにフックが複雑で長い曲がヒットすることも多い。

 本作でも前作から一貫したラップに加えて、より音楽的なヴァリエーションを広げている。タイトル・トラックの 1. “Music × Road”でソウルフルなビートに合わせて内省的なテンションのラップを披露したかと思えば、Spotify では700万回以上再生されている 2. “Both”では、Ultra Nate の“Free”をサンプリングしたビートに合わせて、本アルバムのテーマである音楽とトラップ、ショーとドラッグ、ジュウェルとウィード、様々な欲望を対比させながら、Headie One は「両方」を手にいれるとラップしている。サンプリングの Ultra Nate の“Free”の原曲には、ソウルフルな歌にのせて「あなたはなんでもやりたいことができる、自由なのだから。あなたの人生を手に入れて、やりたいことをやりなさい」というメッセージがある。Headie One はそれを「ドリラー」として再解釈しているともいえる。

 4. “Rubbery Bandz”や 7. “All Day”、8. “Kettle Water”などは彼が呼ぶところの「T-House」(トラップハウス)でのビジネスを中心にした曲だが、“Interlude”を挟んで後半の 10. “Home”、12. “Chanel”では女性に対する真摯な姿を披露する。彼が他の多くのドリル・ラッパーと違って、いい意味で稀有な部分はここだ。女性をある種「利用」して自身の強さや横柄さを披露するのではなく、Headie One が女性を大切にしているところが伝わってくる。Stefflon Don と NAV を客演に迎えた 11. “Swerve”ではトラップ・ライフに対するネガティヴさも含めて彼なりの意見を表現している。『Music × Road』その両方を描写するコンセプトにふさわしく、彼の「強さ」や「賢さ」だけでなく、彼の苦悩や優しさも音楽の中で表現されている。一方で他のグループやエリアの脅し文句といった類は少なく、彼自身の成長を感じる。『Music × Road』は彼のトラップ・ライフの成功とその裏側にある苦悩や人間としての優しさが表現された1作であり、UKドリルという音楽の歴史を前に進めた作品だ。

米澤慎太朗