「Low」と一致するもの

shotahirama - ele-king

 この2月、スプリット・シリーズを再始動させ話題を集めたグリッチ・ノイズの雄 shotahirama が新たな動きをみせています。なんと来る11月2日、来年リリース予定のアルバムからの先行シングルとなる「Cut」をリリース。同曲をぎゅぎゅっと3分に縮めたティーザーが公開されています。映像のディレクションを担当したのは、『Maybe Baby』でもMVを手がけていた若手映像作家 shiki sawamura。この不思議な映像を観ながら細部の怪しげな音たちに耳を傾けていると、どんどんフルサイズが待ち遠しくなってきます。アルバムも楽しみですね。

shotahirama / Cut

ポストパンクやダブなど、ノイズ・グリッチを類稀なコラージュセンスで様々な音楽へと昇華してきた電子音楽家 shotahirama が来年発売の新作アルバムより先行シングル「Cut」をリリース! 最新作ではピアノをサンプリングした奇妙で中毒性の高いフレーズを中心に、代名詞でもある過激なノイズとビートとがハイテンションに混ぜ合わさる新感覚のグリッチ・ミュージックが披露されている。

中原昌也、evala、空間現代など様々な著名アーティストがコメントを寄せ、日本のノイズ・グリッチ・ミュージック・シーンにてその存在を確固たるものにしたニューヨーク出身の電子音楽家 shotahirama。そんな彼が2019年に発売する新作アルバムより先行シングル「Cut」を発表。ピアノやラップがサンプリングされた奇妙奇天烈で中毒性の高い世界観の中を、過激なグリッチとビートが躍動するトラックは彼の次なるステージへのイントロダクションに過ぎない。

発売日:2018年11月2日
品番:SIGNAL014
アーティスト:shotahirama
タイトル:Cut
定価:450円
フォーマット:デジタル
レーベル:SIGNAL DADA

トラックリスト:
Cut - original by shotahirama(9:02)
Cut - remix by nobanashi (7:48)

iTunes

プロフィール:
ニューヨーク出身の音楽家、shotahirama(平間翔太)。中原昌也、evala といった音楽家がコメントを寄せる。畠中実(ICC主任学芸員)による記事「デジタルのダダイスト、パンク以後の電子音楽」をはじめ、VICEマガジンや音楽ライターの三田格などによって多くのメディアで紹介される。Oval、Kangding Ray、Mark Fell 等のジャパンツアーに出演。代表作にCDアルバム『post punk』や4枚組CDボックス『Surf』などがある。

Gazelle Twin - ele-king

 まだ2館上映だった頃に上田慎一郎監督『カメラを止めるな!』を観に行った。どんな映画か観た人が誰も内容を教えないことがヒットの要因のように言われているけれど、たしかに僕もそれにひっかかった。余計な情報が耳に入る前だったので、意外性のある展開も純粋に楽しめたし、盗作疑惑が持ち上がってからは話題にしづらくなったとはいえ、業界に対する怒りが作品の端々から滲み出ていたことで、作品の強度は今後もそれなりに保たれるのではないかと思う。情報が過多になってしまう前に観た方がいい作品もあるということだろう。
 『カメラを止めるな!』はいわばブラック・コメディである。怒りと笑いが不可分に混ざり合い、屈折したメッセージが知性よりもまずは感情に突き刺さってくる。最近の音楽でいえばガゼル・ツインがまさにそれで、そして、3作目になっても彼女の毒は薄まらなかった。相変わらず、自らの肉体を嫌悪しているのか、全身をアディダスのスーツで覆ったエリザベス・バーンホルツ・ウォーリングは森の中でフルートを吹きながら歌い踊る姿をこれでもかと見せつける。

 ♩あなたの木馬に乗る〜というのは性的なニュアンスなのだろうか。ガーディアン紙のレヴューなどを読むと『Pastoral(田園風景)』にはブレグシットや貧困、あるいは移民恐怖(“Better In My Day”)を風刺した歌詞が多いということなので、木馬に乗って「出て行きたいけど、出ていけない」というような自問も社会の風潮を踏まえた表現なのかもしれない。よくわからないので、そのような言葉のニュアンスまでは笑い損ねてしまう。残念。
 しかし、何度か聴いていると、変形させた声でオペラじみた歌い方をするだけで笑いがこみ上げ、強迫的なエレクトリック・パーカッションの反復もマンガじみた説得力に近いものを感じてしまう。ハープシコードが軽快に鳴るだけでOPNをプロデューサーに迎えたスージー&バンシーズのようにも聞こえ、いわゆるゴシック風のアレンジもすべてが悪ふざけにしか思えない。こうした表現の出発点はバーンホルツがフィーヴァー・レイのライヴを観たことがきっかけだったそうで、オーヴァー・アクションであることはいわば基本的な演出意図なのである。♩自分のいいところだけを見ていたいのね〜と歌い上げる“Glory”、よろよろとした歩みを描写した“Mongrel(駄犬)”、淀んだドローンで構成された“Jerusalem”……等々。珍しく透き通った声でヴォーカリゼイションを試みる“Sunny Stories”はやや異質。

 イギリス人はあまりにも自然にブラック・コメディをつくってしまう。今年、ロシア政府が上映を中止するように要請したアーマンド・イアヌッチ監督『スターリンの葬送狂騒曲』ももしかしたら笑わせようという意図はなかったのかもしれないし、実際にスターリンが急死したことでその周囲で起きたことを忠実に映画化しただけなのに、フルシチョフたちのやることなすことがいつしか笑いを誘発し、ソ連という国家の統治システムがどれだけ杜撰なものだったかということが浮かび上がってくる。このセンスはなかなか日本では得がたいものがある。『カメラを止めるな!』で満足していてはいけませんな。


Yves Tumor - ele-king

野田:取材を申し込んだんだけど、レーベルからインタヴューはやらないって言われてしまって。仕方がないから、日本盤のライナーを書いている木津君と話すことにしたよ。

木津:今回はまったく取材受けつけていないらしいですね。にもかかわらず、〈Warp〉からのデビュー作となった『セーフ・イン・ザ・ハンズ・オブ・ラヴ』はものすごく評価されています。ピッチフォークで現時点の今年最高得点がついているほか、タイニー・ミックス・テープスからガーディアンまで、多くのメディアが絶賛状態。期待が集まっていたとはいえ、ここまでになるとは思っていませんでした。
 念のためイヴ・トゥモアについてあらためて解説を入れておくと、テネシー州出身、マイアミやLAへと移り、現在はイタリア拠点のマルチ奏者ショーン・ボウイのプロジェクトのひとつ。2015年セルフ・リリースのミックステープで一部話題となり、2016年〈PAN〉からリリースされた『サーペント・ミュージック』が評価されます。ele-king vol.20の「ブラック・エレクトロニカ」の項で三田さんがチーノ・アモービ、ボンザイ、ロティック、クラインらとともに紹介していますね。IDM Definitiveの2016年大枠だったり。ショーン・ボウイはいろいろな名義で知られていて、なかでもティームズはそこそこ有名。2012年の『Dxys Xff』は橋元さんがレヴューしていることからもわかるように、チルウェイヴ寄りのサウンドでした。他にもいろいろな名義でいろいろなことをやっていますが、メインのイヴ・トゥモアとしてもミッキー・ブランコ主宰のコンピや〈PAN〉のアンビエントのコンピへの参加、坂本龍一のリミックスに参加など、多岐に渡る活動をしています。
 『セーフ・イン・ザ・ハンズ・オブ・ラヴ』は、海外のレヴューを見るとポップとアヴァンギャルドの境界が完全に融解しているという点で評価されています。アヴァン・ポップの最新形というか、いろいろなジャンルを取りこんでいながら、その発想の自由さに際限がない。実際、新作ではさらに折衷性や展開の意外性を上げながら、ポップに近づくということをやってのけている。

野田:イヴ・トゥモアは際立ってはいるけれど、突然変異というわけではなく、これぞ“当世風”というか、いまの潮流のとして捉えることができるよね。今年出たロティックもそうだし、ガイカもそうだし、クラインもそうだし、エレクトロニック・ミュージック時代における実験とグラム的展開というか。敢えて言えばイヴ・トゥモアはロックですよ。インダストリアル・エレクトロっていうか、今回のアルバムで最初にシングル曲として配信された“Noid”なんかイントロはソフト・セルに近いし、歌はデヴィッド・ボウイ。〈PAN〉から出た前作をあらためて聴いても、ロティックほど破壊的なことをやっているわけじゃなく、“The Feeling When You Walk Away”みたいな歌モノが彼らしさであって、これはオウテカではなく、ジェイムス・ブレイクの側に近い音楽だと思うんだよね。あと、ジャム・シティの影響をすごく感じるんだけど。2015年の『Dream Garden』。

木津:とくに今回のアルバム『セーフ・イン・ザ・ハンズ・オブ・ラヴ』はそうですよね。生ドラムがブレイクビーツを叩いていたりしてバンド感が強く、明確にポップ・ソングを志向したんだと思います。彼、ショーン・ボウイはスロッビング・グリッスルに衝撃を受けて音楽をはじめたらしいのですが、それ以前は世代的な意味でも地理的な意味でもアメリカのオルタナティヴ・ロックを聴いていたらしいんですね。それこそクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジだとか。〈PAN〉からの『サーペント・ミュージック』ではもう少しソウルとか、ブラック・ミュージックの要素が強かったでしょう。それが今回ロックに接近しているのは、もっと体験として遡る必要があったというか……いまジャム・シティと聞いてなるほどと思いましたが、ぼくはやっぱりアルカ以降をすごく感じます。アルカはヴォーカル・トラックでなくてもエモーショナルでしたが、『アルカ』で歌を志向したときにヴェネズエラのフォークに向かった。それと似たようなことが今回のアルバムでは起こっているのかなと。ただ、ロック・サウンド的なものが彼の本質に近いのかはまだわからない感じもあって。別名義のミックステープなんかも含めると、膨大なリリースがあって、音楽性としてはけっこうバラバラですよね。ぼくはイヴ・トゥモアは『サーペント・ミュージック』で知りましたが、ティームズと同一人物だとまったく思わなかった。

野田:8ビートが多いんだよね。あとロック的な雑食性であったり、自己表現というか、やっぱこう、『サーペント・ミュージック』のジャケットのように、自分をさらしているよね。そこはフェイスレスを志向するテクノやIDMとは決定的に違っているわけで。“Honesty”という曲なんかはスタイルで言えばR&Bだし、引き出しはたくさんあるひとだと思うんだよね。決してコア・ファン向けという音楽ではないし、コンセプトは『アルカ』を彷彿させるけど、サウンド的にはもっと聴きやすいじゃない?

木津:そうですね。その、引き出しの多さ=多ジャンルにアクセスできる雑食性のなかで、共通しているのはエモーショナルであることだと思うんです。激情的だと感じる瞬間すらある。で、それがある種の聴きやすさにも繋がっている。まさにジャム・シティ流のインダストリアルR&B“Economy of Freedom”にしても、ブレイクビーツ・ノイズの“Licking An Orchid”にしても、ノイジーなファンク風ヒップホップ“All The Love We Have Now”にしても、とてもエモーショナル。「わたしたちがいま持っている愛のすべて」ですからね(笑)。そういう意味ではティームズもチルウェイヴのチルを食い破る激しさがあったし、昨年出たアンビエント寄りのミックステープ『Experiencing the Deposit of Faith』もアンビエントを破壊しかねない展開があった。それが彼らしさで、それが素直に出た結果が今回の歌ものという感じがします。ところで野田さんが言っているグラムっていうのは、サウンドのことですか? あるいは装飾性のことなのでしょうか。

野田:まず見た目がグラムじゃない。ナルシスティックで、アンドロジニアスな出で立ちでしょ。ロティックもガイカもクラインもそうじゃん。アルカもね。で、そういうアーティストが増えてきたよね。

木津:いまで言うクィアですね。クィアというのも定義が難しいですが、ここではざっくりとジェンダー規範を逸することだとしておきましょうか。他にもソフィー、サーペントウィズフィートと挙げればキリがないくらいですが、じつはIDMってクィア性とこれまであまり結びついてこなかったと思うんです。それがいま増えているのは、ジェンダー・ポリティクスが先鋭化している時流にあって、クィアがエクスペリメンタリズムと関わるようになったというのがぼくの見解です。サーペントウィズフィートが言ってましたが、拡張性ですよね。イヴ・トゥモアはミッキー・ブランコらのクィア・ラップ・シーンから頭角を現したということもあって、ヴィジュアルの打ち出し方なんかにはっきりと表れていますよね。前作のアートワークもそうだし、新作からの“Licking An Orchid”のヴィデオなんかも完全にそう。野田さんはIDMのクィア化についてどう捉えていますか?

野田:ポジティヴに捉えているよ。80年代ならルー・リードが“ワイドルサイドを歩け”で歌ったように、都会に出なければ居場所がなかったろうけど、いまはベッドルームで自己表現できる、たったひとりでもね。ダンスフロア向けである必要もないし、IDM的な方向に行くのは理解できる。あと、ビョークの影響の大きさを感じるね。エモいところなんかとくに。当たり前の話だけど、クィアであるから良い音楽を作れるわけじゃないし、ぼくが現代のグラムっぽい流れでイメージしているのは、クラインやアースイーター、あるいは『ブラッド・ビッチ』を出したノルウェーのジェニー・ハヴァルのような人たちも含めてなんだよ。グラムってそもそも男の子の文化だけど、それがアントニー以降は、ジェンダーを越えて新たに拡張していると言えるのかもね。とはいえ、クィアかどうかというよりも、まずはより普遍的な感情表現としてのエレクトロニック・ミュージック。そしてイヴ・トゥモア。トゥモア=腫瘍。すごい名前だ(笑)。OPNのようにコンセプトで聴かせるタイプじゃないと思うし、IDM系のようにひたすら音を追求するタイプでもないし、チルウェイヴ~ヒプノゴナジック的流れにある現実逃避ポップでもないという、しかしじつはそういう要素もすべて兼ね備えてもいるでしょ。アルバムのなかの1曲に〈NON〉っぽい曲があるじゃない? ”Hope In Suffering (Escaping Oblivion & Overcoming Powerlessness)“という曲だけど、すごいタイトルだよね。「苦しみにおける希望(忘却を逃れてと無力を克服する)」ですよ。今作にもチルウェイヴ~ヒプノゴナジック的なテクスチャーは残っているんだけど、そうした逃避主義をちらつかせながら否定するという。『サーペント・ミュージック』もそうだけど、ドラマティックな展開がこのひとの持ち味で、そこもグラムっぽいんだけど、しかしこれはもう内面のドラマだよね? その内面のドラマの切実さがこのアルバムの魅力なんじゃないでしょうか?

木津:ええ、だから、ノイジーで実験的ですが、それ以上に生々しくてセクシーな音楽ですよね。それも現代的な意味で。『サーペント・ミュージック』=「蛇音楽」と自ら言い当てていますが、雑食的にウネウネと姿を変えるなかで、内面を解放しようという……。このアルバムからぼくは、あらかじめ決められた枠組に対する抵抗をすごく感じます。「こういう感情を表現するにはこのジャンル、このサウンド」といったステレオタイプに対する拒絶。それは奇を衒っているのではなくて、できるだけ感情を純粋な状態でさらけ出そうとしているからこそなんでしょうね。

野田:ぼくはあんまノイジーで実験的な印象はなかったな。シングル曲“Licking An Orchid”なんかメロディがキャッチーだし。個人的にはその“Licking An Orchid”とさっき言った“Noid”が良かった。木津君は?

木津:いや“Hope In Suffering”の後半なんて、90年代のノイズ・ロック みたいじゃないですか。でもポップ・サイドがこのアルバムの魅力であることはたしかで、叙情的な“Lifetime”がぼくはフェイヴァリットです。

野田:“Lifetime”もいいね。そういえば、木津君から薦められて『IT』と『ストレンジャー・シングス』を観たけど、ああいうマッチョになれない疎外された子どもたち、父親に抑圧された女の子、そして80年代的なにおいみたいなものはいま人気があるよね。『IT』ではキュアもかかるしさ。ああいった映画に表現されている時代のゴシックな風ともリンクしているようにも思うんだけど、どうだろう?

木津:ゴスかー、それは言われるまで気づかなかったですが、たしかにアートワークなんかはそうですね。おどろおどろしい感じや不安な感じをスタイリッシュに表現している。

野田:ゴスっぽさって、アンディ・ストットや〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉が脚光を浴びてから5年以上経っているんだけど、いっときのトレンドとして終わるかと思っていたら、これがなかなか終わらないし、続いているでしょ。流行じゃなく、態度表明みたいになっているよね。

木津:ちなみに『サスペリア』もリメイクされるし、21世紀のエクソシストと言われる『ヘレディタリー』も高評価だし、ホラー映画のニューウェーヴがいま起こっているんですよ。こじつければ、そういうムードともシンクロしているかも……。ただ、マッチョになれない子どもたちというのは本当にそうで、最初におっしゃってたオウテカではなくジェイムス・ブレイクというのもまさにそこですね。

野田:ジェイムス・ブレイクやフランク・オーシャンが好きなひとにこそ聴いて欲しいと思ったんだよね。

木津:ブルーな男の子たちの音楽ですね。歌詞では生きることの不安や愛を切望することを繰り返していて、周りから鬱だと見なされることの葛藤も綴られている。これもいまっぽい。

野田:“Noid”の歌詞なんかは、自分の「PTSD、鬱病」のことを告白しているから、ポップな曲だけどテーマは決して軽くはないよね。ディプレッションというのは現代の音楽において重要なテーマだよ。マーク・フィッシャーだってそこに向き合ったひとだし。ジョイ・ディヴィジョンはいまやヴェルヴェッツ以上に再発見されているバンドになったわけだし……しかし歌詞を読むと、アントニーの『I Am A Bird Now』にも似た、正直な自分の気持ちを露わにすることの凄みのようなものを感じる。

木津:シンプルな言葉で本質的な内容に迫るところは似ていますね。 アルバムでもっともメランコリックな部類の“Recognizing The Enemy”では呪詛にも近い自己嫌悪が唱えられ、続く“All The Love We Have Now”では愛への感謝が告げられます。「わたしは救われた」と。このダイナミズムというか、極端な振れ幅も凄いですよね。どちらも自分の率直な感情なんだという。アメリカ的男らしさの美学では感情をコントロールすることが良しとされますが、これはいわば、古き男らしさとは間逆の音楽。

野田:ルーザーの音楽を積極的に評価しようっていう姿勢は、英米では根強くあるからね。それと、インターネットは現代のパノプティコンだっていう喩えがあるけど、日本ではメンヘラっていう言葉があるように、たとえば“Noid”の歌詞なんかは小馬鹿にしそうな、そういうウツ的なものを蔑む悪意というかシニシズムがあるじゃない? だからこそピッチフォークもこの曲を評価したと思うんだけどね。まあ、抑圧されているのは自分の感情だけじゃなく、消費活動も「フィルタリング」されていて、それこそ性的衝動さえもヘタしたら吸い取られてしまっているかもしれない。あと、愛というものよりも、ほんとうにお金のほうが勝っているかもしれない、とか。そうした時代の暗闇を考えても、このアルバムが評価されるのはわかるな。誰もが木津君のような楽天家になれるわけじゃないんだよ。

木津:ええ、それは気をつけているつもりです(笑)。ただ、ぼくが楽天家を気取っていられるのはどこかに鈍感さがあると思うんです。見たくないものを無意識に見ようとしない、とか……。イヴ・トゥモアの音楽は、それで言うとすべてを見ているというか、自分の内面の暗部から目を逸らさない。そしてドラマティックに表現する。それが奇形的なものになるというのが現代的だけれど、じつはとてもピュアな表現だと思います。その正直さに感動してしまうんですよね。

野田:取材を受けないのも、この音楽にエクスキューズをしたくないんからだろうね。蛇足になるけど、アルバムに参加しているクロアチアン・アモルはデンマークのアーティストで、東京の〈Big Love〉からも作品を出しているね。で、〈PAN〉からもうすぐアルバムを出すPuce Maryっていうデンマークの女性アーティストがいて、『The Drought』っていうそのアルバムも内的葛藤をエレクトロニック・ミュージックで表現しているんだよね。いまや音楽をいかに再利用するのかっていう時代だから、こうした、IDM的アプローチを応用した内省的なアヴァン・ポップはこれからも出てくるだろうね。

Thomas Fehlmann × The Field × Burnt Friedman - ele-king

 これはすごい。UNITを拠点に展開してきた《UBIK》が新たなイベントを始動します。名付けて《LIVE IN CONCERT》。記念すべき第1回は、驚くなかれ、トーマス・フェルマン、ザ・フィールド、バーント・フリードマンの共演です。エレクトロニック・ミュージックの巨星たちが一堂に会するこの夜、見逃す理由がありません。11月2日の金曜は代官山 UNIT で決まりですね。

ubik presents
LIVE IN CONCERT
featuring
THOMAS FEHLMANN (KOMPAKT)
THE FIELD (KOMPAKT)
BURNT FRIEDMAN (NONPLACE / RISQUE)
produced by UNIT / root & branch

都内屈指のライヴ・ヴェニューである代官山UNITを拠点とするエレクトロニック・ミュージック・イベント《UBIK》が提起する新たなライヴ・イベントがスタート、その名もずばり《LIVE IN CONCERT》。記念すべき第一回目の出演者は、伝説のニューウェイヴ・バンド Palais Schaumburg からキャリアをスタート、盟友 Moritz von Oswald とデトロイト~ベルリンの架け橋としてベルリン・テクノ・シーンの礎を築き、The Orb の頭脳として数々のマスターピースを生み出したマエストロ Thomas Fehlmann が8年振りとなるソロ・ライヴで日本へ帰還。シューゲイズ・テクノと称されメロディアスでオーガニックなサウンドはロック・ファンからも熱烈に支持され、EUダンス・ミュージック・シーンの屋台骨を支える〈KOMPAKT〉を代表するアーティスト The Field は、Live A/V Set で参戦。Thomas Fehlmann は『Los Lagos』、The Field は『Infinite Moment』と共にニュー・アルバムを引っ提げての来日です。更に、Atom™ との Flanger、CAN の伝説的ドラマー Jaki Liebezeit との Secret Rhythms など様々なアーティストとのコラボレーションで常に斬新かつ独特なサウンドでエレクトリック・ミュージックをアップデイトする鬼才 Burtn Friedman が、昨年の来日でも大好評だった 7ch サラウンド・ライヴを披露します。以上3アーティストが出演する《LIVE IN CONCERT》は、数多のエレクトロニック・ミュージック・イベントに一石を投じる正に試金石となることでしょう、お楽しみ下さい!

11.2 fri 東京 代官山 UNIT
Open 18:30 Start 19:30
¥4,000 (Advance) 別途1ドリンク制
Information: 03-5459-8631 (UNIT) www.unit-tokyo.com
Ticket Outlets (Now on Sale): PIA (131-608), LAWSON (74473), e+ (eplus.jp), diskunion CLUB MUSIC SHOP (渋谷, 新宿, 下北沢), diskunion 吉祥寺, TECHNIQUE, JET SET TOKYO, clubberia, RA Japan and UNIT

【関連公演】
11.4 sun 大阪 心斎橋 CONPASS
Live: THOMAS FEHLMANN (KOMPAKT), THE FIELD (KOMPAKT)
*BURNT FRIEDMAN (NONPLACE, RISQUE) の出演はございません。
DJ: Dr.masher (Mashpotato Records)
Open / Start 18:00
¥3,500 (Advance) 別途1ドリンク制
Information: 06-6243-1666 (CONPASS) www.conpass.jp
Ticket Outlets (Now on Sale): PIA, LAWSON, e+ (eplus.jp)
メール予約: mailticket@conpass.jp に件名11/4予約にてフルネーム・枚数を送信

THOMAS FEHLMANN (KOMPAKT)
スイス生まれ。1979年にドイツのハンブルグで Holger Hiller や Moritz von Oswald と共に伝説のニューウェイヴ・バンド Palais Schaumburg を結成。バンド解散後、ソロ活動を開始。盟友 Moritz von Oswald とのプロジェクト 2MB、3MB でデトロイト・テクノのオリジネーター Blake Baxter や Eddie Fowlkes や Juan Atkins と邂逅、デトロイト~ベルリンの架け橋としてベルリン・テクノ・シーンの礎を築いた。その後、The Orb の長年のコラボレーション・メンバーとして積極的にリリースに関わる。ソロ作品は伝説のテクノ・レーベル〈R&S〉などからリリースを重ね、2002年に〈KOMPAKT〉から『Visions Of Blah』、2004年に〈Plug Research〉から 『Lowflow』、2007年に〈KOMPAKT〉に帰還して『Honigpumpe』、ベルリンのドキュメンタリーTV番組『24h Berlin』のサウンド・トラックを担当、そこに書き下ろされた作品を中心に編纂された『Gute Luft』を2010年にリリースした。2018年4月にデトロイト・テクノの雄 Terrence Dixon とのコラボ・アルバム『We Take It From Here』を名門〈Tresor〉からアナログのみでリリース。そして、満を持して8年ぶりとなるソロ・アルバム『Los Lagos』を本年9月にリリースした。彼の真骨頂と言える重厚でダビーなテクノ作品“Löwenzahnzimmer”からヒプノティックなトリッキー・テクノ“Window”、マックス・ローダーバウアーをフィーチャーした90年代テクノを彷彿とさせるユニークな“Tempelhof”などデビューから30年以上を経ても彼のテクノ・ミュージックへの探求心が冴えまくる、全テクノ・ファン注目のニュー・アルバムとなっている。アーティスト活動のみならず、Thomas Fehlmann がドイツのクラブ・シーンに貢献した功績は非常に大きい。

THE FIELD (KOMPAKT)
〈KOMPAKT〉を代表するアーティスト、The Field。2007年にリリースされたファースト・アルバム『From Here We Go Sublime』が Pitchfork で9.0の高評価を獲得、同年のベスト・テクノ・アルバムとして世界中で高い評価を獲得した。そのサウンドは〈KOMPAKT〉らしいミニマルなビートにメロディアスでオーガニックなシンセ・サウンド、細かくフリップされたボイス・サンプルを多用しテクノ・シーンでも異彩を放つ彼独特のサウンドで世界中の音楽ファンを魅了している。2009年にセカンド・アルバム『Yesterday & Today』をリリース、バトルスのドラマー、ジョン・スタニアーが参加、前作以上に生楽器を取り入れオーガニックでメロディアスなサウンドを展開、より幅が広がった進化した内容となっている。2011年10月にサード・アルバム『Looping State Of Mind』を発表、翌2012年にはフジロックへ初参戦し深夜のレッドマーキーで壮大なライヴを披露しオーディエンスを熱狂させた。2013年、デビュー・アルバム以降7年間続いたバンド・スタイルでのライヴ活動に終止符を打ち、ベルリンの自宅スタジオでファースト・アルバム以来の初となるソロ・プロジェクトとなる4作目のアルバム『Cupid 's Head』を完成させ話題を集め、Pitchfork では BEST NEW MUSIC に選出された。その後も Battles, Junior Boys, Tame Impala 等のリミックスを手掛け、インディ・ロック・シーンでも注目を集める。2016年4月に5作目となる最新作『The Follower』をリリース。そして、本年9月通算6作目のフル・アルバム『Infinite Moment』をリリースしたばかりである。本作品はユーフォリックな多幸感に満ち溢れ、リスナーのイマジネーションを掻き立てるこれまでで最も幻想的な印象の作品に仕上がっている。

BURNT FRIEDMAN (NONPLACE / RISQUE)
ドイツを拠点に約40年に渡るキャリアを誇る Burnt Friedman。カッセルの美術大学で自由芸術を専門に学び、卒業後80年代後半には音楽の道へ傾倒。常に斬新かつ独特なサウンドでエレクトリック・ミュージックをアップデイトしてきた鬼才である。これまで自身名義の作品の他、Atom™ との Flanger、Steve Jansen、David Sylvian との Nine Horses、そして昨年残念ながら急逝した CAN の伝説的ドラマー、Jaki Liebezeit とのSecret Rhythms など様々なアーティストとのコラボレーションも行なってきている。特に2000年に始まり Jaki が亡くなるまで続いた Secret Rhythms でのコラボレーションは、西洋音楽の伝統的なフォーマットや音楽的イディオムから離れ、様々な国の古くからのダンス音楽や儀式音楽に学び新たなフォームを開拓してきた。その試みは今回 Festival de Frue で初来日となるイランの伝統打楽器トンバク/ダフの奏者、Mohammad Reza Mortazavi とのユニット、YEK などに継承され、現在に続く Burnt の音楽的探求の礎となっている。2016年には2000年より続く自身のレーベル〈Nonplace〉とは別に新レーベル〈Risque〉を立ち上げヒプノティックなダブ・トラックを収録したEP「Masque/Peluche」を発表。昨年は1993年から2011年までのレア音源をコンパイルし、その活動初期からの独自性をあらためて提示した『The Pastle』をフランスの〈Latency Recodings〉より、また David Solomun と Antony West の著作からインスピレーションを得たという6曲入りEP「Dead Saints Chronicles」がカナダの〈MARIONETTE〉からリリースと、その創作意欲は止まる事を知らない。


Yves Tumor - ele-king

 2018年も10月になった。あと3か月弱で今年も終わってしまうわけだが、あるディケイドにとって「8年め」というのは重要な年といえる。その年代の爛熟期であり、次のディケイドの胎動を感じる年だからだ。68年にリリースされたアルバム、78年にリリースされたアルバム、88年にリリースされたアルバム、98年にリリースされたアルバム、08年にリリースされたアルバムを思い出してほしい。例えばビートルズの『The Beatles』も、イエロー・マジック・オーケストラの『Yellow Magic Orchestra』も、プリンスの『Lovesexy』も、マッシヴ・アタックの『Mezzanine』も、レディオヘッドの『In Rainbows』も「8年目の作品」なのだ。これらのアルバムもその年代の爛熟の結実であり、総括であり、次の時代への鼓動でもあった。
 では2018年はどうか。今年も傑作・重要作は多い。なかでもイヴ・トゥモアの『Safe In The Hands Of Love』には、「時代の総括/次への胎動」をとても強く感じた。孤高の存在であり、しかし時代のモードに触れているという意味ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Age Of』と並べて語るべきアルバムかもしれない。ここに「次の音楽/時代」の胎動がある。

 結論を急ぐ前に、まずはイヴ・トゥモアについて基礎情報を確認しておこう。イヴ・トゥモアは、ティームズ『Dxys Xff』(2011)、Bekelé Berhanu『Untitled』(2015)など、いくつもの名義で作品をリリースしていたショーン・ボウイによるプロジェクトである。
 イヴ・トゥモア名義では、まずは2015年に『When Man Fails You』のカセット版を〈Apothecary Compositions〉から発表した(データ版はセルフ・リリース)。
 翌2016年になると、ベルリンのエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈PAN〉からアルバム『Serpent Music』を送り出し先端的音楽マニアを驚かせた。これまで〈PAN〉ではあまり見られなかったエレガントなアートワークも強烈な印象を残したが、何よりグリッチR&Bインダストリアル音響とでもいうべき端正さと混沌が一体化したようなサウンドが圧倒的だった。天国で鳴っているような甘美なサンプルのループとポリリズミックなリズムとジャンクかつ不穏なコラージュを同時に展開し、先端的音楽の現在地点を示した。じっさい、『Serpent Music』はメディアでも高く評価され、多くの年間ベストにもノミネートもされた。
 その高評価は、2017年、老舗〈Warp〉への移籍に結実する。移籍を記念して(?)、フリー・ダウンロードで『Experiencing The Deposit Of Faith』が配信されたこともリスナーを驚かせた。夢のなかの幻想に堕ちていくようなムードが充満した素晴らしいアルバムで、普通に販売しても遜色のない作品であった。また、〈PAN〉からリリースされたアンビエント・コンピレーション『Mono No Aware』への参加も重要なトピックといえよう。

 2018年は、彼にとって実りの年だ。坂本龍一の『async - Remodels』へのリミックス提供、坂本龍一+デイヴィッド・トゥープなどとともにロンドンで開催された「MODE 2018」への参加などを経て、ついに〈Warp〉からの新作『Safe In The Hands Of Love』がリリースされたのだ。各サブスクリプションでのサプライズ・リリースという話題性も十分だったが、何より2018年という「10年代の爛熟期」に相応しいアルバムに仕上がっていた点が重要である。リリース後、即座に『ピッチフォーク』のレヴューに取り上げられ、高得点を獲得したほどだ。

 では『Safe In The Hands Of Love』は何が新しいのか。私は三つのポイントがあると考える。
 ①トリップホップ、アブストラクト・ヒップホップ、インディ・ロックなどの90年代的なるものの導入。
 ②コペンハーゲンの新世代モダン・ノイズ勢などのゲスト参加。
 ③10年代の「先端的な音楽」の変化への対応。
 まず、①について。先行リリースされた“Noid”や、インディ・ロック的な“Lifetime”などに象徴的だが、ストリングスのサンプリングに、ブレイクビーツ風のビート、90年代インディ・ロック的なヴォーカルの導入など、私は1998年にリリースされたアンクルのファースト・アルバム『Psyence Fiction』を不意に思い出した。『Psyence Fiction』は、DJシャドウなどのアブストラクト・ヒップホップで一世を風靡した〈Mo' Wax〉の首領ジェームス・ラヴェルによるファースト・アルバムである。DJシャドウが共同プロデュースを務め、リチャード・アシュクロフト、マイク・D、トム・ヨークなどオルタナ界のスターたちが参加するなどミッド・ナインティーズの総括とでもいうべき作品だ。

https://www.youtube.com/watch?v=76Op7MtBRSA

 アブストラクト・ヒップホップからインディ・ロックまでを交錯させ、一種のオルタナティヴ音楽の一大絵巻を制作したという意味で『Safe In The Hands Of Love』は、どこか『Psyence Fiction』に通じている。じじつ、トランペットが印象的なイントロダクション・トラック“Faith In Nothing Except In Salvation”からして90年代の〈Mo' Wax〉のようだし、“Honesty”のダークなムードのビート・トラックは、90年代のトリップホップを思い出させるものがあった。

 ここで②について解説に移ろう。本作のゲスト・アーティストについてだ。まず2曲め“Economy Of Freedom”ではコペンハーゲンのクロアチアン・アモルが参加している。彼は〈Posh Isolation〉の主宰ローク・ラーベクであり、Hvide Sejl、Semi Detached Spankers 名義、Body Sculptures、Damien Dubrovnik への参加など〈Posh Isolation〉からリリースされる多くの音源で知られるモダン・エクスペリメンタル・ノイズ・シーンの重要人物である(ローク・ラーベク名義で〈Editions Mego〉からアルバムをリリースしてもいる)。
 さらに、7曲め“Hope In Suffering (Escaping Oblivion & Overcoming Powerlessness)”には、ピュース・マリー(Frederikke Hoffmeier)が参加している点も重要だ。彼女もコペンハーゲンのモダン・ノイズ・アーティストで、アルバムを〈Posh Isolation〉からリリースしている。なかでも2016年の『The Spiral』は優美な傷のようなノイズ・アルバムで、聴き手をノイズ美のなかに引きずり込むような強烈なアルバムだ。そしてピュース・マリーは本年〈PAN〉から新作『The Drought』をリリースしている。
 また、“Lifetime”には、ヴェイパーウェイヴ初期からの重要人物ジェームス・フェラーロがグランドピアノ演奏(!)で参加している点も見逃せない。フェラーロはOPNと同じくらいに10年代の電子音楽を象徴するアーティストだが、近年の沸騰するOPNの人気の影で、真に歴史的人物として再注目を浴びる必要があり、その意味でも極めてクリティカルな人選といえる(まあ、単にファンだったのかもしれないが)。
 ほかにもトリップホップ的な“Licking An Orchid”には〈Dial〉からのリリースで知られるジェイムスKが参加。『Serpent Music』にも参加していたOxhyは、ピュース・マリーやジェイムスKとともに“Hope In Suffering (Escaping Oblivion & Overcoming Powerlessness)”に客演している。
 とはいえ、やはり〈Warp〉からのリリース作品に、あの〈Posh Isolation〉のふたりのアーティストが参加している点に2010年代後半という時代のムードを感じてしまった。いま、「ノイズ」というものがエレクトロニック・ミュージックのなかで大きな役割を果てしているのだ。

 続いて③についてだが、ここまで書けば分かるように、現在の「先端的音楽」は、世界的潮流でもある「90年代」の再導入と、〈Posh Isolation〉ら新世代のノイズ・アーティストによるノイズの導入というネクスト・フェーズを迎えている。「90年代」は、例えばオリヴァー・コーツの新作アルバムに見られるように、テクノ・リヴァイヴァル、IDMリヴァイヴァルへと結実しつつあるわけだが、本作の独創性は、参照する「90年代」がサンプリング、ブレイクビーツ、トリップホップ、90年代的インディ・ロックの大胆な援用である点だ。このアウトぎりぎりのインの感覚は鮮烈ですらある。たとえば、ラスト曲“Let The Lioness In You Flow Freely”などは「超有名曲」のサンプリングのループで終わることからも分かるように、「サンプリングの時代」であった「あの時代」のムードを濃厚に感じるのだ。
 むろん単なるレトロスペクティヴではない。そうではなく、90年代的な「あらゆるものが終わった」という「歴史の終わりの地平」を再生(サンプリング主義)し、そこに新世代の非歴史/時間的なノイズをレイヤーすることで、もう一度、「終わり=90年代」に介入し、「終わり」を蘇生することを試みているように思えてならない。「過去」をハッキングすること。歴史の「外部」から浸食してくるゾンビを蘇生すること。人間以降の世界を夢想すること。

 そう、『Safe In The Hands Of Love』は、ミニマル・ミュージックからノイズ、ヒップホップからインディ・ロックまで、ブレイクビーツからトリップホップなどなどさまざまな音楽を援用・導入しつつ繰り広げられる「死者=歴史の蘇生の儀式」である。自分には、このアルバムは「歴史の終わり」の荒野で繰り広げられるホラー映画のサウンドトラックのように聴こえた。その意味で本作にもアルカ以降、つまり10年代の先端的音楽の隠れ(?)テーゼ「ポストヒューマン的な21世紀の音像=無意識」が鳴り響いている。2018年というディケイドの爛熟期に鳴る音が、ここにある。

Baths / Geotic - ele-king

 ナイス・タイミングです。11月12日発売の『別冊ele-king』最新号では、今年設立10周年を迎え勢いに乗っているフライング・ロータス~〈ブレインフィーダー〉を特集しているのですが、LAビートについても大きくページを割いています。そのフライローとの共作経験もあるバス(Baths)ことウィル・ウィーセンフェルド、彼が2010年に〈アンチコン〉から放った夢見心地で清涼な『Cerulean』は、LAビートを代表する名盤のひとつです。バスの歩みに関しては下記にまとめてありますので、ぜひご一読を。

https://www.ele-king.net/columns/003914/

 さて、そのウィルは他方でジオティック(Geotic)名義でも活動していて、そちらでも『Sunset Mountain』などの良作を残しているのですが、そんな彼がこの10月、来日公演を開催します。しかも贅沢なことに、バスとジオティック双方の名義での公演です。
 バス名義のほうは、昨年リリースの最新作『Romaplasm』を引っさげたツアーで、東京(10/22@WWW)と大阪(10/25@Socore)を回ります。ジオティック名義のほうは、ダンスとアンビエントを織り交ぜたセットになるそうで、こちらは東京(10/23@CIRCUS Tokyo)のみの公演。現在、10/17発売の新作『Traversa』から収録曲“Gondolier”のMVが公開中ですので、合わせてチェックしておきましょう。

LAが誇る稀代のビートメイカー Baths、
東京・大阪での来日公演が2018年10月開催!!

ポップ・ミュージックの新たな可能性を拡張した最新作『Romaplasm』を携えた最新鋭の演奏セットを披露!

インディ・ロック~ヒップホップ・リスナーまで巻き込んだ、いまなお色褪せない大傑作ファースト・アルバム『Cerulean』。
大病を患いその果てで見事なまでのアーティストとしての成長を成し遂げ、その年多数のメディアから年間ベストに挙げられたセカンド・アルバム『Obsidian』。
「絶対に自分に対して不誠実であってはならない」という創作活動における信条のもと、ポップ・ミュージックの新たな可能性を拡張したサード・アルバム『Romaplasm』。

その創り出すビートがいま最も話題を呼ぶビートメイカー Baths。
誰しもが惹き付けられる躍動感溢れるライヴ・パフォーマンスは必見!!

https://www.youtube.com/watch?v=fcIdpIUClfA

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Tugboat Records presents Baths Live in JAPAN 2018

■2018/10/22 (月) 渋谷 WWW

【時間】OPEN 19:00 / START 19:30
【レーベル割価格】 ¥4,300 (ドリンク代別) *限定100枚 (9/13正午~)
https://goo.gl/forms/McdPioHT9vFL6BbB2
【前売り価格】 ¥4,800 (ドリンク代別)
【各プレイガイド】Pコード:130-011 / Lコード:70460 / e+ / WWW店頭 (9/17 10:00~)

https://www.tugboatrecords.jp/category/event

■2018/10/25 (木) 大阪 Socore Factory
【時間】OPEN 19:00 / START 19:30
【レーベル割価格】 ¥4,000 (ドリンク代別) *限定50枚 (9/13正午~)
https://goo.gl/forms/McdPioHT9vFL6BbB2
【前売り価格】 ¥4,500 (ドリンク代別)
【各プレイガイド】e+ のみ (9/17~)

主催/企画制作:Tugboat Records Inc.

●Baths プロフィール
LA在住、Will Wiesenfeld こと Baths。音楽キャリアのスタートは、両親にピアノ教室に入れてもらった4歳まで遡る。13歳の頃には、既にMIDIキーボードでレコーディングをするようになっていた。あるとき、Björk の音楽に出会い衝撃を受けた彼は直ぐにヴィオラ、コントラバスそしてギターを習得し、新たな独自性を開花させていった。ファースト・アルバム『Cerulean』はインディ・ロック~ヒップホップ・リスナーまで巻き込み多くの話題を呼んだ。 大病を患いその果てで見事なまでの成長を成し遂げ、その年多数のメディアから年間ベストに挙げられたセカンド・アルバム『Obsidian』。ポップ・ミュージックの新たな可能性を拡張したサード・アルバム『Romaplasm』。その創り出すビートがいま最も話題を呼ぶビートメイカー Baths による待望のジャパンツアーが2018年10月に開催!

●リリース情報

作品詳細:https://www.tugboatrecords.jp/6423
アーティスト:Baths (バス)
タイトル:Romaplasm (ロマプラズム)

tracklist
01. Yeoman
02. Extrasolar
03. Abscond
04. Human Bog
05. Adam Copies
06. Lev
07. I Form
08. Out
09. Superstructure
10. Wilt
11. Coitus
12. Broadback

・発売日:2017年11月15日
・価格:¥2,200+tax
・発売元:Tugboat Records Inc.
・品番:TUGR-043
・歌詞/解説/対訳付き

LA在住、Will Wiesenfeld が、Bathsとともに活動する別名義のプロジェクト=Geotic。

10/17日本先行リリースのセカンド・スタジオ・アルバム『Traversa』を引っ提げ、10/23 (火) CIRCUS Tokyo にて公演決定!!

Geotic 名義によるダンス・セットとアンビエント・セットを織り交ぜた初披露の貴重なライヴ・セット
(Baths公演でのセットとGeotic公演でのセットは異なります。)

セカンド・スタジオ・アルバム収録曲“Gondolier”のMVも公開!

怒りや裏切りといった感情を連想させた後、雰囲気が一変し、語り手と主人公が夜に人知れず駆け落ちするストーリーは圧巻。稀代のビートメイカー、Will Wiesenfeld にしか生み出せない創造性溢れるサウンドは必聴!

Gondolier
https://www.youtube.com/watch?v=XlzleWMYkEw

アルバムに寄せたアーティストのコメント
「良い旅を経験すると、自分の“脳”を望む通りの場所に辿り着かせることができる。このアルバム全体に共通するインスピレーションは、そのときに湧き上がった感覚から生まれたんだ。本当に最初から、音楽は僕にとって何よりも、(そんな旅のように)どこかへ導いてくれるほど魅力的なものだった。あらゆる形態のメディアにさらされるなかで、僕は絶えず日常生活では味わえない違った何かを感じられるものに引き寄せられるんだ」
――Will Wiesenfeld

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Tugboat Records presents Geotic Live in Japan 2018

■10/23 (火) CIRCUS Tokyo

【時間】OPEN 19:00 / START 19:30
【レーベル割価格】¥3,500 (ドリンク代別) *限定50枚 (9/19 20:00~)
https://goo.gl/forms/lCgKeopvmrrjs7543
【前売り価格】 ¥4,000 (ドリンク代別)
【各プレイガイド】Pコード:129991 / Lコード:71470 / e+ (9/19 20:00~)

https://www.tugboatrecords.jp/category/event

●Geotic プロフィール
LA在住、Will Wiesenfeld が、Bathsとともに活動する別名義のプロジェクト。前作に引続き Tycho を擁する〈Ghostly International〉、そして日本は〈Tugboat〉よりリリース。
「Bathsはアクティヴなリスニングで、Geoticはパッシヴなリスニングである」──Baths、そして Geotic こと、Will Wiesenfeld は、自身のふたつのプロジェクトに対してこのように語る。

●リリース情報
アーティスト:Geotic (ジオティック)
タイトル:Traversa (トラヴェルサ)

tracklist
01. Knapsack
02. Swiss Bicycle
03. Harbor Drive
04. Aerostat
05. Town Square
06. Terraformer
07. Gondolier
08. Maglev

・発売日:2018/10/17 (水)
・価格:¥2,000+tax
・発売元:Tugboat Records Inc.
・品番:TUGR-080
・解説/対訳付き

Little Dragon - ele-king

 これは火が点きそうな予感がひしひし。かつてサブトラクトゴリラズ作品への客演で注目を浴びたシンガー、ユキミ・ナガノ(ケレラも彼女から影響を受けています)を擁するスウェーデンはヨーテボリのシンセ・ポップ・バンド、リトル・ドラゴンがなんと〈Ninja Tune〉と契約、11月9日に新作EPをリリースします。UKでも大人気の彼ら、最近ではバッドバッドノットグッドとの共作“Tried”がBBCなどでよくとりあげられていますが、このたび公開された新曲“Lover Chanting”もダブテクノ風の装飾を効果的に利用したポップな仕上がり。早く全曲聴きたい!

Little Dragon
北欧スウェーデン発のエレクトロ・バンド
リトル・ドラゴンが〈Ninja Tune〉と電撃契約し
11月に新作『Lover Chanting』をリリース!
タイトルトラックが本日解禁!

北欧スウェーデン発の人気エレクトロ・バンド、リトル・ドラゴンが〈Ninja Tune〉と電撃契約し、11月に新作EPをリリースすることを発表した。今回の発表に合わせてタイトルトラック「Lover Chanting」がリリースされている。

Little Dragon - Lover Chanting
https://found.ee/9tFu

日系スウェーデン人のフロントウーマン、ユキミ・ナガノ率いるリトル・ドラゴンは、1996年に結成され、これまでに5作のアルバムをリリース、アメリカやイギリスでも成功を収め、アメリカのダンス・チャートでは直近の3作が連続でトップ5入りを記録。2014年の『Nabuma Rubberband』はグラミー賞にもノミネートされている。

またコラボレーションにも積極的なリトル・ドラゴンは、ゴリラズやサブトラクト、ケイトラナダ、フルームなどのヒット作品に参加し、最近では、カナダのジャズ/ヒップホップ・カルテット、バッドバッドノットグッドとのコラボ曲「Tried」をリリースし、ラッパーのヴィック・メンサと共に、ファレルの弟子格として知られるプロデューサー・デュオ、クリスチャン・リッチの楽曲にフィーチャーされたことも話題となった。

BADBADNOTGOOD & Little Dragon - Tried
https://youtu.be/MREJtWbQ6Bw

Christian Rich -DRIPPING SUMMERS (Feat. Little Dragon & Vic Mensa)
https://soundcloud.com/christianrich/christian-rich-dripping-summers-feat-little-dragon-vic-mensa

リトル・ドラゴン最新作『Lover Chanting』は11月9日にデジタル先行でリリースされたのち、同月中にアナログ盤でもリリースされる予定。

label: Beat Records / Ninja Tune
artist: Little Dragon
title: Lover Chanting EP

release date: 2018.11.09 FRI ON SALE

[Tracklisting]
1. Lover Chanting
2. In My House
3. Timothy
4. Lover Chanting (Edit)

Riton & Kah-Lo - ele-king

 ナイジェリアといえば国外に出るとしたら、これまではイギリスと相場が決まっていたし、実際、世界最大のナイジェリアン・コミュニティはいまだイギリスにあり、ここからディジー・ラスカルやスケプタといった移民二世のビッグMCが出て来たことはよく知られている。ところが新たなトレンドを求めて方向性を変えたメジャー・レイザーの最新ミックス・テープ『Afrobeats』にフィーチャーされていたラッパーやプロデューサーの出身地を調べてみると圧倒的にナイジェリア出身者が多く、かつてジャマイカからイギリスへと渡っていたレゲエやダンスホールのMCたちが90年代以降はジャマイカからアメリカへと目的地を変えたことと同じことが現在のナイジェリアにも起きつつあることがよくわかる。そうしたナイジェリアのMCたちがアメリカで制作したラップ・アルバムを聴いてみると、ところどころでナイジェリアや汎アフリカ的な表現も挟まれているものの、やはりアメリカン・マナーに染まってしまうケースが大半で、目先が大きく変わっているのでなければ、だったらリル・ウェインやカレンシーの新作を聴いた方が……と僕などは思ってしまう。スーサイド・ボーイズとかね。
 クラインと同じくイギリスのクラブ・ミュージックに進路を定めたナイジェリア育ちのカー~ローことファリダ・セリキはそして、これまでにリトンことヘンリー・スミッソンと組んだ2枚のシングルでごく短期間に頭角を現し、早くも昨年のグラミー賞でベスト・ダンス・レコーディングスにノミネートされている。TVドラマ『13の理由』のプロデュースやSNSからの撤退で何かと話題のセレーナ・ゴメスが早くも「Back To You」のリミキサーに起用しているので、メジャーでの知名度も急速に高まり、もはや爆発寸前だろうというタイミングでアルバムもリリースされた。

 これまでリトン名義でしかアルバムをリリースしてこなかったスミッソンも今回は名義をリトン&カー~ローとしている。リトンは99年にデビューした古参のプロデューサーで、〈グランド・セントラル〉からのデビュー・アルバム『Beats Du Jour』では穏やかなダウンテンポ、キュアーをカヴァーした“Killing An Arab”ですぐにもエレクトロクラッシュに移行し、2008年にはアイネ・クライネ・ナハト・ムジークの名義でクラウトロックとハウスをクロスオーヴァーさせたアルバムを、以後はわかりやすいことにレーベルも〈エド・バンガー〉に移り、2010年代に入ってからはベース・ミュージックを取り入れたEP「Bad Guy Riri」やヴォーカルにメレカをフィーチャーした“ Inside My Head”で完全に迷走状態に入ったかに見えた。その直後にツイッターで知り合ったのが(同時期にニューヨークに住んでいた)カー~ローだったという。“Habib”など現在に通じる曲もなくはなかったスミッソンがカー~ローをフィーチャーした“Rinse & Repeat”はアフロビートを取り入れているわけでもないのに、微妙にテンポをずらす彼女の歌い方だけで、それまでとは驚くほどグルーヴ感の異なる曲となり、まさかのグラミー賞ノミネートへ突き進んでいく。続く“Betta Riddim”のプロダクションは明らかに彼女の歌い方を生かす方向に変化し、以後もtqdやフィット・オブ・ボディといった80Sガラージ・リヴァイヴァルと歩を揃えた“Money”からイナー・シティ“グッド・ライフ”をループさせた“Fasta”などスミッソンの作風も15年目にして一気に固まり、いままであるようでなかったヒップ・ハウスのアルバムに仕上がっていく。

 アルバム・タイトルはおそらくゼノフォビア(移民嫌悪)を念頭に置いた上で、「外国人の気分」を表すスワヒリ語のようで、カー~ローの歌詞も「覇気のある人はいないのか」と繰り返す“Ginger”やニューヨークやロンドンでの生活とナイジェリアでの暮らしを比較した“Immigration”などシンプルなものが多い。「みんな、お金が欲しい」とか「(未成年の)女の子も楽しみたい、飲みたい、フェイクI.D.を持って行こう」とか。そう、ラゴスのパーティ・カルチャーを曲に反映させるためにナイジェリアからゲストを何人か招いた曲もあり、ガヤガヤとした感じで曲は進む。カー~ローはすでにリトンとのプロジェクトとは別にハイチ出身のマイケル・ブラントとも“Spice”をリリースしている。ペース早いです。ちなみに彼女の声のせいか、多くの曲はどうしてもケロ・ケロ・ボニトを思わせるものがあり、妙な懐かしさもあるのだけれど、実際のケロ・ケロは新作となる3作目でパンク・ギターを全開にし、いわばパワー・ポップ路線を突き進んでいる。

Low - ele-king

 ひとつの否定では足りない。そういうことだろうか。ふつう「二重否定」というと打ち消しを重ねることによって肯定に転じる意味で用いられるが、しかし、ミネソタ出身のヴェテラン・バンド、ロウの12作目のアルバム『ダブル・ネガティヴ』はあらゆる肯定的な感情を拒絶するかのように、重く、冷たく、じつにゆっくりと下のほうへ沈んでいく。慌てて過去作を聴き返してみたが、やはりここまでの透徹したダークさには至っていない。結成25年にして、ロウの暗黒は臨界点に達してしまった。すでにバンド史上もっともチャレンジングな作品として称賛を集めている。

 スロウコア、サッドコアの始祖と知られるロウだが、本作はロック・アクトの領域をゆうにはみ出し、比較としてウィリアム・バシンスキ、ミカ・ヴァイニオ、トマス・クーナーといった名前と並べられている。音の要素は恐ろしくミニマルで、ごく少ないドローン音の上にいくらか甘いメロディが重ねられ、もしくはノイズに埋めつくされていく。インダストリアルを思わせるリズムの打音が物悲しい調べを導いてくるばかりの“Dancing And Blood”はアンディ・ストットのトラックのようで、ビージーズ風のディスコ歌謡がどんよりとしたアンビエントの音響のなかに消えていく“Fly”はティム・ヘッカーの作風を思わせる。サッドコアの精神はまさにその「コア」を保ったまま、音を更新して解像度を上げている。

 前作『ワンズ・アンド・シックシーズ』に引き続きボン・イヴェール周りのBJバートンがプロデュースを務めているのだが、前作からの連続性よりも細かいノイズやヴォイスの細かいエフェクト処理などに『22、ア・ミリオン』以降を嗅ぎ取ることができる。通底しているのはデジタルによるザラついた質感であり、オーガニックな音がそうでないものとぶつかり合い消耗するような感覚である。重たいものを引きずるようなループにすさまじく音の割れた声が乗る“Tempest”、メランコリックなメロディがエフェクト・ヴォイスの断片とフィードバック・ノイズの海に飲みこまれていく“Always Trying To Work It Out”と、彼らが長年培ってきたダウナーながらもスウィートな旋律や透き通ったファルセット・ヴォーカルはあるのだが、それらはほとんど痛めつけられるように執拗に、微細に加工される。生の感情を曝け出すことを恐れるように、拒絶するように。緊張感が絶えることのない“The Son, The Sun”のドローンを通過したあとのアンビエント・フォーク“Dancing And Fire”のみが生音の柔らかさを前面に出しており、ここでアルバムはそれまでとのコントラストゆえある種壮絶な美しさを見せる。が、“Poor Sucker”で再びザリザリとした肌触りへと音を変え、“Rome (Always In The Dark)”では重苦しいビートと叫びに似た悲痛なヴォーカルが切り刻まれる。簡単に聴き手を慰めない。クロージングの“Disarray”の透き通っていたはずのコーラスもまた、意図的に汚されている。だが、だからこそいまの耳に染み入るものがある。

 このヘヴィなアンビエント/ドローン・アルバムはトランプ・エラの精神そのものだと評されているが、しかし、トランプなどという具体的かつわかりやすいモチーフに回収されることはない。ひどく抽象的で、ひどく不定形の憂鬱。アルバムにはAlwaysという単語が3度も曲タイトルで出てくるが、「いつも上がっている」というのは反語に違いないし、「いつだって上手くいくように頑張っている」というのはすなわち「いつも上手くいかない」ということであり、“Rome (Always in the Dark)”が言うように、わたしたちはいつも真っ暗闇にいることを思い出させてくれる。メランコリーが聴き手の期待する癒しに呼応するようにあらかじめ準備された音楽が溢れるなかで、『ダブル・ネガティヴ』はそれすらも否定するように意図的に心地よさに違和感を挿しこみ、すっかり常態(Always)となったこの時代の形のない悲しみを見事に描き出す。無理をして肯定に転じなくてもいい。ここには否定に否定を重ね続ける、ぞっとするが奇妙な安らぎがある。

Maisha - ele-king

 まあちょっとざっくり言うと、2018年は『We Out Here』からはじまった。ロンドンのアンダーグラウンドからUKジャズの新しい波がやって来て、スピリチュアル・ジャズにアフロビートをたたき込み、クラブ・カルチャーと隣接しながらシーンに喜びと恍惚をもたらしたと。
 いろんなミュージシャンの名前を覚えた。シャバカ・ハッチングスをはじめ、モーゼス・ボイド、ジョー・アモン・ジョーンズ、テンダーロニアス……それから女性サックス奏者のヌビア・ガルシアも。
 『We Out Here』は、マイシャの曲からはじまる。ドラマーのジェイク・ロングが率いるこのグループは、いまの“UKジャズ”のひとつの型を表している代表。要するに、アリス・コルトレーンとファラオ・サンダースからの影響をアフロビートと混ぜること。グループでサックスを吹いているのはヌビア・ガルシア。マルチ・カルチュアルで、男女混合というスタイルにも“いま”を感じる。
 で、そうしたお約束ごと的前説を経て、しかしもっとも重要なことを言うと、場所。抑圧だらけの世界からは隔離された場所。だって場所がなければひとは迷ってしまう。マイシャのデビュー・アルバムは11月9日にジャイルス・ピーターソンの〈ブラウンズウッド〉(日本盤はビート)からリリースされる。タイトルは『There Is A Place』。ぼくたちには“場所”がある。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294