「W K」と一致するもの

レコード収集、そして音楽文化を愛するすべての人に――
奥深きアナログ盤の世界にもう一歩踏み込むための案内

ストリーミング全盛の今日、他方でレコードが大いに脚光を浴びてもいる。
アナログ盤はなぜかくも音楽愛好家たちを惹きつけてやまないのか?
その買い方から聴き方、歴史、そして未来への展望まで、いまあらためてレコードならではの魅力を徹底解剖する!

・MURO、エヂ・モッタら究極のレコード・コレクターたちが語るその収集哲学
・レコード好きのライフスタイル
・海外レコード買い付け紀行
・未知なる場所での新たな1枚との出会い
・購入時のことが鮮明に記憶に残るレコード5選(JAZZMANジェラルド、マシュー・ハルソール、メイヤー・ホーソーン、坂本慎太郎、MOODMAN、角張渉、イハラカンタロウ、スヴェン・ワンダー、水原佑果、岡田拓郎、Licaxxx、塩田正幸、T-Groove、ほか)
・VINYL GOES AROUND PRESSING:プレス工場潜入レポート
・アナログ愛好家が営む異業種名店
・レコードにまつわる映画紹介
・コレクター道を極めるための心得
・ヴァイナルで音楽を楽しむためのオーディオ環境
など、さまざまな角度からレコードの魅力に迫る完全保存版ガイド。

菊判/160頁

目次

はじめに

MURO、いまあらためてレコード愛を語る――プレス工場見学からレコード遍歴、そしてコレクティングの現在(by 野田努)
エヂ・モッタ、インタヴュー――レコードは手にとって味わえる芸術作品(by Jun Fukunaga)

●#1 レコードを探し求めて
レコード買付は悲喜こもごも――とあるバイヤーのアメリカ紀行
あるレコード店主の一日 永友慎(Upstairs Records & Bar)
レコードを探しに訪れたインドネシアで起こった出来事 馬場正道(KIKI RECORD)
VINYLVERSEのアプリ/フィジタル・ヴァイナルの楽しみ方――ヴァイナル中毒者たちのコミュニティを創造する
鈴木啓志のレコード蒐集術――ネットもなく、レコード店も少なかった時代、音楽好きはいかにして情報を入手し、盤と出会っていたのか

●#2 購入時のことが記憶に残るレコード5選
ジャズマン・ジェラルド/MOODMAN/坂本慎太郎/マシュー・ハルソール/メイヤー・ホーソーン/角張渉/イハラカンタロウ/スヴェン・ワンダー/岡田拓郎/水原佑果/T-GROOVE/塩田正幸/Licaxxx/田之上剛

●#3 レコードの作り方
レコード・プレス工場見学記――VINYL GOES AROUND PRESSING(by 小林拓音)
78RPMレコードを作ってみました。~VINYL GOES AROUNDチームによる78回転への道 其の一~ 水谷聡男×山崎真央×イハラカンタロウ

●#4 レコードのもっと深い話
SP盤を集める魅力は戦前ブルースにあり 高地明
オリジナル盤入門――その魔力とディグのススメ 山中明
ライトハウス・レコーズ店主が語るオーディオが引き出すレコード体験の真髄(by Jun Fukunaga)
SL-1200がDJの定番機材になるまで――Technics×VINYL GOES AROUND特別座談会
針先に広がるスクリーン――レコードと映画の出会い 鶴谷聡平(サントラ・ブラザース)
美容室TANGRAMオーナー坂本龍彦が語る希少レコードと出会いの物語(by Jun Fukunaga)
BIG LOVE RECORDSオーナー、仲真史が追求するレコード店のあるべき姿(by Jun Fukunaga)
私的90~ゼロ年代レコ袋ガイド TOMITA
なんでこんなに不便なものに時間と金をかけ続けるのだろう 野村訓市

after talk レコードは飾りじゃない 水谷聡男×山崎真央×小林拓音
プロフィール

cover photo by SUGINO TERUKAZU (TONPETTY Inc.)

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
Rakuten ブックス
◇7net(セブンネットショッピング) *
ヨドバシ・ドット・コム
◇Yahoo!ショッピング *
HMV
TOWER RECORDS
disk union
◇紀伊國屋書店 *
◇MARUZEN JUNKUDO *
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◇Honya Club *

P-VINE OFFICIAL SHOP
◇SPECIAL DELIVERY *

全国実店舗の在庫状況
◇紀伊國屋書店 *
◇三省堂書店 *
◇丸善/ジュンク堂書店/戸田書店、ほか *
◇有隣堂 *
◇くまざわ書店 *
◇TSUTAYA *
大垣書店
◇未来屋書店/アシーネ *

* 発売日以降にリンク先を追加予定。

Shinichiro Watanabe - ele-king

 カマシ・ワシントンボノボフローティング・ポインツの起用でも話題の渡辺信一郎監督最新アニメ『LAZARUS ラザロ』。放送開始がいよいよ迫ってきている。4月6日よりテレ東系にて、毎週日曜夜11時45分から放送開始(各配信プラットフォームでも配信予定)。随時、公式サイトはチェックしておきましょう。

 なお、現在制作中の『別冊ele-king』は「『LAZARUS ラザロ』と渡辺信一郎の世界」と題し、同作を大特集。渡辺監督自身の超ロング・インタヴューをはじめ、監督のマニアっぷりが発揮された細野晴臣との特別対談も掲載予定です。カマシ・ワシントンやボノボに加え、サンダーキャットフライング・ロータスのインタヴューもあり。そちらは5月下旬発売、乞うご期待!

●期待高まるオープニング映像、曲はカマシ・ワシントン

●公式トレイラー、迫りくる世界の終わりを止めるには?



Chaos In The CBD - ele-king

 開催迫る〈Rainbow Disco Club〉への来日も発表されているエレクトロニック・デュオ、カオス・イン・ザ・CBDが2025年5月9日に待望のデビュー・アルバム『A DEEPER LIFE』を〈DUST WE TRUST〉よりリリース。Josh Milan(Blaze)、Lee Pearson Jr.、Stephanie Cooke、UKグライムのMC・Novelistなどを迎えた、未来のクラシックとも言える1枚に仕上がっているようだ。また先行シングルとして、新曲 “MARLBORO SOUNDS” が3月26日(水)に配信された。

 バレアリックなライフスタイルへのオマージュであるという本楽曲は、ニュージーランドのマールボロ・サウンズと、幼少期にそこで過ごした夏の日々にインスピレーションを受け制作されたとのこと。90年代イビサのチルアウト・ミュージックに特別な親和性を感じているというカオス・イン・ザ・CBDによる、軽やかさとダンスフロアのエネルギーが両立されたトラックだ。

 プレスリリースによればアルバム『A Deeper Life』も、本日配信の先行シングルと同様にバレアリックの精神性をキーにアンビエント、ソウルフル・ハウス、R&B、ジャズといった音楽的要素を融合した作品に仕上げられているとのこと。4月18日~20日の3日間、東伊豆で開催される〈Rainbow Disco Club〉でその一端に触れられるのだろうか。ぜひ目撃されたし。

label: DUST WE TRUST
artist: Chaos In The CBD
title: A DEEPER LIFE
format: Digital / LP / CD
release date: 2025.05.09

Tracklist:

1. Down By The Cove
2. Mountain Mover Ft. Alex Cosmo Blake
3. Maintaining My Peace Ft. Novelist & Stephanie Cooke
4. Tears Ft. Saucy Lady
5. Brain Gymnasium
6. I Wanna Tell Somebody Ft. Josh Milan
7. Ōtaki Ft. Finn Rees
8. Love Language Ft. Nathan Haines
9. A Deeper Life Ft. Isaac Aesili
10. More Time Ft. Lee Pearson Jr Collective
11. Tongariro Crossing Ft. Nathan Haines
12. Barefoot On The Tarmac
12. Marlboro Sounds
13. The Eternal Checkout Ft. Cenk Esen

https://chaosinthecbd.lnk.to/ADeeperLife

3月のジャズ - ele-king

Kuna Maze
Layers

Tru Thoughts

 クナ・メイズことエドゥアルド・ジルベルトはフランスのリヨン出身のDJ/プロデューサーで、現在はベルギーのブリュッセルを拠点に活動する。トランペット演奏をはじめマルチ・ミュージシャンとしてのトレーニングも積み、J・ディラフライング・ロータスガスランプ・キラー、ウェザー・リポート、サン・ラーらに影響を受け、ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカ、ブロークンビーツなどを取り込んだ作品を作っている。2020年に同じフランスのミュージシャン/プロデューサーであるニキッチことニコラス・メイヤーとの共同アルバムで注目を集め、以降は〈トゥルー・ソウツ〉を拠点に同じくコンビ作の『Back & Forth』(2022年)をリリースし、2023年にはソロ名義の『Night Shift』を発表している。『Night Shift』はスペイセック、ミドゥヴァ、レイネル・バコールなどのシンガーをフィーチャーし、ディープ・ハウスやブロークンビーツなどエレクトリックなクラブ・サウンド寄りのサウンドだったが、ジャジーなエレピやシンセの使い方に優れた才能を見せていた。

 『Night Shift』のリリース後は、自身のバンドと共にヨーロッパ各地のフェスやライヴで精力的に活動しており、このたび新作の『Layers』をリリースした。『Night Shift』とは異なり、『Layers』はライヴ・パフォーマンスから得た即興とエネルギーにインスパイアされたもので、ヴィクター・パスカル(ドラムス)、トマス・リヴェラ(キーボード)、イー・コリ・テイル(サックス)、サンディー・マーティン(コンガ)によるバンド編成でスタジオ録音に臨んでいる。そして、これまで以上に彼の中におけるジャズを深化させており、UKのジャズ・シーンからの影響も感じさせる。具体的にはカマール・ウィリアムズジョー・アーモン・ジョーンズモーゼス・ボイド、ヴェルズ・トリオといった、ジャズとハウスやダブ、ブロークンビーツなどを融合したフュージョン・タイプのアーティストで、ハービー・ハンコックやロニー・リストン・スミス、アジムスなどに代表される1970年代のエレクトリック・ジャズの遺伝子を受け継ぐ人たちだ。幻想的でスペイシーなキーボードからダイナミックなビートが始まる “Blacklash” や、重層的なエレピやシンセのレイヤーが印象的な “Layered Memories” は、そうした1970~80年代のアジムス・サウンドを彷彿とさせる作品だ。“Maina” はユゼフ・カマールの『Black Focus』を連想させるナンバーで、ブロークンビーツ調のリズミカルなリズムが前進する。“Scraps & Pieces” も同様にブロークンビーツ調のフュージョン・ファンクで、ディープ・ハウス的な “Blast” などと共に、ダンス・ミュージック・プロデューサーとしてのクナ・メイズの顔が出た作品だ。“Bristol Changes” はさらに疾走感のあるドラムンベース調のリズムだが、サックスを交えてジャズの即興演奏の魅力を最大に発揮している。“Tangle” においてもドラムスの即興性とダンス・ビートを両立させたリズミックな演奏があり、『Layers』はジャズとクラブ・サウンドの融合が深い部分で成功したアルバムと言える。


44th Move
Anthem

Black Acre

 〈ブラック・エーカー〉はロメアクラップ・クラップなどのリリースで知られるブリストルのベース・ミュージック系レーベルだが、そうしたなかにあってフォーティーフォース・ムーヴは異色のジャズ・アーティストとなる。匿名性の高いアーティストだが、実際はアルファ・ミストリチャード・スペイヴンと、それぞれソロでも輝かしいキャリアを積んできたロンドンのふたりによるプロジェクトで、結成自体は2020年まで遡る。2020年にユニット名を冠したEPをリリースしたまま、その後は活動がなかったようだが、ここにきてファースト・アルバムをリリースすることとなった。基本的にアルファ・ミストがピアノやキーボード、リチャード・スペイヴンがドラムスを担当し、本作では演奏者のクレジットはないが、ベース、ギター、フルート、サックス、トランペットなどもフィーチャーされる。もともとクラブ・ミュージックとの接点が多いふたりだが、〈ブラック・エーカー〉からのリリースということもあり、フォーティーフォース・ムーヴはそうした傾向をより深めたプロジェクトと言える。

 表題曲の “Anthem” は、フルートとエレピによるミステリアスな旋律が印象に残るディープなナンバーで、フォーティーフォース・ムーヴなりのスピリチュアル・ジャズ的なアプローチと言える。一方、デトロイトのラッパーのケル・クリスを迎えた “The Move” は、アルファ・ミストの初期作品でしばしば見られたジャズとヒップホップの融合形。あくまでクールに淡々としたピアノ演奏を見せるのがアルファ・ミストらしい。“2nd September” はメランコリックなギターを交え、全体的にゆったりとしたバレアリックな音像を紡ぎ出す。リチャード・スペイヴンのポリリズミックで複雑なドラミングが、彼の持ち味をよく表している。リチャード・スペイヴンらしいという点では、“Free Hit” や “Second Wave” のビートはドラムンベースやブロークンビーツなどクラブ・サウンドのエッセンスを導入した、極めて彼らしい作品。もちろん、そこにジャズの即興演奏的なアプローチを交えていて、“Free Hit” の後半にはトランペットのスリリングな演奏も加わる。そして、“Barrage” の繊細で耽美的なエレピに代表されるように、アルファ・ミストが持つダークでアブストラクトなイメージがフォーティーフォース・ムーヴにおいてもサウンドの軸になっているようだ。


Yazz Ahmed
A Paradise In The Hold

Night Time Stories

 ヤズ・アーメッドにとって、2019年の『Polyhymnia』以来となる久しぶりのアルバム『A Paradise In The Hold』がリリースされた。幼少期は父方の故郷であるバーレーンで育った彼女は、その名を一躍広めた『La Saboteuse』(2017年)でも見られるように、中近東のメロディやリズムを取り入れた作品が多かった。本作ではアルバム・ジャケットにアラビア語で名前やタイトルを記しており、中近東の音楽をより意識した内容と言える。ヤズはこれまで度々バーレーンを旅行してきたなかで、2014年に書店巡りをした際にバーレーンの伝統的な結婚式の歌や、真珠獲りのダイバーの歌の歌詞が載った書物を見つけ、それらが『A Paradise In The Hold』におけるインスピレーションとなったようだ。『Polyhymnia』がギリシャ神話をモチーフとしていたように、ヤズ・アーメッドの作品は叙事詩や物語を基に作られることが多く、『A Paradise In The Hold』はバーレーンの民間信仰や儀式を物語として作品に投影している。そうした物語性を高めるためにヤズは初めて自身で歌詞を書き、ナターシャ・アトラス、アルバ・ナシノヴィッチ、ブリジッテ・ベラハといった、中近東やトルコなどをルーツに持つシンガーたちにアラビア語で歌ってもらっている。そして、古来よりアラブの女性は抑圧的されたイメージを持たれることが多いが、そうしたイメージを打破し、創造的で強いアラブの女性像を見せることが『A Paradise In The Hold』のテーマのひとつにもなっている。西洋においてアラブ音楽が映画のサントラなどで使われる場合は、あるステレオタイプなイメージがあるが、そうしたイメージを逆手に取り、アラブ女性の新しいイメージを創出するという目論見があるようだ。

 “Though My Eyes Go to Sleep, My Heart Does Not Forget You” は真珠獲りのダイバーの歌をモチーフとする。手拍子を交えたリズムに乗せて、ヤズのトランペットが哀愁を湛えた旋律を奏で、マリンバとコーラスが神秘的でエキゾティックなムードを作り出していく。“Her Light” は疾走感に満ちたリズムと、情熱的なトランペットやエフェクトを交えた鍵盤によってコズミックな世界へと連れていくが、ここでも途中のアラビア語の歌がアクセントとなっている。“Waiting Fo The Dawn” はマリンバがエチオピア・ジャズのムラートゥ・アスタトゥケにも近似するイメージで、中近東音楽とスペイシーなジャズ・ファンクを融合した上で、アラビア語の男女コーラスをフィーチャーする。ロンドンをベースとするヤズであるが、こうした中近東音楽とジャズを融合することによって、ほかのロンドン勢にはない彼女独自の世界を生み出している。


Rahel Talts
New And Familiar

Rahel Talts self-released

 ラヘル・タルツはエストニア出身で、デンマークのコペンハーゲンを拠点とする新進のピアニスト兼作曲家。ジャズ・ギタリストのマレク・タルツを兄弟に持ち、ジャズにフォークやポップス、フュージョンなどをミックスした音楽性を持つ。そのマレクも参加したラヘル・タルツ・アンサンブル名義の『Power To Thought』(2022年)でデビューし、カルテット編成での『Greener Grass』(2024年)を経て、ニュー・アルバムの『New And Familiar』をリリースした。『New And Familiar』はストリングスやホーン・セクション、シンガーも交えたビッグ・バンド編成で、ラヘルの作曲や編曲の才能を大きくアピールしたものとなっている。

 レコーディングはエストニアのタリンでおこなわれており、彼女の故郷のエストニア民謡を取り入れた作曲がポイントとなる。代表は “Meie Elu” で、1915年に作られた古いエストニア民謡に新しく歌詞をつけたジプシー調のナンバー。パット・メセニー・グループを彷彿とさせる演奏だが、エストニア語の素朴でフェアリーな歌が独特の個性を放つ。キティ・ウィンターのようなスキャット・ヴォーカルを交えてスピーディーに展開する “Restless” は、チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーを現代に蘇らせたようなダンサブルなフュージョン・ナンバー。躍動感に満ちたリズムに、ダイナミックなストリングス&ホーン・アンサンブルのアレンジも秀逸だ。

Jules Reidy - ele-king

 光が降り注ぐようなサウンドが展開する。それはいわばエレクトロニカ・サイケデリア。幽霊化する世界。漂う魂の粒子……。本作『Ghost / Spirit』を聴いたとき、まずは、そんな言葉を思い浮かべだ。同時にジュールス・レイディはついに大きな転換点となるアルバムを作ったのだ、とも。

 加えて、『Ghost / Spirit』が〈スリル・ジョッキー〉からリリースされたことにも驚いた。これまで〈エディションズ・メゴ〉、〈ブラック・トリュフ〉、〈シェルター・プレス〉などの実験音楽系レーベルから作品を発表してきたジュールス・レイディが、USインディ・レーベルの代表格のひとつ〈スリル・ジョッキー〉を選んだことは意外だった。しかし、本作『Ghost / Spirit』を聴き進めるうちに、それは必然だったと確信した。というのも、このアルバムは、昨年同レーベルからリリースされたクレア・ラウジーの『Sentiment』と並ぶべき作品だからだ。単に似ているということではなく、音楽の内にある意志や必然が共通しているのである。その変化を〈スリル・ジョッキー〉も理解し、この作品をリリースしたのではないか。

 『Ghost / Spirit』と『Sentiment』。二作とも変調したヴォーカルと洗練されたエレクトロニカ的なトラックという基本的なスタイルは似ている。だが本質的な共通点は「歌う」ということに対する「必然」と「変化」にあるように思える。『Ghost / Spirit』でも、ジュールス・レイディは「歌うこと」に向かう明確な意志を持っている。とはいえ、そもそも、ジュールス・レイディの作品には以前から「声」が多用されてきたことも事実だ。特殊チューニングのギター、電子音、そして声という組み合わせ自体は、『In Real Life』(〈Black Truffle〉/2019)や『Vanish』(〈Editions Mego〉/2020)、『Trances』(〈Shelter Press〉/2023)などの過去のアルバムと大きく変わらない。『Ghost / Spirit』におけるジュールス・レイディのサウンドはこれまでのアルバムの延長線上にある。そう大差はないというべきだろう。だが、本作では「歌うこと」がこれまで以上に必然性をもって響いているように思えたのだ。音楽自体が、実験的で創造的でありながら、同時に自然に「歌」へと向かっているのである。

 では「大きな違い」は何か。それは「ソングライティング」に対する意識の変化のように思える。単に「声」を使うのではなく、歌を作り、メロディを紡ぎ、歌詞を構築すること。そのすべてを意識的におこない、サウンドの中心に据えている。『Ghost / Spirit』は、その点で過去の作品とは一線を画しているのだ。 自身の音を精査し検証し突き詰めていった結果、「歌/サウンド」という形式にソングライティングという方法論が「必然」として、こう言ってよければ「運命」として、結果的に浮かび上がってきたというべきか。そう、ジュールス・レイディにとって、このアルバム『Ghost / Spirit』を作ることは運命づけられていたようにさえ思える。音、声、響きが交錯し、「ソングライティング」という形で結実した。

 クレア・ラウジーの『Sentiment』と共鳴するのは、まさにこの点にある。ラウジーもまた、音の実験を重ねた末に「歌うこと」という「必然」にたどり着いた。〈スリル・ジョッキー〉は、このふたりの異なる個性が「歌」に向かう「必然」を見逃さず、1年ごとにリリースしたとはいえないだろうか。そのキュレーションの的確さは、同レーベルが現在、再びピークを迎えている証拠といえる。ヘヴィ・ミュージックからエクスペリメンタル、エレクトロニカ・ポップまでを網羅するカタログは唯一無二であり、インディ・ミュージックの「現在」を更新し続けている。

 何よりも強調すべきは、音楽そのものの鮮烈さだ。1曲目 “Every Day There's a Sunset” の冒頭、変調されたジュールス・レイディの歌声が響いた瞬間、耳が開かれた。堂々としたメロディ、硬質なギターの響き、背後に漂う電子音、ドローン──10年代以降のエクスペリメンタルとポップが融合した、ほぼ完璧なサウンドスケープが展開する。途中、声は溶け合い、サイケデリックな空間へと変貌する。その流れは圧巻だ。続く “Interlude I” では、どこかコーネリアスを思わせるギター・サウンドスケープが広がる。そして3曲目 “Satellite” では、独自のチューニングによるギターのアルペジオと歌声が交錯し、実験とポップの境界を軽々と超えていく。アルバムには14曲が収録されているが、その基本的な構造は最初の3曲に凝縮されている。声、ギター、電子音、ポップ、メロディ、歌詞──それらが織りなすサウンドスケープは、新世代のポップ・ミュージック、あるいはエレクトロニカ・フォークと呼ぶべきものだろう。どの楽曲も構築と即興のバランスが端正であり、じつに繊細に、じつに自由に、じつに高密度に音がコンポジションされている。

 個人的に気になった曲は、まず、5曲目 “Ghost” である。硬質な響きのギターのアルペジオのミニマルな反復に、フックの効いたメロディのヴォーカル・ラインが乗る。わずか2分程度の曲だがまるで太陽の光が降り注ぐような感覚を持った。音が崩れるかのように終わりを迎えるコーダ部分もじつに素晴らしい。加えて6曲目 “Breaks” でいきなりヴォーカルから始まるという曲の構成も見事だ。不吉な打撃音のむこうから天上から響くようなヴォーカル・ラインが鳴る8曲目 “Every Day There's a Sunrise” も良かった。やがて打撃音は消え去り、ヴォーカルとギターと電子が残り、9曲目 “Spirit” に繋がるという構成も実に卓抜だ。さらにはアルバム中でももっとも電子的加工のされていない(であろう)ギターの音が麗しいインスト曲12曲 “Letter” も鮮烈だった。そして14曲目にして最終曲 “You Are Everywhere” も忘れられない。ミニマル。アンビエント。ヴォーカル。“You Are Everywhere” でも、これらが折り重なり、まるで天上から降り注ぐ声と音のシャワーを浴びたような解放感を覚えた。アルバムの音楽のエレメントが控えめに集結し、ラストを華麗に彩る。まさにそんな曲だった。

 私は、本作『Ghost / Spirit』をすべて聴き終えたとき、この作品がどこか「祈り」に近いもの(感情?)を持っていることに気がついた。テクノロジーを駆使した音響作品でありながら、メロディの美しさが際立つ本作には、抽象的で神秘的な響きがあったのだ。どうやらアルバムのテーマは「神秘主義とエゴの消滅」らしい。それはアルバム・タイトル「Ghost / Spirit(幽霊と魂)」とも呼応している。そのせいか、聴き進めるほどに心が解放されていくような感覚を覚えたのである。

 いやそうではない。ジュールス・レイディは、もともとそのような崇高さと清冽さを追求してきたのではないか。そもそも過去のアルバムにも同様の「響き」が満ちていたはず。しかし本作では、その心の開放が、「ポップ=ソングライティング」という形をとることで、より濃密に表現されたのではないか、と。それこそ本作『Ghost / Spirit』の意義なのではないか。

 本作は、エンプティセットのジェイムズ・ギンズブルクがミックスを担当し、マスタリングはラシャド・ベッカーが手がけた。鉄壁の布陣といえよう。また、実験音楽のチェロ奏者ジュディス・ハマンのサンプルも使用されている。細部まで作り込まれた音像は、深く聴き込むほどに新たな発見をもたらしてくれる。音の実験から精神の解放へ。エゴの牢獄から心の解放すること。その希求。没入的なリスニング体験にふさわしい、素晴らしいアルバムである。

The Weather Station - ele-king

 「人間性」という簡潔だからこそ深遠なアルバム・タイトルは、ザ・ウェザー・ステーションことタマラ・リンデマンが音楽で探究する領域を端的に言い当てているだろう。管弦楽器が生き生きと躍動するタイトル・トラックで、彼女は「わたしは人間だったのだろうか? と考えている」と打ち明ける。「この人間らしさを背負ってきた/それを実現しようとしている」。人間とは何なのか――そのような大いなる問いを、あくまで個人的な場所から掲げる7作目である。

 飾りけのないインディ・フォークとして始まったザ・ウェザー・ステーションが大きな飛躍を遂げたのは5作め『Ignorance』でのことだった。ツイン・ドラムと管楽器を含むフルバンドによって音楽的にスケールアップしたそのアルバムでリンデマンがテーマにしていたのは、環境破壊と気候変動を中心とする現代社会の破壊的な現状だった。というと政治的なアルバムのようだが――いやもちろんそうとも言えるのだが――、それ以上にフォーカスが当たっていたのは彼女自身の胸の痛みだった。つまり、地球が傷ついていることに傷ついている人間の心の動きについてであり、それこそをダイナミックなアンサンブルを持ったフォーク・ロックにしたのだ。また、同時期に録音された双子作的な6枚め『How Is It That I Should Look At The Stars』はピアノ・バラッドを中心にして、より内省的にこの世界の美しさを見つけ直そうと聴き手にささやく作品だった。
 バンジョーやフィドル、管楽器を加えた多楽器のアンサンブルで制作した『Humanhood』は、まさにそれらの2枚の成果を合わせた一枚で、活気に満ちたジャズ・フォーク・ロックと静謐で慎ましいバラッドが整然と並べられている。そしてすべての楽曲でディテールに富んだアレンジが施されていて、聴けば聴くほど細部に引きこまれていく。とりわけ活躍するのがフルートやクラリネット、サックスといった管楽器で、それらは曲によって軽やかに跳ねまわったり、抽象的なムードを演出したり、優しくゆったりとピアノと歌に寄り添ったりする。人間の呼吸によって変幻する楽器たち……考えてみればザ・ウェザー・ステーションのアンサンブルが管楽器によってスケールアップしたのは興味深いことで、人間の息づかいが彼女の表現のニュアンスを完成させたと言える。
 息づかいといえば、もちろんリンデマンの声がこの繊細な歌世界を作りあげていることも間違いない。アルバムのなかでもとくにアップリティングな “Neon Signs” の軽やかさ、ジャズ調のアンニュイな “Mirror” でのアルト、あくまで控えめな演奏で浮遊感を生みだす “Body Moves” の茶目っ気……と、多彩な表情を見せていく。その声はしばしば音量がかなり落とされるのだが音程はしっかり取られており、メロディを失わないリンデマンのウィスパー・ヴォイスは、この奥ゆかしいフォーク音楽にけっして消えない光を与えているように感じられるのだ。クロージングの “Sewing”、まるで演奏の隙間に溶けていくような彼女の静かな歌声は、しかしそのデリケートさによって聴き手を陶然とさせる。

 前二作はパンデミック期を強く反映していたが、それ以降の世界はますます混迷していて、当然ながらそうした状況に対するリンデマンの心痛は本作にもはっきり表れている。広告に溢れた世界の信用のならなさ、止まらない環境破壊、壊滅的な政治状況……それらに彼女はなおも傷ついている。そしてそれを聴くわたしたちも、自分たちがたしかに傷ついていたことを思い出すだろう。見なかったことにしていた小さな傷跡のひとつひとつを。何かと好戦的な人びとばかりが目につく状況にあって繊細な心の動きは無視されがちだが、ザ・ウェザー・ステーションの音楽は見落とされた感情をこそ掬いあげる。
 なんでもリンデマンが近年経験した慢性的な離人症障害(自分自身が切り離されているように感じる症状)で得た感覚が本作には投影されているとのことで、「離れてしまった」肉体を探すというモチーフを本作にたびたび発見できる。観念だけでは声を発することはできないから、彼女はここで肉体を切実に求めているのだろう。そうして身体に空気を通して発せられる歌たちは「人間であること」自体を再発見し、その美しさをどうにか取り戻そうとする。この混沌とした世界にあってザ・ウェザー・ステーションの音楽はときに「清廉すぎる」ように聞こえるかもしれないが、しかし、人間性の複雑さと不思議さを神秘的な輝きとして反射させている。

FESTIVAL FRUEZINHO 2025 - ele-king

 今年の6月14日(土)は立川に集合ですね。いまのところ発表されているのがトータス、石橋英子、ジョン・メデスキ&ビリー・マーティンですが、これだけで行く理由としては十分でしょう。頼む、晴れてくれ。

『FESTIVAL FRUEZINHO 2025』、2ndラインナップは2組!

 1組目はトータス! シカゴを拠点とするインストゥルメンタル・クインテットは、ダブ、ロック、ジャズ、エレクトロニカ、ミニマリズムといったジャンルを軽やかに取り入れながら、25年以上にわたって誰にも真似できない音を鳴らしてきた。「心から楽しいバンドで、あらゆる音の可能性に開かれている 」(Stereogum)と評され、緻密に構築されていながらも即興的な要素がある、彼らのライヴをお楽しみに!

 2組目は、日本の音楽シーンで多彩な足跡を残すマルチインストゥルメンタリスト、石橋英子! 3月には、7年ぶりの新譜『Antigone』のリリースや「世界中で最も静かで、ほのかに輝くフェスティバルの1つ」と評される「Big Ears」に出演するなど国際的な評価も高まっています。ピアノやフルート、電子音を操り、どこか懐かしくもあり遠くへ連れていくような音楽を創り出す彼女が、どんな音を届けてくれるのかお楽しみに!

 そして、今回、FRUE初の試みとして、25歳以下の若者たちに、私たちが音楽の世界に深く足を踏み入れるきっかけになったジョン・メデスキとビリー・マーティンのライヴを生で体感してほしいと思い、U25割チケットも新たに設けました。手ぶら、日帰りで帰れます。ぜひいらしてください!

 『FESTIVAL FRUEZINHO 2025』は、大自然の中での「フェス」ほど過酷ではなく、また指定席に座りじっと聴く「コンサート」ほど固くなく、集まる人も適度な数で快適かつ自由な空間と時間をすごせる音楽フェスティバルです。「魂のふるえる音楽体験を!」というコンセプトのもと、2017年より静岡県掛川市で開催している『FESTIVAL de FRUE』のスピンオフとなります。

FESTIVAL FRUEZINHO 2025

日付:6月14日(土)
時間:開場 11:00 / 開演 12:00 / 終演 20:50 ※予定
会場: 立川ステージガーデン
出演者:
Medeski & Martin
Mônica Salmaso & André Mehmari
Tortoise
Eiko Ishibashi | 石橋英子
and more...

チケット
中高生割:5,000円
U25割:11,000円(枚数限定)
早割1:15,000円(枚数限定)
早割2:16,000円(枚数限定)
前 売:18,000円
当 日:19,000円
※受付にて1ドリンク代(¥1,000)を別途お支払いいただきます。
※1ドリンクチケットは場内のドリンクブースにてご利用いただけます。
※1階はスタンディング。2、3階席は全自由席
※来場順での入場です
※小学生以下は無料

Flyer Image:Yuriko Shimamura

協力:
shalala company / infusiondesign inc. / KIMOBIG BRASIL / Eastwood Higashimori / BLOCK HOUSE / 水曜カレー / SHUSAN / WWW / 京都メトロ / 旧八女郡役所音楽の会 / Bird -old pizza house- / The Condition Green / hidemuzic / Yuumies / Taka Ama Hara

主催:FRUE
https://fruezinho.com/

Tortoise

トータスは、アメリカ・シカゴ出身のポストロックバンドで、1990年代前半に結成されました。インストゥルメンタル主体の音楽スタイルで知られ、ジャズ、電子音楽、ミニマリズム、ロックなど多様なジャンルを融合させた独自のサウンドを特徴としています。メンバーは**ダグ・マッコームズ(ベース)、ジョン・ハーンドン(ドラム、パーカッション、エレクトロニクス)、ジョン・マッケンタイア(ドラム、キーボード、プロデューサー)、ダン・ビットニー(パーカッション、エレクトロニクス)、ジェフ・パーカー(ギター)**から成り、ライヴでは楽器を自在に持ち替える柔軟性も魅力です。

 1994年のデビュー・アルバム『Tortoise』で注目を集め、1996年の『Millions Now Living Will Never Die』でポスト・ロックというジャンルを世界に広めた立役者となりました。特に1998年の『TNT』では、当時革新的だったハードディスク・レコーディングを導入し、緻密で実験的な音作りが話題に。以来、常に進化を続け、2016年の『The Catastrophist』までに7枚のスタジオ・アルバムをリリースしています。また、2023年には『Rhythms, Resolutions & Clusters』のリイシュー版もリリースされ、彼らの音楽的探求は現在も続いています。

 彼らの音楽は感情的な旋律と複雑なリズムが共存し、聴く者を予測不能な音の旅へと誘います。シカゴのインディーロックやパンクの影響を受けつつ、前衛的なアプローチで日本では「シカゴ音響派」の代表格としても知られるTortoiseは、ジャンルの枠を超えた表現で今なお多くの音楽ファンを魅了しています。

石橋英子/EIKO ISHIBASHI

石橋英子は日本を拠点に活動する音楽家。
これまでにDrag City、Black Truffle、Editions Megoなどからアルバムをリリースしている。2020年1月、シドニーの美術館Art Gallery of New South Walesでの展覧会「Japan Supernatural」の展示の為の音楽を制作、「Hyakki Yagyo」としてBlack Truffleからリリースした。2021年、濱口竜介監督映画『ドライブ・マイ・カー』の音楽を担当。2022年「For McCoy」をBlack Truffleからリリース。2022年よりNTSのレジデントに加わる。2023年、濱口竜介監督と再びタッグを組み『悪は存在しない』の音楽とライヴ・パフォーマンスの為のサイレント映画「GIFT」の音楽を制作、国内外でツアーを行っている。2025年3月、Drag Cityより7年ぶりの歌のアルバム『Antigone』をリリース予定。

MIKE - ele-king

 僕がマイクをはっきり意識し出したのはつい数年前のことだ。NYを拠点に活動するこのラッパーが、あのシスター・ナンシーを“Stop Worry!”というレゲエ調の曲で大々的にフィーチャーしたときだった。『Beware of the Monkey』(2022)というミックステープに入っているこの曲の、80年代のダンスホールのデジタルなビートのパンチ力をいまの感覚で強調したような洒落た音響、マイクのねっとりとしたフロウ、それと好対照をなすシスター・ナンシーの「WAKE UP!」という力強い煽りとMCの組み合わせが素晴らしかった。ビートは、マイクがDJブラックパワーという名義で作っている。

 シスター・ナンシーとはジャマイカの女性ディージェーの先駆者で、言わずと知れた代表曲“BAM BAM”が数多くのヒップホップの楽曲にもサンプリングされてきた偉大な人物だが、残念ながらご多分に漏れずというか、男性支配の強いヒップホップ/レゲエのシーンでその存在が正当に評価されてきたとは言い難い。マイクとの共作が、2023年にジャネール・モネイが“The French 75”(『The Age of Pleasure』収録)にシスター・ナンシーを招くきっかけになったかもしれない、というのは深読みだとしても、ともあれ僕は最初、そういうわけでマイクに興味を持った。

 それともうひとつ、プロデューサーのトニー・セルツァーとの2024年の共作『Pinball』に収録された“R&B”も大きかった。曲名からして遊んでいるし、事実、90年代のスロウジャムをスクリューしたり、早回ししたりしている。MVの字体やアートワークは00年前後のUKのクラブ・ジャズ系のデザインへのオマージュのよう。こうした、雑多で洒落たサウンドやセンス、いかつさよりもしなやかさを感じさせるラップが、僕の彼への関心を高めた。いまどき風変わりなラッパーがいるんだなと。

 とはいえ、マイクは2015年からbandcampで作品を発表しはじめ、2017年のアルバム『May God Bless Your Hustle』でその名を広く知られるようになったから、本格的なキャリアは10年ほどになる。同じくNY拠点のラッパー、ウィキと、先日エリカ・バドゥとの新作を準備中であるとの情報が流れ、われわれをまたもや驚かせてくれたビートメイカー、アルケミストとの『Faith Is a Rock』(2023年)という共作もある。2024年には来日も果たし、国内でも近年、より注目が集まっている。そのときのライヴの熱気を、『ele-king presents HIP HOP 2024-25』掲載の対談で、PoLoGod. と$hirutaroが報告してくれている。マイクの声量はすさまじく、KRS・ワンの“Return of the Boom Bap”を彷彿とさせるヴァイブスだったという。それは意外な証言で、嬉しい驚きだった。

 そんな1998年生まれのマイクが最初にラップしたのがマッドヴィラン(マッドリブ×MFドゥーム)の“ALL CAPS”のビートだったというのは、彼の音楽性を象徴するエピソードだ。13、4歳のころだ。その曲には、MFドゥームをすべて大文字のアルファベットで書くのを忘れるな、というようなリリックがあるのだが、マイクが、「MIKE」とすべて大文字で表記するのはその影響でもある。ちなみに“ALL CAPS”が収録された名盤『Madvillainy』のデモ・ヴァージョンが最近リリースされて話題を呼んでいる。

 マイクの最新アルバム『Showbiz!』から、その『Madvillainy』や、J・ディラ『DONUTS』、アール・スウェットシャート『Some Rap Songs』を連想するのは難しくない。じっさい“Burning House”という曲では『DONUTS』の“Workinonit”と同様のサイレン音が用いられている。『ピッチフォーク』のレヴュワーが指摘するように、1分半から3分以内の全24曲は、たしかに『DONUTS』のサイケデリアの系譜にあると言えるだろう。シャカタクのような流麗なフュージョンからソウルフルなダンス・クラシックまで、さまざまな楽曲のツボを押さえたサンプリングと、その絶え間ないループが本作の大きな魅力のひとつだ。

 そんなアルバムのなかで、僕は、20曲めのビートレスの“Showbiz! (Intro)”から最後の“Diamond Dancing (Broke)”までの展開を特に興味深く聴いている。ニューエイジ・リヴァイヴァルやアンビエントと共鳴していると説明すればよいだろうか。そのクライマックスは、ギャングスタ・ラップの始祖のひとりであるジャスト・アイスの一節をアイロニー込みで引用し、愛にあふれた父親の留守電を挿入する冒頭曲“Bear Trap”につながっていく。

 最後にひとつ。ビリー・ウッズ(政治的にラディカルなNYのラッパー)が、アメリカの左派メディア「Jacobin」から最近受けたインタヴューで、「もっと知られるべき政治意識の高いヒップホップ・アーティスト」の推薦を求められ、エルーシッドやノーネームとともに、「個人的ななかに政治的な側面を見出す、質が高く、興味深いアンダーグラウンド・ミュージック」としてマイクを称賛していた。僕はそれを知って膝を打った。マイクは2024年のシカゴにおけるライヴの最後にパレスチナの国旗を体に巻き付けてパフォーマンスしたという。

caroline - ele-king

 carolineのデビュー・アルバム(2022年)を年間ベスト・アルバムの3位にしたエレキングとしては嬉しい限りです。キャロラインが帰ってきた(どこかに行っていたわけじゃないけれど)。そう言いたくもなるでしょう。3年ぶりの新曲“Total euphoria”です。これを聴いてアルバムを待ちましょう。

caroline - Total euphoria (Official Video)

以下、BEAT INKから送られてきたメールより。

この曲の最初のヴァージョンは、2020年に(マイク、キャスパー、ジャスパーの)3人で演奏したもので、僕たちがファースト・アルバムを制作していた時に書かれたものなんだ。「Natural death」の後半部分のギターと似たスタイルで、不規則だったり、シンコペーションが混ざっていたりするんだけど、もっとワイルドで雑な演奏で、所々でロックのブロークン・ビートが炸裂するような感じだった。この曲は、当時僕たちが書いていた曲やレコーディングしていた曲とはどうも合わなかった。でもこの曲には、後で掘り下げてみたいと感じる何かが潜んでいた。最終的には20分間続けて演奏するのに気持ちのいい曲となった。この曲は当時の僕たちとしては異例とも言えるほど一貫して”うるさく”、全力で演奏している感じが特に気持ちよかった。また、全員が同時に3つの異なるリズムを演奏することで、どこまでも循環しているような感じがあった。ジャスパーがメインのコードを担当し、歌うのにぴったりの素晴らしいトップラインをたくさん書いてくれた。そして、残りのバンド・メンバーと他のパートをすべて合わせ、曲の構成を固めていった。ジャスパーとマグダがユニゾンで歌うスタイルも、とてもいい響きになることに気づき、彼らはさらにヴォーカルとハーモニーを書き加えた。
- caroline

キャロラインの創設メンバーであるキャスパー・ヒューズ、ジャスパー・ヒェウェリン、マイク・オマリーの3人は、2017年に一緒に楽器を演奏するようになった。ヒェウェリンとヒューズはマンチェスターの大学で出会い、ロンドンに移住した際に、ヒェウェリンの旧友マイク・オマリーを誘ってグループを結成し、サウス・ロンドンにあるパブの2階でリハーサルを始めた。バンドのサウンドが拡大するにつれてメンバーも増え、最終的にはトランペッターのフレディ・ワーズワース、ヴァイオリニストのマグダレナ・マクレーンとオリヴァー・ハミルトン、パーカッショニストのヒュー・アインスリー、フルートやクラリネット、サックス奏者のアレックス・マッケンジーを加えた8人編成となった。2019年末にバンド編成が落ち着く頃には、楽曲も広がりのある感情的な作品となり、その豊かなパレットには、コーラス、アメリカ中西部のエモ、オマリーとヒェウェリンのルーツであるアパラチアン・フォークが混在している。2022年2月にリリースされたセルフ・タイトルのデビュー・アルバム『caroline』は、ジョン・スパッド・マーフィー(ブラック・ミディ、ランカム)がミックスを担当し、The QuietusやLoud & Quiet誌の「2022年の年間トップ5アルバム」に選出された。また、Rolling Stone誌の「トップ10新人アーティスト」にも選出された。

label: Rough Trade Records
artist: caroline
title: Total euphoria
release date: Out now
https://caroline.rtrecs.co/total

Damo Suzuki +1-A Düsseldorf - ele-king

 トーマス・ディンガー(ノイ!のクラウス・ディンガーの実弟)を中心としたバンド、1-Aデュッセルドルフにダモ鈴木が全面参加したセッション時の秘蔵音源が発売される。1986から1994年にかけてレコーディングされたものだそうだが、カンのポストパンク版というか、なかなか興味深い一物である。
 ダモ鈴木といえば、いつか、ブラック・ミディとのセッションも発売して欲しいなぁ。
 
 *なお、このリリースに併せて、2016年にリリースされた1-A Düsseldorf の『Uraan』もリイシューされます。また、Suezan Studioメーカー直販で上記の『錆』をお求めの方には、先着順で アルバムのディスク3(非売品)をプレゼント。詳しくはホームページをどうぞ

Damo Suzuki + 1-A Düsseldorf
錆 (Rost)

SUEZAN STUDIO

以下、〈SUEZAN STUDIO〉のホームページから。

ダモ鈴木が全面参加した1-Aデュッセルドルフの最初期音源がついに公開!

クラウトロック史をゆるがす幻の音源がついにヴェールを脱いだ! トマス・ディンガー(ex. ノイ!、ラ・デュッセルドルフ)、ニルス・クリスチャンセンらによって結成された〈1-Aデュッセルドルフ〉が、ダモ鈴木(ex. カン)をヴォーカルに迎えた秘蔵セッション。本作は1-Aデュッセルドルフのファースト・アルバム『Fettleber』(1999)以前、1986~94年のバンド黎明期にレコーディングされたものだが、いちども公開されることもなく長いあいだ封印されていた、いわくつきの音源である。
トマス・ディンガーが〈ラ・デュッセルドルフ〉を脱退し、ダモ鈴木は〈ドゥンケルツィッファー〉の次なるステップとして〈ダモ鈴木バンド〉に活動の場を移しだした時期に録音された音源であり、彼らが次なるサウンドを模索し、試行錯誤の場として新たなプロジェクト〈1-Aデュッセルドルフ〉を始動させた歴史的ドキュメンタリーだ。最新デジタル技術で旧メディア音源を復刻。限定プレス・日本独占リリース!
※古い録音のため一部にお聞き苦しい箇所がございます。

プロフィール

ダモ鈴木+1-Aデュッセルドルフ (Damo Suzuki +1-A Düsseldorf)
ノイ!、ラ・デュッセルドルフのメンバーだった故トマス・ディンガーを中心に、デュッセルドルフ界隈のミュージシャンたちで1986年に結成された。バンド名の考案者はクラウトロック界のゴッドファーザー、コニー・プランク。メンバーは比較的流動的で、初期にはダモ鈴木(カン)も参加していたが、1999年にトマスとニルス・クリスチャンセンを中心に制作されたファースト・アルバム『Fettleber』でアルバム・デビュー。以降はふたりを主軸に4枚のアルバムが発表された。ノイ!が持つダウナーでヒプノティックなエレメントだけを抽出し、独自解釈に拡大させたようなサウンドは各方面から注目を集めた。2002年にトマス・ディンガーが他界してからは、ニルス・クリスチャンセンとステファン・ドムニッシュ、ディアク・フラーダー(ラ!ノイ?)によって活動は継承され、現在も意欲的に新作に取り組んでいるという。

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